【文献】
岸智弥、外5名,酸化物半導体の電気的、光学的特性評価(I)−カソードルミネッセンスによる電子状態のプロセス依存性−,2012年春季 第59回応用物理学関係連合講演会「講演予稿集」 [DVD-ROM],日本,公益社団法人 応用物理学会,2012年 2月29日,p.21−078(17p-E4-11)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1励起光照射手段は、前記酸化物半導体薄膜のバンドギャップ以上のエネルギーを出力する光源を有するものである請求項1に記載の酸化物半導体薄膜の評価装置。
前記第2励起光照射手段は、前記酸化物半導体薄膜のバンドギャップ中に存在する欠陥準位に相当するエネルギーを出力する光源を有するものである請求項1または2に記載の酸化物半導体薄膜の評価装置。
前記第2励起光照射手段は、前記酸化物半導体薄膜から特定の波長のフォトルミネッセンス光のみを励起させるエネルギーを出力する光源を有するものである請求項3に記載の酸化物半導体薄膜の評価装置。
前記第1励起光と前記第2励起光の光路上に、前記第1励起光、および/または前記第2励起光の光路を変更する光路切り替え手段を備えている請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物半導体薄膜の評価装置。
前記光路切り替え手段は、前記第1励起光と前記第2励起光が、前記試料の同一、または異なる測定箇所に照射するように設置されている請求項5に記載の酸化物半導体薄膜の評価装置。
前記第1励起光と前記電磁波を前記試料の前記測定部位に誘導する導波管を備えると共に、前記導波管の前記試料側開口部近傍の側面に、前記第2励起光の導入口が設けられている請求項1〜6のいずれかに記載の酸化物半導体薄膜の評価装置。
【背景技術】
【0002】
アモルファス(非晶質)酸化物半導体薄膜は、汎用のアモルファスシリコン(a−Si)に比べて高いキャリア移動度を有し、光学バンドギャップが大きく、低温で成膜できる。そのため、大型・高解像度・高速駆動が要求される次世代ディスプレイや、耐熱性の低い樹脂基板などへの適用が期待されている。
【0003】
酸化物半導体薄膜のなかでも特に、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)などの少なくとも一種を含むアモルファス酸化物半導体薄膜(例えば、In−Ga−Zn−O、In−Ga−Zn−Sn−Oなど)は、非常に高いキャリア移動度を有するため、TFTに好ましく用いられている。
【0004】
しかしながら、酸化物半導体薄膜は、成膜工程で生じる格子欠陥や膜中の水素に起因して酸化物半導体の移動度にばらつきが生じ、TFT特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0005】
また酸化物半導体薄膜は、a−Siを用いた場合に比べ、電気的特性が変動し易く、信頼性が低いという問題がある。例えば有機ELディスプレイでは、有機EL素子を発光させる間、駆動TFTのゲート電極に正電圧が印加され続けることになるが、電圧の印加によりゲート絶縁膜と半導体層の界面に電荷がトラップされ、しきい値電圧(Vth)が変化し、スイッチング特性が変化することが問題となっている。
【0006】
そのため、表示装置などの製造工程においては、成膜した酸化物半導体薄膜の移動度や、しきい値電圧のシフト量(ΔVth)を正確に測定(推定)し、酸化物半導体薄膜の特性を評価し、その結果をフィードバックして製造条件を調整して膜質の品質管理を行うことが、生産性向上の観点からは重要となる。
【0007】
酸化物半導体薄膜の特性評価方法としては、通常、酸化物半導体薄膜にゲート絶縁膜やパッシベーション絶縁膜を形成して電極付けを行ったうえで、移動度やしきい値などの特性を測定している。しかしながら、電極付けを必要とする接触型の特性評価方法では、電極付けのための時間やコストがかかる。また、電極付けをすることで、酸化物半導体薄膜に新たな欠陥が生じるおそれがある。製造歩留まり向上などの観点からも、電極付けを必要としない非接触型の特性評価手法が求められている。
【0008】
