特許第5732044号(P5732044)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5732044-硫酸バリウムを含むポリマー材料 図000016
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732044
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】硫酸バリウムを含むポリマー材料
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/02 20060101AFI20150521BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20150521BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20150521BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   A61F2/02
   C08J7/00 301
   C08L71/00 Y
   C08K3/30
【請求項の数】21
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-506573(P2012-506573)
(86)(22)【出願日】2010年4月16日
(65)【公表番号】特表2012-524826(P2012-524826A)
(43)【公表日】2012年10月18日
(86)【国際出願番号】GB2010050631
(87)【国際公開番号】WO2010122326
(87)【国際公開日】20101028
【審査請求日】2013年4月16日
(31)【優先権主張番号】0906823.0
(32)【優先日】2009年4月21日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508121658
【氏名又は名称】インヴィバイオ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INVIBIO LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】バレンタイン、クレイグ
(72)【発明者】
【氏名】エルレイ、アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】カートライト、キース
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−528110(JP,A)
【文献】 特表2008−507596(JP,A)
【文献】 特表2009−512475(JP,A)
【文献】 第2版標準化学用語辞典,丸善株式会社,2005年 3月31日,686
【文献】 化学大辞典9縮刷版,共立出版株式会社,1964年 3月15日,215
【文献】 「Academy Corner」滅菌と消毒−各種滅菌法・消毒法の概要,2005年,URL,http://www.as-1.co.jp/academy/21/21-3.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L71/00−71/14
C08J7/00
A61F2/00
A61F2/02−2/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料、硫酸バリウム、および水を含んでなる整形外科用移植片において、前記ポリマー材料が次式
【化1】
[式中、t1およびw1は独立して0または1を表し、v1は0、1または2を表す]
の繰り返し単位を含み、水の硫酸バリウムに対する重量%の比率が0.01〜0.2の範囲内にあるか、または、前記硫酸バリウムおよび前記ポリマー材料を含んでなる組成物中の水の含量が少なくとも0.10重量%かつ1重量%未満である、整形外科用移植片。
【請求項2】
t1=1、v1=0、およびw1=0である、請求項に記載の整形外科用移植片。
【請求項3】
前記整形外科用移植片は移植可能なプロテーゼである、請求項1または2に記載の整形外科用移植片。
【請求項4】
硫酸バリウムの重量%の、前記ポリマー材料の重量%に対する比率が、0.04より大きく、かつ0.4より小さい、請求項1〜のいずれか一項に記載の整形外科用移植片。
【請求項5】
前記整形外科用移植片は、少なくとも0.30重量%の水を含有している、請求項1〜のいずれか一項に記載の整形外科用移植片。
【請求項6】
前記整形外科用移植片中の硫酸バリウムの含量は少なくとも8重量%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の整形外科用移植片。
【請求項7】
