(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5732150
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】タワー型水上構造物およびその設置方法
(51)【国際特許分類】
F03D 11/04 20060101AFI20150521BHJP
B63B 43/06 20060101ALI20150521BHJP
B63B 35/00 20060101ALI20150521BHJP
F03D 1/06 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
F03D11/04 A
B63B43/06 A
B63B35/00 T
F03D1/06 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-13998(P2014-13998)
(22)【出願日】2014年1月29日
【審査請求日】2014年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】512141884
【氏名又は名称】サノヤス造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097755
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 勉
(72)【発明者】
【氏名】村上 貴志
(72)【発明者】
【氏名】牧 泰行
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康成
【審査官】
山本 崇昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−223113(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/023743(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0135398(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 11/04
B63B 35/00
B63B 43/06
F03D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮力を発生可能な筒状のタワー構造物を備え、水上に設置されるタワー型水上構造物であって、
前記タワー構造物の内部に上下に配される上側バラスト室および内部が空または半載の状態とされた下側バラスト室をそれぞれ設け、前記上側バラスト室と前記下側バラスト室とを管路で繋ぐとともに、該管路を開閉する管路開閉手段を設け、該管路開閉手段を閉鎖した状態で前記上側バラスト室の内部に流動性を有するバラストを充填することにより、水上で横転状態を保持するようにするとともに、前記管路開閉手段を開操作して前記上側バラスト室内のバラストを前記下側バラスト室内に移動させることにより、横転状態から直立状態に移行させるようにしたことを特徴とするタワー型水上構造物。
【請求項2】
浮力を発生可能な筒状のタワー構造物を備え、水上に設置されるタワー型水上構造物であって、
前記タワー構造物の内部に上下に配される上側バラスト室および下側バラスト室をそれぞれ設け、更に前記上側バラスト室の上方で直立状態における喫水線付近に位置するように喫水調整バラスト室を設け、前記上側バラスト室および前記喫水調整バラスト室のそれぞれの内部に流動性を有するバラストを充填することにより、水上で横転状態を保持するようにするとともに、前記上側バラスト室内のバラストを前記下側バラスト室内に移動させることにより、横転状態から直立状態に移行させるようにし、かつ直立後に前記喫水調整バラスト室内のバラストを排出することで喫水調整するようにしたことを特徴とするタワー型水上構造物。
【請求項3】
前記上側バラスト室内から前記下側バラスト室内へのバラストの移動は、重力移動とされる請求項1または2に記載のタワー型水上構造物。
【請求項4】
前記喫水調整バラスト室内のバラストの排出は、重力排水とされる請求項2に記載のタワー型水上構造物。
【請求項5】
請求項1に記載のタワー型水上構造物の設置方法であって、
該タワー型水上構造物を横転状態で設置水域まで曳航する工程と、
設置水域で該タワー型水上構造物における前記上側バラスト室内のバラストを前記下側バラスト室内に移動させて該タワー型水上構造物を横転状態から直立状態に移行させる工程と、
