(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の分割ダイのうち、上側に配置する分割ダイの貫通孔の最小径は、その下側に隣接する分割ダイの貫通孔の最小径よりも、0mm超0.020mm以下の範囲で大きい請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法。
前記離型コーティングの材質は、DLC、TiN、TiC、CrN、及びTi-X-N(但しXは、C,Al,Cr,Mo,及びWから選択される少なくとも1種の元素)から選択される少なくとも1種である請求項1〜6のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法。
前記金属は、純鉄、又はNi,Cu,Cr,Mo,Mn,C,Si,Al,P,B,N及びCoから選択される1種以上の添加元素を含有する鉄合金から構成される請求項1〜7のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧粉成形体の生産性の向上が望まれている。特に、細長い圧粉成形体を生産性よく製造することが望まれている。
【0006】
上述のようにダイに離型コーティングを施していても、同じ成形用金型を用いて圧粉成形体を製造し続ければ、離型コーティングが徐々に剥離していき、潤滑性が低下する。そのため、ダイを取り外して離型コーティングを除去した後に再成膜したり、ダイ自体を交換したりする必要があり、成膜や交換の頻度を低減して、生産性を向上するには限界がある。
【0007】
また、ダイに対して離型コーティングを良好に形成できる範囲(所定の設計厚さを満たし、強固に密着した膜を形成できる範囲)が限られる。そのため、離型コーティングを利用しても、特に、細長い圧粉成形体を生産性よく製造することが難しい。
【0008】
ここで、ダイの貫通孔の軸方向に沿った長さを深さ又は高さと呼ぶとき、貫通孔の深さは、原料の粉末を充填する給粉空間を形成するために、圧縮が完了した圧縮物の高さよりも長くする必要がある。従って、細長い圧粉成形体を製造する場合、ダイの貫通孔の深さは、上記圧縮物の高さ(=圧粉成形体の高さ)よりも十分に長くする必要がある。
【0009】
一方、DLCなどの離型コーティングの形成には、スパッタリング法などのPVD法が利用されている。PVD法を用いて離型コーティングを良好に形成できる範囲は、通常、貫通孔の開口径と貫通孔の深さとの比が1:1以内、つまり、開口径=深さであることが好ましいといわれている。貫通孔の各開口部からそれぞれターゲット材料を付着させる両面コートを行う場合では、上記比が1:2以内、つまり、深さ≦2×開口径であることが好ましいといわれている。所定の設計厚さを満たさなかったり、密着力に劣っていたりする領域を許容しても、PVD法を用いてダイに具える貫通孔の内周面全域に亘って離型コーティングが形成可能な範囲は、せいぜい上記比が1:4以内(深さ≦4×開口径)であると考えられる。
【0010】
そのため、圧粉成形体の端面の径(≒貫通孔の最小の開口径)と、圧粉成形体の高さとの比(以下、成形体比と呼ぶ)が1:2超(高さ>2×端面の径)である細長い圧粉成形体を製造するにあたり、
図4に示すような細長いダイ211を用いると、細長い貫通孔211h(
図4では開口径d
211:深さD=1:4超)の内周面に、離型コーティングが十分に形成されていない領域、又は離型コーティングが全く形成されていない領域(以下、成膜不足領域と呼ぶ)が存在し得る。詳しくは、ダイ211の貫通孔211hの開口部近傍(開口部から軸方向に距離d
211までの領域)は、ターゲット材料が十分に侵入して、良好に付着する(
図4の破線矢印参照)。しかし、ダイ211の貫通孔211hにおいて開口部から離れた中央部分220(開口部から軸方向に距離d
211よりも十分に離れた領域)は、上記成膜不足領域になる。このダイ211の中央部分220は、上述の圧縮物が接触する接触領域を含むことが多い。そして、接触領域は、潤滑が最も望まれる領域である。潤滑が最も望まれる箇所に成膜不足領域が生じ得ることから、細長いダイ211を用いて、上記成形体比が1:2超、更に1:2.5以上(高さ≧2.5×端面の径)の細長い圧粉成形体を連続して大量に製造することが難しい。
【0011】
原料の粉末に潤滑剤を添加する場合、潤滑剤が多いほど潤滑性を高められる。しかし、潤滑剤の添加量の増加は、金属粉末の充填率の低下を招く。そのため、金属成分の割合が低い低密度な圧粉成形体になってしまう。更には、圧粉成形体に熱処理を施す場合には、潤滑剤が気化するため、潤滑剤の添加量が多いと、気化した潤滑剤が大量に発生する。この大量の気化した潤滑剤を燃焼するために、排気容量が大きな排気ガス燃焼装置が必要になるなど、設備コストの増大を招く恐れもある。
【0012】
そこで、本発明の目的の一つは、圧粉成形体を生産性よく製造できる圧粉成形体の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、生産性に優れる圧粉成形体を提供することにある。更に、本発明の別の目的は、上記圧粉成形体に熱処理を施した熱処理体、上記圧粉成形体や上記熱処理体を具えるコイル部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ダイをその軸方向に複数に分割することで上記目的を達成する。本発明の圧粉成形体の製造方法は、金属の粉末を成形用金型の給粉空間に充填し、この粉末を加圧・圧縮して圧粉成形体を製造する方法に係るものであり、上記給粉空間を形成する環状のダイをその軸方向に複数に分割する。そして、複数の分割ダイのうち、貫通孔の内周面に上記粉末を圧縮してなる圧縮物が接触する接触領域を具える分割ダイには、少なくとも上記接触領域に離型コーティングが施されたものを用いる。
【0014】
上述のように、給粉空間を形成するダイを単一部材とするのではなく、複数の分割ダイを組み合わせた組物とすることで、給粉空間が細長い場合でも、ダイにおいて潤滑性が最も望まれる上記接触領域に離型コーティングを良好に形成できる。そのため、本発明の圧粉成形体の製造方法では、ダイが単一部材である場合と比較して、離型コーティングによる潤滑性の効果をより良好に得られる上に、この効果を長期に亘り得られる。また、離型コーティングが剥離したり、ダイの内周面に焼き付きが生じたりした分割ダイ(代表的には上記接触領域を有する分割ダイ)だけを取り外して、再成膜や交換などを行えるため、作業性やコストの面でも優れる。その他の分割ダイはそのまま再利用できるため、成形用金型のコストも低減できる。これらの点から、本発明の圧粉成形体の製造方法は、細長い圧粉成形体であっても、連続して大量に製造でき、生産性を向上できる。また、本発明の圧粉成形体の製造方法を利用することで、成形用金型の寿命を延長できる。
【0015】
本発明の圧粉成形体の製造方法の一形態として、上記複数の分割ダイを組み合わせた状態における貫通孔の最小径と、貫通孔の合計深さとの比(以下、合計深さ比と呼ぶ)が1:2超である形態が挙げられる。貫通孔の径とは、貫通孔の平面輪郭について包絡円をとり、この包絡円の直径を通る面を切断面として、ダイの縦断面をとったとき、貫通孔を形成する内周面であって、対向する部分間の距離とし、貫通孔の最小径とは、上記貫通孔の径の最小値とする。
【0016】