前記整形外科用移植片は、1重量%未満の水を含有している、請求項1〜のいずれか一項に記載の整形外科用移植片。
【請求項8】
前記整形外科用移植片は無菌である、請求項1〜のいずれか一項に記載の整形外科用移植片。
【請求項9】
前記ポリマー材料が、少なくとも4KJm−2のノッチ付きアイゾッド衝撃強度(試験片80mm×10mm×4mm、切り込み0.25mmノッチ(タイプA)、試験温度23℃、ISO 180に準拠)を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の整形外科用移植片。
【請求項10】
前記整形外科用移植片中の硫酸バリウムの含量は少なくとも13重量%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の整形外科用移植片。
【請求項11】
前記整形外科用移植片は動的安定化ロッドであり、または人工股関節に用いられるためのものである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の整形外科用移植片。
【請求項12】
ポリマー材料および硫酸バリウムを含む部品の衝撃強度を向上させるための方法において、内部に含まれる水のレベルを増大させるために前記部品を、80℃を超える温度、および大気圧よりも高い圧力で処理する工程を備え、前記ポリマー材料は次式
【化2】
[式中、t1およびw1は独立して0または1を表し、v1は0、1または2を表す]
の繰り返し単位を含み、前記部品は整形外科用移植片からなり、水の硫酸バリウムに対する重量%の比率が0.01〜0.2の範囲内にあるか、または、前記硫酸バリウムおよび前記ポリマー材料を含んでなる組成物中の水の含量が少なくとも0.10重量%かつ1重量%未満である、方法。
【請求項13】
前記部品の中の硫酸バリウムの重量%が、少なくとも10重量%、かつ30重量%未満であり、および、前記部品の中の前記ポリマー材料の重量%が、少なくとも40重量%である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記部品は、少なくとも0.20重量%の水を含有している、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
t1=1、v1=0、およびw1=0である、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記部品は、1重量%未満の水を含有している、請求項12〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
硫酸バリウムの重量%の、前記ポリマー材料の重量%に対する比率が、0.04より大きく、かつ0.4より小さい、請求項12〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記部品は、少なくとも0.30重量%の水を含有している、請求項12〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリマー材料が、少なくとも4KJm−2のノッチ付きアイゾッド衝撃強度(試験片80mm×10mm×4mm、切り込み0.25mmノッチ(タイプA)、試験温度23℃、ISO 180に準拠)を有する、請求項12〜18のいずれか一項に記載の方法
【請求項20】
前記部品中の硫酸バリウムの含量は少なくとも13重量%である、請求項12〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記部品は動的安定化ロッドであり、または人工股関節に用いられるためのものである、請求項12〜20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー材料に関する。より詳細には、改良されたノッチ付きアイゾッド衝撃強度を有するポリマー材料に関するが、これらに限定されない。
【背景技術】
【0002】
ノッチ付きアイゾッド衝撃強度(NIIS)は、ISO 180に従って評価することができるが、その場合、図1に示されているような試験片2を、垂直な片持ち梁として保持し、振り子によって破壊する。試験片のノッチの付いている側に衝撃が加わる。
【0003】
NIIS試験は、設計の一部としてノッチ(またはノッチ類似の形状)を有するポリマー材料から作製した部品の強度を評価するのに有用であるかもしれないし、あるいは、その部品の中にノッチ(またはノッチ類似の形状)が生じる可能性がある損傷による、部品の強度に対する衝撃を評価するのに有用となるであろう。
【0004】
