特許第5731972号(P5731972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5731972ヒドロキシルラジカル含有水供給方法、及び、ヒドロキシルラジカル含有水供給装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731972
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】ヒドロキシルラジカル含有水供給方法、及び、ヒドロキシルラジカル含有水供給装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/72 20060101AFI20150521BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C02F1/72 Z
   C02F1/50 531J
   C02F1/50 540B
   C02F1/50 550L
   C02F1/50 550H
   C02F1/50 531Q
   C02F1/50 531R
   C02F1/50 532C
   C02F1/50 550C
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-518449(P2011-518449)
(86)(22)【出願日】2010年6月1日
(86)【国際出願番号】JP2010059258
(87)【国際公開番号】WO2010140581
(87)【国際公開日】20101209
【審査請求日】2012年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2009-134231(P2009-134231)
(32)【優先日】2009年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-219178(P2009-219178)
(32)【優先日】2009年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-45453(P2010-45453)
(32)【優先日】2010年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 忠玄
(72)【発明者】
【氏名】塩見 元信
(72)【発明者】
【氏名】上野 晃裕
【審査官】 井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−294377(JP,A)
【文献】 特開2000−037695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00〜 1/78
B08B 3/00〜 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾンと、過酸化水素と、水溶性有機物、無機酸、前記無機酸の塩、及び、ヒドラジンからなる群より選択される少なくとも1種以上の添加物質とを純水に溶解させる際に、オゾンと過酸化水素との重量比が、オゾン≦過酸化水素となるように溶解させてヒドロキシルラジカル含有水を生成する生成工程と、
生成したヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントに移送する移送工程と、
移送後のヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントで供給する供給工程と
を含むことを特徴とするヒドロキシルラジカル含有水供給方法。
【請求項2】
前記生成工程は、オゾンと過酸化水素と添加物質との重量比が、オゾン:過酸化水素:添加物質=10〜40:10〜40:1〜4となるように溶解させてヒドロキシルラジカル含有水を生成する工程であることを特徴とする請求項1に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給方法。
【請求項3】
添加物質を1〜100ppmで溶解させることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給方法。
【請求項4】
添加物質は、水溶性有機物であり、
水溶性有機物のオゾン反応速度定数が10L/mol/sec以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給方法。
【請求項5】
水溶性有機物がイソプロパノールであることを特徴とする請求項4に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給方法。
【請求項6】
添加物質は、無機酸としての炭酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給方法。
【請求項7】
純水が電気抵抗率17MΩ・cm以上の超純水であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給方法。
【請求項8】
前記供給工程は、ヒドロキシルラジカル含有水を電子部品の、又は、その製造工程における洗浄液として供給する工程であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給方法。
【請求項9】
オゾンと、過酸化水素と、水溶性有機物、無機酸、前記無機酸の塩、及び、ヒドラジンからなる群より選択される少なくとも1種以上の添加物質とを純水に溶解させる際に、オゾンと過酸化水素との重量比が、オゾン≦過酸化水素となるように溶解させてヒドロキシルラジカル含有水を生成する生成手段と、
生成したヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントに移送する移送手段と、
移送後のヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントで供給する供給手段と
を備えたことを特徴とするヒドロキシルラジカル含有水供給装置。
【請求項10】
