(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732275
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】電磁誘導加熱取付方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
C09J 5/06 20060101AFI20150521BHJP
H05B 6/36 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
C09J5/06
H05B6/36
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-31556(P2011-31556)
(22)【出願日】2011年2月17日
(65)【公開番号】特開2012-167239(P2012-167239A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2014年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】398048110
【氏名又は名称】株式会社ブラウニー
(74)【代理人】
【識別番号】100090413
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 康稔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦彦
【審査官】
磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−043841(JP,A)
【文献】
特開2002−021297(JP,A)
【文献】
特開2004−075860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁誘導加熱により発熱する被取付対象に、加熱によって溶ける接着剤によって取付対象物を取り付ける電磁誘導加熱取付方法であって、
電磁誘導加熱ヘッドを、前記取付対象物側から当てるとともに、
前記被取付対象と前記取付対象物が接する範囲内であり、かつ、前記被取付対象の離間した位置において、前記被取付対象を順次部分的に加熱することを特徴とする電磁誘導加熱取付方法。
【請求項2】
電磁誘導加熱により発熱する被取付対象に、加熱によって溶ける接着剤によって取付対象物を取り付ける電磁誘導加熱取付方法であって、
電磁誘導加熱ヘッドを、前記取付対象物側から当てるとともに、
前記被取付対象と前記取付対象物が接する範囲内であり、かつ、前記被取付対象の離間した位置において、前記被取付対象を順次部分的に加熱することで、前記被取付対象の加熱と熱の拡散を交互に行うことを特徴とする電磁誘導加熱取付方法。
【請求項3】
前記被取付対象の部分的な加熱を、電磁誘導加熱ヘッドの構成ないし加熱条件の少なくとも一つを、被取付対象の加熱位置に対応して変更することを特徴とする請求項1又は2記載の電磁誘導加熱取付方法。
【請求項4】
前記被取付対象が自動車ボディであり、前記取付対象物が自動車部品であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電磁誘導加熱取付方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の電磁誘導加熱取付方法を行うための装置であって、
前記電磁誘導加熱ヘッドを、前記被取付対象の離間した位置に相対的に移動させるための移動手段を備えたことを特徴とする電磁誘導加熱取付装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の電磁誘導加熱取付方法を行うための装置であって、
前記被取付対象の離間した位置のそれぞれに電磁誘導加熱ヘッドを配置するとともに、これらの電磁誘導加熱ヘッドを、被取付対象の離間した位置で順次駆動する駆動制御手段を備えたことを特徴とする電磁誘導加熱取付装置。
【請求項7】
前記電磁誘導加熱ヘッドの構成及び加熱条件の少なくとも一つを、前記被取付対象の加熱位置に対応して設定したことを特徴とする請求項5又は6記載の電磁誘導加熱取付装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導加熱(Induction Heating)を利用した部品等の取付方法及びその装置に関し、例えば、自動車のボディ(車体)に部品を取り付けるような場合等に好適な電磁誘導加熱取付方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディに部品を取り付ける方法としては、下記特許文献1に開示されているクリップを利用した内装部品の取り付け構造があり、広く実用化されている。これに対し、クリップを使用することなく自動車ボディに直接部品を接着するものとして、下記特許文献2記載のものがある。これは、自動車ボディ対する裏打ちシートの接着に関するもので、熱により少なくとも一部が溶融する粘着性シートを自動車ボディに当接させ、次に、前記当接させた部分に電磁誘導加熱の加熱部を当てて自動車ボディを発熱させ、更に、前記自動車ボディの発熱により前記粘着性シートの少なくとも一部を溶融させることによって、粘着性シートと自動車ボディとを接着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平01-25936号公報
