特許第5732198号(P5732198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732198
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】放射性フッ素標識有機化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 269/06 20060101AFI20150521BHJP
   C07B 59/00 20060101ALI20150521BHJP
   C07C 271/24 20060101ALI20150521BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150521BHJP
【FI】
   C07C269/06
   C07B59/00
   C07C271/24
   !C07B61/00 300
【請求項の数】2
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2009-546266(P2009-546266)
(86)(22)【出願日】2008年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2008072827
(87)【国際公開番号】WO2009078396
(87)【国際公開日】20090625
【審査請求日】2011年10月24日
(31)【優先権主張番号】特願2007-327444(P2007-327444)
(32)【優先日】2007年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 正威
(74)【代理人】
【識別番号】100125933
【弁理士】
【氏名又は名称】野上 晃
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 文枝
(72)【発明者】
【氏名】外山 正人
(72)【発明者】
【氏名】林 明希男
【審査官】 砂原 一公
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−295494(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/063940(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/132689(WO,A1)
【文献】 Shoup TM et al,Synthesis and evaluation of [18F]1-amino-3-fluorocyclobutane-1-carboxylic acid to image brain tumors,The Journal of Nuclear Medicine,1999年,Vol.40, No.2,p.331-338
【文献】 Jonathan McConathy et al,Improved synthesis of anti-[18F]FACBC: improved preparation of labeling precursor and automated radiosynthesis,Applied Radiation and Isotopes,2003年,Vol.58, No.6,p.657-666
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 269/00
C07C 271/00
C07B 59/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

(式中、Rは、直鎖若しくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル鎖又は芳香族置換基、Rは、直鎖若しくは分岐鎖の炭素数1〜10のハロアルキルスルホン酸置換基、直鎖若しくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキルスルホン酸置換基、フルオロスルホン酸置換基又は芳香族スルホン酸置換基、Rは、炭素数2〜7の直鎖又は分岐鎖のアルキルオキシカルボニル置換基、炭素数3〜7の直鎖又は分岐鎖のアルケニルオキシカルボニル置換基、修飾基を有していても良い炭素数7〜12のベンジルオキシカルボニル置換基、及び炭素数2〜7のアルキルジチオオキシカルボニル置換基からなる群より選ばれたものである)で表される化合物を、不活性有機溶媒中で、相間移動触媒、18Fイオン及びカリウムイオンの存在下に、加熱工程に付することによって、下記式(2):
【化2】

(式中、Rは、直鎖若しくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル鎖又は芳香族置換基、Rは、炭素数2〜7の直鎖又は分岐鎖のアルキルオキシカルボニル置換基、炭素数3〜7の直鎖又は分岐鎖のアルケニルオキシカルボニル置換基、修飾基を有していても良い炭素数7〜12のベンジルオキシカルボニル置換基、及び炭素数2〜7のアルキルジチオオキシカルボニル置換基からなる群より選ばれたものである)で表される化合物を得る工程を含む、[18F]1−アミノ−3−フルオロシクロブタンカルボン酸の製造方法において、
加熱工程における加熱温度が40〜90℃であり、
不活性有機溶媒中における相間移動触媒の濃度が70mmol/L以上であり、
