(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
閉そく区間毎に送信されている当該閉そく区間に係る照査速度基礎情報、連続可変許否情報、及び、当該連続可変許否情報が許可を示す情報の場合に含まれる所定の基準減速度を当該閉そく区間の軌道の線形に応じて補正する減速補正値を示す情報を含む列車制御情報のうちの走行中の閉そく区間に係る列車制御情報を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された列車制御情報に含まれる連続可変許否情報が不許可の場合に、照査速度基礎情報に従った照査速度とする照査速度パターンを、当該閉そく区間の照査速度パターンとして設定する不許可時設定手段と、
前記受信手段により受信された列車制御情報に含まれる連続可変許否情報が許可を示す情報の場合に、直前の閉そく区間について設定した照査速度パターンのうちの当該直前の閉そく区間の終端における照査速度に連続し、前記基準減速度を前記減速補正値で補正した減速度で徐々に減速する照査速度パターンを、当該閉そく区間の照査速度パターンとして設定する許可時設定手段と、
前記照査速度パターンを用いて列車速度を制御する速度制御手段と、
を備え、閉そく区間それぞれの軌道の線形に応じて徐々に減速する照査速度パターンを、隣接する閉そく区間において連続的に設定可能な車上装置。
【背景技術】
【0002】
列車制御システムの一種であるATC(Automatic Train Control)には様々な方式があるが、その制御内容を包括すると、先行列車との間隔に応じて後続列車の許容速度を設定し、後続列車が許容速度を超えると自動的にブレーキを作動させて減速させることで、列車の走行速度を制御するシステムと言える。
【0003】
また、ブレーキ制御にも様々な方式が知られているが、その中に一段ブレーキ制御方式がある。一段ブレーキ制御方式は、在線区間に定められた許容速度を超えると、実際の減速曲線に近似したブレーキパターンで停止するまで制動が緩むことなく作動する方式である。許容速度は、例えば、先行列車の在線区間の後方の閉そく区間それぞれに、先行列車に近いほど低くなるように許容速度(制限速度)を段階的に定める方式が知られている。
【0004】
このように、一段ブレーキ制御では、一度ブレーキが作動すると停止するまでブレーキが緩まない。そのため、滑走等を考慮して、先行列車との間に、進入すると非常ブレーキを作動させる「02信号区間」を設けるのが一般的である。この「02信号区間」によって、後続列車と先行列車との間隔が長くなり、その結果、運転時隔が長くなっていた。
【0005】
また、許容速度が閉そく区間を単位として階段状に定められると、閉そく区間の境界で許容速度が不連続に低下し得る。このため、運転士は、新たな閉そく区間に進入しようとする都度、自動ブレーキが作動する可能性を感じながら運転することになり、新たな区間へ進入する手前で減速する傾向がある。その結果、走行速度が全体的に低くなり、運転間隔が長くなってしまっていた。
【0006】
以上の問題点を解消する技術として、特許文献1に開示されている制御方法が知られている。係る制御方法では、走行路情報と先行列車の走行位置情報とに基づいて、後続列車の速度制御テーブルデータを地上装置が随時送出する。そして、後続列車では、受信した速度制御テーブルデータをもとに速度制御パターンを演算し、走行速度を制御する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術によれば、確かに高密度運転が可能である。しかしながら、特許文献1の方法では、実用化が困難な場合が起こり得た。すなわち、地上装置から車上装置への電文の中に、走行許容距離等の情報を含める必要があるため、必然的に電文長が長くなる。一方、車上装置は、閉そく区間を走行する間に、規定回数の電文を受信する必要があるが、短い閉そく区間を高速走行する路線においては、電文長が長いと、規定回数の受信ができないという問題が生じ得た。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、短い電文長でありながら、高密度運転を可能とする新たな列車制御を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための第1の形態は、
