特許第5731956号(P5731956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731956
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】可溶性ポリペプチドの単離方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/00 20060101AFI20150521BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20150521BHJP
   C40B 30/00 20060101ALI20150521BHJP
   C40B 40/02 20060101ALI20150521BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20150521BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20150521BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20150521BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20150521BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20150521BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALN20150521BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALN20150521BHJP
【FI】
   C07K16/00
   C12N15/00 AZNA
   C40B30/00
   C40B40/02
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/00 101
   A61K39/00 H
   A61P31/04
   !C12Q1/70
   !C12Q1/68 Z
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2011-254988(P2011-254988)
(22)【出願日】2011年11月22日
(62)【分割の表示】特願2008-502207(P2008-502207)の分割
【原出願日】2006年3月24日
(65)【公開番号】特開2012-70748(P2012-70748A)
(43)【公開日】2012年4月12日
【審査請求日】2011年12月22日
(31)【優先権主張番号】60/664,954
(32)【優先日】2005年3月25日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506175792
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タンハ ジャムシド
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−536490(JP,A)
【文献】 TRENDS in Biotechnology,2003年,Vol.21, No.11,pp.484-490
【文献】 Angew. Chem. Int. Ed.,2002年,Vol.41,pp.4402-4425
【文献】 Biotechnology Advances,2003年,Vol.21,pp.599-637
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/00−16/46
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
医学・薬学予稿集全文データベース
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号22の配列を含む、抗体フラグメント。
【請求項2】
請求項1に記載の抗体フラグメントをコードする核酸。
【請求項3】
請求項1に記載の抗体フラグメントを含む多量体。
【請求項4】
請求項1に記載の抗体フラグメントを含む二量体。
【請求項5】
請求項1に記載の抗体フラグメントを含む三量体。
【請求項6】
請求項1に記載の抗体フラグメントを含む五量体。
【請求項7】
a)請求項に記載の抗体フラグメントをコードする核酸を提供する工程、
b)ランダム化されたコドンを含むオリゴヌクレオチドを提供する工程、
c)1つ以上の相補性決定領域をランダム化するために、抗体フラグメントをコードする核酸へランダム化オリゴヌクレオチドを組み込む工程、
d)工程c)で作製された核酸を発現させる工程、及び
e)発現された標的ポリペプチドへ結合する配列をスクリーニングする工程、
を含む、
抗体フラグメントライブラリを作製する方法。
【請求項8】
請求項に記載の核酸を含む組み換えベクター。
【請求項9】
請求項に記載の組み換えベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項10】
請求項1に記載の抗体フラグメントと、薬学的に適した薬剤とを含む薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリペプチド、特に単量体のヒト抗体フラグメントの単離、同定及び操作に関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎動物の抗体は通常、一対の重(H)鎖及び軽(L)鎖から構成される。組み合わされたH鎖及びL鎖の最初のドメインであるV及びVは配列においてより可変的であり、抗原を認識し、抗原に結合する抗体部分である。Vドメイン及びVドメインは対で抗原を認識する。
【0003】
ラクダ科(ラクダ、ヒトコブラクダ及びラマ)の免疫レパートリは、重鎖抗体と呼ばれる変わった種類の抗体を保有するという点で、特殊である(Hamers, Casterman C. et al., 1993)。これらの抗体は軽鎖を欠いており、したがってこれらの組み合わせ部位はV
Hと呼ばれる1個のドメインから構成される。
【0004】
組み換え型VHの単一ドメイン抗体(sdAb)は、従来の四本鎖抗体由来の一本鎖Fv(scFv)フラグメントに勝る幾つかの利点を提供する。sdAbの親和性はscFvの親和性と同程度であるが、sdAbは、可溶性、安定性、凝集耐性、リフォールディング性、発現収率及びDNA操作の易操作性、ライブラリ構築並びに三次元構造決定といった点でscFvより優れている。抗体を伴う適用において、上記のVH sdAbの特性の多くが望ましい。
【0005】
しかし、VHの非ヒト性質によって、免疫原性によるヒトの免疫療法におけるVHの利用が制限される。この点において、ヒトのV及びV sdAbの免疫原性が最小であると考えられるので、免疫療法への適用に対する理想的な候補である。
【0006】
しかし、ヒトのV及びVは従来の抗体由来のV及びVに共通の特徴である凝集の傾向が強い(Davies, J. et al., 1994; Tanha, J. et al., 2001; Ward, E. S. et al., 1989)。このように抗体用途に好適な単量体のヒトのV及びVを得る試みが行われ
てきた。このようなV及びVは、高い発現収率、高いリフォールディング性及び凝集耐性等のVHに一般的な他の有用な特性も示す。これらのV及びVでライブラリ骨格として構築される合成ライブラリは、治療用の有望なタンパク質源として役立つ可能性がある。
【0007】
ラクダ及びラマのVHからそれぞれ、ヒトのV又はVに組み込まれる鍵となる可溶性残余物を伴うラクダ化(camelization)並びにラマ化(llamination)を利用して、単量
体のヒトのV及びVを生成した。これらのV及びVに基づき構築され、CDRランダム化により生成される合成sdAbライブラリは、様々な抗原との結合因子を得るといった点で機能的であることが示された(Davies, J. et al., 1995; Tanha, J. et al., 2001)。
【0008】
別の手法において、上記の技術的手段を用いることなく、完全なヒトの単量体のV及びVをヒトの合成V及びVライブラリから単離した。一実験において、ヒトVライブラリを鶏卵リゾチームに対してパンニングした(panned)時に単量体のヒトVを発見した(Jesperps, L. et al., 2004b)。さらに最近では、可逆的非フォールディング及び親和性基準に基づく選択方法によって、合成ヒトVライブラリから多くの単量体のVが得られた(Jespers, L. et al., 2004a)。この知見は、適切な選択方法が望ましい生物物
理学的特性を有する珍しい単量体のヒトVを効率的に捕捉する鍵となるという事実を明確に示していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の第1の目的は、生物物理学的特性(可溶性、高い発現及び/又は安定性(熱変性後の高いリフォールディング、化学変性剤に対する高い耐性、及びプロテアーゼ、特にトリプシン等の胃腸プロテアーゼに対する高い耐性等)を含む)が改良されたポリペプチド、特に抗体フラグメントを同定するハイスループットスクリーニング方法を提供することである。
【0010】
本発明の第2の目的は、単量体のヒトV及びヒトVを同定するハイスループットスクリーニング方法を提供することである。
【0011】
本発明の第3の目的は、単量体のヒトV及びヒトVを同定、単離及び特徴付けすることである。
【0012】
本発明の第4の目的は、抗体フラグメント、特に単量体のヒトV及びヒトVの多量体を構築及び特徴付けることである。
