特許第5731965号(P5731965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731965
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】高周波加温バルーンカテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20150521BHJP
【FI】
   A61M25/10 510
   A61M25/10 540
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-285978(P2011-285978)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-132479(P2013-132479A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2013年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】513000333
【氏名又は名称】有限会社日本エレクテル
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100125081
【弁理士】
【氏名又は名称】小合 宗一
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 修太郎
【審査官】 姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−240004(JP,A)
【文献】 特表2001−500036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いにスライド可能な外筒シャフトと内筒シャフトの各遠位端間にバルーンが設置され、
前記バルーンの内部には、加温のために高周波が通電される電極と、温度を検出する温度センサーが設置され、
バルーンカテーテルの先端部近傍には、前記バルーンの内部に振動を与える振動発生器が設置され、
前記振動発生器が、前記電極方向にのみ開口する円筒と、前記円筒内に設けられた振動発生器本体と、前記円筒内の前記開口側に設けられ、前記振動発生器本体の振動を前記バルーンの内液に伝達する振動板とを備え、
前記外筒シャフトと前記内筒シャフトとにより構成されるカテーテルシャフト内には、前記電極に接続する高周波通電用送電線と、前記温度センサーに接続する温度センサー用導線と、前記振動発生器に接続する振動発生器用通電線と、前記バルーンの内部に通じる送液路が設けられ、
前記高周波通電用送電線,前記温度センサー用導線,前記振動発生器用通電線および前記送液路が、外部の高周波発生器,温度計,振動発生器用電源およびバルーン内液注入器とそれぞれ接続することを特徴とする高周波加温バルーンカテーテル。
【請求項2】
前記振動発生器本体が、前記円筒内に固定された永久磁石と、前記永久磁石の内側に配置された可動コイルとを備え、電磁力により生じる前記可動コイルの振動を前記振動板により前記バルーン内に伝達する構成としたことを特徴とする請求項1記載の高周波加温バルーンカテーテル。
【請求項3】
前記振動発生器本体が、前記円筒内に固定された永久磁石と、前記永久磁石の内側に配置された可動金属リボンとを備え、電磁力により生じる前記可動金属リボンの振動を前記振動板により前記バルーン内に伝達する構成としたことを特徴とする請求項1記載の高周波加温バルーンカテーテル。
【請求項4】
前記振動発生器本体が、前記円筒内の内側に2枚の金属板を配置してなるコンデンサーを備え、前記振動発生器用電源から印加される直流電圧によって前記コンデンサーの静電容量を変化させ、前記静電容量の変化によって前記金属板間で生じる振動を、前記振動板により前記バルーン内に伝達する構成としたことを特徴とする請求項1記載の高周波加温バルーンカテーテル。
【請求項5】
前記金属板の片方がエレクトレット素子であることを特徴とする請求項4記載の高周波加温バルーンカテーテル。
【請求項6】
前記振動発生器本体が、前記円筒内に配置された圧電素子を備え、前記圧電素子の振動を前記振動板によりバルーン内に伝達する構成としたことを特徴とする請求項1記載の高周波加温バルーンカテーテル。
【請求項7】