閉そく区間毎の列車制御情報を生成して、対応する閉そく区間に送信する制御を行う地上装置であって、
車上装置による照査速度の設定を許可するか否かを定めた情報であって、許可する場合には当該閉そく区間の直前外方の閉そく区間の照査速度と連続し、且つ、徐々に減速した照査速度を前記車上装置に設定させるように指示する連続可変許否情報を、閉そく区間毎に決定する決定手段と、
前記決定手段の決定に応じた連続可変許否情報を含む前記列車制御情報を、対応する閉そく区間に送信する制御を行う送信制御手段と、
を備えた地上装置である。
【0011】
また、他の形態として、
閉そく区間毎の列車制御情報を生成して、対応する閉そく区間に送信する制御を行う地上装置の制御方法であって、
車上装置による照査速度の設定を許可するか否かを定めた情報であって、許可する場合には当該閉そく区間の直前外方の閉そく区間の照査速度と連続し、且つ、徐々に減速した照査速度を前記車上装置に設定させるように指示する連続可変許否情報を、閉そく区間毎に決定する決定ステップと、
前記決定に応じた連続可変許否情報を含む前記列車制御情報を、対応する閉そく区間に送信させる制御を行う送信制御ステップと、
を含む制御方法を構成しても良い。
【0012】
更なる他の形態として、
閉そく区間毎に送信されている当該閉そく区間に係る照査速度基礎情報及び連続可変許否情報を含む列車制御情報のうちの走行中の閉そく区間に係る列車制御情報を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された列車制御情報に含まれる連続可変許否情報が不許可の場合に、照査速度基礎情報に従った照査速度を設定する不許可時設定手段と、
前記受信手段により受信された列車制御情報に含まれる連続可変許否情報が許可の場合に、直前の閉そく区間の照査速度と連続し、且つ、徐々に減速した照査速度を設定する許可時設定手段と、
前記照査速度を用いて列車速度を制御する速度制御手段と、
を備えた車上装置を構成しても良い。
【0013】
この第1の形態等によれば、車上装置は、閉そく区間毎の列車制御情報を生成して対応する閉そく区間に送信するが、閉そく区間毎に車上装置による照査速度の設定を許可するか否かを定めた連続可変許否情報を含めた列車制御情報を送信する。
【0014】
そして、車上装置は、受信した列車制御情報をもとに設定した照査速度を用いて列車速度を制御するが、照査速度は、列車制御情報に含まれる連続可変許否情報が許可の場合には、直前の閉そく区間の照査速度と連続し、且つ、徐々に減速するように設定する。これにより、閉そく区間の境界で照査速度が急激に低下することが防止される。その結果、次の閉そく区間への進入時に急ブレーキがかかって乗り心地が悪くなるといったことや、急ブレーキがかからなくとも、走行速度が低下して列車間隔が長くなるといった事態が解消される。
【0015】
また、連続可変許否情報は、許可/不許可を表す情報であり、1ビットのフラグによって実現可能である。すなわち、閉そく区間が短く、且つ高速で列車が走行する路線をでは、規定回数の電文受信を確保するために、閉そく区間に送信される列車制御情報(電文)の長さに制限があるが、この連続可変許否情報を含めるとしても、列車制御情報のデータ長が長くなることを最小限に抑えることができる。
【0016】
また、第2の形態として、第1の形態の地上装置であって、
前記連続可変許否情報を許可を示す情報とする場合に、前記照査速度を減速させる程度を示す補正情報を設定する補正情報設定手段を更に備え、
前記送信制御手段は、前記列車制御情報に、前記補正情報設定手段により設定された補正情報を更に含めて送信させる、
地上装置を構成しても良い。
【0017】
この第2の形態によれば、連続可変許否情報が許可の場合、所定の基準減速度を、列車制御情報に含まれる補正情報を用いて補正した減速度で徐々に減速するように、照査速度が設定される。同じようにブレーキを作動させても、例えば下り勾配のほうが上り勾配よりも減速し難いといったように、軌道の勾配や形状(曲率)等によって列車の減速の程度が異なる。そこで、例えば、直線且つ水平な軌道を想定した基準減速度とした場合、軌道の勾配や曲率等を考慮した補正情報を定めることで、より適切な列車速度の制御が可能となる。