炭酸カリウム量に換算したカリウムイオンの不活性有機溶媒中の濃度が27mmol/L以上であり、
前記相間移動触媒を、前記式(1)で表される化合物に対してモル比にして0.7以上用いることを特徴とする、[18F]1−アミノ−3−フルオロシクロブタンカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
相間移動触媒、18Fイオン及びカリウムイオンの混合物を得る工程と、
前記混合物に、前記式(1)で表される化合物及び不活性有機溶媒を添加して得られる反応溶液を、40〜90℃の温度に保って攪拌することにより、前記式(2)で表される化合物を得る放射性フッ素化工程と、
を含んでなる請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽電子放出型断層撮像及び単光子放出型断層撮像に好適に用いることができる、放射性フッ素標識有機化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放出型断層撮像(Positron Emission Tomography)(以下、PETと称す)及び単光子放出型断層撮像(Single Photon Emission Computed Tomography)(以下、SPECTと称す)に代表される核医学検査は、心臓疾患や癌をはじめとする種々の疾患の診断に有効である。これらの方法は、特定の放射性同位元素でラベルされた薬剤(以下、「放射性医薬品」と称す)を投与し、該薬剤より直接的または間接的に放出されたγ線を検出する方法である。核医学検査は、疾患に対する特異度や感度が高いという優れた性質を有しているばかりでなく、病変部の機能に関する情報を得ることができるという、他の検査方法にはない特徴を有している。
例えば、PET検査に用いられる放射性医薬品の一つである、[18F]2−フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(以下、「18F−FDG」と称す)は、糖代謝の盛んな部位に集積する性質があるため、糖代謝が盛んな腫瘍を特異的に検出することが可能となる。
【0003】
核医学検査は、投与した放射性医薬品の分布を追跡することによりなされる方法であるため、得られる情報は、放射性医薬品の性質に応じて変化する。そのため、種々の疾患を対象とした放射性医薬品が開発されており、一部については臨床応用されている。例えば、種々の腫瘍診断剤、血流診断剤、レセプターマッピング剤等が開発されている。
【0004】
近年、新規放射性医薬品として、[18F]1−アミノ−3−フルオロシクロブタンカルボン酸(以下、[18F]FACBCという)を初めとする放射性ハロゲン標識された一連のアミノ酸化合物がデザインされ、臨床応用に向けて検討が行われている(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2)。[18F]FACBCはアミノ酸トランスポーターに特異的に取り込まれる性質を有しているので、増殖能の高い腫瘍の診断剤として有効であると考えられている。
【0005】
18F]FACBCの製法としては、1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−[((トリフルオロメチル)スルフォニル)オキシ]−シクロブタン−1−カルボン酸エステルを標識前駆体として用い、その3位のトリフレート基を放射性フッ素で置換し、これに酸性条件を与えて脱保護を行う方法が開示されている(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特表2000-500442号公報
【非特許文献1】Jonathan McConathy et al, “Improved synthesis of anti-[18F]FACBC: improved preparation of labeling precursor and automated radiosynthsis.”, Applied Radiation and Isotopes, (Netherlands), 2003, 58, p.657-666
【非特許文献2】Timothy M. Shoup et al., “Synthesis and Evaluation of [18F]1-Amino-3-fluorocyclobutane-1-carboxylic Acid to Image Brain Tumors.”, The Journal of Nuclear Medicine, 1999, 40, p.331-338
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これまでに開示された[18F]FACBCの製法では、製造収率が12〜24%であった(J. McConathy et al., Applied Radiation and Isotopes, 2003, 58, p.657-666)。工業的に[18F]FACBCを製造するには、安定してより高収率が得られる条件を用いることが望ましい。
