特許第5732169号(P5732169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5732169
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】ゼオライトの製造方法及びハニカム触媒
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20150521BHJP
   B01J 29/70 20060101ALI20150521BHJP
   B01J 29/76 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C01B39/48
   B01J29/70 A
   B01J29/76 AZAB
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-233751(P2014-233751)
(22)【出願日】2014年11月18日
【審査請求日】2014年11月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-271865(P2013-271865)
(32)【優先日】2013年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 豊浩
(72)【発明者】
【氏名】村上 卓成
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/074040(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/086753(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/061836(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/024547(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/131917(WO,A1)
【文献】 特開2014−050840(JP,A)
【文献】 特開2014−058433(JP,A)
【文献】 特開2014−046267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20−39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CHA構造を有するアルミノケイ酸塩であるゼオライトの製造方法であって、
Si源、Al源、アルカリ源及び構造規定剤からなる原料組成物を反応させることにより、ゼオライトを合成する合成工程を含み、
前記Al源は、乾燥水酸化アルミニウムゲルであり、
原料組成物中のAlに対するSiOのモル比(SiO/Alモル比)は、5〜50であり、
原料組成物中のSiOに対する構造規定剤のモル比(構造規定剤/SiOモル比)は、0.05〜0.20であり、
加熱温度は、100〜200℃であり、加熱時間は、10〜200時間であることを特徴とするゼオライトの製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ源は、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムである請求項1に記載のゼオライトの製造方法。
【請求項3】
前記合成工程では、前記原料組成物に、さらにゼオライトの種結晶を加える請求項1又は2に記載のゼオライトの製造方法。
【請求項4】
合成されたゼオライトの平均粒子径は、0.3〜6.0μmである請求項1〜3のいずれかに記載のゼオライトの製造方法。
【請求項5】
合成されたゼオライトのSiO/Alモル比は、5〜50である請求項1〜4のいずれかに記載のゼオライトの製造方法。
【請求項6】
複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設されたハニカムユニットを備えたハニカム触媒であって、
前記ハニカムユニットは、ゼオライトと無機バインダとからなり、
前記ゼオライトが、請求項1〜5のいずれかに記載のゼオライトの製造方法により製造されていることを特徴とするハニカム触媒。
【請求項7】
前記ハニカムユニットは、無機粒子をさらに含む請求項6に記載のハニカム触媒。
【請求項8】
前記無機粒子は、アルミナ、チタニア及びジルコニアからなる群より選択される一種以上である請求項7に記載のハニカム触媒。
【請求項9】
複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設されたハニカムユニットを備えたハニカム触媒の製造方法であって、
ゼオライトと無機バインダとを含む原料ペーストを成形することにより、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設されたハニカム成形体を作製する成形工程と、
前記ハニカム成形体を焼成することにより、ハニカムユニットを作製する焼成工程とを含み、
前記原料ペーストに含まれるゼオライトを、請求項1〜5のいずれかに記載のゼオライトの製造方法により製造することを特徴とするハニカム触媒の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載のゼオライトの製造方法により製造されていることを特徴とするゼオライト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライトの製造方法及びハニカム触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排ガスを浄化するシステムの1つとして、アンモニアを用いて、NOxを窒素と水に還元するSCR(Selective Catalytic Reduction)システムが知られている。
【0003】
また、SCRシステムに用いる触媒担体として、ゼオライトを含む組成物をハニカム状に成形したものが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ハニカムユニットがSAPO等のリン酸塩系ゼオライトと無機バインダとを含み、マクロ気孔の平均気孔径が0.1μm以上0.3μm以下であり、気孔率が30%以上40%以下であるハニカム構造体が開示されている。特許文献1に記載のハニカム構造体では、マクロ気孔の平均気孔径を0.1〜0.3μmにすることで、排ガスを隔壁の内部にまで充分に浸透させることができる。
【0005】
一方、特許文献2には、SCRシステムに用いるゼオライト触媒として、銅イオンでイオン交換されたCHA構造を有するゼオライトが開示されている。特許文献2に記載のゼオライト触媒は、熱水により熟成(老化:aging)させた後のNOxの浄化性能が高いとされている。
【0006】
CHA構造を有するゼオライトは、天然に産出するチャバサイト(chabazite)と同等の結晶構造を有するゼオライトであり、CHAとは、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association:IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードである。
【0007】
このようなCHA構造を有するゼオライト(以下、CHA型ゼオライトとも記載する)の製造方法の例として、例えば、特許文献3及び4には、SiO/Alモル比が高い(つまり高シリカの)CHA型ゼオライトの合成方法が開示されている。特許文献3及び4に開示されているように、CHA型ゼオライトを合成するためには、これまで、Si源としてコロイダルシリカ等が用いられ、Al源として水酸化アルミニウムやアルミン酸ナトリウム等が用いられ、その他、構造規定剤及びアルカリ源が用いられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2011/061836号
【特許文献2】米国特許第7,601,662号明細書
【特許文献3】米国特許第4,544,538号明細書
【特許文献4】国際公開第2010/074040号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、NOxの浄化性能に優れたハニカム触媒を得るため、CHA型ゼオライトを含む組成物をハニカム状に成形することを考えた。なお、ゼオライトは、狭義にはアルミノケイ酸塩のことであり、広義にはシリコアルミノリン酸塩(SAPO)も含むものであるが、本発明においては狭義の方を採用している。
【0010】