【0018】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の地上装置であって、
前記連続可変許否情報を許可を示す情報とする場合に、前記照査速度を減速させる減速度の種類を示す種類情報を設定する種類情報設定手段を更に備え、
前記送信制御手段は、前記列車制御情報に、前記種類情報設定手段により設定された種類情報を更に含めて送信させる、
地上装置を構成しても良い。
【0019】
この第3の形態によれば、連続可変許否情報が許可の場合、列車制御情報に含まれる種類情報に応じた減速度で徐々に減速するように、照査速度が設定される。すなわち、上述の第2の形態と同様に、軌道の勾配や形状(曲率)等を考慮して減速度の種類を定めることで、より適切な列車速度の制御が可能となる。
【0020】
また、第4の形態として、第1〜第3の何れかの形態の地上装置であって、
前記送信制御手段は、一の閉そく区間の前記連続可変許否情報と、当該一の閉そく区間の内方所定区間分の前記連続可変許否情報とを、当該一の閉そく区間の列車制御情報に含めて、当該一の閉そく区間に送信させる、
地上装置を構成しても良い。
【0021】
この第4の形態によれば、連続可変許否情報が許可の場合、走行中の閉そく区間から先の所定区間分の照査速度を設定することができる。
【0022】
更に、第6の形態として、
第1〜第4の何れかの形態の地上装置と、第5の形態の車上装置とを具備した列車制御システムを構成しても良いのは勿論である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。但し、本発明の適用可能な実施形態がこれに限定されるものではない。
【0025】
[システム構成]
図1は、本実施形態における列車制御システム1の概略構成図である。
図1によれば、列車制御システム1は、地上装置100と、軌道Rを走行する列車20に搭載される車上装置200とを具備して構成される。
【0026】
地上装置100は、ATC送信器110と、地上制御装置120とを有している。ATC送信器110は、各軌道回路(閉そく区間)の進出側の境界に接続され、地上制御装置120によって生成されたデジタル信号であるATC信号(列車制御信号)を軌道回路に送信する。地上制御装置120は、軌道上の各列車の位置を軌道回路単位で検知し、先行列車との間隔に応じて、各列車に速度制御を行わせるためのATC信号を、ATC送信器110から送信させる。
【0027】
車上装置200は、軌道回路から受信したATC信号に基づく列車20の速度制御を行う。具体的には、受信したATC信号に基づく照査速度パターン(ブレーキパターン)を作成・設定し、この照査速度パターンに従った速度制御(ブレーキ制御)を行う。
【0028】
[原理]
図2は、列車制御システム1における列車制御の説明図である。
図2では、右方向を列車の進行方向として、後続列車における照査速度パターン、及び、車内信号の一例を示している。破線は許容速度を示し、太実線が照査速度パターンを示している。
【0029】
図2に示すように、先行列車の在線区間の直後の区間(閉そく区間)が、後続列車の過走又は冒進を防護するための「防護区間」として定められる。この防護区間には、防護区間に手前に停止させる規定の照査速度パターンが定められる。また、この防護区間の外方に隣接する所定数の区間が、後続列車の「速度制限区間」として定められる。
【0030】
そして、速度制限区間を構成する区間それぞれに、後続列車の「許容速度」が定められる。許容速度は、後続列車を速度制限区間の終端までに停止可能とするとともに、先行列車に近いほど低くなるように段階的に定められる。また、許容速度は、レールの曲率や踏切の設置等によって予め定められている制限速度を超えないように定められる。後述する「連続可変区間」の指定がない区間(以下、「一定区間」という)では、当該区間に定められた許容速度を照査速度としたブレーキ制御が行われる。
【0031】
例えば、