前記生成手段は、オゾンと過酸化水素と添加物質との重量比が、オゾン:過酸化水素:添加物質=10〜40:10〜40:1〜4となるように溶解させることを特徴とする請求項9に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給装置。
【請求項11】
前記生成手段は、添加物質を1〜100ppmで溶解させることを特徴とする請求項9又は10に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給装置。
【請求項12】
添加物質は、水溶性有機物であり、
水溶性有機物のオゾン反応速度定数が10L/mol/sec以下であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給装置。
【請求項13】
記水溶性有機物がイソプロパノールであることを特徴とする請求項12に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給装置。
【請求項14】
添加物質は、無機酸としての炭酸であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給装置。
【請求項15】
純水が電気抵抗率17MΩ・cm以上の超純水であることを特徴とする請求項9〜14のいずれか1に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給装置。
【請求項16】
前記供給手段は、ヒドロキシルラジカル含有水を電子部品の、又は、その製造工程における洗浄液として供給することを特徴とする請求項9〜15のいずれか1に記載のヒドロキシルラジカル含有水供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシルラジカル含有水供給方法、及び、ヒドロキシルラジカル含有水供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシルラジカルは、活性酸素種の中でも極めて酸化作用が強く、非常に多岐の有機化合物(汚染物質)と反応するため、ヒドロキシルラジカルを含有する水は、超純水中TOC分解除去やウェハ等の固体表面に付着した有機化合物を分解・除去するための洗浄液として有用であることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、還元性物質の存在下に、オゾン気泡含有水と被洗浄物とを接触させることを特徴とする洗浄方法において、ヒドロキシルラジカルが生成することが開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2では、オゾンを溶解した液体、またはオゾンガスをバブリングさせた液体中に被洗浄物を浸漬し、この浸漬した被洗浄物表面に紫外光を照射して洗浄することを特徴とする洗浄方法において、ヒドロキシルラジカルが生成することが開示されている。
【0005】
また、従来、オゾン分解抑制物質を存在させたオゾン水をユースポイントに移送し、ユースポイント近傍において濃度調整手段により所定のオゾン濃度に低下させた後、供給するオゾン水供給方法が存在する(例えば、特許文献3参照)。上記濃度調整手段は、溶存オゾンを分解する手段であり、具体的には、超音波照射、紫外線照射、乱流発生、撹拌、加温、アルカリ添加、過酸化水素添加等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−54767号公報
【特許文献2】特開平5−291221号公報
【特許文献3】特開2005−294377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の方法では、ヒドロキシルラジカルの生成量が少ないため、ヒドロキシルラジカルを比較的高効率で生成させることができる方法が求められていた。特に紫外光を用いる方法では、ヒドロキシルラジカルを高濃度に発生させるためには、大規模な紫外線照射設備または強力な紫外線ランプを導入する必要があるという問題があった。さらに、特許文献2のような、被洗浄物表面に直接紫外線を照射する方法は、いわゆる陰となる部分が生じてしまうという問題があった。
【0008】
また、特許文献3に記載のオゾン水供給方法では、移送中にオゾンが分解しないようにする目的で、オゾン分解抑制物質が添加されており、ヒドロキシルラジカル含有水を予め生成し、これを移送してユースポイントで供給することを目的としていない。また、特許文献3に記載のオゾン水供給方法において、ユースポイントごとに濃度調整手段が設けられているのは、予めヒドロキシルラジカルを生成しても、これを移送することができないという認識に基づくものであると考えられる。
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的高濃度のヒドロキシルラジカル含有水を簡便にユースポイントに供給することを可能とするヒドロキシルラジカル含有水供給方法、及び、ヒドロキシルラジカル含有水供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のような目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を行った結果、オゾンと、過酸化水素と、水溶性有機物等とを純水に溶解させると、ヒドロキシルラジカルを比較的高効率で生成することができ、しかも、その濃度を数分程度維持できることを見出し、これを利用することで本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のヒドロキシルラジカル含有水供給方法は、オゾンと、過酸化水素と、水溶性有機物、無機酸、上記無機酸の塩、及び、ヒドラジンからなる群より選択される少なくとも1種以上の添加物質とを純水に溶解させてヒドロキシルラジカル含有水を生成する生成工程と、生成したヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントに移送する移送工程と、移送後のヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントで供給する供給工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、オゾンと、過酸化水素と、水溶性有機物、無機酸、上記無機酸の塩、及び、ヒドラジンからなる群より選択される少なくとも1種以上の添加物質とを純水に溶解させると、ヒドロキシルラジカルを比較的高効率で生成することができる。