しかしながら、特許文献3及び4に記載されている従来の方法を用いてCHA型ゼオライトを合成すると、合成されたCHA型ゼオライトの粒子径及びSiO/Alモル比のばらつきが大きいことが判明した。そして、このようなCHA型ゼオライトを用いて製造したハニカム触媒では、安定したNOx浄化性能が得られにくいことも判明した。
【0011】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、CHA構造を有し、粒子径及びSiO/Alモル比のばらつきが小さいゼオライトの製造方法を提供することを目的とする。また、該ゼオライトの製造方法により製造されたゼオライトからなり、NOx浄化性能に優れたハニカム触媒を提供することを目的とする。さらには、該ゼオライトの製造方法を含むハニカム触媒の製造方法、及び、該ゼオライトの製造方法により製造されたゼオライトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のゼオライトの製造方法は、CHA構造を有するアルミノケイ酸塩であるゼオライトの製造方法であって、Si源、Al源、アルカリ源及び構造規定剤からなる原料組成物を反応させることにより、ゼオライトを合成する合成工程を含み、上記Al源は、乾燥水酸化アルミニウムゲルであることを特徴とする。
【0013】
ゼオライトを合成する過程において、ゼオライトは酸化アルミニウムで骨格を形成するため、そのAl源としては酸化アルミニウムに近く、溶解性である水酸化アルミニウム系が好ましい。さらに、本発明者らは、従来着目されていなかったアルカリ溶液に対するAl源の溶解度に着目し、従来の水酸化アルミニウムよりも溶解度が高いAl源、具体的には、1mol/L水酸化カリウム水溶液100gに対する溶解度が1.0g以上である乾燥水酸化アルミニウムゲルを用いることで、合成されたゼオライトの粒子径及びSiO/Alモル比のばらつきを小さくすることを可能とした。
【0014】
ゼオライトの合成過程においては、まず、構造規定剤を核としてゼオライトの結晶核が生成され、その後、結晶核が成長し、所定の粒子径及びSiO/Alモル比を有する結晶になると推定されている。ここでは、構造規定剤が正電荷を有するのに対して、ゼオライト骨格(ポリケイ酸イオン)中のAlサイトが負電荷を有するため、構造規定剤の周囲にポリケイ酸イオンが引き寄せられることにより結晶核が生成されると推定されている。したがって、本発明のように、原料組成物に含まれるAl源である乾燥水酸化アルミニウムゲルがアルカリ溶液に対して溶解しやすいものであるため、結晶化の初期段階において、安定した結晶核が数多く生成される結果、最終的なゼオライトの粒子径及びSiO/Alモル比のばらつきが小さくなるのではないかと考えられる。
【0015】
なお、上述したメカニズムは、本発明の構成によってその効果が得られる限り、他のメカニズムであってもよく、限定して解釈されるものではない。
【0016】
本発明のゼオライトの製造方法において、上記アルカリ源は、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムであることが望ましい。アルカリ源として水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを用いることにより、粒子径が比較的大きいゼオライトを得ることができる。
【0017】
本発明のゼオライトの製造方法において、上記合成工程では、上記原料組成物に、さらにゼオライトの種結晶を加えることが望ましい。種結晶を用いることにより、ゼオライトの結晶化速度が速くなり、ゼオライト製造における時間が短縮でき、収率が向上する。
【0018】
本発明のゼオライトの製造方法において、合成されたゼオライトの平均粒子径は、0.3〜6.0μmであることが望ましい。本発明のゼオライトの製造方法では、比較的大きな粒子径を有するゼオライトであっても、ばらつきが小さくなるように製造することができる。
【0019】
本発明のゼオライトの製造方法において、合成されたゼオライトのSiO/Alモル比は、5〜50であることが望ましい。本発明のゼオライトの製造方法では、所定のSiO/Alモル比を有するゼオライトを、ばらつきが小さくなるように製造することができる。
【0020】
本発明のハニカム触媒は、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設されたハニカムユニットを備えたハニカム触媒であって、上記ハニカムユニットは、ゼオライトと無機バインダとからなり、上記ゼオライトが、本発明のゼオライトの製造方法により製造されていることを特徴とする。
【0021】
本発明のハニカム触媒においては、CHA型ゼオライトを用いてハニカムユニットを形成することによって、NOx浄化性能を向上させることができる。さらに、本発明のゼオライトの製造方法により製造されたゼオライトでは、粒子径及びSiO/Alモル比のばらつきが小さいため、NOx浄化性能が特に優れたものとなる。
【0022】
また、本発明のハニカム触媒において、平均粒子径が0.3〜6.0μmであるゼオライトやSiO/Alモル比が5〜50であるゼオライトを用いてハニカムユニットを形成する場合、NOx浄化性能をさらに向上させることができる。特に、ゼオライトの平均粒子径が0.3〜6.0μmであると、隔壁の気孔径分布を所定の範囲に制御することができるため、浄化するためのガスがハニカム触媒の隔壁に拡散しやすくなり、NOx浄化性能を向上させることができる。
【0023】
本発明のハニカム触媒において、上記ハニカムユニットは、無機粒子をさらに含んでいてもよい。また、上記無機粒子は、アルミナ、チタニア及びジルコニアからなる群より選択される一種以上であることが望ましい。このような無機粒子の粒子径を調整することによっても、隔壁の平均気孔径を所定の範囲に制御することができ、NOx浄化性能を向上させることができる。
【0024】
本発明のハニカム触媒の製造方法は、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設されたハニカムユニットを備えたハニカム触媒の製造方法であって、ゼオライトと無機バインダとを含む原料ペーストを成形することにより、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設されたハニカム成形体を作製する成形工程と、上記ハニカム成形体を焼成することにより、ハニカムユニットを作製する焼成工程とを含み、上記原料ペーストに含まれるゼオライトを、本発明のゼオライトの製造方法により製造することを特徴とする。
【0025】
上述したように、本発明のゼオライトの製造方法では、粒子径及びSiO/Alモル比のばらつきが小さいゼオライトを製造することができる。そのため、本発明のハニカム触媒の製造方法では、NOx浄化性能に優れたハニカム触媒を製造することができる。
【0026】
本発明のゼオライトは、本発明のゼオライトの製造方法により製造されていることを特徴とする。
【0027】
上述したように、本発明のゼオライトの製造方法により製造されたゼオライトでは、粒子径及びSiO/Alモル比のばらつきを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、CHA構造を有し、粒子径及びSiO/Alモル比のばらつきが小さいゼオライトの製造方法を提供することができる。また、本発明の製造方法により製造されたゼオライトからなるハニカム触媒は、NOx浄化性能に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明のハニカム触媒の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
図3図3は、本発明のハニカム触媒の別の一例を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、図3に示すハニカム触媒を構成するハニカムユニットの一例を模式的に示す斜視図である。
図5図5は、実施例1、比較例1及び比較例2で合成したゼオライトのXRDパターンである。
図6図6(a)及び図6(b)は、実施例1で合成したゼオライトのSEM写真である。
図7図7(a)及び図7(b)は、比較例1で合成したゼオライトのSEM写真である。
図8図8(a)及び図8(b)は、比較例2で合成したゼオライトのSEM写真である。
図9図9は、Al源の溶解度とゼオライトのSARとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0031】