【0013】
本発明の第5の目的は、ポリペプチド、特に抗体フラグメント及び最も特定的には単量体のヒトV及びヒトVからディスプレイライブラリを構築することである。
【0014】
本発明の第6の目的は、ポリペプチド、特に抗体フラグメント及び最も特定的には生物物理的な特性が改良された単量体のヒトV及びヒトVを生成するDNAシャッフリング法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の要約
ポリペプチド、好ましくは抗体フラグメント及び最も好ましくは望ましい生物物理学的特性(可溶性、安定性、高い発現性、単量体性、非凝集性、結合特異性)を有するヒトV及びヒトVを単離する方法が提供される。この方法は、様々なポリペプチド配列を発現することができるファージディスプレイライブラリを得る工程、ライブラリファージによる細菌層の感染を可能にする工程、及び細菌層上の平均よりも大きいプラークを形成するファージを同定する工程を包含する。それからファージを単離し、シークエンシングか、又はそうでなければポリペプチド配列を特定するこれらの工程を用いる。
【0016】
本発明は、上記の方法で同定されるポリペプチド、特に単量体のヒトV及びヒトVも提供し、これは免疫療法に及び/又は診断用薬剤もしくは検出用薬剤として有用であり得る。単量体のヒトV及びヒトVは組合せて、二量体、三量体、五量体又は他の多量体を形成してもよく、これは免疫療法に及び/又は診断用薬剤もしくは検出用薬剤として有用であり得る。
【0017】
上記の方法によって同定されたポリペプチド(ヒトV及びヒトVを含む)を、可溶性、安定性、単量体性、高発現性、結合特異性、及びヒト起源等の改良された生物物理学的特性のために選択するDNAシャッフリング等の方法によって操作することができる。
【0018】
上記の方法によって同定されたポリペプチド(ヒトV及びヒトVを含む)は、さらにディスプレイライブラリを生成するのにも使用することがあり、これを同様に使用して、上記の方法によってさらにポリペプチドを単離することができる。
【0019】
第1の態様において、本発明は、標的ポリペプチドを同定する方法であって、a)様々なポリペプチド配列を発現することができるファージディスプレイライブラリを得ること、b)ライブラリファージによって、細菌層の感染を可能にすること、c)細菌層上の平均よりも大きいプラークを形成するファージを同定することを含む、方法を提供する。
【0020】
第2の態様において、本発明は、配列番号8〜配列番号54から成る群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを提供する。
【0021】
第3の態様において、本発明は、配列番号8〜配列番号22から成る群より選択される少なくとも1個のアミノ酸配列を含むV抗体フラグメントを提供する。
【0022】
第4の態様において、本発明は、配列番号23〜配列番号54から成る群より選択される少なくとも1個のアミノ酸配列を含むV抗体フラグメントを提供する。
【0023】
第5の態様において、本発明は、望ましい生物物理学的特性を有するポリペプチドを生成する方法であって、a)請求項41、42、44、45、47、48、59若しくは70に記載の抗体フラグメントをコードするか、又は請求項24、27、37若しくは39に記載のポリペプチド配列をコードし、且つ第1の望ましい特性を有する少なくとも1個の第1の核酸配列を提供する工程と、b)第2の望ましい特性を有する抗体フラグメントをコードする少なくとも1個の第2の核酸配列を提供する工程と、c)少なくとも1個の第1の核酸配列及び少なくとも1個の第2の核酸配列をランダムなフラグメントに切断する工程と、d)ランダムなフラグメントを再び集合化させる工程と、e)ランダムなフラグメントを発現する工程と、f)発現されたランダムなフラグメントを第1の望ましい特性及び前記第2の望ましい特性に関してスクリーニングする工程とを含む、方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
ヒト起源であり、可溶性、安定性、凝集に対する耐性、リフォールディング性、高発現性、及びDNAレベルでの易操作性があり、ライブラリ構築及び三次元構造決定に理想的であるポリペプチド、特に抗体フラグメントを同定することが望ましい。このような抗体フラグメントは、多種の免疫療法への適用、並びに診断用薬剤及び検出用薬剤としても有用である。ヒトの単量体のV抗体及びV抗体は上記の特性の多くを有しているとされるので、特に興味深い。
【0025】
上記の特性を有するポリペプチドは、様々なポリペプチド配列を発現することができるライブラリのハイスループットスクリーニングによって同定することができる。例えば、ファージディスプレイライブラリ(好ましくは、M13又はfd等の繊維状ファージ)は、ファージの影響を受けやすい細菌の領域(細菌層)をファージで感染させ、それからプラークとして知られるはっきりした無菌領域を探すことにより、どのファージが細菌を首尾よく溶解させるかを決定することによりスクリーニングすることができる。単量体のラマ化V及びVが、凝集傾向のある完全なヒトVを示すファージよりも大きいプラークを細菌層上に形成する。したがって、ヒトVレパートリから珍しく自然発生的な単量体のV及びVを同定する手段として、プラークサイズを使用することができる。
【0026】
本明細書中に記載の方法は、可溶性、安定性(安定性には、多くの特徴(高熱リフォールディング効率、高い融解温度、37℃での長期(数日)のインキュベート後の機能性の維持、化学変性剤に対する耐性、プロテアーゼに対する耐性、0℃未満、4℃未満及び室温での長期の保存期間、細胞内環境における機能性の維持、並びに血流中等のヒトの体内
の機能性の維持を含むが、これらに限定されない)が含まれる)、及び様々な起源の高発現性のタンパク質を同定するのにも有用であり、これらのタンパク質としては、
1.V、V、Fab、scFv及びより詳細にはヒト抗体であるIgG等の全抗体、
2.非抗体スカフォールドの一本鎖T細胞受容体、T細胞受容体ドメイン、トランスフェリン、リポカリン、kunitzドメイン、アンキリン反復、及び細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA−4)に基づくタンパク質変異体(ヒトのものを含む)、
3.ウイルス性及び細菌性のタンパク質ワクチン等のワクチン、
4.治療用タンパク質(例えば、インスリン、成長ホルモン、エリスロポエチン)
5.タンパク質性の診断用試薬及び生化学試薬(例えば、プロテインA、プロテインG)
が挙げられる。
【0027】
ポリペプチドをこの方法で同定されれば、このポリペプチドを使用して、さらなるライブラリを構築することができる。例えば、Vの核酸配列を選択することによって、これを行うことができる。ランダムなコドンを有するオリゴヌクレオチドを作り、V配列に組み込む。このようにして、それぞれの特殊なオリゴヌクレオチドをV遺伝子に組み込み、修飾されたV遺伝子によってわずかに変異のある配列のライブラリが構成される。一般的に、VのCDR又はループをランダム化させるように、オリゴヌクレオチドを設計する。例えば、1個、2個又は3個全てのV CDRをランダム化させることができる。それから、使用するライブラリの種類に応じて、Vライブラリを適切なベクターにクローニングさせ、核酸配列をポリペプチドとして発現させる。一般的にパンニング(panning)によって、ライブラリポリペプチドと結合する分子に関してライブラリをスクリー
ニングする。ライブラリはファージディスプレイライブラリ、又はリボソームディスプレイ及び酵母ディスプレイ等の他のディスプレイライブラリであり得る。
【0028】
本明細書中に記載の方法で同定したポリペプチドを例えば、単量体の架橋により二量体、三量体、五量体及び他の多量体を形成し、免疫療法に使用することができる。このことにより、抗原分子におけるより良好な親和性及び幾つかの抗原におけるより緩やかな拡散速度がもたらされ得る。別の可能性のある手法は、ポリペプチドを様々な機能を有する種々の分子と結合又は融合させることである。例えば、抗体フラグメントは、特定の細胞又は分子を標的、破壊又は修飾するために、放射性核種、細胞傷害性薬剤、トキシン、ペプチド、タンパク質、酵素、リポソーム、脂質、T細胞超抗原又はウイルスと結合することができる。
【0029】
本明細書中に記載の選択方法で同定したV又はVを単離すれば、V又はVをさらに操作し、可溶性、安定性、単量体性、結合特異性、ヒト起源又は高発現性等の改良された生物物理学的特性に関して選択することができる。DNAシャッフリング又は交互伸長法等のin vitro組み換え技法で、これを達成することができる。DNAシャッフリングは、抗体フラグメント等の第1のポリペプチド(ドナー)及び第2のポリペプチド(アクセプタ)の核酸配列をランダムなフラグメントに切断し、PCR様反応によりランダムなフラグメントを再び集合化させることを含む。それから、再集合化されたフラグメントをスクリーニングし、所望の特性に関して選択する。
【0030】
例えば、高い安定性のある1つ又は複数のV(ドナー)を十分な安定性を欠いている1つ又は複数のV(アクセプタ)と混合し、DNAシャッフリングにかけることができる。このことにより、ドナーVから安定性残基を組み込んだアクセプタVの突然変異型が発生する。本明細書に記載の方法によって、又はリボソームディスプレイ、酵母ディスプレイ、細菌細胞ディスプレイ及びファージディスプレイ等の他の発展的なタンパク質スクリーニングシステムによって、新たな安定性のある突然変異型を同定することができ
る。同様に、この技法を使用して、可溶性、単量体性、及び高発現性等の望ましい特質を形質転換することができる。
【0031】