を含むことを特徴とするタワー型水上構造物の設置方法。
【請求項6】
請求項2に記載のタワー型水上構造物の設置方法であって、
該タワー型水上構造物を横転状態で設置水域まで曳航する工程と、
設置水域で該タワー型水上構造物における前記上側バラスト室内のバラストを前記下側バラスト室内に移動させて該タワー型水上構造物を横転状態から直立状態に移行させる工程と、
該タワー型水上構造物の直立後に前記喫水調整バラスト室内のバラストを排出して該タワー型水上構造物の喫水を調整する工程と、
を含むことを特徴とするタワー型水上構造物の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海や大河川、湖等の水上に設置されるタワー型水上構造物に関し、特に、洋上に設置される風力発電設備のようなタワー型の水上構造物および該タワー型水上構造物の設置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水上に設置されるタワー型水上構造物として、例えばスパー型浮体式洋上風力発電設備がある。この風力発電設備は、水面下で浮力を得るための浮体部上に、水面上の柱状構造であるタワー上部を設置したタワー構造物を支持構造とし、このタワー構造物の頂部にナセルや風車ブレードを組み付けて構成されている。なお、タワー型水上構造物全体の高さは概ね50〜200m程度と長大なものである。
【0003】
一般的に、この種の風力発電設備の洋上での設置は、次のようにして行われる。
まず、水深50m程度以上の設置海域で浮体部を直立状態で浮かばせる。その後、大型クレーン船を用いて、タワー上部やナセル、風車ブレード等を取り付ける。
【0004】
ところで、水深50m程度以上の外洋では波や風が強い日が多いため、大型クレーン船を用いた洋上設置作業の稼働率は大きく低下し、設置作業の費用が嵩むという問題があった。
【0005】
このような問題を解決し得るものとして、例えば特許文献1にて提案されている技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−202250号公報
【0007】
特許文献1には、タンクと上下方向に複数の隔室とを有する基礎を備えるスパー型浮体式洋上風力発電設備およびその設置方法が開示されている。
この設置方法においては、基礎とタワーと風車とを予め陸上で組み立て、基礎のタンクは空の状態で複数の隔室にはそれぞれバラスト水を注水することで横倒し状態で基礎を海上に浮かせ、基礎が横倒し状態とされた風力発電設備を設置海域まで曳航し、設置場所に到着したら、基礎のタンクに海水等を外部から注入するとともに、複数の隔室のうちの上部側の隔室のバラスト水を排出して、基礎を重心と浮力との偶力によって直立させるようにしている。
【0008】
この特許文献1に係るスパー型浮体式洋上風力発電設備によれば、基礎のタンクに対する注水と上部側隔室からの排水とを行うことによって基礎を直立状態に移行させることができるので、大型クレーン船を用いることなく設置することができ、設置作業効率を大幅に向上させることができて、設置作業の費用を大幅に削減することができる。
【0009】
しかしながら、特許文献1のスパー型浮体式洋上風力発電設備では、基礎の内部にタンクのみならず上下方向に複数の隔室をも形成しなければならず、構造が複雑になるという問題点がある。また、基礎を直立させる際には、基礎のタンクに対する注水と上部側隔室からの排水との両方を行わなければならず、作業が複雑であるという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、大型クレーン船等の大がかりな設備を用いることなく、簡易な構成で容易に水上設置することができるタワー型水上構造物およびその設置方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、第1発明によるタワー型水上構造物は、
浮力を発生可能な筒状のタワー構造物を備え、水上に設置されるタワー型水上構造物であって、
前記タワー構造物の内部に上下に配される上側バラスト室および
内部が空または半載の状態とされた下側バラスト室をそれぞれ設け、
前記上側バラスト室と前記下側バラスト室とを管路で繋ぐとともに、該管路を開閉する管路開閉手段を設け、該管路開閉手段を閉鎖した状態で前記上側バラスト室の内部に流動性を有するバラストを充填することにより、水上で横転状態を保持するようにするとともに、
前記管路開閉手段を開操作して前記上側バラスト室内のバラストを