上記合計深さ比が1:2超、つまり上記合計深さが上記最小径の2倍超(合計深さ>2×最小径)であることで、上述した成形体比が1:2超である細長い圧粉成形体を製造できる。従って、上記形態は、細長い圧粉成形体を生産性よく製造できる。
【0017】
本発明の圧粉成形体の製造方法の一形態として、上記接触領域を具える分割ダイが一つである形態が挙げられる。
【0018】
上記形態は、圧縮物(圧粉成形体)の外周面を一つの分割ダイによって形成できる。従って、複数の分割ダイによって接触領域を構築する場合と比較して、分割ダイ同士の継ぎ目に起因するバリが圧縮物の外周面に生じず、上記形態は、表面性状に優れる圧粉成形体を製造できる。
【0019】
本発明の圧粉成形体の製造方法の一形態として、上記接触領域を有する分割ダイの貫通孔の最小径と、この貫通孔の深さとの比(以下、単一深さ比と呼ぶ)が1:4以下である形態が挙げられる。
【0020】
単一深さ比が1:4以下、つまりこの分割ダイの貫通孔の深さがこの貫通孔の最小径の4倍以下(深さ≦4×最小径)であることで、通常のPVD法を利用して、この分割ダイに具える貫通孔の内周面全域に亘って、離型コーティングを施すことができる。従って、上記形態は、上述した成形体比が1:2超、更に1:2.5以上の細長い圧粉成形体であっても、生産性よく製造できる。また、上述のように接触領域を具える分割ダイを一つとすると、分割ダイ同士の継ぎ目に起因するバリが無い表面性状に優れる圧粉成形体を製造できる。
【0021】
本発明の圧粉成形体の製造方法の一形態として、上記複数の分割ダイを組み合わせたとき、上記接触領域を具える分割ダイを最も上側に配置する形態が挙げられる。
【0022】
上記形態は、接触領域を有する分割ダイ、つまり離型コーティングが最も必要な分割ダイを最上位置に配置している。そのため、上記形態は、再成膜や交換などの必要が生じた場合でも、この分割ダイの取り外し、及び新たな離型コーティングを有する分割ダイの取り付けを容易に行えて、メンテナンス時の作業性に優れる。
【0023】
本発明の圧粉成形体の製造方法の一形態として、上記複数の分割ダイのうち、上側に配置する分割ダイの貫通孔の最小径が、その下側に隣接する分割ダイの貫通孔の最小径よりも、0mm超0.020mm以下の範囲で大きい形態が挙げられる。
【0024】
上記形態では、上下に隣接する分割ダイにおいて上側の分割ダイを、上記接触領域を有する分割ダイとし、下側の分割ダイは、成形に用いる下パンチのガイドに利用できる。特に、上記形態では、上側の分割ダイの貫通孔の最小径が上述の特定の範囲を満たすことで、この貫通孔に下パンチを挿入したとき、この貫通孔と下パンチと間に隙間が生じる。そのため、上記形態は、高圧成形時に下パンチが撓んでも、上記隙間によって、上側の分割ダイに具える貫通孔の内周面、特に接触領域に下パンチが接触し難く、又は実質的に接触せず、上側の分割ダイ、特に上記接触領域の離型コーティングやこの分割ダイの母材の損傷を抑制できる。
【0025】
本発明の圧粉成形体の製造方法の一形態として、上記離型コーティングの材質が、DLC、TiN、TiC、CrN、及びTi-X-N(但しXは、C,Al,Cr,Mo,及びWから選択される少なくとも1種の元素)から選択される少なくとも1種である形態が挙げられる。
【0026】
列挙した材質はいずれも、潤滑性や耐久性(特に、耐摩耗性)に優れる。従って、上記形態は、圧粉成形体を連続して大量に成形した場合にも、長期に亘り、ダイの焼き付きや圧粉成形体の表面性状の劣化を抑制でき、圧粉成形体を生産性よく製造できる。
【0027】
本発明の圧粉成形体の製造方法の一形態として、上記金属が、純鉄、又はNi,Cu,Cr,Mo,Mn,C,Si,Al,P,B及びCoから選択される1種以上の添加元素を含有する鉄合金から構成される形態が挙げられる。
【0028】
上記形態は、圧粉磁心や、機械部品などの一般構造用部品に利用される圧粉成形体を製造できる。
【0029】
本発明の圧粉成形体の製造方法の一形態として、上記粉末が軟磁性材料からなる金属粒子の表面に絶縁被覆が施された被覆粉末である形態が挙げられる。
【0030】
本発明の圧粉成形体の製造方法は、上述のように種々の材質の金属粉末を利用でき、上記形態のような被覆粉末も利用できる。本発明の圧粉成形体の製造方法は、離型コーティングが施された分割ダイを利用するため、潤滑性に優れることから、上記形態のように被覆粉末を用いた場合、被覆の損傷も低減できる。
【0031】
本発明の圧粉成形体の製造方法の一形態として、上記分割ダイが上記給粉空間を形成するインナーダイと上記インナーダイを保持するアウターダイとを具え、上記アウターダイが、上記分割ダイ同士が相互に嵌合する嵌合部を有する形態が挙げられる。
【0032】
上記形態は、再成膜や交換などの必要が生じた場合でも、給粉空間や接触領域を形成するインナーダイのみを取り外せばよく、アウターダイはそのまま再利用できる。そのため、設備コストを低減でき、上記形態は、圧粉成形体の生産性を向上できる。また、上記形態は、嵌合部を有することで、分割ダイ同士を容易に、かつ精度よく組み合わせられ、組立作業性に優れる。更に、嵌合部による相互の嵌合によって、分割ダイの組み合わせ状態を強固に維持できる。そのため、上記形態は、圧粉成形体を連続して大量に製造する場合でも、分割ダイ同士がずれ難く、圧粉成形体を精度よく製造できる。
【0033】
上記嵌合部を有する場合に、上記嵌合部の一部に、角部を面取りしたテーパ部を具えることができる。
【0034】
嵌合部の角部にテーパ部を有することで、直角な角部である場合と比較して、嵌合作業時に角部近傍の損傷を抑制できる。
【0035】
本発明の圧粉成形体として、上記本発明の圧粉成形体の製造方法により製造されたものを提案する。
【0036】
同じ成形用金型を用いて連続して大量生産を行う場合に本発明の圧粉成形体の製造方法を利用することで、成形初期に得られた本発明の圧粉成形体(例えば、n≦1,000個目の圧粉成形体)と、成形後期に得られた本発明の圧粉成形体(例えば、n≧10,000個目の圧粉成形体)とはいずれも、表面性状に優れる。好ましくは、両圧粉成形体が、実質的に同様な表面性状を有する。特に、本発明の圧粉成形体は、上述の成形体比が1:2超、更に1:2.5以上といった細長い場合でも、表面性状に優れる上に、生産性にも優れる。
【0037】
本発明の熱処理体として、上記本発明の圧粉成形体に熱処理を施したものを提案する。
【0038】
本発明の熱処理体は、表面性状に優れる上に、生産性にも優れる本発明の圧粉成形体を利用することで、表面性状に優れる上に、生産性にも優れる。上記熱処理は、加圧・圧縮によって金属に導入された歪みの低減・除去を目的の一つとしたものや、焼結などが挙げられる。従って、本発明の熱処理体とは、上述の歪みが低減・除去されたものや、焼結体が挙げられる。
【0039】
本発明の圧粉成形体や本発明の熱処理体は、一般構造用部品や、コイル部品の磁心に利用できる。そこで、本発明のコイル部品として、巻線を巻回してなるコイルと、このコイルが配置される磁心とを具え、上記磁心の少なくとも一部が本発明の圧粉成形体又は本発明の熱処理体であるものを提案する。
【0040】
本発明の圧粉成形体や本発明の熱処理体は、上述のように生産性に優れることから、本発明のコイル部品は、生産性に優れる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の圧粉成形体の製造方法は、細長い圧粉成形体であっても、生産性よく製造できる。本発明の圧粉成形体、本発明の熱処理体及び本発明のコイル部品は、生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。図において同一符号は、同一名称物を示す。まず、本発明の圧粉成形体の製造方法に利用する成形用金型を説明する。