18F]FACBCの製造は、主たる工程として、標識前駆体に放射性フッ素を付加する放射性フッ素化工程と、放射性フッ素化工程により製造された中間体化合物につき脱保護を行う脱保護工程を含んでいる。公知の方法によれば、放射性フッ素化工程における収率は、12〜42%であり(特表2000−500442号公報、Timothy M. et al., J. Nucl. Med., 1999, 40, p.331-338)、この工程において収率が低いことが、[18F]FACBCの合成収率を低下させる一因となっている。従って、[18F]FACBCの合成収率を向上させるためには、まず、放射性フッ素化工程における収率を向上させる必要がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、[18F]FACBCの中間体である、[18F]1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−フルオロシクロブタン−1−カルボン酸エステル(以下、[18F]Boc−FACBCという)を初めとする放射性フッ素標識アミノ酸を、高収率で安定して得ることができる製造方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
我々は検討の結果、放射性フッ素化反応時において、反応温度を40〜90℃とし、反応溶液中における相間移動触媒の濃度を特定量以上とすることにより、[18F]Boc−FACBCを初めとする放射性フッ素標識アミノ酸を高収率で安定して得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
したがって、本発明によれば、下記式(1):
【化3】
で表される化合物を、不活性有機溶媒中で、相関移動触媒、18Fイオン及びカリウムイオンの存在下に、加熱工程に付することによって、下記式(2):
【化4】
で表される化合物を得る工程を含む放射性フッ素標識有機化合物の製造方法において、
加熱工程における加熱温度が40〜90℃であり、
不活性有機溶媒中における相間移動触媒の濃度が70mmol/L以上であることを特徴とする放射性フッ素標識有機化合物の製造方法が提供される。
本発明の製造方法において、前記加熱工程に付するカリウムイオンの不活性有機溶媒中の濃度は、27mmol/L以上であることが好ましい。
また、本発明の製造方法において、前記相間移動触媒は、前記式(1)で表される化合物に対してモル比にして0.7以上用いることが好ましい。
さらに、本発明の製造方法において、前記式(1)で表される化合物の不活性有機溶媒中の濃度は50mmol/L以上であることが好ましい。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明に係る放射性フッ素標識有機化合物の製造方法は、
相間移動触媒、18Fイオン及びカリウムイオンの混合物を得る工程と、
前記混合物に、前記式(1)で表される化合物及び不活性有機溶媒を添加して得られる反応溶液を、40〜90℃の温度に保って攪拌することにより、前記式(2)で表される化合物を得る放射性フッ素化工程と、
を含んでなる。
【0011】
上記式(1)及び(2)において、Rは直鎖若しくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル鎖又は芳香族置換基であり、メチル基、エチル基、t−ブチル基及びフェニル基からなる群より選ばれた置換基を好ましく用いることができる。
【0012】
は直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜10のハロアルキルスルホン酸置換基、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜10のアルキルスルホン酸置換基、フルオロスルホン酸置換基及び芳香族スルホン酸置換基からなる群より選ばれたものであり、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸、及びパーフルオロアルキルスルホン酸からなる群より選ばれた置換基を好ましく用いることができる。
【0013】
は保護基であり、放射性フッ素とアミノ基との間の反応を防ぎ得るものであれば特に限定する必要は無い。具体的には、種々のカルバメート置換基、種々のアミド置換基、種々のイミド置換基、種々のアミン置換基からなる群より選ばれたものであり、好ましくは、炭素数2〜7の直鎖又は分岐鎖のアルキルオキシカルボニル置換基、炭素数3〜7の直鎖又は分岐鎖のアルケニルオキシカルボニル置換基、修飾基を有していても良い炭素数7〜12のベンジルオキシカルボニル置換基、炭素数2〜7のアルキルジチオオキシカルボニル置換基、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキルアミド置換基、炭素数2〜6の直鎖又は分岐鎖のアルケニルアミド置換基、修飾基を有していても良い炭素数6〜11のベンズアミド置換基、炭素数4〜10の環式イミド置換基、修飾基を有していても良い炭素数6〜11の芳香族イミン置換基、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキルアミン置換基、炭素数2〜6の直鎖又は分岐鎖のアルケニルアミン置換基、及び修飾基を有していても良い炭素数6〜11のベンジルアミン置換基からなる群より選ばれたものである。より好ましくは、t−ブトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、フタルイミド基、及びN-ベンジリデンアミン置換基よりなる群から選ばれたものであり、最も好ましくは、t−ブトキシカルボニル基又はフタルイミド基である。
【0014】
