【文献】
Bae,T.et al.,"Accession:NC_008617 REGION: 38847..39602[gi:118725053],Definition:Staphylococcus aureus phage phiNM3 provirus, complete genome.",NCBI Entrez Nucleotide[online];05-DEC-2006 uploaded,NCBI,[retrieved on 7 April 2014],Retrieved from the Internet:<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/118725053?sat=12&satkey=851685>
【文献】
Zou,D.et al.,"Accession:NC_002486 REGION: 39175..39930[gi:9635677],Definition:Staphylococcus prophage phiPV83, complete genome.",NCBI Entrez Nucleotide[online];01-OCT-2007 uploaded,NCBI,[retrieved on 8 April 2014],Retrieved from the Internet:<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/9635677?sat=12&satkey=7681180>
【文献】
FEMS Microbiol.Lett.,2008 Oct,287(1),p.22-33,Epub 2008 Jul 31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
本明細書で使用されるように、用語「断片」とは、第2ポリペプチドのアミノ酸配列のうち、少なくとも5連続アミノ酸残基、少なくとも10連続アミノ酸残基、少なくとも15連続アミノ酸残基、少なくとも20連続アミノ酸残基、少なくとも25連続アミノ酸残基、少なくとも40連続アミノ酸残基、少なくとも50連続アミノ酸残基、少なくとも60連続アミノ酸残基、少なくとも70連続アミノ酸残基、少なくとも連続80アミノ酸残基、少なくとも連続90アミノ酸残基、少なくとも連続100アミノ酸残基、少なくとも連続125アミノ酸残基、少なくとも150連続アミノ酸残基、少なくとも連続175アミノ酸残基、少なくとも連続200アミノ酸残基のアミノ酸配列を含むペプチド又はポリペプチドのことである。特定の実施形態では、断片は、第2ポリペプチドの少なくとも1つの機能(例えば、抗菌活性若しくは抗生物質活性;又はターゲティング活性)を保持している点で機能的断片である。
【0029】
本明細書で使用されるように、ペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質という文脈における用語「単離された」とは、それが由来する細胞若しくは組織供給源由来の細胞物質若しくは夾雑タンパク質が実質的にない、又は化学的に合成される場合、化学的前駆物質若しくは他の化学物質が実質的にないペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質のことである。用語「細胞物質が実質的にない」は、ペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質が、それが単離された又は組換えによって産生された元の細胞の細胞成分から分離されているペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質の調製物を含む。したがって、細胞物質が実質的にないペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質は、約30%、20%、10%、又は5%(乾燥重量で)未満の異種タンパク質(本明細書では「夾雑タンパク質(contaminating protein)」とも呼ばれる)を有するペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質の調製物を含む。ペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質が組換えによって産生される場合、ペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質は好ましくは培養培地も実質的にない、すなわち、培養培地はタンパク質調製物の容積の約20%、10%、又は5%未満を表す。ペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質が化学合成により生成される場合、ペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質は好ましくは化学的前駆物質若しくは他の化学物質が実質的にない、すなわちペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質は、ペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質の合成に関与する化学的前駆物質若しくは他の化学物質から分離されている。したがって、ペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質のそのような調製物は、所望のペプチド、ポリペプチド又は融合タンパク質以外の約30%、20%、10%、又は5%(乾燥重量で)未満の化学的前駆物質若しくは化合物を有する。
【0030】
本明細書で使用されるように、核酸分子という文脈における用語「単離された」とは、第1核酸分子の天然の供給源に存在する他の核酸分子から分離されている第1核酸分子のことである。さらに、cDNA分子等の「単離された」核酸分子は、組換え技法により産生される場合は他の細胞物質若しくは培養培地が実質的にない、又は化学的に合成される場合は化学的前駆物質若しくは他の化学物質が実質的になく、例えば、核酸ライブラリー中の他のクローンから単離されている場合にはcDNA若しくは他のゲノムDNA分子がないこともある。
【0031】
用語「精製された」は、溶解素又はキメラ溶解素構築物が、それにより溶解素又はキメラ溶解素構築物の調製に関与する前駆物質又は他の化学物質等の不純物質を部分的に、実質的に、又は完全に取り除くカラムクロマトグラフィー、HPLC、沈殿、電気泳動、等を含むがこれらに限定されない任意の精製工程によって測定可能な程度に濃度が増加していることを意味する。当業者であれば、所与の使用に必要な精製量は認識されるであろう。例えば、ヒトへの投与用である治療組成物における使用を目的とする単離されたタンパク質は、通常、規制基準に従って高純度(例えば、実験用の単離されたタンパク質よりも高純度)でなければならない。
【0032】
本明細書で使用されるように、ポリペプチドという文脈における用語「誘導体」とは、アミノ酸残基置換、欠失又は付加の導入により改変されているアミノ酸配列を含むポリペプチドのことである。本明細書において使用される用語「誘導体」とは、修飾されている、すなわちポリペプチドへ任意の種類の分子が共有結合されているポリペプチドのことでもある。例えば、限定のためではないが、ポリペプチドは、例えば、グリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、既知の保護/遮断基による誘導体化、タンパク質切断、細胞リガンド又は他のタンパク質への連結、等により修飾されていてよい。誘導体ポリペプチドは、特異的な化学的切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの代謝合成、等を含むがこれらに限定されない当業者には既知の技法を使用する化学的修飾により作製され得る。さらに、誘導体ポリペプチドは、1又は2以上の非古典的アミノ酸を含有し得る。ポリペプチド誘導体は、それが誘導された元のポリペプチドに類似の若しくは同一の機能を有し得る、又はポリペプチド誘導体は改良された機能を有し得る。生物に「由来する」ポリペプチドに関して使用される用語「由来する」とは、直接前記生物(例えば、細菌細胞又はファージ)からポリペプチドを単離することであってもよい。
【0033】
本明細書で使用されるように、用語「キメラ」とは、2又は3以上の異種供給源に由来する構築物のことである。例えば、キメラ遺伝子又はキメラ核酸は、第1核酸と第2核酸が異なる種類のバクテリオファージを原産とする、第2核酸由来の配列と組み合わせた第1核酸由来の配列を含むことが可能である。各核酸由来の配列は、典型的には、それぞれコードされたポリペプチドの機能ドメインに対するコード配列に対応する。異種核酸配列は、例えば、適切な条件下でそこから発現させることが可能な融合タンパク質又はキメラポリペプチドをコードするように、組換え法により、インフレームに組み合わせ得る。キメラポリペプチドは、操作して、2若しくは3以上の天然タンパク質の完全配列、又はいずれかの部分のみを含むことが可能である。キメラポリペプチドは、通常、元のタンパク質それぞれ由来の機能性を、得られるキメラポリペプチドに分け与えるように作製される。タンパク質機能ドメインは通常モジュラーであり、したがって触媒ドメイン等の所与のドメインをなすポリペプチドの線形部分は、その酵素機能を破壊することなくタンパク質の残りの部分から取り除き得るという事実によって、融合タンパク質の二重(又は高次)機能性は実現可能になる。2又は3以上の異なる溶解素遺伝子又はポリペプチド由来の配列を含むキメラ核酸又はキメラポリペプチドは、「キメラ溶解素(chymeric lysin)」又は「キメラ溶解素構築物(chymeric lysine construct)」と呼ぶことができる。
【0034】
本明細書で使用されるように、用語「宿主細胞」とは、核酸分子でトランスフェクトされた特定の対象細胞及びそのような細胞の子孫又は潜在的な子孫のことである。そのような細胞の子孫は、後続世代において生じ得る変異体若しくは環境の影響、又は核酸分子の宿主細胞ゲノムへの組込みのために、核酸分子でトランスフェクトされた親細胞と同一でなくてもよい。
【0035】
本明細書で使用されるように、用語「組み合わせて」とは、1より多い予防薬及び/又は治療薬の使用のことである。用語「組み合わせて」の使用は、予防薬及び/又は治療薬が疾病又は障害を抱える対象に投与される順番を制限しない。第1の予防薬又は治療薬は、第2の予防薬又は治療薬(第1の予防薬又は治療薬とは異なる)の投与に先立って(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、若しくは12週間前に)、と同時に、又は続いて(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、若しくは12週間後に)疾病又は障害を抱える対象に投与することが可能である。
【0036】
本明細書で使用されるように、用語「核酸」及び「ヌクレオチド配列」は、DNA分子(例えば、cDNA若しくはゲノムDNA)、RNA分子(例えば、mRNA)、DNAとRNA分子の組合せ、キメラDNA及びRNA分子、又はハイブリッドDNA/RNA分子並びにDNA若しくはRNA分子のアナログを含む。そのようなアナログは、例えば、イノシン又はトリチル化塩基を含むがこれらに限定されないヌクレオチドアナログを使用して作製することができる。そのようなアナログは、例えば、ヌクレアーゼ耐性又は細胞膜を通過する増加した能力等の有利な属性を分子に与える修飾された骨格を含むDNA又はRNA分子を含むことも可能である。核酸又はヌクレオチド配列は、一本鎖、二本鎖であることが可能であり、一本鎖と二本鎖部分の両方を含有してもよく、三本鎖部分を含有していてもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0037】
本明細書で使用されるように、用語「予防薬(単数)」及び「予防薬(複数)」とは、グラム陽性菌による感染に付随する1又は2以上の症状を予防する、治療する、管理する又は寛解するのに使用可能な本発明のポリペプチドのことである。
【0038】
本明細書で使用されるように、用語「治療薬(単数)」及び「治療薬(複数)」とは、疾病若しくは障害の1若しくは2以上の症状、又は疾病若しくは障害の根本原因(例えば、細菌による感染)を予防する、治療する、管理する又は寛解するのに使用可能な本発明のポリペプチドのことである。
【0039】