図2において、速度制限区間の全ての区間が一定区間の場合には、破線で示される許容速度のパターンが照査速度パターンとして作成・設定される。許容速度は、防護区間の直近外方の区間11T〜13Tに「20km/h」が設定され、その後方の区間14T以降に「55km/h」或いは「75km/h」が設定されている。従来、防護区間の直近外方の区間11Tは、許容速度(照査速度)が「0km/h」とされたが、本実施形態では「0km/h」を超える有速度が許容速度として設定される。そのため、後続列車は、防護区間の直近外方の区間に進入したとしても、防護区間の進出側境界まで進行することが可能となる。なお、区間11Tの許容速度は「20km/h」に限らず、徐行を促す速度であれば、例えば「10km/h」等でも構わない。
【0032】
また、後続列車の車内信号機の信号現示は、防護区間では強制停止を表す「×現示」とされ、防護区間の直近外方の区間(
図2では、区間T11)では、区間終端までの停止を表す「R現示」とされ、これより手前の各区間では、進行許容を表す「G現示」とされる。運転士は、「R現示」により、自列車が防護区間の直近外方に進入したことを視認でき、徐行することで防護区間の進出側境界近くまで自列車を進行させることができる。
【0033】
次に、「連続可変区間」について説明する。「連続可変区間」は、直近外方区間の照査速度と連続し、且つ、当該区間内で照査速度を連続的に低下(減速)させて定める区間である。これに対して、「一定区間」は、直近外方区間の許容速度と無関係(不連続になり得る)であり、且つ、当該区間に定められた一定の許容速度を照査速度として定める区間である。「連続可変区間」とするか「一定区間」とするかは、別途指定される。なお、制限速度が定められている区間(
図2では、区間17T)については、「連続可変区間」とは指定されず、必ず「一定区間」として指定される。
図2は、速度制限区間のうち、区間10T,16T,17T,20T以外が「連続可変区間」とされた場合の照査速度パターンを示している。
【0034】
具体的に説明する。「連続可変区間」では、その直前区間の終端での照査速度を基準として、この照査速度から所定の減速度で減速する照査速度パターンが作成される。またこのとき、連続可変区間における照査速度パターンの減速度は、所定の基準減速度を、その区間に予め定められた減速補正値によって補正した値となる。基準減速度は、直線且つゼロ勾配を想定した減速度であり、減速補正値は、レールの勾配や曲率等を考慮して定められる値である。これにより、照査速度パターンは、連続可変区間においては照査速度が徐々に低下(単調減少)する連続可変パターンとなる。
【0035】
「連続可変区間」の特徴の一つは、照査速度が、直前区間から不連続に低下することはない、ということである。例えば、
図2において、速度制限区間の全ての区間が一定区間の場合には、破線で示す許容速度が照査速度となるため、例えば区間16Tから区間15Tに進入する際に照査速度が急激に低下する。この結果、急ブレーキがかかり乗り心地に影響したり、急ブレーキがかからずとも急ブレーキの発動に対する運転士の不安心理により全体的に走行速度が低下して駅間時分が長くなるといった問題が生じ得る。一方、例えば区間15Tが「連続可変区間」とされた場合(
図2の場合)には、直前の区間16Tの照査速度から徐々に低下するように照査速度が定められるため、上述の問題を大幅に解消させることができる。
【0036】
[電文]
図3は、ATC信号として閉そく区間に送出される電文の構成例を示す図である。
図3によれば、電文には、非同期で繰り返し送出される電文の同期を取るための「同期フラグ」や、電文の識別番号となる「通番」、該当する区間に定められた許容速度を表す「速度信号(照査速度基礎情報)」、「連続可変区間」であるか否かを示す「連続可変フラグ(連続可変許否情報)」、減速補正値を段階的に表す「減速補正(補正情報)」、車内信号機の信号現示を表す「信号現示」等のほか、不図示であるが、上り/下りの別を表す「運転方向」や、前方区間の信号現示を表す「予告信号」、誤り検出のための「CRC符号」等が含まれている。また、電文長は、軌道回路(閉そく区間)の長さや送信速度、車上装置200での電文判別の制限時間等によって最大長(最大ビット数)が決まる。
【0037】
例えば、軌道回路(区間)の最短が100mの路線を100km/hで走行する場合を想定する。非同期の電文の受信制御のために1電文が必要であり、電文確定のために2電文の一致が必要であるならば、最低でも3電文の受信が必要となる。そして、信号の伝送速度を、例えば300bpsとすると、電文長は50ビット以下の必要がある。