前記下側バラスト室内に移動させることにより、横転状態から直立状態に移行させるようにしたことを特徴とするものである。
【0012】
また、第2発明によるタワー型水上構造物は、
浮力を発生可能な筒状のタワー構造物を備え、水上に設置されるタワー型水上構造物であって、
前記タワー構造物の内部に上下に配される上側バラスト室および下側バラスト室をそれぞれ設け、更に前記上側バラスト室の上方で直立状態における喫水線付近に位置するように喫水調整バラスト室を設け、前記上側バラスト室および
前記喫水調整バラスト室のそれぞれの内部に流動性を有するバラストを充填することにより、水上で横転状態を保持するようにするとともに、前記上側バラスト室内のバラストを
前記下側バラスト室内に移動させることにより、横転状態から直立状態に移行させるようにし、かつ直立後に前記喫水調整バラスト室内のバラストを排出することで喫水調整するようにしたことを特徴とするものである。
【0013】
第1発明または第2発明において、前記上側バラスト室内から
前記下側バラスト室内へのバラストの移動は、重力移動とされる(第3発明)。
【0014】
第2発明において、前記喫水調整バラスト室内のバラストの排出は、重力排水とされる(第4発明)。
【0015】
次に、第5発明によるタワー型水上構造物の設置方法は、
第1発明に係るタワー型水上構造物の設置方法であって、
該タワー型水上構造物を横転状態で設置水域まで曳航する工程と、
設置水域で該タワー型水上構造物における
前記上側バラスト室内のバラストを
前記下側バラスト室内に移動させて該タワー型水上構造物を横転状態から直立状態に移行させる工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0016】
また、第6発明によるタワー型水上構造物の設置方法は、
第2発明に係るタワー型水上構造物の設置方法であって、
該タワー型水上構造物を横転状態で設置水域まで曳航する工程と、
設置水域で該タワー型水上構造物における
前記上側バラスト室内のバラストを
前記下側バラスト室内に移動させて該タワー型水上構造物を横転状態から直立状態に移行させる工程と、
該タワー型水上構造物の直立後に
前記喫水調整バラスト室内のバラストを排出して該タワー型水上構造物の喫水を調整する工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
第1発明のタワー型水上構造物によれば、浮力を発生可能な筒状のタワー構造物の内部に、上下に配される上側バラスト室および下側バラスト室がそれぞれ設けられ、上側バラスト室の内部に流動性を有するバラストを充填することにより、水上で横転状態が保持されるので、設置水域に至るまでの間に水深が浅い所があっても容易に曳航することができる。
また、
上側バラスト室と下側バラスト室とを繋ぐ管路に配された管路開閉手段を開操作して上側バラスト室内のバラストを
内部が空または半載の状態とされた下側バラスト室内に移動させることにより、横転状態から直立状態に移行されるので、大型クレーン船等の大がかりな設備を用いることなく水上設置することができる。
このような作用効果は、筒状のタワー構造物の内部に上側バラスト室と下側バラスト室とを設けて、上側バラスト室の内部に流動性を有するバラストを充填するといった簡易な構成で、しかも上側バラスト室内のバラストを下側バラスト室内に移動させるといった容易な作業工程で達成することができる。
【0018】
第2発明のタワー型水上構造物によれば、浮力を発生可能な筒状のタワー構造物の内部に上下に配される上側バラスト室および下側バラスト室がそれぞれ設けられ、更に上側バラスト室の上方で直立状態における喫水線付近に位置するように喫水調整バラスト室が設けられ、上側バラスト室および喫水調整バラスト室のそれぞれの内部に流動性を有するバラストを充填することにより、水上で横転状態が保持されるので、第1発明のタワー型水上構造物と同様に、設置水域に至るまでの間に水深が浅い所があっても容易に曳航することができる。
また、上側バラスト室内のバラストを下側バラスト室内に移動させることにより、横転状態から直立状態に移行されるので、第1発明のタワー型水上構造物と同様に、大型クレーン船等の大がかりな設備を用いることなく水上設置することができる。
さらに、直立後に喫水調整バラスト室内のバラストを排出することで喫水調整することができるとともに、係留チェーン等で係留している場合には係留張力の調整をすることができる。
