(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732068
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】土木工学型の重車両用のタイヤビード
(51)【国際特許分類】
B60C 15/06 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
B60C15/06 N
B60C15/06 F
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-542518(P2012-542518)
(86)(22)【出願日】2010年12月7日
(65)【公表番号】特表2013-513508(P2013-513508A)
(43)【公表日】2013年4月22日
(86)【国際出願番号】EP2010069077
(87)【国際公開番号】WO2011070018
(87)【国際公開日】20110616
【審査請求日】2013年12月5日
(31)【優先権主張番号】0958781
(32)【優先日】2009年12月9日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512068547
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(73)【特許権者】
【識別番号】508032479
【氏名又は名称】ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】ボンデュ ルシアン
【審査官】
水野 治彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−101943(JP,A)
【文献】
特開2005−112042(JP,A)
【文献】
特開2000−198332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土木工学型重車両用のタイヤであって、少なくとも部分的に円形であるフランジ(7,27)を有するリムに接触するようになった2つのビードと、ポリマー材料で被覆されている金属補強要素で構成された少なくとも1つのカーカス補強材層(1,12)を含むカーカス補強材とを有し、前記カーカス補強材層は、各ビード内においてカーカス補強材の折り返し部分(1b,21b)を形成するよう前記タイヤの内側から外側に向かってビードワイヤコア(4,24)周りに巻かれている主要部分(1a,21a)を有し、各ビードは、サイドウォール(5,25)の半径方向内方の延長部としての保護要素(4,24)及び前記保護要素及び前記サイドウォールの軸方向内側に且つ前記カーカス補強材の前記折り返し部分の軸方向外側に位置した充填要素(6,26)を有し、前記保護要素及び前記充填要素はそれぞれ、少なくともポリマー材料から成り、前記充填要素のポリマー材料は、前記金属補強要素のポリマー材料の10%伸び率における弾性率よりも低い10%伸び率における弾性率を有する、タイヤにおいて、ポリマー材料で作られた移行要素(28)が、その軸方向内面を介して前記カーカス補強材の前記折り返し部分(21b)の前記軸方向外面の前記金属補強要素と接触状態にあると共にその軸方向外面を介して前記充填要素(26)と接触状態にあり、前記移行要素のポリマー材料の10%伸び率における弾性率は、前記金属補強要素のポリマー材料の10%伸び率における弾性率と前記充填要素のポリマー材料の10%伸び率における弾性率との間にある、土木工学型重車両用タイヤ。
【請求項2】
前記移行要素(28)の半径方向外側の端(E)は、前記リムフランジ(27)の円の中心(O)を通り且つ軸方向(YY′)に対して+70°の角度をなす直線(Dmin)の半径方向外側に位置している、請求項1記載の土木工学型重車両用タイヤ。
【請求項3】
前記移行要素(28)の半径方向内側の端(I)は、前記リムフランジ(27)の円の中心(O)を通り且つ軸方向(YY′)に対して+40°の角度をなす直線(dmax)の半径方向内側に位置している、請求項1又は2記載の土木工学型重車両用タイヤ。
【請求項4】
前記移行要素(28)の厚さ(e)は、前記金属補強要素の厚さ以上である、請求項1〜3のうちいずれか一に記載の土木工学型重車両用タイヤ。
【請求項5】