【0044】
[成形用金型]
本発明の圧粉成形体の製造方法は、代表的には、貫通孔を具える環状のダイと、一対の柱状の第一パンチ及び第二パンチとを具える成形用金型を用いて、圧粉成形体を製造する。詳しくは、ダイの内周面の一部と、一方のパンチの一面(他方のパンチとの対向面)とで有底筒状の給粉空間を形成し、この給粉空間に原料の粉末を充填し、充填した原料の粉末を両パンチによって加圧・圧縮して圧縮物を成形する。ダイから圧縮物を抜き出すことで、圧縮物=圧粉成形体が得られる。以上の点は、従来の圧粉成形体の製造方法と同様である。特に、本発明の圧粉成形体の製造方法では、ダイをその軸方向に複数に分割し、複数の分割ダイを組み合わせた組物(積層物)を用いる。また、組み合わせた分割ダイがつくる貫通孔の内周面の少なくとも一部に離型コーティングを施す。
【0045】
図1を参照して、分割ダイの組物を具える成形用金型10を詳細に説明する。成形用金型10は、貫通孔11hを有する環状のダイ11と、貫通孔11hにそれぞれ挿入される一対の柱状の上パンチ12及び下パンチ13とを具える。
図1では、ダイ11のみ、縦断面を示す。
【0046】
(ダイ)
ダイ11は、その貫通孔11hの軸方向(
図1では上下方向)に複数に分割された分割ダイ(ここでは分割ダイ110,115)を組み合わせて、一体に形成される。各分割ダイ110,115はそれぞれ、貫通孔110h,115hを具える環状体である。これら分割ダイ110,115を組み合わせることで、複数の貫通孔110h,115hによって、連続する一つの貫通孔11hを形成する。ダイ11では、貫通孔11hの内周面のうち、複数の貫通孔110h,115hの内周面に亘って給粉空間を形成する。この給粉空間は、原料の粉末を圧縮するために上パンチ12と下パンチ13との間を狭めていくことで小さくなり、最終的に圧縮物を成形する成形空間を形成する。貫通孔11hの内周面の一部であって、成形空間を形成する領域は、圧縮物が接触する接触領域(ここでは、上側に配置する分割ダイ110の貫通孔110hの内周面における一部の領域)である。少なくともこの接触領域に、離型コーティング(図示せず)を施している。
【0047】
貫通孔11hの内周形状、径d(貫通孔11hの縦断面における対向する内周面間の距離)、深さD
a(貫通孔11hの軸方向に沿った長さ)は、成形する圧粉成形体の形状、大きさに合わせて選択することができる。
【0048】
例えば、貫通孔11hの深さ(合計深さ)D
aは、貫通孔11hの径dを1とするとき、2超とすることができる。即ち、径dと深さD
aとの合計深さ比d:D
a=1:2超(D
a>2×d)とすることができる。更に、合計深さ比d:D
aは、1:2.5以上、1:3以上、1:3.5以上、1:4以上とすることができる。このように貫通孔11hの径dに比して深さD
aが大きい場合、ダイ11は、通常のPVD法によって貫通孔11hの内周面の全域に離型コーティングを形成することが難しい細長いものといえる。しかし、本発明のように、複数の分割ダイに分割することで、分割ダイ一つ当たりの深さを小さくする(短くする)ことができる。
【0049】
ダイ11の分割数は、適宜選択することができる。
図1に示す例では、分割数が2の場合を示すが、3以上でもよい。複数の分割ダイを組み合わせてできる貫通孔の合計深さD
aを一定とする場合、分割数が多いほど、分割ダイ一つ当たりの深さD
monoを小さくしたり、分割ダイ一つ当たりの深さD
monoに対する貫通孔11hの開口部の径dの比を増大したり(開口部の径dを深さD
monoに比して大きくしたり)できる。つまり、この場合、分割ダイの貫通孔が短かったり、分割ダイの開口部が広かったりするため、貫通孔の内周面全域に亘って離型コーティングを形成可能な分割ダイを多く具えることができ、潤滑性を高められる。一方、合計深さD
aを一定とする場合、分割数が少ないほど、(1)分割ダイの組物の剛性の向上、(2)分割ダイ間のずれの低減、(3)組み付け工程の低減による作業性の向上を図ることができる。
【0050】
各分割ダイ110,115の貫通孔110h,115hの深さは、適宜選択することができる。特に、各分割ダイ110,115のうち、接触領域を有する分割ダイ(ここでは分割ダイ110)は、その貫通孔の最小径と、この貫通孔の深さとの比(単一深さ比)が1:4以下であること(ここでは、貫通孔110hの最小径dと深さD
uとがD
u≦4×dを満たすこと)が好ましい。この場合、接触領域を有する分割ダイの内周面の全域に亘って(ここでは貫通孔110hの内周面の全域に亘って)、PVD法によって離型コーティングを形成できる。但し、上述のように貫通孔の中央部分は、離型コーティングの付着状態が貫通孔の開口部近傍よりも劣る(開口部近傍が厚い膜、中央部分が薄い膜となる傾向にある)。そのため、接触領域を有する分割ダイの単一深さ比が小さいほど(貫通孔の最小径に比較して貫通孔の深さが小さいほど)、この分割ダイに具える貫通孔の内周面において、離型コーティングが良好に付着された領域を大きくできる。従って、生産性の更なる向上を望む場合には、単一深さ比は、1:3.5以下(D
u≦3.5×d)、更に1:3.0以下(D
u≦3.0×d)、特に1:2.5以下(D
u≦2.5×d)が好ましい。
【0051】
各分割ダイ110,115の単一深さ比は、等しくしてもよいし、異ならせてもよい。つまり、ダイ11の任意の位置に分割ダイ同士の継ぎ目を設けることができる。
図1に示す例では、接触領域を有しない下側の分割ダイ115の単一深さ比が、接触領域を有する上側の分割ダイ110の単一深さ比よりも大きい場合を示す。ここで、接触領域を有しない分割ダイは、圧縮物(圧粉成形体)の成形に与える影響は少ないため、離型コーティングを有しない領域があってもよく、離型コーティングが全く無くてもよい。従って、接触領域を有しない分割ダイ(ここでは下側の分割ダイ115)の単一深さを大きくすることができる(例えば、1:4超)。分割数が3以上の場合、単一深さ比が異なる2個以上の分割ダイを有する形態とすることができる。
【0052】
ダイ11の貫通孔11hにおける接触領域は、複数の分割ダイによって形成することができる。例えば、上側の分割ダイ110に具える貫通孔110hの内周面の一部と、分割ダイ115に具える貫通孔115hの内周面の一部とで形成することができる。分割数が3以上の場合には、2個以上の分割ダイの貫通孔の内周面によって、接触領域を形成することができる。例えば、分割数が4である場合、中間位置の2個の分割ダイに接触領域を設けて、この2個の分割ダイを成形ダイに利用する形態が挙げられる。但し、複数の分割ダイによって接触領域を構築すると、分割ダイ同士の継ぎ目に起因するバリが圧縮物に形成され得る。バリが形成された場合、外観の向上などを考慮すると、バリを除去することが望まれ、除去工程の増加による生産性の低下を招く恐れがある。従って、更なる生産性の向上を考慮すると、接触領域は、単一の分割ダイで形成することが好ましい。ここでは、上側の分割ダイ110に具える貫通孔110hの内周面にのみ接触領域を具える。
【0053】
接触領域を具える分割ダイは、ダイ11の任意の位置に配置することができる。