電極付けすることなく、非接触で、酸化物半導体薄膜の移動度を評価する方法として、本出願人はマイクロ波光導電減衰法による評価方法、及び該評価方法に用いる評価装置を開示している(特許文献1)。この技術は酸化物半導体薄膜を形成した試料にレーザを照射し、該レーザ照射で励起された過剰キャリアに応じて変化するマイクロ波の反射率の変化を測定してライフタイム値を算出することによって、酸化物半導体薄膜の移動度を評価している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1の技術は、半導体薄膜に電極付けをする必要がなく、また短時間、且つ高精度で半導体薄膜の移動度を測定することができる。しかしながら、特許文献1ではストレス耐性を評価できない。そのため、ストレス耐性については依然として電極付けが必要なNBTI(Negative Bias Temperature Instability)試験などによって評価していた。
【0011】
したがって酸化物半導体薄膜の移動度とストレス耐性を評価するには夫々別の装置が必要であった。このような現状は、生産性に大きな影響を及ぼすだけでなく、複数の装置を用意する必要があるため、製造コストが高くなるという問題があった。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、酸化物半導体薄膜の電気的特性(移動度とストレス耐性)を、非接触型で、正確、且つ同一の装置で簡便に測定し、評価(予測・推定)できる評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成し得た本発明の酸化物半導体薄膜の評価装置は、酸化物半導体薄膜が形成された試料の測定部位に対して、第1励起光を照射して前記酸化物半導体薄膜中に電子−正孔対を生成する第1励起光照射手段と、前記試料の測定部位に対して、電磁波を照射する電磁波照射手段と、前記第1励起光の照射により変化する前記電磁波の前記試料からの反射電磁波強度を検出する反射電磁波強度検出手段と、前記試料に第2励起光を照射して前記酸化物半導体薄膜からフォトルミネッセンス光を生成させる第2励起光照射手段と、前記フォトルミネッセンス光の発光強度を測定する発光強度測定手段と、前記反射電磁波強度検出手段の検出データおよび前記発光強度測定手段の測定データに基づいて前記試料の移動度、およびストレス耐性を評価する評価手段と、を備えると共に、前記第1励起光照射手段と前記第2励起光照射手段は、同一または異なる励起光照射手段であることに要旨を有する。
【0014】
本発明では、前記第1励起光照射手段は、前記酸化物半導体薄膜のバンドギャップ以上のエネルギーを出力する光源を有するものであることも好ましく、また前記第2励起光照射手段は、前記酸化物半導体薄膜のバンドギャップ中に存在する欠陥準位に相当するエネルギーを出力する光源を有するものであることも好ましい実施態様である。
また前記第2励起光照射手段は、前記酸化物半導体薄膜から特定の波長のフォトルミネッセンス光のみを励起させるエネルギーを出力する光源を有することも好ましい。
【0015】
更に本発明では、前記第1励起光と前記第2励起光の光路上に、前記第1励起光、および/または前記第2励起光の光路を変更する光路切り替え手段を備えていることも好ましく、また前記光路切り替え手段は、前記第1励起光と前記第2励起光が、前記試料の同一、または異なる測定箇所に照射するように設置されていることも好ましい。
【0016】
本発明を実施するにあたっては、前記第1励起光と前記電磁波を前記試料の前記測定部位に誘導する導波管を備えると共に、前記導波管の前記試料側開口部近傍の側面に、前記第2励起光の導入口が設けられていることも好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酸化物半導体薄膜の移動度とストレス耐性を、非接触型で、正確、且つ簡便に評価(予測・推定)する装置を提供できる。特に本発明によれば、移動度とストレス耐性を同じ装置で評価することができる。
【0018】
したがって酸化物半導体の移動度とストレス耐性の評価に別々の評価装置が必要であった従来例と比べて、評価装置導入コストが低く、また評価装置設置スペースも削減できる。
【0019】
