(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、深刻となっている地球温暖化を防止するため、太陽、風力、地熱、海洋、水力等の再生可能エネルギーに注目が集まっているが、それだけでなく、燃焼によって二酸化炭素を排出しないH
2ガスも、理想的な燃料として有効な活用が期待されるようになっている。
本願は、2011年8月17日に日本に出願された特願2011−178212号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【0003】
しかしながら、H
2ガスは、その物性から燃焼範囲が広く燃焼速度も速いため、これまで多用されてきた炭化水素系ガス、改質ガス、または都市ガス等の燃焼技術を適用することが困難であり、工業用の加熱源としては利用分野が限られていた。
また、H
2ガスは、他の燃料と比べ燃焼しやすいので、一般的な水素燃焼においては、逆火に対する対策やNO
X発生抑制に対する対策が重要な課題となっていた。
【0004】
一方、H
2ガスは、他の燃料に比べ比較的低温で燃焼が継続するため、触媒を用いてH
2ガスを燃焼させる場合は、安定して効率のよいバーナになることが知られている。
また、H
2ガスは、炭化水素系ガスと比較すると、多くの金属や金属酸化物が有効な燃焼触媒になると言われており、特殊な例ではあるが、液体水素の自動着火方法として、極低温触媒燃焼方法が紹介されたことがある。
【0005】
なお、国内では1970年代に通産省工業技術院サンシャイン計画が発足し、水素吸蔵合金や水素燃焼技術に関して多くの研究がなされていた。特に、大阪工業試験所においては、各種の金属や金属酸化物の特性が調査されており、H
2活性の高い触媒を充填した触媒層に当量比のH
2ガスと空気を通気することによって、室温での燃焼が可能なことが確認されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一般に工業用燃焼炉の着火には、点火トランスを用いた直接点火式のパイロットバーナが用いられている。
ここで、パイロットバーナの燃料として、炭化水素系ガスや都市ガスのように燃焼速度が数十cm/sec程度の燃料を用いるのであれば問題はないが、燃料としてH
2ガスを用いる場合は、その燃焼速度が2.6m/secと速いため安全性に問題があった。
特に、燃焼炉内のパージ不良や未着火時のように、燃料と空気の混合気体が充満した状態で再着火すると、爆轟が生じる可能性があり、危険であった。
【0008】
また、パイロットバーナは、点火用の連続パイロットとして使用する場合だけでなく、時限パイロットとして使用する場合であっても、メインバーナへ火移りするまで一定時間燃焼させる必要がある。
そこで、本願発明者らは、H
2ガスを燃料とし、触媒を用いて燃焼させるバーナを用いることについて鋭意検討したが、触媒によって一定時間燃焼を継続させると、触媒が焼結や酸化等によって劣化したり、担体の高温耐性が限界に達して触媒が劣化したりするという問題があることを突き止めた。
【0009】
このような背景の下、H
2ガスを燃料に用いながら、安全な点火を行うことができ、かつ、触媒でのH
2ガスの燃焼時間を短くできるバーナおよびバーナの燃焼方法が要望されていたが、有効適切なものが提供されていないのが実情であった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
また、
請求項1に係る発明は、2つの異なるガスの流路を有し、第1の流路に触媒が設けられているH
2用バーナの燃焼方法であって、前記第1の流路にH
2ガスおよび第1の支燃性ガスを流し、前記触媒によって着火させて第1の流路の先端に火炎を形成する工程と、前記H
2用バーナの第2の流路にH
2ガスまたは第2の支燃性ガスを流す工程と、前記第1の流路の先端に形成された火炎を前記第2の流路の先端に火移りさせる工程と、H
2ガスおよび第1の支燃性ガスのうち、前記第2の流路に流すガスと同様の種類のガスについて、前記第1の流路に流すことを停止する工程と、を有することを特徴とするH
2用バーナの燃焼方法である。
【0014】
また、
請求項2に係る発明は、前記第1の流路の先端に火炎を形成した後に、前記第2の流路にH
2ガスまたは第2の支燃性ガスを流すことを特徴とする
請求項1に記載のH
2用バーナの燃焼方法である。
【0015】
また、