整形外科用の移植片の分野においては、いくつかのケースにおいては、ノッチ感度が、移植片の破壊の潜在的な原因である。たとえば、動的安定化ロッドは、製作の際に予めノッチが付いているかもしれないし、あるいは外科的処置の間にノッチが付いてしまうかもしれない。ノッチが付けられた領域は、破壊点となりうるとみなされてきた。同様にして、股関節においては、移植の際に寛骨臼窩の衝突が起きる可能性があり、その結果として、ノッチが付き、骨折のリスクが生じる。一般的な用語においては、ノッチ感度は、スポーツ医学用途において(たとえば、縫合糸アンカーおよびスクリューのため)、外傷において(たとえば、プレート、ネイル、およびスクリューのため)、および整形外科において(たとえば、寛骨臼窩、大腿骨頭、および上腕頭のため)、重要となり得る。
【0005】
多くの非医療分野においても、特に部品が損傷を受けて、それによりノッチが画定されるような場合には、NIISは重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の問題に対処することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様においては、次式の残基
【0008】
【化1】
【0009】
および/または次式の残基
【0010】
【化2】
【0011】
および/または次式の残基
【0012】
【化3】
【0013】
[式中、m、r、s、t、v、w、およびzは独立して、ゼロまたは正の整数を表し、E
およびE’は独立して、酸素もしくは硫黄原子または直接結合を表し、Gは、酸素もしくは硫黄原子、直接結合または−O−Ph−O−残基(ここで、Phはフェニル基を表す)を表し、およびArは、そのフェニル残基の一つまたは複数を介して、隣接する残基に結合されている、以下の残基(i)**、(i)〜(iv)
【0014】
【化4】
【0015】
の一つから選択される]
を有するポリマー材料の衝撃強度を向上させるための、硫酸バリウムの使用が提供される。
【0016】
本明細書においては特に断らない限り、フェニル残基は、それが結合されている残基に対して1,4−結合を有している。
(i)においては、中央のフェニルは、1,4−置換または1,3−置換されていてよい。1,4−置換されているのが好ましい。
【0017】
前記ポリマー材料は、2種以上の異なったタイプの式Iの繰り返し単位;および2種以上の異なったタイプの式IIの繰り返し単位;および2種以上の異なったタイプの式IIIの繰り返し単位を含んでいてよい。しかしながら、好適には、式I、II、および/またはIIIの一つだけのタイプの繰り返し単位が備えられている。
【0018】
前記残基I、II、およびIIIが適切な繰り返し単位である。ポリマー材料においては、単位I、II、および/またはIIIが、相互に適切に結合されている、すなわち、単位I、II、およびIIIの間に結合されている他の原子または基は存在しない。
【0019】
単位I、II、およびIIIにおけるフェニル残基が置換されていないのが好ましい。前記フェニル残基が架橋されていないのが好ましい。
wおよび/またはzが、1より大きい場合には、それぞれのフェニレン残基は独立して、式IIおよび/またはIIIの繰り返し単位の中の他の残基に対して、1,4−結合または1,3−結合を有していてよい。好適には、前記フェニレン残基が1,4−結合を有している。
【0020】
好適には、そのポリマー材料のポリマー鎖が−S−残基を含まない。好適には、Gが直接結合を表している。
適切には、「a」は、前記ポリマー材料の式Iの単位のモル%を表すが、この場合適切には、それぞれの単位Iは同一である。「b」は、前記ポリマー材料の式IIの単位のモル%を表すが、この場合適切には、それぞれの単位IIは同一である。「c」は、前記ポリマー材料の式IIIの単位のモル%を表すが、この場合適切には、それぞれの単位IIIは同一である。aは好適には45〜100の範囲、より好適には45〜55の範囲、最適には48〜52の範囲にある。bとcとを合計したものは好適に、0〜55の範囲、より好適には45〜55の範囲、最適には48〜52の範囲にある。aの、bとcの合計に対する比率は、好適には0.9〜1.1の範囲、より好適には約1である。適切には、aとbとcとの合計が、少なくとも90、好適には少なくとも95、より好適には少なくとも99、最適には約100である。前記ポリマー材料は好適には、概ね、残基I、II、および/またはIIIからなっている。
【0021】
前記ポリマー材料は、次の一般式
【0022】
【化5】
【0023】
の繰り返し単位を有するホモポリマーであってもよいし、または、次の一般式
【0024】
【化6】
【0025】
の繰り返し単位を有するホモポリマーであってもよいし、または、少なくとも2種の異なったIVおよび/またはVの単位のランダムコポリマーもしくはブロックコポリマーであってもよいが、ここで、A、B、C,およびDは独立して、0または1を表し、およびE、E’、G、Ar、m、r、s、t、v、w、およびzは、本明細書に各種記載されているものである。
【0026】