本発明のゼオライトの製造方法は、CHA構造を有するアルミノケイ酸塩であるゼオライトの製造方法であって、Si源、Al源、アルカリ源及び構造規定剤からなる原料組成物を反応させることにより、ゼオライトを合成する合成工程を含み、上記Al源は、乾燥水酸化アルミニウムゲルであることを特徴とする。
【0032】
本発明のゼオライトの製造方法においては、まず、Si源、Al源、アルカリ源及び構造規定剤からなる原料組成物を準備する。
【0033】
Si源とは、ゼオライトのシリコン成分の原料となる化合物、塩及び組成物をいう。
Si源としては、例えば、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、アルミノシリケートゲル等を用いることができ、これらを二種以上併用してもよい。これらの中では、粒子径が比較的大きいゼオライトを得ることができる点で、コロイダルシリカが望ましい。
【0034】
Al源とは、ゼオライトのアルミニウム成分の原料となる化合物、塩及び組成物をいう。
本発明のゼオライトの製造方法においては、Al源として乾燥水酸化アルミニウムゲルを用いることを特徴としている。乾燥水酸化アルミニウムゲルは、1mol/L水酸化カリウム水溶液100gに対する溶解度が高く、この溶解度は、2.0g以上であることが望ましく、3.0g以上であることがより望ましい。また、上記溶解度は、7.8g以下であることが望ましく、7.0g以下であることがより望ましい。
なお、1mol/L水酸化カリウム水溶液100gに対する溶解度の測定方法については、後述する実施例において説明する。
【0035】
本発明のゼオライトの製造方法においては、目的とするCHA型ゼオライトを製造するために、原料組成物中のSiO/Alモル比を5〜50とすることが望ましく、8〜30とすることがより望ましい。
【0036】
アルカリ源としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、アルミン酸塩及び珪酸塩中のアルカリ成分、アルミノシリケートゲル中のアルカリ成分等を用いることができ、これらを二種以上併用してもよい。これらの中では、粒子径が比較的大きいゼオライトを得ることができる点で、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが望ましい。
【0037】
構造規定剤(以下、SDAとも記載する)とは、ゼオライトの細孔径や結晶構造を規定する有機分子を示す。構造規定剤の種類等によって、得られるゼオライトの構造等を制御することができる。
構造規定剤としては、N,N,N−トリアルキルアダマンタンアンモニウムをカチオンとする水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、メチルカーボネート塩、硫酸塩及び硝酸塩;及びN,N,N−トリメチルベンジルアンモニウムイオン、N−アルキル−3−キヌクリジノールイオン、またはN,N,N−トリアルキルエキソアミノノルボルナンをカチオンとする水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、メチルカーボネート塩、硫酸塩及び硝酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。これらの中では、N,N,N−トリメチルアダマンタンアンモニウム水酸化物(以下、TMAAOHとも記載する)、N,N,N−トリメチルアダマンタンアンモニウムハロゲン化物、N,N,N−トリメチルアダマンタンアンモニウム炭酸塩、N,N,N−トリメチルアダマンタンアンモニウムメチルカーボネート塩及びN,N,N−トリメチルアダマンタンアンモニウム硫酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることが望ましく、TMAAOHを用いることがより望ましい。
【0038】
本発明のゼオライトの製造方法においては、目的とするCHA型ゼオライトを製造するために、原料組成物中のSDA/SiOモル比を0.05〜0.20とすることが望ましく、0.08〜0.13とすることがより望ましい。
【0039】
本発明のゼオライトの製造方法においては、原料組成物に、さらにゼオライトの種結晶を加えることが望ましい。種結晶を用いることにより、ゼオライトの結晶化速度が速くなり、ゼオライト製造における時間が短縮でき、収率が向上する。
【0040】
ゼオライトの種結晶としては、CHA構造を有するアルミノケイ酸塩(CHA)であるゼオライトの種結晶を用いることが望ましい。
【0041】
ゼオライトの種結晶におけるSiO/Alモル比(SAR)は、5〜50であることが望ましく、8〜30であることがより望ましい。
【0042】
ゼオライトの種結晶の添加量は、少ない方が望ましいが、反応速度や不純物の抑制効果等を考慮すると、原料組成物に含まれるシリカ成分に対して、0.1〜20質量%であることが望ましく、0.5〜15質量%であることがより望ましい。
【0043】
本発明のゼオライトの製造方法においては、ゼオライトの種結晶の有無に関わらず、原料組成物に、さらに水を加えることが望ましい。
【0044】
本発明のゼオライトの製造方法においては、準備した原料組成物を反応させることにより、ゼオライトを合成する。具体的には、原料組成物を水熱合成することによりゼオライトを合成することが望ましい。
【0045】
水熱合成に用いられる反応容器は、既知の水熱合成に用いられるものであれば特に限定されず、オートクレーブなどの耐熱耐圧容器であればよい。反応容器に原料組成物を投入して密閉して加熱することにより、ゼオライトを結晶化させることができる。
【0046】
ゼオライトを合成する際、原料混合物は静置した状態でもよいが、攪拌混合した状態であることが望ましい。
【0047】
ゼオライトを合成する際の加熱温度は、100〜200℃であることが望ましく、120〜180℃であることがより望ましい。加熱温度が100℃未満であると、結晶化速度が遅くなり、収率が低下しやすくなる。一方、加熱温度が200℃を超えると、不純物が発生しやすくなる。
【0048】
ゼオライトを合成する際の加熱時間は、10〜200時間であることが望ましい。加熱時間が10時間未満であると、未反応の原料が残存し、収率が低下しやすくなる。一方、加熱時間が200時間を超えても、収率や結晶性の向上がほとんど見られない。
【0049】
ゼオライトを合成する際の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた原料組成物を上記温度範囲に加熱したときに生じる圧力で充分であるが、必要に応じて、窒素ガスなどの不活性ガスを加えて昇圧してもよい。
【0050】
本発明のゼオライトの製造方法においては、ゼオライトを合成した後、充分に放冷し、固液分離し、充分量の水で洗浄し、乾燥することが望ましい。乾燥温度は特に限定されず、100〜150℃の任意の温度であってよい。
【0051】
合成されたゼオライトは、細孔内にSDA及び/又はアルカリ金属を含有しているため、必要に応じてこれらを除去してもよい。例えば、酸性溶液又はSDA分解成分を含む薬液を用いた液相処理、レジンなどを用いた交換処理、熱分解処理などにより、SDA及び/又はアルカリ金属を除去することができる。
【0052】
以上の工程を経ることにより、CHA構造を有するアルミノケイ酸塩であるゼオライトを製造することができる。このように、本発明のゼオライトの製造方法により製造されたゼオライトもまた、本発明の1つである。
【0053】
本発明のゼオライトの製造方法により製造されたゼオライトは、CHA構造を有するアルミノケイ酸塩であるゼオライトである。
【0054】
ゼオライトの結晶構造の解析は、X線回折装置(XRD)を用いて行うことができる。
【0055】
本発明のゼオライトの製造方法により製造されたゼオライトの平均粒子径は、0.3〜6.0μmであることが望ましく、0.5〜5.0μmであることがより望ましく、0.7〜4.0μmであることがさらに望ましい。このような平均粒子径を有するゼオライトを用いてハニカム触媒を製造した場合、ハニカムユニットの気孔径(隔壁内部のマクロ気孔の気孔径)を大きくすることができ、吸水時の毛細管応力を低減し、さらにガス拡散によるNOx浄化性能の向上が可能となる。
【0056】
ゼオライトの平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した一次粒子の平均粒子径である。
【0057】
本発明のゼオライトの製造方法により製造されたゼオライトのSiO/Alモル比(SAR)は、5〜50であることが望ましく、8〜30であることがより望ましい。SiO/Alモル比が5未満である場合、触媒または吸着剤として使用する際に求められる耐久性などが得られにくくなる。一方、SiO/Alモル比が50を超えると、ゼオライトの酸点が少なくなり、触媒または吸着剤として使用する際に求められる固体酸性が不充分となる。