本明細書で使用されるように、用語「治療有効量」とは、対象の疾病若しくは障害(例えば、グラム陽性菌による感染に付随する疾病若しくは障害)の1若しくは2以上の症状を寛解する、又は前記対象の全細菌負荷を減少させるのに十分な量の治療薬のことである。
【0040】
本明細書で使用されるように、用語「治療する(treat)」、「治療(treatment)」及び「治療すること(treating)」とは、グラム陽性菌による感染に付随する1若しくは2以上の症状を寛解すること、又は本発明の1若しくは2以上のポリペプチドの投与から生じる全細菌負荷を減少することである。
【0041】
用語「抗生物質活性」とは、微生物を死滅させる及び/又は微生物の増殖若しくは繁殖を阻害する能力のことであり、「抗菌活性」と互換的に使用することが可能である。ある種の実施形態では、抗生物質活性又は抗菌活性は、標準技法に従って(例えば、液体培地中において又は寒天プレート上で)グラム陽性菌を培養し、培養物を本発明のポリペプチドに接触させ、前記接触後の細胞増殖をモニターすることにより評価される。例えば、液体培地では、細菌、例えば、黄色ブドウ球菌は、培養物の指数関数的増殖の中間点を表す光学密度(「OD」)まで増殖させてよく、培養物は本発明の1又は2以上のポリペプチドの1又は2以上の濃度に曝され、ODは対照培養物に比べてモニターされる。対照培養物に比べて減少したODは、ポリペプチドが抗生物質活性を示している(例えば、溶菌死滅活性を示している)ことを表している。同様に、細菌コロニーを寒天プレート上に形成させ、プレートを本発明のポリペプチドに曝し、それに続くコロニーの増殖を対照プレートとの関連で評価することが可能である。コロニーのサイズが減少する、又はコロニーの総数が減少すればポリペプチドが抗生物質活性を有することを示している。抗生物質活性又は抗菌活性を有する溶解素ポリペプチドの断片、バリアント、又は誘導体とは、宿主細菌細胞死をもたらす触媒能力を有する断片、又はそのような触媒能力の他にも下で定義される宿主に対するターゲティング活性を有する断片のことである。
【0042】
用語「ターゲティング活性」とは、抗生物質活性又は抗菌活性等の触媒活性を所与の細菌宿主細胞に向ける溶解素ポリペプチドの能力のことである。ターゲティング活性はポリペプチドの特定の領域又はドメインに関連していてよく、例えば、第1宿主種産の第1溶解素ポリペプチドのターゲティングドメインを含むキメラ構築物は、キメラ構築物の抗生物質活性等の触媒活性を、第1宿主種の細菌細胞に向けることができる。本明細書で使用されるように、特定の宿主細胞又は細菌種に「向けた」ターゲティング活性は、宿主細胞又は細菌種「への」又は「に対する」ターゲティング活性という関連する表現と互換的に使用される。
【0043】
一般に、ファージF87s/06から単離される断片、バリアント、又は誘導体に関しては、「抗菌活性」又は「抗生物質活性」とは、両方の機能性、すなわち、グラム陽性菌、例えば、ファージF87s/06の生来の宿主である黄色ブドウ球菌の細胞死をもたらす触媒及びターゲティング活性のことである。ファージF170/08又はF168/08から単離される溶解素ポリペプチドの断片、バリアント、又は誘導体に関しては、「抗菌活性」又は「抗生物質活性」とは、例えば、前記断片が他の方法で宿主細胞に標的される場合、宿主細胞死をもたらす触媒活性のみのことである。
【0044】
一態様では、本発明は、グラム陽性菌に感染するファージから単離されるポリペプチドを対象とする。前記ポリペプチドは、黄色ブドウ球菌の1又は2以上の株に対して抗菌(例えば、溶菌)及び/又はターゲティング活性を有する。一実施形態では、黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性株(MRSA)に対して抗菌活性及び/又はターゲティング活性を示すポリペプチドが提供される。さらに、表皮ブドウ球菌、スタフィロコッカス・アウリクラーリス、スタフィロコッカス・キャピティス、スタフィロコッカス・ヘモリチカス、スタフィロコッカス・ホミニス、スタフィロコッカス・サプロフィチカス、スタフィロコッカス・シミュランス、スタフィロコッカス・キシロシス、ミクロコッカス・ルテウス、枯草菌、バチルス・プミルス、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・ヒラエ、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・アビウム等の1又は2以上の細菌性病原体に対して抗菌活性及び/又はターゲティング活性を有するポリペプチドが本明細書では提供される。
【0045】
好ましくは、本発明のポリペプチドは、宿主黄色ブドウ球菌に感染するバクテリオファージF87s/06から単離される。一実施形態では、ポリペプチドは、そのポリペプチドが黄色ブドウ球菌に対して抗生物質活性及び/又はターゲティング活性を示す、配列番号2と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、95%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超える配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。本明細書で開示されるポリペプチド配列に関する配列同一性は、本発明のアミノ酸配列と同じ長さの(すなわち、同数の残基からなる)候補配列において同一であるアミノ酸残基の割合として定義される。本発明は、抗菌活性及び/又はターゲティング活性を保持している配列番号2のバリアント、誘導体及び/又は断片も包含する。
【0046】
別の態様では、本発明は、融合タンパク質又はキメラポリペプチドを作製するために、治療薬、例えば、小分子又は異種ポリペプチドと組換えによって融合された又は化学的にコンジュゲートされた(共有結合的と非共有結合的コンジュゲーションの両方を含む)本発明の単離されたポリペプチドを対象とする。融合は必ずしも直接的である必要はなく、リンカー配列を通して又は化学的コンジュゲーションを通じて生じてもよい。本発明のポリペプチドがコンジュゲートされ得る治療薬の非限定的例には、ペプチド又は非ペプチド細胞毒(抗菌薬及び/又は抗生物質を含む)、トレーサー/マーカー分子(例えば、放射性核種及びフルオロフォア)並びに当技術分野で既知の他の抗生物質化合物が挙げられる。
【0047】
特定の実施形態では、本発明は、ファージF87s/06から単離されたポリペプチドの少なくとも1つのドメイン、又はその断片が、異種タンパク質の少なくとも1つのドメインで置換されているキメラポリペプチドを対象とする。好ましいキメラ構築物は、ファージF87s/06から単離された溶解素(Lys87)の触媒ドメインを、エンテロコッカス種の宿主に感染するファージF170/08又はF168/08から単離された溶解素(Lys170又はLys168)の対応するドメインを用いた置換を含む。得られたキメラ溶解素構築物は、それぞれLys170−87及びLys168−87と改名される。好ましくは、Lys170−87はLys87のターゲティングドメイン及びLys170の触媒ドメインを含み、Lys168−8はLys87のターゲティングドメイン及びLys168の触媒ドメインを含む。Lys87のターゲティングドメインは、溶解素ポリペプチドの細胞壁結合ドメインに対応することが可能である。本明細書で使用される「ターゲティングドメイン」とは、溶解素ポリペプチドを宿主細胞、例えば、黄色ブドウ球菌に向け、それによって宿主細胞への溶菌作用を促進することができる溶解素ポリペプチドの機能ドメインのことである。本明細書で使用されるように、「溶解素(lysin)」は「エンドリシン」と互換的に使用される。
【0048】
一実施形態では、キメラポリペプチドLys170−87及びLys168−87は、そのキメラポリペプチドが黄色ブドウ球菌に対して抗生物質活性又は抗菌活性を示す、それぞれ配列番号4又は配列番号6と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、95%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれを超える配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、そのキメラポリペプチドは黄色ブドウ球菌に対して抗生物質活性又は抗菌活性を示す。本明細書で開示されるキメラポリペプチド配列に関する配列同一性も、本発明のアミノ酸配列と同一の長さの(すなわち、同数の残基からなる)候補配列において同一であるアミノ酸残基の割合として定義される。本発明は、抗菌活性及び/又は抗生物質活性を保持している配列番号4及び配列番号6のバリアント、誘導体及び/又は断片も包含する。特に好ましい実施形態では、キメラポリペプチド並びにそのバリアント、誘導体及び/又は断片は、増加した溶解性、収率、安定性及び/又は溶解性能の点でLys87の特性を改良する。
【0049】
抗生物質組成物
本発明の単離された及びキメラポリペプチドは、黄色ブドウ球菌を含むグラム陽性菌により引き起こされる細菌感染の治療及び予防において使用するため、単独で投与してもよいし医薬組成物に組み込まれてもよい。そのような実施形態では、医薬組成物は抗生物質組成物であり得る。ポリペプチドは、薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定化剤と組み合わせてもよい。薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定化剤の例には、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸等の緩衝液;アスコルビン酸を含む抗酸化剤;低分子量ポリペプチド;血清アルブミン及びゼラチン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、若しくはリシン等のアミノ酸;グルコース、マントース若しくはデキストリンを含む単糖類、二糖類及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール若しくはソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;並びに/又は当技術分野で既知のTWEEN(商標)、ポリエチレングリコール(PEG)及びPLURONICS(商標)等の非イオン性界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の医薬組成物(例えば、抗生物質組成物)は、上記成分に加えて、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、及び保存剤も含むことが可能である。
【0050】
本発明のポリペプチドは、グラム陽性菌による感染の治療に有用な1又は2以上の治療薬及び/又は予防薬(例えば、当技術分野で既知の1又は2以上の抗生物質及び/又は溶解素)と組み合わせてもよい。本発明のポリペプチドと組み合わせて使用し得る治療薬は、標準抗菌薬、抗炎症薬、及び抗ウイルス薬を含む。
【0051】