mは好適には0〜3、より好適には0〜2、最適には0〜1の範囲にある。rは好適には0〜3、より好適には0〜2、最適には0〜1の範囲にある。tは好適には0〜3、より好適には0〜2、最適には0〜1の範囲にある。sは好適には0または1である。vは好適には0または1である。wは好適には0または1である。zは好適には0または1である。
【0027】
前記ポリマー材料は好適には一般式IVの繰り返し単位を有するホモポリマーである。
Arは好適には以下の残基(xi)**および(vii)〜(x)
【0028】
【化7】
【0029】
から選択される。
(vii)においては、中央のフェニルは、1,4−置換または1,3−置換されていてよい。1,4−置換されているのが好ましい。
【0030】
適切な残基Arは、残基(i)、(ii)、(iii)および(iv)であるか、これらの内でも残基(i)、(ii)および(iv)が好ましい。その他の好適な残基Arは、残基(vii)、(viii)、(ix)、および(x)であるが、これらの内でも残基(vii)、(viii)および(x)が最適である。
【0031】
特に好ましいクラスのポリマー材料は、ケトンおよび/またはエーテル残基と組み合わさったフェニル残基から実質的になるポリマー(またはコポリマー)である。すなわち、好ましいクラスにおいては、前記ポリマー材料が、−S−、−SO−、またはフェニル以外の芳香族基を含む繰り返し単位を含まない。このタイプの好ましいポリマー材料としては以下のものが挙げられる:
(a)実質的に式IVの単位からなるポリマー材料、ここで、Arは残基(iv)を表し、EおよびE’は酸素原子を表し、mは0を表し、wは1を表し、Gは直接結合をあらわし、sは0を表し、およびAおよびBは1を表す(すなわち、ポリエーテルエーテルケトン);
(b)実質的に式IVの単位からなるポリマー材料、ここで、Eは酸素原子を表し、E’は直接結合を表し、Arは構造(i)の残基を表し、mは0を表し、Aは1を表し、Bは0を表す(すなわち、ポリエーテルケトン);
(c)実質的に式IVの単位からなるポリマー材料、ここで、Eは酸素原子を表し、Arは残基(i)を表し、mは0を表し、E’は直接結合を表し、Aは1を表し、Bは0を表す(すなわち、ポリエーテルケトンケトン);
(d)実質的に式IVの単位からなるポリマー材料、ここで、Arは残基(i)を表し、EおよびE’は酸素原子を表し、Gは直接結合を表し、mは0を表し、wは1を表し、rは0を表し、sは1を表し、およびAおよびBは1を表す(すなわち、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン);
(e)実質的に式IVの単位からなるポリマー材料、ここで、Arは残基(iv)、EおよびE’は酸素原子を表し、Gは直接結合を表し、mは0を表し、wは0を表し、s、r、AおよびBは1を表す(すなわち、ポリエーテルエーテルケトンケトン):
(f)式IVの単位を含むポリマー材料、ここでArは残基(iv)を表し、EおよびE’は酸素原子を表し、mは1を表し、wは1を表し、Aは1を表し、Bは1を表し、rおよびsは0を表し、およびGは直接結合を表す(すなわち、ポリエーテル−ジフェニル−エーテル−フェニル−ケトン−フェニル−)。
【0032】
前記ポリマー材料は、非晶質であっても、あるいは半晶質であってもよい。前記ポリマー材料が半晶質であれば好ましい。ポリマーにおける結晶化度のレベルおよび程度は、たとえばBlundellおよびOsborn(Polymer,24,953,1983)による記載のようにして、広角X線回折(広角X線散乱、すなわちWAXSとも呼ばれている)によって測定するのが好ましい。別な方法として、結晶化度は、示差走査熱分析法(DSC)によって評価してもよい。
【0033】
前記ポリマー材料中の結晶化度のレベルは、少なくとも1%、適切には少なくとも3%、好適には少なくとも5%、より好適には少なくとも10%である。特に好ましい実施態様においては、結晶化度が、30%より大、より好適には40%より大、最適には45%より大であってよい。
【0034】
前記ポリマー材料(結晶性であるならば)における溶融吸熱(Tm)のメインピークは、少なくとも300℃となってよい。
前記ポリマー材料は、先に定義された単位(a)〜(f)の一つから実質的になっていてよい。
【0035】
前記ポリマー材料は、式(XX)
【0036】
【化8】
【0037】
[式中、t1およびw1は独立して0または1を表し、v1は0、1または2を表す]
の繰り返し単位を含んでいるのが好ましく、実質的にそれからなっていればより好ましい。前記繰り返し単位を、t1=1、v1=0およびw1=0;t1=0、v1=0およびw1=0;t1=0、w1=1、v1=2;またはt1=0、v1=1およびw1=0で有しているポリマー材料が好ましい。より好適には、t1=1、v1=0およびw1=0であるか、またはt1=0、v1=0およびw1=0である。最適には、t1=1、v1=0およびw1=0である。