ドナーV及びアクセプタVが望ましい特性を有する場合に、この技法を使用して両方の特性を有するVを生成することができる。例えば、重要な治療用リガンド又は診断用リガンドと結合する不安定なドナーVを安定性のあるアクセプタVでシャッフルすることができる。新たに生成した安定性のあるVもリガンドと結合する能力があることを確実にするために、スクリーニングシステムは、リガンド結合工程を伴い得る。
【0032】
DNAシャッフリングは、ラクダ科の重鎖抗体の可変領域並びにナースシャーク及びテンジクザメの可変領域等の非ヒトV、又は治療標的と結合する非ヒトVをヒト化するのにも有用であり得る。可溶性、安定性、単量体性、及び高発現性等の望ましい特性を有するヒトV及びヒトVをドナーとして使用することができる。例えば、良好な安定性のある1つ又は複数のヒトV(ドナー)を1つ又は複数の治療用の非ヒトV(アクセプタ)と混合し、DNAシャッフリングにかけることができる。これにより、安定性があり、且つヒト化されたアクセプタVの突然変異型が発生する。本明細書に記載の方法によって、又はリボソームディスプレイ、酵母ディスプレイ、細菌細胞ディスプレイ及びファージディスプレイ等の他の発展的なタンパク質スクリーニングシステムによって、新たに発生したヒト化され、且つ安定性がある変異型を同定することができる。さらなる実施例では、アクセプタVは治療用VH(ラクダ科の重鎖抗体の可変ドメイン)であり得る。
【0033】
さらに、この技法はV及びV以外のポリペプチドの望ましい特性を選択するのにも有用である。上記で示されるように、ドナーポリペプチド及びアクセプタポリペプチドは、両方ともヒトであり得るか、又はドナーがヒトであり、アセプタが非ヒトであり得る。
【0034】
可溶性、単量体性、高発現性、又は安定性をV及びVに与える可能性のある手法は、アクセプタV及びV上の相補性決定領域(CDR)をグラフト化することによるものであり得る。CDRは、単一ドメイン抗体の可溶性及び安定性、及びそれに応じた本明細書中に記載の方法で単離したV及びV由来のCDR等のこれらの領域のグラフト化を伴うことが知られているので、可溶性及び/又は安定性をアクセプタV及びVに与えることができる。
ヒトの単量体のV及びV
異なる生殖細胞及び全配列を有する幾つかの単量体のヒトVが、ファージプラークサイズに基づくこの選択方法によって、ナイーブヒトVファージディスプレイライブラリから同定された(図1及び配列番号8〜配列番号22を参照のこと)。Vは、37℃でのトリプシン処理、37℃での数週間のインキュベート、又は4℃での数ヶ月の保存後でも機能性及び単量体を維持し、熱リフォールディング効率が高く、大腸菌において良好な収率で生成され、プロテインA結合活性を有する。
【0035】
さらに、幾つかの単量体のヒトVが同定された(図6及び配列番号23〜配列番号54を参照のこと)。Vも大腸菌において良好な収率で生成され、プロテインL結合活性を有する。
【0036】
また、スカフォールドとして上記のVを利用する合成ライブラリからのVによって、このような特性が明らかになる。したがって、このようなライブラリによって、生理学的温度での良好な有効性、長い保存期間、及び費用効率が高い生産を有する治療用V又は診断用Vが得られ得る。高温リフォールディング効率の特徴によって、V結合因子が一時的に高温に曝された後に、その活性を維持するように要求される場合に対するこれらのライブラリの生物工学的適用をさらに拡大させる。Vは、その望ましい生物物理学
的特性により、体内適用に非常に適しているはずである。プロテインA結合特性は、診断試験におけるV精製及びV検出、免疫ブロット法及び免疫細胞化学を単純化し、ライブラリから非機能性のVを取り除くことによって、ライブラリ性能を高めるために利用することができる。同様に、スカフォールドとしてVを利用するライブラリによって、同様に望ましい特性を有する治療用のVS又は診断用のVSが得られる。VがプロテインLと結合するので、このプロテインL結合特性を利用することにより、V精製及びV検出が単純化される。
【0037】
本発明のV及びVで構成されたディスプレイライブラリは、診断用薬剤及び検出用薬剤の有用な供給源でもあり得る。
【0038】
これまでに報告された有益な生物物理学的特性を有する完全なヒトVは、単一のV生殖細胞系配列:DP−47に基づいていた(Jespers, L. et al., 2004b; Jespers, L. et
al., 2004a)。この研究における単量体のヒトVが、DP−47を含む6個の異なる生殖細胞系配列から起因しているという見解によって、安定性のあるVは生殖細胞系遺伝子の利用に関して限定されないことが実証される。事実、本発明者らがファミリーの単量体のVを単離し、本明細書で記載するものとは異なる生殖細胞系起源は、プロテインA結合活性のあるV3ファミリーのVのサブセットに対する本発明者らの選択を制限させない可能性が非常に高い。Vにおいて複数の突然変異が発生すること、及びCDR3はsdAbの生物物理学的プロファイルの形成にも関与することが知られているという事実により、本発明のVの観察された生物物理学な挙動に関与するアミノ酸突然変異(第1表)を特定することは不可能である。しかし、sdAb安定性及び可溶性に重要であることが知られている位置(例えば、HVHP423及びHVHP44BにおけるV37F)での突然変異又は同じ位置(例えば、9個のVにおけるL5V/Q及びV5Q)で複数回起こる突然変異は、Vの生物物理学的特性を決定するのに役立つ。ライブラリ構築に関して、ライブラリ安定性を危うくすることなくCDRランダム化が行われるように、本発明のVの単量体性は、CDR、特にCDR3には依存しないことが望ましい。これに関して、安定性に関してCDR3への依存性が小さいので、より小さいCDR3を有するV(例えばHVHB82)が好ましいスカフォールドであり得る。
【0039】
全体の配列及びCDR3の長さに関する本発明のV及びVの多様性によって、より良好な性能のライブラリの構築が可能になる。合成Vライブラリが単一スカフォールドで構築されている。レパートリ形成へのこのような手法は、多様なスカフォールドを利用する天然のin vivoでの「手法」とはかなり異なっている。本明細書中に報告されている配列に基づいて、多様な組のV及びVの可用性を利用し、複数のV及びVのスカフォールドに基づくライブラリを作ることができる。このようなライブラリは、in vivoでのレパートリのより良好な模倣であり、したがってより最適な複雑性を有する。sdAbにおける3個のCDRの中で、CDR3は一般的に最も有意にレパートリの多様性に寄与し、この理由から一般的にCDR3の長さを同時に変えることによって、V及びVのスカフォールドにおけるCDR3ランダム化が達成される。この有意性がライブラリの複雑性を改良するが、親スカフォールドCDR3の長さを壊すことによって、ライブラリの安定性をも危うくする可能性がある。CDR3の長さに関して本明細書中で開示されるV及びVの不均一性によって、良好な複雑性、良好な安定性及び良好な生物物理学的な特徴の両方を有するライブラリの形成を可能にする。このようなライブラリは、好ましくはサブライブラリから成り、それぞれのサブライブラリは、親CDR3の長さを壊すことなく、単一のVH、及びVスカフォールド上のCDR3のランダム化(及び必要に応じてCDR1及び/又はCDR2のランダム化)によって作られる。
【0040】
治療標的に特異的なVH、V及びVをヒト化することに関して、最適なV及びVフレームワークを選択するといった点でも、本発明のV及びVの多用途性は有益
である。比較的容易に免疫性、非免疫性又は合成VHライブラリから治療標的に対する親和性の高いラクダ科のVHを得て、その後ヒト化(CDRグラフト化、再サーフェイシング(resurfacing)、脱免疫化)を行い、可能性のあるVH免疫原性を除去すること
ができる。それにより、治療用Vの生成に対するヒトVライブラリの手法の代替方法を提供する。後者の手法による親和性の高い治療用Vの生成は、最初の合成ヒトVライブラリから選択される主要な結合因子(複数可)の面倒で、且つ時間のかかるさらなるin vitroの親和性突然変異を要求することが度々あり得る。
【0041】
比較的容易に免疫性、非免疫性又は合成Vライブラリから治療標的に対する非ヒトVを得て、その後ヒト化(CDRグラフト化、再サーフェイシング、脱免疫化)を行い、非ヒトV免疫原性を除去することができる。それにより、治療用Vの生成に対するヒトVライブラリの手法の代替方法を提供する。
【0042】
比較的容易に免疫性、非免疫性又は合成VHライブラリから治療標的に対する非ヒトVを得て、その後ヒト化(CDRグラフト化、再サーフェイシング、脱免疫化)を行い、VH免疫原性を除去することができる。それにより、治療用Vの生成に対するヒトVライブラリの手法の代替方法を提供する。
【0043】
改良された生物物理学的特性を有するタンパク質の選択に対する多くの発展的な手法が記載されている(Forrer, P. et al., 1999; Waldo, G. S., 2003)、(Jespers, L. et al., 2004a; Jung, S. et al., 1999; Matsuura, T. et al., 2003)。一般的に確実にライブラリ集合から不安定又は安定性の低い変異型よりも安定性のある変異型を優先的に選択するために、安定性圧力が必要とされる。例えば関連の研究で、凝集耐性のあるVを選択するために、Vファージディスプレイライブラリの熱処理が要求された(Jespers, L. et al., 2004a)。ファージディスプレイを含む発展的な選択の手法の例としては、従来の