本発明のポリペプチドを含む医薬組成物と一緒に使用し得る標準抗生物質には、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、アプラマイシン、リファマイシン、ナフトマイシン、ゲルダナマイシン、アンサマイトシン、カルバセフェム、イミペネム、メロペネム、エルタペネム、ファロペネム、ドリペネム、パニペネム/ベタミプロン、ビアペネム、PZ−601、セファロスポリン、セファセトリル、セファドロキシル、セファレキシン、セファログ溶解素、セファロニウム、セファロリジン、セファロチン、セファピリン、セファトリジン、セファザフル、セファゼドン、セファゾリン、セフラジン、セフロキサジン、セフテゾール、セファクロル、セフォニシド、セフプロジル、セフロキシム、セフゾナム、セフメタゾール、セフォテタン、セフォキシチン、セフカペン、セフダロキシム、セフジニル、セフジトレン、セフェタメト、セフィキシム、セフメノキシム、セフテラム、セフチブテン、セフチオフル、セフチオレン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフォペラゾン、セフタジジム、ラタモキセフ、セフクリジン、セフェピム、セフルプレナム、セフォセリス、セフォゾプラン、セフピロム、セフキノム、フロモキセフ、セフトビプロール、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、アズトレオナム、ペニシリン及びペニシリン誘導体、アクチノマイシン、バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB、シノキサシン、フルメキン、ナリジクス酸、オキソリニン酸、ピロミド酸、ピペミド酸、ロソクサシン、シプロフロキサシン、エノキサシン、フレロキサシン、ロメフロキサシン、ナジフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、ペフロキサシン、ルフロキサシン、バロフロキサシン、ガチフロキサシン、グレパフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、パズフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、トスフロキサシン、クリナフロキサシン、ガレノキサシン、ゲミフロキサシン、スチフロキサシン(stifloxacin)、トロバルフロキサシン(trovalfloxacin)、プルリフロキサシン、アセタゾラミド、ベンゾラミド、ブメタニド、セレコキシブ、クロルタリドン、クロパミド、ジクロフェナミド、ドルゾラミド、エトキシゾラミド、フロセミド、ヒドロクロロチアジド、インダパミド、マフェンダイド(mafendide)、メフルシド、メトラゾン、プロベネシド、スルファセタミド、スルファジメトキシン、スルファドキシン、スルファニルアミド、スルファメトキサゾール、スルファサラジン、スルチアム、スマトリプタン、キシパミド、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリン、リメサイクリン、メクロサイクリン、メタサイクリン、ミノサイクリン、ロリテトラサイクリン並びのその任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されない。ある種の実施形態では、本発明の1又は2以上のポリペプチドと当技術分野で既知の1又は2以上の抗生物質の組合せは、所与の感染症に対する本発明のポリペプチドの治療効果を(例えば、相加的に又は相乗的に)増強し得る。
【0052】
本発明のキメラポリペプチドは、異種溶解素が組換えによって融合されている、好ましくは、ファージF87s/06から単離される溶解素の触媒ドメインが、ファージF170/08又はF168/08のどちらか由来の溶解素の触媒ドメインで置換されている組合せを含んでいる。好ましくは、溶解素構築物は、ファージF87s/06由来の溶解素のターゲティングドメイン及びエンテロコッカス種に自然に感染するファージF170/08又はF168/08由来の溶解素由来の触媒ドメインを含む。理論に縛られたくはないが、本発明に従ったキメラ構築物は、ファージF87s/06溶解素ターゲティングドメインに基づいて、ファージF87s/06の天然宿主である黄色ブドウ球菌を含むグラム陽性菌を標的にし、それからファージF170/08又はF168/08触媒ドメインが宿主細胞壁を破壊して、溶解し細胞死が起こると考えられている。すなわち、前記構築物は、エンテロコッカス属という一種に自然に作用する溶解素に、黄色ブドウ球菌等の他の種に対して抗菌作用を発揮させる。したがって、本発明は、本発明の目的に従って種交差反応性を可能にするキメラ溶解素構築物を提供する。いくつかの特に好ましい実施形態では、この交差反応性は、Lys87の溶菌活性と比べて、黄色ブドウ球菌を含むある種のグラム陽性菌に対するキメラポリペプチドの溶解性能を改良する働きをする。
【0053】
本発明のポリペプチドは、バクテリオファージF87s/06以外の並びに/又はバクテリオファージF170/08及びF168/08以外のバクテリオファージから単離される1又は2以上の溶解素と組み合わせてもよい。溶解素は、一般に、アミダーゼ、エンドペプチダーゼ、ムラミダーゼ又はグルコサミニダーゼ活性のいずれかを有する。したがって、溶解素、特に異なる酵素活性の溶解素の組合せは、本発明により企図されている。
【0054】
医薬組成物は、吸入により、坐薬若しくはペッサリーの形態で、局所的に(例えば、ローション、溶液、クリーム、軟膏、若しくは散布剤として)、上皮に(例えば、皮膚パッチを使用して)、経口的に(例えば、香味料若しくは着色料及び/又は賦形剤を含有していてもよい、錠剤(例えば、デンプン若しくはラクトース等の賦形剤を含有する)、カプセル、オビュール(ovule)、エリキシル、溶液若しくは懸濁液として)投与することが可能であり、又は医薬組成物は、非経口的に、例えば、静脈内に、筋肉内に、若しくは皮下に注射することが可能である。非経口的投与では、組成物は、他の物質、例えば、血液と等張の溶液を作製するのに十分な塩分又は単糖類を含有し得る無菌水溶液の形態で使用するのがもっともよい。頬側又は舌下投与では、組成物は、従来の方法で処方することが可能な錠剤又はトローチの形態で投与し得る。
【0055】
皮膚への局所的適用では、本発明のポリペプチドは、水溶液、アルコールベース溶液、水溶性ゲル、ローション、軟膏、非水溶液ベース、ミネラルオイルベース、ミネラルオイルとワセリンの混合物、ラノリン、リポソーム、血清アルブミン又はゼラチン等のタンパク質担体、粉末セルロースカーメル、及びその組合せを含むがこれらに限定されない担体の1つ又は組合せと組み合わせ得る。局所的送達様式は、塗抹、噴霧、徐放性パッチ、液体吸収ワイプ、及びその組合せを含み得る。本発明のポリペプチドは、パッチに直接又は担体の1つ中でのどちらかで塗布し得る。パッチは湿気があっても乾燥していてもよく、溶解素又はキメラ溶解素がパッチ上で凍結乾燥形態である。局所的組成物の担体は、ポリマー増粘剤、水、保存剤、活性界面活性剤、又は乳化剤、抗酸化剤、日焼け止め、及び溶剤又は混合溶剤系を含む半流動性又はゲル状媒体を含み得る。米国特許第5863560号明細書は、皮膚を薬物に曝露するのに役立つことが可能であるいくつかの異なる担体組合せを開示している。
【0056】
示されるように、本発明の治療薬は、鼻腔内に又は吸入により投与することが可能であり、適切な噴霧剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロテトラフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA 134A.TM.)若しくは1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA 227EA.TM.)等のハイドロフルオロアルカン、二酸化炭素又は他の適切な気体を使用して、圧縮容器、ポンプ、スプレー又はネブライザーから乾燥粉末吸入器又はエアゾールスプレー提示の形態で都合よく送達される。圧縮エアゾールの場合では、投薬単位は、計量された量を送達するバルブを提供することにより決定し得る。圧縮容器、ポンプ、スプレー又はネブライザーは、例えば、溶剤としてエタノールと噴霧剤の混合物を使用して、活性化合物の溶液又は懸濁液を含有していてもよく、この溶液又は懸濁液は潤滑剤、例えば、ソルビタントトリオレイン酸をさらに含有し得る。吸入器又は散布器で使用するためのカプセル及び薬包(例えば、ゼラチンから作製される)は、薬剤の粉末混合物及びラクトース又はデンプン等の適切な粉末ベースを含有するように処方し得る。
【0057】
坐薬又はペッサリーの形態での投与では、治療組成物は、ゲル、ハイドロゲル、ローション、溶液、クリーム、軟膏又は散布剤の形態で局所的に適用し得る。本発明の治療薬は、例えば、皮膚パッチを使用して、経皮的に投与してもよい。本発明の治療薬は、肺経路又は直腸経路により投与してもよい。本発明の治療薬は、眼経路により投与してもよい。点眼使用では、化合物は、等張、pH調整、無菌食塩水の微粒子化懸濁液として、又は好ましくは、等張、pH調整、無菌食塩水の、塩化ベンジルアルコニウム(benzylalkonium chloride)等の保存剤と組み合わせてもよい溶液として処方することが可能である。代わりに、本発明の治療薬は、ワセリン等の軟膏で処方してもよい。
【0058】
錠剤形での投与では、錠剤は、微結晶セルロース、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム及びグリシン等の賦形剤、デンプン(好ましくは、トウモロコシ、ジャガイモ若しくはタピオカデンプン)、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム及びある種の複合ケイ酸塩等の崩壊剤、並びにポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropylmethylcellulose、HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(hydroxypropylcellulose、HPC)、ショ糖、ゼラチン及びアカシア等の造粒結合剤を含有し得る。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル及びタルク等の潤滑剤が含まれていてよい。
【0059】
本発明の医薬組成物の投与量及び所望の薬物濃度は、特定の用途に応じて変わり得る。適切な投与量及び投与経路の決定は十分に普通の医者の技量の範囲内である。動物実験は、ヒト治療における効果的用量の決定に信頼性のある指針を提供することが可能である。効果的用量の種間スケーリングは、当業者であればMordenti, J. and Chappell, W., "The use of interspecies scaling in toxicokinetics" in Toxicokinetics and New Drug Development, Yacobi et al., Eds., Pergamon Press, New York 1989, pp42-96(前記文献はこれによりその全体を参照により組み込まれているものとする)に記載されている原則に従って実施することが可能である。
【0060】
治療的使用
本発明のポリペプチドは、黄色ブドウ球菌を含む、及び黄色ブドウ球菌の多くのメチシリン耐性株を含むいくつかのグラム陽性菌に対して抗生物質活性を有する。したがって、本発明のポリペプチドは、それがヒトと動物の両方において溶菌活性(例えば、抗生物質活性又は抗菌活性)を有している対象となる細菌に関連する感染症を治療する方法において使用し得る。一実施形態では、本発明の組成物を使用して、以下の黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、スタフィロコッカス・アウリクラーリス、スタフィロコッカス・キャピティス、スタフィロコッカス・ヘモリチカス、スタフィロコッカス・ホミニス、スタフィロコッカス・サプロフィチカス、スタフィロコッカス・シミュランス、スタフィロコッカス・キシロシス、ミクロコッカス・ルテウス、枯草菌、バチルス・プミルス、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・ヒラエ、及びエンテロコッカス・フェシウムのうちの1又は2以上により引き起こされる感染症を治療し得る。ある種の実施形態では、本発明のポリペプチドは、グラム陰性菌又はグラム陽性にもグラム陰性にも分類されない細菌に対しても抗生物質活性又は抗菌活性(例えば、溶菌死滅活性)を示し得る。そのような実施形態では、本発明のポリペプチドを使用して、非グラム陽性菌に関連する感染症を治療する又は管理し得る。
【0061】
本発明の医薬組成物を用いて治療し得るグラム陽性菌の感染により引き起こされる疾病の例には、術後眼内炎、心内膜炎、中枢神経系の感染症、創傷感染症(例えば、糖尿病性足部潰瘍)、肺炎、骨髄炎、敗血症、乳腺症及び髄膜炎が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
殺菌及び抗感染使用
ほぼすべての細菌病原体が粘膜部位で感染する(上部及び下部気道、腸、泌尿生殖器並びに眼球)。粘膜自体は、多くの場合、病原巣であり、環境中に存在する多くの病原性細菌(例えば、肺炎球菌、ブドウ球菌及び連鎖球菌)の唯一の病原巣であることもある。病原性細菌の保菌状態を制御するよう設計されている抗感染薬はほとんどない。しかし、病院及び養護施設等の環境においてこの病原巣を減少させる又は除去することにより、これらの細菌による感染症の発生は著しく減少することが研究により示されている。
【0063】
本発明のポリペプチドは、重篤な感染症の発生を予防する又は軽減するために、黄色ブドウ球菌を含むグラム陽性菌を制御するための抗感染組成物で使用し得る。粘膜への適用のための組成物での使用に加えて、本発明の溶解素又は溶解素構築物は、皮膚及び他の固体表面上でのグラム陽性菌のコロニー化を制御するためのスプレー又は軟膏等の製剤に組み込んでもよい。
【0064】
診断法