【0038】
好適な実施態様においては、前記ポリマー材料が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、およびポリエーテルケトンケトンから選択される。より好適な実施態様においては、前記ポリマー材料が、ポリエーテルケトンおよびポリエーテルエーテルケトンから選択される。最適な実施態様においては、前記ポリマー材料がポリエーテルエーテルケトンである。
【0039】
前記ポリマー材料は、少なくとも4KJm−2、好適には少なくとも5KJm−2、より好適には少なくとも6KJm−2の、ノッチ付きアイゾッド衝撃強度(試験片80mm×10mm×4mm、切り込み0.25mmノッチ(タイプA)、試験温度23℃、ISO 180に準拠)(以後、NIISと呼ぶ)を有することができる。上述のようにして測定した、前記ノッチ付きアイゾッド衝撃強度は10KJm−2未満、適切には8KJm−2未満である。
【0040】
特に断らない限り、以後においては、NIISとは、上述のようにして測定したものを指す。
前記ポリマー材料は、適切には少なくとも0.06kNsm−2の溶融粘度(MV)を有し、好適には少なくとも0.085kNsm−2、より好適には少なくとも0.12kNsm−2、最適には少なくとも0.14kNsm−2のMVを有する。
【0041】
MVは、0.5×3.175mmの炭化タングステンダイを使用し、400℃で、1000s−1の剪断速度で実施するキャピラリーレオメトリーを用いて測定するのが適切である。
【0042】
前記ポリマー材料は、1.00kNsm−2未満、好適には0.5kNsm−2未満のMVを有していてよい。
前記ポリマー材料は、0.09〜0.5kNsm−2の範囲、好適には0.14〜0.5kNsm−2の範囲のMVを有していてよい。
【0043】
前記ポリマー材料は、ISO 527(試験片、タイプ1b)に従って、23℃、50mm/分の速度で測定して、少なくとも20MPa、好適には少なくとも60MPa、より好適には少なくとも80MPaの引張強度を有していてよい。引張強度は、好適には80〜110MPaの範囲、より好適には80〜100MPaの範囲にある。
【0044】
前記ポリマー材料は、ISO 178(80mm×10mm×4mm試験片、3点曲げ、23℃、2mm/分の速度で試験)に従って測定して、少なくとも50MPa、好適には少なくとも100MPa、より好適には少なくとも145MPaの曲げ強度を有していてよい。曲げ強度は、好適には145〜180MPaの範囲、より好適には145〜164MPaの範囲にある。
【0045】
前記ポリマー材料は、ISO 178(80mm×10mm×4mm試験片、3点曲げ、23℃、2mm/分の速度で試験)に従って測定して、少なくとも1GPa、適切には少なくとも2GPa、好適には少なくとも3GPa、より好適には少なくとも3.5GPaの曲げモジュラスを有していてよい。曲げモジュラスは、好適には3.5〜4.5GPaの範囲、より好適には3.5〜4.1GPaの範囲にある。
【0046】
誤解を避けるために付言すれば、前記ポリマー材料の上述の特性は、ポリマー材料そのもの(すなわち、充填剤なし)に関するものである。
前記ポリマー材料は、非晶質であっても、あるいは半晶質であってもよい。半晶質であれば、好ましい。
【0047】
ポリマーにおける結晶化度のレベルおよび程度は、たとえばBlundellおよびOsborn(Polymer,24,953,1983)による記載のようにして、広角X線回折(広角X線散乱、すなわちWAXSとも呼ばれている)によって測定するのが好ましい。別な方法として、結晶化度は、示差走査熱分析法(DSC)によって評価してもよい。
【0048】
前記ポリマー材料の結晶化度のレベルは、少なくとも1%、適切には少なくとも3%、好適には少なくとも5%、より好適には少なくとも10%である。特に好ましい実施態様においては、結晶化度が25%よりも高くてよい。
【0049】
前記ポリマー材料(結晶性であるならば)の溶融吸熱(Tm)のメインピークは、少なくとも300℃となってよい。
前記硫酸バリウムは、0.1〜1.0μmの範囲のD10粒径;適切には0.5μm〜2μmの範囲のD50粒径、および適切には1.0μm〜5μmの範囲のD90粒径を有していてよい。D10は、0.1〜0.6μm、好適には0.2〜0.5μmの範囲であってよい。D50は、0.7μm〜1.5μm、好適には0.8〜1.3μmの範囲であってよい。D90は、1.5〜3μmの範囲、好適には2.0〜2.5μmの範囲であってよい。
【0050】
硫酸バリウムの重量%の、前記ポリマー材料の重量%に対する比率は、0.04より大であってよく、適切には0.07より大、好適には0.10より大、より好適には0.13より大、最適には0.16より大である。いくつかのケースにおいては、前記比率が、0.20または0.22より大であってもよい。その比率が、0.4未満、または0.3未満であってもよい。