従って、紫外線照射設備といったような大規模な設備を必要とすることなく、簡便に高濃度のヒドロキシルラジカル含有水を生成することが可能となる。また、オゾンと、過酸化水素と、上記添加物質とを純水に溶解させて生成したヒドロキシルラジカル含有水は、含有するヒドロキシルラジカルの経時的な濃度低下が抑制される。その結果、高濃度の状態が維持されたヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントに移送して供給することができる。なお、本発明において、ユースポイントとは、生成したヒドロキシルラジカル含有水が用いられる施設、装置、場所等をいう。
【0012】
通常、オゾン含有水(ヒドロキシルラジカル含有水も含む)は、ユースポイントで製造されるのではなく、1の施設につき1箇所程度で製造され、複数箇所に存在するユースポイントに移送されて供給される。上記構成によれば、ユースポイントに移送する前に、ヒドロキシルラジカル含有水を生成し、その後、濃度をある程度維持しながら移送することができる。従って、ユースポイントごとにヒドロキシルラジカル含有水を生成しなくてもよいため、製造箇所を一箇所に集約することができ、利便性に優れるとともに、ヒドロキシルラジカル含有水の製造コストを低減することができる。
【0013】
ここで、特許文献3に記載のオゾン水供給方法は、ユースポイントでのオゾン濃度を調整するものである。そのため、なるべくユースポイントに近い箇所で、濃度調整(例えば、紫外線照射)を行っている。また、特許文献3のオゾン水供給方法では、ユースポイントごとに必要とするオゾン濃度が異なると考えられ、ユースポイントに移送する前に一箇所で濃度調整を行うことは通常、行えないと思われる。一方、本願発明では、高濃度のヒドロキシルラジカル含有水を製造し、これを供給する方法であるため、ユースポイントへの移送前に一箇所で製造するこができ、これをユースポイントに移送して供給することができる。このように、本発明と特許文献3に記載のオゾン水供給方法とでは、ユースポイントへの移送前に目的物(本発明では、ヒドロキシルラジカル含有水、特許文献3では、所定濃度のオゾン水)を得るのか、ユースポイントへの移送後に目的物を得るのかの点で明らかにその構成(工程)が異なる。また、そもそも、特許文献3は、オゾン水の供給方法であり、ヒドロキシルラジカル含有水の供給方法ではないことを付言しておく。
【0014】
上記構成において、上記生成工程は、オゾンと過酸化水素と添加物質との重量比が、オゾン:過酸化水素:添加物質=10〜40:10〜40:1〜4となるように溶解させてヒドロキシルラジカル含有水を生成する工程であることが好ましい。オゾンと過酸化水素と添加物質との重量比が、オゾン:過酸化水素:添加物質=10〜40:10〜40:1〜4となるように溶解させることにより、移送されたヒドロキシルラジカル濃度をより高濃度で供給することができる。
【0015】
上記構成においては、添加物質を1〜100ppmで溶解させることが好ましい。
【0016】
また、上記構成において、添加物質は、水溶性有機物であり、水溶性有機物のオゾン反応速度定数が10L/mol/sec以下であることが好ましい。オゾン反応速度定数はオゾンとの反応時における反応速度定数であり、小さいほどオゾンと反応し難いことを示す。オゾン反応速度定数が比較的小さい水溶性有機物を使用することにより、オゾンによるヒドロキシルラジカルの生成を阻害することなく、水溶性有機物によるヒドロキシルラジカルの生成反応の促進に寄与できる。
【0017】
上記構成においては、水溶性有機物がイソプロパノールであることが好ましい。
【0018】
また、上記構成において、添加物質は、無機酸としての炭酸であることが好ましい。添加物質としての炭酸を用いることにより、ヒドロキシルラジカル含有水の使用後に炭酸ガスとして揮散させることができる。
【0019】
上記構成においては、純水が電気抵抗率17MΩ・cm以上の超純水であることが好ましい。
【0020】
また、上記構成において、上記供給工程は、ヒドロキシルラジカル含有水を電子部品の、又は、その製造工程における洗浄液として供給する工程であることが好ましい。
【0021】
一方、本発明のヒドロキシルラジカル含有水供給装置は、オゾンと、過酸化水素と、水溶性有機物、無機酸、上記無機酸の塩、及び、ヒドラジンからなる群より選択される少なくとも1種以上の添加物質とを純水に溶解させてヒドロキシルラジカル含有水を生成する生成手段と、生成したヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントに移送する移送手段と、移送後のヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントで供給する供給手段とを備えたことを特徴とする。
【0022】
上記構成によれば、オゾンと、過酸化水素と、水溶性有機物、無機酸、上記無機酸の塩、及び、ヒドラジンからなる群より選択される少なくとも1種以上の添加物質とを純水に溶解させると、ヒドロキシルラジカルを比較的高効率で生成することができる。従って、紫外線照射設備といったような大規模な設備を必要とすることなく、簡便に高濃度のヒドロキシルラジカル含有水を生成することが可能となる。また、オゾンと、過酸化水素と、上記添加物質とを純水に溶解させて生成したヒドロキシルラジカル含有水は、含有するヒドロキシルラジカルの経時的な濃度低下が抑制される。その結果、高濃度の状態が維持されたヒドロキシルラジカル含有水をユースポイントに移送して供給することができる。
【0023】