本発明は、細菌感染における原因病原体を決定するための診断法も包含する。一実施形態では、前記方法は、細菌感染症から単離される細菌を培養し、本発明の抗菌ペプチドに対する感受性を測定することを含み、前記ポリペプチドに対する感受性がグラム陽性菌の存在を示し、感受性の欠如が非応答細菌(例えば、非応答グラム陰性菌又は非応答グラム陽性菌)の存在を示す。
【0065】
アミノ酸バリアント
本発明は、バクテリオファージF87s/06から単離される溶解素ポリペプチドのバリアン又はその活性断片若しくは誘導体も包含する。ある種の実施形態では、本発明は、配列番号2のアミノ酸配列バリアント、又はその活性断片若しくは誘導体を包含する。本発明のポリペプチドのアミノ酸配列バリアントは、それが置換の、挿入の又は欠失バリアントであるように作製することが可能である。欠失バリアントは、機能(例えば、抗菌活性及び/又はターゲティング活性)に不可欠ではない天然のタンパク質の1又は2以上の残基を欠く。挿入変異体は、典型的には、ポリペプチドの非末端点での物質の付加を含む。置換バリアントは、典型的には、タンパク質内の1又は2以上の部位での一アミノ酸の別のアミノ酸との交換を含み、他の機能又は特性を喪失することなく、タンパク質分解的切断に対する安定性等のポリペプチドの1又は2以上の特性を調節するように設計し得る。この種の置換は、好ましくは、保存的であり、すなわち、一アミノ酸は類似の形状及び電荷のアミノ酸で置き換えられる。保存的置換は当技術分野では公知であり、例えば、アラニンからセリンへの;アルギニンからリシンへの;アスパラギンからグルタミン又はヒスチジンへの;アスパラギン酸からグルタミン酸への;システインからセリンへの;グルタミンからアスパラギンへの;グルタミンからアスパラギン酸への、グリシンからプロリンへの;ヒスチジンからアスパラギン又はグルタミンへの;イソロイシンからロイシン又はバリンへの;ロイシンからバリン又はイソロイシンへの;リシンからアルギニンへの;メチオニンからロイシン又はイソロイシンへの;フェニルアラニンからチロシンへの;ロイシンからメチオニンへの;セリンからスレオニンへの;スレオニンからセリンへの;トリプトファンからチロシンへの;チロシンからトリプトファン又はフェニルアラニンへの;及びバリンからイソロイシン又はロイシンへの変化を含む。
【0066】
本明細書に記載されるように、遺伝子の通常領域が、特定の溶解素タンパク質、又は活性断片をコードしているとして同定されると、点変異誘発を用いて特にどのアミノ酸残基が抗生物質活性に重要であるかを同定し得る。したがって、当業者であれば、DNA鎖に単一塩基変化を生み出して改変されたコドン及びミスセンス変異を生じることができるであろう。
【0067】
好ましくは、タンパク質のアミノ酸の変異は、等価の、又は改良された第二世代の分子でさえ作り出す。例えば、ある種のアミノ酸は、機能(例えば、抗菌活性及び/又はターゲティング活性)の検出可能な喪失なしにタンパク質構造において他のアミノ酸で置換され得る。そのような変化をもたらす際に、アミノ酸の疎水性親水性指標を考慮し得る。タンパク質に相互作用的生物学的機能を与える際の疎水性親水性アミノ酸指標の重要性は、一般に当技術分野で理解されている。アミノ酸の相対的疎水性親水性特徴は、結果として生じるタンパク質の二次構造に寄与し、次にこの二次構造が前記タンパク質と他の分子との相互作用、例えば、グラム陽性菌の外皮内でのペプチドグリカンとの相互作用を規定することが認められている。各アミノ酸は、その疎水性及び電荷特徴に基づいて疎水性親水性指標を割り当てられており、例えば、イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リシン(−3.9);及びアルギニン(−4.5)である。類似のアミノ酸の置換は、親水性に基づいて効果的に行うことが可能であることも当技術分野では理解されている。疎水性と同様に、親水性の値が各アミノ酸に割り当てられており、アルギニン(+3.0);リシン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0+1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5)及びトリプトファン(−3.4)である。等価な分子は、その親水性指標が、互いに±2、好ましくは±1、又はもっとも好ましくは±5以内である一アミノ酸の別のアミノ酸との置換により入手し得る。
【0068】
キメラ構築物
本発明は、キメラポリペプチドがグラム陽性菌、例えば、黄色ブドウ球菌に対して抗生物質活性を示す、バクテリオファージF87s/06由来のキメラポリペプチドも包含する。キメラポリペプチドは、異種溶解素と組換えによって融合される、ファージF87s/06から単離される溶解素、又はその断片若しくはバリアント由来でもよい。特定の実施形態では、本発明は、ファージF87s/06から単離される溶解素、又はその断片若しくはバリアントの少なくとも1つのドメインが、異種溶解素、又はその断片若しくはバリアントの少なくとも1つのドメインで置換されているキメラポリペプチドを対象とする。好ましいキメラ構築物は、黄色ブドウ球菌に対して抗菌活性又は抗生物質活性を有する、ファージF170/08又はF168/08(Lys170又はLys168)のどちらかから単離される溶解素の対応する触媒ドメインによるファージF87s/06から単離される溶解素(Lys87)の触媒ドメインの置換を含む。さらに好ましくは、キメラ溶解素は、Lys170の又はLys168の触媒ドメインと組換えによって融合されたLys87のターゲティングドメインを含む。
【0069】
ある種の実施形態では、キメラポリペプチドは、配列番号4若しくは配列番号6のアミノ酸配列、又は黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性若しくは抗生物質活性を有するどちらかの断片を含む。他の実施形態では、キメラポリペプチドは、断片、バリアント又は誘導体がグラム陽性菌、例えば、黄色ブドウ球菌に対する抗生物質活性又は抗菌活性を有する、配列番号4又は6の断片、バリアント又は誘導体を含む。本発明のキメラポリペプチドのアミノ酸配列バリアントは、本発明の単離されたポリペプチドに関して上記の通りに、例えば、置換、挿入、欠失等により、好ましくは改良された第2(又は第3又はそれ以上の)世代分子をさらに生み出すように、作製することが可能である。特に好ましい実施形態では、キメラポリペプチド並びにそのバリアント、誘導体及び/又は断片は、天然の単離されたポリペプチドと比べて、増加した溶解性、収率、安定性及び/又は溶解性能に関して改良された特性を示す。
【0070】
組合せ療法
本発明は、本発明の1又は2以上のポリペプチド及び1又は2以上の異なる予防薬又は治療薬を含む組成物、並びに前記組成物のうちの1又は2以上を対象に投与することを含む、それを必要とする対象における細菌感染の治療のための方法(例えば、グラム陽性菌による感染症に付随する1若しくは2以上の症状の発症を予防し、治療し、遅延させる、グラム陽性菌による感染症に付随する1若しくは2以上の症状の進行を遅らせる、又はグラム陽性菌による感染症に付随する1若しくは2以上の症状を寛解させる)をさらに提供する。治療薬又は予防薬には、ペプチド、ポリペプチド、融合タンパク質、核酸分子、小分子、模倣薬、合成薬、無機分子、及び有機分子が挙げられるが、これらに限定されない。グラム陽性菌による感染の予防若しくは治療のために又はグラム陽性菌による感染症に付随する1若しくは2以上の症状の予防、治療又は寛解のために有用であることが知られている、又はこれまで使用されてきた若しくは現在使用されているどの薬物も、本明細書に記載される本発明に従って、抗生物質又は抗菌性ポリペプチドと組み合わせて使用することが可能である。
【0071】
ある種の実施形態では、「組み合わせて」とは、本発明の単離されたポリペプチドが上記の通りに別のポリペプチドに共有的に又は非共有的に結合されている、融合タンパク質又はキメラポリペプチドの使用のことである。好ましい融合タンパク質には、腸内菌種ファージ由来のLys170又はLys168等の1又は2以上の異種溶解素とのLys87のキメラポリペプチドが挙げられる。天然のLys87触媒ドメインをLys170又はLys168のどちらかの対応するドメインで置換すれば、それぞれLys170−87及びLys168−87が作製される。前記キメラ構築物は、グラム陽性菌に関して、特に黄色ブドウ球菌に関して、天然のLys87と比べて増加した溶解性能を示す。
【0072】
ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
本発明は、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを提供する。本発明は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに、高ストリンジェント、中ストリンジェント又は低ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドも包含する。「高ストリンジェントな条件」は、(1)洗浄のために低イオン強度及び高温、例えば、50℃で0.015M塩化ナトリウム/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%ドデシル硫酸ナトリウムを用いる;(2)ハイブリダイゼーション中に、ホルムアミド等の変性剤、例えば、42℃で0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン/750mM塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウムと一緒のpH6.5の50mMリン酸ナトリウム緩衝液を有する50%(v/v)ホルムアミドを用いる;又は(3)42℃で50%ホルムアミド、5×SSC(0.75M NaCl、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×デンハート液、超音波処理されたサケ精液DNA(50μg/mL)、0.1%SDS、及び10%デキストラン硫酸、42℃、0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)での及び55℃、50%ホルムアミドでの洗浄に続いて、55℃でのEDTAを含有する0.1×SSCからなる高ストリンジェントな洗浄を用いる条件を含むことが可能であるが、これらに限定されない。「中ストリンジェントな条件」は、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2.sup.nd Ed., New York: Cold Spring Harbor Press, 1989中の条件により記載されているが、これらに限定されず、洗浄液及び上記の条件ほど厳密ではないハイブリダイゼーション条件(例えば、温度、イオン強度及びSDS%)の使用を含む。中ストリンジェント条件の例は、20%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%デキストラン硫酸、及び20mg/ml変性剪断サケ精液DNAを含む溶液での37℃、一晩インキュベーション、続いて約37〜50℃での1×SSC中フィルターの洗浄である。
【0073】
ポリヌクレオチドは、当技術分野で既知のどんな方法によっても入手し、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を決定し得る。例えば、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは適切な供給源(例えば、バクテリオファージF87s/06)由来の核酸から作製し得る。特定のポリペプチドをコードする核酸を含有する供給源は入手できないが、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列が既知の場合は、ポリペプチドをコードする核酸は、当技術分野で公知の方法を使用して、化学的に合成し、複製可能なクローニングベクターにクローニングし得る。
【0074】