請求項3に係る発明は、前記触媒が、Pt、Pd、PdOまたはPtO
2のいずれか一種類以上を含有することを特徴とする
請求項1または請求項2に記載のH
2用バーナの燃焼方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のH
2用バーナには、第1の流路に、H
2ガスと支燃性ガスを供給することで着火可能な触媒が設けられている。これにより、第1の流路に支燃性ガスとH
2ガスを流すことで、トランス等を用いずに触媒を用いて着火させることが可能となった。その結果、トランスを用いずに着火するので、H
2ガスを燃料として用いてはいるが、爆轟等が生じることがなくなり、安全性が確保される。
また、第1の流路の先端から火移り可能な位置に第2の流路の先端が形成されている。
したがって、第1の流路に設けられた触媒によって種火を形成し、それと同時にもしくはそれと前後して、第2の流路にH
2ガスまたは支燃性ガスを流し、第2の流路の先端に種火を火移りさせ、その後に第2の流路に流すガスと同様の種類のガスを、第1の流路に流すことを停止させることで、触媒の劣化を防止することができる。すなわち、触媒によって種火が形成され、それを火移りさせた後に、触媒に供給するH
2ガスまたは支燃性ガスの片方の供給を停止することで、触媒でのH
2ガスの燃焼を停止させることができ、触媒の劣化を防止することができる。また、H
2ガスまたは支燃性ガスの片方について、第1の流路に流すことを停止しても、それと同じガスが第2の流路から供給されるので、第2の流路の先端において火炎を継続して形成することができる。
【0017】
また、本発明のH
2用バーナは、第1の流路に形成された触媒が、Pt、Pd、PdOまたはPtO
2のいずれか一種類以上を含有している。これにより、効率良く触媒において着火することができる。
【0018】
また、本発明のH
2用バーナは、第1の流路の先端に、火炎の形成を検知可能な検知機構が設けられている。これにより、第1の流路の先端に種火が形成されたか否かを正確に検知することが可能となり、第1の流路へのガスの供給の停止を精度良く行うことができる。
【0019】
また、本発明のH
2用バーナの燃焼方法は、第1の流路に形成された触媒にH
2ガスと支燃性ガスを供給することで着火している。したがって、着火の際にトランスを用いないので、爆轟等が生じることがなく、安全性が確保される。
また、本発明のH
2用バーナの燃焼方法では、触媒によって着火し、それと同時にまたはそれと前後して、第2の流路にH
2ガスまたは支燃性ガスを流して種火を火移りさせ、第1の流路に流すガスのうち、第2の流路に流すガスと同様の種類のガスについては、流すことを停止している。この結果、触媒でのH
2ガスの燃焼を停止することができ、触媒の劣化を防止することができる。また、第1の流路に流していたH
2ガスまたは支燃性ガスの片方について、流すことを停止しても、それと同じガスを第2の流路に流すので、第2の流路の先端において、火炎を継続して形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態であるH
2用バーナおよびH
2用バーナの燃焼方法について、図面を参照して説明する。
【0022】
<H
2用バーナ>
図1は、本発明の一実施形態であるH
2用バーナ1を示す断面図である。
H
2用バーナ1は、内部に2つの異なるガスの流路A,Bを有するパイプ状の構造体であり、
図1に示すように、外管2と、外管2内に配置された内管3と、内管3の先端3a側に形成された触媒4と、内管3内に配置された内管5と、を有した構成となっている。
【0023】
外管2は、パイプ状の中空管体であって、内側に内管3が配置されており、外管2の先端2aには開口部2cが形成されている。また、開口部2cの下流側が燃焼部分6となっており、火炎Fが形成可能なように構成されている。
【0024】
また、外管2の先端2aとは反対側の一端2b(後端)側には、支燃性ガス供給装置7が配管8を介して接続されており、外管2は、燃焼部分6に支燃性ガス(第2の支燃性ガス)を供給することが可能なように形成されている。
【0025】
内管3は、パイプ状の中空管体であって、外管2と軸線方向を同一にしつつ外管2内に配置されており、内管3の先端3aには火炎(図示略)が形成可能なように構成されている。
内管3の先端3aとは反対側の一端3b(後端)側には、H
2ガス供給装置9が配管10を介して接続されており、内管3は、触媒4及び燃焼部分6にH