【0051】
前記硫酸バリウムは、ポリマー材料と密接に混合されているのが好ましく、硫酸バリウムとポリマー材料とが、実質的に均質な混合物を形成しているのが適切である。
硫酸バリウムおよび前記ポリマー材料を含む組成物の中における硫酸バリウムの重量%は、少なくとも5重量%、適切には少なくとも8重量%、好適には少なくとも10重量%、より好適には少なくとも13重量%、最適には少なくとも16重量%であってよい。硫酸バリウムの前記重量%は、30重量%未満、または25重量%未満であってよい。硫酸バリウム(および、場合によっては水、後ほど説明する)を含む組成物中の前記ポリマー材料の重量%は、少なくとも40重量%、好適には少なくとも45重量%、より好適には
少なくとも50重量%であってよい。いくつかのケースにおいては、前記組成物の99重量%を超えるものが、硫酸バリウムおよび前記ポリマー材料から実質的になっていてもよい。また別なケースにおいては、前記組成物が、1種または複数の充填剤、たとえば炭素繊維を含んでいてもよい。組成物には、35重量%まで、または30重量%までの炭素繊維を含んでいてもよい。炭素繊維が含まれる場合、組成物には、適切には25〜35重量%の炭素繊維が含まれる。
【0052】
前記硫酸バリウムを使用して、前記ポリマー材料のNIISを、ISO 180に従って測定して、少なくとも10KJm−2まで、適切には少なくとも20KJm−2まで、好適には少なくとも30KJm−2まで、より好適には少なくとも40KJm−2まで上昇させてもよい。前記NIISは、60KJm−2未満まで上昇させてもよい。
【0053】
記載したように硫酸バリウムを含む組成物のNIISの、記載したような硫酸バリウムを含まないこと以外では同一の組成物のNIISに対する比率は、少なくとも2、適切には少なくとも4、好適には少なくとも6、より好適には少なくとも8であってよい。その比率は、15未満、または11としてよい。
【0054】
前記ポリマー材料および硫酸バリウムを含む組成物のNIISは、その組成物に水が含まれていると高くなる。したがって、本発明は、第一の態様に従って記載されたポリマー材料の衝撃強度を向上させるための、硫酸バリウムおよび水の使用にも拡張される。
【0055】
水対硫酸バリウムの重量%の比率は、0.01〜0.2の範囲、好適には0.02〜0.15の範囲にあってよい。その比率は、適切には0.10未満、好適には0.05未満、より好適には0.04未満である。
【0056】
硫酸バリウムおよび前記ポリマー材料も含む組成物の中の水の重量%は、少なくとも0.10重量%、好適には少なくとも0.2重量%、より好適には少なくとも0.30重量%、最適には少なくとも0.40重量%であってよい。水の重量%は、1重量%未満、0.8重量%未満、0.6重量%未満であってよい。水の重量%は、0.3〜0.7重量%、適切には0.4〜0.6重量%の範囲であってよい。
【0057】
ポリマー材料および硫酸バリウムを含む前記組成物は、たとえば貯蔵用の形状(stock shape)、フィルム、または繊維などとして、各種所望の形状で得ればよい。
ポリマー材料および硫酸バリウムを含む前記組成物のNIISは、水の存在の有無に応じて可逆性があることが見出された。したがって、衝撃強度の向上からのメリットを受けるためには、硫酸バリウムおよび前記ポリマー材料を含む組成物から作製した部品を、湿っているおよび/または濡れた環境で使用するのが望ましい。したがって、本発明は、湿っているおよび/または濡れた環境の中で使用するための部品の作製において使用される、第一の態様に従ったポリマー材料の衝撃強度を向上させるために、硫酸バリウムを使用することにまで拡張される。前記環境には、液体状態にある水が含まれていてもよい。液体状態にある水が、使用中の部品と接触していてもよい。前記環境が、実質的に密閉されていて、水および/または水蒸気の発生源を適切に含んでいてもよい。前記環境が、ヒトまたは動物(特に前者)の身体を含んでいてもよく、好適には人体の内部領域が含まれる。前記部品が、移植片であってもよい。
【0058】
本発明の第二の態様においては、第一の態様に従って記載されたようなポリマー材料の衝撃強度を向上させるための方法が提供されるが、その方法には、前記ポリマー材料および硫酸バリウムを含む組成物を形成することが含まれる。
【0059】
第一の態様の本発明の前記組成物、ポリマー材料、硫酸バリウム、衝撃強度、各種その
他の特徴は、必要な変更を加えて第二の態様の本発明に適用してよい。
その方法には、前記ポリマー材料を選択し、それを硫酸バリウムと共に溶融コンパウンディングすることが含まれていてよい。
【0060】
その方法には、その中に含まれる水のレベルを上げるために、その組成物を処理することが含まれていてもよい。