ファージディスプレイ、選択的感染ファージ及びタンパク質分解の手法が挙げられる。最初の2個の手法において、安定性のあるタンパク質が不安定なものよりもそのリガンドに対してより良好な結合特性を有するという仮定に基づき、親和性の選択を使用して、ライブラリから安定性のある種を選択する。しかし、安定性選択工程がさらに包含されていても、これらの手法は主に安定性よりも親和性をより高める(Jung, S. et al., 1999)。結
合工程が要求されることによって、既知のリガンドを有するタンパク質に対するこれらの手法の適用性も制限される。第3のタンパク質分解の手法は、不安定なタンパク質がプロテアーゼに対して耐性がないのに対して、安定性のあるタンパク質は一般的に小さく、したがってプロテアーゼに対して耐性があるという事実に基づいている。ファージディスプレイフォーマットは、表示されたタンパク質のプロテアーゼ安定性が、ファージ感染性に変換されるように操作される。このように、変異型のファージディスプレイライブラリをプロテアーゼで処理する場合、安定性のあるタンパク質を表示するファージのみがこれらの感染性を維持し、その後、大腸菌宿主を感染させることにより選択することができる。この手法はリガンド結合と独立しているので、一般的に有用である。しかし、安定であり、且つ十分にフォールディングしたタンパク質であってもプロテアーゼ感受性部位(例えば、ループ及びリンカー)を有し、これによりタンパク質分解の手法における安定性のある種の選択が妨げられることもあり得る(Bai, Y. et al., 2004)。
【0044】
これに対して、本発明の発展的な手法において、優れた生物物理学的特性を有するタンパク質は肉眼で簡単に判別される。この手法は、リガンド結合工程、タンパク質分解工程又は脱安定化工程を要求せず、したがって報告された選択的手法において直面する可能性のある複雑性が回避される。結合工程に対する要求がないことは、この手法が一般的に有用であることも意味する。オプションとして、結合工程は選択されたタンパク質が機能的であることを確実にすることが含まれてもよい。しかし、本発明の手法の(プラーク視覚化のための)プレート培養に対する依存性によって、操作することができ、小さいライブ
ラリに対する適用を制限し得るプレートの数に関して、可能性のある運搬上の制限が導入される。それにもかかわらず、ライブラリを最初に取り扱いが可能な大きさに縮小する場合、現在の手法の有用性は大きなライブラリにまで拡大することが可能である。例えば、選択システムに大きい集合の不安定な種を取り除き(例えば、プロテインA表面上又は疎水性相互作用カラム上のライブラリ吸収)、これにより露出した疎水性表面を有する不完全にフォールディングしたタンパク質を除去する、取り除く工程を組み込むことにより、これを行うことができる(Matsuura, T. et al., 2003)。本明細書中において、この手法
を使用して、非常に不安定なV及びVのバックグラウンドにおいて良好な生物物理学的特性を有するV及びVを選択した。しかし、適度に良好な安定性を有するタンパク質で集合化された突然変異型のライブラリから「最良の」種を選択することはより困難であり得る。この場合、より短期間のインキュベート時間でのプラーク形成速度に基づくか、又はプラークサイズ及び頻度基準(frequency criteria)に基づいて、主要な変異型を同定することができる。
【0045】
本発明の選択手法は、プロテインL、プロテインA又は任意のリガンドを伴う結合工程の選択システムにおける任意選択の包含を有するscFv及びFab等の安定性があり、且つ十分フォールディングした抗体フラグメント、並びに安定性のある非抗体スカフォールド及びこれらの突然変異型の同定にまで拡大することができる。さらに、ファージプラークサイズとV発現収率との間に見られる相関関係は、本発明の手法を利用しなければ変異型のファージディスプレイライブラリから不完全であるか、又は不十分な発現を有するタンパク質の高発現性がある変形を得るために本発明の手法を利用することができることを意味する。ブースト化タンパク質の発現がタンパク質の生産コストを有意に埋め合わせる治療用タンパク質又は高価で不完全な発現性のタンパク質試薬の場合、この適用は特に魅力的である。
五量体の結合分析
及びVの両方が五量体化の影響を受けやすく、五量体化を使用して、親和性の低いV又はVの単量体を親和性の高いV又はVの五量体に迅速に変換することができる。このような五量体は貴重な診断用薬剤及び検出用薬剤である。このような用途において、V又はVの五量体のその標的との結合は、酵素(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ又はアルカリ性のホスファターゼ)等のレポーター分子又は五量体と結合する蛍光分子で検出することができる。代替的に、五量体の結合は、レポーター分子と結合する二次分子で検出することができる。二次分子は、五量体自体又は6Hisタグ若しくはc−Mycタグ等のタグに特異的であり得る。例えば、一般的な二次分子はイムノグロブリンである。
【0046】
プロテインAを有するVとプロテインLを有するVとの間の相互作用は、これらの標的抗原を有するVとVとの間の相互作用とは基本的に異なっている。V又はVの抗原結合は、抗体ドメインの結合部位を形成する3個の抗原結合ループを伴う。プロテインA結合活性を有するV及びプロテインL結合活性を有するVのプロテインA結合は、抗体結合部位とは全体的に異なる抗体ドメイン上に結合部位及び残基を伴う。このように、プロテインA結合活性を有するVは、同時にプロテインA及びその標的抗原と結合することができ、プロテインL結合活性を有するVは、同時にプロテインL及びその標的抗原と結合することができる。本発明のVとVはそれぞれ、プロテインA及びプロテインLに対する親和性を有するので、上記の検出用途及び診断用途のための二次分子として、プロテインA及びプロテインLを使用することができる。ヒトV及びヒトVの五量体は治療のためにも使用することができる。
五量体による病原体検出
のプロテインA結合活性及びVのプロテインL結合活性を使用して、表面上にプロテインA及び/又はプロテインLを有する細菌を検出することができる。プロテインAは、病原菌である黄色ブドウ球菌の表面上に存在する。このように、本明細書に記載のも
の等のプロテインA結合活性を有するVを使用して、黄色ブドウ球菌を検出することができる。同様に、細胞表面上にプロテインLを有する細菌、特にペプトストレプトコッカス属マグヌス(Peptostreptococcus magnus)等の病原菌の検出のために、プロテインL結
合活性を有するV単量体及びV五量体を使用することができる。
【0047】
プロテインLは、ヒトにおけるP.magnus(Ricci, S. et al., 2001)の発症の毒性因子に関連する。膣炎において、プロテインLは、架橋表面結合性のIgEによりその効果を発揮すると考えられる。プロテインL結合活性を有するV単量体及び/又はV五量体がプロテインLのIgE架橋作用を阻害する可能性があるので、これらは治療剤として潜在性がある。
【0048】
プロテインAは、ヒトにおける黄色ブドウ球菌(Fournier, B. et al., 2004)の発症の
毒性因子に関連する。その毒性は、抗体と結合することを含む宿主成分と相互作用する能力に起因している。プロテインA結合活性を有するV単量体及び/又はV五量体が宿主成分を有するプロテインAの相互作用を阻害する可能性があるので、これらは治療剤として潜在性がある。
【実施例】
【0049】
単量体のヒトVの同定及び配列分析
完全なヒトVライブラリ及びラマ化したヒトVライブラリの構築の間に、単量体のラマ化したVを表示するファージが、凝集傾向のある完全なヒトVを表示するファージよりも細菌層上でより大きいプラークを形成したことを確認した。このように、ヒトVレパートリから珍しく自然発生的な単量体のVを同定する手段として、プラークサイズを使用した(図1)。この目的で、サイズが6×10であるヒトVを示すファージライブラリを構築し、寒天プレート上でプラークとして増殖させた。タイタープレート上で、ライブラリは本質的に、幾つかの大きいプラークが散在する小さいプラークから成る。20個のクローンにおけるPCRによって、小さいプラークがV表示ファージに対応し、一方で大きいプラークは野性型のファージ(すなわち、V配列挿入を欠くファージ)を表すことが示された。V表示ファージは、大きいプラーク形態では見出されなかった。このことは、ヒトのレパートリ及び大きいサイズのライブラリにおける単量体のVの不足により予想外のことではなかった。単量体のVの同定を容易にするために、V3ファミリー由来のヒトVのサブセットと結合するプロテインAに対してライブラリをパンニングすることにより、ライブラリを取り扱いが可能な大きさまで縮小し、プラークサイズ形態が大きくなるのを阻害する野性型のファージを取り除くことを決めた。
【0050】
数回のパンニングの後、ライブラリはファージを生成する大きいプラークに関して富化され、110個を超えるこのようなプラークのPCR及びシークエンシングにより、全てがVオープンリーディングフレームを完成させたことを示した。分析のために選択された大きいプラークのサイズは図1で示す。シークエンシングによって、V3ファミリーに属する15個の異なるVが示され、DP−38、DP−47、V3−49、V3−53、YAC−5又は8−1Bの生殖細胞系Vセグメントを利用した(第1表、図2)。DP−38及びDP−47の生殖細胞系配列は、これまではプロテインA結合に関係していた。さらに、それらのプロテインA結合活性と一致して、全てのVは、57位でThr残基を有していた(図2)。最も頻繁に利用された生殖細胞系Vセグメントは、Vの50%を越えて発生するDP−47であったが、最も高頻度なクローン(すなわち、HVHP428、相対頻度46%)はV3−49生殖細胞系Vセグメントを利用した。DP−47生殖細胞系配列を有するHVHP429は相対頻度が21%である2番目に豊富なVであった(図2)。V CDR3の長さは、HVHB82における4個のアミノ酸からHVHP430における16個のアミノ酸の範囲であり、HVHP430はCDR3において一対のCys残基を有していた。親の生殖細胞系Vセグメント(残基1〜94)及び