このような作用効果は、筒状のタワー構造物の内部に上側バラスト室と下側バラスト室と喫水調整バラスト室とを設けて、上側バラスト室および喫水調整バラスト室のそれぞれの内部に流動性を有するバラストを充填するといった簡易な構成で、しかも上側バラスト室内のバラストを下側バラスト室内に移動させ、直立後に喫水調整バラスト室内のバラストを排出するといった容易な作業工程で達成することができる。
【0019】
第3発明のタワー型水上構造物によれば、上側バラスト室内から下側バラスト室内へのバラストの移動が重力移動とされるので、バラストを移動させるためのポンプ等が不要であり、構造の簡素化を図ることができる。
【0020】
第4発明のタワー型水上構造物によれば、喫水調整バラスト室内のバラストの排出が重力排水とされるので、第3発明と同様に、構造の簡素化を図ることができる。
【0021】
第5発明のタワー型水上構造物の設置方法によれば、タワー型水上構造物が横転状態で設置水域まで曳航されるので、設置水域に至るまでの間に水深が浅い所があっても容易に曳航することができる。また、設置水域において、タワー型水上構造物における上側バラスト室内のバラストを下側バラスト室内に移動させるだけで、タワー型水上構造物が横転状態から直立状態に移行されるので、大型クレーン船等の大がかりな設備を用いることなく容易な作業工程で水上設置することができる。
【0022】
第6発明のタワー型水上構造物の設置方法によれば、第5発明のタワー型水上構造物の設置方法と同様の作用効果を得ることができるのは言うまでもない。さらに、この第6発明のタワー型水上構造物の設置方法によれば、設置水域においてタワー型水上構造物を直立させた後に、喫水調整バラスト室内のバラストを排出することにより、喫水調整することができるとともに、係留チェーン等で係留している場合には係留張力の調整をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るタワー型水上構造物としての風力発電設備を示す図で、(a)は構造説明図、(b)は洋上での横倒し状態図である。
【
図2】第1の実施形態の風力発電設備の洋上での横転状態から直立状態への移行を示す図である。
【
図3】風力発電設備の設置方式の説明図で、(a)は洋上に浮かせる場合の状態図、(b)は海底に着床させる場合の状態図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係るタワー型水上構造物としての風力発電設備を示す図で、(a)は構造説明図、(b)は洋上での横倒し状態図である。
【
図5】第2の実施形態の風力発電設備の洋上での横転状態から直立状態への移行を示す図である。
【
図6】第2の実施形態の風力発電設備の喫水調整の説明図である。
【
図7】各実施形態の風力発電設備の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明によるタワー型水上構造物およびその設置方法の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下に述べる実施の形態は、タワー型水上構造物として、洋上に設置される風力発電設備(以下、「洋上風車」と称する。)に本発明が適用された例であるが、これに限定されるものではなく、海や大河川、湖等の水上に設置されるタワー型の水上構造物に広く適用し得るものである。
【0025】
〔第1の実施形態〕
<洋上風車の概略説明>
図1(a)に示される洋上風車1Aは、水深50m程度以上の洋上に設置される全長が50〜200m程度のスパー型浮体式洋上風車であって、スパー型浮体として浮力を発生可能な有底円筒状のタワー構造物2を備え、このタワー構造物2の頂部にナセル3や風車ブレード4を組み付けて構成されている。
【0026】
<タワー構造物の説明>
タワー構造物2は、その内部を所要の仕切り板5,6,7,8によって仕切ることで区画形成される複数のバラスト区画11,12,13、すなわちタワー構造物2の最下部に位置する第1バラスト区画11に加え、この第1バラスト区画11の上方に順に配される第2バラスト区画12および第3バラスト区画13をそれぞれ備えている。各バラスト区画11〜13は、所要のバラストを収容可能な収容部を有するバラスト室を構成するものである(後述する第4バラスト区画についても同様)。
なお、第2バラスト区画12が本発明の「下側バラスト室」に、第3バラスト区画13が本発明の「上側バラスト室」にそれぞれ相当する。
【0027】
<第1バラスト区画の説明>