本発明のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が決定されると、異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを作製するために、例えば、アミノ酸置換、欠失、及び/又は挿入を作り出すために、ヌクレオチド配列の操作のために当技術分野で公知の方法、例えば、組換えDNA技法、部位特異的変異誘発法、PCR、等(例えば、Sambrook et al., 1990, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2d Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY and Ausubel et al., eds., 1998, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NYに記載されている技術を参照。これらの文献は両方とも参照によりその全体を本明細書に組み込まれているものとする)を使用してヌクレオチド配列を操作し得る。
【0075】
本発明のキメラポリヌクレオチドは、ファージF170/08又はF168/08から単離された溶解素の触媒ドメインと融合されたファージF87s/06から単離された溶解素のターゲティングドメインを含むキメラポリペプチド等の、本発明のキメラポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を包含する。本発明は、例えば、上に定義されるように、本発明のキメラポリペプチドをコードするキメラポリヌクレオチドに、高ストリンジェント、中ストリンジェント又は低ストリンジェントハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドも包含する。
【0076】
キメラポリヌクレオチドは、当技術分野で公知であり常に実施されている組換え技法により入手し得る。組換えキメラポリヌクレオチドは、典型的には、最初は別々のタンパク質をコードしている2若しくは3以上の遺伝子、又はその部分を結合することにより作製される。個々の配列は、典型的には、キメラポリペプチドが二重機能性を有する融合タンパク質をコードするように、それぞれのタンパク質それぞれの機能ドメインのコード配列に相当する。例えば、第1コード配列、又はその部分は、第2コード配列、又はその部分にインフレームで結合され得、この結合は典型的にはライゲーション又は重複伸長(overlap extension)PCRにより実現される。ライゲーションは、「カセット変異導入法」と呼ばれるキメラ遺伝子を作製する従来の方法と一緒に使用される。この方法では、DNAを制限エンドヌクレアーゼ認識部位で作用する制限エンドヌクレアーゼにより特定の断片に切断することが可能であり、次に前記特定の断片をライゲーションすることが可能である。特定の断片は、それを親DNAにライゲーションするために互換性のある末端を有する異種断片で置換することが可能である。例えば、Wells et al., Gene 34:315-23 (1985)を参照されたい。前記文献は、参照によりその全体を本明細書に組み込まれているものとする。
【0077】
代わりに、重複伸長PCR法等の、PCRを含む様々なアプローチを使用し得る。Ho, S.N., et al (1989) Site-directed mutagenesis by overlap extension using the polymerase chain reaction. Gene. 77: 51-59を参照されたい。前記文献は、参照によりその全体を本明細書に組み込まれているものとする。このPCRアプローチのいくつかの変種は既知でありキメラを生み出すために使用されてきた。例えば、1つのそのようなアプローチは、3つのステップ:(i)キメラ分子を作製するために融合されることになる隣接する断片に部分的に相補的なプライマーを5’末端で使用する従来のPCRステップ;(ii)第1のステップにおいて作製されたPCR断片がプライマーの相補的末端を使用して融合される第2のPCRステップ;及び(iii)融合産物のPCR増幅を含む第3のステップにおいて、制限酵素不在の下でキメラ遺伝子を作製するために修正された重複伸長PCRを含む。最終PCR産物は、異なる増幅されたPCR断片を用いて構築されたキメラ遺伝子である。例えば、Wurch, T. et al (1998) A modified overlap extension PCR method to create chimeric genes in the absence of restriction enzymes. Biotechnology Techniques. 12(9):653-657を参照されたい。前記文献は、参照によりその全体を本明細書に組み込まれているものとする。どんなライゲーション及び/又はPCRベース組換えアプローチを使用して本発明のキメラポリヌクレオチドを作製してもよい。
【0078】
代わりに、キメラポリペプチドをコードする核酸は化学的に合成してもよい。例えば、本発明のキメラポリペプチドの所望のアミノ酸配列を使用して、対応するヌクレオチド配列を考案し、化学的に合成し、例えば、当技術分野で公知の方法を使用して複製可能なクローニングベクターにクローニングしてもよい。
【0079】
本発明の分子の組換え発現
本発明の分子(例えば、バクテリオファージ起源のポリペプチド、又はその活性誘導体、キメラ構築物、バリアント若しくは断片)をコードする核酸配列が得られると、前記分子の産生のためのベクターが、当技術分野で公知の技法を使用する組換えDNA技術により作製され得る。当業者に公知の方法を使用して、本発明の分子のコード配列及び適切な転写と翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターを構築することが可能である。これらの方法には、例えば、インビトロ組換えDNA技法、合成技法、及びインビボ遺伝子組換えが挙げられる。(例えば、Sambrook et al., 1990, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2d Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY and Ausubel et al. eds., 1998, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NYに記載される技法を参照)。
【0080】
本発明の方法により同定される分子のヌクレオチド配列を含む発現ベクターは、従来の技法(例えば、エレクトロポレーション、リポソームトランスフェクション、及びリン酸カルシウム沈殿)により宿主細胞に移入することが可能であり、次にトランスフェクトされた細胞は従来の技法により培養されて本発明の分子を産生する。特定の実施形態では、本発明の分子の発現は構成的、誘導性又は組織特異的プロモーターにより調節される。特定の実施形態では、発現ベクターはpQE−30(Qiagen社製)又はpET−29(a)(Novagen社製)である。
【0081】
本発明の方法により同定される分子を発現するために使用される宿主細胞は、大腸菌等のどちらの細菌細胞(本発明の溶解素タンパク質、溶解素構築物又はその断片に非感受性である)でもよい。様々な宿主発現ベクター系を利用して、本発明の方法により同定される分子を発現し得る。そのような宿主発現系は、本発明の分子のコード配列を産生して続いて精製する媒体を意味するが、適切なヌクレオチドコード配列で形質転換又はトランスフェクトされるとき、本発明の分子をin situで発現し得る細胞も意味する。これらの媒体には、本発明により包含される分子のコード配列を含有する組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA又はコスミドDNA発現ベクターで形質転換された、本発明の溶解素タンパク質、溶解素構築物又は断片に非感受性である細菌等の微生物(例えば、大腸菌及び枯草菌);本発明により包含される分子をコードする配列を含有する組換え酵母発現ベクターで形質転換された酵母(例えば、サッカロミセス・ピキア(Saccharomyces Pichia));本発明により包含される分子をコードする配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)で感染された昆虫細胞系;本発明により包含される分子をコードする配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus、CaMV)及びタバコモザイクウイルス(tobacco mosaic virus、TMV))で感染された若しくは組換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換された植物細胞系;又は哺乳動物細胞のゲノム由来のプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)若しくは哺乳動物ウイルス由来のプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)を含有する組換え発現構築物を宿す哺乳動物細胞系(例えば、COS、CHO、BHK、293、293T、3T3細胞、リンパ細胞(米国特許第5,807,715号参照)、Per C.6細胞(Crucell社により開発されたヒト網膜細胞))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
本発明の溶解素タンパク質、溶解素構築物、又は断片に感受性ではない細菌系では、分子が発現されることを目的とする使用に応じていくつかの発現ベクターを有利に選択し得る。例えば、ポリペプチドの医薬組成物の作製のために、大量のそのようなタンパク質が産生される場合、容易に精製される融合タンパク質産物の高レベルの発現を指示するベクターが好ましい可能性がある。そのようなベクターとしては、融合タンパク質が産生されるように、タンパク質配列がベクターにLacZコード領域とインフレームに個別にライゲーションされ得る大腸菌発現ベクターpUR278(Ruther et al., 1983, EMBO J. 2:1791, この文献は参照によりその全体を本明細書に組み込まれる);pINベクター((Inouye & Inouye, 1985, Nucleic Acids Res. 13:3101-3109; Van Heeke & Schuster, 1989, J. Biol. Chem. 24:5503-5509; 前記文献はそれぞれ参照によりその全体を本明細書に組み込まれている);及び同類のものが挙げられるが、これらに限定されない。pGEXベクターを使用して、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(glutathione S-transferase、GST)との融合タンパク質として外来ポリペプチドを発現してもよい。一般に、そのような融合タンパク質は可溶性であり、吸着及びマトリックスグルタチオン−アガロースビーズへの結合、続いて遊離グルタチオンの存在下での溶出により溶解された細胞から容易に精製することが可能である。pGEXベクターは、クローニングされた標的遺伝子産物がGST部分から放出されるように、トロンビン又は活性化第X因子プロテアーゼ切断部位を含むように設計される。
【0083】
昆虫系では、オウトグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)核多角体病ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus、AcNPV)は外来遺伝子を発現するベクターとして使用される。前記ウイルスはヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞において増殖する。ポリペプチドコード配列は前記ウイルスの非必須領域(例えば、ポリヘドリン遺伝子)に個別にクローニングし、AcNPVプロモーター(例えば、ポリヘドリンプロモーター)の制御下に置いてもよい。
【0084】