FR4(残基103〜113)配列に対するアミノ酸突然変異は全てのVで見られ、HVHP44(L5V及びQ105R)及びHVHB82(E1Q及びL5Q)に対する2個の突然変異からHVHP426に対する16個の突然変異までの範囲であった(第1表)。突然変異はVセグメントに集中し、105位及び108位の2個の突然変異のみが15個のFR4全てで検出された。HVHP44及びHVHB82は、その両方がGlnの代わりに105位で正に荷電したアミノ酸を有するという点で他のVとは異なっていた(第1表、図2)。しかし、HVHP44において正に荷電したアミノ酸が突然変異によって得られたが、HVHB82における正に荷電したアミノ酸は生殖細胞系でコードされていた。HVHP423及びHVHP44Bを除いて、残りのVは鍵となる可溶性位置で生殖細胞系残基を有していた:37V/44G/45L/47W又は37F/44G/45L/47W(HVHP428)、HVHP423及びHVHP44BはV37F突然変異を有していた。V可溶性に重要であることが示されるか、又は仮定される他の位置での突然変異には、7個のE6Q、3個のS35T/H、1個のR83G及び1個のK83R、1個のA84P及び1個のT84A及び1個のM108Lが包含されていた。11個のE1Q、8個のL5V/Q及び1個のV5Q突然変異を包含した高頻度の突然変異も1位及び5位で観察された。
ヒトVの生物物理学的特徴
HVHP44B(HVHP423と本質的に同じであった)を除いて、全てのVはc−Myc−Hisタグとの融合における培養液量1Lの大腸菌株TG1で発現し、固定化金属親和性クロマトグラフィ(IMAC)によって、ペリプラズム抽出物から均一に精製した。発現収率は、振盪フラスコ内で細菌培養液1L当たりで精製タンパク質1.8〜62.1mgの範囲であり、Vのほとんどは数mgの収率があった(第2表)。HVHP423及びHVHP430の例において、「明らかに」同じ発現条件下での別の試験によって、62.1及び23.7mgに対してそれぞれ、2.4及び6.4mgの収率が得られた。このことは、本明細書中に記載の多くのVに対して、大した努力をせずに最適な発現条件を達成でき、それにより第2表で報告された値より有意に高い発現収率がもたらされることを意味している。予想通り、全てのVは表面プラズモン共鳴(SPR)分析(Kは0.2〜3μMである)においてプロテインAと結合していて、範囲及び規模はプロテインA結合活性を有するラマVH変異型についてこれまでに報告されていた範囲及び規模に匹敵していた。VはFab基準面と結合しなかった。
【0051】
ゲルろ過クロマトグラフィ及びNMRによるオリゴマー化状態に関して、ヒトVの凝集傾向を評価した(第2表)。全てのVをSuperdex75ゲルろ過クロマトグラフィにかけた。ラマVH(すなわち、H11C7)と同様に、全てのVにおいて、単量体で期待される溶離量で対称な単一のピークが与えられ、凝集体は実質的に全く存在しなかった(図3AのHVHP428における例を参照のこと)。これに対して、一般的なヒトV(すなわち、BT32/A6)はかなりの量の凝集体を形成した。3個のVに関しては、V二量体で期待される移動度を有する微小ピークも観察された。微小ピークのSPR分析によって、二量体のVと一致して、単量体Vに対する値よりも有意に緩やかな解離速度値(off-rate value)が与えられた。二量体のピークは、ラマVH(H11C7)の場合にも観察された。高濃度のVのフォールディング状態及びオリゴマー化状態をさらにNMR分析で研究した。表IIに示すように、全てのVタンパク質の研究によって、比較的可溶性であると考えられ、十分にフォールディングされた三次元構造が推測された。Vフラグメントの一次元NMRスペクトル(図3B)によって、Vドメインの構造フォールディング特徴が示された。HVHP414フラグメント及びHVHP414の2個のイソ型(c−Myc配列を有する及び有さないVH14及びVH14−cMyc−)に対するPFG−NMR拡散実験の使用によっても、タンパク質の凝集状態を評価した。VH14は、c−Myc N132E突然変異を有し、且つさらにN末端にメチオニン残基を有するHVHP414の改変バージョンである。簡単に述べると、PFG−NMRデータ(示されず)によって、全てのタンパク質サンプルが、NMR実験に使用
した比較的高いタンパク質濃度であっても予想される単量体の分子量を有することが示された。
【0052】
一貫して37℃でのトリプシンに対する耐性に関して、Vの安定性をさらに研究し、その後37℃で長期的にインキュベートを行った。トリプシンは、C末端のArg又はLys残基でポリペプチドのアミド骨格を切断する。ヒトVにおいて9〜13個のArg及びLys残基が存在する(図2)。トリプシンによる消化の影響を受けやすいC末端のc−MycタグにおいてさらなるLys残基も存在する。図4aは、トリプシン消化の間のHVHP414のSDS−PAGE分析である。1時間以内に、元のバンドは、c−Myc−Hisタグを有しないVで期待される移動度があった単一の生成物に完全に変換された。トリプシンによる1時間のインキュベート後に12個の他のVにおいて、同じ結果が得られた。トリプシン処理したVのランダムに選択されたサンプル(すなわち、HVHP414、HVHP419、HVHP420、HVHP423、HVHP429、HVHP430及びHVHM81)における質量分析によって、それぞれの場合に、消化した生成物の分子質量がC末端残基としてのc−Myc Lysを有するVに対応していたことが確認された。HVHM41において、消化時の残りよりも有意に短いフラグメントが与えられ、この場合質量分析実験によって、CDR3におけるArg99に対する切断部位がマッピングされた(データ図示せず)。
【0053】
0.32mg/ml(HVHP428)〜3.2mg/ml(HVHP420)の濃度に及ぶ11個のVを37℃で17日間インキュベートした。その後、オリゴマー化状態及びプロテインA結合に関して、これらの安定性を決定した。ゲルろ過クロマトグラフィによって示されるように、37℃でのVの処理は凝集体形成を全く誘導しなかった:全てのVは、未処理のVのものと実質的に同一であったクロマトグラムプロファイルを与え、本質的に単量体として存在していた(HVHP420についての例、図4cを参照のこと)。Vが37℃での処理後の自然のフォールディングを維持したことを確実するために、2個のV(すなわち、HVHP414(1.2mg/ml)及びHVHP420(3.2mg/ml))をランダムに選択し、SPRによってプロテインAと結合するこれらのKを求め(HVHP420に関して示されるデータ、図4cの挿入図)、未処理のVに対して得られたKと比較した(第2表)。熱処理したVに関して算出したKは1.4μMであり、HVHP414及びHVHP420に関して算出したKはそれぞれ1.0μMであった。これらの値は未処理のVの対応する値と本質的に同一であり(第2表)、このことはVの37℃での処理がこれらの天然フォールディング(native fold)に影響を与えなかったことを示している。Vが37℃のインキュベート期間で
余り小さくなく、且つ非天然であり、ゲルろ過実験及びSPR実験の間室温まで戻した時にこれらの天然のフォールディングを再開する可能性は、十分にフォールディングした天然のタンパク質に一般的に関連する特性であるVが37℃でトリプシンに対して耐性があった(上記を参照のこと)という事実を鑑みて疑わしい。
【0054】
天然のV(Kn)及び熱処理して、リフォールディングしたV(Kref)のプロテインAとの結合のKを比較することによって、ヒトVのリフォールディング効率(RE)を研究した(Tanha, J. et al., 2002)。V分画が熱処理によって不活性化される場合、このパラメータはフォールディングした、すなわち活性のある抗体フラグメントの濃度に基づいているので、測定Kは高くなる。このように、KnとKrefとの比によって、VREの測定値が与えられる。図5は、幾つかの選択されたV濃度での天然状態(太線)及びリフォールディング状態(細線)における固定化されたプロテインAとのHVHP423の結合に対するセンサーグラムを比較している。示され得るように、リフォールディングしたVのプロテインAとの結合は全ての例でより小さく、これにより非フォールディングは完全に可逆ではないことが示される。14個のVそれぞれにおいて、天然状態及びリフォールディング状態におけるプロテインAの結合を幾つかの
濃度で測定し、K及びその後のREを求めた(第2表、Kref値は示されていない)。2個の抗イディオタイプのラマVH(H11F9及びH11B2)のK及びREも求め、これらは参照として使用された。4個のVは、H11F9及びH11B2のそれぞれの、95%及び100%のREと同程度の92%〜95%の範囲のREであった。別の5個のVは、84%〜88%の範囲のREであり、3個は70%を超えていた。2個のVだけが有意に低いREであった:HVHP413(52%)及びHVHP421(14%)。これまでに調べられた幾つかの公開されたVHは約50%のREであった(van der Linden, R. H. et al., 1999)。
ヒトVファージディスプレイライブラリ構築及びパンニング
