(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732008
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】電磁調理器用保護マット
(51)【国際特許分類】
H05B 6/12 20060101AFI20150521BHJP
F24C 15/10 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
H05B6/12 307
F24C15/10 R
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-174425(P2012-174425)
(22)【出願日】2012年8月6日
(65)【公開番号】特開2013-58472(P2013-58472A)
(43)【公開日】2013年3月28日
【審査請求日】2014年7月31日
(31)【優先権主張番号】特願2011-176588(P2011-176588)
(32)【優先日】2011年8月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】磯村 幸一
【審査官】
長浜 義憲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−140887(JP,A)
【文献】
特開2004−207121(JP,A)
【文献】
実開昭60−038492(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3148651(JP,U)
【文献】
実公昭63−31515(JP,Y2)
【文献】
特開2008−10409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/12
F24C 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維からなるシート状の基材と、この基材の両面にそれぞれ形成された第1被覆層および第2被覆層とを有し、前記第1被覆層は、塗布量100〜110g/m2で塗布されたシリコーンゴムからなり、その表面凹凸が0.8μm以上4μm以下かつ平均摩擦係数が0.45以上であることを特徴とする電磁調理器用保護マット。
【請求項2】
前記第2被覆層は、シリコーンゴムからなることを特徴とする請求項1に記載の電磁調理器用保護マット。
【請求項3】
前記第1被覆層は複合ヤング率が22N/mm2以上100N/mm2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁調理器用保護マット。
【請求項4】
前記第2被覆層は、前記第1被覆層と同等の表面凹凸、摩擦係数および複合ヤング率を有することを特徴とする請求項3に記載の電磁調理器用保護マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンロ型の電磁調理器のトッププレートを保護する電磁調理器用保護マットに関する。
【背景技術】
【0002】
電磁調理器は、内部に埋め込んだコイルによる電磁誘導加熱の原理を利用して、鍋等の金属製容器を加熱して調理する装置であり、IH調理器などとも呼ばれている。電磁調理器は、強化ガラス製の平坦なトッププレート上に載置した金属製容器の自己発熱によって容器内部の材料を加熱する。したがって、トッププレート自体が発熱しないので焼き付きが生じにくく、また平坦なトッププレートは清掃が容易である。
【0003】
しかしながら、高温となった金属製容器によってトッププレートも加熱されて高温となるので、トッププレートに汚れが付着した場合には、焼け焦げて固着し、清掃に手間がかかってしまう。また、トッププレートが強化ガラス製であるため、鍋を移動する際にトッププレートに傷がついたり、鍋をトッププレート上に載置する際に衝撃が生じたり、平坦なトッププレートに対して鍋が滑って移動してしまい加熱効率が低下したりするという問題があった。
【0004】
これに対し、特許文献1には、トッププレートの汚れを防止するための電磁調理器用保護シートが提案されている。この保護シートは、渦電流を遮蔽せず耐熱性を有する紙製品、食品梱包用ラップフィルム、フッ素樹脂ゴムを施したガラス繊維などからなり、トッププレートを覆うことにより汚れがトッププレートに付着するのを防止するものである。
【0005】
また、特許文献2に提案された電磁調理器用防汚シートは、紙や不織布等の支持体の表面を所定の樹脂で被覆して形成されることにより、シート自体の高温化を防ぎ、安全性の向上が図られている。また、シート裏面に接着剤層が設けられていることにより、電磁調理器からのずり落ち等が防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】登録実用新案第3111559号公報
【特許文献2】特開2004−207121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のシートでは、電磁調理器の熱源に敷設して調理する際、調理器具の擦動によってシートの位置がずれて加熱ロスが生じ、電気代が余分にかかるといった問題があった。また、ずれたシートを熱源の中心に合わせて元の位置にセットし直さなければならず、調理の際のストレスとなっていた。