哺乳動物宿主細胞では、いくつかのウイルスベース発現系を利用し得る。アデノウイルスが発現ベクターとして使用される場合には、所望のポリペプチドコード配列を、アデノウイルス転写/翻訳制御複合体、例えば、後期プロモーター及びトリパータイトリーダー(tripartite leader)配列にライゲーションし得る。次に、このキメラ遺伝子は、インビトロ又はインビボ組換えによりアデノウイルスゲノムに挿入し得る。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば、E1又はE3領域)へ挿入すれば、感染宿主において生存可能でありポリペプチド分子を発現することができる組換えウイルスを生じることになる(例えば、Logan & Shenk, 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:355-359を参照。前記文献は参照によりその全体を本明細書に組み込まれている)。挿入されたコード配列の効率的翻訳には、特定の開始シグナルが必要になることもある。これらのシグナルは、ATG開始コドン及び隣接する配列が含まれる。さらに、全挿入物の翻訳を確実にするためには、開始コドンは望ましいコード配列のリーディングフレームと同調していなければならない。これらの外来性翻訳制御シグナル及び開始コドンは、天然でも合成でも、様々な起源であることが可能である。発現の効率は、適切な転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーター、等を含むことにより増強され得る(Bittner et al., 1987, Methods in Enzymol. 153:51-544、前記文献は参照によりその全体を本明細書に組み込まれている)。
【0085】
組換えタンパク質の長期高収率産生のためには、安定した発現が好ましい。例えば、本発明のポリペプチドを安定的に発現する細胞系統を操作し得る。ウイルス複製起点を含有する発現ベクターを使用するよりは、適切な発現制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位、等)により制御されるDNA及び選択マーカーを用いて宿主細胞を形質転換することが可能である。外来DNAの導入に続いて、操作された細胞は富栄養培地(enriched media)において1〜2日間増殖することができ、その後選択培地に切り替えられる。組換えプラスミド中に選択マーカーがあれば、選択に対して耐性が与えられ、細胞がプラスミドをその染色体に安定的に組み込ませ、今度は細胞系統中に増殖、展開される(cloned and expanded)ことが可能な細胞増殖巣(foci)に増殖することが可能になる。この方法を有利に使用して、本発明のポリペプチドを発現する細胞系統を操作し得る。そのような操作された細胞系統は、本発明のポリペプチドに感受性の細菌種をスクリーニングし評価するのに特に有用である可能性がある。
【0086】
tk細胞、hgprt細胞、又はaprt細胞においてそれぞれ使用され得る単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wigler et al., 1977, Cell 11: 223)、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalska & Szybalski, 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 48: 202)、及びアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy et al., 1980, Cell 22: 817)遺伝子を含むさまざまな選択系が使用され得るが、これらに限定されない。さらに、抗代謝物質耐性が以下の遺伝子の選択の基準として利用され得る;メトトレキサート耐性を与えるdhfr(Wigler et al., 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:357; O'Hare et al., 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 1527);ミコフェノール酸耐性を与えるgpt(Mulligan & Berg, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:2072);アミノグリコシドG−418耐性を与えるneo(Clinical Pharmacy 12: 488-505; Wu and Wu, 1991, 3:87-95; Tolstoshev, 1993, Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 32:573-596; Mulligan, 1993, Science 260:926-932; and Morgan and Anderson, 1993, Ann. Rev. Biochem. 62:191-217; May, 1993, TIB TECH 11(5):155-215)、使用することが可能な当技術分野で周知の組換えDNA技術の方法は、Ausubel et al. (eds.), 1993, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY; Kriegler, 1990, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY; and in Chapters 12 and 13, Dracopoli et al. (eds), 1994, Current Protocols in Human Genetics, John Wiley & Sons, NY.; Colberre-Garapin et al., 1981, J. Mol. Biol. 150:1に記載されている;及びハイグロマイシン耐性を与えるhygro(Santerre et al., 1984, Gene 30:147)に対する選択基準として代謝拮抗剤耐性を使用することが可能である。
【0087】
本発明のポリペプチドの発現レベルは、ベクター増幅により増加することが可能である(概説は、Bebbington and Hentschel, The use of vectors based on gene amplification for the expression of cloned genes in mammalian cells in DNA cloning, Vol. 3 (Academic Press, New York, 1987)参照)。ポリペプチドを発現しているベクター系におけるマーカーが増幅可能な場合には、宿主細胞の培養液中に存在する阻害剤のレベルが増加すれば、マーカー遺伝子のコピー数が増加することになる。増幅された領域はポリペプチドのヌクレオチド配列に関連しているので、ポリペプチドの産生も増加することになる(Crouse et al., 1983, Mol. Cell. Biol. 3:257)。
【0088】
本発明の分子(すなわち、ポリペプチド)は、組換えによって発現された後は、ポリペプチド産生のために当技術分野で既知のどの方法によっても、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性及びサイジングカラムクロマトグラフィー)、遠心分離、示差的溶解性によって、又はポリペプチド若しくは抗体の精製のための他のどんな標準技法によっても精製し得る。
【0089】
以下の実施例は本発明を説明するが、限定するものではない。したがって、実施例は、修正を加えられる可能性がありそれでも本発明の精神と範囲内であるという理解とともに提供される。
[実施例]
【0090】
実験方法
以下の細菌株、すなわち大腸菌JM109及び大腸菌BL21(DE3)pLysE(Novagen社製、San Diego)を、クローニング及び配列決定目的に使用した。
【0091】
細菌は、37℃でLB培地(1Lの蒸留水中10gトリプトン、5g酵母エキス、5gNaCl、1mLの1N NaOH)とLB寒天(1Lの蒸留水中10gトリプトン、5g酵母エキス、5gNaCl、15gの寒天)の両方において又は2×YT(1Lの蒸留水中16gトリプトン、10g酵母エキス、5gNaCl)において増殖させた。必要な場合には、抗生物質カナマイシン及びアンピシリンを選択マーカーとして増殖培地に添加した。
【0092】
バクテリオファージF87s/06は、マイトマイシンとのインキュベーションにより黄色ブドウ球菌の臨床分離株(表Iの分離株番号77)から単離した。
【0093】
使用した発現ベクターは、pQE−30(Qiagen社製、Hilden、Germany)及びpET−29(a)(Novagen社製)であった。プラスミド地図は、
図2a)、b)及びc)に示している。所望のタンパク質を発現するのに使用された組換えプラスミドpQE-30/Lys87及びpET-29(a)/Lys87は、それぞれpCC1及びpCC2と命名した。本実験の臨床アッセイにおいて使用した細菌分離株は表Iに収載されている。
【0095】
表Iは、配列番号2の抗菌活性を試験するために使用された臨床細菌分離株を収載している。以下の略字が使用されており、ATCC−アメリカ培養細胞系統保存期間;CIP−ATCCの同等物;ECO−大腸菌;EN−エンテロコッカス菌種;ENA−エンテロコッカス・アビウム;EFM−エンテロコッカス・フェシウム;EFS−エンテロコッカス・フェカリス;MRSA−メチシリン耐性黄色ブドウ球菌;STA−黄色ブドウ球菌;SCN−コアグラーゼ陰性ブドウ球菌;STR−連鎖球菌;R−Oxa−オキサシリニア耐性;S−Oxa−オキサシリニア感受性である。細菌分離株は、リスボン地区の病院、アルトアレンテージョ州の病院、及びアルガルベ州の病院から入手した。
【0096】
ファージF87s/06由来の推定溶解素タンパク質のバイオインフォマティックス解析
標的DNA及びアミノ酸配列の解析は、スイスバイオインフォマティックス研究所のExPASy(Expert Protein Analysis System)を使用することにより実施した。追加の解析も、プログラムTranslate Tool,Prosite and Protpramを使用して実施した。UniProt Knowledgebaseデータベース中の配列との標的アミノ酸配列の相同性は、FASTA3を使用して実施した。配列アラインメントは、ClustalWを使用して実施した。両プログラムとも、欧州分子生物学研究所−欧州バイオインフォマティックス研究所(European Molecular Biology Laboratory - European Bioinformatics Institute、EMBL-EBI)ウェブサイトを通じてアクセス可能である。標的配列の二次構造の決定は、プログラムFoldIndexを使用して実施した。
【0097】
ファージF87s/06の精製
ストックファージF87s/06の調製は、Carlson K., 2005, 'Working with bacteriophages: common techniques and methodological approaches,' in Kutter, E. Sulakvelidze, A. (eds.) Bacteriophages: Biology and Applications, 5
th ed. CRC press(「Carlson」は参照によりその全体を本明細書に組み込まれている)に記載されているプロトコールを使用して実施した。
【0098】
ストックファージF87s/06は、Yamamato et al., 2004, PNAS 101:6415-6420(前記文献は、参照によりその全体を本明細書に組み込まれている)及びCarlsonに記載されているプロトコールに従ってPEGを用いて沈殿により濃縮した。
【0099】
ファージF87s/06ストックは、4℃で1時間、1M NaCl中で攪拌しながらインキュベートした。次に、PEG8000(AppliChem社製、Cheshire、MA)を10%(p/v)の最終濃度に達するまで徐々に添加した。次に、組成物を4℃で一晩インキュベートした。インキュベーション期間後、組成物は4℃、10000×gで30分間遠心分離した。次に、沈殿物をSM(pH7.4の0.05M Tris-HCl、0.1M NaCl、10mM MgSO
4及び1%p/vのゼラチン)中に再懸濁し、4℃、1000rpmで10分間、再び遠心分離した。懸濁されたファージを含有する上清は、さらに精製するために保存した。
【0100】
ファージF87s/06の精製は、Carlsonにより記載されている通りにCsCl勾配を使用して実現された。
【0101】
ファージ保存物からのCsClの除去は、透析により実現された。透析膜Cellu.Sep H1 High Grade Regenerated Cellulose Tubular Membrane(Cellu.Sep社製、River Street、USA)は、製造元の説明書に従って調製した。透析は、4℃で100mM Tris-HCl及び3M NaCl(pH7.4)中30分間の最初のインキュベーションからなった。これに、4℃で100mM Tris-HCl及び0.3M NaCl(pH7.4)中30分間の第2のインキュベーションが続いた。透析後、懸濁されたファージは透析袋の中から取り出され、4℃で保存された。