ランダムヘキサヌクレオチドプライマー及びFirst Strand cDNA(商標)キット(GE Healthcare, Baie d'Urfe, QC, Canada)を使用して、ヒト脾臓mRNAからcDNAを合成した。鋳型としてcDNAを使用して、Vフレームワーク領域1(FR1)に特異的なプライマー及びイムノグロブリンM特異的なプライマー(de Haard, H. J. et al., 1999)を使用した9個の別々の反応におけるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、C配列をフランキングしたV遺伝子を増幅した。生成物をゲル精製し、2回目のPCRにおける鋳型として使用することにより、クローニング目的のためにフランキングしたApal I及びNot I制限部位も導入したFR1特異的なプライマー及びFR4特異的なプライマー(de Haard, H. J. et al., 1999)を使用して、V遺伝子を構築した。得られたVレパートリDNAをfd−tetGIIIDファージベクターにクローニングし、Vファージディスプレイライブラリを構築した(Tanha, J. et al., 2001)。プロテインAに対するパンニング(Amersham Biosciences Inc.)を記載のように行
った(Tanha, J. et al., 2001)。DNAPLOTソフトウェアバージョン2.0.1及びV BASEバージョン1.0(http://vbase.dnaplot.de/cgi-bin/vbase/vsearch.pl)を使用して、選択されたVの生殖細胞系配列帰属を行った。記載のようにH11 scFvに対してパンニングすることによって、ラマVHファージディスプレイライブラリからラマVH H11C7、H11F9及びH11B2を単離した(Tanha, J. et al., 2002)。
の発現及び精製
標準的なクローニング技法により、VをpSJF2発現ベクターにクローニングした(Sambrook, J. Fritsch E. F. and Maniatis T, 1989)。sdAbのペリプラズム発現及
びその後の固定化金属親和性クロマトグラフィ(IMAC)による精製を記載のように行った(Muruganandam, A. et al., 2002)。それぞれのタンパク質において算出したモル吸
収係数を使用したA280測定によって、タンパク質濃度を測定した(Pace, C. N. et al., 1995)。記載のように、Superdex75カラム(GE Healthcare)において、精製
したVのゲルろ過クロマトグラフィを行った(Deng, S. J. et al., 1995)。
結合及びリフォールディング効率の実験
/VHの平衡解離定数(K)及びリフォールディング効率(RE)は、BIACORE3000バイオセンサーシステム(Biacore Inc., Piscataway, NJ)で回収した表面プラズモン共鳴(SPR)データから得られた。プロテインAとのVの結合を測定するために、プロテインAの2000個の共鳴単位(RU)又は基準となる抗原結合フラグメント(Fab)を研究等級のCM5センサーチップ(Biacore Inc.)上で固定化した。製造業者によって提供されるアミンカップリングキットを使用して、10mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)中の25μg/ml(プロテインA)又は50μg/ml(Fab)の濃度で固定化を行った。抗イディオタイプのラマVHのH11scFvとの結合を測定するために、上記のように、50μg/mlのH11 scFv 4100RU又は10μg/mlのSe155−4 IgG基準 3000RUを固定化した。全ての例において、流量40μl/分で、150mMのNaCl、3mMのEDTA及び0.005%のP20を含む10mMのHEPES(pH7.4)中、25℃で分析を行い、表面を洗浄緩衝液で洗浄することにより再生させた。リフォールディングタンパク質の結合活性を測定するために、10μg/mlの濃度、85℃で20分間インキュベートするこ
とによって、V又はVHを変性させた。それから、リフォールディングするためにタンパク質サンプルを30分間室温まで冷却し、その後室温で5分間14000rpmでマイクロフュージで遠心分離して、任意のタンパク質沈殿物を除去した。上清を回収し、上記のようにSPRによって結合活性について分析した。BIAevaluation4.1ソフトウェア(Biacore Inc.)を同時に使用して、フォールディングしたタンパク質及びリフォールディングタンパク質両方に関するデータを1:1の相互作用モデルに適合させ、その後Kを求めた。REは、
【0055】
【化1】
【0056】
(式中、Knは天然タンパク質のKであり、Krefはリフォールディングタンパク質のKである)から求めた。
トリプシン消化実験
1mMのHCl中の新たに調製した0.1μg/μlのシークエンシング等級のトリプシン(Hoffmann-La Roche Ltd., Mississauga, ON, Canada)3μlを100mMのTri
s−HCl緩衝液(pH7.8)中のV60μgに加えた。37℃で1時間、全量60μlで消化反応を行い、0.1μg/μlのトリプシン阻害剤(Sigma, Oakville, ON, Canada)5μlを加えることにより停止させた。消化の完了後、5μlを取り除き、SDS
−PAGEで分析して、ZipTipC4(Millipore, Nepean, ON, Canada)を使用して
残りを脱塩し、50:50のメタノール:水の1%酢酸で溶離して、MALDI質量分析によってVの質量を求めた。
37℃でのタンパク質安定性研究
37℃で17日間PBS緩衝液において0.32〜3.2mg/mlの濃度での単一ドメイン抗体(sdAb)をインキュベートした。インキュベートの後、視覚的に凝集体の形成が全く見られなくても、5分間最大速度でミクロフュージにおいてタンパク質サンプルを沈降させた。それから、サンプルをSuperdex75サイズ排除カラム(GE Healthcare)に適用させ、プロテインAに対するSPR分析における単量体のピークを回収し
た。プロテインA500RU又は基準Fabを固定化したこと、及び50μg/mlの濃度で固定化を行ったことを除いて、上記のようにSPR分析を行った。
NMR実験
NMR分析におけるVサンプルを10mMのリン酸ナトリウム、150mMのNaCl、0.5mMのEDTA及び0.02%のNaN(pH7.0)中に溶解した。タンパク質濃度は40μM〜1.0mMであった。全てのNMR実験は、Bruker Avance−800NMRスペクトロメータ又はBruker Avance−500NMRスペクトロメータにおいて298Kで行った。一次元(1D)H NMRスペクトルを16384個のデータ点で記録し、スペクトル幅はそれぞれ、500MHzで8992.81Hz及び800MHzで17605.63Hzであった。2048×400のデータ点の二次元H−H NOESYスペクトルがスペクトル幅11990.04Hz及び混合時間120msのBruker Avance−800NMRスペクトロメータにおいて得られた。全てのNMR実験において、3−9−19パルス列によって行われたWATERGATE法(Piotto, M. et al., 1992; Sklenar, V. et al., 1993)を使用して
水抑制を達成した。NMRデータを処理し、Bruker XWINNMRソフトウェアパッケージを使用して分析した。3軸勾配がある三重共鳴プローブを備えるBruker
Avance−500 NMRスペクトルメータで水抑制LED配列(Altieri, A. S. et al., 1995)によって、全てのPFG−NMR拡散測定を行った。一次元プロトンスペ
クトルを処理し、Bruker Xwinnmrソフトウェアパッケージを使用して分析
した。全ての所与のPFG強度で均一に全てのNMRシグナルが弱まった場合に、メチル及びメチレンプロトン領域(2.3ppm〜−0.3ppm)におけるNMRスペクトルを統合することにより、NMRシグナル強度を得た。
ヒトVファージディスプレイライブラリ構築及びパンニング
ヒトVに関して上記のように、cDNAをヒト脾臓mRNAから合成した。cDNAをPCRの鋳型として使用し、6個のVκバックプライマー、11個のVλバックプライマー(de Haard, H. J. et al., 1999)、4個のVκフォワードプライマー及び2個のVλフォワードプライマー(Sblattero, D. et al., 1998)を使用して、反応体積50μlでV遺伝子を増幅させた。バックプライマー及びフォワードプライマーを修飾して、その後のクローニング目的のためにそれぞれ、Apa LI制限部位及びNot I制限部位をフランキングさせた。これらの縮重の程度に反映された比で共にフォワードプライマーがプールされた。プールされたVλフォワードプライマー及び11個の個々のVλバックプライマーを使用して、11個の別々の反応でVλ遺伝子をPCRした。同様に、プールされたVκフォワードプライマー及び6個の個々のVλバックプライマーを使用して、6個の別々の反応でVλ遺伝子を増幅させた。PCR生成物をプールし、ゲル精製して、Apa LI制限エンドヌクレアーゼ及びNot I制限エンドヌクレアーゼで消化した。ヒトVに関して上記のように、ライブラリを構築した。個々のライブラリコロニーにおいてプラークPCRを行い、増幅したV遺伝子を記載のようにシークエンシングした(Tanha, J. et al., 2003)。ヒトVライブラリに関して上記のように、プロテインL(Biolynx Inc., Brockville, ON, Canada)に対するパンニング及び選択されたVの生殖細胞系の配列帰属を行った。
の発現及び精製
「Vの発現及び精製」においてVに関して上記のように、Vの発現、精製、濃度決定及びゲルろ過クロマトグラフィを行った。
及びV五量体の発現及び精製