【0058】
ゼオライトのSiO/Alモル比は、蛍光X線分析(XRF)を用いて測定することができる。
【0059】
本発明のゼオライトの製造方法により製造されたゼオライトの比表面積は、結晶構造の観点から、500〜750m/gであることが望ましく、550〜700m/gであることがより望ましい。
【0060】
本発明のゼオライトの製造方法により製造されたゼオライトは、触媒、吸着剤、イオン交換体などとして好適に使用することができる。これらのうち、本発明のゼオライトの製造方法により製造されたゼオライトを用いて成形されたハニカム触媒もまた、本発明の1つである。
【0061】
本発明のハニカム触媒は、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設されたハニカムユニットを備えたハニカム触媒であって、上記ハニカムユニットは、ゼオライトと無機バインダとからなり、上記ゼオライトが、本発明のゼオライトの製造方法により製造されていることを特徴とする。
【0062】
図1は、本発明のハニカム触媒の一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示すハニカム触媒10は、複数の貫通孔11aが隔壁11bを隔てて長手方向に並設された単一のハニカムユニット11を備えており、ハニカムユニット11の外周面には外周コート層12が形成されている。また、ハニカムユニット11は、ゼオライトと無機バインダとからなる。
【0063】
本発明のハニカム触媒において、ハニカムユニットに含まれるゼオライトは、本発明のゼオライトの製造方法により製造されたゼオライトであり、CHA構造を有するアルミノケイ酸塩であるゼオライト(CHA)である。
【0064】
CHAのSiO/Alモル比(SAR)は、5〜50であることが望ましく、18〜30であることがより望ましい。当該モル比が5未満であると、Alが多くなり、熱劣化しやすくなる。一方、当該モル比が50を超えると、ゼオライトの酸点が少なくなり、NOxの浄化性能が低下することがある。
【0065】
CHAの平均粒子径は、0.3〜6.0μmであることが望ましく、0.5〜5.0μmであることがより望ましく、0.7〜4.0μmであることがさらに望ましい。CHAの平均粒子径が0.3〜6.0μmであると、ハニカムユニットの気孔径を大きくすることができ、吸水時の毛細管応力を低減し、さらにガス拡散によるNOx浄化性能の向上が可能となる。
【0066】
なお、ハニカムユニットの気孔径分布には、ゼオライト由来のミクロ気孔のピークと隔壁の内部のマクロ気孔のピークが存在する。本明細書において、ハニカムユニットの(平均)気孔径とは、マクロ気孔の(平均)気孔径を意味する。また、ハニカムユニットの平均気孔径は、水銀圧入法を用いて測定することができる。
【0067】
CHAの比表面積は、結晶構造の観点から、500〜750m/gであることが望ましく、550〜700m/gであることがより望ましい。
【0068】
ハニカムユニット中のCHAの含有量は、40〜75体積%であることが望ましく、45〜70体積%であることがより望ましく、50〜65体積%であることがさらに望ましい。CHAの含有量が40体積%未満であると、NOxの浄化性能が低下する。一方、CHAの含有量が75体積%を超えると、吸脱水又は熱応力によってハニカムユニットが破損しやすくなる。
【0069】
本発明のハニカム触媒において、ハニカムユニットは、本発明の効果を損なわない範囲内で、CHA以外のゼオライトおよびシリコアルミノリン酸塩(SAPO)を含んでいてもよい。
【0070】
本発明のハニカム触媒においては、ゼオライト(CHA)が、銅イオンでイオン交換されていることが望ましい。この場合、ハニカムユニットは、銅イオンをハニカムユニットの見掛けの体積当たり5.5〜7.5g/L含有することが望ましく、6.0〜7.5g/L含有することがより望ましい。排ガス温度が低温の時のNOx浄化性能を高くしつつ、高温の時のアンモニア酸化によるNOx浄化性能の低下を防ぐことができるため、全温度域に渡って、高いNOx浄化性能を示す。
【0071】
本発明のハニカム触媒において、ハニカムユニットは、ゼオライト(CHA)をハニカムユニットの見掛けの体積当たり150〜250g/L含有することが望ましく、180〜230g/L含有することがより望ましい。排ガス温度が低温の時のNOx浄化性能を高くしつつ、高温の時のアンモニア酸化によるNOx浄化性能の低下を防ぐことができるため、全温度域に渡って、高いNOx浄化性能を示す。
【0072】
本発明のハニカム触媒において、ハニカムユニットに含まれる無機バインダとしては、特に限定されないが、ハニカム触媒としての強度を保つという観点から、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト、アタパルジャイト、ベーマイト等に含まれる固形分が好適なものとして挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0073】
ハニカムユニット中の無機バインダの含有量は、3〜30体積%であることが望ましく、5〜20体積%であることがより望ましい。無機バインダの含有量が3体積%未満であると、ハニカムユニットの強度が低下する。一方、無機バインダの含有量が30体積%を超えると、ハニカムユニット中のゼオライトの含有量が低下して、NOxの浄化性能が低下する。
【0074】
本発明のハニカム触媒において、ハニカムユニットは、ハニカムユニットの気孔径を調整するために、無機粒子をさらに含んでいてもよい。
【0075】
ハニカムユニットに含まれる無機粒子としては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、セリア、マグネシア等の粒子が挙げられる。これらは二種以上併用してもよい。無機粒子は、アルミナ、チタニア及びジルコニアからなる群より選択される一種以上の粒子であることが望ましく、アルミナ、チタニア及びジルコニアのいずれか一種の粒子であることがより望ましい。
【0076】
無機粒子の平均粒子径は、0.1〜5.0μmであることが望ましく、0.3〜4.5μmであることがより望ましく、0.5〜4.0μmであることがさらに望ましい。無機粒子の平均粒子径が0.1〜5.0μmであると、ハニカムユニットの気孔径を調整することが可能となる。
なお、無機粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒径(Dv50)である。
【0077】
本発明のハニカム触媒においては、CHAの平均粒子径が0.1〜2.0μm、無機粒子の平均粒子径が0.1〜5.0μmである組み合わせが望ましく、CHAの平均粒子径が0.3〜1.8μm、無機粒子の平均粒子径が0.3〜4.5μmである組み合わせがより望ましく、CHAの平均粒子径が0.7〜1.7μm、無機粒子の平均粒子径が0.5〜4.0μmである組み合わせがさらに望ましい。
上記の組み合わせの中で、無機粒子の平均粒子径は、CHAの平均粒子径の1/5〜50倍であることが望ましく、1/3〜30倍であることがより望ましく、1/2〜10倍であることがさらに望ましい。
特に、無機粒子の平均粒子径は、CHAの平均粒子径より大きく、CHAの平均粒子径の4倍以下であることが望ましい。
【0078】
例えば、CHAの平均粒子径が0.1μmである場合、無機粒子の平均粒子径が0.1〜0.4μmであることが望ましく、CHAの平均粒子径が1.5μmである場合、無機粒子の平均粒子径が1.5〜6.0μmであることが望ましい。
【0079】
ハニカムユニット中の無機粒子の含有量は、8〜40体積%であることが望ましく、10〜35体積%であることがより望ましく、15〜25体積%であることがさらに望ましい。無機粒子の含有量が8体積%未満であると、CHAが多すぎるため、熱応力によってハニカムユニットが破損しやすくなる。一方、無機粒子の含有量が40体積%を超えると、CHAの含有量が低下して、NOxの浄化性能が低下する。
【0080】
CHA及び無機粒子の体積比(CHA:無機粒子)は、望ましくは50:50〜90:10であり、より望ましくは60:40〜80:20であり、さらに望ましくは70:30〜80:20である。CHA及び無機粒子の体積比が上記の範囲にあると、NOxの浄化性能を保ちつつ、ハニカムユニットの気孔径の調整することが可能となる。
【0081】
本発明のハニカム触媒において、ハニカムユニットは、強度を向上させるために、無機繊維、鱗片状物質、テトラポット状物質及び三次元針状物質からなる群より選択される一種以上をさらに含むことが望ましい。