前記移行要素(28)の厚さ(e)は、前記金属補強要素の厚さの多くても5倍である、請求項1〜4のうちいずれか一に記載の土木工学型重車両用タイヤ。
【請求項6】
前記移行要素のポリマー材料の10%伸び率における弾性率は、前記金属補強要素のポリマー材料及び前記充填要素のポリマー材料のそれぞれの弾性率の算術平均の少なくとも0.9倍であり且つ多くても1.1倍である、請求項1〜5のうちいずれか一に記載の土木工学型重車両用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木工学型の重車両に取り付けられるようになったラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、この種の用途には限定されないが、特に採石場又は露天掘り鉱山からの掘り出し物を運搬する車両であるダンプ車(ダンパとも呼ばれる)に取り付けられるようになったラジアルタイヤについて本発明に説明する。かかるタイヤのリムの公称直径は、欧州タイヤ及びリム技術協会、即ちETRTOにより提供されている意味の範囲内において、最小25インチ(63.5cm)に等しい。
【0003】
以下の説明において、次の定義が用いられている。
‐「子午面(又は子午線平面子午面)」は、タイヤの回転軸線を含む平面である。
‐「赤道面」は、タイヤの踏み面の中央を通ると共にタイヤの回転軸線に垂直な平面である。
‐「半径方向」は、タイヤの回転軸線に垂直な方向である。
‐「軸方向」は、タイヤの回転軸線に平行な方向である。
‐「周方向」は、子午面に垂直な方向である。
‐「半径方向距離」は、タイヤの回転軸線に垂直に且つタイヤの回転軸線から測定された距離である。
‐「軸方向距離」は、タイヤの回転軸線に平行に且つ赤道面から測定された距離。
‐「半径方向」は、半径の方向である。
‐「軸方向」は、軸線の方向である。
‐「〜の半径方向内側」又は「〜の半径方向外側」は、それぞれ、半径方向距離が短い又は半径方向距離が長いところを表す。
‐「〜の半径方向最も近く」又は「〜から半径方向最も遠く」は、それぞれ、半径方向距離が最小である又は半径方向距離が最大であるところを表す。
‐「〜の軸方向内側」又は「〜の軸方向外側」は、それぞれ、軸方向距離が短い又は軸方向距離が長いところを表す。
【0004】
タイヤは、タイヤとタイヤが取り付けられるリムとの間の機械的連結部を提供する2つのビードを有し、これら2つのビードは、それぞれ、2つのサイドウォールによって、踏み面(トレッド表面)を介して路面に接触するようになったトレッドに接合されている。
【0005】
ラジアルタイヤは、具体的に説明すると、トレッドの半径方向内側に位置したクラウン補強材及びクラウン補強材の半径方向内側に位置したカーカス補強材を含む補強材を有している。
【0006】
土木工学型重車両用ラジアルタイヤのカーカス補強材は、被覆ポリマー材料で被覆されている金属補強要素で構成された少なくとも1つのカーカス補強材層を有する。金属補強要素は、互いに実質的に平行であり且つ周方向と85°〜95°の角度をなしている。カーカス補強材層は、2つのビードを互いに接合し、各ビード内においてビードワイヤコア周りに巻かれたカーカス補強材の主要部分を有する。ビードワイヤコアは、通常金属で作られていて、少なくとも1種類の材料で包囲された周方向補強要素を有し、かかる材料は、ポリマー又はテキスタイルで作られるのが良いが、これらには限定されない。ビードワイヤコア周りのカーカス補強材層の巻きは、端を有するカーカス補強材の折り返し部分を形成するようタイヤの内側から外側に向かって行われる。各ビード内におけるカーカス補強材の折り返し部分は、カーカス補強材層をこのビードのビードワイヤコアに繋留する。
【0007】
各ビードは、ビードワイヤコアの半径方向外方の延長部としてのフィラー又は充填要素を有する。充填要素は、任意の子午面で見て実質的に三角形の断面を有し、この充填要素は、少なくとも1種類の充填ポリマー材料で作られている。充填要素は、子午線に沿って任意の子午面と交差した接触面に沿って接触状態にある少なくとも2つの充填ポリマー材料の半径方向スタックで作られる場合がある。充填要素は、カーカス補強材の主要部分をカーカス補強材の折り返し部分から軸方向に分離している。
【0008】
各ビードは、サイドウォールの半径方向内方の延長部として設けられると共にカーカス補強材の折り返し部分の軸方向外側に位置した保護要素を更に有する。保護要素は又、少なくとも部分的にその軸方向外面を介してリムフランジと接触状態にある。保護要素は、少なくとも1つの保護ポリマー材料で構成されている。