第1バラスト区画11の内部には、例えばコンクリートあるいは砂、砂利や水等のバラスト20が充填されている。このバラスト20は、第1バラスト区画11内に密閉状態で固定的に設けられるものであり、以下、「固定バラスト20」と称することとする。
【0028】
<第2,3バラスト区画の説明>
第2バラスト区画12は、その内部が空または半載の状態とされる一方、第3バラスト区画13の内部には、流動性を有するバラスト21(以下、「流動性バラスト21」と称する。)が充填されている。
ここで、流動性バラスト21としては、例えば、清水、海水などの液体や、砂や砂利などの粒状材料を用いることができる。清水、海水などの液体は、後述する第3バラスト区画13から第2バラスト区画12への移動工程をよりスムーズに行えるという利点があり、特に清水を用いるようにすれば、塩分による腐食対策を省略することができるので、より好ましい。また、砂や砂利などの粒状材料は、一般的に清水、海水などの液体よりも密度が高いので、バラスト区画の省スペース化を図ることができるという利点がある。
【0029】
<管路開閉手段の説明>
第2バラスト区画12と第3バラスト区画13との間には、両区画を繋ぐ管路である配管22を開閉する管路開閉手段が設けられている。この管路開閉手段は、配管22の途中に介設されるバルブ装置23により構成されている。
【0030】
配管22は、第2バラスト区画12と第3バラスト区画13とにおける互いに対向する仕切り板6,7を連通状態で繋ぐように配されており、第3バラスト区画13内の流動性バラスト21を、配管22を通して第2バラスト区画12内に移動させることができるようにしている。
【0031】
バルブ装置23は、例えば電磁アクチュエータ、油圧、手動などによってバルブを開閉操作する形式のもので、この開閉操作されるバルブで配管22の流路を開いたり閉めたりすることができるようになっている。
【0032】
第1の実施形態においては、
図1(b)に示されるように、風車ブレード4側を上に向け、タワー構造物2が下部から上部に向けて上向きにやや傾斜した状態とすることで、風車ブレード4と共にナセル3が海面に接することなく海面上方に位置するようにして、洋上風車1Aが全体として横転状態を保持するように、タワー構造物2の浮力に対する、固定バラスト20が充填された第1バラスト区画11と、流動性バラスト21が充填された第3バラスト区画13との重量バランスが調整されている。
【0033】
以上に述べたように構成される第1の実施形態の洋上風車1Aの洋上での設置作業について以下に説明する。
【0034】
まず、
図1(a)に示されるように、タワー構造物2、ナセル3および風車ブレード4を予め陸上で組み立てておき、組み立てた洋上風車1Aにおける第2バラスト区画12は空または半載の状態とし、第3バラスト区画13内には流動性バラストを充填することで、同図(b)に示されるように、洋上風車1Aを横倒し状態で洋上に浮かせて、設置海域まで図示されない曳船で曳航する。
設置海域に到着したら、バルブ装置23に対してバルブを開操作して、配管22の流路を開き、
図2(a)〜(c)に示されるように、第3バラスト区画13内の流動性バラスト21を第2バラスト区画12内に移動させる。こうして、洋上風車1Aの釣合い状態を変化させることにより、洋上風車1Aを横転状態から直立状態に移行させることができる。
直立状態とした洋上風車1Aは、
図3(a)に示されるように、係留チェーン30で係留して洋上の所定の場所に浮かした状態で設置することができ、あるいは同図(b)に示されるように、海底に着床させて設置することもできる(後述する洋上風車1Bについても同様)。
【0035】
<作用効果の説明>
第1の実施形態によれば、
図1(a)に示されるように、タワー構造物2の内部に、固定バラスト20が充填された第1バラスト区画11に加え、この第1バラスト区画11との間に第2バラスト区画12を挟んで上方に第3バラスト区画13が設けられ、第3バラスト区画13の内部に流動性バラスト21を充填することにより、
図1(b)に示されるように、洋上で洋上風車1Aの横転状態が保持されるので、設置海域に至るまでの間に水深が浅い所があっても容易に曳航することができる。
また、
図2(a)〜(c)に示されるように、第3バラスト区画13内の流動性バラスト21を第2バラスト区画12内に移動させることにより、洋上風車1Aが横転状態から直立状態に移行されるので、大型クレーン船等の大がかりな設備を用いることなく洋上風車1Aを洋上設置することができる。
【0036】