図1に示す例では、接触領域を具える分割ダイは(最も)上側の分割ダイ110としているが、下側の分割ダイ115とすることもできる。分割数が3以上の場合には、接触領域を具える分割ダイは上側の分割ダイ、真ん中の分割ダイ、下側の分割ダイのいずれでもよい(上述のように複数の分割ダイでもよい)。特に、複数の分割ダイを組み合わせたとき、接触領域を具える分割ダイを最も上側に配置する形態とすると、接触領域を具える分割ダイの取り外しや取り付けを行い易い。ここで、接触領域を具える分割ダイは、上述のように離型コーティングを必ず具えるものとすることから、経時的に離型コーティングの再成膜や交換が必要になる。交換などが必要となる分割ダイが最も上側に位置する形態は、この分割ダイの取り外しにあたり、残りの分割ダイを取り外す必要がなく、交換などの作業性に優れる。
【0054】
ダイ11の貫通孔11hの内周形状は、例えば、円筒状(貫通孔11hの平面輪郭が円形状)、矩形などの多角筒状(貫通孔11hの平面輪郭が多角形状)などが挙げられる。上記の場合、円柱状の圧粉成形体、角柱状の圧粉成形体が得られる。内周形状は、代表的には、貫通孔11hの全長に亘って実質的に等しい形態が挙げられる。
図1では、分割ダイ110,115の貫通孔110h,115hの内周形状が等しい場合(貫通孔11hの全長に亘って内周形状が等しい場合)を示す。また、ここでは、内周形状を円筒状としている。なお、本発明では、複数の分割ダイ110,115を組み合わせて貫通孔11hを形成することから、各分割ダイ110,115の貫通孔110h,115hの内周形状を上パンチ12や下パンチ13が挿通可能な範囲で異ならせることもできる。内周形状を異ならせた場合、単純なストレート形状だけでなく、ある程度複雑な多段形状(凹凸形状)の成形を行うことができる。分割数が3以上の場合、内周形状が異なる2個以上の分割ダイを有する形態とすることができる。
【0055】
ダイ11の貫通孔11hの径dは、
図1に示す例のように、その全長に亘って等しくすることができる。この場合、各分割ダイ110,115の貫通孔110h,115hの径を等しくする。その他、上パンチ12や下パンチ13の挿入性などを考慮して、上パンチ12や下パンチ13が挿入される開口部及びその近傍のみ、径を大きくすることができる。例えば、後述する
図3に示す例では、下側の分割ダイ115に具える貫通孔115hのうち、下側の開口径d
doが、上側の開口径d
dやその軸方向の中央部分の径d
dよりも大きい場合を示す。
【0056】
本発明では、複数の分割ダイ110,115を組み合わせて貫通孔11hを形成することから、各分割ダイの貫通孔110h,115hの径を異ならせることで、貫通孔11hの径を部分的に異ならせることも容易に行える。例えば、
図3に示す例では、上側の分割ダイ110の貫通孔110hの径d
uが、下側の分割ダイ115の貫通孔115hの径d
dよりも若干大きい場合を示す。なお、上側の分割ダイ110の径d
uは、全長に亘って一様であり(最小径=d
u)、下側の分割ダイ115の径d
dは、上述の下側の開口部近傍を除いて、全長に亘って一様である(最小径=d
d)。
【0057】
特に、上側の分割ダイ110の径d
uを隣接する下側の分割ダイ115の径d
dよりも0mm超0.020mm以下の範囲で大きくすることができる(上下に隣接する分割ダイの径差を0mm超0.020mm以下とすることができる)。上下に隣接する分割ダイの径差が大き過ぎると、圧粉成形体の端面に形成されるバリが大きくなる。従って、上記径差を0.020mm以下とすることで、上側の分割ダイ110の貫通孔110hを成形空間に利用して、圧粉成形体の端面に大きなバリを生じさせることなく圧粉成形体を製造できる。上記径差が小さいほど、圧粉成形体の端面に形成され得るバリが小さくなることから、上記径差を0.010mm以下とすることができる。一方、下側の分割ダイ115は、下パンチ13(
図1)のガイドに利用できる。下パンチ13を上側の分割ダイ110の貫通孔110hに挿入したとき、貫通孔110hの内周面と下パンチ13の外周面との間に隙間gを有することができる(g≦0.010mm)。この微小な隙間g(
図3では隙間gを強調して示す)の存在によって、成形時の圧力を高くする場合(例えば、600MPa以上)に下パンチ13が撓んでも、上側の分割ダイ110の貫通孔110hの内周面に下パンチ13が接触することを抑制できる。上記径差が0.020mm以下の範囲で大きいほど、上述の接触を回避し易い。分割数が3以上の場合にも、上下に隣接する分割ダイの径の大きさを0mm超0.020mm以下の範囲で異ならせ、上側の分割ダイほど、径が大きい形態とすることができる。また、分割数が3以上の場合、上下に隣接する分割ダイであって、貫通孔の径が異なる2個以上の分割ダイを有する形態とすることができる。
【0058】
離型コーティングの材質は、種々のものが利用できる。特に、DLC、TiN、TiC、CrN、及びTi-X-N(但しXは、C,Al,Cr,Mo,及びWから選択される少なくとも1種の元素)から選択される少なくとも1種が挙げられる。離型コーティングは、単層膜とすることもできるし、多層膜とすることもできる。多層膜の場合、同一材質のみとしてもよいし(例えば、同一材質であるが硬度や結晶構造などが異なる層を具える形態など)、同一材質の層を含んでもよいし、全ての層を異種の材質としてもよい。列挙した材質の離型コーティングは、潤滑性と耐久性(特に耐摩耗性)に優れる上に、超硬合金などで構成されるダイ11との密着性にも優れる。各材質の特性を更に述べると、DLCは、低摩擦で高硬度であることから、潤滑性及び耐摩耗性に優れる。TiNは、耐摩耗性が高く、汎用性にも優れている。Ti-C-NやTiCは、低摩擦で高硬度である。Ti-Al-Nは、高硬度である上に、耐熱性にも優れる。CrNは、密着力が高い上に、耐熱性にも優れる。Ti-Mo-Nは、厚い膜を形成し易く、厚い膜とすることで、摩耗による消耗を低減でき、耐摩耗性に優れる。Ti-Cr-Nは、高硬度である。離型コーティングは、公知のPVD法、特にスパッタリング法を好適に利用できる。所望の厚さとなるように、成膜条件を調整するとよい。母材と離型コーティングとの密着力を向上させるために、下地層を適宜成膜することもできる。離型コーティングの最小厚さは、0.1μm程度、最大厚さは20μm程度が挙げられる。接触領域に具える離型コーティングは、その厚さを0.3μm以上15μm以下程度とすることが好ましい。
【0059】
離型コーティングは、上述のように接触領域(ここでは上側の分割ダイ110に具える貫通孔110hの内周面の一部)に具えていればよいが、接触領域を有する分割ダイの貫通孔の内周面全域に亘って具えることが好ましい。接触領域を有しない分割ダイは、離型コーティングの有無を問わない。
【0060】
一つの分割ダイに対して離型コーティングを施す場合、単一材質とすると、成膜が容易であるが、一つの分割ダイに対して、異なる材質の離型コーティングを部分的に施すこともできる。例えば、分割ダイ同士が接触する箇所にも離型コーティングを施す場合に、ダイの貫通孔の内周面に施す材質と、上記接触する箇所の材質とをそれぞれ異ならせ、最適な機能をもたらす材質を選択することができる。全ての分割ダイに離型コーティングを施す場合、異なる材質の離型コーティングを具える分割ダイを具えることができる。
【0061】
各分割ダイ110,115は、