前記電極に高周波電力を供給する高周波成分に対し、前記振動発生器に低周波電力を供給する低周波成分を変調または重畳して送電する構成としたことを特徴とする請求項1記載の高周波加温バルーンカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓疾患、循環器疾患などを治療するために用いられる高周波加温バルーンカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高周波加温バルーンカテーテルにおいて、バルーンを加温すると、対流熱によりバルーン上下間に温度格差が生じるため、不均一な焼灼効果となる。
【0003】
そのため、従来の高周波加温バルーンカテーテルでは、バルーン温度を均一化するために、外部の振動発生器から、シャフトルーメンを介してバルーンの内液に振動波を送り込み、バルーン内の撹拌を行っていた(例えば特許文献1、および本願の出願人による特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−111848号公報
【特許文献2】特開2005−177293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような従来の高周波加温バルーンカテーテルの構造では、標的組織まで達するカテーテルシャフトが細くて、長くて、蛇行しているときには、振動波がカテーテルシャフト内で減衰してしまい、十分な振動エネルギーをバルーン内まで送り込めない、という欠点がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点にかんがみ、バルーン内の内液を撹拌し、バルーン内の対流熱による上下間の温度格差を確実に解消することができる高周波加温バルーンカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、互いにスライド可能な外筒シャフトと内筒シャフトの各遠位端間にバルーンが設置され、前記バルーンの内部には、加温のために高周波が通電される電極と、温度を検出する温度センサーが設置され、バルーンカテーテルの先端部近傍には、前記バルーンの内部に振動を与える振動発生器が設置され、前記振動発生器が、前記電極方向にのみ開口する円筒と、前記円筒内に設けられた振動発生器本体と、前記円筒内の前記開口側に設けられ、前記振動発生器本体の振動を前記バルーンの内液に伝達する振動板とを備え、前記外筒シャフトと前記内筒シャフトとにより構成されるカテーテルシャフト内には、前記電極に接続する高周波通電用送電線と、前記温度センサーに接続する温度センサー用導線と、前記振動発生器に接続する振動発生器用通電線と、前記バルーンの内部に通じる送液路が設けられ、前記高周波通電用送電線,前記温度センサー用導線,前記振動発生器用通電線および前記送液路が、外部の高周波発生器,温度計,振動発生器用電源およびバルーン内液注入器とそれぞれ接続することを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1記載の高周波加温バルーンカテーテルにおいて、前記振動発生器本体が、前記円筒内に固定された永久磁石と、前記永久磁石の内側に配置された可動コイルとを備え、電磁力により生じる前記可動コイルの振動を前記振動板により前記バルーン内に伝達する構成としたことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1記載の高周波加温バルーンカテーテルにおいて、前記振動発生器本体が、前記円筒内に固定された永久磁石と、前記永久磁石の内側に配置された可動金属リボンとを備え、電磁力により生じる前記可動金属リボンの振動を前記振動板により前記バルーン内に伝達する構成としたことを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1記載の高周波加温バルーンカテーテルにおいて、前記振動発生器本体が、前記円筒内の内側に2枚の金属板を配置してなるコンデンサーを備え、前記振動発生器用電源から印加される直流電圧によって前記コンデンサーの静電容量を変化させ、前記静電容量の変化によって前記金属板間で生じる振動を、前記振動板により前記バルーン内に伝達する構成としたことを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項4記載の高周波加温バルーンカテーテルにおいて、前記金属板の片方がエレクトレット素子であることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1記載の高周波加温バルーンカテーテルにおいて、前記振動発生器本体が、前記円筒内に配置された圧電素子を備え、前記圧電素子の振動を前記振動板によりバルーン内に伝達する構成としたことを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明は、請求項1記載の高周波加温バルーンカテーテルにおいて、前記電極に高周波電力を供給する高周波成分に対し、前記振動発生器に低周波電力を供給する低周波成分を変調または重畳して送電する構成としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明では、バルーンカテーテル先端部近傍の振動発生器が直接バルーン内に振動を与えることによって、カテーテルシャフトが細くてもまた長くても、バルーンの内液を十分に撹拌できる。