また、上記構成によれば、ユースポイントに移送する前に、ヒドロキシルラジカル含有水を生成し、その後、移送する。従って、ユースポイントごとにヒドロキシルラジカル含有水を生成しなくてもよいため、製造箇所を一箇所に集約することができ、利便性に優れるとともに、ヒドロキシルラジカル含有水の製造コストを低減することができる。
【0024】
上記構成において、上記生成手段は、オゾンと過酸化水素と添加物質との重量比が、オゾン:過酸化水素:添加物質=10〜40:10〜40:1〜4となるように溶解させることが好ましい。オゾンと過酸化水素と添加物質との重量比が、オゾン:過酸化水素:添加物質=10〜40:10〜40:1〜4となるように溶解させることにより、ヒドロキシルラジカル濃度をより高濃度とすることができる。
【0025】
上記構成において、上記生成手段は、添加物質を1〜100ppmで溶解させることが好ましい。
【0026】
また、上記構成において、添加物質は、水溶性有機物であり、水溶性有機物のオゾン反応速度定数が10L/mol/sec以下であることが好ましい。オゾン反応速度定数が比較的小さい水溶性有機物を使用することにより、オゾンによるヒドロキシルラジカルの生成を阻害することなく、水溶性有機物によるヒドロキシルラジカルの生成反応の促進に寄与できる。
【0027】
上記構成においては、水溶性有機物がイソプロパノールであることが好ましい。
【0028】
また、上記構成において、添加物質は、無機酸としての炭酸であることが好ましい。添加物質としての炭酸を用いることにより、ヒドロキシルラジカル含有水の使用後に炭酸ガスとして揮散させることができる。
【0029】
上記構成においては、純水が電気抵抗率17MΩ・cm以上の超純水であることが好ましい。
【0030】
また、上記構成において、上記供給手段は、ヒドロキシルラジカル含有水を電子部品の、又は、その製造工程における洗浄液として供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、比較的高濃度のヒドロキシルラジカル含有水を簡便にユースポイントに供給することを可能とするヒドロキシルラジカル含有水供給方法、及び、ヒドロキシルラジカル含有水供給装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態に係るヒドロキシルラジカル含有水供給装置の概念図である。
図2】実験例1で測定したヒドロキシルラジカル濃度の結果を示すグラフである。
図3】滞留時間とヒドロキシルラジカル濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について説明する。勿論、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を充足する範囲内で、適宜設計変更を行うことが可能である。
【0034】
まず、本発明に係るヒドロキシルラジカル含有水について説明する。
【0035】
ヒドロキシルラジカル含有水(以下、「ラジカル水」ともいう)は、オゾンと、過酸化水素と、水溶性有機物、無機酸、前記無機酸の塩、及び、ヒドラジンからなる群より選択される少なくとも1種以上の添加物質とを純水に溶解させて生成されたものである。本発明では、紫外線照射設備等の設備を用いなくても、純水にオゾン、過酸化水素、及び、上記添加物質を溶解させるだけで、ヒドロキシルラジカルを比較的高効率で生成させることができる。
【0036】
まず、上記添加物質として水溶性有機物を採用する場合について説明する。水中にオゾンと過酸化水素と水溶性有機物が存在する場合、以下に示す反応式に基づいてヒドロキシルラジカルを生成させるものと考えられる。
【0037】
まず、オゾンと過酸化水素からヒドロキシルラジカルが生成される(式1)。ヒドロキシルラジカルは寿命が短いためすぐに消滅してしまうが、水溶性有機物が存在する場合はヒドロキシルラジカルが水溶性有機物と連鎖反応を起こす(式2)。
【0038】
さらに、この連鎖反応によって生じた有機ラジカル(R・)と過酸化水素によってヒドロキシルラジカルが生成される(式3)。
【0039】
反応式;
オゾンと過酸化水素の反応によるヒドロキシルラジカル生成(式1)
+H → OH・+HO・+O
⇔ HO+H
+HO → OH・+O・+O
有機物による連鎖反応(式2)
RH+OH・ → R・+H
R・+O → RO
RO・+RH → ROOH+R・
RO・+HO・ → RO・+O+OH・
過酸化水素の分解による生成(式3)
+R・ → HOR+OH・
水溶性有機物は、ヒドロキシルラジカル生成の観点から、オゾン反応速度定数10L/mol/sec以下、特に1.0L/mol/sec以下、好ましくは0.001〜1.0L/mol/secのものが使用される。オゾン反応速度定数はオゾンとの反応時における反応速度定数であり、小さいほどオゾンと反応し難いことを示す。上記のようにオゾン反応速度定数が比較的小さい水溶性有機物を使用することにより、オゾンによるヒドロキシルラジカルの生成を阻害することなく、水溶性有機物によるヒドロキシルラジカルの生成反応の促進に寄与できる。種々の化合物のオゾン反応速度定数は公知の文献より知見でき、例えば、第4回「オゾン・ラジカル殺菌及び脱臭研究会」より発行された「オゾン処理とヒドロキシルラジカル」(中山繁樹著)における表2.2「オゾン及びOHラジカルと化合物の水中での反応速度定数」に記載されている。
【0040】
そのような水溶性有機物として、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類、アセトン、酢酸、蟻酸、クエン酸等が挙げられる。
【0041】
上記水溶性有機物の中でも、ラジカル水の電子部品等の洗浄液としての使用の観点からは、沸点が比較的低いものが好ましく使用され、例えば、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、t−ブタノール等が挙げられる。最も好ましい水溶性有機物はiso−プロパノール(イソプロパノール)である。
【0042】
次に、上記添加物質として無機酸を採用する場合について説明する。
【0043】
