特許第5732206号(P5732206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732206
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】内燃エンジンの作動方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/06 20060101AFI20150521BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20150521BHJP
   F02D 41/02 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   F02D41/06 330Z
   F02D45/00 376B
   F02D41/02 330B
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-137107(P2010-137107)
(22)【出願日】2010年6月16日
(65)【公開番号】特開2011-1957(P2011-1957A)
(43)【公開日】2011年1月6日
【審査請求日】2013年5月2日
(31)【優先権主張番号】10 2009 025 195.2
(32)【優先日】2009年6月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598052609
【氏名又は名称】アンドレアス シュティール アクチエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100091867
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 アキラ
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 秀樹
(74)【代理人】
【識別番号】100167151
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ガイヤー
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−144586(JP,A)
【文献】 特開2008−274949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 − 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジン(1)を作動させるための少なくとも1つの制御パラメータを制御する制御部(18)を用いて前記内燃エンジンを作動させる方法であって、前記制御部(18)が不揮発性メモリ(20)とワーキングメモリ(21)とを含んでいる前記方法において、
前記内燃エンジン(1)の作動中に、前記制御パラメータに対する作動値(x作動)を継続的に前記不揮発性メモリ(20)に記憶するステップと、
前記内燃エンジン(1)のスタート時に前記制御パラメータに対する初期値を決定し、前記制御パラメータに対する前記初期値として、前記不揮発性メモリ(20)に記憶されている前記作動値(x作動)を使用するか、前記制御パラメータの標準値(x標準)を使用するかをカウンタ(a)の値に基づいて決定するステップであって、スタートトライアル回数を検出するために前記内燃エンジン(1)のスタートのたびに前記カウンタ(a)をカウントアップさせ、前記カウンタ(a)の値がカウンタ限界値(a限界)以下であれば、前記作動値(x作動)を前記制御パラメータに対する前記初期値として使用し、前記カウンタ(a)の値がカウンタ限界値(a限界)以上であれば、前記標準値(x標準)を前記制御パラメータに対する前記初期値として使用するステップと、
作動中に少なくとも前記内燃エンジン(1)の回転数(n)が、ほぼ10000回転/分ないしほぼ16000回転/分である限界値(n限界)に達したときに、前記カウンタ(a)を出発値にリセットするステップと、
を含んでいる前記方法。
【請求項2】
前記カウンタ限界値(a限界)が前記カウンタ(a)のカウントアップの値のほぼ15倍ないしほぼ25倍であることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記制御パラメータに対し前記標準値(x標準)を使用するときに前記カウンタ(a)を出発値にリセットすることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記内燃エンジン(1)のスタート過程時に設定したスタート値(xスタート)を前記制御パラメータに対し使用することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記制御パラメータが燃料供給量(x)であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