【0082】
ハニカムユニットに含まれる無機繊維は、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、シリカアルミナ、ガラス、チタン酸カリウム及びホウ酸アルミニウムからなる群より選択される一種以上からなることが望ましい。ハニカムユニットに含まれる鱗片状物質は、ガラス、白雲母、アルミナ及びシリカからなる群より選択される一種以上からなることが望ましい。ハニカムユニットに含まれるテトラポット状物質は、酸化亜鉛からなることが望ましい。ハニカムユニットに含まれる三次元針状物質は、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、シリカアルミナ、ガラス、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム及びベーマイトからなる群より選択される一種以上からなることが望ましい。いずれも耐熱性が高く、SCRシステムにおける触媒担体として使用した時でも、溶損などがなく、補強材としての効果を持続することができるためである。
【0083】
ハニカムユニットに含まれる無機繊維のアスペクト比は、2〜300であることが望ましく、5〜200がより望ましく、10〜100がさらに望ましい。無機繊維のアスペクト比が2未満であると、ハニカムユニットの強度を向上させる効果が小さくなる。一方、無機繊維のアスペクト比が300を超えると、ハニカムユニットを押出成形する際に金型に目詰まり等が発生したり、無機繊維が折れて、ハニカムユニットの強度を向上させる効果が小さくなったりする。
【0084】
鱗片状物質は、平たい物質を意味し、厚さが0.2〜5.0μmであることが望ましく、最大長さが10〜160μmであることが望ましく、厚さに対する最大長さの比が3〜250であることが望ましい。
【0085】
テトラポット状物質は、針状部が三次元に延びている物質を意味し、針状部の平均針状長さが5〜30μmであることが望ましく、針状部の平均径が0.5〜5.0μmであることが望ましい。
【0086】
三次元針状物質は、針状部同士がそれぞれの針状部の中央付近でガラス等の無機化合物により結合されている物質を意味し、針状部の平均針状長さが5〜30μmであることが望ましく、針状部の平均径が0.5〜5.0μmであることが望ましい。
【0087】
また、三次元針状物質は、複数の針状部が三次元に連なっていてもよく、針状部の直径が0.1〜5.0μmであることが望ましく、長さが0.3〜30.0μmであることが望ましく、直径に対する長さの比が1.4〜50.0であることが望ましい。
【0088】
ハニカムユニット中の無機繊維、鱗片状物質、テトラポット状物質及び三次元針状物質の含有量は、3〜50体積%であることが望ましく、3〜30体積%であることがより望ましく、5〜20体積%であることがさらに望ましい。上記含有量が3体積%未満であると、ハニカムユニットの強度を向上させる効果が小さくなる。一方、上記含有量が50体積%を超えると、ハニカムユニット中のゼオライトの含有量が低下して、NOxの浄化性能が低下する。
【0089】
本発明のハニカム触媒において、ハニカムユニットの気孔率は、40〜70%であることが望ましい。ハニカムユニットの気孔率が40%未満であると、ハニカムユニットの隔壁の内部まで排ガスが侵入しにくくなって、ゼオライトがNOxの浄化に有効に利用されなくなる。一方、ハニカムユニットの気孔率が70%を超えると、ハニカムユニットの強度が不十分となる。
【0090】
ハニカムユニットの気孔率は、アルキメデス法により測定することができる。
【0091】
本発明のハニカム触媒において、ハニカムユニットの長手方向に垂直な断面の開口率は、50〜75%であることが望ましい。ハニカムユニットの長手方向に垂直な断面の開口率が50%未満であると、ゼオライトがNOxの浄化に有効に利用されなくなる。一方、ハニカムユニットの長手方向に垂直な断面の開口率が75%を超えると、ハニカムユニットの強度が不十分となる。
【0092】
本発明のハニカム触媒において、ハニカムユニットの長手方向に垂直な断面の貫通孔の密度は、31〜155個/cmであることが望ましい。ハニカムユニットの長手方向に垂直な断面の貫通孔の密度が31個/cm未満であると、ゼオライトと排ガスが接触しにくくなって、NOxの浄化性能が低下する。一方、ハニカムユニットの長手方向に垂直な断面の貫通孔の密度が155個/cmを超えると、ハニカム触媒の圧力損失が増大する。
【0093】
本発明のハニカム触媒において、ハニカムユニットの隔壁の厚さは、0.1〜0.4mmであることが望ましく、0.1〜0.3mmであることがより望ましい。ハニカムユニットの隔壁の厚さが0.1mm未満であると、ハニカムユニットの強度が低下する。一方、ハニカムユニットの隔壁の厚さが0.4mmを超えると、ハニカムユニットの隔壁の内部まで排ガスが侵入しにくくなって、ゼオライトがNOxの浄化に有効に利用されなくなる。
【0094】
本発明のハニカム触媒において、ハニカムユニットに外周コート層が形成されている場合、外周コート層の厚さは、0.1〜2.0mmであることが望ましい。外周コート層の厚さが0.1mm未満であると、ハニカム触媒の強度を向上させる効果が不十分になる。一方、外周コート層の厚さが2.0mmを超えると、ハニカム触媒の単位体積当たりのゼオライトの含有量が低下して、NOxの浄化性能が低下する。
【0095】
本発明のハニカム触媒の形状としては、円柱状に限定されず、角柱状、楕円柱状、長円柱状、丸面取りされている角柱状(例えば、丸面取りされている三角柱状)等が挙げられる。
【0096】
本発明のハニカム触媒において、貫通孔の形状としては、四角柱状に限定されず、三角柱状、六角柱状等が挙げられる。
【0097】
次に、本発明のハニカム触媒の製造方法について説明する。
本発明のハニカム触媒の製造方法は、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設されたハニカムユニットを備えたハニカム触媒の製造方法であって、ゼオライトと無機バインダとを含む上記原料ペーストを成形することにより、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設されたハニカム成形体を作製する成形工程と、上記ハニカム成形体を焼成することにより、ハニカムユニットを作製する焼成工程とを含み、上記原料ペーストに含まれるゼオライトを、本発明のゼオライトの製造方法により製造することを特徴とする。
【0098】
以下、図1に示すハニカム触媒10の製造方法の一例について説明する。
まず、ゼオライトと無機バインダとを含み、必要に応じて、無機繊維、鱗片状物質、テトラポット状物質及び三次元針状物質からなる群より選択される一種以上や無機粒子をさらに含む原料ペーストを用いて押出成形し、複数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設されている円柱状のハニカム成形体を作製する(成形工程)。
【0099】
原料ペーストに含まれるゼオライトは、本発明のゼオライトの製造方法により製造することができる。ゼオライト(CHA)の構造については既に説明したとおりであるため、その詳細な説明は省略する。
また、原料ペーストに含まれる無機繊維、無機粒子などについても既に説明したとおりであるため、その詳細な説明は省略する。
【0100】
原料ペーストに含まれる無機バインダは、特に限定されないが、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、水ガラス、セピオライト、アタパルジャイト、ベーマイト等として添加されており、二種以上併用してもよい。
【0101】
また、原料ペーストには、有機バインダ、分散媒、成形助剤等を、必要に応じて適宜添加してもよい。
【0102】
有機バインダとしては、特に限定されないが、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、二種以上併用してもよい。なお、有機バインダの添加量は、ゼオライト、無機粒子、無機バインダ、無機繊維、鱗片状物質、テトラポット状物質及び三次元針状物質の総質量に対して、1〜10%であることが望ましい。
【0103】
分散媒としては、特に限定されないが、水、ベンゼン等の有機溶媒、メタノール等のアルコール等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0104】
成形助剤としては、特に限定されないが、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0105】