【0102】
ファージDNAの抽出
ファージF87s/06 DNAはCsCl上で精製した保存ファージから得られた。5mlの精製されたファージに、pH8.0の20mM EDTA、0.5%(p/v)のSDS及びプロテイナーゼKを最終濃度40μg/mlで添加した。次に、混合物は56℃で1時間インキュベートした。これに続いて、水相と有機相間の界面がはっきりするまで、25:24:1の割合のフェノール:クロロホルム:アルコール中で連続抽出を行った。次に、水相を等量のクロロホルムで処理し、4℃、130000×gで10分間遠心分離した。水相は再び取り除き、DNAは2容量の無水エタノールを添加することにより沈殿させ、20℃で30分間インキュベートした。次に、試料は4℃、11000×gで30分間遠心分離した。次に、ペレットを室温で70%エタノールを用いて洗浄し、50μlの超純水(Gibco社製、California)に再懸濁した。次に、DNA濃度を、ND-1000 Spectrophotometerにおいて260nmの吸光度を測定することにより決定した。次に、単離されたファージDNAの完全性は、1%アガロースゲルの電気泳動により解析した。
【0103】
次に、ファージF87s/06 DNAは塩基配列決定し、アミノ酸配列をコードするオープンリーディングフレーム(open reading frames、ORF)を、バイオインフォマティックス解析項下に記載されるツールを使用して同定した。さらに、ファージF87s/06 DNAの相同性を、プログラムFASTA3を使用して既存の配列と比較した。
【0104】
コンピテント細胞の調製
コンピテント細胞を調製するために、LB培地をコンピテント大腸菌と一緒にインキュベートし、37℃、135rpmで攪拌しながら一晩インキュベートした。次の日、培養したLB培地から5mlを200mlの新しいLB培地に添加した。培養液は、0.7〜0.8の光学密度(OD
600)に達するまで37℃で攪拌しながらインキュベートした。光学密度は、UV/Vis Spectrometer UVA(Unicam社製)上で測定した。次に、細胞は4℃、5000rpmで20分間遠心分離した。上清を除去した後、ペレットは、予め氷上で冷却した10mlの10%グリセロール液に再懸濁した。次に、前記容量は10%グリセロール液をさらに加えることにより50mlとし、4℃、5000rpmで20分間再び遠心分離した。上清を除去した後、ペレットは前記の通りに再懸濁し、追加時間遠心分離した。次に、ペレットはデカンテーション後に管内に残る残留10%グリセロール液に再懸濁した。次に、試料を分注し−80℃で保存した。
【0105】
エレクトロポレーションによるコンピテント細胞の形質転換
コンピテント大腸菌細胞を形質転換するために、一定分量のコンピテント細胞を−80℃の貯蔵庫から取り出し、4℃で10〜20分間解凍した。次に、1μlのプラスミドDNAを25μlのコンピテント細胞に添加した。次に、懸濁された細胞はエレクトロポレーションキュベット(Electroporation Cuvettes Plus model No. 610、BTX、Holliston、USA)に移し、Gene Pulser Xcell System(Bio-Rad社製、Hertfordshire、U.K.)で電気穿孔処理した。1mmキュベットに使用したパラメーターは以下の通りであった:電気インパルス−10μF、抵抗−600オーム及び電位−1800V。エレクトロポレーション後直ちに、細胞は1mlのLB培地に再懸濁し、37℃、135rpmで攪拌しながら1時間インキュベートした。次に、細胞は室温、13000rpmで1分間遠心分離した。次に、細胞は50μlのLB培地に再懸濁し、LB寒天(50μl/プレート)及び必要な選択マーカーを含有するペトリ皿に蒔いた。プレートは37℃で一晩インキュベートした。
【0106】
プラスミドDNAの抽出(ミニプレップ)
形質転換された細菌の選択後、所望のDNAプラスミドを、Sambrook and Russel, 2001, Molecular cloning: a laboratory manual, 3
rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press(前記文献は、参照によりその全体を本明細書に組み込まれている)に記載されているプロトコールに従って抽出した。次に、DNA濃度の決定は、260nmでの吸光度の測定によりND-1000 Spectrophotometer上で行った。次に、単離されたDNAの完全性は、1%アガロースゲルでの電気泳動及び視覚化により解析した。
【0107】
DNAの電気泳動
電気泳動は、0.5〜10Kb間の断片を分離することができる1%アガロースゲル上で実施した。アガロースは、TBE0.5×(1Lの蒸留水中108gTris、55gホウ酸、pH8.0の0.5M EDTA20ml)中に溶解し、続いて、臭化エチジウムを最終濃度0.5pg/mlで添加した。6×ローディング色素(20%フィコール400、0.1M Na
2EDTA pH8.0、1%SDS、0.25%ブロモフェノールブルー及び0.25%キシレンレッド)を添加することにより、ゲル上に充填するためのDNA試料を調製した。電気泳動は、TBE0.5×中、100mAで1時間行った。GeneRuler(商標)1 kb DNA Ladder Mix(Fermentas社製、Maryland、USA)を使用して、電気泳動完了後にバンドのサイズを決定した。
【0108】
プラスミドの構築
プラスミドpCC1及びpCC2は、ファージF87s/06の単離された溶解素(Lys87)に相当するcDNA配列をベクターpQE−30及びpET−29(a)に挿入することにより構築した。ファージF87s/06の溶解素の遺伝子に相当するDNA断片は、それぞれプライマー;87F(CGGGATCCAAAACATACAGTG、配列番号3)及び87R(CTAAGAAGCTTAAAACACTTCTTT、配列番号4);87F及び87R1(CGCTCGAGAAACACTTCTTTCAC、配列番号5)を使用してPCRにより増幅させた。PCR反応は、以下の条件:puReTaq Ready-to-Go PCR Beads(Amersham Biosciences社製、U.K.)、ファージF87s/06由来の200ngのゲノムDNA、最終濃度0.4pmol/μlのプライマー及び最終容積25μlまでの超純水を使用して設定した。以下のサーモサイクラー条件を使用した。:95℃で1分を1サイクル、95℃で1分+57℃で1分+72℃で1分を30サイクル、及び72℃で5分を1サイクル。
【0109】
ベクターpQE−30及びpET−29(a)は、それぞれ制限酵素Bam HI、HindIII並びにBamHI及びXhoI(Fermentas社製)で消化した。制限消化混合物は製造元の説明書に従って調製した。Lys87の増幅されたDNAと同様に、ベクターの消化から生じるDNA断片も1%アガロースゲル上に流した。次に、前記DNAは、High Pure PCR Product Purification Kit(Roche社製、Germany)を製造元の説明書に従って使用してゲルから精製した。
【0110】
1のT4 DNAリガーゼ(New England Biolabs社製、Frankfort、Germany)、10×ライゲーション緩衝液(25℃で50mM Tris-HCl、10mM MgCl
2、10mM DTT、1mM ATP、pH7.5)及び超純水と一緒に最終容積20μlと一緒に、精製されたベクターDNA及びLys87をコードするcDNAを1:5モルの比で組み合わせた。ライゲーション混合物は22℃で一晩インキュベートし、続いて大腸菌株JM109及びBL21(DE3)pLysEを形質転換した。形質転換は前記のプロトコールに従って行った。
【0111】
形質転換細胞は、LB寒天及びそれぞれの選択マーカーを含有するペトリ皿に蒔くことにより選択した。ペトリ皿上で検出されるpCC1及びpCC2を含有する形質転換細胞のコロニーを使用して、適切な選択マーカーを含有するLB培地に播種し一晩インキュベートした。次に、培養物を遠心分離してDNAを前記の通りに抽出した。
【0112】
クローニングされた断片が正確に挿入されたかどうかは、プラスミドを構築するのに使用した同一の制限酵素を使用して組換えプラスミドを消化することにより決定した。Lys87断片のクローニングのための方法及び手順はすべて、標準プロトコールに従って行った。
【0113】
塩基配列決定
Lys87のDNAに相当する所望のDNAを含有する組換えプラスミドはMacrogen(Coreia do Sul)によって塩基配列が決定された。
【0114】
Lys87の発現及びその溶解度の決定
Lys87を発現するために、それぞれpCC1及びpCC2を用いて形質転換したJM109及びBL32(DE3)pLysEを使用して、適切な選択マーカーを含有する5mlの2×YT培地に播種した。培養物は、0.6のOD(600nm)が得られるまで37℃で攪拌しながら一晩インキュベートした。溶解素の発現は、1mM〜0.5mMのIPTGを添加することにより誘導した。これは、およそ、37℃、攪拌しながらの4時間のインキュベーション後に行った。大腸菌JM109(pCC1)の試料は、誘導時点から0、1、2、3及び4時間で採取した。大腸菌BL21(DE3)pLysE(pCC2)の試料は、誘導時点から0、2及び4時間で採取した。
【0115】
インキュベーションが終了後、大腸菌JM109細胞の溶解は、リゾチーム(Sigma-Aldrich社製)を最終濃度0.1mg/mlで及び1μlのプロテアーゼ阻害剤Cocktail Set I(Calbiochem社製、USA)を添加し、続いて凍結融解により実現された。試料は5サイクルの凍結融解を受けさせた。次に、試料を4℃、140000×gで10分間遠心分離した。遠心分離後、上清を取り除き、ペレットを500のPBS1×に再懸濁した。
【0116】
大腸菌BL21(DE3)pLysE(pCC2)を溶解するために、試料を4℃、13200rpmで10分間遠心分離した。上清を取り除き、ペレットを、1μlのプロテアーゼCocktail Inhibitor Set Iに加えて150μlのBugBuster Master Mix(Novagen社製)に再懸濁した。細胞の溶解は、製造元の説明書に従ってBugBuster Master Mixを使用して実施した。溶解後、500μlの各試料を4℃、14000×gで10分間遠心分離した。遠心分離後、上清を取り除き、ペレットを500μlのPBS1×に再懸濁した。
【0117】
試料はすべて、Lys87の活性を決定するために、SDS−PAGE及びウェスタンブロットにより解析した。
【0118】
SDS−PAGE
この実験では、15%ポリアクリルアミドゲルを使用した。分解ゲルは、6.25mlProtogel、3.35mlProtogel Resolving Buffer(National Diagnostics社製、Georgia、USA)を添加することにより調製した。濃縮用ゲルは、650Protogel、1.25mlProtogel Stacking Buffer(National Diagnostics社製)、3ml蒸留水、5041 APS10%、及び7.5TEMEDを使用して調製した。次に、解析されるタンパク質試料を、6×変性緩衝液(pH6.8の0.35M Tris-HCl、10.28%DS、36%グリセロール、0.6M DTT及び0.012%ブロモフェノールブルー)に入れ、100℃で10分間加熱することにより変性した。ゲルはMini-PROTEAN Tetra Cell(Bio-Rad社製)に流した。試料が濃縮用ゲル中にある間、電位は140Vに維持した。試料が分解ゲルに入った後、電位を200Vまで上げた。Precision Plus Protein(商標)Standards Dual Color of Bio-Rad及びPageRuler(商標)Prestained Protein Ladder of Fermentasを、分子量ラダーとして使用した。
【0119】
ニトロセルロース膜への転写
SDS−PAGEゲル上のタンパク質バンドを視覚化するために、ゲルを外気温で1時間クーマシー染色溶液に浸した。次に、ゲルを脱染緩衝液(1Lの蒸留水中10%酢酸、10%メタノール)に移して過剰な染色を除去した。
【0120】
次に、ゲルを外気温で1×トランスファー緩衝液(48mM Tris、39mMグリシン、0.04%SDS、10%メタノール、及び1Lの蒸留水)に入れた。次に、タンパク質を、Mini Transblot Module(Bio-Rad社製)を使用して、ゲルからニトロセルロースHybond C(GE Healthcare社製、Germany)に転写した。移送は200mAで1時間行われた。