【0008】
本発明は、電磁調理器のトッププレートにおいて、鍋のような調理器具等による傷つき、汚れの付着および熱による焼け焦げ等を防止するとともに、調理時の器具の滑りを防止し、調理器具とトッププレートとの間に快適なクッション性を与えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ガラス繊維からなるシート状の基材と、この基材の両面にそれぞれ形成されたシリコーンゴムからなる第1被覆層および第2被覆層とを有し、前記第1被覆層は
、塗布量100〜110g/m2で塗布されたシリコーンゴムからなり、その表面凹凸が0.8μm以上4μm以下かつ平均摩擦係数が0.45以上である電磁調理器用保護マットである。
【0010】
なお、ここで「表面凹凸」とは、カトーテック株式会社製の自動化表面試験機(KES−FB4−AUTO−A)により測定される表面粗さであり、数値が大きいほど凹凸が大きいといえる。また、ここで「平均摩擦係数」とは、同じくカトーテック株式会社製の自動化表面試験機(KES−FB4−AUTO−A)により測定される摩擦力であり、数値が大きいほど滑りにくいといえる。
【0011】
この電磁調理器用保護マットをトッププレート上に敷設することにより、トッププレートに汚れが付着するのを防止できる。また、マットのいずれかの面に設けられた第1被覆層に適当な凹凸形状が形成されているので、第1被覆層を下面としてトッププレート上に敷設することにより、電磁調理器のトッププレートと保護マットの第1被覆層のシリコーンゴムの粒子との間に適度に大きな摩擦抵抗が得られ、調理時のマットのずれが防止され、快適な作業が可能となる。
【0012】
この電磁調理器用保護マットにおいて、前記第1被覆層は複合ヤング率が22N/mm
2以上100N/mm
2以下であることが好ましい。この場合、マットの表面が適度な硬さであり、マット自体が適度なクッション性を有するので、調理時の接触音や衝撃音が緩和され、快適な作業が可能となる。なお、ここで「複合ヤング率」とは、ELIONIX株式会社製の超微小押し込み硬さ試験機(ENT−1100a)により測定される結果を元に算出される。
【0013】
この電磁調理器用保護マットにおいて、前記第2被覆層は、前記第1被覆層と同等の表面凹凸、平均摩擦係数および複合ヤング率を有することが好ましい。この場合、第1被覆層と第2被覆層のいずれを表にしても同様に使用することができるので、片面だけが摩耗しにくく、長期間にわたって快適な作業が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電磁調理器用保護マットによれば、鍋のような調理器具等による傷つき、汚れの付着および熱による焼け焦げ等を防止するとともに、調理時の器具の滑りを防止し、調理器具とトッププレートとの間に快適なクッション性を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の電磁調理器用保護マットの一実施形態を示す平面図である。
【
図2】
図1における電磁調理器用保護マットの使用状態を示す斜視図である。
【
図3】
図1における電磁調理器用保護マットの部分断面図である。
【
図4】電磁調理器用保護マットの複合ヤング率を測定する際の押し込み深さと荷重の大きさとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る電磁調理器用保護マット10の実施形態について説明する。電磁調理器用保護マット10は、
図1に示すように略円形に形成され、電磁調理器のトッププレートP上に、鍋やフライパン等の調理器具Cの下面に当接するように敷設される(
図2)。この保護マット10は、
図3に示すように、ガラス繊維からなるシート状の基材11と、この基材11の両面にそれぞれ形成されたシリコーンゴムからなる第1被覆層12および第2被覆層13とを積層して形成されている。この保護マット10の厚さは0.14±0.02mm、重量は210±20g/m
2である。
【0017】
基材11は、ガラス繊維の単糸(JIS規格 ECE225 1/0)を縦糸および横糸に用いて、密度が縦60±2本/25mm、横57本±2本/25mm(100g/m
2)、厚さ0.1mmとなるように平織りして形成されたガラス繊維織物である。ガラス繊維織物は、耐熱性および強度に優れ、加熱された調理器具Cの高温に耐えることができる。
【0018】
第1被覆層12および第2被覆層13は、耐熱性の高いシリコーンゴムを基材11の表面に塗布し、乾燥させる工程を2回繰り返すことにより形成される。この工程におけるシリコーンゴムの塗布量は、100〜110g/m
2である。なお、このシリコーンゴムにアルミニウムペーストを混入して第1被覆層12および第2被覆層13を形成してもよい。アルミニウムペーストを混入した場合、これら第1被覆層12および第2被覆層13を銀白色に形成することができる。
【0019】
第1被覆層12は、表面凹凸が0.8μm以上4μm以下、平均摩擦係数が0.45以上0.8以下、複合ヤング率が22N/mm
2以上100N/mm
2以下である。表面凹凸の大きさは、保護マット10がトッププレート上でずれにくく、かつ保護マット10をトッププレートから剥がしやすい範囲に設定されている。平均摩擦係数が0.45以上と設定されていることにより、調理作業中に保護マット10がトッププレート上でずれるのを防止できる。また、複合ヤング率が22N/mm