【0009】
各ビードは、最後に、サイドウォール及び保護要素の軸方向内側に位置すると共にカーカス補強材の折り返し部分の軸方向外側に位置した充填要素を有する。充填要素は、少なくとも1つの充填ポリマー材料で構成されている。
【0010】
ポリマー材料は、硬化後、引張り試験によって決定される引張り応力‐変形特性が優れているという機械的特性を有する。この引張り試験は、公知の方法に従って、例えば、国際規格ISO37に従って且つ国際規格ISO471によって定められた通常の温度(23±2℃)及び通常の湿度(50±5%相対湿度)下において試験片について当業者によって実施される。試験片の10%伸び率について測定された引張り応力は、ポリマー配合物の10%伸び率における弾性率と呼ばれており、メガパスカル(MPa)で表される。
【0011】
ポリマー材料は又、硬化後、その硬度が優れているという機械的特性を有する。硬度は、特に、ASTM・D2240‐86に従って定められたショアAスケール硬度によって定められる。
【0012】
車両が走行しているとき、リムに取り付けられていて、インフレートされて車両の荷重を受けて圧縮された状態のタイヤは、特にそのビード及びそのサイドウォールのところで曲げサイクルを受ける。
【0013】
曲げサイクルは、カーカス補強材の主要部分及びカーカス補強材の折り返し部分について金属補強要素の張力の変動と組み合わさった曲率の変動をもたらす。
【0014】
曲げサイクルは、特に、主として剪断及び圧縮の際にリムフランジ上のビードの曲げにより、カーカス補強材の折り返し部分の軸方向外面上に位置した被覆及び充填ポリマー材料中に応力及び変形を生じさせる。
【0015】
特に、ビードがリムフランジに装着しているゾーンでは、曲げサイクルは、カーカス補強材の折り返し部分の軸方向外面上に亀裂を開始させる。これら亀裂は、被覆ポリマー材料中を広がり、次に充填ポリマー材料中に広がり、ここで、亀裂は、空所を形成し、これら空所は、経時的に、タイヤの劣化をもたらす恐れがあり、タイヤを交換する必要が生じる。亀裂の広がり速度は、第1に、応力及び歪変形サイクルの振幅及び周期数に依存すると共に第2に亀裂ゾーン中の被覆、縁結合及び充填ポリマー材料のそれぞれの剛性に依存する。
【0016】
特開2004‐345414号公報は、半径方向カーカス補強材を備えたタイヤの場合、設計上、カーカス補強材の折り返し部分とビードワイヤコアの半径方向内側部分を包囲した金属補強要素の層の半径方向外側の端との間のオーバーラップゾーンに亀裂が生じないようにすることを設計上の目的とするビードを既に記載している。提案されている技術的解決手段では、ポリマー材料で作られた要素がカーカス補強材の折り返し部分とビードワイヤコアの半径方向内側部分を包囲した金属補強要素の層の半径方向外側の端との間に挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2004‐345414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明者は、カーカス補強材の折り返し部分の軸方向外面上に始まり、次に被覆及び充填ポリマー材料中を広がる亀裂の広がり速度を減少させることにより土木工学型重車両用のラジアルタイヤのビードの耐久性を向上させるという目的の達成に取り組んだ。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、この目的は、
‐土木工学型重車両用のタイヤであって、少なくとも部分的に円形であるフランジを有するリムに接触するようになった2つのビードと、
‐被覆ポリマー材料で被覆されている金属補強要素で構成された少なくとも1つのカーカス補強材層を含むカーカス補強材とを有し、
‐カーカス補強材層は、各ビード内においてカーカス補強材の折り返し部分を形成するようタイヤの内側から外側に向かってビードワイヤコア周りに巻かれている主要部分を有し、
‐各ビードは、サイドウォールの半径方向内方の延長部としての保護要素及び保護要素及びサイドウォールの軸方向内側に且つカーカス補強材の折り返し部分の軸方向外側に位置した充填要素を有し、
‐保護要素及び充填要素はそれぞれ、少なくとも保護ポリマー材料及び充填ポリマー材料から成り、