本発明の装置を用いれば、液晶表示装置などの製造ラインにおいて、酸化物半導体薄膜の電気的特性をインラインで短時間、且つ非接触型で行うことができるため、歩留まりの向上など、生産性を向上させることができ、酸化物半導体の品質管理を適切に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
既に述べたように、本出願人は先に酸化物半導体薄膜の移動度を評価する技術として、マイクロ波光導電減衰法による評価方法を提案している。マイクロ波光導電減衰法による評価手法は、電極付けを必要としない非接触型の測定であり、しかも短時間で測定できることから、本発明でも移動度については既知のマイクロ波光導電減衰方法によって評価することとした。
【0022】
一方、ストレス耐性については、先に提案した技術では評価できないため、本発明者らはストレス耐性の評価手法について鋭意検討を重ねた。その結果、酸化物半導体薄膜のストレス耐性を非接触型で、簡便に評価(予測・推定)する指標として、酸化物半導体薄膜が形成された試料に励起光を照射して励起するフォトルミネッセンス光の発光強度を測定することが有効であることを見出した。本発明者らが検討したところ、フォトルミネッセンス光の発光強度(好ましくはピーク強度)と、ΔVthとが、おおむね、良好な相関関係を有していることを突き止めた。すなわち、フォトルミネッセンス光の発光強度(好ましくはピーク強度)が大きくなるとΔVthも大きくなり、ストレス耐性が低下する傾向にあることがわかった。したがってフォトルミネッセンス光の発光強度の測定結果に基づいて、酸化物半導体薄膜のストレス耐性の優劣(例えば合否の判定など)をほぼ把握することができる。
【0023】
上記知見に基づいて、移動度とストレス耐性の評価可能な装置の構成について検討した結果、移動度の評価に必要な構成とストレス耐性の評価に必要な構成には、重複しているものがあることがわかった。さらに検討を重ねたところ、従来の移動度の評価装置を一部改良し、ストレス耐性の評価に必要な構成を上記移動度の評価装置に備えることにより、移動度だけでなく、ストレス耐性も同じ装置で評価することができた。
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明の評価装置は以下の構成に限定されず、適宜変更を加えることも可能である。
【0025】
図1は酸化物半導体薄膜の移動度、及びストレス耐性の評価に用いる評価装置の一例を示す概略説明図である。
図1に示す評価装置は、試料(酸化物半導体薄膜+基板)20の測定部位に対して第1励起光を照射する第1励起光照射手段1、電磁波(マイクロ波)を照射する電磁波照射手段3、第1励起光の照射により変化するマイクロ波の試料20からの反射電磁波の強度を検出する反射電磁波強度検出手段7を備えており、該構成により移動度を測定できる。また試料20の電磁波強度測定部位と同一または異なる測定部位に対して第2励起光を照射する第2励起光照射手段2、その第2励起光の照射により生成したフォトルミネッセンス光の発光強度を測定する発光強度測定手段19を備えており、該構成によりストレス耐性を測定できる。そして反射電磁波強度の検出データと発光強度の測定データに基づいて、試料の移動度、及びストレス耐性を評価する評価手段9を備えている。
【0026】
以下、
図1に基づいて移動度を評価する場合の装置構成について説明する。なお、移動度の測定方法の詳細については特開2012−33857号公報に開示されているため、それを参照すればよい。
【0027】
移動度を評価するための装置構成は、
図1に示す構成のうち、第1励起光照射手段1、電磁波照射手段3、反射電磁波強度検出手段7、及び評価手段9を備えており、その他、好ましい構成として方向性結合器4、相位調整器4a、マジックT(5)、第1導波管(信号用導波管)6a、第2導波管(参照用導波管)6b、信号処理装置8、ステージコントローラ10、X−Yステージ11、試料台(図示せず)、基板保持部(図示せず)、光路変更手段12及び集光手段16を備えている。
【0028】