上記無機酸又は上記無機酸の塩としては、例えば、塩酸、硫酸、炭酸、炭酸塩、炭酸水素塩、亜硝酸、亜硝酸塩、亜硫酸、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、フッ酸を挙げることができる。なかでも、ラジカル水使用後に炭酸ガスとして揮散させることができることから、炭酸が好ましい。
【0044】
水中にオゾンと過酸化水素と炭酸が存在する場合、以下に示す反応式に基づいてヒドロキシルラジカルを生成させるものと考えられる。
【0045】
まず、オゾンと過酸化水素とからヒドロキシルラジカルが生成される(式4)。ヒドロキシルラジカルは、寿命が短いためすぐに消滅してしまうが、炭酸が存在する場合はヒドロキシルラジカルが炭酸と連鎖反応を起こす(式5)。
【0046】
さらに、炭酸と過酸化水素との反応によって生じたヒドロペルキシルラジカル(HO・)とオゾンとによってヒドロキシルラジカルが生成される(式6)。
【0047】
反応式;
オゾンと過酸化水素との反応によるヒドロキシルラジカル生成(式4)
+H → OH・+HO・+O
⇔ HO+H
+HO → OH・+O・+O
炭酸による連鎖反応(式5)
CO+HO ⇔ HCO+H
HCO ⇔ CO2−+H
CO2−+OH・ → CO・+OH
CO・+OH・ → CO+HO
+HO → OH・+O・+O
炭酸と過酸化水素との反応によって生じたヒドロペルキシルラジカルとオゾンとによるヒドロキシルラジカル生成(式6)
CO+HO ⇔ HCO+H
HCO ⇔ CO2−+H
CO2−+OH・ → CO・+OH
CO・+H → HCO+HO
HO・ ⇔ +O・+H
・+O → O・+O
・+HO → OH・+O+OH
純水は不純物質が除去された水であり、通常は、電気抵抗率15MΩ・cm以上のものが使用される。電子部品、半導体、液晶関連部品等の部品(以下、電子部品等という)の洗浄液としてラジカル水を使用する観点から、好ましくは電気抵抗率17MΩ・cm以上の超純水が使用される。なお、電気抵抗率は、市販の比抵抗率計を用いて測定することができる。
【0048】
オゾン、過酸化水素、及び、添加物質の純水への溶解順序は、同じ系に対してこれらの3成分が添加される限り特に制限されないが、オゾンと過酸化水素を混ぜた時点でオゾン分解・ラジカル生成反応が起こり、ラジカルがすぐに消滅してしまうため、オゾンと過酸化水素を混ぜ合わせる前に添加物質を混ぜておくのが好ましい。例えば、(1)純水にオゾン、添加物質及び過酸化水素をこの順序で添加して溶解させてもよいし、(2)純水にオゾンを溶解させた後、過酸化水素及び添加物質を同時に添加して溶解させてもよいし、(3)純水に添加物質、オゾン及び過酸化水素をこの順序で添加して溶解させてもよいし、(4)純水に添加物質、過酸化水素及びオゾンをこの順序で添加して溶解させてもよいし、(5)純水に過酸化水素、添加物質及びオゾンをこの順序で添加して溶解させてもよいし、(6)純水にオゾン、過酸化水素及び添加物質を同時に添加して溶解させてもよい。オゾンは他の成分と比較して溶解し難い点(オゾンの難溶解性)及び不純物を含まない水に溶解させたオゾンは分解が早い点(オゾンの自己分解性)の観点からは、上記順序(1)及び(2)を採用することが好ましい。特に、オゾンの自己分解性の観点からは上記順序(1)を採用することが好ましい。
【0049】
オゾン、過酸化水素及び添加物質の添加方法は、特に制限されず、例えば、オゾン、過酸化水素及び添加物質はそれぞれ独立して、予め単独で純水に溶解された水溶液の形態で添加されてもよいし、または常温常圧時のそのままの形態で添加されてもよい。特にオゾンの難溶解性の観点からは、オゾンは予め単独で純水に溶解された水溶液の形態で使用されることが好ましい。過酸化水素及び添加物質はそれぞれ、純水に容易に溶解されること及び濃度制御の容易であることの観点から、予め単独で純水に溶解された水溶液の形態で添加されることが好ましい。
【0050】
オゾンの溶解方法は、オゾンを溶解させるべき純水または水溶液等の溶媒にオゾンを溶解できれば、特に制限されず、例えば、オゾン溶解装置内に溶媒を充填し、その中に、オゾナイザで発生させたオゾンを供給することによって、オゾンを溶解させることができる。オゾナイザは酸素ボンベに連結され、酸素ボンベから供給された酸素からオゾンを発生させる装置である。オゾナイザは公知のオゾン発生器が使用可能で、例えば、汎用型水冷式オゾン発生器、無声放電方式オゾン発生器等が挙げられ、住友精密工業社、リガルジョイント社、エコデザイン社等から市販されている。
【0051】
過酸化水素及び添加物質は、通常、溶解させるべき純水または水溶液等の溶媒に常温で添加されるだけで溶解が容易に達成される。
【0052】
図1は、本発明の一実施形態に係るヒドロキシルラジカル含有水供給装置の概念図である。
【0053】
図1に示すように、ヒドロキシルラジカル含有水供給装置10(以下、ラジカル水供給装置10ともいう)は、配管11と、配管11に接続された添加物質水溶液貯留槽2及び過酸化水素水溶液貯留槽3と、配管11の下流側に接続された移送配管15と、移送配管15の下流側端部に設けられた供給部16を有する。
【0054】
オゾン水1は、純水にオゾンを予め溶解させたものであり、配管11内を上流側(図1中、左側)から下流側(図1中、右側)へと移送される。このとき、まず、より上流側に接続された添加物質水溶液貯留槽2から、ポンプP1によって添加物質水溶液20が混合され、その後、過酸化水素水溶液貯留槽3からポンプP2によって過酸化水素水溶液30が混合される。その結果、ラジカル水4(図示せず)を得ることができる。配管11、ポンプP1、ポンプP2、添加物質水溶液貯留槽2、過酸化水素水溶液貯留槽3、添加物質水溶液20、及び、過酸化水素水溶液30は、本発明の生成手段に相当する。また、配管11内を移送しながら、オゾン水1に添加物質水溶液20と過酸化水素水溶液30とを混合して、ラジカル水4を得る工程は、本発明の生成工程に相当する。
【0055】
ラジカル水4の生成においては、オゾンと過酸化水素と添加物質との重量比が、オゾン:過酸化水素:添加物質=10〜40:10〜40:1〜4となるように溶解させることが好ましく、オゾン:過酸化水素:添加物質=10〜20:10〜20:1〜2となるように溶解させることがより好ましい。オゾンと過酸化水素と添加物質との重量比が、オゾン:過酸化水素:添加物質=10〜40:10〜40:1〜4となるように溶解させることにより、ヒドロキシルラジカル濃度をより高濃度とすることができるからである。