図3に示すように、給粉空間を形成するインナーダイ111,116と、インナーダイ111,116を保持するアウターダイ112,117とを具える形態とすることができる。つまり、インナーダイ111,116にのみ、原料の粉末や圧縮物に接触する貫通孔110h,115hを具える。一つの分割ダイをインナーダイとアウターダイとの組物によって形成することで、離型コーティングの剥離や貫通孔の焼き付きが生じ得るインナーダイ(ここではインナーダイ111)のみを交換可能になる。アウターダイ112,117は、圧粉成形体の成形に直接関与しないため、上述の焼き付きなどが生じ得ず、長期に亘り利用することができる。なお、
図3では、分割ダイ110,115が非接触の状態を示す。
【0062】
インナーダイ111,116の貫通孔110h,115hに関する事項(合計深さ比、単一深さ比、接触領域、内周形状、径d
u,d
dなど)は、上述の通りである。インナーダイ111,116及びアウターダイ112,117の形状は、適宜選択することができる。ここでは、上側の分割ダイ110を形成するインナーダイ111,アウターダイ112をいずれも環状体(ここでは円筒状体)とし、インナーダイ111の外周にアウターダイ112を同軸状に嵌め合せて、一つの分割ダイ110を形成する。下側の分割ダイ115を形成するインナーダイ116は、環状体(ここでは円筒状体)とし、アウターダイ117は、環状のインナーダイ116を収納する凹部を有する有底筒状体(ここでは底部に貫通孔115hの一部を有する有底円筒状体)としている。そして、アウターダイ117の凹部にインナーダイ116を嵌め込むことで、一つの分割ダイ115を形成する。
【0063】
インナーダイ111,116の形状は、代表的には、上述のように円筒状が挙げられるが、楕円筒状や半円筒状、角筒状、十字状(外周輪郭)、T字状(外周輪郭)といった対称形状でも、L字状(外周輪郭)といった非対称形状でもよい。その他、インナーダイ111,116の外周輪郭(稜線)は、直線のみで構成される形状や曲線のみで構成される形状、直線と円弧や楕円弧といった曲線とを組み合わせた形状でもよい。円筒状、正n角筒状(好ましくはn≧4)などのように外周形状を対称形状とすると、インナーダイ111,116が成形圧力の一部を受ける場合でも、この圧力をアウターダイ112,117に放射状に均一に分散でき、アウターダイ112,117もその全体に亘って均一的に圧力を受けられる。また、インナーダイとアウターダイとは相互に係合部を具えると、両者の位置決めを精度よく行える上に、強固に係合できて好ましい。
図3に示す例では、例えば、上側の分割ダイ110を形成するインナーダイ111の外周形状及びアウターダイ112の内周形状を段差形状とし、この段差部分(図示せず)を係合部とすることができる。下側の分割ダイ115を形成するインナーダイ116は、その外周面と一端面(
図3では下面)とがアウターダイ117の凹部の内周面と内底面とで支持される。つまり、分割ダイ115では、インナーダイ116の外周面及び一端面と、アウターダイ117の凹部の内面とが係合部として機能する。
【0064】
各分割ダイ110,115は、相互に嵌合する嵌合部(以下、ダイ嵌合部と呼ぶ)を有することが好ましい。特に、アウターダイ112,117を具える形態では、各アウターダイ112,117に上記ダイ嵌合部を具えることが好ましい。インナーダイ111,116に上記ダイ嵌合部を具えてもよいが、直接成形に利用する貫通孔110h,115hを有しないアウターダイ112,117に上記ダイ嵌合部を具える方が、上記ダイ嵌合部の形状、形成位置、個数などの自由度が高い。
【0065】
上記ダイ嵌合部の形状は特に問わない。ここでは、上側のアウターダイ112において、下側のアウターダイ117との対向側(
図3では下側)に嵌合凹部113を設け、下側のアウターダイ117において、上側のアウターダイ112との対向側(
図3では上側)に嵌合凸部118を設けている。嵌合凹部113は有天面の円筒状、嵌合凸部118は円柱状としているが、有天面の角筒状と角柱状との組み合せなどとすることができる。また、凹と凸とを上下入れ替えることもできる。更に、上記ダイ嵌合部を構成する角部の一部にC面取り又はR面取りなどの面取りを行って、テーパ部を具えることができる。
図3では、嵌合凹部113において天面と内周面とがつくる角部にテーパ部113t、嵌合凸部118において一端面と外周面とがつくる角部にテーパ部118tを具える状態を仮想して示す(一点鎖線で示す)。つまり、上記ダイ嵌合部は、円錐台状の凹部と凸部との組み合せ、角錐台状の凹部と凸部との組み合せなどとすることもできる。
【0066】
図3に示す例では、インナーダイ111の端面(
図3では下面)と嵌合凹部113の天面とを面一とし、インナーダイ116の端面(
図3では上面)と嵌合凸部118の端面とを面一としている。このように面一とすることで、インナーダイ111,116の端面の全面、及び嵌合凹部113の天面全面と嵌合凸部118の端面全面とが接触できる。そのため、分割ダイ110,115が嵌合した状態における平行度や、ダイ11全体の剛性が高くなる効果が期待できる。その他、アウターダイに対して、インナーダイの一部を突出させることもできる。この場合、例えば、インナーダイとアウターダイとが異なる材料で構成されていても、異種材料の熱膨張差に起因する隙間の発生を抑制できる。なお、インナーダイ111,116において少なくとも接触する一端面は、同じ形状・同じ大きさ(同じ径及び面積)としている。
【0067】
分割数が3以上である場合、中間に配置される分割ダイは、上側の分割ダイ115と同様に、インナーダイとアウターダイとが同軸状に嵌め合せた形態が好適に利用できる。また、中間に配置される分割ダイに具える上記ダイ嵌合部は、上述のようにアウターダイに設けることが好ましい。
【0068】
ダイ11(インナーダイ111,116)の構成材料は、超硬合金や工具鋼といった硬質材料を好適に利用できる。アウターダイ112,117の構成材料は、合金工具鋼などの高強度な材料が好適に利用できる。その他、公知の材料を利用できる。
【0069】
(上パンチ・下パンチ)
成形用金型10に具える柱状の上パンチ12及び下パンチ13は、貫通孔11hの内周形状に応じた適宜な形状の柱状体を利用できる(ここではいずれも円柱状)。上パンチ12及び下パンチ13の構成材料には、従来、金属の粉末を用いた圧粉成形体の成形に利用されている適宜な材料、例えば、超硬合金や高速度鋼などの高強度な材料が利用できる。
【0070】
成形用金型100による成形には、両押し形式、片押し形式のいずれの形式も利用できる。両押し形式とは、代表的には、上パンチ12と下パンチ13との双方が相対的に移動して、原料の粉末を圧縮する形式であり、下パンチが稼動せず、フローティングダイと上パンチとの相対速度差を利用する形態も含む。両押し形成では、圧縮物の密度のばらつきの低減(密度バランスの向上)、成形圧力の低減(圧密性の向上)などを図ることができる。片押し形式とは、代表的には、一方のパンチを固定した状態で他方のパンチのみを移動して、原料の粉末を圧縮する形式であり、下パンチが稼動せず、フローティングダイと上パンチとが同速度で稼動する形態も含む。パンチとダイとは相互に移動可能であればよく、フローティングダイのようにダイ11を移動することもできる。この例に示すように接触領域を具える分割ダイを(最も)上側に配置する場合、片押し形式(特に下押し形式)が利用し易い。分割数が3以上の場合に接触領域を具える分割ダイが真ん中などの中間に位置する形態では、両押し形式が利用し易い。