試料20は、ガラス等からなる基板(基材)と、その表面(励起光照射側)に形成された酸化物半導体薄膜で構成されている。酸化物半導体の種類は特に限定されず、例えばIn、Ga、Zn、及びSnよりなる群から選択される少なくとも一種以上の組み合わせからなる非晶質の酸化物半導体が用いられる。酸化物半導体としては、例えばIn酸化物、In−Sn酸化物、In−Zn酸化物、In−Sn−Zn酸化物、In−Ga酸化物、Zn−Ga酸化物、In−Ga−Zn酸化物、Zn酸化物などが挙げられる。酸化物半導体の薄膜は例えば、数10nm〜100nm程度の厚みであればよい。
【0029】
また基板は、各種基板を用いることができるが、例えば、厚み0.7mm程度、大きさ(広さ)が第1世代〜第10世代と呼ばれる数10cm
2から数m
2を超える液晶表示装置用のガラス基板等を用いることができる。
【0030】
また試料20は、基板の上に直接、上記酸化物半導体薄膜が形成されている部分Aと、基板上に金属膜(モリブデンなど)を形成し、その上に、上記酸化物半導体薄膜が形成されている部分Bを有していてもよい(このような試料を試料20aとする)。試料20aの部分Aは基板に直接、酸化物半導体薄膜が形成されているため、マイクロ波の反射を防止でき、感度よく移動度を測定できる。また試料20aの部分Bは、上記試料に対して励起光を照射した際、基板からのルミネッセンス光の生成を避けることができるため、ストレス耐性の評価精度が一層高められる。このような試料を用いる場合は、例えば後記
図2で説明するような光路切り替え手段15を用いることで、移動度(部分A)とストレス耐性(部分B)の評価に応じた試料の測定部位に励起光を照射できる。
【0031】
なお、基板からのルミネッセンス光の発光が酸化物半導体薄膜のストレス耐性の評価に影響を与えない程度に少ない場合は、基板の上に直接、上記酸化物半導体薄膜のみを形成した試料(上記部分Aのみ)を用いてもよい。このような試料20を用いる場合は、例えば
図1や
図3で説明するように移動度を評価するための第1励起光の測定部位と同じ箇所にストレス耐性を評価するための第2励起光を照射することが可能である。同一箇所に第1と第2の励起光を照射することで、同一箇所における移動度とストレス耐性の評価することができるため好ましい。
【0032】
第1励起光照射手段1は、試料20に照射する第1励起光を出力する光源を有するものであり、第1励起光の照射により酸化物半導体薄膜中に電子−正孔対を生成させるものである。好ましくは酸化物半導体薄膜のバンドキャップ以上のエネルギー(励起光)を出力する光源を有するものである。酸化物半導体薄膜のバンドキャップ以上のエネルギーを出力することで効率的にキャリアを発生させ、高感度で測定できるため好ましい。バンドギャップ以上のエネルギーを出力する第1励起光照射手段としては、例えば光源に紫外線レーザを用いればよい。具体的には波長349nm、パワー1μJ/pulse、パルス幅15ns程度、ビーム径1.5mm程度のパルス状の紫外光(YLFレーザ第三高調波等)を励起光として出射する半導体レーザ(パルスレーザ)等である。
【0033】
また、第1励起光照射手段1は評価手段9から伝送(図中、破線)されてくるタイミング信号の入力をトリガとして第1励起光(パルス光)を出力する。なお、タイミング信号は、同時に信号処理装置8に対しても伝送される。
【0034】
第1励起光照射手段1から出力された第1励起光は、光路変更手段(例えばミラー、以下、ミラーで代表する)12で反射されると共に、集光手段(例えば集光レンズ、以下、集光レンズで代表する)16によって集光され、第1導波管6aに設けられた微小開口6cを通過し、その第1導波管6aの試料20に近接する端部(開口部6d)を通じて、試料20の測定部位(例えば、直径5〜10μm程度のスポット)に対して照射される。このように、ミラー12及び集光レンズ16が、第1励起光照射手段1から出力された第1励起光を集光して試料20の測定部位へ導く。これにより、試料20における微小な励起光照射領域(測定部位)において、励起キャリアが発生する。
【0035】
電磁波照射手段3は、試料20の測定部位(第1励起光による励起部を含む部分)に照射する電磁波(マイクロ波)を出力する電磁波照射手段である。この電磁波照射手段3は、例えば、周波数26GHzのガンダイオード等のマイクロ波発振器が挙げられる。