また、バルーンが重力に対していかなる位置にあっても、バルーン内の対流熱による上下間温度格差が解消し、バルーンの温度が均一化されるため、バルーンと接触する標的組織を均一に加温することができる。
【0015】
請求項2の発明では、電磁力により生ずる可動コイルの振動が振動板を介してバルーン内に伝わり、バルーンの内液を十分に撹拌することができる。
【0016】
請求項3の発明では、電磁力により生ずる可動金属リボンの振動が振動板を介してバルーン内に伝わり、バルーン内液を撹拌することができる。
【0017】
請求項4の発明では、コンデンサーの静電容量が印加される直流電圧によって変化し、その静電容量の変化によって金属板が移動して金属板間の距離が変化する。その金属板の移動によって発生する振動が振動板を介してバルーン内に伝わり、バルーン内液を十分に撹拌することができる。また、永久磁石を必要としないため、振動発生器の構造を単純化、小型化することができる。さらに、比較的高周波においても動作可能となる。
【0018】
請求項5の発明では、エレクトレット素子が半永久的に電荷を蓄える性質を有するため、小さな電力で効率良く振動を発生させることができる。
【0019】
請求項6の発明では、印加される電圧によって圧電素子がピエゾ効果による振動を発生し、その振動が振動板を介して、バルーン内に伝わり、バルーン内液を十分に撹拌することができる。
【0020】
請求子7の発明では、高周波通電用電極に供給する高周波成分の電力と、振動発生器に供給する低周波成分の電力をまとめて送電することができるため、カテーテルシャフト内の通電線を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施例における高周波加温バルーンカテーテルシステムの全体構成を示す図である。
図2】同上、振動発生器を備えたバルーン部分を示す斜視図であり、バルーンの中心軸が水平方向となる場合の使用状態を示す図である。
図3】同上、振動発生器を備えたバルーン部分を示す斜視図であり、バルーンの中心軸が鉛直方向となる場合の使用状態を示す図である。
図4】本発明の高周波加温バルーンカテーテルシステムを胆管狭窄部の拡張に適用した場合の使用状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明で提案する高周波加温バルーンカテーテルについて、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
本実施例の高周波加温バルーンカテーテルシステムを示す図1図3において、1は管腔臓器内に挿入可能な柔軟性に富む筒状のカテーテルシャフトであって、このカテーテルシャフト1は、互いに前後方向にスライド可能に構成された外筒シャフト2と内筒シャフト3とから構成されている。そして、外筒シャフト2の先端部4と内筒シャフト3の先端部5近傍との間には、バルーン6が設けられている。バルーン6は、ポリウレタンなどの合成樹脂から形成されており、内部に液体が充填されることによって略球形に膨らむようになっている。
【0024】
バルーン6の内部において、バルーン6の中心部には、バルーン6の内部を加熱するための高周波通電用電極7が内筒シャフト3にコイル状に巻回されて設けられている。高周波通電用電極7は単極構造であって、カテーテルシャフト1の外部に設けられた図示しない対極板との間で高周波通電を行うように構成されている。そして、高周波通電することによって、高周波通電用電極7が発熱するようになっている。なお、高周波通電用電極7を双極構造として、両極間にて高周波通電を行うように構成してもよい。
【0025】
また、バルーン6の内部において、内筒シャフト3の基端部側には、高周波通電用電極7近傍の温度を検知するための温度センサー8が固定されている。なお、本実施例では図示しないが、当該温度センサー8の他に、バルーン6の内部温度を検知する別な温度センサーを、内筒シャフト3の先端部側に固定してもよい。こうした別な温度センサーの詳細については、本願の出願人による特開2010―240004号公報を参照されたい。