従来開示された[18F]FACBCを初めとする一連の放射性フッ素標識アミノ酸の製造方法においては、標識前駆体とのモル比にして0.3程度の相間移動触媒を低濃度で用いて放射性フッ素標識反応を行っていた(特表2000−500442号公報、Timothy M. et al., J. Nucl. Med., 1999, 40, p.331-338、J. McConathy et al., Applied Radiation and Isotopes, 2003, 58, p.657-666)。我々は、このような従来開示されていた方法と異なり、不活性有機溶媒中における相間移動触媒の濃度を70mmol/L以上とし、好ましくは、相間移動触媒を標識前駆体に対してモル比にして0.7以上用いることにより、フッ素化収率を飛躍的に向上させ、安定して高収率で[18F]Boc−FACBC等の放射性フッ素標識有機化合物を製造しうることを見出した。相間移動触媒の量は、標識前駆体に対してモル比にして等モル以上であることがより好ましい。
【0015】
加えて我々は、反応溶液中における標識前駆体濃度を高くすることによって放射性フッ素化工程における放射性フッ素化率が向上することを見出した。この知見に基づき、標識前駆体の不活性有機溶媒中の濃度を一定濃度以上とすることにより、より高収率で[18F]Boc−FACBC等の放射性フッ素標識アミノ酸を製造しうることを見出した。
すなわち、本発明の他の好ましい実施形態における方法は、上記した放射性フッ素標識有機化合物の製造方法において、不活性有機溶媒中における標識前駆体濃度を一定濃度以上とすることを特徴とする。より具体的には、不活性有機溶媒中の前駆体濃度は、50mmol/L以上であることが好ましく、60mmol/L以上であることがより好ましく、70mmol/L以上であることが特に好ましい。
【0016】
なお、不活性有機溶媒中における標識前駆体の濃度は、高い程放射性フッ素化工程の収率は向上するが、前駆体量一定の下で前駆体濃度を増加させると全体の液量が減少するため、放射性フッ素化反応を行うために十分な液量が確保できる濃度とする必要がある。このような濃度の上限値は、用いる標識前駆体量と、反応容器の容量等により決定される。例えば、自動合成装置を用いて製造を行う場合において、反応容器にて処理し得る液量の下限が0.4mLであり、反応に用いる標識前駆体の量が0.1mmolである場合、反応溶液の濃度の上限値は、250mmol/Lとなる。同様に、反応溶液で処理し得る液量の下限値が0.5mLであり、反応に用いる標識前駆体の量が0.08mmolである場合は、反応溶液の濃度の上限値は、160mmol/Lとなる。
【0017】
上述したように、標識反応における反応温度は、40〜90℃である。反応温度は、高すぎても、低すぎても、反応収率が低下してしまう。より好ましい反応温度の範囲は50〜80℃であり、さらに好ましい反応温度は60〜70℃である。
本発明において、不活性有機溶媒としては、[18F]フッ化物イオン、相関移動触媒、カリウムイオン及び標識前駆体化合物との間で反応性を有さない種々の溶剤を用いることができる。不活性有機溶媒の具体例としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、2−ブタノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びアセトニトリルからなる群より選ばれた少なくとも1種からなる有機溶剤が挙げられ、好ましくはアセトニトリルが挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る製造方法によれば、放射性フッ素化反応において、反応温度を40〜90℃とし、相間移動触媒の濃度を70mmol/L以上とし、好ましくはカリウムイオン及び/又は標識前駆体の不活性有機溶媒中の濃度を特定濃度以上とし、相間移動触媒の標識前駆体に対するモル比を特定量以上とすることとしたので、[18F]Boc−FACBCを初めとする放射性フッ素標識アミノ酸の製造収率を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−[((トリフルオロメチル)スルフォニル)オキシ]−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステルを標識前駆体として用いて[18F]Boc−FACBCを合成する場合を例にとり、本発明に係る放射性フッ素標識有機化合物の製造方法につき、詳しく説明する。
本発明に係る製造方法は、好ましい実施形態によれば、(1)相間移動触媒、18Fイオン及びカリウムイオンを含有する混合物を得る工程、(2)標識前駆体を前記混合物と反応させ、放射性フッ素にて標識することにより放射性フッ素標識有機化合物を得る工程(放射性フッ素化工程)、とを含んでいる。
【0020】
上記(1)の工程にて、放射性フッ素は、公知の方法、例えばH18O濃縮水をターゲットとしてプロトン照射を行うといった方法により、得ることができる。このとき、放射性フッ素はターゲットとしたH18O濃縮水中に存在している。この放射性フッ素を含むH18O濃縮水を陰イオン交換カラムに通液して該カラムに放射性フッ素を吸着捕集し、H18O濃縮水と分離する。その後、該カラムに炭酸カリウム溶液を流して放射性フッ素を溶出させ、相間移動触媒を加えて乾固させることにより、相間移動触媒と18Fイオン及びカリウムイオンとを含有する混合物を得ることができる。
【0021】