【0038】
従来のATC信号の電文に比べて、本実施形態で特に必要となるデータは「連続可変フラグ」及び「減速補正」の二つであり、場合によっては「連続可変フラグ」のみの追加での運用も可能である。これによれば、本実施形態を実現する上で必要となる追加ビット数は最低1ビット(フラグ情報)のみとなるため、電文長が長大となることもない。
【0039】
[機能構成]
(1)地上装置100
図1に示したように、地上装置100は、列車検知部122と、ATC信号送信制御部124とを有している。
【0040】
列車検知部122は、軌道上の列車の位置を軌道回路単位で検知する。軌道回路では、当該軌道回路内に列車が進入した際に、当該列車の車輪及び車軸でなる輪軸によって左右のレール間が短絡されることにより、当該軌道回路の送信側から送出された電圧の受信レベルが低下することを利用して、当該軌道回路内に列車が在線していることを検知する。列車検知部122は、不図示の伝送ラインを介して各軌道回路からの検知結果を受信することで、列車の位置を検知する。
【0041】
ATC信号送信制御部124は、列車検知部122によって検知された列車位置をもとに、各列車が速度制御(制動制御)を行うためのATC信号を、ATC送信器110から軌道回路に送信させる。
【0042】
具体的には、ある列車(先行列車)の在線区間の後方に隣接する区間を「防護区間」として設定し、この「防護区間」の後方に隣接する所定数の区間を「速度制限区間」として設定する。
【0043】
次いで、速度制限区間を構成する各区間について、防護区間に近づくにつれて減速するように、各区間の区間長に基づいて許容速度を設定する。また、速度制限区間の各区間について、車内信号機の信号現示を設定する。更に、速度制限区間を構成する各区間について、「連続可変区間」とするか否かを決定する。連続可変区間とするか否かは、各区間に設定した許容速度や、制限速度が定められているか否かによって決定する。ここで、各閉そく区間の区間長や制限速度は、閉そく区間設定テーブル130において定義されている。
【0044】
そして、各区間について、該区間に設定した許容速度(速度信号)や、連続可変区間の設定可否(連続可変フラグ)、該区間に予め定められている速度補正値(速度補正)、車内信号の信号現示を含むATC信号を生成し、生成したATC信号を、該当する区間の進出側の境界に接続されたATC送信器110からレールに送信させる。ここで、各閉そく区間の速度補正値(減速補正)は、閉そく区間設定テーブル130において定義されており、この閉そく区間設定テーブル130を参照して設定する。
【0045】
図4は、閉そく区間設定テーブル130のデータ構成の一例を示す図である。閉そく区間設定テーブル130は、地上装置100の制御対象範囲に含まれる閉そく区間それぞれについて、位置や区間長、制限速度、減速補正(減速補正値)を対応付けて格納している。区間の位置は、キロ程で表現された進入側の境界位置である。また、減速補正の値は、登り勾配の場合には勾配が大きいほど減速度が小さくなるように定められ、下り勾配の場合には勾配が大きいほど減速が大きくなるように定められている。更に、減速補正の値は、曲率が大きいほど減速度が大きくなるように定められている。また、閉そく区間テーブル130には、当該区間を「連続可変区間」とするか「一定区間」とするかの識別情報を格納することとしても良い。
【0046】
(2)車上装置200
図5は、車上装置200の内部構成図である。
図5によれば、車上装置200は、位置・速度算出部210と、照査速度パターン作成部220と、速度照査部230と、車内信号現示制御部240とを有している。
【0047】
位置・速度算出部210は、車軸に取り付けられた速度発電機の回転数の計測値をもとに、自列車の現在の走行位置(走行距離)及び走行速度を算出する。さらに、地上子(不図示)の近傍の通過時に、該地上子と無線通信によって取得した地上子IDから通過した地上子を識別し、走行位置を補正する。
【0048】