【0036】
方向性結合器4は、電磁波照射手段3から出力されたマイクロ波を2分岐するものである。分岐後の一方の出力波(以下、第1マイクロ波Op1という)はマジックT(5)側へ伝送され、他方の出力波(以下、第2マイクロ波Op2という)は相位調整器4a、反射電磁波強度検出手段7のLO入力端へ伝送される。この方向性結合器4は、例えば、10dBカプラ等が採用される。
【0037】
マジックT(5)は、第1マイクロ波Op1を2分岐すると共に、2分岐された第1マイクロ波各々の試料20に対する反射波各々の差信号Rt1(以下、反射波差信号という)及び和信号を出力するものである。
【0038】
マジックT(5)により2分岐された第1マイクロ波Op1の一方(以下、第1主マイクロ波Op11という)は、そのマジックT(5)に接続された第1導波管6aにより、試料20の測定部位(励起部を含む部分)に導かれてその先端の開口部6dから放射される。これにより、第1主マイクロ波Op11が試料20の測定部位に照射される。さらに第1導波管6aは,前記第1主マイクロ波Op11を放射するアンテナ(導波管アンテナ)としての機能に加え、測定部位に照射された第1主マイクロ波Op11の反射波をその先端開口部6dで捕捉し、マジックT(5)まで折り返し導く(遡って導く)機能も果たす。
【0039】
一方、マジックT(5)により2分岐された第1マイクロ波Op1の他方(以下、第1副マイクロ波Op12という)は、マジックT(5)に接続された第2導波管6bにより、試料20aの測定部位の近傍(励起光による励起部を含まない部分)に導かれてその先端の開口部6eから放射される。これにより、第1副マイクロ波Op12が、試料20aの測定部位の近傍に照射される。さらに第2導波管6bは、第1副マイクロ波Op12を放射するアンテナ(導波管アンテナ)としての機能に加え、測定部位の近傍に照射された第1副マイクロ波Op12の反射波をその先端開口部6eで捕捉し、マジックT(5)まで折り返し導く機能も果たす。ここで、第1導波管6aがマイクロ波を導く経路長と、第2導波管6bがマイクロ波を導く経路長とは等しい(同一経路長)。
【0040】
また第1導波管6a及び第2導波管6bによりマジックT(5)に導かれた2つの反射波(2分岐後の第1マイクロ波Op11,Op12各々が試料20に反射したもの)の差信号(反射波差信号Rt1)が、そのマジックT(5)により出力され、反射電磁波強度検出手段7のRF入力端に伝送される。
【0041】
反射電磁波強度検出手段7は、第2マイクロ波Op2及び反射波差信号Rt1を混合することによって検波信号Sg1を出力する。この検波信号Sg1は、反射波差信号Rt1の強度(試料20に照射された第1マイクロ波Op1の反射波の強度の一例)を表す信号であり、信号処理装置8に取り込まれる。反射波差信号Rt1は、基板保持部(図示せず)によって所定位置に保持された試料20に対する励起光の照射によってその強度が変化する。このように反射電磁波強度検出手段7は、反射波差信号Rt1の強度を検出するものであり、この反射電磁波強度検出手段7としてはミキサーや、マイクロ波を入力してその強度に応じた電気信号(電流或いは電圧)を出力するマイクロ波検出器(検波器)が設けられてもよい。
【0042】
反射電磁波強度検出手段7により検出される反射波差信号Rt1の強度は、試料20の測定部位に対する第1励起光の照射により変化する。具体的には、反射波差信号Rt1の強度は、第1励起光(パルス光)の照射によって一時的に強くなった後に減衰する。また測定部位に不純物や欠陥等が多いほど反射波差信号Rt1の強度のピーク値は小さくなり、その減衰時間(キャリア寿命)も短くなる。
【0043】
ここで第1励起光(パルス光)の照射により変化する反射波差信号Rt1の強度について、そのピーク値やピークが生じてから所定レベルに減衰するまでの時間(減衰時間:ライフタイム値)が試料20の移動度を評価する指標値となる。
【0044】