ここで用いる炭酸カリウムの量は、反応溶液に用いる不活性有機溶媒中のカリウムイオンの濃度が27mmol/L以上となるように調整することが好ましい。後述する比較例及び実施例の記載からも明らかなように、カリウムイオンの濃度が不活性有機溶媒中27mol/Lまでの条件においては、放射性フッ素化工程における[18F]フッ素化収率はカリウムイオンの濃度に依存して上昇し、27mmol/L以上の条件でほぼ一定となる。したがって、不活性有機溶媒中におけるカリウムイオン濃度が27mmol/L以上となる条件を用いることにより、より安定して高収率で放射性フッ素化工程を行うことができる。
一方、炭酸カリウムの量が多すぎると、炭酸イオンの影響により反応生成物の分解が生ずる場合があるため、注意が必要である。好ましい態様において、炭酸カリウムの量は、相間移動触媒と、カリウムイオンとして等量程度とすることができ、最も好ましくは、相間移動触媒のカリウムイオンに対するモル比が1.3倍程度となるように、前記炭酸カリウム溶液の濃度及び量を調整する。
【0022】
相間移動触媒としては、18Fイオンとの間で包摂体を形成する性質を有する種々の化合物を用いることができる。具体的には、放射性フッ素標識有機化合物の製造に用いられている種々の化合物を用いることができ、18クラウン6及びその他の種々のアミノポリエーテルを用いることができる。最も好ましい態様としては、クリプトフィックス222(商品名、メルク社製)を用いることができる。
【0023】
本発明において、相間移動触媒の量は、後に添加する不活性有機溶媒中における濃度が70mmol/L以上となるように調整される。後述する比較例及び実施例の記載からも明らかなように、相間移動触媒の量を不活性有機溶媒中70mmol/L以上とすることにより、安定して高収率で放射性フッ素化工程を行うことができる。相間移動触媒の量は、また、後の放射性フッ素化工程にて用いる標識前駆体に対してモル比にして0.7以上とすることが好ましい。より好ましい態様としては、相間移動触媒の量を標識前駆体に対して、等モル以上とする。このとき、相間移動触媒の量が多いほど収率が向上するが、あまり多すぎると、過剰に添加した相間移動触媒の除去が不十分となりやすくなるため、好ましくない。好ましい態様としては、相間移動触媒の総量が0.2mmol以下となるように用いればよく、例えば、標識前駆体の使用量を80μmolとする場合であれば、標識前駆体とのモル比にして2.5以下とする。この量であれば、後の工程にて固相カラム等を用いて精製することにより、相間移動触媒を容易に除去することができる。
【0024】
この様にして相間移動触媒と18Fイオン及びカリウムイオンとを含有する混合物が得られたら、上記(2)の工程を行って放射性フッ素標識アミノ酸を合成する。この工程では、まず、標識前駆体である1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−[((トリフルオロメチル)スルフォニル)オキシ]−シクロブタン−1−カルボン酸エステルを、前記の相間移動触媒と18Fイオン及びカリウムイオンとを含有する混合物に添加する。最も好ましい態様において、標識前駆体は、予め不活性有機溶媒に溶解させて、前記混合物に添加することができる。このとき、用いる不活性有機溶媒の量は、放射性フッ素化反応における反応溶液中における標識前駆体濃度が、50mmol/L以上となるように調整すると、放射性フッ素化反応における収率が特に向上するため、好ましい。
【0025】
標識前駆体及び不活性有機溶媒の添加が終了したら、上記反応液につき攪拌しながら加熱することにより、放射性フッ素化反応を行い、本発明における目的化合物たる放射性フッ素標識有機化合物が得られる。反応温度は40〜90℃とし、好ましくは50〜80℃、特に好ましくは60〜70とする。反応時間は反応温度により異なるが、40〜90℃の反応温度では通常3分以上とすればよく、好ましくは3分〜15分、より好ましくは3分〜7分である。反応時間を長くすると、その分放射性フッ素による標識反応が進行することが考えられるが、同時に放射性フッ素の崩壊も進行するため、注意が必要である。
【0026】
反応終了後、精製を行って、未反応の原料及び相間移動触媒の除去を行う。最も好ましい態様において、精製は、以下の要領にて行う。まず、反応の終了した反応溶液にジエチルエーテルを添加した液を調製する。この液をシリカゲルベースの固相カラム(例えば、Sep-Pak(登録商標)Silica(商品名、日本ウォーターズ株式会社製))に通液させることにより、[18F]Boc−FACBCをジエチルエーテル溶液として得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、放射化学的純度は、下記に示す条件のTLC分析を実施し、下記式(1)を用いて求めた。
【0028】
TLC分析条件:
展開相:ジエチルエーテル/ヘキサン=3/2
TLCプレート:Silica Gel 60F254(商品名、膜厚:0.25mm、メルク社製)
展開長: 10cm
TLCスキャナー: Rita Star(Raytest社製)
【0029】
【数1】
【0030】
また、[18F]フッ素化収率は、下記式(2)より計算して求めた。
【0031】
【数2】
【0032】
A:相間移動触媒、18Fイオン及びカリウムイオンを含有する混合物の放射能量(MBq)
B:合成された[18F]Boc−FACBCの放射能量(MBq)
【0033】
参考例1
syn−1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−[((トリフルオロメチル)スルフォニル)オキシ]−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステルの合成