さらに、原料ペーストには、必要に応じて造孔材を添加してもよい。
造孔材としては、特に限定されないが、ポリスチレン粒子、アクリル粒子、澱粉等が挙げられ、二種以上併用してもよい。これらの中では、ポリスチレン粒子が望ましい。
【0106】
CHA及び造孔材の粒子径を制御することにより、隔壁の気孔径分布を所定の範囲に制御することができる。
例えば、CHAの平均粒子径が0.1μmである場合、平均粒子径が0.1〜3μmである造孔材をCHA体積添加量に対して10〜30%添加することにより、隔壁の平均気孔径を0.05〜0.2μmとすることができる。なお、CHAの平均粒子径が1.2μmである場合には、造孔材を添加しなくてもよい。
【0107】
また、造孔材を添加しない場合であっても、CHA及び無機粒子の粒子径を制御することにより、隔壁の気孔径分布を所定の範囲に制御することができる。
【0108】
原料ペーストを調製する際には、混合混練することが望ましく、ミキサー、アトライタ等を用いて混合してもよく、ニーダー等を用いて混練してもよい。
【0109】
次に、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、誘電乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機、凍結乾燥機等の乾燥機を用いて、ハニカム成形体を乾燥してハニカム乾燥体を作製する。
【0110】
さらに、ハニカム乾燥体を脱脂してハニカム脱脂体を作製する。脱脂条件は、ハニカム乾燥体に含まれる有機物の種類及び量によって適宜選択することができるが、200〜500℃で2〜6時間であることが望ましい。
【0111】
本明細書においては、焼成工程を行う前のハニカム成形体、ハニカム乾燥体及びハニカム脱脂体をまとめてハニカム成形体とも呼ぶ。
【0112】
次に、ハニカム脱脂体を焼成することにより、円柱状のハニカムユニット11を作製する(焼成工程)。焼成温度は、600〜1000℃であることが望ましく、600〜800℃であることがより望ましい。焼成温度が600℃未満であると、焼結が進行せず、ハニカムユニット11の強度が低くなる。一方、焼成温度が1000℃を超えると、焼結が進行しすぎて、ゼオライトの反応サイトが減少する。
【0113】
次に、円柱状のハニカムユニット11の両端面を除く外周面に外周コート層用ペーストを塗布する。
【0114】
外周コート層用ペーストとしては、特に限定されないが、無機バインダ及び無機粒子の混合物、無機バインダ及び無機繊維の混合物、無機バインダ、無機粒子及び無機繊維の混合物等が挙げられる。
【0115】
外周コート層用ペーストに含まれる無機バインダは、特に限定されないが、シリカゾル、アルミナゾル等として添加されており、二種以上併用してもよい。中でも、シリカゾルとして添加されていることが望ましい。
【0116】
外周コート層用ペーストに含まれる無機粒子としては、特に限定されないが、ゼオライト、ユークリプタイト、アルミナ、シリカ等の酸化物粒子、炭化ケイ素等の炭化物粒子、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物粒子等が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、ハニカムユニットとの熱膨張係数が近いユークリプタイトの粒子が望ましい。
【0117】
外周コート層用ペーストに含まれる無機繊維としては、特に限定されないが、シリカアルミナ繊維、ムライト繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維等が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、アルミナ繊維が望ましい。
【0118】
外周コート層用ペーストは、有機バインダをさらに含んでいてもよい。
【0119】
外周コート層用ペーストに含まれる有機バインダとしては、特に限定されないが、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0120】
外周コート層用ペーストは、酸化物系セラミックスの微小中空球体であるバルーン、造孔材等をさらに含んでいてもよい。
【0121】
外周コート層用ペーストに含まれるバルーンとしては、特に限定されないが、アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン、ムライトバルーン等が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、アルミナバルーンが望ましい。
【0122】
外周コート層用ペーストに含まれる造孔材としては、特に限定されないが、球状アクリル粒子、グラファイト等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0123】
次に、外周コート層用ペーストが塗布されたハニカムユニット11を乾燥固化し、円柱状のハニカム触媒10を作製する。このとき、外周コート層用ペーストに有機バインダが含まれている場合は、脱脂することが望ましい。脱脂条件は、有機物の種類及び量によって適宜選択することができるが、500℃で1時間であることが望ましい。
【0124】
なお、ハニカムユニット11又はハニカム触媒10を銅イオンを含む水溶液中に浸漬することにより、ゼオライトをイオン交換してもよい。また、銅イオンによりイオン交換されているゼオライトを含む原料ペーストを用いてもよい。
【0125】
図2は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
図2に示す排ガス浄化装置100は、ハニカム触媒10の外周部に保持シール材20を配置した状態で、金属容器(シェル)30にキャニングすることにより作製することができる。また、排ガス浄化装置100には、排ガス(図2中、排ガスをGで示し、排ガスの流れを矢印で示す)が流れる方向に対して、ハニカム触媒10の上流側の配管(不図示)内に、アンモニア又は分解してアンモニアを発生させる化合物を噴射する噴射ノズル等の噴射手段(不図示)が設けられている。これにより、配管を流れる排ガス中にアンモニアが添加されるため、ハニカムユニット11に含まれるゼオライトにより、排ガス中に含まれるNOxが還元される。
【0126】
分解してアンモニアを発生させる化合物としては、配管内で加水分解されて、アンモニアを発生させることが可能であれば、特に限定されないが、貯蔵安定性に優れるため、尿素水が望ましい。
【0127】
尿素水は、配管内で排ガスにより加熱されて、加水分解し、アンモニアが発生する。
【0128】
図3は、本発明のハニカム触媒の別の一例を模式的に示す斜視図である。
図4は、図3に示すハニカム触媒を構成するハニカムユニットの一例を模式的に示す斜視図である。
【0129】
図3に示すハニカム触媒10´は、複数の貫通孔11aが隔壁11bを隔てて長手方向に並設されているハニカムユニット11´(図4参照)が接着層13を介して複数個接着されている以外は、ハニカム触媒10と同一の構成である。
【0130】
ハニカムユニット11´の長手方向に垂直な断面の断面積は、10〜200cmであることが望ましい。上記断面積が10cm未満であると、ハニカム触媒10´の圧力損失が増大する。一方、上記断面積が200cmを超えると、ハニカムユニット11´同士を接着することが困難である。
【0131】
ハニカムユニット11´は、長手方向に垂直な断面の断面積以外は、ハニカムユニット11と同一の構成である。
【0132】
接着層13の厚さは、0.1〜3.0mmであることが望ましい。接着層13の厚さが0.1mm未満であると、ハニカムユニット11´の接着強度が不十分になる。一方、接着層13の厚さが3.0mmを超えると、ハニカム触媒10´の圧力損失が増大したり、接着層内でのクラックが発生したりする。
【0133】
次に、図3に示すハニカム触媒10´の製造方法の一例について説明する。
まず、ハニカム触媒10を構成するハニカムユニット11と同様にして、扇柱状のハニカムユニット11´を作製する。次に、ハニカムユニット11´の円弧側を除く外周面に接着層用ペーストを塗布して、ハニカムユニット11´を接着させ、乾燥固化することにより、ハニカムユニット11´の集合体を作製する。
【0134】
接着層用ペーストとしては、特に限定されないが、無機バインダ及び無機粒子の混合物、無機バインダ及び無機繊維の混合物、無機バインダ、無機粒子及び無機繊維の混合物等が挙げられる。
【0135】
接着層用ペーストに含まれる無機バインダは、特に限定されないが、シリカゾル、アルミナゾル等として添加されており、二種以上併用してもよい。中でも、シリカゾルとして添加されていることが望ましい。