【特許文献2】特開2004-75860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車ボディに部品を取り付ける場合において、一般的に自動車ボディの外表面は、塗装が仕上がりの状態にあり、それを傷つけることがあってはならない。しかしながら、上述した特許文献2記載の方法では、加熱温度が高いと外表面の塗膜に影響を与える可能性がある。また、加熱温度が低いと、良好な接着力が得られない恐れがある。更に、シート状の部品を取り付ける際には、広範囲に自動車ボディを加熱する必要がある。
【0005】
本発明は、以上のような点に着目したもので、外表面に影響を与えることなく、良好に外装金属板などの被加熱対象を加熱することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電磁誘導加熱により発熱する被取付対象に、
加熱によって溶ける接着剤によって取付対象物を取り付ける電磁誘導加熱取付方法であって、電磁誘導加熱ヘッドを、前記取付対象物側から当てるとともに、前記被取付対象と前記取付対象物が接する範囲内であり、かつ、前記被取付対象の離間した位置において、前記被取付対象を順次部分的に加熱することを特徴とする。他の発明は、電磁誘導加熱により発熱する被取付対象に、
加熱によって溶ける接着剤によって取付対象物を取り付ける電磁誘導加熱取付方法であって、電磁誘導加熱ヘッドを、前記取付対象物側から当てるとともに、前記被取付対象と前記取付対象物が接する範囲内であり、かつ、前記被取付対象の離間した位置において、前記被取付対象を順次部分的に加熱することで、前記被取付対象の加熱と熱の拡散を交互に行うことを特徴とする。主要な形態の一つは、前記被取付対象の部分的な加熱を、電磁誘導加熱ヘッドの構成ないし加熱条件の少なくとも一つを、被取付対象の加熱位置に対応して変更することを特徴とする。他の形態の一つは、前記被取付対象が自動車ボディであり、前記取付対象物が自動車部品であることを特徴とする。
【0007】
本発明の電磁誘導加熱取付装置は、前記いずれかの電磁誘導加熱取付方法を行うための装置であって、前記電磁誘導加熱ヘッドを、前記被取付対象の離間した位置に相対的に移動させるための移動手段を備えたことを特徴とする。他の発明は、前記被取付対象の離間した位置のそれぞれに電磁誘導加熱ヘッドを配置するとともに、これらの電磁誘導加熱ヘッドを、被取付対象の離間した位置で順次駆動する駆動制御手段を備えたことを特徴とする。主要な形態の一つは、前記電磁誘導加熱ヘッドの構成及び加熱条件の少なくとも一つを、前記被取付対象の加熱位置に対応して設定したことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、
電磁誘導加熱ヘッドを取付対象物側から当てることで、離間した位置で被
取付対象の加熱を順次行うこととしたので、被
取付対象を徐々に、かつ均一化して加熱することができ、外表面に影響を与えることなく部品の取り付けを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例1における接合の様子を示す図である。
【
図2】前記実施例1における電磁誘導加熱ヘッドの移動の様子を示す図である。
【
図3】本発明の実施例2における電磁誘導加熱ヘッドの移動の様子を示す図である。
【
図4】本発明の実施例3における電磁誘導加熱ヘッドの移動手段ないし配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
最初に、
図1及び
図2を参照しながら、本発明の実施例1について説明する。
図1は、自動車ボディにおける積層状態の様子を示すもので、同図(A)は、被加熱対象である自動車ボディ10に、加熱対象物である粘着性シート20を取り付ける場合を示す。粘着性シート20は、加熱によって溶けることで接着剤としても機能するものである。同図(B)は、自動車ボディ10に、接着剤30を挟んでシート材40を取り付ける場合を示す。シート材40が接着性を有していないときは、接着剤30を使用する。接着剤30としては、例えば、ホットメルトのような熱可塑性のものを使用する。粘着性シート20やシート材40は、必要があれば、配線用などの凹凸が形成されていてもよい。
【0012】
図2には、本実施例における電磁誘導加熱の手順が示されている。誘導加熱用の電磁誘導加熱ヘッド50は、自動車ボディ10の外表面側から当てると傷などをつける恐れがあるので、
図1に示すようにシート側から当てるようにする。なお、粘着性シート20やシート材40のいずれであっても、加熱手順は同じなので、以下シート材40を代表して説明する。
【0013】
最初、
図2(A)に示すように、適宜の位置,図示の例では左上の位置に電磁誘導加熱ヘッド50を配置し、自動車ボディ10の誘導加熱を行う。このとき、自動車ボディ10の外表面の仕上がり塗装に影響を与える温度を超えないように温度制御を行う(以下同様)。次に、
図2(B)に示すように、電磁誘導加熱ヘッド50を、同図(A)の位置よりも離れた位置,図示の例では右下の位置に電磁誘導加熱ヘッド50を移動し、この位置で誘導加熱を行う。次に、
図2(C)に示すように、電磁誘導加熱ヘッド50を、同図(B)の位置よりも離れた位置,図示の例では左下の位置に電磁誘導加熱ヘッド50を移動し、この位置で誘導加熱を行う。次に、
図2(D)に示すように、電磁誘導加熱ヘッド50を、同図(C)の位置よりも離れた位置,図示の例では右上の位置に電磁誘導加熱ヘッド50を移動し、この位置で誘導加熱を行う。
【0014】
自動車ボディ10が加熱されて所定の温度となると、接着剤30が溶融し、これによってシート材40が自動車ボディ10に接着されるようになる。粘着性シート20の場合は、その一部が溶融し、これによって粘着性シート20が自動車ボディ10に接着されるようになる。
【0015】