【0056】
上述のようにして得られたラジカル水4は、移送配管15により供給部16に移送され、移送されたラジカル水4は、供給部16を介して洗浄槽50(ユースポイントに相当する)に供給される。移送配管15は、本発明の移送手段に相当し、供給部16は、本発明の供給手段に相当する。また、ラジカル水4を移送配管15により供給部16に移送する工程は、本発明の移送工程に相当し、移送されたラジカル水4を、供給部16を介して洗浄槽50に供給する工程は、本発明の供給工程に相当する。
【0057】
また、上述のようにして得られたラジカル水4の一部は、配管11にバルブ12を介して接続されたヒドロキシルラジカル濃度計17に移送され、そのヒドロキシルラジカル濃度が測定される。
【0058】
オゾンは通常、純水に対する濃度が1〜400ppm、好ましくは1〜100ppmになるように溶解される。
【0059】
本明細書中、オゾンの濃度は、純水へのオゾン添加が完了し、過酸化水素及び添加物質の添加前において測定された値を用いている。例えば、図1に示すラジカル水供給装置10においてラジカル水を製造する場合、添加物質を添加する前のオゾン水を採取し測定を行う。オゾンの濃度は、例えば、吸光光度計「ウォーターライザー」(倉敷紡績社製)、インライン型溶存オゾンモニタ(荏原実業社製)などにより測定できる。
【0060】
単位「ppm」は重量基準での全量に対する割合を示すものである。
【0061】
添加物質は、得られるラジカル水全体に対する濃度が1〜100ppmとなるように溶解されることが好ましく、1〜10ppmとなるように溶解されることがより好ましい。
【0062】
本明細書中、添加物質の濃度は、添加物質の添加量を元に算出する。例えば、図1に示すラジカル水供給装置10においてラジカル水を製造する場合、添加物質水溶液貯留槽2の水溶液有機物水溶液20の濃度に基づいて、オゾン水1の流量とポンプP1の送液流量とポンプP2の送液流量の割合から、ラジカル水全体に対する添加物質の添加量の割合として添加物質濃度を算出する。
【0063】
添加物質水溶液貯留槽2中の添加物質水溶液20の濃度は、ラジカル水全体に対する添加物質濃度が上記範囲内であれば特に制限されず、通常は100〜10000ppm、特に100〜1000ppmの添加物質水溶液20が使用される。そのような濃度の添加物質水溶液20は、ラジカル水全体に対する過酸化水素濃度が所定の値になるような割合(量)でオゾン水1に対して混合されればよい。
【0064】
過酸化水素は通常、得られるラジカル水全体に対する濃度が1〜400ppm、好ましくは1〜100ppmになるように溶解される。
【0065】
本明細書中、過酸化水素の濃度は、過酸化水素の添加量を元に算出する。例えば、図1に示す方法においてラジカル水を製造する場合、過酸化水素水溶液貯留槽3の過酸化水素水溶液30の濃度に基づいて、オゾン水1の流量とポンプP1の送液流量とP2の送液流量の割合から、ラジカル水全体に対する過酸化水素の添加量の割合として過酸化水素濃度を算出する。
【0066】
過酸化水素水溶液貯留槽3中の過酸化水素水溶液30の濃度は、ラジカル水全体に対する過酸化水素濃度が上記範囲内であれば特に制限されず、通常は100〜40000ppm、特に100〜30000ppmの過酸化水素水溶液30が使用される。そのような濃度の過酸化水素水溶液30は、ラジカル水全体に対する過酸化水素濃度が所定の値になるような割合(量)でオゾン水1に対して混合されればよい。なお、過酸化水素濃度は、オゾン濃度に対して、1/2〜3倍となるよう混合することが、ヒドロキシルラジカルを有効に発生させるうえで好ましい。
【0067】
以上の方法で製造されたラジカル水中に含まれるヒドロキシルラジカルの存在は、JIS R1704:2007に準じたラジカル濃度測定方法によって確認できる。
【0068】
本発明においてラジカル水中のヒドロキシルラジカルの濃度は、比較的高く達成され、例えばオゾン濃度が90ppm程度の場合、90μmol/L以上、好ましくは95〜160μmol/Lである。
【0069】
本明細書中、ヒドロキシルラジカルの濃度は、純水へのオゾン、過酸化水素及び添加物質の添加完了から0.5秒経過後において測定された値を用いている。例えば、図1に示すラジカル水供給装置10においてラジカル水を得る場合、過酸化水素水溶液30を最後に混合してから0.5秒経過後のラジカル水を用いて直ちにヒドロキシルラジカル濃度を測定する。
【0070】
ヒドロキシルラジカル濃度は、JIS R1704:2007に準じており、具体的には以下のように測定できる。100mLメスフラスコに、DMSO濃度5000ppmのDMSO(ジメチルオキシド水溶液)を1mLだけピペットで入れる。次いで、製造直後のラジカル水100mLを、そのメスフラスコに添加し、十分に撹拌することにより、DMSOとヒドロキシルラジカルとを反応させる。反応は以下の反応式に従うものである。すなわち反応によって生成したメタンスルホン酸の量は、反応したDMSOの量及びヒドロキシルラジカルの量に等しい。よって、反応によって生成したメタンスルホン酸の量をイオンクロマトグラフで測定して得られた測定値及び測定に供されたラジカル水の量よりヒドロキシルラジカル濃度を算出できる。
【0071】
(CHSO+・OH→CHS(O)OH+・CH
CHS(O)OH+・OH+O→CHS(O)OH+・OOH
(CHSO+・OOH→CHS(O)OH+・CH
製造されたラジカル水はヒドロキシルラジカルが含有されるだけでなく、通常は、原料として使用されたオゾン、過酸化水素及び添加物質の残留物、ならびにヒドロキシルラジカル生成時の副生物、例えば、前記反応式として示した式1〜式3や、式4〜式6の副生物が含有される。
【0072】