【0136】
接着層用ペーストに含まれる無機粒子としては、特に限定されないが、ゼオライト、ユークリプタイト、アルミナ、シリカ等の酸化物粒子、炭化ケイ素等の炭化物粒子、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物粒子等が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、ハニカムユニットとの熱膨張係数が近いユークリプタイトの粒子が望ましい。
【0137】
接着層用ペーストに含まれる無機繊維としては、特に限定されないが、シリカアルミナ繊維、ムライト繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維等が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、アルミナ繊維が望ましい。
【0138】
また、接着層用ペーストは、有機バインダを含んでいてもよい。
【0139】
接着層用ペーストに含まれる有機バインダとしては、特に限定されないが、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0140】
接着層用ペーストは、酸化物系セラミックスの微小中空球体であるバルーン、造孔材等をさらに含んでいてもよい。
【0141】
接着層用ペーストに含まれるバルーンとしては、特に限定されないが、アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン、ムライトバルーン等が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、アルミナバルーンが望ましい。
【0142】
接着層用ペーストに含まれる造孔材としては、特に限定されないが、球状アクリル粒子、グラファイト等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0143】
次に、真円度を上げるために必要に応じて、ハニカムユニット11´の集合体に切削加工および研磨を施し、円柱状のハニカムユニット11´の集合体を作製する。
【0144】
次に、円柱状のハニカムユニット11´の集合体の両端面を除く外周面に外周コート層用ペーストを塗布する。
【0145】
外周コート層用ペーストは、接着層用ペーストと同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0146】
次に、外周コート層用ペーストが塗布された円柱状のハニカムユニット11´の集合体を乾燥固化することにより、円柱状のハニカム触媒10´を作製する。このとき、接着層用ペースト及び/又は外周コート層用ペーストに有機バインダが含まれている場合は、脱脂することが望ましい。脱脂条件は、有機物の種類及び量によって適宜選択することができるが、500℃で1時間であることが望ましい。
【0147】
ハニカム触媒10´は、4個のハニカムユニット11´が接着層13を介して接着されることにより構成されているが、ハニカム触媒を構成するハニカムユニットの個数は特に限定されない。例えば、16個の四角柱状のハニカムユニットが接着層を介して接着されることにより円柱状のハニカム触媒が構成されていてもよい。
【0148】
なお、ハニカム触媒10及び10´は、外周コート層12が形成されていなくてもよい。
【0149】
以下、本発明の作用効果について説明する。
【0150】
本発明のゼオライトの製造方法では、従来のAl源よりも溶解度が高いAl源として乾燥水酸化アルミニウムゲルを用いることで、合成されたゼオライトの粒子径及びSiO/Alモル比のばらつきを小さくすることが可能である。
【0151】
本発明のハニカム触媒においては、CHA型ゼオライトを用いてハニカムユニットを形成することによって、NOx浄化性能を向上させることができる。さらに、本発明のゼオライトの製造方法により製造されたゼオライトでは、粒子径及びSiO/Alモル比のばらつきが小さいため、NOx浄化性能が特に優れたものとなる。
【0152】
上述したように、本発明のゼオライトの製造方法では、粒子径及びSiO/Alモル比のばらつきが小さいゼオライトを製造することができる。そのため、本発明のハニカム触媒の製造方法では、NOx浄化性能に優れたハニカム触媒を製造することができる。
【0153】
本発明のゼオライトでは、粒子径及びSiO/Alモル比のばらつきを小さくすることができる。
【実施例】
【0154】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0155】
[実施例1]
Si源としてコロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックス30)、Al源として乾燥水酸化アルミニウムゲル(Strem Chemicals社製)、アルカリ源として水酸化カリウム(東亜合成社製)、構造規定剤(SDA)としてN,N,N−トリメチルアダマンタンアンモニウム水酸化物(TMAAOH)25%水溶液(Sachem社製)、種結晶としてSSZ−13(SAR=30、BASF社製)、脱イオン水を混合し、原料組成物を準備した。原料組成物のモル比は、SiO:30mol、Al:1.0mol、KO:3.0mol、TMAAOH:2.4mol、HO:390molとした。また、種結晶は、原料組成物中のシリカ、アルミナ及び酸化カリウムの合計に対して5質量%の割合で加えた。
原料組成物を200mLオートクレーブに装填し、攪拌速度10rpm、加熱温度160℃、加熱時間24時間で水熱合成を行い、ゼオライトを合成した。
【0156】
[比較例1]
Si源としてコロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックス30)、Al源として水酸化アルミニウム(日本軽金属社製、B53)、アルカリ源として水酸化カリウム(東亜合成社製)、構造規定剤(SDA)としてN,N,N−トリメチルアダマンタンアンモニウム水酸化物(TMAAOH)25%水溶液(Sachem社製)、種結晶としてSSZ−13(SAR=30、BASF社製)、脱イオン水を混合し、原料組成物を準備した。原料組成物のモル比は、SiO:30mol、Al:1.0mol、KO:3.0mol、TMAAOH:3.0mol、HO:360molとした。また、種結晶は、原料組成物中のシリカ、アルミナ及び酸化カリウムの合計に対して5質量%の割合で加えた。
原料組成物を実施例1と同様の条件で水熱合成を行い、ゼオライトを合成した。
【0157】
[比較例2]
Si源としてコロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックス30)、Al源として擬ベーマイト(富田製薬社製、AD220T)、アルカリ源として水酸化カリウム(東亜合成社製)、構造規定剤(SDA)としてN,N,N−トリメチルアダマンタンアンモニウム水酸化物(TMAAOH)25%水溶液(Sachem社製)、種結晶としてSSZ−13(SAR=30、BASF社製)、脱イオン水を混合し、原料組成物を準備した。原料組成物のモル比は、SiO:30mol、Al:1.0mol、KO:3.0mol、TMAAOH:3.0mol、HO:360molとした。また、種結晶は、原料組成物中のシリカ、アルミナ及び酸化カリウムの合計に対して5質量%の割合で加えた。
原料組成物を実施例1と同様の条件で水熱合成を行い、ゼオライトを合成した。
【0158】
[Al源の溶解度の測定]
実施例1、比較例1及び比較例2で用いたAl源(乾燥水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト)について、1mol/L水酸化カリウム水溶液100gに対する溶解度を以下の方法により測定した。なお、溶解度の測定は、室温(23℃)で行った。
【0159】
1mol/L水酸化カリウム水溶液100gが入った三角フラスコに1質量%のAl源を投入し、5分間攪拌した後、フラスコの底に残留物がないかを目視で確認する。残留物がない場合、さらに1質量%のAl源の投入、5分間の攪拌を、残留物が確認されるまで繰り返す。残留物が確認された場合、さらに10分間攪拌し、残留物がないかを目視で確認する。攪拌時間の合計が30分間になるまで攪拌と残留物の確認を繰り返し、残留物が確認された場合、60℃の電気炉内で1日静置する。この際、溶液の揮発を防ぐため、容器の密閉を保つようにする。その後25℃の電気炉内で更に1日静置する。この後、No.4濾紙を用いて濾過を行う。濾過後、200mLの水で濾紙を洗浄する。洗浄を2回行った後、濾紙と回収物を60℃で10時間以上乾燥し、Al源の重量を電子天秤で測定することにより、溶解度を求める。