【0034】
syn−ヒダントインの加水分解(図1、工程1)
syn−5−(3−ベンジルオキシシクロブタン)ヒダントイン6.15g(25mmol相当)に、飽和水酸化バリウム水溶液250 mLを加え、114℃の油浴にて24時間以上加熱還流した。クロロホルム:メタノール=5:1(syn−ヒダントインのRf値=0.6付近)及びクロロホルム:メタノール=95:1(syn−ヒダントインのRf値=0.3付近)の2種類の系を展開溶媒として使用したTLC分析を行い、反応終了の確認を行った(UVとリンモリブデン酸による呈色によって確認)。
【0035】
反応終了を確認した後、反応液を室温まで冷却し、1mol/mL硫酸約24mLを加え中和した。中和後、さらに室温で5分攪拌し、生成した沈殿を濾去した後、濾液を濃縮し、syn−1−アミノ−3−ベンジルオキシシクロブタン−1−カルボン酸5.67gを、白色結晶として得た。
【0036】
エチルエステル化(図1、工程2)
充分に乾燥させ水分を取り除いたsyn−1−アミノ−3−ベンジルオキシシクロブタン−1−カルボン酸5.67gを、エタノール200mLに溶解させた。この液に、トリエチルアミン 9.5mL(75mmol相当)を加え、‐78℃にて20分間冷却し、塩化チオニル 4.6mL(62.5mmol相当)を加えた。反応液を、0℃で1時間、室温で1時間それぞれ攪拌した後、95℃の油浴にて、1晩加熱還流した。クロロホルム:メタノール=95:1(目的物のRf値=0.6付近)を展開溶媒として使用したTLC分析(UVとリンモリブデン酸による呈色にて確認)により、反応終了の確認を行った。反応終了確認後、反応液を減圧濃縮してsyn−1−アミノ−3−ベンジルオキシシクロブタン−1−カルボン酸エチルエステル7.64gを白色結晶として得た。
【0037】
Boc化(図1、工程3)
syn−1−アミノ−3−ベンジルオキシシクロブタン−1−カルボン酸エチルエステル7.64gを、エタノール:トリエチルアミン=9:1混液250mLに溶解させた。この溶液を氷浴で15分冷却した後、二炭酸ジ−t−ブチル 8.6mL(37.5mmol相当)を加え、室温下1晩攪拌した。ヘキサン:酢酸エチル=1:1(反応目的物のRf値=0.6付近)を展開溶媒として使用したTLC(UV及びモリブデン酸による呈色にて確認)にて、反応終了を確認した。反応終了確認後、反応液を減圧濃縮し、残渣として白色結晶を得た。この残渣に、冷酢酸エチル 150mLと0.5mol/Lの冷塩酸150mLを加え、室温で5分攪拌し、次いで静置分離した。有機層を水150mL×2、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液150mL、水150mL×2,飽和食塩水150mL×2の順で抽出・洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、黄色油状物を得た。別に、水層を酢酸エチル150mL×2、水150mL×2、飽和食塩水150mLの順で抽出・洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後減圧濃縮することにより、少量の黄色油状物を回収した。一連の操作により、淡黄色油状物8.82gを得た。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離精製(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)することにより、白色結晶のsyn−1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−ベンジルオキシ−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステル8.04g(23mmol相当)を得た。
【0038】
脱ベンジル化(図2、工程4)
syn−1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−ベンジルオキシ−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステル 8.04g(23mmol相当)にエタノール150mLを加えた後、パラジウム−活性炭素(パラジウム10%)960mgを加え、水素置換、室温下で一晩攪拌した。反応後、セライトを用いた濾過によりパラジウム−活性炭素を濾去して濾液を減圧濃縮し、残渣として白色結晶5.74gを得た。なお、ヘキサン:酢酸エチル=1:1(反応目的物のRf値=0.2付近)を展開溶媒として使用したTLC分析(UVとニンヒドリンによる呈色にて確認)にて反応追跡を行い、反応終了を確認した。次いで残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン:酢酸エチル=1:1,ヘキサン:酢酸エチル=4:1) により分離精製し、白色結晶としてsyn−1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−ヒドロキシ−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステル5.36g(20.7mmol相当)を得た。
【0039】
トリフレート化(図3、工程5)