‐充填ポリマー材料は、被覆ポリマー材料の10%伸び率における弾性率よりも低い10%伸び率における弾性率を有し、
‐移行ポリマー材料で作られた移行要素が、その軸方向内面を介してカーカス補強材の折り返し部分の軸方向外面の被覆ポリマー材料と接触状態にあると共にその軸方向外面を介して充填ポリマー材料と接触状態にあり、
‐移行ポリマー材料の10%伸び率における弾性率は、被覆ポリマー材料の10%伸び率における弾性率と充填ポリマー材料の10%伸び率における弾性率との間にあることを特徴とする土木工学型重車両用タイヤによって達成される。
【0020】
本発明によれば、移行ポリマー材料で作られた移行要素が、その軸方向内面を介してカーカス補強材の折り返し部分の軸方向外面の被覆ポリマー材料と接触状態にあると共にその軸方向外面を介して充填ポリマー材料と接触状態にあるようにすると有利である。これは、移行要素を追加することにより、剛性の勾配を作ると共にカーカス補強材の折り返し部分の軸方向外面上に始まり、次に被覆及び充填ポリマー材料中を広がる亀裂の広がり速度が依存している応力レベル及び変形レベルを局所的に制限することができるからである。
【0021】
移行ポリマー材料の10%伸び率における弾性率は、有利には、移行要素が接触している被覆ポリマー材料の10%伸び率における弾性率と移行要素が接触している充填ポリマー材料の10%伸び率における弾性率との間にある。被覆ポリマー材料から移行ポリマー材料、更に充填ポリマー材料に進む際の10%伸び率における弾性率の漸減は、減少すると共に緩やかな剛性勾配を与え、かかる勾配により、カーカス補強材の折り返し部分の軸方向外面上の応力及び変形量を減少させ、したがって亀裂の広がりを遅らせることができる。
【0022】
被覆ポリマー材料の10%伸び率における弾性率と充填ポリマー材料の10%伸び率における弾性率の差が大きければ大きいほど、移行ポリマー材料の10%伸び率における弾性率により得られる利点はそれだけ一層顕著になる。本発明のタイヤの研究対象の例では、被覆ポリマー材料の10%伸び率における弾性率は、充填ポリマー材料の10%伸び率における弾性率の1.6倍に等しい。
【0023】
また、移行要素の半径方向外側の端は、リムフランジの円の中心を通り且つ軸方向に対して+70°の角度をなす直線の半径方向外側に位置すると有利である。
【0024】
また、移行要素の半径方向内側の端は、リムフランジの円の中心を通り且つ軸方向に対して+40°の角度をなす直線の半径方向内側に位置すると有利である。
【0025】
タイヤのリムがタイヤの赤道面に関して対称である2つのリムフランジを有しているので且つ各リムフランジの半径方向最も外側の部分が円形の部分を有しているので、各リムフランジについて局所座標系が定められ、この局所座標系の原点は、リムフランジの円の中心であり、その両軸は、リムフランジの円の中心を通り且つタイヤの軸方向内側の方へ差し向けられた直線とリムフランジの円の中心を通り且つタイヤの半径方向外側に向かって差し向けられた直線である。
【0026】
リムフランジの円の中心を通る直線が軸方向に対してなす角度は、この直線がリムフランジの円の中心を通り且つタイヤの内側に向かって差し向けられた軸方向に向いた直線となす角度である。この角度は、リムフランジの円の中心を通り且つタイヤの軸方向内側に向かって差し向けられた直線から測定された角度がこの直線に向かって三角法の方向に測定された場合に正である。
【0027】
移行要素の端の幾何学的位置は、そのリムに取り付けられたタイヤ、即ち、リムフランジに対してタイヤのビードの正確な位置決めを保証する最小圧力までインフレートされたタイヤについて測定される。一例を挙げると、この最小圧力は、ETRTO規格で指定されている公称インフレーション圧力の10%に等しいのが良い。
【0028】
本発明者は、カーカス補強材の折り返し部分の軸方向外面に対する亀裂発生の影響を受けやすいゾーンがリムフランジの円の中心を通り且つ軸方向と+40°に等しい最小角度をなす直線とリムフランジの円の中心を通り且つ軸方向と+70°に等しい最大角度をなす直線との間に含まれるということを実証した。これは、事実、ビードがタイヤに加えられた負荷を受けた状態でリムフランジに装着されているときの圧縮が最も大きく且つ剪断が最も大きなゾーンである。その結果、移行要素は、少なくとも、カーカス補強材の折り返し部分に対する移行要素の位置決めに関する公差を念頭においてカーカス補強材の折り返し部分の軸方向外面に対する亀裂の影響を受けやすいこのゾーンを覆う必要があり、かかる公差は、製造方法に固有である。