本発明の第三の態様においては、第一の態様に従って記載されたポリマー材料および硫酸バリウムを含む部品の衝撃強度を向上させる方法が提供されるが、その方法には、その中に含まれる水のレベルを上げるために、その部品を処理することが含まれる。
【0061】
前記処理の後には、その部品は、第一の態様および第二の態様に従って記載された組成物の各種の特徴を有していてよい。
硫酸バリウムおよび前記ポリマー材料も含んでいる前記部品の水の重量%は、少なくとも0.10重量%、好適には少なくとも0.20重量%、より好適には少なくとも0.30重量%、最適には少なくとも0.40重量%であってよい。水の重量%は、1重量%未満、0.8重量%未満、0.6重量%未満であってよい。水の重量%は、0.3〜0.7重量%、適切には0.4〜0.6重量%の範囲であってよい。
【0062】
前記部品の中の硫酸バリウムの重量%は、少なくとも5重量%、適切には少なくとも8重量%、好適には少なくとも10重量%、より好適には少なくとも13重量%、最適には少なくとも16重量%であってよい。硫酸バリウムの前記重量%は、30重量%未満、または25重量%未満であってよい。
【0063】
前記部品のなかの前記ポリマー材料の重量%は、少なくとも40重量%であってよい。いくつかのケースにおいては、前記部品の99重量%を超えるものが、硫酸バリウムおよび前記ポリマー材料から実質的になっていてもよい。また別なケースにおいては、前記部品が、1種または複数の充填剤、たとえば炭素繊維を含んでいてもよい。部品には、35重量%まで、または30重量%までの炭素繊維を含んでいてもよい。炭素繊維が含まれる場合、その部品には、適切には25〜35重量%の炭素繊維が含まれる。
【0064】
前記部品の処理に、活性処理(active treatment)が含まれているのが好ましい。好適には、それが、40℃を超える、適切には60℃を超える、好適には80℃を超える温度での処理を含む。その部品を、スチームを用いて処理してもよい。その部品は、周囲圧力よりも高い、たとえば2バールまたは4バールよりも高い圧力下で処理してもよい。処理にはオートクレーブを含んでいてもよいし、および/またはスチーム滅菌を含んでいてもよい。
【0065】
本発明は、第三の態様の方法で作製された部品にも拡張される。
本発明の第四の態様においては、第一の態様に従って記載されたポリマー材料および硫酸バリウムを含む組成物から作製した部品が提供される。
【0066】
好適には、前記部品は、そのNIISを向上させるために処理されたものである。その部品は、第二の態様または第三の態様の方法で処理されたものであってもよい。
その部品は、好適には、目的とするその使用位置から離間されている、および/または分離されている。その部品は、好適には、それが使用されることを目的とした環境の外にある。たとえば、その部品が、(好みにより)ヒトまたは動物の身体に移植するためのものであるならば、その部品はその身体の外にあってもよいが、それに施された処理によって向上された衝撃強度、および/または、本明細書に記載の部品の他の特徴を適切に有している。
【0067】
前記部品は、好適には、人体の中に移植するための移植可能な部品、たとえば移植可能なプロテーゼ、たとえば整形外科用移植片である。それは、動的安定化ロッドであってもよいし、あるいは人工股関節に使用するためのものであってもよい。
【0068】
前記部品には、50重量%を超える前記ポリマー材料(好適にはポリエーテルエーテルケトン)、少なくとも8重量%(好適には少なくとも10重量%または少なくとも13重量%)の硫酸バリウム、および少なくとも0.3重量%(好適には少なくとも0.45重量%)の水が含まれていてよい。特に好ましい実施態様においては、前記部品には、少なくとも55重量%のポリエーテルエーテルケトン、少なくとも10重量%の硫酸バリウム、および少なくとも0.4重量%の水が含まれる。その部品には、0〜34.6重量%の他の充填剤、たとえば炭素繊維が含まれていてもよい。
【0069】
本発明の第五の態様においては、適切に無菌であり、第四の態様に従った部品、または第三の態様に従ってその衝撃強度を向上させた部品を含むパッケージが提供される。
前記部品は、空気を除去したパッケージの中に配列されていてよい。たとえば、それは、金属(たとえば、アルミニウム)でライニングした入れ物の中に、たとえば真空パックされていてよい。
【0070】
第六の態様においては、移植可能なプロテーゼたとえば整形外科用移植片の製作における、第一の態様に従ったポリマー材料および硫酸バリウムを含む組成物の使用が提供される。
【0071】
第七の態様においては、移植可能なプロテーゼたとえば、整形外科用移植片を作製する方法を提供するが、その方法には以下の工程が含まれる:
(i)第一の態様に従った前記ポリマー材料および硫酸バリウムを含む組成物を選択する工程;