2ガスを供給することが可能なように形成されている。
【0026】
また、内管3の先端3a側の内部には、触媒4(触媒層)が充填されており、内管3の先端3aは、複数の噴出孔3cが形成されたノズル状に形成されている。なお、内管3の配置位置は、内管3の先端3aに形成された火炎が、外管2の先端2aに火移り可能な位置であれば、どのような位置であってもよい。たとえば内管3の先端3aの位置を、外管2の先端2aの位置よりも引っ込んだ位置とすることもでき、または突き出た位置とすることもできる。この場合、内管3の先端3aによる火炎の形成領域が、外管2の先端2aによる火炎Fの形成領域と少なくとも一部でも重なっていれば、内管3の先端3aに形成された火炎が外管2の先端2aに火移り可能となるため、かかる位置関係を満たすように、外管2の先端2aの位置に対して内管3の先端3aの位置を任意に調整することができる。
【0027】
触媒4は、H
2ガスと支燃性ガスが供給されることで着火可能となるものであればどのようなものであってもよく、Pt、Pd、PdOまたはPtO
2のいずれか一種類以上を含有するものを用いると、効率よく着火可能となる。
特に、PdまたはPdOを触媒として用いた場合は、供給される支燃性ガスの流量を変化させても、H
2解離触媒として有用であり、また、H
2ガスの流量が過多な状態であっても、十分な着火性能を有するので、より好ましい。
なお、触媒4は、最高で500〜800度の温度に達する。
【0028】
また、内管3の内部には、触媒4よりも上流側において、更に内管5が配置されている。
内管5は、パイプ状の中空管体であって、内管3や外管2と軸線方向を同一にしつつ内管3内に配置されている。
【0029】
内管5の先端5aとは反対側の一端5b(後端)側には、支燃性ガス供給装置21が配管22を介して接続されており、内管5は、触媒4および燃焼部分6に支燃性ガス(第1の支燃性ガス)を供給することが可能なように形成されている。また、内管5の配置位置は、内管5の先端5aが、触媒4に支燃性ガスを吹き付けることが可能な位置であれば、どのような位置であってもよい。
【0030】
このようにH
2用バーナ1には、外管2と外管2内に配置された内管3との間の空間に、流路A(第2の流路)が形成され、内管3と内管3内に配置された内管5との間の空間に流路Cが形成され、内管5内には、流路Dが形成される。加えて、内管3の先端3c側では、流路Cと流路Dが合流してなる流路B(第1の流路)が形成される。
すなわち、流路Aは支燃性ガスが、流路BはH
2ガスおよび支燃性ガスが、流路CはH
2ガスが、流路Dは支燃性ガスが、それぞれ流れるように構成されている。
【0031】
また、H
2用バーナ1は、
図2(a)および
図2(b)に示すように、外管2の内側でかつ内管3の先端3aの下流側に位置する空間に、火炎を検知するための検知機構23を設けてもよい。これにより、内管3に火炎が形成されたか否かを素早く正確に検知することができる。検知機構23としては、例えばフレームロッド、温度計、UVセンサー等を挙げることができる。
本実施形態のH
2用バーナ1は、以上のような構成をしている。
【0032】
なお、上記実施形態においては、外管2に支燃性ガス供給装置7を、内管3にH
2供給装置9を、内管5に支燃性ガス供給装置21を接続させたが、必ずしもこのような態様に限定されない。例えば、外管2にH
2ガス供給装置を接続させても構わない。また、内管3に支燃性ガス供給装置を、内管5にH
2ガス供給装置を接続させても構わない。
【0033】
<H
2用バーナの燃焼方法>
次に、上記したH
2用バーナ1を用いたH
2用バーナの燃焼方法について説明する。
まず、支燃性ガス供給装置21を用いて、内管5内の流路Dに支燃性ガスを流し、H
2ガス供給装置9を用いて内管3と内管5との間の空間に形成された流路CにH
2ガスを流す。
なお、支燃性ガス供給装置21が供給する支燃性ガスは、例えば空気や酸素であってもよい。
【0034】
これにより、内管3の先端3a側に形成された流路Bには、流路Cを流れるガスと流路Dを流れるガスが合流することで、H
2ガスと支燃性ガスが流れることになり、内管3の先端3a側に設けられた触媒4にもH
2ガスと支燃性ガスが供給されることとなる。その結果、H
2ガスは触媒4にて燃焼を開始し(着火し)、流路Bの先端である内管3の先端3aに火炎(図示略)が形成される。
【0035】