このような作用効果は、タワー構造物2の内部に第1バラスト区画11、第2バラスト区画12および第3バラスト区画13をそれぞれ設けて、第3バラスト区画13の内部に流動性バラスト21を充填するといった簡易な構成で、しかもバルブ装置23のバルブ開操作にて第3バラスト区画13内の流動性バラスト21を第2バラスト区画12内に移動させるといった容易な作業工程で達成することができる。
また、第3バラスト区画13内から第2バラスト区画12内への流動性バラスト21の移動が重力移動とされるので、流動性バラスト21を移動させるためのポンプ等が不要であり、構造の簡素化を図ることができる。
【0037】
〔第2の実施形態〕
図4には、本発明の第2の実施形態に係る洋上風車を示す図で、構造説明図(a)および洋上での横倒し状態図(b)がそれぞれ示されている。また、
図5には、同洋上風車の洋上での横転状態から直立状態への移行を示す図が,
図6には、同洋上風車の喫水調整の説明図が、それぞれ示されている。なお、この第2の実施形態において、先に述べた第1の実施形態と同一または同様のものについては図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略することとし、以下においては、第2の実施形態に特有の部分を中心に説明することとする。
【0038】
図4(a)に示されるように、第2の実施形態の洋上風車1Bにおいては、タワー構造物2の内部に、第3バラスト区画13の上方で直立状態における喫水線付近のやや上方に位置するように仕切り板9,10によって仕切ることで区画形成される第4バラスト区画14が設けられ、この第4バラスト区画14内に流動性バラスト24が充填されている。なお、第4バラスト区画14が本発明の「喫水調整バラスト室」に相当する。
【0039】
第2の実施形態においては、
図4(b)に示されるように、風車ブレード4側を上に向け、タワー構造物2が下部から上部に向けて上向きにやや傾斜した状態とすることで、風車ブレード4と共にナセル3が海面に接することなく海面上方に位置するようにして、洋上風車1Bが全体として横転状態を保持するように、タワー構造物2の浮力に対する、固定バラスト20が充填された第1バラスト区画11と、流動性バラスト21が充填された第3バラスト区画13と、流動性バラスト24が充填された第4バラスト区画14との重量バランスが調整されている。
【0040】
第4バラスト区画14には、外部と繋がる管路を開閉する管路開閉手段が設けられている。この管路開閉手段は、第4バラスト区画14から外部へと延出する配管25に装着されるバルブ装置26により構成されている。なお、このバルブ装置26は、前述したバルブ装置23と同構造のものである。
【0041】
以上に述べたように構成される第2の実施形態の洋上風車1Bの洋上での設置作業について以下に説明する。
【0042】
まず、
図4(a)に示されるように、タワー構造物2、ナセル3および風車ブレード4を予め陸上で組み立てておき、組み立てた洋上風車1Bにおける第2バラスト区画12は空または半載の状態とし、第3バラスト区13画内および第4バラスト区画14にはそれぞれ流動性バラスト21,24を充填することで、同図(b)に示されるように、洋上風車1Bを横倒し状態で洋上に浮かせて、設置海域まで図示されない曳船で曳航する。
設置海域に到着したら、バルブ装置23に対してバルブを開操作して、配管22の流路を開き、
図5(a)〜(c)に示されるように、第3バラスト区画13内の流動性バラスト21を第2バラスト区画12内に移動させる。こうして、洋上風車1Bの釣合い状態を変化させることにより、洋上風車1Bを横転状態から直立状態に移行させて洋上に設置することができる。
洋上風車1Bを直立させた後において、
図6(a)に示されるように、バルブ装置26に対してバルブを開操作して、配管25の流路を開き、第4バラスト区画14内のバラストを外部に排出して、同図(b)に示されるように、喫水調整をする。
【0043】
<作用効果の説明>
第2の実施形態によれば、タワー構造物2の内部に、固定バラスト20が充填された第1バラスト区画11に加え、この第1バラスト区画11との間に第2バラスト区画12を挟んで上方に第3バラスト区画13が設けられ、更に第3バラスト区画13の上方で直立状態における喫水線付近のやや上方に位置するように第4バラスト区画14が設けられ、第3バラスト区画13および第4バラスト区画14のそれぞれの内部に流動性を有する流動性バラスト21,24を充填することにより、洋上で洋上風車1Bの横転状態が保持されるので、第1の実施形態と同様に、設置海域に至るまでの間に水深が浅い所があっても容易に曳航することができる。