燃料を配量弁(13,13’)を介して供給することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項7】
燃料を気化器(10)に供給することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項8】
燃料を前記内燃エンジン(1)のクランクケース(4)に供給することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項9】
内燃エンジン(1)が単気筒エンジン、特に2サイクルエンジンであることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジンの作動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から知られている内燃エンジンの作動方法においては、スタート時の燃料供給量は、冷間スタートであるか暖機スタートであるかに応じて配分される。このため、内燃エンジンの最小作動時間が検出される。
【0003】
作動中に内燃エンジンの制御パラメータ(たとえば燃料供給量)を制御して、内燃エンジンの最適な設定(たとえば燃料空気比率)を得るようにすることが知られている。パワーソー、研磨切断機、刈払い機、芝刈り機等の手で操縦される作業機に使用される内燃エンジンは、同じ作動条件で作動されることが多い。それ故、制御部によって設定された制御パラメータに対する実際値を内燃エンジンの次のスタートの際にも呼び出すのが有利である。これにより、内燃エンジンの最適な設定状態に達するまでの時間を著しく短縮させることができる。たとえば操作者がエアフィルタをクリーニングすることで空気供給量が急激に且つ著しく多くなるなど、外部作動条件が変化すると、制御パラメータに対し記憶された値はもはや最適なものではない。内燃エンジンの作動条件が著しく変化すると、制御部が制御パラメータに対し再び最適値を設定するまで比較的長い時間がかかることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第3841475A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、制御パラメータの迅速な好適な設定を可能にする内燃エンジンの作動方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1の構成を備えた内燃エンジンの作動方法によって解決される。
【0007】
本発明によれば、制御パラメータに対するその都度の実際値を不揮発性メモリに記憶させる。内燃エンジンのスタート時には、最後の実際値を、制御パラメータを制御するための初期値として考慮することができる。制御パラメータのために補助的に標準値が記憶されている。制御部は、少なくとも1つの判断基準に基づいて、最後の記憶値が制御パラメータに対する初期値としてもはや最適でないと判断して、記憶された最後の実際値の代わりに、決定した判断基準に基づいて、制御パラメータの標準値を初期値として使用することができる。従って、制御パラメータの標準値は制御パラメータがリセットされるデフォルト値である。
【0008】
有利には、前記判断基準はカウンタの値である。有利には、内燃エンジンのスタートのたびにカウンタをカウントアップさせる。これによって、内燃エンジンのスタートトライアルの回数を簡単に検出することができる。合目的には、作動中に少なくとも1つの作動パラメータが限界値に達したときに、カウンタを出発値にリセットする。作動パラメータは有利には内燃エンジンの回転数であり、回転数に対する限界値は特にほぼ10000回転/分ないしほぼ16000回転/分である。従って、カウンタは、回転数がたとえば内燃エンジンの定格回転数の範囲にある限界値に達したときにリセットされる。エンジンが定格回転数に達したときには、制御パラメータは十分好適に設定されている。さらに、回転数が限界値に達したときには、エンジンが始動できたことが保証されている。エンジンが始動できない場合、或いは、たとえば制御パラメータの望ましくない設定のために必要な回転数に達していない場合には、内燃エンジンのスタートのたびにカウンタがカウントアップされる。
【0009】