触媒4によるH
2ガスの着火原理は、詳細な点は不明なことが多いが、Pd膜によるH
2透過現象などの研究から、定性的に次のように考えられている。
まず、H
2分子が触媒4上に吸着し、このH
2分子が触媒4上でH原子に解離する。そして、解離してできたH原子が酸素と反応することによって反応熱が生じる。その結果、この反応熱を発火エネルギーとしてH
2が燃焼状態に移行すると考えられている。
【0036】
なお、流路Cおよび流路Dに流すガスの流量は、触媒4を通過したH
2および支燃性ガスの温度がH
2の自然発火温度である530℃を上回る温度になるのであればどのような流量でもよく、適宜決定すればよい。
【0037】
流路Bの先端に火炎が形成されたら、それと同時にまたはそれと前後して、支燃性ガス供給装置7を用いて、外管2と内管3との間に形成された流路Aに支燃性ガスを流す。これにより、流路Bの先端に形成された火炎を、流路Aの先端である外管2の先端2aに火移りさせ、流路Aの先端に火炎Fを形成する。
【0038】
なお、支燃性ガス供給装置7が供給する支燃性ガスは、例えば空気や酸素であってもよく、必ずしも支燃性ガス供給装置21が供給する支燃性ガスと同一のガスである必要はない。
【0039】
流路Aの先端に火炎Fが形成されたら、支燃性ガス供給装置21によって流路Cに、ひいては流路Bに支燃性ガスを流すことを停止させ、流路Bの先端側に設けられた触媒4でのH
2ガスの着火を停止させる。
なお、触媒でのH
2ガスの燃焼時間が長いと、触媒の劣化が激しくなることからから、支燃性ガスの供給の停止は、流路Bの先端に種火が形成されてから、または流路Aの先端に火炎Fが形成されてから、間をおかず、略同時に行われるのが好ましい。
【0040】
なお、外管2内に検知機構23を設けた場合は、この検知機構23によって、流路Bの先端に火炎が形成されたか否かを正確に検知することができるので、流路Bへの支燃性ガスの供給の停止を精度よく行うことができる。
【0041】
また、上記実施形態においては、流路Aおよび流路Dに支燃性ガスを流し、流路CにH
2ガスを流す場合について説明したが、必ずしもこの態様に限定されない。
流路AにH
2ガスを流すようにしてもよい。また、流路BにH
2ガスと支燃性ガスの両方を流すことができるのであれば、流路Cおよび流路Dに流すガスの選択は適宜決定すればよい。
【0042】
このような場合も、流路Aの先端に火炎Fを形成した後に、H
2ガスおよび支燃性ガスのうち、流路Aに流すガスと同様の種類のガスについて、流路Bへの供給を停止すればよい。ここで、同様の種類のガスについて供給を停止するとは、例えば流路Aに供給する支燃性ガスが空気であり、流路Bに供給する支燃性ガスが酸素の場合に、この流路Bに供給する支燃性ガス(この場合は酸素)の供給を停止することも含む。
【0043】
本実施形態のH
2用バーナ1には、流路Bに、H
2ガスと支燃性ガスを供給することで着火可能な触媒4が設けられている。これにより、流路Bに支燃性ガスとH
2ガスを供給することで、トランス等を用いずに触媒4を用いて着火させることが可能となった。その結果、トランスを用いずに着火するので、H
2ガスを燃料として用いてはいるが、爆轟等が生じることがなくなり、安全性が確保される。
また、流路Bの先端から火移り可能な位置に、流路Aの先端が形成されている。したがって、流路Bに設けられた触媒4によって種火を形成し、それと同時にもしくはそれと前後して、流路Aに支燃性ガスを供給し、流路Aの先端に種火を火移りさせ、その後に支燃性ガスの流路Bへの供給を停止することで、触媒の劣化を防止することができる。すなわち、触媒によって種火が形成され、それを火移りさせた後に、触媒に供給する支燃性ガスの供給を停止することで、H
2ガスと支燃性ガスの両方ともが触媒を通過する時間を短くすることができ、触媒での燃焼を停止することで、触媒の劣化を防止することができる。また、支燃性ガスを流路Bに流すことを停止しても、それと同じガスである支燃性ガスが流路Aから供給されるので、流路Aの先端において火炎を継続して形成することができる。
【0044】
また、本実施形態のH
2用バーナ1の燃焼方法は、流路Bに形成された触媒4にH
2ガスと支燃性ガスを供給することで着火している。したがって、着火の際にトランスを用いないので、爆轟等が生じることがなく、安全性が確保される。