【0026】
内筒シャフト3の先端側、すなわちバルーン6の先端側において、振動発生器10が内筒シャフト3と同軸上に設けられている。
【0027】
外筒シャフト2と内筒シャフト3との間には、バルーン6の内部に通じる送液路11が形成されている。また、バルーン6を標的部位に誘導するためのガイドワイアー12が内筒シャフト3を挿通して設けられている。以上が、高周波加温バルーンカテーテルとしての構成である。
【0028】
さらに、高周波加温バルーンカテーテルシステムとして、カテーテルシャフト1の外部には、温度センサー8により検知された温度を監視して表示部33に表示しつつ、高周波通電用電極7にバルーン6を加温するための高周波エネルギーを供給する温度計付きの高周波発生装置31と、振動発生器10に低周波エネルギーを供給する振動発生器用電源21と、が設けられている。高周波発生装置31は、内蔵する温度計で測定された温度情報を逐次取り込んで、高周波通電用電極7に供給する高周波電流のエネルギーを決定する構成となっている。また、このような構成を実現するために、高周波通電用電極7および温度センサー8は、高周波発生装置31とそれぞれリード線34,35により電気的に接続されている。振動発生器10(後述の可動コイル13の他端)は、振動発生器用電源21とリード線36により電気的に接続されている。そして、内筒シャフト3の先端部5と基端部9の間において、リード線34,35,36はいずれも内筒シャフト3に固定されている。
【0029】
さらに、カテーテルシャフト1の外部には、送液路11を通じてバルーン6に液体を供給する液体注入器としてのシリンジ41を備え、このシリンジ41によってバルーン6に供給される液体の圧力を変化させることにより、バルーン6の直径が変化するように構成されている。また、渦流Sによって、バルーン6の内部の液体が撹拌されてバルーン6の内部の温度が均一に保たれるようになっている。
【0030】
なお、本実施例において、バルーン6の内部を加熱するために、内筒シャフト3の先端部5近傍に固定された高周波通電用電極7を用いているが、バルーン6の内部を加熱できる加熱手段であれば、特定のものに限定されない。例えば、高周波通電用電極7と高周波発生装置31の代わりに、超音波発熱体と超音波発生装置、レーザー発熱体とレーザー発生装置、ダイオード発熱体とダイオード電源供給装置、ニクロム線発熱体とニクロム線電源供給装置の何れかを用いることができる。
【0031】
また、バルーン6はその内部を加熱する際に、熱変形などを起こさずに耐え得る耐熱性レジン(樹脂)で構成される。バルーン6の形状は、短軸と長軸が等しい球形の他に、例えば短軸を回転軸とした扁球や、長軸を回転軸とした長球や、俵型などの各種回転体とすることができるが、どのような形状であっても、管腔内壁に密着した場合に容易に変形する弾性部材で形成される。
【0032】
図2は、内筒シャフト3が挿通するバルーン6の中心軸が、水平方向として使用された場合の要部詳細を示している。同図において、振動発生器10は、内筒シャフト3の先端側たる一端側に固定板16を備え、他端に開口部を有する中空状の円筒18と、その円筒18の内側面の少なくとも一部に沿って固定されたリング形状の永久磁石15と、永久磁石15の内側において一端側の少なくとも一部が永久磁石15に覆われるように配置され、内筒シャフト3に対して同心円状に形成された可動コイル13と、その可動コイル13の他端に接続され、内筒シャフト3を中心軸としてバルーン6内に配置した高周波通電用電極7の方向に摺動可能に設けられた振動板17と、一端が永久磁石15に接続され、他端が可動コイル13に接続された弾性部材たるバネ14とを備えて構成される。この場合、前記永久磁石15と可動コイル13とにより振動発生器本体を構成している。
【0033】
本実施例では、永久磁石15と可動コイル13について、いわゆる外磁型ダイナミックスピーカーと同様な構成としており、リング形状の永久磁石15の一端側をN極とし、他端側をS極としている。したがって、永久磁石15から生じる磁束は、一端側のN極から出て、円形の可動コイル13と鎖交し、他端側のS極に到達して磁気回路を形成する。
【0034】