照査速度パターン作成部220は、ATC送信器110から受信したATC信号をもとに、照査速度パターンを作成することで、照査速度を設定する。具体的には、閉そく区間への進入によって新たなATC信号を受信すると、このATC信号をもとに、現在の閉そく区間(在線区間)についての照査速度パターンを作成・更新する。
【0049】
すなわち、受信したATC信号に含まれる連続可変フラグから、現在の閉そく区間が、「連続可変区間」であるか否かを判断する。「連続可変区間」ならば、直前の区間の終端における照査速度から、所定の減速度で減速させるような照査速度パターンを作成する。このときの減速度は、所定の基準減速度を、受信したATC信号に含まれる減速補正によって補正した減速度とする。一方、連続可変区間でない(一定区間である)ならば、受信したATC信号に含まれる許容速度(速度情報)を一定の照査速度とした照査速度パターンを作成する。
【0050】
速度照査部230は、照査速度パターン作成部220によって作成された照査速度パターンに従った速度照査を行う。すなわち、照査速度パターンで定められる現在の走行位置の照査速度と、現在の走行速度とを比較し、走行速度が照査速度を超える場合には、ブレーキ機構310を作動させて減速させる。照査速度を超えたことにより発動されるブレーキ制御は、従来の一段ブレーキ制御と同様であっても良いし、走行速度が照査速度以下となった時点で緩解させる制御としても良い。なお、このブレーキ機構310は、列車の運転士が手動操作する手動制御部320によっても作動される。
【0051】
[処理の流れ]
(1)地上
図6は、地上装置100において、ATC信号送信制御部124が行うATC送信制御処理を説明するフローチャートである。
図6によれば、ATC信号送信制御部124は、列車検知部122によって検知された列車の在線区間を監視しており、何れかの列車の在線位置が変化したならば(ステップA1:YES)、該列車の後続列車に向けた新たなATC信号の生成・送出指示制御を行う。
【0052】
すなわち、在線位置が変化した列車の在線区間の後方の直近区間を、後続列車に対する「防護区間」として設定する(ステップA3)。次いで、この防護区間の外方に隣接する所定数乃至所定距離以内の連続する区間を「速度制限区間」として設定する(ステップA5)。そして、この速度制限区間を構成する各区間について、許容速度を設定するとともに(ステップA7)、連続可変区間とするか否かを決定(指定)する(ステップA9)。連続可変区間とするか否かの決定は、例えば当該区間に制限速度が定められているか否か、等によって決定する。続いて、各区間について、閉そく区間設定テーブル130を参照して減速補正値(減速補正)を設定する(ステップA11)。
【0053】
そして、設定した許容速度(速度信号)や、連続可変区間とするか否か(連続可変フラグ)、減速補正値(減速補正)等の情報を含むATC信号(電文)を生成し、生成したATC信号を、該区間の進出側の境界に接続されたATC送信器110からレールに送出させる(ステップA13)。以上の処理を行うと、ステップA1に戻り、同様の処理を繰り返す。
【0054】
(2)車上
図7は、車上装置において、照査速度パターン作成部220が行う照査速度パターン作成処理を説明するフローチャートである。
図7によれば、照査速度パターン作成部220は、レールから受信しているATC信号が変化したならば(ステップB1:YES)、次の区間に進入したと判断して、当該次の区間(現在区間)の照査速度パターンの作成・更新を行う。
【0055】
すなわち、先ず、受信したATC信号に含まれる連続可変フラグをもとに、現在区間が連続可変区間として指定されているか否かを判断する。連続可変区間であるならば(ステップB3:YES)、受信したATC信号に含まれる減速補正値(減速補正)をもとに、基準減速度を補正した減速度を決定する(ステップB5)。そして、直前の区間の終端における照査速度から、決定した減速度で減速させた照査速度パターンを作成する(ステップB7)。その後、作成した照査速度パターンに更新する(ステップB11)。
【0056】
一方、連続可変区間として指定されていないならば(ステップB3:NO)、受信したATC信号に含まれる許容速度(速度信号)を一定の照査速度とした照査速度パターンを作成する(ステップB9)。その後、作成した照査速度パターンに更新する(ステップB11)。以上の処理を行うと、ステップB1に戻り、同様の処理を繰り返す。