また、触媒4によって着火して流路Bの先端に種火を形成し、それと同時にもしくはそれと前後して流路Aに支燃性ガスを流し、流路Aの先端に種火を火移りさせ、支燃性ガスを流路Bに流すのを停止している。この結果、支燃性ガスの供給を停止しているので、触媒でのH
2ガスの燃焼を短くすることができ、触媒の劣化を防止することができる。また、支燃性ガスを流路Bに流すことを停止しても、流路Aに支燃性ガスを流すので、火炎Fを継続して形成することができる。
【0045】
なお、上記したH
2用バーナ1は、外管2の内部に内管3が配置された構成となっているが、2つの異なる流路が形成可能で、第1の流路の先端に形成された火炎が、第2の流路の先端に火移り可能であれば、バーナの構造はどのようなものであってもよく、分離された2つの管体から構成されてもよい。
2つの管体から構成される例としては、例えば
図3に示すように、上記した外管2の内部に配置されていた内管3を、外管2の横に配置してもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、内管3の内部に更に内管5を設けた場合について説明したが、内管5を設けずに、内管3内にH
2ガスと支燃性ガスを両方とも供給する構成を採用しても構わない。
ここで、内管3の内部に内管5を設けた場合は、予めH
2ガスと支燃性ガスとを混合することなく、触媒4にH
2ガスと支燃性ガスを供給するので、点火の際に逆火が起きる可能性が低い。これに対し、内管5を設けず、単に内管3内にH
2ガスと支燃性ガスの両方を供給する場合は、これらのガスが予め混合されるので、適宜逆火を防ぐための措置を採るのが好ましい。
【0047】
次に、本実施形態のH
2用バーナのメリットについて、加熱対象ガスの加熱処理方法およびフレアースタックを例にして更に説明する。
【0048】
<対象ガスの加熱処理方法>
図4に示すように、本実施形態のH
2用バーナを用いた加熱対象ガスの加熱処理装置24は、メインバーナ25と、メインバーナ25の先端に設けられたH
2用バーナ1とから概略構成されている。
【0049】
メインバーナ25は、メインバーナ25の先端部分の空間である燃焼部分26に対象ガスを供給する配管27と、配管27の外周を囲うように形成され、燃焼部分26に燃料を供給する噴出口28aが設けられたメインバーナ本体28とから構成されている。なお、メインバーナ本体28には、メインバーナ本体28に燃料を導入するための配管29が接続されている。
【0050】
この加熱処理装置24を用いて加熱対象ガスを加熱処理する場合は、まずパイロットバーナであるH
2用バーナ1を点火する。そして、メインバーナ25の配管27から加熱対象ガスを、メインバーナ本体28から燃料をそれぞれ供給し、H
2用バーナ1の火炎を用いて、メインバーナ25を点火する。このようにしてメインバーナ25の先端の燃焼部分26に火炎(図示略)を形成し、対象ガスを加熱処理する。
【0051】
一般に、メインバーナの燃料としてH
2ガスを用いる場合、炉内においてH
2ガスと支燃性ガスの混合による爆発を防止するため、上記のように予めパイロットバーナを点火させてから、メインバーナに燃料を導入することとなる。
ここで、従来は、パイロットバーナ用の燃料としてH
2ガスを用いることができなかったことから、パイロットバーナには、メインバーナの燃料とは異なった炭化水素系ガス等の燃料を導入する装置およびその漏洩を検知する装置が必要であった。そのため、メインバーナの点火動作に必要なコストが嵩むという不都合があった。
一方、本実施形態のH
2用バーナ1を用いれば、H
2ガスを燃料として用いながらも、安全に点火することができるため、H
2以外の燃料の供給装置およびその漏洩を検知する装置が不要となり、メインバーナ25の点火にかかる費用を抑制することができる。
【0052】
<フレアースタック>
次に、本実施形態のH
2用バーナ1を用いたフレアースタックのメリットについて説明する。
図5に示すように、フレアースタック41は、燃焼させる所望のガスの貯蔵設備42と接続された放出塔43と、放出塔43の先端に設けられたH
2用バーナ1とから構成されている。
【0053】
このフレアースタック41を用いてガスを燃焼させる場合は、まずH
2用バーナ1を点火する。そして、貯蔵設備42から燃焼させる所望のガスを放出塔43に送り、放出塔43の先端において、H
2用バーナ1の火炎を用いて、所望のガスを点火して燃焼させればよい。
【0054】