また、第3バラスト区画13内の流動性バラストを第2バラスト区画12内に移動させることにより、洋上風車1Bが横転状態から直立状態に移行されるので、第1の実施形態と同様に、大型クレーン船等の大がかりな設備を用いることなく洋上風車1Bを洋上設置することができる。
さらに、直立後に第4バラスト区画14内の流動性バラスト24を排出することで喫水調整することができるとともに、係留チェーン等で係留している場合には係留張力の調整をすることができる。
【0044】
このような作用効果は、タワー構造物2の内部に第1バラスト区画11、第2バラスト区画12、第3バラスト区画13および第4バラスト区画14をそれぞれ設けて、第3バラスト区画13および第4バラスト区画14のそれぞれの内部に流動性バラスト21,24を充填するといった簡易な構成で、しかもバルブ装置23のバルブ開操作にて第3バラスト区画13内の流動性バラスト21を第2バラスト区画12内に移動させるとともに、バルブ装置26のバルブ開操作にて第4バラスト区画14内の流動性バラスト24を外部に排出といった容易な作業工程で達成することができる。
また、第3バラスト区画13内から第2バラスト区画12内への流動性バラスト21の移動が重力移動とされ、第4バラスト区画14内の流動性バラスト24の排出が重力排水とされるので、流動性バラスト21,24を移動・排出させるためのポンプ等が不要であり、構造の簡素化を図ることができる。
【0045】
以上、本発明のタワー型水上構造物およびその設置方法について、複数の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0046】
例えば、
図7(a)(b)に示されるように、上記の各実施形態の洋上風車1A,1Bにおいて、タワー構造物2における第3バラスト区画13内部を、風車ブレード4が設けられる側を前側とした場合における洋上風車1A,1Bの前後方向に仕切る仕切り板27を設け、該仕切り板27の追加で前後に分割形成される前側分割バラスト区画13aと後側分割バラスト区画13bのうちの後側分割バラスト区画13bに流動性バラスト21を充填するようにしてもよい。こうすると、同図(a)(b)に示されるように、洋上風車1A,1Bが洋上で横倒し状態になったときに、後側分割バラスト区画13b内の流動性バラスト21が下側に配されるため洋上風車1A,1Bが安定し、洋上風車1A,1Bがその長手方向に対し横揺れするローリングを効果的に防止することができる。
また、上記の各実施形態においては、タワー構造物2の内部を仕切り板5〜10によって仕切ることでバラスト区画11〜14を形成し、該バラスト区画11〜14でバラスト室を構成する例を示したが、これに限定されるものではなく、バラスト区画11〜14に代えて、別途製作したタンクを配設し、タンク内部をバラスト室として用いるようにする態様もあり得る。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のタワー型水上構造物およびその設置方法は、大型クレーン船等の大がかりな設備を用いることなく、簡易な構成で容易に水上設置することができるという特性を有していることから、洋上に設置される風力発電設備の用途に好適に用いることができるほか、例えば、橋梁の下部構造、気象観測タワー、送電線塔、灯台などへの用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1A,1B 洋上風車(タワー型水上構造物)
2 タワー構造物
11 第1バラスト区画
12 第2バラスト区画(下側バラスト室)
13 第3バラスト区画(上側バラスト室)
14 第4バラスト区画(喫水調整バラスト室)
20 固定バラスト
21,24 流動性バラスト
【要約】
【課題】大型クレーン船等の大がかりな設備を用いることなく、簡易な構成で容易に水上設置することができるタワー型水上構造物およびその設置方法を提供する。
【解決手段】浮力を発生可能な有底円筒状のタワー構造物2を備え、洋上に設置される洋上風車1Aであって、タワー構造物2の内部に、第2バラスト区画12とその第2バラスト区画12の上方に第3バラスト区画13をそれぞれ設けるものとする。そして、第3バラスト区画13内に流動性バラスト21を充填して洋上風車1Aを洋上で横転状態に保ち、この横転状態のままで設置海域まで曳航し、設置海域に到着したら、第3バラスト区画13内の流動性バラスト21を第2バラスト区画12内に移動させて洋上風車1Aを横転状態から直立状態に移行させることで、洋上に洋上風車1Aを設置するものとする。
【選択図】
図2