このように、本実施例によれば、自動車ボディ10の離間した位置に順次電磁誘導加熱ヘッド50を移動しながら、電磁誘導加熱が行われる。このため、自動車ボディ10は、加熱した部位から他の部位へ熱が拡散するようになり、全体的に温度が上昇するようになる。すなわち、特定部位の急激な温度上昇が抑制されるため、自動車ボディ10の外表面の塗装に悪影響を与えることなく、加熱を行うことができる。これにより、上述したクリップを使用することなく、内装材などの部品を自動車ボディ内側に直接接着することができ、クリップやその支持金物,あるいはビスのような部品を削減して、自動車の軽量化,作業工程の簡略化を図ることができる。また、超音波溶着などでは、取付け用の座部としてある程度の面積が必要であるが、小さい面積でも接着力を確保することができるので接着面積が狭くてもよく、部品の小型化・軽量化を図ることができる。
【実施例2】
【0016】
次に、
図3を参照しながら、本発明の実施例2について説明する。前記実施例は二次元的に電磁誘導加熱ヘッド50を移動させる場合であるが、本実施例のように、一次元的あるいは三次元的に電磁誘導加熱ヘッド50を移動させてもよい。
図3(A)〜(D)に示すように、長尺の部品60は、幅方向が電磁誘導加熱ヘッド50の大きさに対応しているので、長さ方向に電磁誘導加熱ヘッド50を移動させればよい。まず、同図(A)に点線で示すように、部品60の右端に電磁誘導加熱ヘッド50を配置して誘導加熱を行い、その後、部品60の左端に電磁誘導加熱ヘッド50を移動して誘導加熱を行う。次に、同図(B)に示すように、部品60の左端から中央付近に電磁誘導加熱ヘッド50を移動して誘導加熱を行う。次に、同図(C)に示すように、部品60の中央付近から右寄りに電磁誘導加熱ヘッド50を移動して誘導加熱を行い、次に、同図(D)に示すように、部品60の中央付近から左寄りに電磁誘導加熱ヘッド50を移動して誘導加熱を行う。
図3(E)の例は、自動車ボディ70の曲折部位に、曲折した部品72を接着する場合を示したもので、電磁誘導加熱ヘッド50の移動が三次元的に行われる。これらのように、部品の形状や大きさによっては、電磁誘導加熱ヘッド50を一次元的ないし三次元的に移動するようにしてもよく、前記実施例と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0017】
次に、
図4を参照しながら、本発明の実施例3について説明する。同図(A)は、一つの電磁誘導加熱ヘッド50をロボット100のアーム110に取り付け、
図2や
図3に示した電磁誘導加熱ヘッド50の移動順序をロボット100に教えて、上述した電磁誘導加熱ヘッド50の離間位置への移動を行うようにしたものである。このように、電磁誘導加熱ヘッド50の移動は、作業者が行ってもよいし、ロボットで行ってもよい。同図(B)は、予め多数の電磁誘導加熱ヘッド50を加熱位置に配置し、これを順次駆動することで、結果的に上述した実施例と同様の離間位置において順番に加熱を行うようにした例である。図示の例は二次元的に電磁誘導加熱ヘッド50を配列しているが、一次元的ないし三次元的な配列としてもよい。多数の電磁誘導加熱ヘッド50は、駆動制御部80によって、所定の順番で駆動される。例えば、最初電磁誘導加熱ヘッド50Aが駆動され、次に電磁誘導加熱ヘッド50Aから離れた位置の電磁誘導加熱ヘッド50Bが駆動されるといった具合である。
【0018】
図4(C)は、複数の電磁誘導加熱ヘッドの大きさが異なる例である。接着する対象物に形状,厚み,材質の相違などがあり、部位によって加熱の程度を変更したほうがよい場合には、電磁誘導加熱ヘッドをそれに合わせた特性のものとする。例えば、電磁誘導加熱ヘッドの高周波
発生方法ないし電磁波の照射方法や、コイルの形状,巻数,素材,コイルに対する通電量(電磁波の出力),通電時間(電磁波の照射時間),電流の周波数などの条件を、加熱部位に応じて設定する。図示の例では、加熱ヘッド50P,50Qが、部品120の形状に対応した形状に設定されている。もちろん、上述した実施例1や実施例2においても、同様に、加熱部位毎に、電磁誘導加熱ヘッドの構成ないし加熱条件を適宜設定してよい。
【0019】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例では、自動車ボディに内装材などの部品を直接取り付ける場合を説明したが、被取付対象としては自動車ボディ以外でもよく、取付対象物も各種可能である。また、取り付ける物の大きさ,形状,材質も特に限定されるわけではない。
(2)離間した位置における電磁誘導加熱ヘッドの加熱量は同一としてもよいが、位置毎に異なるようにしてもよい。例えば、一度自動車ボディの加熱を行うと、その部位の熱が拡散するようになる。従って、次の加熱の温度は、その前の温度よりも低く設定するという具合である。
(3)更に、前記実施例を組み合わせてもよい。例えば、
a,上下方向に電磁誘導加熱ヘッドが移動可能なロボットを、左右方向に複数台配置する。
b,コイル形状が異なる電磁誘導加熱ヘッドを複数台用意し、これらを移動して使用する。
といった具合である。
(4)前記実施例は、自動車ボディの外表面の塗装に影響を与える場合を主として説明したが、塗装以外,例えば鏡面加工,防錆加工などに対する影響の低減にも同様に適用される。また、自動車以外の各種のものに対する部品等の取り付けにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によれば、電磁誘導加熱ヘッドを離間した位置に順次移動して
、取付対象物側から当てることで、被取付対象を加熱することとしたので、被取付対象に影響を与えることなく、被取付対象を広範囲に良好に加熱することができ、自動車における内装材などの部品の取り付けなどに好適である。
【符号の説明】
【0021】
10,70:自動車ボディ
20:粘着性シート
30:接着剤
40:シート材
50,50A,50B,50P,50Q:電磁誘導加熱ヘッド
60,72:部品
80:駆動制御部
100:ロボット
110:アーム
120:部品