syn−1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−ヒドロキシ−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステル2.07g(8mmol)をピリジン26mLに溶解させ、氷浴下20分間攪拌した。無水トリフルオロメタンスルホン酸2.0mL(12mmol相当)を加え、そのまま30分間攪拌した。ヘキサン:ジエチルエーテル=1:1を展開溶媒(反応目的物のRf値=0.6付近)としたTLC分析(ニンヒドリンの呈色にて確認)を用いて反応を追跡し、反応終了を確認した。反応終了を確認後、反応液に水100mLとエーテル100mLを加え、1mol/L塩酸100mL×2、水100mL×2、飽和食塩水100mL×2の順で抽出洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮することにより、淡黄色結晶2.78gを得た。この反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離精製(ヘキサン:ジエチルエーテル=3:1)することにより得られた白色結晶につき、さらにペンタン:ジエチルエーテルを用いて再結晶を行うことにより、syn−1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−[((トリフルオロメチル)スルフォニル)オキシ]−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステル1.84g(4.7mmol相当)を得た。
【0040】
比較例1〜5、実施例1〜8
18F]フッ化物イオン含有H18Oを、陰イオン交換カラムに通液し、[18F]フッ化物イオンを、吸着捕集した。次いで、該カラムに表1記載の濃度の炭酸カリウム溶液0.3mLを通液して[18F]フッ化物イオンを溶出し、さらに水0.3mLを通液して溶出液と合わせた。この液に、表1記載の量のクリプトフィックス222(商品名、メルク社製)をアセトニトリル1.5mLに溶解させた液を加え、得られた混合液の放射能量を測定した(測定された放射能量:A、表2)。
【0041】
次いで、前記混合液を110℃に加熱して水及びアセトニトリルを蒸散させた後、アセトニトリル(0.5mL×2回)を加えて共沸し、乾固させた。ここに、表1に示す量のsyn−1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−[((トリフルオロメチル)スルフォニル)オキシ]−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステル(以下、Boc−TfACBCという)を、表1に示す量のアセトニトリルに溶解させた液を加え、攪拌しながら83℃で3分間加熱した。室温下で5分間放冷し、ジエチルエーテル4mLを加えてSep-Pak Silica(商品名、日本ウォーターズ株式会社製)に通液し、[18F]フッ素標識体である、[18F]Boc−FACBCのアセトニトリル/ジエチルエーテル溶液を得た。放射能量を測定し、得られた放射能量B(表2参照)を、[18F]フッ素化収率の計算に用いた。また、得られた[18F]Boc−FACBCにつきTLC分析を行い、上記式(1)を用いて放射化学的純度を求めた。
なお、各条件における実験は、比較例1、3及び実施例3については1回、比較例2、4及び実施例8については2回、実施例4については4回、その他については3回繰り返し行った。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
結果を、表3及び図4〜6に示す。
相間移動触媒として用いたクリプトフィックス222と、前駆体であるBoc−TfACBCとの比(以下、相間移動触媒/前駆体比という)を計算し、[18F]フッ素化収率との関係を調べた。結果を、図4に示す。この図から明らかなように、相間移動触媒/前駆体比0.7までの条件において、相間移動触媒/前駆体比の増加に伴って[18F]Boc−FACBCの[18F]フッ素化収率が飛躍的に向上していた。相間移動触媒/前駆体比0.7以上の条件においては、一部低い[18F]フッ素化収率を示すデータ(比較例5)が存在していたものの、その他はほぼ一定の収率を示しており、この条件における[18F]フッ素化収率は、公知の方法による場合(比較例1)と比較して、30〜50%程度も高い値を示していた。
【0045】
反応溶液中のアセトニトリルに対する、炭酸カリウム量に換算したカリウムイオン濃度と、[18F]フッ素化収率との関係を、図5に示す。図5から明らかなように、[18F]フッ素化収率は、カリウムイオン濃度27mmol/L(炭酸カリウム量に換算)までの条件において、カリウムイオン濃度の増加に伴って飛躍的に向上し、それ以上の濃度では、ほぼ一定値を示していた。反応溶液中のアセトニトリルに対するクリプトフィックス濃度と[18F]フッ素化収率との関係を、図6に示す。図6から明らかなように、反応溶液中のアセトニトリルに対するクリプトフィックス濃度(図6では、相間移動触媒濃度と表記)70mmol/Lまでの条件において、クリプトフィックス濃度の増加に伴って[18F]Boc−FACBCの[18F]フッ素化収率が飛躍的に向上し、それ以上の濃度ではほぼ一定値となっていた。このように、炭酸カリウム量に換算したカリウムイオン濃度27mmol/L以上、相間移動触媒濃度70mmol/L以上とした条件において、高い[18F]フッ素化収率にて[18F]Boc−FACBCを調製し得る事が示された。また、これらの条件を、上述した相間移動触媒/前駆体比0.7以上の条件に追加して適用することにより、相間移動触媒/前駆体比0.7以上の条件で低い値を示す条件(比較例5)を排除することができ、より安定して高い[18F]フッ素化収率を達成することが可能となることが示された。