【0029】
本発明の有利な実施形態によれば、移行要素の厚さは、被覆ポリマー材料の厚さに少なくとも等しい。
【0030】
移行要素の厚さという用語は、移行要素の端のところのテーパした領域の外側で測定されたい移行要素の一定の厚さである。
【0031】
被覆ポリマー材料の厚さという用語は、カーカス補強材の折り返し部分の軸方向外面上でカーカス補強材の折り返し部分の円筒形金属補強要素の軸方向の外側の母線から且つこれに垂直に測定された被覆ポリマー材料の厚さである。
【0032】
移行要素のこの最小厚さにより、最小の剛性勾配を定めることができ、それにより亀裂の広がり速度を減少させることができる。
【0033】
移行要素の厚さは、有利には、被覆ポリマー材料の厚さの多くても5倍に等しい。これは、移行ポリマー要素の熱放散量がその高い10%伸び率における弾性率に鑑みて充填ポリマー材料の熱放散量よりも多いからである。その結果、移行ポリマー材料の体積が多すぎることにより、その寿命を損なうビード温度の増大が生じるので、移行要素の厚さに上限を課すことが重要である。
【0034】
本発明の有利な一実施形態では、移行ポリマー材料の10%伸び率における弾性率は、被覆ポリマー材料及び充填ポリマー材料のそれぞれの弾性率の算術平均の少なくとも0.9倍に等しく且つ多くても1.1倍に等しい。移行ポリマー材料の10%伸び率における弾性率に関する値のこの範囲は、被覆ポリマー材料から移行ポリマー材料に、次に充填ポリマー材料に広がる際に、最小限に抑えられた剛性の勾配を保証し、それ故、亀裂の広がり速度を著しく減少させることができる。
【0035】
本発明の特徴は、添付の
図1及び
図2の説明の助けにより容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】先行技術の土木工学型重車両用タイヤのビードの子午面断面図である。
【
図2】本発明の土木工学型重車両用タイヤのビードの子午面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1及び
図2を理解しやすいようにするため、
図1及び
図2は、縮尺通りには描かれていない。
【0038】
図1は、先行技術の土木工学型重車両用タイヤのビードを示しており、このタイヤは、
‐被覆ポリマー材料で被覆されている金属補強要素から成るカーカス補強材1の単一の層を含むカーカス補強材を有し、カーカス補強材の主要部分1aは、カーカス補強材の折り返し部分1bを形成するようタイヤの内側から外側に向かってビードワイヤコア4の周りに巻かれており、
‐ビードワイヤコア2の半径方向外方の延長部として設けられると共に任意の子午線平面で見て、実質的に三角形の断面を有すると共に2つのフィラー又は充填ポリマー材料で作られたフィラー又は充填要素3と、
‐半径方向外側に位置すると共にビードワイヤコア2と接触状態にある第1のフィラー又は充填ポリマー材料3aと、
‐半径方向外側に位置すると共に第1のフィラーポリマー材料3aと接触状態にある第2のフィラー又は充填ポリマー材料3bと、
‐サイドウォール5の半径方向内方の延長部として設けられると共に少なくとも1つの保護ポリマー材料で作られた保護要素4と、
‐保護要素4及びサイドウォール5の軸方向内側に位置し且つカーカス補強材の折り返し部分1bの軸方向内側に位置すると共に充填ポリマー材料で作られた充填要素6とを有する。
【0039】
図2は、本発明の土木工学型重車両用タイヤのビードを示しており、このタイヤは、
‐被覆ポリマー材料で被覆されている金属補強要素から成るカーカス補強材21の単一の層を含むカーカス補強材を有し、カーカス補強材の主要部分21aは、カーカス補強材の折り返し部分21bを形成するようタイヤの内側から外側に向かってビードワイヤコア22の周りに巻かれており、
‐ビードワイヤコア22の半径方向外方の延長部として設けられると共に任意の子午線平面で見て、実質的に三角形の断面を有すると共に2つのフィラー又は充填ポリマー材料で作られたフィラー又は充填要素23と、
‐半径方向外側に位置すると共にビードワイヤコア22と接触状態にある第1のフィラー又は充填ポリマー材料23aと、
‐半径方向外側に位置すると共に第1のフィラーポリマー材料23aと接触状態にある第2のフィラー又は充填ポリマー材料23bと、