上記構成において、まず振動発生器用電源21によりリード線36を介して振動発生器10の可動コイル13に低周波の電流が流れると、その電流と上述の永久磁石15からの磁束が相互作用し、電磁力によって可動コイル13が内筒シャフト3の軸方向に振動する。その振動は、振動板17を介してバルーン6に満たされた内液を押圧または減圧し、振動波Wが発生する。振動発生器10から発した振動波Wのパルス波のベクトルは重力により下方向に曲げられ、バルーン6内で重力に平行な渦流Sを発生する。図2のようにバルーン6の中心軸が水平方向として使用された場合、バルーン6内には渦流Sが一個出現し、対流によるバルーン6内の上下の温度格差を解消する。一方、図3のようにバルーン6の中心軸が鉛直方向となるように配置された場合、バルーン6内に2個の渦流Sが出現し、この場合も対流によるバルーン6内の上下温度格差を解消する。したがって、バルーン6が重力に対していかなる位置をとろうとも、バルーン6内を渦流Sにより撹拌して温度均一化することができる。
【0035】
なお、振動波Wの振幅は、円筒18の筒の直径、すなわち口径を変えたり、高周波電流の大きさを変えたりすることにより自在に調節することができる。振動波Wの周期は、振動発生器用電源21の周波数により自在に調節することができる。
【0036】
つぎに、本実施例の高周波加温バルーンカテーテルシステムの使用方法について説明する。
【0037】
はじめに、送液路11およびバルーン6の内部は、生理食塩水や造影剤などの液体をシリンジ41から注入してエアー抜きを行う。そして、外筒シャフト2の先端部4と内筒シャフト3の先端部5との距離が最大になるように、外筒シャフト2と内筒シャフト3を相互にスライドさせた状態で、バルーン6を収縮させる。
【0038】
ガイドワイアー12を用いて、カテーテルシャフト1を導入するための鞘状のガイヂングシース(図示せず)を、患者体内の標的部位の近くに挿入する。そして、ガイヂングシースの中に前述の収縮したバルーン6を挿入し、バルーン6を標的部位近傍に留置する。
【0039】
つぎに、シリンジ41より液体を注入してバルーン6を拡張させる。ここで、外筒シャフト2の先端部4と内筒シャフト3の先端部5との距離を調整することにより、バルーン6の長さを調整し、シリンジ41によってバルーン6に供給される液体の圧力を調整することにより、バルーン6の直径を調整する。そして、標的部位にバルーン6を押し当てる。
【0040】
つづいて、内筒シャフト3の基端部9から、高周波通電用電極7に接続されたリード線34と、温度センサー8に接続されたリード線34,35を、それぞれ高周波発生器31に接続し、振動発生器10を構成する可動コイル13の他端に接続されたリード線36を、振動発生器用電源21に接続する。そして、温度センサー8で検知されたバルーン6内の温度を、振動発生器用電源21に設けられた表示部33で確認しながら、高周波発生器31の出力を上げていく。そして、この高周波発生器31からの高周波電流が高周波通電用電極7を流れることによりジュール熱が発生し、バルーン6の内液の温度が上昇する。
【0041】
それと共に、振動発生器用電源21から低周波の電流を振動発生器10の可動コイル13に流すと、上述のように可動コイル13を流れる電流と永久磁石15によって可動コイル13に鎖交する磁束とが相互作用し、バネ14の弾性を利用して可動コイル13が振動する。その振動は、振動板17を介してバルーン6の内液に伝搬し、振動波Wを発生する。この振動波Wによってバルーン6内は撹拌され、バルーン6の温度は均一化する。そして、バルーン6の表面温度と通電時間を調整しながら、バルーン6が接触する標的部位をアブレーションする。
【0042】
つぎに、このような高周波加温バルーンカテーテルシステムを胆管狭窄部の拡張に使用した場合について、図4を参照しながら説明する。
【0043】
まず、図示しない内視鏡を用いて、ガイドワイアー12を食道,胃そして十二指腸を経由して胆管内に挿入する。そのガイドワイアー12を介して、収縮させたバルーン6を胆管内に挿入し、標的部位となる患部狭窄部に誘導する。バルーン6内の送液路11につながる液体注入器であるシリンジ41を用いて、バルーン6を生理食塩水と造影剤の混合液にて拡張し、高周波発生器31を利用して高周波通電用電極7への高周波通電を開始する。同時に、振動発生器用電源21のスイッチをONにして、バルーン6のネック部に設けた振動発生器10に所定の電力を供給し、バルーン6内の撹拌を開始する。表示部33により、温度センサー8により検知されるバルーン6内温度が至適温度に達したら、シリンジ41を動作させてバルーン6の内圧を高め、狭窄部を拡張する。狭窄部が拡張されたら、高周波通電用電極7への高周波通電をやめ、バルーン6内の温度が下がるのを待ってから、バルーン6の内液を吸引してバルーン6を収縮させ、カテーテルシャフト1とガイドワイアー12を抜去する。
【0044】