本発明におけるヒドロキシルラジカル含有水は、その洗浄力を調整したり、また洗浄の選択性を高めるなどの目的で、pH調整、温度調整、又は濃度調整などを適宜行ってもよい。例えば、後述するような半導体洗浄の分野においては、洗浄対象は主に金属、有機物、及びパーティクルである。このうち、パーティクル除去については、pHをアルカリ側にすることで、シリコン基板とパーティクルのゼータ電位を同極性にして、リフトオフによる洗浄を効率良く行うことができる。また、金属、及び有機物の除去については、酸を添加してpHを酸側にすることで、処理液の酸化還元電位が高くなり、金属はイオン化して液中に溶解し易くなり、有機物は酸化分解し易くなり、洗浄効率を高めることができる。さらに、洗浄速度を上げるためには、処理液の濃度や温度を上げることが有効である。また、超音波によるキャビテーションを利用する目的で、超音波などを照射するのも有効である。
【0073】
ラジカル水は、電子部品やその製造工程で用いられる半導体ウエハ等の洗浄(有機物、無機物の酸化除去)のための洗浄液としての使用に適しており、フォトレジスト膜の剥離、シリコン基板表面の酸化等に用いる機能水としての使用にも適している。本発明によって生じるヒドロキシルラジカルは、有機物を選択的に分解、除去等する効果が高いため、本発明は特にフォトレジスト膜の剥離に有効である。フォトレジスト膜としては、半導体製造工程におけるパターン形成用レジスト、パターン転写に用いられるフォトマスクの製造用レジスト、配線基板製造工程におけるパターン形成用レジストやソルダレジスト、印刷版用レジストなどが挙げられる。
【0074】
より具体的には、ノボラック樹脂とジアゾナフトキノン等を含有するI線レジスト、高分子と光酸発生剤等を含有するKrFレジスト、更に塩基性物質を添加したもの、アセタール系側鎖を導入したもの、アニーリング系レジストなどの化学増幅型レジスト、ベンゼン環の代わりにアクリル系樹脂を用いたArFレジスト、アダマンタン基をアクリル側鎖に導入したもの、その他の脂環基をアクリル側鎖に導入したもの、5βステロイド系物質を添加したもの、ノルボルネンと無水マレイン酸等との共重合物を用いたもの、感光性ポリイミド、その他の感光性樹脂、感光性熱硬化型樹脂などが挙げられる。
【0075】
転写に用いられるフォトマスクの製造には、主に化学増幅型レジストが用いられるが、レジスト剥離の際に、クロム等を含有する転写パターン用薄膜又はその表面の無機系の反射防止膜にダメージを生じさせないことが要求されている。前記のようにヒドロキシルラジカルは、有機物を選択的に分解、除去等する効果が高いため、本発明によると、無機系の転写パターン用薄膜又はその表面の反射防止膜にダメージを生じさせずに、有機物を含むフォトレジスト膜の剥離を選択的に行うことができると考えられる。
【0076】
実際に、後述する実験例2と同様にして、ガラス基板上にクロムを含有する遮光膜と化学増幅型レジストとを形成したものを用いて、レジストを剥離する実験を行い、レジスト剥離後の表面の反射率の増加(対未処理品)を測定したところ、オゾン水を用いた場合と比較して、剥離速度が同等の場合に、ダメージによる表面の反射率の増加を、広い波長範囲(250〜500nm)で半分以下に抑えることができた。
【0077】
なお、上述した実施形態のように、ラジカル水を洗浄液として用いると、汚染物質が有機物であっても、金属であっても、有効に除去可能である。また、ラジカル水を酸化液として用いると、金属表面を酸化可能である。
【0078】
ラジカル水を洗浄液として使用する場合、汚染物質を除去可能な被洗浄物は、特に制限されるものではないが、例えば、半導体ウエハ、デバイス、液晶基板など、表面を厳密に清浄にしておく必要のある精密部品であることが好ましい。ラジカル水は環境や人体や被洗浄物自体に影響を与えることなく、汚染物質を有効に除去できるためである。精密部品の具体例として、電子部品、例えば、シリコンウェハ、プリント基板、ガラス基板、液晶基板、磁気ディスク基板、化合物半導体基板等ならびに;そのような電子部品の製造装置や洗浄装置における各種部品、例えば、濾過用フィルタ、濾過用フィルタハウジング、配管、ウェハキャリア、洗浄槽、ポンプ等が挙げられる。
【0079】
本発明では、ヒドロキシルラジカル含有水による洗浄の前に、被洗浄物に対して予備洗浄、物理的又は化学的な表面処理などの前処理を行ってもよい。例えば、被洗浄物の表面性状が疎水性である場合には、あらかじめ紫外線照射やプラズマ照射、その他の前処理を予め行うことで、効率的な洗浄を行うことができる。
【0080】
ラジカル水によって汚染物質の除去効果が得られるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下の作用・メカニズムに基づいて、汚染物質の除去効果を発揮するものと考えられる。ヒドロキシルラジカルは強力な酸化作用及び殺菌作用を有する。そのため、ヒドロキシルラジカルは汚染物質が有する電荷を中和して、中和した汚染物質を被洗浄物表面から遊離させるとともに、再付着しにくくさせるように作用する。例えば金属の場合、金属から電子を奪いイオン化し、洗浄液中に溶解させる。
【0081】
ラジカル水を洗浄液として使用する場合、ラジカル水の被洗浄物への適用方法は特に制限されるものではなく、例えば、被洗浄物をラジカル水に浸漬する浸漬法であってもよいし、または被洗浄物に対してラジカル水をシャワーにより噴霧する噴霧法であってもよい。
【0082】
近年、例えば半導体ウエハの洗浄では、複数のウエハをまとめて浸漬洗浄するバッチ式洗浄から、一枚のウエハを回転させながら洗浄する枚葉式洗浄に変わりつつある。本発明は洗浄効率が高く、スループットの向上が期待できるため、バッチ式洗浄だけでなく枚葉式洗浄にも対応することができる。枚葉式洗浄を行う場合、更に効果を高める上で、二流体ノズルや超音波ノズル、高圧ノズルなど物理的作用を併用するのが好ましい。
【0083】
ラジカル水と被洗浄物との接触時間は、一概に規定できるものではなく、被洗浄物の汚染の程度、ラジカル水の適用方法、及び必要とする洗浄度合い等に応じて適宜設定すればよい。
【0084】
ラジカル水は、その製造過程における純水へのオゾン、過酸化水素及び添加物質の添加完了から10分間経過するまでの間、特に5分間経過するまでの間に、被洗浄物と接触させることが好ましい。
【実施例】