カウンタがカウンタ限界値を越えたときに、制御パラメータに対し標準値を使用する。本発明によれば、カウンタ限界値はカウンタのカウントアップの値のほぼ15倍ないしほぼ25倍である。好ましくない条件で冷間スタートする場合、制御パラメータの設定が良好であっても、ほぼ15回ないし25回のスタートトライアルが生じることがある。成果のないスタートトライアルがこの回数を越えると、たとえば外部条件が変化したために、制御パラメータに対し記憶された実際値が好ましくないと前提することができる。このようなケースでは制御パラメータに対する標準値を使用する。これにより、制御部自身を制御パラメータに対する出発値にリセットすることができ、従って制御パラメータに対する最適値が許容時間内で達成されるよう保証する出発条件が提供される。
【0010】
合目的には、制御パラメータに対し標準値を使用するときにカウンタを出発値にリセットする。これにより、次のスタート過程後、記憶された制御パラメータの最後の実際値が再び設定されるよう保証される。有利には、内燃エンジンのスタート過程時に設定したスタート値を制御パラメータに対し使用する。従って、スタート時には、制御部は制御パラメータに対する最後の実際値を起用せずに、特別なスタート値を起用する。これにより、好ましくない条件でも内燃エンジンを始動できるよう保証することができる。
【0011】
有利には、制御パラメータは燃料供給量である。合目的には、燃料を配量弁を介して供給する。これにより、供給された燃料量を簡単に且つ正確に配分することができる。本発明によれば、燃料を気化器に供給する。しかし、燃料を内燃エンジンのクランクケースに供給するのも合目的である。内燃エンジンは特に単気筒エンジン、有利には2サイクルエンジンである。しかし、本発明による方法は単気筒4サイクルエンジンの制御にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】内燃エンジンの概略構成図である。
図2図1の内燃エンジンの制御部の構成図である。
図3】本発明による方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に概略を示した内燃エンジン1は単気筒2サイクルエンジンとして構成されている。内燃エンジン1は、有利には、たとえばパワーチェーンソー、研磨切断機、刈払い機、芝刈り機等の手で操縦される作業機の工具を駆動するために用いる。内燃エンジン1はシリンダ2を有し、シリンダ2内にはピストン5が往復動するように支持されている。ピストン5は燃焼室3を有し、燃焼室3内には点火プラグ17が突出している。燃焼室3からは排気部15が出ている。ピストン5は、連接棒6を介して、クランクケース4内に回転可能に支持されているクランク軸26を駆動する。クランク軸26には相対回転不能にファンホイール16が結合され、ファンホイール16は少なくとも1つの磁石19を有している。ファンホイール16の外周には点火モジュール22が配置され、点火モジュール22には、クランク軸26が回転するときに電圧が誘導される。点火モジュール22は制御部18と点火プラグ17とにエネルギーを供給する。同時に、点火モジュール22の信号は内燃エンジン1の回転数に関する情報を提供する。
【0014】
点火モジュール22の代わりに、或いは、点火モジュール22に加えて、クランク軸26に、エネルギーを発生させ且つ回転数信号を発生させるための発電機を設けてもよい。
【0015】
内燃エンジン1は、クランクケース4に通じてピストン5により開閉制御される吸気部8を有している。吸気部8には、エアフィルタ14の浄化側と連通している吸気通路9が開口している。吸気通路9内には気化器10が配置されている。気化器10内には、供給される燃焼空気量を制御するスロットルバルブ11が回動可能に支持されている。気化器10内では燃料穴12が吸気通路9に開口している。気化器10は燃料を配量する配量弁13を有している。配量弁13は制御部18により制御されて燃料を吸気通路9内へ供給する。燃料を直接クランクケース4に供給する配量弁13’を設けてもよい。
【0016】
内燃エンジン1の作動時には、ピストン5の上昇行程の際に燃料空気混合気が吸気通路9を介してクランクケース4内へ吸い込まれる。配量弁13’をクランクケース4内に配置すると、燃焼空気のみがクランクケース4内へ吸い込まれ、燃料は配量弁13’を介して別個に供給される。燃料空気混合気はピストン5の下降行程の際にクランクケース4内で圧縮され、ピストン5の下死点範囲で燃焼室3をクランクケース4と連通させる少なくとも1つの掃気通路7を介して燃焼室3内へ流入する。ピストン5の上死点範囲で燃料空気混合気は点火プラグ17によって点火される。燃焼後、排ガスは排気部15を通じて燃焼室3から排出される。内燃エンジン1を冷却するため、クランク軸26には(図1では概略的に図示した)ファンホイール16が相対回転不能に結合されている。
【0017】
制御部18は内燃エンジン1の作動時に点火時点と燃料供給量の双方を制御する。このため、制御部18は、点火モジュール22の信号から内燃エンジン1の回転数nを検出する。その際制御部18は燃料供給量を最適値に設定する。これは内燃エンジン1のその都度の負荷状態に依存している。供給すべき燃料量は、たとえば周囲温度、内燃エンジン1の温度、エアフィルタ14を通じて吸い込まれる空気量のような外的な周囲条件にも依存している。