標準的なPCRにおいて特異的なプライマーを使用して、HVHP328 V及びHVLP335 V遺伝子を増幅させた。標準的なクローニング技法を使用して、発現ベクターにおいてVT1B五量体化ドメイン遺伝子と融合して、HVHP328及びHVLP335遺伝子をクローニングして、HVHP328PVT2及びHVLP335PTV2五量体を得た(Zhang, J. et al. 2004)。五量体を記載のように発現及び精製した(Zhang, J. et al., 2004)。上記のようにタンパク質濃度を決定した。
の表面プラズモン共鳴
BIACORE3000バイオセンサーシステム(Biacore, Inc., Piscataway, NJ)を
使用したSPRによって、VのプロテインLとの相互作用に対する結合反応速度を測定した。プロテインL680RU又は基準Fab 870RUを研究等級のCM5センサーチップ(Biacore)上で固定化させた。製造業者によって供給されたアミンカップリングキ
ットを使用して、10mMの酢酸緩衝液(pH4.5)において50μg/mlのタンパク質濃度で固定化を行った。50μl/分又は100μl/分の流量で150mMのNaCl、3mMのEDTA及び0.005%のP20を含む10mMのHEPES緩衝液(pH7.4)中、25℃で全ての測定を行った。洗浄緩衝液で洗浄することにより表面を再生した。BlAevaluation4.1ソフトウェア(Biacore, Inc.)を使用して
、データを評価した。
五量体V及びVの表面プラズモン共鳴
SPRによって、HVHP328PVT2のプロテインAとの相互作用及びHVLP335PTV2のプロテインLとの相互作用に対する結合反応速度を決定した。520RUのプロテインA又は基準Fabを上記のように固定化した。V五量体に関して、上記のように調製した同様の表面を使用した。上記のように測定を行ったが、流量は20μl/分であった。3秒間、50mMのHClで洗浄することによって、表面を再生した。単量体に関して記載のようにデータを評価した。
細胞の微小凝集
BHIプレート由来の黄色ブドウ球菌の単一コロニーを使用して、BHI培地15mLを接種した。細菌を37℃、200rpmで一晩成長させた。翌朝、培養液を回転バケット、Sorvall RT6000B冷凍遠心器において4000rpmで10分間遠心分離し(spun down)、上清を除去して、細胞ペレットをPBS緩衝液で再懸濁させた。
細胞を再び遠心分離し、上清を除去して、細胞ペレットを再びPBS緩衝液で再懸濁させた。細胞をA600が1.0になるまで希釈し、段階希釈した細胞を37℃のBHIプレート上に広げて、一晩成長させた。翌朝、細胞力価を測定した。A600 1.0が1.5×10細胞/mlに対応する。同一の工程を行い、成長培地が2xYTであったことを除いて、その後の微小凝集アッセイのために大腸菌株TG1細胞を調製した。生菌数は同様であった、A600 1.0=2.1×10細胞/ml。
【0057】
微小凝集アッセイを行うために、マイクロタイタープレートにおけるウェル1〜ウェル11でPBSにおいてHVHP328PVT2の2倍希釈を行った。ウェル12(ブランク)はPBSのみを含んでいた。それぞれのウェルの全量は50μlであった。その後、PBS50μlにおける1×10個の黄色ブドウ球菌細胞を全てのウェルに加えて、プレートを4℃で一晩インキュベートした。結果を永続的に記録するために、翌朝にプレートの写真を撮った。五量体の対照実験のために、HVHP328PVT2をV五量体、HVLP335PTV2に置き換えた。細胞の対照実験において、同じ2個の組の実験を大腸菌TG1細胞で繰り返した。
単量体のヒトVの同定及び配列分析
ヒトVファージディスプレイライブラリから可溶性のVを単離するために用いられた本質的に同じ選択方法を、可溶性で単量体のVを単離するためにヒトVライブラリに適用した。大きさが3×10であるヒトVライブラリを構築した。ライブラリタイタープレートから24個のプラークを選別し、これらのV遺伝子をPCR及びシークエンシングした。配列は、生殖細胞系起源に関して異なるが、Vの75%はVλ起源であった(データ図示せず)。プロテインLに対する3回のパンニングによって、大きいプラークにおける富化がもたらされた。39個の大きいプラークをシークエンシングして、32個の特殊な配列を同定した(図6)。HVLP325、HVLP335及びHVLP351はそれぞれ、3、4及び2の頻度で起こった。λクラス(サブグループVλ1、生殖細胞系1b)であるHVLP389を除いて、残りの31個のVはVκクラスに属していた。31個のκVの中で、24個はVκIIIサブグループに含まれ、7個はVκ1サブグループに含まれていた。24個のVκIII配列の16個は、残りの利用されるA27、L2及びL6生殖細胞系配列を有するL6生殖細胞系配列を利用する。Vκ1サブグループのVはO2/O12又はA30生殖細胞系配列に由来する。顕著な突然変異は96位で起こった。この位置での生殖細胞系アミノ酸は芳香族及び疎水性アミノ酸、κVに対するTrp、Phe、Tyr、Leu又はIle、及びλVに対するTyr、Val又はAlaである。しかし、κVの選択プールにおける31個の中の5個だけが96位でこれらの生殖細胞系アミノ酸を有している:HVLP325、HVLP349、HVLP388、HVLP3109及びHVLP393。96位での21個のアミノ酸を帯電させ、この中の20個が正に帯電する:Arg、Lys又はHis。2個のアミノ酸はPro、1個はGln、1個はSer、及び1個はThrである。単量体化のためにゲルろ過クロマトグラフィで分析された7個のκVの中で96位がArg又はLysである6個が単量体であった一方で、96位が生殖細胞系アミノ酸LeuであるHVLP325が凝集体を形成した(以下を参照のこと)。同様に、λクラスであり、且つSerに対する生殖細胞系突然変異を有していたHVLP389も単量体であった(以下を参照のこと)。これらのデータは単量体化等のVの生物物理学的特性が改良された96位での生殖細胞系アミノ酸からの偏差に相関がある(32個の中の27個)。
【0058】
κクラスの18個のVは、λVでのみ見出されるアミノ酸Thr、Val及びLeuに置き換えられたこれらの最後の3残基(105〜107)を有していた。これらの置
換はκVの生物物理学的特性を改良する役割を果たしている可能性があり、これにより105〜107位の元のκ残基を有する親クローンを超えた上記のVの選択がもたらされる。
ヒトVの特徴付け
異なるV生殖細胞系起源を有する選択Vの中の8個は、培養液1L中の大腸菌で発現し、精製された:HVLP324、HVLP325、HVLP335、HVLP342、HVLP351、HVLP364、HVLP389及びHVLP3103(第6表)。全てがHVLP324に対する6.2mgからHVLP335及びHVLP364に対する約75mgまでに及ぶ良好な収率で発現した。
【0059】
ゲルろ過クロマトグラフィによるこれらのオリゴマー化状態に関するヒトVの凝集傾向を評価した。Vを0.6mg/mlの濃度でSuperdex75ゲルろ過クロマトグラフィにかけた。HVLP325を除いた全てが凝集体を本質的に含んでおらず、平均見掛けの分子質量が12.7kDa(範囲、6.2〜19.2kDa)である対称の単一ピークを得た(図7A及び第3表)。これは単量体のVに関する期待分子質量(13.4〜13.8kDa)と一致している。単一ドメインの抗体に関する見掛けの分子質量の変動はこれまでに報告されている(Jespers, L. et al., 2004a; Stevens, F. J. et al.,
1980)。HVLP325に関して、凝集体が全タンパク質(凝集体+単量体)の11%を構成していた。HVLP351、HVLP342、HVLP335及びHVLP3103は、これらの利用可能な最も高い濃度、すなわちそれぞれ、0.89mg/ml、1.0mg/ml、4.9mg/ml及び5.9mg/mlで試験した場合、依然として単量体であった(図7B)。
【0060】
BIACORE分析前に、VをSuperdex−75クロマトグラフィにかけて、物質の凝集に何ら確証がなかったとしても精製した単量体のピークを回収した。SPR分析において、全ての選択されたVは、プロテインLと結合した(図8)。VがプロテインLに対するパンニングによって単離されたので、このことは予想外のことではなかった。全てに関して、プロテインLとの結合のKは、0.6〜3μMであった(第3表)。HVLP324及びHVLP342はKがそれぞれさらに10nM及び40nM小さかった。VκIサブグループのVのプロテインLとの低い親和性及び高い親和性の結合が、これまでに報告されている(参考文献)。HVLP324及びHVLP342の両方がVκIサブグループに属している(第3表)。予想通りに、速度論データ及び平衡データは、実際に単量体である単量体ピークと一致していた。
五量体の結合分析
表面プラズモン共鳴によって、HVHP328PVT2五量体のプロテインAとの結合及びHVLP335PTV2五量体のプロテインLとの結合を測定した(図9)。会合速度をkobs対濃度のプロットから独立して算出した。五量体の集合の間の多価結合における不均一性によって、1を超えた解離速度(k)を算出することができる。したがって、1を超えた平衡解離定数(K)を得ることができる。HVHP328PTV2及びHVLP335PTV2はそれぞれ、2nM及び200pMの最小Kを有していた(第4表)。kがより遅い場合、HVHP328PTV2及びHVLP335PTV2はそれぞれ、900pM及び90pMまで低いKを有していた。
及びVによる病原菌検出
のプロテインA結合活性及びVのプロテインL結合活性を使用して、これらの表面上にプロテインA及び/又はプロテインLを有する細菌を検出することができる。本明細書中のV及びV等のV及びVが可溶性であり、且つ単量体である(凝集傾向が失われている)場合、このことは可能である。ラクダ科の重鎖抗体又はナースシャーク及びテンジクザメのIgNAR等の軽鎖が欠失した抗体由来の可変ドメインは、自然発生的に可溶性且つ単量体である。このことから、プロテインA結合活性及びプロテインL結合活性を有するものを使用して、これらの表面上にプロテインA及び/又はプロテインLを