信号処理装置8は、反射電磁波強度検出手段7により検出される反射波差信号Rt1の強度の変化のピーク値Spを検出し、その検出結果を評価手段9に伝送する装置である。より具体的には信号処理装置8は、評価手段9からのタイミング信号の入力をトリガとして反射波差信号Rt1の変化を所定時間監視し、その間に得られる反射波差信号Rt1のレベルの最高値を反射波差信号Rt1の強度の変化のピーク値Spとして検出する。ここで信号処理装置8は、反射波差信号Rt1に対して遅延処理を施す遅延回路を備え、遅延処理後の信号に対して所定のサンプリング周波数で信号強度を順次検出し、その検出値の変化から反射波差信号Rt1の強度の変化のピーク値Spを検出する。
【0045】
評価手段9としては、CPU、記憶部、入出力信号のインターフェース等を備えたコンピューターを用いることができ、CPUが所定のプログラムを実行することによって各種の処理を実行する。
【0046】
例えば、評価手段9は、第1励起光照射手段1及び信号処理装置8に対して励起光の出力タイミングを表すタイミング信号を出力すると共に、信号処理装置8によって検出される反射波差信号Rt1のピーク値Spを取り込んで当該評価手段9が備える記憶部に記録する。記録された反射波差信号Rt1(検出データ)は、試料20のキャリア移動度の評価に用いられる。
【0047】
またステージコントローラ10は、評価手段9からの指令に従ってX−Yステージ11を制御することにより、試料20における測定部位の位置決め制御を行う。
【0048】
X−Yステージ11の上側には試料台(図示せず)が設けられている。試料台は、アルミニウム、ステンレス或いは鉄等の金属又はその他の導体からなる板状部材(導体部材)である。その上側に基板保持部(図示せず)が設けられ、さらにその基板保持部の上に試料20が載置される。これにより試料台は、試料20に対して前記第1マイクロ波Op11、Op12が照射される側と反対側(試料20の下側)に配置される。
【0049】
基板保持部は、試料台に対してその上側に固定された固形の誘電体である。基板保持部は基板(試料)と試料台(導体部材)との間に挿入される固形の誘電体であり、その材質は、例えばガラスやセラミック等の比較的屈折率の大きな誘電体である。これにより基板保持部を媒質とするマイクロ波の波長が短くなり、基板保持部としてより厚みの薄い軽量なものを採用できる。
以上、本発明の移動度を評価するための構成によれば、第1励起光照射手段1から照射された第1励起光によって酸化物半導体薄膜中に光励起キャリアが生成されると共に、電磁波照射手段3から照射された電磁波(マイクロ波)の電界で光励起キャリアが運動(移動)し、その運動状態は、半導体中の不純物、欠陥等の存在によって影響を受ける。このため、反射電磁波強度検出手段7で、試料からの反射マイクロ波の強度を検出し、評価手段9で解析することで、移動度を評価することができる。特に反射マイクロ波の強度がピークになる値によって移動度を評価できる。この際、評価手段9が、X−Yテーブル11などから成るステージの位置を制御することで、所定の範囲の結晶性を判定するマッピング測定も可能である。
【0050】
次に、
図1に基づいてストレス耐性を評価する場合の装置構成について説明する。ストレス耐性を評価するための装置構成は、
図1に示す構成のうち、第2励起光照射手段2、発光強度測定手段19、ストレス耐性の評価手段9で構成されている。その他、好ましい構成として、光誘導路18、ステージコントローラ10、X−Yステージ11、試料台(図示せず)、基板保持部(図示せず)、光路変更手段(ミラー)12、13、14、および集光レンズ16を備えている。光路変更手段は可動可能であれば、所望の角度に光路を変更できるので望ましい。なお、上記移動度の装置構成と同じ番号を付したものは説明を省略する場合がある。
【0051】
第2励起光照射手段2は、試料20に照射する第2励起光を出力する光源を有するものであり、第2励起光の照射により酸化物半導体薄膜からフォトルミネッセンス光を生成させるものである。好ましくは酸化物半導体薄膜のバンドギャップ中に存在する欠陥準位に相当するエネルギーを出力する光源を有するものである。酸化物半導体薄膜のバンドギャップ中に存在する欠陥準位に相当するエネルギーを出力することで、バンドギャップ中の発光に関与する欠陥準位を観測できる。また酸化物半導体薄膜から特定の波長(例えば1.6〜1.9eV)のフォトルミネッセンス光のみを励起させるエネルギーを出力する光源を有することも好ましい。1.6〜1.9eVの範囲に観察される発光強度とΔVthとが、おおむね、良好な相関関係を有しており、ストレス耐性の評価に好適だからである。