【0057】
[作用・効果]
このように、本実施形態によれば、地上装置100から、当該区間を「連続可変区間」とするか否かを指定する「連続可変フラグ」及び「減速補正(減速補正値)」を含むATC信号が、軌道回路に送出される。そして、車上装置200では、受信したATC信号に含まれる連続可変フラグによって該区間が連続可変区間として指定されているならば、その直前区間の終端での照査速度から、所定の基準減速度を、受信したATC信号に含まれる減速補正によって補正した減速度で減速する照査速度パターンを作成し、連続可変区間として指定されていない(一定区間である)ならば、受信したATC信号に含まれる許容速度(速度情報)を照査速度とした照査速度パターンを作成する。そして、作成した照査速度パターンに従った速度照査を行う。
【0058】
これにより、新たな閉そく区間に進入したとしても、その区間が連続可変区間であれば、照査速度が急激に低下すること(不連続)はない。そのため、急ブレーキの作動が大幅に減少し乗り心地が良くなるとともに、急ブレーキの作動に対する運転士の心理的不安が解消されて閉そく区間の進入手前での減速運転が大幅に減少し、駅間時分及び運転時隔の短縮が図れる。
【0059】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0060】
(1)
例えば、上述の実施形態では、車上装置200における照査速度パターンの作成・更新を1区間毎に行うことにしたが、複数区間まとめて行うことにしても良い。この場合、ある区間に送信されるATC信号として、該区間、及び、その進行方向に隣接する1又は複数区間についての、照査速度パターンの作成に必要な情報を含むように構成する。例えば、
図2に示した例では、区間16Tに送信されるATC信号として、該区間16T、及び、その内方の区間15Tの2つの区間についての情報を含むように構成すれば良い。
【0061】
図8は、照査速度パターンの作成・更新を複数区間まとめて行う場合に送信される電文の一例を示す図である。
図8に示すように、現在区間及び次区間の2つの区間それぞれについて、速度信号(許容速度)と、連続可変フラグと、減速補正(減速補正値)と、信号現示とを含むように構成される。
【0062】
(2)
また、上述の実施形態では、ATC信号として送出される電文(
図3参照)において、本実施形態の実現に必要なデータとして「連続可変フラグ」及び「減速補正」の2つが含まれると説明したが、「減速補正」を含めずに「連続可変フラグ」のみとしてもよい。この場合、基準減速度を、勾配や曲率に関わらず、必ず速度制限区間の終端(防護区間との境界)において所定速度(例えば、10km/h)以下となるように、最短の閉そく区間長に基づいて減速度を定めることが望ましい。「連続可変フラグ」のみとする場合には、本実施形態の実現に必要な追加ビット数は1ビットで済む。
【0063】
(3)
また、上述の実施形態では、ATC信号として送出される電文(
図3参照)における「減速補正」を、基準減速度に対する減速度の補正値としたが、これを、減速度そのもの(基準減速度を減速補正によって補正した後の減速度に相当)として設定しても良い。具体的には、基準減速度として複数種類用意し、何れの種類の減速度を適用するのかの情報(種類情報)を電文に含めることとする。例えば、3種類の減速度を用いるのであれば、“1”〜“3”を当該種類を示す情報及び「連続可変区間」を示す情報とし、“0”を「一定区間」を示す情報とした2ビットで済む。この場合、
図3の「連続可変フラグ」及び「減速補正」の両者を併せて2ビットとして「減速補正」は利用しないこととしても良いし、「連続可変フラグ」を2ビットとして「減速補正」を更に利用することとしても良い。なお、別の観点からいえば、「連続可変フラグ」及び「減速補正」の両者でもって、減速度の種類情報が表されているともいえる。
【0064】
(4)
また、閉そく区間設定テーブル130(
図4参照)における制限速度の項目を、外部入力によって変更可能としても良い。これにより、例えば、強風や事故発生等によって一時的な速度規制を設けた場合にも対応可能となり、制限速度が設定される結果、当該区間が「連続可変区間」とされることを防止できる。