ここで、従来のフレアースタックであれば、放出塔の先端に設置するバーナとしては、通常のパイロットバーナを用いていたので、点火用プラグなどの電気エネルギーを用いて点火する必要があった。
そのため、電気を供給する設備が必要であり、また、フレアースタックを保安設備としても用いる際には、停電時に備えてバッテリーや非常用発電機といった予備電源を用意する必要があった。
【0055】
しかしながら、本実施形態のH
2用バーナ1を用いれば、触媒4上にH
2ガスと支燃性ガスを通気するだけで点火が可能であるため、電気を供給する設備および予備電源を必要としない。このため、電気を供給する設備および予備電源ならびにそれらの維持にかかる費用を抑制することができる。
【0056】
また、貯蔵設備42に貯蔵された燃焼させるガスがH
2ガスである場合は、そのH
2ガスをH
2用バーナの燃料とすればよいので、バーナの燃料およびそれを供給するための設備も必要がなくなり、費用を抑制することができる。
【0057】
更に、H
2ガスを燃料として用いた火炎は、従来のバーナのように炭化水素系ガスを燃料として用いた場合と比較して、吹き消えを起こし難いため、H
2用バーナ1を用いると、放出塔43内の風速を大きくした際にも吹き消えずに機能する。
この結果、同流量のガスをフレアースタック41で処理しようとした場合、H
2用バーナ1を用いると、従来のバーナを使用する場合と比較して放出塔43の塔内径を小さくすることが可能となり、フレアースタック41自体の小型化が可能となる。
【0058】
以上、本発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0059】
以下、実施例により、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例に何ら制限されるものではない。
【0060】
(実施例1)
実施例1では、上記したH
2用バーナ1と同様なH
2用バーナを用いて、外管2にH
2ガスを10L/minの流量で、内管5にH
2ガスを1.5L/minの流量で供給し、内管3に供給する空気の流量を変化させた際の、着火までに要する時間を測定した。使用した触媒はPdであり、周囲および初期ガス温度は20℃とした。結果を
図6に示す。なお、着火の確認は、外管2内の先端側に設置された温度計を用いて行った。
【0061】
図6に示すように、触媒上のH
2濃度は、20〜30体積%程度であると着火までに要する時間が短くなっている。
これは、H
2濃度ごとにおけるスパークによる最小発火エネルギーの測定結果(
図7参照)とよく合致しており、触媒上でH
2の燃焼が行われていることが認められる。
【0062】
(実施例2)
実施例2では、実施形態で説明したH
2用バーナ1と同様なH
2用バーナを用い、触媒としてPd,Pt,PdOおよびPtO
2のそれぞれを用いた場合について、着火性能の比較を行った。具体的には、外管2にH
2ガスを10L/minの流量で、内管5にH
2ガスを2L/minの流量で供給し、内管3内に供給する空気の流量を変化させながら、点火動作後30秒で到達する最高温度を計測することで、性能比較を行った。なお、最高温度の測定は、
図8に示すように、内管3の先端3aの外壁に設置した温度センサー44を用いて行った。結果を
図9に示す。
【0063】
図9に示すように、いずれの触媒においても、触媒を通過したH
2と支燃性ガスとがH
2の自然発火点530℃を上回る温度を示す空気風量の範囲が存在し、H
2ガスの着火に必要な性能を有していることが分かった。
また、PdまたはPdOを触媒として用いた場合は、空気流量の広い範囲において触媒を通過したH
2と支燃性ガスとが530℃以上の温度に到達することから、H
2解離触媒として非常に有用であることが分かる。
【0064】
また、PdまたはPdOを触媒として用いた場合は、触媒上を通気する空気流量が、H
2ガス量に対して理論空気比未満であった場合でも高い温度上昇が確認された。これは、理論空気比未満であった場合、触媒で加熱された未燃H
2ガスが、ノズル噴出孔先端にて自然発火し、火炎を生成するためである。したがって、これらの触媒を用いた場合は、燃料過多な空気比においても十分な着火性能を有している。
【0065】
また、実施例2では、最高で750℃まで温度が上昇したが、いずれの条件でも逆火は確認されず、予めH
2ガスと支燃性ガスを混合させない構造を採用することで、H
2の温度が上昇した際でも逆火が発生することなく、点火が行えることが確認された。