【0160】
その結果、乾燥水酸化アルミニウムゲルの溶解度は6.16g/100g−KOHaq.(1mol/L)、水酸化アルミニウムの溶解度は0.66g/100g−KOHaq.(1mol/L)、擬ベーマイトの溶解度は0.76g/100g−KOHaq.(1mol/L)であった。
【0161】
[ゼオライトの結晶構造の解析]
X線回折装置(リガク社製、Ultima IV)を用いて、実施例1、比較例1及び比較例2で合成したゼオライトの結晶構造を解析した。CuKα線(λ=0.15418nm)を使用し、40kV、40mA、FT法、集中法で行った。また、測定条件は、スキャン範囲:5〜35°、発散スリット:2/3°、発散縦制限スリット:10mm、受光スリット:0.3mm、モノクロ受光スリット:0.8mm、モノクロメータ使用とした。
【0162】
図5に、実施例1、比較例1及び比較例2で合成したゼオライトのXRDパターンを示す。
図5より、すべてのゼオライトについて、CHA構造を有するアルミノケイ酸塩であるゼオライトが単相で合成されていることが確認された。
【0163】
[ゼオライトの粒子径の測定]
走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテク社製、S−4800)を用いて、実施例1、比較例1及び比較例2で合成したゼオライトのSEM写真を撮影し、それらの粒子径を測定した。測定条件は、加速電圧:1kV、エミッション:10μA、WD:2.2mm以下とした。10個の粒子の対角線から粒子径を測定し、その平均値を求めた。
【0164】
図6(a)及び図6(b)は、実施例1で合成したゼオライトのSEM写真であり、図7(a)及び図7(b)は、比較例1で合成したゼオライトのSEM写真であり、図8(a)及び図8(b)は、比較例2で合成したゼオライトのSEM写真である。
【0165】
Al源の溶解度とゼオライトの粒子径との関係を表1に示す。
【0166】
【表1】
【0167】
表1より、水酸化カリウム水溶液に対する溶解度の大きい乾燥水酸化アルミニウムゲルをAl源として用いたゼオライト(実施例1)では、合成後のゼオライトの粒子径が3.0μm付近の粒子が安定して得られることが確認された。一方、水酸化カリウム水溶液に対する溶解度の小さい水酸化アルミニウムをAl源として用いたゼオライト(比較例1)では、合成後のゼオライトの粒子径のばらつきが大きく、かつ、粒子の大きさも実施例1より小さい結果となった。擬ベーマイトをAl源として用いたゼオライト(比較例2)では、合成後のゼオライトの粒子径のばらつきは小さいものの、粒子の大きさは実施例1より小さい結果となった。以上より、Al源の水酸化カリウム水溶液に対する溶解度の違いが、合成後のゼオライトの粒子径のばらつきに影響を与えると考えられる。
【0168】
[ゼオライトのSARの測定]
SEM(S−4800)に付属するエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX、HORIBA社製)を用いて、実施例1、比較例1及び比較例2で合成したゼオライトのSiO/Alモル比(SAR)を測定した。測定条件は、加速電圧:10kV、エミッション:10μA、WD:15mm±0.1mmとした。8点のSARを測定し、その平均値を求めた。
【0169】
図9は、Al源の溶解度とゼオライトのSARとの関係を示すグラフである。
原料組成物中のSARは30であるが、図9より、水酸化カリウム水溶液に対する溶解度の小さい水酸化アルミニウムをAl源として用いたゼオライト(比較例1)では、合成後のゼオライトのSARのばらつきが大きいことが確認された。この結果から、比較例1では、合成時に結晶に取り込まれるAlの量に差が生じていると考えられる。一方、水酸化カリウム水溶液に対する溶解度の大きい乾燥水酸化アルミニウムゲルをAl源として用いたゼオライト(実施例1)では、合成後のゼオライトのSARのばらつきが小さいことが確認された。よって、実施例1では、安定してAlが結晶に取り込まれていると考えられる。擬ベーマイトをAl源として用いたゼオライト(比較例2)についても実施例1と同様の結果であった。以上より、Al源の水酸化カリウム水溶液に対する溶解度の違いが、合成後のゼオライトのSARのばらつきに影響を与えると考えられる。
【0170】
これらの結果より、Al源のアルカリ溶液に対する溶解度の違いは、合成後のゼオライトの粒子径及びSARのばらつきに影響を与えており、上記溶解度が大きいAl源を用いることにより、合成後のゼオライトの粒子径及びSARのばらつきを小さくすることができると考えられる。
【0171】
[ハニカム触媒の作製]
実施例1で得られたCHAを35質量%、無機バインダとしてベーマイトを5質量%、平均繊維径が6.5μm、平均繊維長が100μmのガラス繊維を8質量%、造孔材として平均粒子径が0.8μmのポリスチレン粒子を6質量%、メチルセルロースを5質量%、成形助剤として脂肪酸石鹸を4質量%及びイオン交換水を37質量%混合混練して、原料ペーストを作製した。なお、CHAは、銅イオンでイオン交換されているCHAを用いた。
【0172】
次に、押出成形機を用いて、上記原料ペーストを押出成形して、正四角柱状のハニカム成形体を作製した。そして、減圧マイクロ波乾燥機を用いて、ハニカム成形体を出力4.5kW、減圧6.7kPaで7分間乾燥させた後、700℃で2時間脱脂焼成して、ハニカム焼成体(ハニカムユニット)を作製した。ハニカムユニットは、一辺が35mm、長さが100mmの正四角柱状であり、貫通孔の密度が124個/cm、隔壁の厚さが0.20mmであった。
また、ハニカムユニットは、ハニカムユニットの見掛けの体積当たり、ゼオライトを238g/L含有しており、銅イオンを7.1g/L含有している。ハニカムユニットの平均気孔径は0.121μm、気孔率は51.6%である。
【0173】
[NOxの浄化率の測定]
作製したハニカムユニットから、ダイヤモンドカッターを用いて、直径:1インチ、長さ:3インチの円柱状試験片を切り出した。これらの試験片に、200℃又は525℃の模擬ガスを空間速度(SV)を40000/hr(200℃)、100000/hr(525℃)で流しながら、触媒評価装置(堀場製作所社製、SIGU−2000/MEXA−6000FT)を用いて、試料から流出するNOxの流出量を測定し、式
(NOxの流入量−NOxの流出量)/(NOxの流入量)×100
で表されるNOxの浄化率[%]を算出した。なお、模擬ガスの構成成分は、一酸化窒素260ppm、二酸化窒素90ppm、アンモニア350ppm(200℃)、一酸化窒素315ppm、二酸化窒素35ppm、アンモニア385ppm(525℃)、酸素10%、二酸化炭素5%、水5%、窒素(balance)である。この時のNOxの浄化率は、200℃の場合、91.4%、525℃の場合、76.8%であった。
【0174】
本発明のゼオライトの製造方法は、原料組成物に含まれるAl源として乾燥水酸化アルミニウムゲルを用いることを必須の構成要件としている。本発明のハニカム触媒は、ハニカムユニットに含まれるゼオライトが、本発明のゼオライトの製造方法により製造されていることを必須の構成要件としている。本発明のハニカム触媒の製造方法は、原料ペーストに含まれるゼオライトを、本発明のゼオライトの製造方法により製造することを必須の構成要件としている。本発明のゼオライトは、本発明のゼオライトの製造方法により製造されていることを必須の構成要件としている。
係る必須の構成要件に、本発明の詳細な説明で詳述した種々の構成(例えば、Si源の構成、アルカリ源の構成、構造規定剤の構成、水熱合成の条件、ハニカムユニットの構成、ハニカム成形体の焼成条件等)を適宜組み合わせることにより、所望の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0175】
10、10´ ハニカム触媒
11、11´ ハニカムユニット
11a 貫通孔
11b 隔壁
12 外周コート層
13 接着層
20 保持シール材
30 金属容器
100 排ガス浄化装置
G 排ガス
【要約】
【課題】CHA構造を有し、粒子径及びSiO/Alモル比のばらつきが小さいゼオライトの製造方法を提供する。
【解決手段】CHA構造を有するアルミノケイ酸塩であるゼオライトの製造方法であって、Si源、Al源、アルカリ源及び構造規定剤からなる原料組成物を反応させることにより、ゼオライトを合成する合成工程を含み、前記Al源は、乾燥水酸化アルミニウムゲルであることを特徴とするゼオライトの製造方法。
【選択図】図9
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9