【0071】
[原料の粉末]
本発明の圧粉成形体の製造方法は、金属からなる圧粉成形体の製造に好適に利用できる。従って、原料の粉末100(
図2)は、金属粉末が挙げられる。具体的な金属は、例えば、純鉄(99質量%以上がFe)、鉄を主成分とする鉄合金が挙げられる。鉄合金の添加元素は、例えば、Ni,Cu,Cr,Mo,Mn,C,Si,Al,P,B,N及びCoから選択される1種以上が挙げられる。特に、磁心に利用する圧粉成形体を製造する場合、純鉄などの軟磁性金属粉末を好適に利用できる。また、磁心に利用する圧粉成形体を製造する場合、鉄合金は、Fe-Si系合金,Fe-Al系合金,Fe-N系合金,Fe-Ni系合金,Fe-C系合金,Fe-B系合金,Fe-Co系合金,Fe-P系合金,Fe-Ni-Co系合金,Fe-Al-Si系合金などが挙げられる。特に、機械部品などの一般構造用部品(焼結体)に利用する圧粉成形体を製造する場合、鉄合金は、ステンレス鋼、Fe-C系合金,Fe-Cu-Ni-Mo系合金,Fe-Ni-Mo-Mn系合金,Fe-P系合金,Fe-Cu系合金,Fe-Cu-C系合金,Fe-Cu-Mo系合金,Fe-Ni-Mo-Cu-C系合金,Fe-Ni-Cu系合金,Fe-Ni-Mo-C系合金,Fe-Ni-Cr系合金,Fe-Ni-Mo-Cr系合金,Fe-Cr系合金,Fe-Mo-Cr系合金,Fe-Cr-C系合金,Fe-Ni-C系合金,Fe-Mo-Mn-Cr-C系合金などが挙げられる。
【0072】
粉末100を構成する粒子の大きさは適宜選択することができる。例えば、平均粒径が10μm以上500μm以下程度であると、成形圧力を過度に大きくすることなく、成形できて好ましい。特に、磁心に利用する圧粉成形体を製造する場合には、平均粒径が30μm以上300μm以下程度であると、(1)流動性に優れる、(2)磁心のヒステリシス損を低減できる、(3)磁心を高周波数で使用した場合でも渦電流損を低減できる、という効果を奏する。特に、一般構造用部品に利用する圧粉成形体を製造する場合には、平均粒径が50μm以上300μm以下程度であると、形状や寸法の精度に優れることと強度に優れることとを両立できるといった効果が期待できる。上記平均粒径は、50%粒径(質量)をいう。
【0073】
粉末100は、金属粒子のみから構成されるものの他、金属粒子の表面に被覆を具える被覆粉末を利用できる。被覆の構成材料は、適宜選択することができる。例えば、絶縁被覆を望む場合、被覆の構成材料は、絶縁材料が好ましい。具体的な絶縁材料は、金属元素を含む化合物が挙げられる。例えば、Fe,Al,Ca,Mn,Zn,Mg,V,Cr,Y,Ba,Sr,及び希土類元素(Yを除く)などから選択された1種以上の金属元素と、酸素、窒素、及び炭素から選択された1種以上の化合物(例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物)、その他、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物などが挙げられる。非金属元素を含む化合物として、例えば、燐化合物、珪素化合物などが挙げられる。その他、金属元素や非金属元素を含む絶縁材料として、金属塩化合物、例えば、燐酸金属塩化合物(代表的には、燐酸鉄や燐酸マンガン、燐酸亜鉛、燐酸カルシウムなど)、硼酸金属塩化合物、珪酸金属塩化合物、チタン酸金属塩化合物などが挙げられる。燐酸金属塩化合物は変形性に優れることから、燐酸金属塩化合物による被覆を具えると、圧粉成形体の成形時、この被覆は、金属粒子の変形に追従して容易に変形して損傷し難く、被覆が健全な状態で存在する圧粉成形体を得易い。また、燐酸金属塩化合物による被覆は、鉄系材料からなる金属粒子に対する密着性が高く、金属粒子の表面から脱落し難い。
【0074】
上記以外の絶縁材料として、熱可塑性樹脂や非熱可塑性樹脂といった樹脂や高級脂肪酸塩などが挙げられる。特に、シリコーン樹脂といったシリコーン系有機化合物は、耐熱性に優れることから、得られた圧粉成形体(圧縮物)に熱処理を施した際にも分解し難い。
【0075】
上記被覆の形成には、例えば、燐酸塩化成処理といった化成処理、溶剤の吹きつけ、前駆体を用いたゾルゲル処理などが利用できる。シリコーン系有機化合物の被覆を形成する場合、有機溶剤を用いた湿式被覆処理や、ミキサーによる直接被覆処理などを利用できる。
【0076】
上記被覆の厚さは、例えば、10nm以上1μm以下が挙げられる。上記厚さが10nm以上であると、金属粒子間の絶縁を確保でき、絶縁被覆として良好に機能できる。上記厚さが1μm以下であると、被覆の存在に伴う圧粉成形体中の金属成分の割合の低下を抑制できる。被覆の厚さは、組成分析(透過型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分光法を利用した分析装置(TEM-EDX))により得られる膜組成と、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)により得られる元素量とを鑑みて相当厚さを導出し、更に、TEM写真により直接、被覆を観察して、先に導出された相当厚さのオーダーが適正な値であることを確認して決定される平均的な厚さとする。
【0077】
その他、原料の粉末100には、潤滑剤を添加することができる。潤滑剤は、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウムなどの金属石鹸、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドなど、その他、窒化硼素やグラファイトなどの無機物が挙げられる。潤滑剤を添加することで、成形時の潤滑性を更に高められる。潤滑剤の添加量は、金属粉末と潤滑剤との合計を100質量%とするとき、0.1質量%以上2.0質量%以下程度が好ましい。この範囲を満たすことで、潤滑剤の添加による潤滑性の向上効果が十分に得られ、かつ圧粉成形体における金属成分の割合の低下を抑制できる。潤滑剤は、粉末状でも液状でもよい。なお、原料の粉末100は、上述の金属を主体とし、不可避不純物を含むことを許容する。
【0078】
[圧粉成形体の製造方法]
次に、
図2を参照して本発明の圧粉成形体の製造方法を説明する。
【0079】
(組立工程)
各分割ダイ110,115を用意する。特に、接触領域を有する分割ダイ110には、その貫通孔110hの内周面において少なくとも接触領域に、離型コーティングを形成する。これら分割ダイ110,115を積み重ねてダイ11を構築する。こうすることで、複数の分割ダイ110,115の貫通孔110h,115hが連通する細長い貫通孔11hを形成できる。
【0080】
(充填工程)
この貫通孔11hに下パンチ13を挿入し、下パンチ13の一端面(
図2では上面)が貫通孔11hの所定の位置に配置されるように、下パンチ13を移動する。こうすることで、貫通孔11hの内周面の一部と下パンチ13の一端面とで、給粉空間を形成できる。特に、本発明では、複数の分割ダイ110,115の貫通孔110h,115hによって、
図2(A)に示すように細長い給粉空間を形成できる。ここでは、給粉空間の径dと深さD
100との比を1:9としている。なお、上パンチ12は、ダイ11の上方の所定の待機位置に移動する。そして、図示しない給粉装置によって、給粉空間に原料の粉末100を充填する。