2以上100N/mm
2以下であることにより、保護マット10が好適なクッション性を備えるので、鍋等の調理器具が保護マット10を介してトッププレートにぶつかった際に、不快な衝撃音を緩和することができる。
【0020】
ここで「複合ヤング率」とは、ELIONIX株式会社製の超微小押し込み硬さ試験機(ENT−1100a)により測定される結果を元に、以下のように算出される。まず、試験機において設定した試験荷重をF
max、圧子の最大押し込み深さ(除荷開始時の変位)をh
maxとする。
【0021】
次に、除荷のグラフ(
図4)より弾性変形量および塑性変形量を求める。除荷開始(h
max)から除荷曲線の50%までを最小2乗法(2次曲線)で近似し、その2次曲線のF
maxでの接線(P=mδ+n)を延ばし、変位軸と交差した座標を“h1”、h
maxからh1を引いた値を“h2”とする。
【0022】
次に、数式1から複合ヤング率E
*を求める。
【0024】
ここで、Sは接触剛性、C
Aは接触定数、A
P(h)は接触投影面積であり、数式2,3,4から求められる。
【0028】
したがって、複合ヤング率E
*は数式5から求められる。
【実施例】
【0030】
本発明に係る電磁調理器用保護マットの実施例1〜3および比較例1〜4について、以下に説明する。表面凹凸および平均摩擦係数は、カトーテック株式会社製の自動化表面試験機(KES−FB4−AUTO−A)により測定した。また、複合ヤング率は、ELIONIX株式会社製の超微小押し込み硬さ試験機(ENT−1100a)により測定した。これらの表面特性の測定結果を表1に示す。なお、表1において、「表」とはフライパンに接触する第2被覆層、「裏」とはトッププレートに接触する第1被覆層を指している。
【0031】
(実施例1〜3)
厚さ0.1mmのガラス繊維製基材の両面にシリコーンゴムを塗布して第1被覆層および第2被覆層を形成した本発明に係る電磁調理器用保護マットについて、測定子の移動方向や測定箇所を変更しながら、表裏面の表面特性を測定した。各実施例の保護マットは、表面凹凸および平均摩擦係数が本発明の範囲に含まれる値となっている。
【0032】
(比較例1〜4)
厚さ0.1mmのガラス繊維製基材の両面にシリコーン被覆層を形成してなる電磁調理器用保護マットについて、実施例と同様に表裏面の表面特性を測定した。比較例の保護マットは、表面凹凸および平均摩擦係数のいずれかが本発明の範囲から逸脱している。なお、比較例3,4は、それぞれ比較例1,2を裏返して測定した結果である。
【0033】
これら実施例および比較例について、各保護マットのトッププレートに対する防滑性、各保護マット上でのフライパンの振りやすさ、トッププレート上からの各保護マットの剥がしやすさ、各保護マットを介してフライパンをトッププレートに衝突させた際の衝撃音の緩和性、および調理時の異物感の無さについて評価した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
トッププレートに対する防滑性は、調理終了後、マットが設置場所から全く移動していなかったときに○、少しでも移動したときに×とした。フライパンの振りやすさは、鍋振り時にマット装着による抵抗を感じなかったときに○、抵抗を感じたときに×とした。トッププレートからの剥がしやすさは、人差し指と親指で軽くつまんで引き上げる程度の力で簡単に剥がせたときに○、それ以上の力が必要なときに×とした。衝撃音の緩和性は、衝撃によるカチカチ音がマットを敷かない場合に比べて少しでも緩和されたと感じたときに○、緩和されていないと感じたときに×とした。調理時の異物感の無さは、マットを敷いて調理を行った際、異物を敷いた感じが認められなかったときに○、明らかに何か異物を敷いている感覚が認められたときに×とした。
【0036】
この比較実験により、シリコーンゴムにより形成された被覆層の表面凹凸が0.8μm以上4μm以下であると、保護マットがトッププレートに対してずれにくく、かつトッププレートから剥がしやすいことが確認できた。一方、表面凹凸が0.8μmよりも小さいと保護マットをトッププレートから剥がしにくく、表面凹凸が4μmよりも大きいと保護マットがトッププレートに対してずれやすいため調理がしにくいことが確認できた。
【0037】
また、被覆層の平均摩擦係数が0.45以上であると保護マットがトッププレートに対してずれにくいが、0.45よりも小さいとトッププレートに対してずれやすいことが確認できた。
【0038】
また、複合ヤング率が100N/mm
2よりも大きいとクッション性が不足して衝撃音が発生し、22N/mm
2よりも小さいと調理の際に異物を敷いたような違和感を覚え、快適な調理の妨げとなってしまった。
【0039】
以上説明したように、本発明の電磁調理器用保護マットによれば、鍋のような調理器具等による傷つき、汚れの付着および熱による焼け焦げ等を防止するとともに、調理時の器具の滑りを防止し、調理器具とトッププレートとの間に快適なクッション性を与えることができる。
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 電磁調理器用保護マット
11 基材
12 第1被覆層
13 第2被覆層
C 調理器具
P トッププレート