‐サイドウォール25の半径方向内方の延長部として設けられると共に少なくとも1つの保護ポリマー材料で作られた保護要素24と、
‐保護要素24及びサイドウォール25の軸方向内側に位置し且つカーカス補強材の折り返し部分21bの軸方向内側に位置すると共に充填ポリマー材料で作られた充填要素26と、
‐軸方向内面を介してカーカス補強材の折り返し部分の軸方向外面の被覆ポリマー材料と接触状態にあると共に軸方向外面を介して充填ポリマー材料と接触状態にある移行要素28とを有する。
【0040】
移行要素28は、一定のものとして概略的に示されているが、実際には、通常その半径方向外側の端E及びその半径方向内側の端Iのところがテーパした厚さeを有している。
【0041】
移行要素28の半径方向外側の端E及び半径方向内側の端Iのそれぞれの幾何学的位置は、局所座標系に関して定められ、この局所座標系の原点は、リムフランジ27の円の中心Oであり、かかる局所座標系の軸線YY′及び軸線ZZ′は、ぞれぞれ、リムフランジの円の中心Oを通り且つタイヤの軸方向内側に向かって差し向けられた直線及びリムフランジの円の中心Oを通り且つタイヤの半径方向外側に向かって差し向けられた直線である。リムフランジの円の中心Oを通る直線がなす角度は、この場合、軸線YY′からこの直線までの測定が三角法の方向における測定を含む場合、正であると呼ばれる。
【0042】
移行要素28の半径方向外側の端E及び半径方向内側の端Iは、それぞれ、軸線YY′と角度A及び角度aをなす直線D及び直線d上に位置する。
【0043】
移行要素28の半径方向外側の端E及び半径方向内側の端Iは、それぞれ、軸線YY′に対して+70°の角度をなす直線D
minの半径方向外側及び軸線YY′に対して+40°の角度をなす直線d
maxの半径方向内側に位置している。
【0044】
本発明を特にサイズ59/80R63のダンプ車型の重車両用タイヤの場合について研究した。ETRTO(欧州タイヤ及びリム協会)の規格によれば、かかるタイヤの通常の使用条件は、6バールのインフレーション圧力、99トンの静荷重及び16〜32kmの1時間の走行距離である。
【0045】
59/80R63型タイヤは、
図2に概略的に示されているように本発明に従って設計されたものである。
【0046】
移行要素28の半径方向外側の端Eを通る直線Dの角度Aは、+80°に等しく、したがって+70°よりも大きい。
移行要素28の半径方向内側の端Iを通る直線dの角度aは、+35°に等しく、したがって+40°よりも小さい。
【0047】
移行要素28の厚さeは、1.5mmに等しく、したがって、1mmに等しい被覆ポリマー材料の厚さとポリマー被覆材料の厚さの5倍の厚さとの間にある。
【0048】
被覆ポリマー材料、移行ポリマー材料及び充填ポリマー材料の10%伸び率における弾性率は、それぞれ、6MPa、4.8MPa及び3.5MPaに等しい。かくして、移行ポリマー材料の10%伸び率における弾性率は、被覆ポリマー材料及び充填ポリマー材料の10%伸び率におけるそれぞれの弾性率の算術平均に等しい。
【0049】
図1に示されている基準タイヤ及び
図2に示されている本発明のタイヤについてそれぞれ有限要素解析計算シミュレーションを実施した。基準タイヤの場合、カーカス補強材の折り返し部分1bの軸方向外面上の亀裂発生を生じやすいゾーンの充填ポリマー材料の伸び率は、これと接触状態にある被覆ポリマー材料の伸び率の1.3倍に等しく、これら伸びは、カーカス補強材の折り返し部分に平行である。本発明のタイヤの場合、カーカス補強材の折り返し部分21bの軸方向外面上の亀裂発生を生じやすいゾーンの移行ポリマー材料28の伸び率は、被覆ポリマー材料の伸び率の1.1倍に等しい。その結果、本発明の場合、亀裂が被覆ポリマー材料から移行ポリマー材料28まで広がる速度は、基準タイヤの場合に亀裂が被覆ポリマー材料から充填ポリマー材料まで広がる速度よりも低い。というのは、移行ポリマー材料28の伸び率と被覆ポリマー材料の伸び率の比が1.1に等しく、これは、1.3に等しい充填ポリマー材料6の伸び率と被覆ポリマー材料の伸び率の比よりも小さいからである。
【0050】
本発明は、
図2に示されている例に限定されるものと解されてはならず、例えば被覆ポリマー材料と充填ポリマー材料との間に含まれる移行ポリマー材料の数に関して(これらには限定されない)他の変形実施形態で実施できる。