【0052】
第2励起光照射手段としては、例えば光源に紫外線レーザを用いればよい。具体的には波349nm、パワー(パルスエネルギー)1μJ/pulse、パルス幅15ns程度、ビーム径1.5mm程度のパルス状の紫外光(YLFレーザ第三高調波等)を励起光として出射する半導体レーザ(パルスレーザ)等を使用することが好ましい。このほか、He−Cdレーザ、アルゴンイオンレーザなどを、連続光を照射可能なレーザ光源として利用することもできる。
【0053】
また、第2励起光照射手段2が、パルスレーザである場合には、評価手段9から伝送(図中、破線)されてくるタイミング信号の入力をトリガとして第2励起光(パルス光)を出力する。一方、連続光を発生するレーザでは評価手段9よりON信号(たとえばTTLのhighなど)を伝送し、必要な時間(たとえば100mSから数秒)レーザを出力する。
【0054】
第2励起光照射手段2から照射された第2励起光は、第1励起光と同じ光路を通って試料20に照射される。光路には、集光レンズ16を備えているこが好ましく、これにより、発光したルミネッセンス光を効率よく収集することができる。図示例では、第2励起光照射手段2から出力された第2励起光は、順次ミラー13、14、12で反射されると共に、集光レンズ16によって集光され、第1導波管6aに設けられた微小開口6cを通過し、その第1導波管6aの試料20に近接する端部(開口部6d)を通じて、第1励起光と同じ試料20の測定部位に対して照射される。これにより、試料20における微小な励起光照射領域(測定部位)において、フォトルミネッセンス光が励起される。このように第1励起光と同じ測定部位に第2励起光を照射することで、同一測定部位における移動度と信頼性を評価することが可能となる。
【0055】
第2励起光の照射により試料20の測定部位から発光するフォトルミネッセンス光を光誘導路18の先端開口部で補足し、発光強度測定手段19まで導かれる。この際、試料20の測定部位近傍に楕円面を有するミラー17を設けると、散乱したフォトルミネッセンス光を楕円面ミラー17で反射させ、反射した焦点に集光できるため好ましい。また
図4に示すように楕円面ミラー17の反射焦点に、光誘導路18の入射口を設置すれば効率的に集光できるため好ましい。光誘導路18としては、集光したフォトルミネッセンス光を低損失で発光強度測定手段19に誘導できるものであればよく、例えば光ファイバーが挙げられる。
【0056】
発光強度測定手段19に導かれたフォトルミネッセンス光は波長分解され、各スペクトルごとの発光強度が記録される。発光強度測定手段19としては、例えば分光器を用いて可視光領域に亘って全スペクトルを測定し、そのなかから、1.6〜1.9eVの範囲に観察されるピーク強度を抽出する機能を具備していることが好ましい。また、上記発光強度測定手段19は、分光器と、CCD(Charge Coupled Device、電荷結合素子 )、光電子増倍管、光受光素子などの光検知手段と、1.6〜1.9eVのみの光を選択的に透過するフィルターとを組み合わせて用いることもできる。また、上記発光強度測定手段19は、前記励起光の照射時間にあわせて測定を行うトリガーを備えているとことが望ましい。評価手段9からレーザーに伝送されるトリガー信号により発光強度測定手段19をレーザーが照射されている時間に限って強度測定を行うことで、高感度で測定を行うことが可能となる。
【0057】
発光強度測定手段19で処理された各種測定データは、評価手段9に伝送される。評価手段9では分光されたスペクトル(測定データ)を取り込んで波形解析を行い、設定されたエネルギーにおける発光強度比を算出する。評価手段9では、第2励起光照射手段2に対して励起光の出力タイミングを表すタイミング信号を出力すると共に、発光強度測定手段19によって出力されたスペクトルの強度値を当該評価手段が備える記憶部に記録し、また1.6〜1.9eVの範囲に存在するブロードなピークからピーク強度を算出する。得られたデータを使ってストレス耐性の評価を行うことができる。
【0058】