【0081】
(加圧・圧縮工程)
図2(B)に示すように、上パンチ12を下方に移動して、ダイ11の貫通孔11hに挿入して、上パンチ12と下パンチ13により、粉末100を加圧・圧縮する。ここでは、上パンチ12を貫通孔11h(110h)に少しだけ挿入した状態で固定し、下パンチ13を上方に移動して圧縮する下押し形式を示す。両パンチ12,13の移動に伴い、給粉空間は小さくなり、最終的に圧縮物(圧粉成形体1)の高さH
1に応じた深さD
1を有する空間となる。分割ダイ110の貫通孔110hの内周面において、この深さD
1を有する空間を形成する領域は、圧縮物(圧粉成形体1)との接触領域となる。
【0082】
成形圧力は、適宜選択することができる。磁心に利用する圧粉成形体を製造する場合、成形圧力は、390MPa以上1500MPa以下(好ましくは500MPa以上1300MPa以下)が挙げられる。390MPa以上とすることで、原料の粉末100を十分に圧縮でき、圧粉成形体の相対密度を高められる。1500MPa以下とすることで、粉末100が被覆粉末である場合でも、被覆の損傷を抑制できたり、成形用金型10の寿命を大きく損ねることなく成形することが可能となったりする。一般構造用部品に利用する圧粉成形体を製造する場合、成形圧力は300MPa以上1000MPa以下が挙げられる。
【0083】
(取出工程)
所定の加圧を行った後、ダイ11から圧縮物を取り出すことで、
図2(C)に示す圧粉成形体1が得られる。ここでは、圧粉成形体1は、円柱状であり、直径d
1と高さH
1との比(=成形体比)が1:3.5である。
【0084】
連続して成形を行う場合、n個目の圧粉成形体1を成形用金型10から取り除いたら、次のn+1個目の圧粉成形体を形成するにあたり、上述した給粉空間の形成→原料の粉末の充填→加圧・圧縮→取り出しを繰り返し行うとよい。本発明の圧粉成形体の製造方法を利用することで、成形体比が1:2超といった細長い圧粉成形体1を連続して大量に製造できる。また、この圧粉成形体1は表面性状に優れる。
【0085】
なお、成形用金型10を適宜な温度に加熱して、又は冷却して成形することができる。ある程度加熱すると、原料の粉末100を構成する金属の塑性変形性を高めて、成形性を向上できることがある。粉末100の材質に応じて、加熱温度を選択することができる。連続して成形を行う場合、成形用金型10が摩擦熱によって加熱されて、室温(代表的には20℃程度)よりも高い温度になる(例えば、40℃〜50℃程度)。従って、経時的な使用では、所望のときに加熱又は冷却を行うことができる。
【0086】
[圧粉成形体及び熱処理体]
得られた圧縮物は、そのままでも利用できる(本発明の圧粉成形体の一形態)。又は、圧縮物には、熱処理を施して熱処理体とすることもできる(本発明の熱処理体)。特に、圧粉成形体1を磁心に利用する場合、熱処理を施すことで、成形時に導入された歪みを低減・除去して、磁心のヒステリシス損を低減でき、低損失な磁心を構築できる。この場合の熱処理の温度は、高いほどヒステリシス損を低減できるが、高過ぎると、粉末100が被覆粉末の場合、被覆が熱分解されることがある。そのため、この場合の熱処理の温度は、例えば、被覆の構成材料の熱分解温度未満の範囲とすることができる。具体的には、温度は300℃以上700℃以下程度、保持時間は5分以上60分以下程度が挙げられる。被覆が上述した燐酸鉄や燐酸亜鉛などの非晶質燐酸塩からなる場合、上記温度は500℃程度までが好ましい。被覆が金属酸化物やシリコーン樹脂などの耐熱性に優れる絶縁材料からなる場合、上記温度は550℃以上、更に600℃以上、特に650℃以上に高められる(但し、好ましくは700℃以下)。特に、圧粉成形体1を機械部品などの一般構造用部品に利用する場合、被覆を有しない裸粉末(金属粒子のみの粉末)を用い、焼結を目的とした熱処理を行う。この熱処理により、焼結現象を経て金属粒子間が強固に結合して、高強度化を期待できる。この場合の熱処理(焼結)の温度は、焼結に必要な温度を適宜選択することができ、例えば、1000℃以上、更に1100℃以上、特に1200℃以上が挙げられる。
【0087】
圧粉成形体1や上記熱処理体は、種々の形状、大きさを取り得る。特に、上述の成形体比が1:2超、更に1:2.5以上の細長い形態が挙げられる。
【0088】
[コイル部品]
上記熱処理体や圧粉成形体1は、上述のようにコイル部品の磁心やその素材に好適に利用できる。コイル部品は、巻線を巻回してなるコイルと、このコイルが配置される磁心とを具える。巻線は、導体の外周に絶縁層を具えるものが挙げられる。導体は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの導電性材料から構成される線材が挙げられる。絶縁層の構成材料は、エナメルや、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、シリコンゴムなどが挙げられる。公知の巻線を利用できる。磁心の形態は、代表的には、柱状体や環状体が挙げられる。複数の圧粉成形体1や上記熱処理体を組み合わせることで、種々の大きさの柱状の磁心や環状の磁心を構築できる。磁心の全てを圧粉成形体1や上記熱処理体で形成することもできるし、磁心の一部のみを圧粉成形体1や上記熱処理体で形成することもできる。後者の場合、別の磁心部材を組み合わせるとよい。ギャップ材やエアギャップを有する磁心とすることもできる。
【0089】
[一般構造用部品]
上記焼結を施した熱処理体は、機械部品などの種々の一般構造用部品(焼結部品)に好適に利用できる。圧粉成形体1は、上記一般構造用部品の素材に好適に利用できる。
【0090】
[試験例1]
種々の方法で細長い圧粉成形体を連続して製造し、量産性を調べた。
【0091】
ここでは、原料の粉末として、市販の鉄系粉末(平均粒径250μm程度)を用いた。この原料には、上記の鉄系粉末に加えて潤滑剤を添加した。添加量(鉄系粉末と潤滑剤との合計量に対する質量割合)を表1に示す。潤滑剤は、市販の脂肪酸アミドを用いた。そして、直径10mm、高さ35mm、成形体比が1:3.5である圧粉成形体(円柱体)を製造した。成形圧力は、いずれの試料も1000MPaとした。
【0092】
試料No.1-100は、
図4に示すような細長いダイを用い(一体金型)、ダイの貫通孔内に離型コーティングを施さないで成形を行った(被覆なし)。貫通孔は全長に亘って一様な径とし、径と深さとの比は、1:9とした。試料No.1-200は、試料No.1-100と同様に
図4に示すような細長いダイを用いて成形を行った。但し、試料No.1-200は、ダイの貫通孔内に離型コーティングを施した(被覆有り)。その結果、貫通孔の開口部近傍には離型コーティングを形成できたが、貫通孔の中央部分には離型コーティングが実質的に形成できなかった。
【0093】
試料No.1-1は、
図1,
図3に示すようなダイをその軸方向に複数に分割し、複数の分割ダイを組み合わせた組物のダイを用いた(分割金型)。ここでは、
図3に示すように各分割ダイがインナーダイとアウターダイとで形成されるものとした。また、ここでは、分割数を2とし、接触領域を有する分割ダイを上側に配置する分割ダイのみとした。この上側の分割ダイの貫通孔(インナーダイの貫通孔)について、単一深さ比は、1:3.6(1:4以下)とし、その内周面の全域に離型コーティングを施した(被覆有り)。下側の分割ダイにも離型コーティングを施したが、両開口部付近にのみに離型コーティングが成膜されており、分割ダイの中央部分付近には離型コーティングが実質的に施されていないことを確認した。また、給粉空間について、径と深さとの比を1:9とした。