【0018】
図2は制御部18の概略構成を示している。制御部18は、内燃エンジン1の回転数と、場合によっては内燃エンジン1の負荷とから、実際に供給すべき燃料量xを算出するワーキングメモリ21を有している。供給すべき燃料量を算出するために、たとえばクランクケース4内の圧力等の内燃エンジン1の他の作動パラメータを参照するようにしてもよい。内燃エンジン1の次のスタートの際に供給すべき燃料量の最適値を迅速に設定することができるようにするため、制御部18は不揮発性メモリ20(たとえばEPROM)を有し、不揮発性メモリ20には、供給すべき燃料量xに対する作動値x作動が継続的に記憶される。作動値x作動は通常は最後の実際値である。しかし、実際値が記憶限界値外にあれば、実際値は記憶されずに、限界値が作動値x作動として記憶される。これを矢印25で示した。内燃エンジン1の次のスタートの際には、通常は、供給すべき燃料量xに対する最後の作動値x作動が不揮発性メモリ20からワーキングメモリ21へ呼び出されて、供給すべき燃料量に対する初期値として利用される。最後の作動値x作動がカウンタaの値から望ましくない値と判断された場合には、不揮発性メモリ20に記憶されている標準値x標準が供給すべき燃料量xに対する初期値としてワーキングメモリ21に呼び出される。ワーキングメモリ21に、供給すべき燃料量xに対する標準値x標準を取り入れるか、作動値x作動を取り入れるかは、カウンタaに基づいて判断する。
【0019】
図3は本発明による方法のフローチャートである。内燃エンジン1がスタートすると、供給すべき燃料量xをまずスタート値xスタートに設定する。これにより、内燃エンジン1が常に同じ供給すべき燃料量xでスタートするよう保証されている。従って内燃エンジン1のスタートを確保することができる。内燃エンジン1がスタートすると、カウンタaが1だけカウントアップされる。スタート過程後に、カウンタaがカウンタ限界値a限界を越えているかどうかが監視される。カウンタaがカウンタ限界値a限界以下であれば、制御部18により、初期燃料量として、作動値x作動が、特に燃料量xに対する最後の実際値が、ワーキングメモリ21にロードされる。カウンタaの値がカウンタ限界値a限界以上であれば、標準値x標準がワーキングメモリ21に取り込まれる。次にカウンタaを0にセットする。これにより、燃料供給量が内燃エンジン1にとって好ましい初期値でスタートするよう保証されている。この初期値に基づいて制御部18は燃料量xに対し最適値を調整する。内燃エンジン1の作動時には、内燃エンジン1の回転数nが限界回転数n限界を越えているかどうか、継続的にチェックされる。限界回転数n限界は有利には定格回転数に相当しており、合目的にはほぼ10000回転/分ないしほぼ16000回転/分である。回転数nが限界回転数n限界に達すると、カウンタaは0にリセットされる。限界回転数n限界に達したということは、制御部18が燃料量xに対する最適値を許容時間内に設定できるように燃料量xが設定されたということを意味している。限界回転数n限界に達しなければ、設定した燃料量xが望ましいものではなく、従って最適な燃料量xを設定するには、制御部18を非常に長い時間にわたって必要とする。このようなケースではカウンタaはリセットされない。
【0020】
従って、内燃エンジン1がスタート後に限界回転数n限界に達しなければ、カウンタaはカウントアップされる。スタートトライアルが必要でなかった場合、或いは、内燃エンジン1がスタート直後に望ましくない調整のためにエンストする場合もそうである。これはたとえば冷間スタート時に発生することがある。カウンタaに対する限界値a限界は有利にはほぼ15ないしほぼ25である。特に有利なのはほぼ20の値である。20回連続して限界回転数n限界に達しなければ、次のスタート後に、供給すべき燃料量に対する値として標準値x標準がワーキングメモリ21にロードされる。その際標準値x標準は、内燃エンジン1が限界回転数n限界に達することができるように選定されている。これにより、周囲条件が著しく変化しても、内燃エンジン1が最適な供給すべき燃料量xをいつでも比較的迅速に設定することができることが保証されている。
【0021】
設定すべき燃料量xの代わりに、内燃エンジン1に対する他の制御パラメータをスタート値にリセットしてもよい。これはたとえば点火時点に対する値である。
【符号の説明】
【0022】
1 内燃エンジン
4 クランクケース
10 気化器
18 制御部
20 不揮発性メモリ
21 ワーキングメモリ
a カウンタ
限界 カウンタ限界値
限界 作動パラメータの限界値
n 内燃エンジンの回転数
x 燃料供給量
作動 制御パラメータの作動値
標準 制御パラメータの標準値
図1
図2
図3