(ii)前記組成物を溶融加工、たとえば押出成形または射出成形して、部品または前記部品の前駆体を画定する工程。
【0072】
その部品の衝撃強度は、第二または第三の態様に従って記載されたようにして、向上させられていてもよい。
本明細書に記載されたいかなる発明または実施態様のいかなる態様のいかなる特徴も、必要な変更を加えて本明細書に記載された別のいかなる発明または実施態様のいかなる態様のいかなる特徴と組み合わせてもよい。
【0073】
ここで、本発明の具体的で明確な実施態様を、例を挙げて説明することとする。
以下においては、次の材料を参照する。
PEEK−OPTIMA LT1(商標):移植可能グレードのポリエーテルエーテルケトン、MV=0.46KNsm−2、Invibio Limited(Thornton,Cleveleys,UK)製。
【0074】
硫酸バリウム:グレード101750、X線診断用最純品。
硫酸バリウムがポリエーテルエーテルケトンに及ぼす影響を、以下の実施例に記載した実験の範囲内で検討した。
【実施例】
【0075】
実施例1:ポリエーテルエーテルケトン/硫酸バリウム複合材料を準備するための一般的手順
押出しコンパウンディングプロセスにより、硫酸バリウムをPEEK−OPTIMAに添加した。例を挙げれば、硫酸バリウムは、2軸スクリュー押出機の中にサイドフィーダ
ーを通して、重量測定しながら計量、フィードすることができるが、ここで、それが可塑化されたポリマー溶融物と組み合わされ、密接に混合されて、ポリマーの中に充填剤が均質に分散されたものが得られる。典型的には、その充填剤は、そのコンパウンドの望まれる機械的性質に応じて、重量でポリマーの60%までの量で添加してよい。ダイを通過させて、この混合物を押出し加工すると、ストランドまたはレースが得られるので、それを冷却固化させてから、細断して小さな粒子として、次の加工工程に備える。
実施例2:複合材料の試験片を準備するための一般的手順
実施例1において準備したコンパウンドを、引張強度、曲げ強度、およびノッチ付きアイゾッド衝撃試験のための、それぞれISO 527−2(サンプル形状、1B)、ISO 178、およびISO 180の要件に従って射出成形して、試験片を製作した。
実施例3〜20:試験片の準備および試験
試験片は、実施例1および2の記載に従って準備したが、それには、PEEK−OPTIMA LT1と、4重量%または20重量%いずれかの硫酸バリウムとを含み、表1に記載の一連の各種の処理にかけた。
【0076】
それぞれの試験片について、ISO 180に従ってノッチ付きIZOD衝撃強度、ISO 572−2に従って引張物性、ISO 178に従って曲げ物性の試験をした。結果を表2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
実施例21〜25:ドライ試験片とウェット試験片の比較
試験片は、充填剤担持量を4〜20重量%の間で変化させて、実施例2の記載に従って準備し、ISO 180に従って、二組の条件下でそのノッチ付きアイゾッド衝撃強度を評価したが、その第一の条件は、オーブン中120℃で72時間乾燥させた後であり、その第二の条件では、134℃で20分間のスチーム滅菌、水中に15時間浸漬、次いで134℃で20分間の再度の滅菌をした。結果を表3に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
実施例26:サイクル試験
それぞれ4重量%および20重量%の硫酸バリウムを含む試験片を準備し、サイクル試
験において試験した。
【0082】
まず、4重量%硫酸バリウムの試験片を成形後に試験した。次いでそれを120℃で72時間乾燥させてから再試験を行った。次いで、134℃で20分間スチーム滅菌をし、再試験した。最後に、再乾燥させてから再試験をした。結果を表4に示す。
【0083】
【表4】
【0084】
考察:
ポリアリールエーテルケトンの中に硫酸バリウムおよび水を組み入れた場合の衝撃強度への効果は、多くの産業上の用途を有している可能性がある。湿った環境の中において使用される部品を作製するためには特に有用となる可能性があり、それによって、ポリアリールエーテルケトンおよび硫酸バリウムを含む組成物の中で最適な水分量(約0.15重量%と考えられる)が保持できる。好適に湿った環境は人体の中に見出され、従って、ポリアリールエーテルケトンおよび硫酸バリウム、ならびに場合によっては他の充填剤から作製した部品は、それがたとえば0.15重量%の水を含むように前処理をしてから、移植してもよい。移植したときに、水のレベルが維持され、そのために、衝撃強度において驚くべき改良がもたらされる。硫酸バリウムおよび/または水を組み入れても、ポリアリールエーテルケトンのその他の性質、たとえば機械的性質には顕著に有害な影響が出ないこともまた見出された。さらに、ポリアリールエーテルケトンにも化学的な変化は起きない。
図1