【0094】
使用した離型コーティングの材質は、試料No.1-1,No.1-100のいずれもDLCとし、公知のスパッタリング法で二層に形成した。試料No.1-1は、下押し形式で成形を行った。試料No.1-100,No.1-200は、両押し形式で成形が可能であるが、試料No.1-1と同条件とするため下押し形式で成形を行った。
【0095】
得られた圧粉成形体の表面性状を目視にて確認し、ムシレなどの劣化箇所がある圧粉成形体が形成されたとき、ダイの寿命と判断し、ダイの寿命に達するまでの圧粉成形体の成形個数を測定した。ここでは、試料ごとに、n=3のダイを用意して、成形個数の最大値を調べた。その結果を表1に示す。最大値が大きいほど、離型コーティングの再成膜や交換の頻度を低減でき、量産性に優れるといえる。
【0096】
また、試料ごとに、1,000個目までは100個ごとに、1,000個目以降は500個ごとに成形で得られた圧粉成形体の表面粗さRaを測定した。その結果を表1に示す。表面粗さRa(算術平均粗さ)は、株式会社ミツトヨ製表面粗さ測定機を用いて、JIS B 0601(2001)に準拠して行った。
【0098】
表1に示すように、成形体比が1:2超である圧粉成形体を製造するにあたり、給粉空間を複数の分割ダイで形成する本発明の圧粉成形体の製造方法を利用した場合、ムシレなどが無く、表面性状に優れる圧粉成形体を連続して大量に製造可能であることが分かる。ここでは、表面性状に優れる細長い圧粉成形体を2,000個以上連続して成形可能なことが分かる。また、50,000個成形した後でも、表面粗さRaが小さいことが分かる(ここでは、5.0μm以下)。この点からも、本発明の圧粉成形体の製造方法を利用することで、表面性状に優れる細長い圧粉成形体を連続して大量に製造可能であることが分かる。
【0099】
また、表1に示すように、本発明の圧粉成形体の製造方法の利用に加えて、原料の粉末に潤滑剤を添加すると、更に、表面性状に優れる細長い圧粉成形体を連続して成形可能な個数を増加できることが分かる。つまり、潤滑剤の併用は、細長い圧粉成形体の生産性を向上できることが分かる。潤滑剤の含有量を増加すると、成形個数を更に増加でき、細長い圧粉成形体の生産性を更に向上できることが分かる。
【0100】
一方、離型コーティングが無い場合はもちろん、離型コーティングがあっても、細長いダイを用いた場合には、圧粉成形体、特に細長い圧粉成形体を連続的に大量に生産することには限界があることが分かる。潤滑剤を利用することで、多少、成形個数を増加できるものの、その効果は小さいといえる。潤滑剤の含有量を著しく増加すれば、成形個数を飛躍的に増加できる。しかし、この場合、成形密度の低下や、熱処理によって潤滑剤の除去(脱バインダ)を行う場合に熱処理炉における潤滑剤の処理能力を超える、などの問題が発生する。
【0101】
[試験例2]
種々の材質の金属粉末を用いて、種々の方法で細長い圧粉成形体を連続して製造し、量産性を調べた。
【0102】
ここでは、原料の粉末として、純鉄粉、鉄合金粉末を用意した(いずれも市販品)。各試料に用いた金属粉末の材質、粒度(平均粒径、μm)を表2に示す。また、一部の試料については、上記純鉄又は鉄合金からなる金属粒子の表面に絶縁被覆を施した被覆粉末を用いた。被覆粉末を用いた試料について、被覆の材質を表2に示す。純鉄粉については、市販の被覆を有する粉末を用い、鉄合金粉については、公知の手法で被覆を形成した。各粉末には、試験例1と同様の潤滑剤を添加した。潤滑剤の含有量(質量%)を表2に示す。そして、成形体比が表3に示す値である圧粉成形体をそれぞれ製造した(直径10mmの円柱体)。成形圧力は、500MPa〜1200MPaから選択した。
【0103】
試料No.2-100,No.2-200はいずれも、試料No.1-100と同様に、一様な径を有する貫通孔を具える細長いダイを用い(一体金型)、ダイの貫通孔内に離型コーティングを施さないで成形を行った。
【0104】
試料No.2-1〜No.2-8はいずれも、試料No.1-1と同様に、複数の分割ダイを組み合わせた組物のダイを用いて、給粉空間を複数の分割ダイで形成し、成形を行った。表2に示す分割数が2の試料は、試料No.1-1と同様に、2個の分割ダイの組物を用いた。分割数が3の試料No.2-2は、3個の分割ダイの組物、分割数が4の試料No.2-4は、4個の分割ダイの組物を用いた。各試料に用いた分割ダイのうち、離型コーティングを施した分割ダイを表2に示す。表2において、離型コーティングの形成箇所が上側の試料は、試料No.1-1と同様に、上側に配置された分割ダイに離型コーティングを施し、この上側の分割ダイを成形ダイ、つまり、上述の接触領域を有するものとした。離型コーティングの形成箇所が中央である試料No.2-2は、3個の分割ダイのうち、真ん中に配置される分割ダイに離型コーティングを施し、この真ん中の分割ダイを成形ダイとした。形成箇所が中央上側である試料No.2-4は、4個の分割ダイを上から順に、最上側、中央上側、中央下側、最下側と呼ぶとき、上から二つ目の中央上側の分割ダイにのみ離型コーティングを施し、この中間位置の1個の分割ダイを成形ダイとした。つまり、試料No.2-4も、1個の分割ダイの貫通孔によって上述の接触領域が形成され、この分割ダイと残りの3個の分割ダイとで給粉空間を形成する。なお、試料No.2-1〜No.2-8のうち、3個の分割ダイの組物を用いる試料No.2-2、及び4個の分割ダイの組物を用いる試料No.2-4は、両押し形式とし、その他は、試料No.1-1と同様に下押し形式とした。
【0106】
量産性を評価するにあたり、試験例1と同様にして、成形個数の最大値を調べた。その結果を表3に示す。また、ダイの寿命と判断したときに成形された圧粉成形体について表面粗さRaを行った。測定は、株式会社ミツトヨ製表面粗さ測定機を用いて、JIS B 0601(2001)に準拠して行った。その結果を表3に示す。更に、ここでは、表面粗さRaが10μm以下の場合、表面性状に優れるとして「○」と評価し、10μm超の場合、表面性状に劣るとして「×」と評価した。その結果も表3に示す。
【0108】
表3に示すように、成形体比が1:2超である圧粉成形体を製造するにあたり、給粉空間を複数の分割ダイで形成する本発明の圧粉成形体の製造方法を利用した場合、原料粉末の材質や絶縁被覆の有無によらず、表面性状に優れる圧粉成形体を連続して大量に製造可能であることが分かる。また、大量に成形した後でも、表面粗さRaが小さいことが分かる(ここでは、5.0μm以下)。この点からも、本発明の圧粉成形体の製造方法を利用することで、種々の材質の金属粉末や、種々の材質の絶縁被覆を具える被覆粉末を用いて、表面性状に優れる細長い圧粉成形体を連続して大量に製造可能であることが分かる。
【0109】
上述の試験結果から、ダイをその軸方向に複数に分割し、圧縮物との接触領域に少なくとも離型コーティングを有することで、圧粉成形体、特に細長い圧粉成形体を生産性よく製造できることが確認できた。
【0110】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、離型コーティングの材質・厚さ、原料の粉末の材質・粒径、絶縁被覆の有無・材質・厚さなどを適宜変更することができる。