ところで、従来の高周波加温バルーンカテーテルでは、単にバルーン内部を加温しても対流によるバルーン上下間に温度格差が生じ、不均一な焼灼効果となることから、カテーテルシャフトの外部に設けた振動発生器を振動源として、そこからバルーンカテーテルシャフトを介して振動波を送り、バルーン内の液体を撹拌して、温度の均一化を図る方法が採られていた。これは、本願出願人が特許として既に取得している。
【0045】
この方法は、振動発生器から標的組織までの距離が長く、蛇行し、其の内径が細い場合には、カテーテルシャフトを介してバルーン内を撹拌するだけの振動波を送ることができない欠点がある。そこで本実施例では、カテーテルシャフト1が細くて、長くて、蛇行してもバルーン6内の振動撹拌を確保するように、細い送電線(リード線36)で駆動できる各種の振動発生器10を、内筒シャフト3の遠位端内に設置している。
【0046】
これにより、カテーテルシャフト1が細くてもまた長くても、十分なバルーン6内部の撹拌が得られ、バルーン6表面に接する標的部位に対する均一な焼灼効果を得ることができる。
【0047】
また前述のように、シャフト6内の振動発生器10から発したパルス波のベクトル(振動波W)は、重力により下方向に曲げられ、バルーン6内で重力に平行な渦流Sを発生し、対流による温度格差を解消する。これは、バルーン6の中心軸が重力に対して水平に配置される時は、バルーン6内には渦流Sが一個出現し、対流による上下の温度格差を解消する(図2を参照)。バルーン6の中心軸が重力に対して垂直に配置される時は、バルーン6内に2個の渦流Sが出現し、この場合も上下温度格差を解消する(図3を参照)。つまり、バルーン6がいかなる位置であっても、バルーン6の内液を渦流Sにより撹拌して、バルーン6の温度の均一化を図ることができる。
【0048】
以上のように、本実施例の高周波加温バルーンカテーテルは、互いにスライド可能な外筒シャフト2と内筒シャフト3の各遠位端である先端部4,5間にバルーン6が設置され、バルーン6の内部には、加温のために高周波が通電される電極としての高周波通電用電極7と、温度を検出するための温度センサー8が設置され、高周波加温バルーンカテーテルの先端部近傍には、バルーン6の内部に振動を与える振動発生器10が設置され、外筒シャフト2と内筒シャフト3とにより構成されるカテーテルシャフト1内には、高周波通電用電極7に接続する高周波通電用送電線としてのリード線34と、温度センサー8に接続する温度センサー用導線としてのリード線35と、振動発生器10に接続する振動発生器用通電線としてのリード線36と、バルーン6の内部に通じる送液路11が設けられ、リード線34,35が、高周波加温バルーンカテーテルの外部に設けられ、温度計としての機能を兼用する高周波発生器としての高周波発生装置31に接続されると共に、他のリード線36と送液路11が、振動発生器用電源21とバルーン内液注入器としてのシリンジ41にそれぞれ接続する構成となっている。
【0049】
この場合、高周波加温バルーンカテーテルの先端部近傍に設けた振動発生器10が、直接バルーン6内に振動を与えることによって、カテーテルシャフト1が細くてもまた長くても、バルーン6の内液を十分に撹拌できる。また、バルーン6が重力に対していかなる位置にあっても、バルーン6内の対流熱による上下間温度格差が解消し、バルーン6の温度が均一化されるため、バルーン6と接触する標的組織を均一に加温することができる。
【0050】
また、上記実施例における振動発生器10は、高周波通電用電極7の方向にのみ開口する円筒18と、円筒18内に固定された永久磁石15と、永久磁石15の内側に配置された可動コイル13と、前記可動コイル13に接続され、永久磁石15との電磁力により生じる可動コイル13の振動を、バルーン6内に伝達する振動板17とを備えて構成されている。
【0051】
このように、振動発生器10として永久磁石15と可動コイル13との組み合わせを利用すれば、永久磁石15との電磁力により生ずる可動コイル13の振動が、振動板17を介してバルーン6内に伝わり、バルーン6の内液を十分に撹拌することができる。
【0052】
また別な例として、可動金属リボンを用いてもよい。これは、リボン型スピーカーの原理を応用したものである。この場合の振動発生器10は、高周波通電用電極7の方向にのみ開口する円筒18と、円筒18内に固定された永久磁石15と、永久磁石15の内側に配置された可動金属リボンと、可動金属リボンに接続され、永久磁石15との電磁力により生じる可動金属リボンの振動を、バルーン6内に伝達する振動板17とにより構成される。そして、前記永久磁石15と可動金属リボンとにより振動発生器本体を構成している。
【0053】