図1に示すように第1励起光と第2励起光を試料20の同じ測定部位に照射する場合には、第1励起光と同じく第2励起光を試料20の測定箇所に誘導する導波管6aの微小開口部6cから試料20側の開口部6dを通して照射させるように、光路変更手段を適宜を設置すればよい。また
図5に示すように第1導波管6aの試料20側の開口部6d近傍の側面に、第2励起光導入口21を設けてもよい。第2励起光の光路を変更して第2励起光導入口21から第2励起光を入射させて、導波管6aの開口部6dから第2励起光を出射させれば、光路が異なる場合でも第1励起光の測定部位に第2励起光を照射することができる。この際、第2励起光導入口21には、マイクロ波漏洩防止用のフィルター(励起光を透過させ、マイクロ波を透過させないフィルター)24を設けてマイクロ波の漏洩を防止することが好ましく、また該フィルターの外側にはガラスなど励起光を透過させる性質を有する透光部材23で被覆しておくことも望ましい。
【0059】
以上、本発明のストレス耐性を評価するための装置構成によれば、第2励起光照射手段2から照射された第2励起光によって酸化物半導体薄膜中にフォトルミネッセンス光が生成され、このフォトルミネッセンス光22の発光強度を発光強度測定手段19で分析し、評価手段9で解析することで、ストレス耐性を評価することができる。特に本発明の装置によれば第1励起光と第2励起光を試料の同一測定部位に照射することが可能であり、酸化物半導体薄膜の同一箇所における移動度とストレス耐性を評価できる。
【0060】
次に
図2、
図3に基づいて本発明の装置の他の実施形態について説明する。上記
図1の装置と同じものは同じ番号を付して説明を省略する。
図2、
図3は第1励起光照射手段と第2励起光照射手段の機能を兼備する励起光照射手段1aを用いた例であり、励起光照射手段1aからは移動度を測定するための第1励起光、及びストレス耐性を評価するための第2励起光を照射できる。各励起光照射に使用する光源(紫外線レーザー)を共通化することで、コスト削減、及び装置構成の簡略化を図ることができる。なお、励起光照射手段1aは各励起光に応じたエネルギー照射となるように出力調整手段を備えることが望ましい。
【0061】
第1励起光と第2励起光を同一の励起光照射手段1aから出射する場合には、第1励起光と第2励起光の光路を同一としてもよいし、あるいは光路切り替え手段15を設けて、第1励起光および/または第2励起光の光路を変更して試料20aの異なる測定部位に照射するようにしてもよい。例えば
図2では励起光照射手段1aから出射された第1励起光は、ミラー12で光路を変更して第1導波管6aの微小開口6cを通って開口部6dから試料20aの測定部位(上記部分A)に照射される。また励起光照射手段1aから出力された第2励起光は、光路切り替え手段15によって光路を変更し、第1励起光とは異なる試料20aの測定部位(上記部分B)に照射される。
図3では励起光照射手段1aから出射された第1励起光はミラー14で光路を変更して試料20の測定部位に照射され、同様に第2励起光も第1励起光と同じ光路を通って試料20の同一の測定部位に照射される。なお、図示しないが、適宜光路切り替え手段と光路変更手段(ミラー)を設置して、第1励起光と第2励起光は任意の箇所に照射させることもできる。
【0062】
図2に示す光路切り替え手段15は可動部と、ミラーなどの光路変更手段を有しており、評価手段9からの電気信号によって可動して光路の遮断(光路変更)を行うものである。
図2では、第1励起光照射時には光路切り替え手段15は光路を遮断しない位置で固定させ、第2励起光照射時に第2励起光の光路を所望の角度に変更するように光路切り替え手段15を可動させることができる。光路切り替え手段15の可動動力は特に限定されず、モーターや圧力空気などの公知の駆動手段を採用できる。
【0063】
以上、本発明の装置を用いれば、酸化物半導体薄膜の材料開発段階において、様々な組成や濃度の酸化物半導体薄膜の移動度、およびストレス耐性を、簡易に短時間で、且つ低コストで評価することが可能となる。また本発明の装置を用いれば、非接触型で評価することができるため、歩留まりの向上など、生産性を向上することが可能であり、酸化物半導体の品質管理を適切に行うことができる。