【0085】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
<実験例1>(実施例1〜4/比較例1〜6)
図1に示すラジカル水供給装置10に基づいてラジカル水を製造した。詳しくは、まず、図示しない酸素ボンベから酸素ガスをオゾナイザ(無声放電方式オゾン発生器;リガルジョイント社製)へ1L/分で供給した。オゾナイザでオゾンガスを発生させ、オゾン溶解装置(散気管方式)へ1L/分で供給した。オゾン溶解装置では超純水製造装置から供給された超純水(電気抵抗率18MΩ・cm)を常時、2L貯水し、そこでオゾンガスを散気管で超純水に吹き込みオゾン水を調製した。オゾン溶解装置で調製されたオゾン水1を1L/分で配管11中、移送しながら、これに、添加物質水溶液貯留槽2から1000ppm濃度の添加物質水溶液20をポンプにより所定流量で混合した後、さらに過酸化水素水溶液貯留槽3から20000ppm濃度の過酸化水素水溶液30をポンプにより所定流量で混合し、ラジカル水4を得た。製造直後のラジカル水4のヒドロキシルラジカル濃度をJIS R1704:2007に準じた方法により測定した。ヒドロキシルラジカル濃度を測定した製造直後のラジカル水としては、具体的には、製造工程において過酸化水素水溶液30を最後に混合してから0.5秒経過後のラジカル水を直ちに用いた。オゾン、過酸化水素及び添加物質の濃度を求め、表1に示した。オゾンの濃度の測定には、添加物質を添加する前のオゾン水を採取して直ちに用いた。添加物質の濃度は、添加物質水溶液20の濃度に基づいて、ラジカル水全体に対する添加物質の添加量の割合として求めた。過酸化水素の濃度は、過酸化水素水溶液30の濃度に基づいて、ラジカル水全体に対する過酸化水素の添加量の割合として求めた。添加物質としては、iso−プロパノールを用いた。
【0086】
オゾン溶解装置へのオゾン溶解量、添加物質水溶液20の混合流量及び過酸化水素水溶液30の混合流量は、ラジカル水中のオゾン、過酸化水素及び添加物質の濃度が表1に記載の値になるように、適宜調整した。なお、オゾンの濃度が0ppmとは、オゾンガスの超純水への吹き込み・溶解を行わなかったことを示す。過酸化水素の濃度が0ppmとは、過酸化水素水溶液30の混合を行わなかったことを示す。添加物質の濃度が0ppmとは、添加物質水溶液20の混合を行わなかったことを示す。
【0087】
ヒドロキシルラジカル濃度の測定結果を図2に示す。
(比較例7)
実施例1と同様の試験において、過酸化水素を混合する代わりに紫外線照射を行った。紫外線照射は、低圧水銀ランプSUV−40(セン特殊光源社製)を用い、0.3W×20秒間照射した。なお、ヒドロキシルラジカル濃度の測定は、実施例1と同様であり、測定結果を図2に示す。測定値は44μmol/Lであった。
【0088】
【表1】
<実験例2>
実験例1の実施例1及び比較例2において製造した直後のラジカル水に、被洗浄物を60秒、120秒、240秒間浸漬し、被洗浄物表面の汚染物質の除去効果を、レジストの厚みを測定することにより評価した。被洗浄物としては、シリコン製ウエハ(厚さ:0.6mm、サイズ:6インチ)にレジスト(ポジ型I線レジスト)を1μm塗布したものを使用した。なお、レジストの厚みは、吸光度計(Nicolet社製「Magna50」)を使用して得られる透過吸光度より算出した。具体的には、レジスト未塗布のウエハを基準(バックグラウンド)として吸光度計に登録し、レジストのみの吸光度を測定し、さらに初期状態(ウエハにレジストを塗布し、ラジカル水による処理を行わないもの)の吸光度を測定する。つづいて、ラジカル水により処理を行なったウエハの吸光度を測定し、その吸光度と初期状態の吸光度の比率からレジストの厚さを算出したのである。
【0089】
結果を表2に示す。添加物質を含まない比較例2のラジカル水では240秒浸漬してもレジストの厚さがほとんど変わらないことと比較して、添加物質を含む実施例1のラジカル水では240秒でおよそ半分のレジストを剥離させることが出来た。
【0090】
【表2】
<実験例3>(実施例5、6/比較例8〜10)
実験例3においては、ラジカル水中のオゾン、過酸化水素及び添加物質の濃度が表3に記載の値になるように、調整したこと以外は、上記実験例1と同様の実験を行った。
【0091】
ヒドロキシルラジカル濃度の測定結果を表4に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
(結果)
オゾンと過酸化水素と炭酸との濃度比(重量比)が、10:10:1である実施例5において、ヒドロキシルラジカル濃度が最も高くなった。一方、オゾン、過酸化水素、及び、添加物質のうちの少なくとも1つが含まれていない比較例8〜10では、ヒドロキシルラジカル濃度は、ほぼゼロとなった。
<実験例4>(実施例7/比較例11〜13)
実験例4においては、まず、ラジカル水中のオゾン、過酸化水素及び添加物質の濃度が表5に記載の値となるように調整した。その後、調整したラジカル水を滞留させ、調整から0.5秒後、30秒後、60秒後、180秒後、300秒後のヒドロキシルラジカル濃度を測定した。
【0094】
ヒドロキシルラジカル濃度の測定結果を表6、及び、図3に示す。
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
(結果)
オゾン、過酸化水素及び添加物質が添加されている実施例7においては、調整直後から高濃度のヒドロキシルラジカルが得られ、180秒経過後も25μm/L程度の高濃度が維持されていた。
【0097】
一方、過酸化水素及び添加物質のいずれか添加されていない比較例11〜13では、高濃度のヒドロキシルラジカルを得ることはできず、180秒経過後には、14μm/L以下となった。
【符号の説明】
【0098】
1 オゾン水
2 添加物質水溶液貯留槽
3 過酸化水素水溶液貯留槽
4 ラジカル水(ヒドロキシルラジカル含有水)
10 ヒドロキシルラジカル含有水供給装置(ラジカル水供給装置)
11 配管
12 バルブ
15 移送配管
16 供給部
17 ヒドロキシルラジカル濃度計
20 添加物質水溶液
30 過酸化水素水溶液
50 洗浄槽
P1、P2 ポンプ
図1
図2
図3