この場合、振動発生器10として永久磁石15と可動金属リボンとの組み合わせを利用して、永久磁石15との電磁力により生ずる可動金属リボンの振動が、振動板17を介してバルーン6内に伝わり、バルーン6の内液を十分に撹拌することができる。
【0054】
その他に、振動発生器10は、高周波通電用電極7の方向にのみ開口する円筒18と、その円筒18内の内側に2枚の金属板を配置してなるコンデンサーと、その金属板の一方に接続する振動板17とを備え、振動発生器用電源21から印加される直流電圧によってコンデンサーの静電容量を変化させ、静電容量の変化によって2枚の金属板間で生じる振動を、振動板17からバルーン6内に伝達する構成を採用してもよい。これは、静電型スピーカーの原理を応用したものである。そして、前記コンデンサーにより振動発生器本体を構成している。
【0055】
この場合、コンデンサーの静電容量が印加される直流電圧によって変化し、その静電容量の変化によって金属板が移動して金属板間の距離が変化する。その金属板の移動によって発生する振動が振動板17を介してバルーン6内に伝わり、バルーン6の内液を十分に撹拌することができる。また、永久磁石を必要としないため、振動発生器10の構造を単純化、小型化することができる。さらに、比較的高周波においても動作可能となる。
【0056】
また、上述の振動発生器10に2枚の金属板たるコンデンサーを用いた場合、その金属板の片方を半永久的に電荷を蓄える高分子化合物たるエレクトレット素子として構成することもできる。
【0057】
こうすれば、エレクトレット素子が半永久的に電荷を蓄える性質を有するため、小さな電力で効率良く振動を発生させることができる。
【0058】
さらに別な例として、振動発生器10は、高周波通電用電極7の方向にのみ開口する円筒18と、その円筒18内に配置された圧電素子と、その圧電素子と接続され、圧電素子の振動をバルーン6内に伝達する振動板17とを備えて構成することもできる。この場合、圧電素子により振動発生器本体を構成している。
【0059】
この場合、振動発生器10として永久磁石を用いず、圧電素子を利用することで、振動発生器用電源21から印加される印加される電圧によって、圧電素子がピエゾ効果による振動を発生し、その振動が振動板17を介してバルーン6内に伝わり、バルーン6の内液を十分に撹拌することができる。
【0060】
さらに、前記高周波通電用電極7に高周波電力を供給する高周波成分に対し、振動発生器10に低周波電力を供給する低周波成分を変調または重畳して、共通の送電線で送電する構成にすることもできる。
【0061】
この場合、高周波通電用電極7に供給する高周波成分の電力と、振動発生器10に供給する低周波成分の電力をまとめて送電することができるため、カテーテルシャフト1内の通電線を少なくすることができる。この場合、バルーン6の近傍において、まとめて送電された低周波数成分と高周波成分の電力を例えばフィルタリングによって分離して、高周波通電用電極7と振動発生器10にそれぞれ供給するフィルタ手段を備えるのが好ましい。
【0062】
なお本発明は、本実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えばバルーン6の形状は、上記実施例で示した球形に限定されず、治療部位に応じた種々の形状に形成してもよい。また、上記実施例の永久磁石15については、図示されたN極とS極をそれぞれ逆に配置しても良い。また、外磁型ではなく、いわゆる内磁型ダイナミックスピーカーと同様に構成し、可動コイル13の一端側から中心軸上に永久磁石15のN極が突き出して、円筒18の側面側にリング状に形成されたS極が配置されるようにしても良い。もちろん、中心軸上に突き出したN極とリング状のS極が固定板16側で結合して一体となっていることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0063】
1 カテーテルシャフト
2 外筒シャフト
3 内筒シャフト
4 外筒シャフトの先端部(遠位端)
5 内筒シャフトの先端部(遠位端)
6 バルーン
7 高周波通電用電極(電極)
8 温度センサー
9 内筒シャフトの基端部
10 振動発生器
11 送液路
12 ガイドワイアー
13 可動コイル(振動発生器本体)
15 永久磁石(振動発生器本体)
17 振動板
18 円筒
21 振動発生器用電源
31 高周波発生装置(高周波発生器,温度計)
34 リード線(高周波通電用送電線)
35 リード線(温度センサー用導線)
36 リード線(振動発生器用通電線)
41 シリンジ(バルーン内液注入器)
W 振動波
S 渦流
図1
図2
図3
図4