以上の結果より、[18F]フッ素化反応において相間移動触媒/前駆体比0.7以上、炭酸カリウム量に換算したカリウムイオン濃度27mmol/L以上、相間移動触媒濃度70mmol/L以上といった条件を組み合わせることにより、[18F]Boc−FACBCを、安定して高収率で得られることが示された。
【0046】
【表3】
【0047】
実施例9〜43
反応温度40〜100℃において、本発明に係る製造方法により収率良く[18F]Boc−FACBCを製造できることを確認する目的で、下記の実験を行った。
【0048】
18F]フッ化物イオン含有H18Oを、陰イオン交換カラムに通液し、[18F]フッ化物イオンを吸着捕集した。次いで、該カラムに濃度133mmol/Lの炭酸カリウム溶液0.3mLを通液して[18F]フッ化物イオンを溶出し、さらに水0.3mLを通液して溶出液と合わせた。この液に、クリプトフィックス222(商品名、メルク社製)106μmolをアセトニトリル1.5mLに溶解させた液を加えた。
【0049】
次いで、110℃に加熱して水を蒸散させた後、アセトニトリル(0.5mL×2回)を加えて共沸し、乾固させた。ここに、80μmolのBoc−TfACBCを、アセトニトリル1mLに溶解させた液を加え、表4a〜4e記載の温度にて表4a〜4d記載の時間攪拌し、放射性フッ素化反応を進行させた。得られた反応溶液につき、下記の条件によるTLC分析を行い、[18F]Boc−FACBCの面積%を求め、[18F]フッ素化率の指標とした。
なお、各実験に用いた放射能量は、414〜759MBqであった。
【0050】
TLC分析条件:
TLCプレート:Silica Gel 60 F254(製品名、メルク社製)
展開相:ジエチルエーテル/ヘキサン=1/1
検出器:Rita Star(製品名、raytest社製)
【0051】
【表4a】
【0052】
【表4b】
【0053】
【表4c】
【0054】
【表4d】
【0055】
【表4e】
【0056】
結果を、表5a〜5eに示す。この結果より明らかなように、反応時間3分〜15分の条件においては、いずれの反応温度においても、[18F]フッ素化率は62%以上と良好な値を示していた。また、反応温度90℃以上においては、[18F]フッ素化率に大きな変化は見られなかったことから、40℃〜90℃の反応温度とすることにより、良好な[18F]フッ素化率を得ることが可能であることが示唆された。
【0057】
また、反応温度50℃〜80℃の条件では、いずれの反応時間においても、70%以上の[18F]フッ素化率が達成されており、反応温度60℃〜70℃の条件においては、いずれの反応時間においても、80%以上の[18F]フッ素化率を得ることが可能であった。
一方、反応時間に注目すると、反応時間を3分〜7分とすることにより、特に良好な[18F]フッ素化率が得られていた。
【0058】
以上の結果より、反応時間3分〜15分において、反応温度40℃〜90℃以上とする条件で良好な[18F]フッ素化率を達成することができ、50℃〜80℃の条件においてより良好な[18F]フッ素化率が得られ、60℃〜70℃の条件において特に良好な[18F]フッ素化率が達成し得ることが示された。
また、反応時間は3分以上であれば十分であるが、3分〜7分とするのがより好ましいことが示された。
【0059】
【表5a】
【0060】
【表5b】
【0061】
【表5c】
【0062】
【表5d】
【0063】
【表5e】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る放射性フッ素標識有機化合物の製造方法は、新規診断薬の製造に用いられる、[18F]Boc−FACBCを初めとする放射性フッ素標識有機化合物の製造に、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】syn−1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−ベンジルオキシ−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステルの、合成スキーム
図2】syn−1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−ヒドロキシ−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステルの、合成スキーム
図3】syn−1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−[((トリフルオロメチル)スルフォニル)オキシ]−シクロブタン−1−カルボン酸エステルの、合成スキーム
図4】相間移動触媒/標識前駆体比とフッ素化収率との関係を示す図(三角:実施例、四角:比較例)
図5】カリウムイオン濃度とフッ素化収率との関係を示す図(三角:実施例、四角:比較例)
図6】相間移動触媒濃度とフッ素化収率との関係を示す図(三角:実施例、四角:比較例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6