有する細菌を検出することもできる。プロテインAは、病原菌である黄色ブドウ球菌の表面上に存在する。このように、本明細書中に記載のもの等のプロテインA結合活性のあるVを使用して、黄色ブドウ球菌を検出することができる。本発明者らは微小凝集アッセイを行い、HVHP328PVT2 V五量体の黄色ブドウ球菌と結合する能力を検出した。マイクロタイターウェル(ウェル1〜ウェル11)において2倍希釈したHVHP328PVT2で一定数の細菌細胞をインキュベートした(図10)。ウェル12は五量体の代わりに緩衝液を含んでいた。Vが細菌細胞と結合する場合、したがってその多量体の性質により、五量体は細胞を架橋し、その結果、細胞凝集をもたらすことが可能であるはずである。凝集細胞がマイクロタイターウェルにおける拡散細胞として現れる(図10)。何の結合もなければ、凝集は起こるはずがなく、したがって凝集体は存在せず、細胞はウェルの底部に点として現れる。図10で示されるように、細胞の凝集体が存在するので、五量体は黄色ブドウ球菌と結合する。凝集体は最大ウェル7まで観察される。ウェル7より先は、五量体の濃度が結合するには低すぎるので、凝集体は存在しない。対照のV五量体は、全く凝集を示さず、これによりV五量体の黄色ブドウ球菌に対する特異性が実証される(図10)。予想通りV五量体が大腸菌(TG1株)又はサルモネラ細胞を凝集させないので、結合は細胞特異的でもある(データは示さず)。同様に、これらの細胞表面上にプロテインLを有する細菌、特にペプトストレプトコッカス属マグヌス等の病原菌の検出にプロテインL結合活性を有するV単量体及びV五量体を使用することができる。
【0061】
上記で記載の実施例は、本発明の実際の範囲を限定する役割を果たすものでは決してなく、むしろ例示目的のために表されていることが理解される。
参考文献リスト
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】選択された実施例の結果(可溶性V(HVHP428)を示すファージと不溶性V(BT32/A6)を示すファージとの間のプラークサイズの対比)の図的記述を示す。この写真はプラークの可視化を高めるために拡大した細菌層の寒天プレートの一部を示す。プレートは、それぞれ同じ数の2個のプラーク型を含んでいたが、この写真は基本的に大きいHVHP428プラークを含んでいる。BT32/A6プラークの大多数は小さすぎて写真において鮮明ではっきりした画像を得ることができなかった。矢印で示されたプラークは、この画像で可視化させるのに十分大きかった小さい割合のBT32/A6ファージを示している。アスタリスクは、HVHP428ファージの代表的なプラークサイズを示す。プラークの同一性は、DNAシークエンシングによって決定された。
図2】プロテインAに対する親和性及びプラークサイズに基づき選択されたヒトVのアミノ酸配列。入力配列(sequence entries)の点は、HVHP2M10又はHVHP44とアミノ酸が同一であることを示す。ダッシュ記号は配列アラインメントのために含まれている。鍵となる可溶性部分の残基及びプロテインA結合特性を有するV/VHに関連する57T残基は太字である。カバットナンバリングシステムを使用する。「頻度」の値の総計は114である。CDRは相補性決定領域であり、FRはフレームワーク領域であり、gln seqは生殖細胞系の配列である。
図3A】ヒトVの凝集傾向。ゲルろ過クロマトグラムによって、この研究で単離したヒトV(HVHP428)のオリゴマー化状態をラマVH(H11C7)及び典型的なヒトV(BT32/A6)のものと比較する。それぞれのクロマトグラムの最後に溶離したピークは単量体のVに対応する。二量体のH11C7のピークは矢印によって示される。
図3B】(i)800MHzでのHVHP414、(ii)500MHzのHVHP423、及び800MHzのHVHP428の一次元のH NMRスペクトル。左側のパネルのスペクトルは、低強度のシグナルのより良好な視覚化を可能にするように2倍に拡大されている。
図4A】37℃でのトリプシンに対する耐性及び37℃での長期のインキュベート後の完全性に関するヒトVの安定性。21kDaのマーカーに対して未処理のHVHP414Vと15、30及び60分でトリプシン処理したHVHP414Vとの移動度を比較するSDS−PAGE。HVHP414−cMycは、c−Mycを欠失したHVHP414Vを示す。
図4B】37℃でのトリプシンに対する耐性及び37℃での長期のインキュベート後の完全性に関するヒトVの安定性。未処理のHVHP414V及びトリプシン処理(60分)HVHP414Vの質量分析法によって得られた分子質量プロファイル。処理済Vの質量分析プロファイルを未処理のVのものの上に重ねて、より良好な視覚的比較を行う。未処理のVの実験の分子質量は、14967.6Daであり、これは期待分子質量14967.7Daとほぼ同一である。トリプシン処理したVで観察された分子質量(13368.5Da)は、c−MycタグにおけるK(Lys)での切断によるC末端での13アミノ酸の欠失を示し、期待分子質量13368.0Daを与える。トリプシン切断部位は、HVHP414のアミノ酸配列上の垂直な矢印によって示される。
図4C】37℃でのトリプシンに対する耐性及び37℃での長期のインキュベート後の完全性に関するヒトVの安定性。37℃で処理したHVHP420Vのオリゴマー化状態(上方のプロファイル)と未処理のV(下方のプロファイル)のものとの比較をするゲルろ過クロマトグラム。重ねるとクロマトグラムが区別できないので、このクロマトグラムを垂直に移動させた。それぞれのクロマトグラムの主なピーク及び微小ピークは、それぞれ単量体のV及び二量体のVに対応する。二量体のVは、全タンパク質の3%を構成する。挿入図は、様々な濃度でのプロテインAとの37℃で処理したHVHP420の結合に関するセンサーグラムオーバーレイを示す。温度安定性試験に使用されるVは、既に4℃で数ヶ月間調製したストック由来であった。
図5】天然HVHP423(太線)及びリフォールディングしたHVHP423(細線)の75、100、150及び200nMの濃度で固定化されたプロテインAとの結合を示すセンサーグラムオーバーレイ。Kn及びKrefがそれぞれのセンサーグラムから算出され、以下で記載のようにREを求めるのに使用した。
図6】プロテインLに対する親和性及びプラークサイズに基づき選択されたヒトVのアミノ酸配列。入力配列における点は、HVLP333とアミノ酸が同一であることを示す。ダッシュ記号は配列アラインメントのために含まれる。配列ナンバリング及びCDR指定に関するV BASE(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/index.php?module=pagemaster&PAGE_user_op=view_page&PAGE_id=7&MMN_position=5:5)を参照されたい。L6、A27、L2、L16、O2/O12、A30及び1bは、V生殖細胞系設計である。J生殖細胞系設計は括弧内である。NFは見当たらない。
図7A】ヒトVドメインのサイズ排除クロマトグラム。Vを0.6mg/mlの濃度で添加した。「#」及び「」は、それぞれ凝集体及び単量体のピークを示す。凝集体は排除体積で溶出する。
図7B】ヒトVドメインのサイズ排除クロマトグラム。Vを利用可能な最も高い濃度(1.0mg/mlのHVLP342、5.9mg/mlのHVLP3103、4.9mg/mlのHVLP335、0.89mg/mlのHVLP351)で適用した。「#」及び「」は、それぞれ凝集体及び単量体のピークを示す。凝集体は排除体積で溶出する。HVLP342パネルにおける矢印で示されたピークは、前の測定からのキャリーオーバーである。
図8】0.2、0.5、0.75、1、2、3、5及び10μM(HVLP389、HVLP351及びHVLP364);1、2、3、5、7.5及び10nM(HVLP342);0.2、0.5、1、2、3、5及び10μM(HVLP335);0.2、0.5、1、1.5、2及び5μM(HVLP325);0.2、0.5、0.75、1、1.5、2、3及び5μM(HVLP3103);並びに1、2、3、4、5及び6nM(HVLP324)の濃度で固定化されたプロテインLとのVの結合を示すセンサーグラムオーバーレイ。プロテインLの低親和性部位と結合するHVLP324及びHVLP342に関するセンサーグラムは含まれないが、算出されたKは第3表に記録される。
図9A】表面プラズモン共鳴実験におけるプロテインAとHVHP328PTV2との結合を示す図である。1、2、3、4、6、8及び10nMの濃度で固定化したプロテインAとHVH28PTV2との結合を示すセンサーグラムオーバーレイ。結合データは第4表に記録される。
図9B】表面プラズモン共鳴実験におけるプロテインLとHVLP335PTV2との結合を示す図である。1、2、2.5、3、3.5、4及び4.5nMの濃度で固定化したプロテインLとHVH335PTV2との結合を示すセンサーグラムオーバーレイ。結合データは第4表に記録される。
図10】黄色ブドウ球菌による微小凝集実験の結果を示す図である。五量体の濃度は、ウェル1からウェル11まで2分の1ずつに減少し、ウェル12は五量体がPBS緩衝液で置き換えられている。上の行のウェルはHVHP328PTV2五量体を含み、下の行はHVLP335PTV2五量体を含む。ウェル1〜6の五量体の濃度はそれぞれ、215、108、54、27、13及び7μg/mlである。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]