【0121】
ウェスタンブロット
ニトロセルロース膜は、PBS1×、5%牛乳タンパク質、0.05%Tween(商標)20中、4℃で一晩ブロッキングされた。次に、膜はPBS1×、0.05%Tween 20中、室温で5回洗浄した。次に、膜は、PBS1×、2%牛乳タンパク質、0.05%Tween 20及び1:5000で希釈された過酸化酵素にコンジュゲートされた抗His6抗体(Roche社製)を含有する溶液中、室温で攪拌しながら1時間インキュベートした。次に、膜はPBS1×、0.05%Tween 20中、室温で15分間3回洗浄した。
【0122】
所望のタンパク質は、ECL(商標)Plus Western Blotting Detection System(GE Healthcare社製)を製造元の説明書に従って使用して検出した。次に、膜はAmersham Hyperfilm ECLに曝し、AGFA Curix 60 processorで現像した。
【0123】
Lys87の溶菌活性の評価
表Iに収載されている細菌の調製では、BHI上で増殖させ、15μlのLys87を発現している細胞由来の不溶性画分、Lys87を発現している細胞由来の可溶性画分、又は精製されたLys87の15μlと一緒にインキュベートした。pH7.0の100mM Tris-HCl緩衝液を陰性対照として使用した。単離された細菌はすべて、連鎖球菌属に属する細菌以外は、前のプロトコールにより試験した。連鎖球菌属由来の細菌におけるLys87の溶菌活性を試験するために、播種ループを使用して液体培養物から細菌を血液寒天プレート上に移した。連鎖球菌を蒔いた後、pH7.0の100mM Tris-HCl中のLys87の15μl試料をプレートに添加し37℃で一晩インキュベートした。
【0124】
Lys87の精製のための細胞抽出物の調製
大腸菌JN109(pCC1)におけるLys87の発現の誘導は、500mlの細菌培養物中で数時間、前記のプロトコールに従って行った。細菌はフレンチプレスにおいて10000lb/in
2の圧力で溶解した。次に、細胞溶解物は4℃で30分間インキュベートし、続いて4℃、4000×gで10分間遠心分離した。遠心分離後、上清は保持し、Lys87を精製するのに使用した。試料は、SDS−PAGE及びウェスタンブロットによっても解析した。
【0125】
大腸菌BL21(DE3)pLysE(pCC2)は、前記のプロトコールに従って調製した。細菌は、OD(600nm)が0.6になるまで増殖させた。次に、溶解素の発現は、0.5mM IPTGの添加により誘導し、続いて25℃で攪拌しながら一晩インキュベートした。インキュベーション後、液体培養物を4℃、11000rpmで40分間遠心分離した。上清を取り除き、ペレットは、1:1000の希釈率のプロテアーゼ阻害剤Cocktail Set Iを含むBugBuster Master mix5mlに再懸濁した。細胞は製造元の説明書に従って溶解した。次に、試料は4℃、14000×gで10分間遠心分離した。遠心分離後、上清を取り除き、ペレットを5mlのPBS1×に再懸濁した。次に、試料は4℃、14000×gで10分間再び遠心分離した。Lys87を含有する封入体を含有するペレットは4℃で保存した。試料を解析し、Lys87はSDS−PAGE及びウェスタンブロットにより精製した。
【0126】
Ni−NTAカラムを使用するLys87の精製
Lys87は、Ni−NTAカラム(Qiagen社製)を使用して精製した。Ni−NTA樹脂は、カラムへの添加に先立って4℃で保存した。次に、カラムは、蠕動ポンプを中速で使用して50mlの洗浄緩衝液(1Lの蒸留水中50mM Na
2HPO
4、300mM NaCl、20mMイミダゾール、pH8.0)を用いて洗浄した。次に、前記のプロトコールに従って調製した細胞抽出物を、低速に設定された蠕動ポンプを用いて載せた。次に、カラムは50mlの洗浄緩衝液を用いて洗浄して、非特異的タンパク質及び他の不純物質を除去した。次に、タンパク質を、溶出緩衝液(1Lの蒸留水中50mM Na
2HPO
4、300mM NaCl、250mMイミダゾール、pH8.0)を使用してカラムから溶出させ、1.5ml画分に収集した。画分はすべてSDS−PAGEにより解析した。
【0127】
Ni−NTAクロマトグラフィーにより精製されるLys87試料の透析
CELLU.Sep H1 High Grade Regenerated Cellulose Tubular Membraneは、製造元の説明書に従って調製した。試料は、4℃で穏やかに攪拌しながら一晩pH7.5の50mM Tris-HCl1000容積に対して透析した。全インキュベーション時間が24時間に達するまで前記手順を繰り返した。透析後、溶解素は膜内部から取り出し4℃で保存した。試料はSDS−PAGE及びウェスタンブロットにより解析し、タンパク質の量はブラッドフォードアッセイを使用して定量した。
【0128】
封入体からのLys87の精製
Lys87を含有する封入体は、10mlのTriton X-100洗浄緩衝液(100milの蒸留水中0.5%Triton X-100、50mM Tris-HCl pH8.0、100mM NaCl、0.1%アジ化ナトリウム)中に再懸濁した。次に、試料は4℃、15000rpmで10分間遠心分離した。上清を取り除き、洗浄ステップは7回繰り返した。最終洗浄では、試料は50mM Tris-HCl pH8.0、100mM NaClの溶液中に入れ、4℃、15000rpmで10分間遠心分離した。試料はSDS−PAGE及びウェスタンブロットにより解析した。
【0129】
尿素を用いたLys87の変性
Lys87を含有する封入体は、50mM Tris-HCl pH8.0、100mM NaCl、8M尿素及び100mlの蒸留水の溶液中に溶解し、4℃で攪拌しながら一晩インキュベートした。次の日、試料は4℃、15000rpmで30分間遠心分離した。変性Lys87を含有する上清は保持し、タンパク質の量を、280nmでの試料の吸光度を調べることにより測定した。上清の試料とペレットは両方ともSDS−PAGE及びウェスタンブロットにより解析した。
【0130】
Lys87のリフォールディング
変性Lys87試料は、150mlのリフォールディング緩衝液(200mlの水中100mM Tris-HCl pH7.0、10ml EDTA pH8.0、5%グリセロール、1mM DTT、100mM NaCl、0.005% Tween-20)に試料を入れることによりリフォールディングさせた。変性Lys87を、ほぼ30分の時間をかけて一滴ずつリフォールディング緩衝液に添加した。次に、溶液は4℃で16〜24時間インキュベートした。次に、溶液は4℃、15000rpmでほぼ30分間遠心分離した。上清は保持し4℃で保存した。次に上清はSDS−PAGE及びウェスタンブロットにより解析した。Lys87の量は、280nmでの試料の吸光度を測定することにより決定した。
【0131】
FPLCを使用するLys87の精製
pCC2から発現されるLys87は、AKTA FPLCクロマトグラフィーシステム(Amersham Biosciences社製)を使用して封入体から精製した。精製に先立って、試料は前記のプロトコールに従って変性した。融合Lys87−His6タンパク質を精製するために、His-trap(GE Healthcare社製)をAKTA FPLCに接続して使用した。全試料の精製は、280nmでの溶出液の吸光度を測定することによりモニターした。
【0132】
最初に、精製カラムは10mlの緩衝液A(50mM Na
3PO
412H
2O、1M NaCl、8M 尿素、20mMイミダゾール)を用いて平衡化した。次に、変性Lys87の試料をカラムに載せた。次に、カラムは60mMイミダゾールを含有する緩衝液Aを用いて洗浄し、カラム上に保持されている不純物質を除去した。次に、溶解素は、10ml増加分中60〜500mMの直線勾配を使用してカラムから溶出させ、1.2mlずつ7画分を収集した。所望のタンパク質を含有する画分をSDS−PAGE及びウェスタンブロットを用いて解析した。
【0133】
Lys87の濃縮
所望のタンパク質は、Amicon Centrifugal Filter Device(Millipore社製、USA)上で製造元の説明書に従って濃縮した。Amicon Centrifugal Filter Deviceは、タンパク質試料の緩衝液の交換にも使用された。この方式では、pH7.0の100mM Tris-HCl緩衝液12mlをLys87の試料とともに添加した。次に、カラムは4℃、5000rpmで30分間遠心分離した。Lys87の濃縮試料は、精製されたタンパク質の完全性を確認するためにSDS−PAGE及びウェスタンブロットにより解析した。Lys87の濃度は、280nmでの吸光度を測定するND-1000 Spectrophotometerを使用し及びブラッドフォードアッセイを使用して決定した。
【0134】
Lys87の最小阻害濃度の決定
表Iの分離株77を使用して、黄色ブドウ球菌におけるLys87の最小阻害濃度(minimum inhibitory concentration、MIC)を決定した。分離株77の単離されたコロニーは5mlのBHI培地に播種され、37℃、135rpmで攪拌しながら一晩インキュベートに使用された。連続希釈を使用して、細胞の平均数がほぼ10
3〜10
4の間であることを特定した。10〜100μg/mlの範囲の様々な濃度のLys87を、蓋付きの96丸底ウェル(Sarstedt社製、USA)に蒔いた。各ウェルに、100μlの細菌細胞培養物を添加した。試料緩衝液のみを含む試料及び細菌培養物のみを含む別の試料を陰性対照として使用した。試料は37℃で一晩インキュベートした。次の日、対照を含む、15μlの各試料をBHIA培地プレート上にスポットした。プレートは37℃で一晩インキュベートした。
【0135】
液体培地中のLys87の溶菌活性の評価
液体培地中のLys87の溶菌活性の評価は、Fischetti, 2003, Ann. NY Acad. Sci. 987:207-214; Loessner et al., 1998, FEMS Microbiol. Lett. 162:265-274; Loeffler et al., 2001, Science 294:2170-2172 and Takae et al., 2005, Microbiology 151:2331-2342(前記文献はそれぞれ、参照によりその全体を本明細書に組み込まれている)に記載されているプロトコールに従って実施した。黄色ブドウ球菌分離株77を使用して、5mlのBHI培地に播種した。培養物は37℃、135rpmで攪拌しながら一晩増殖させた。次の日、前播種物を使用して、OD
600が0.8と1の間の液体培養物を調製した。ODの減少は、決定された量の溶解素を添加した後に測定した。50μg/ml及び100μg/mlのAKTA FPLCを使用して精製されたLys87の濃度が試験された。陰性対照は、溶解素を含有する緩衝液の代わりにpH7.0の100mM Tris-HClを等容量受けた。溶解素又は対照は、OD
600が0.8と1間の液体培養物試料1mlに添加された。試料は37℃で穏やかに攪拌しながらインキュベートし、600nmでのODは2時間後に測定した。
【実施例1】
【0136】
バクテリオファージF87s/06の単離及び特徴付け
バクテリオファージF87s/06は二本鎖DNAウイルスである。前記ウイルスのゲノムは以前単離され特徴付けられたことはなかった。ゲノムDNAは、黄色ブドウ球菌(表Iの分離株番号77)の臨床分離株から得られたファージF87s/06のストックから単離された。ファージF87s/06のゲノムDNAは、実験法の項に記載されているプロトコールに従って単離され、クローニングされ、塩基配列決定された。バクテリオファージゲノムの塩基配列決定により、ゲノム内の有望なオープンリーディングフレーム(ORF)の同定が可能になった。バクテリオファージの推定ORFは、その相当するアミノ酸配列に翻訳され、前記アミノ酸配列を使用して、プログラムFASTA3を使用してUniProt Knowledgebaseを検索した。他のバクテリオファージ由来の他の既知の溶解素タンパク質とのアラインメントにより、ファージF87s/06溶解素タンパク質(Lys87)(配列番号2)及びその対応する遺伝子配列(配列番号1)を同定することができた。アミノ酸配列の解析により、CHAPドメインの存在が明らかになった。このドメインは多数のタンパク質配列中に存在し、一般にSH3タイプの細菌ドメインに関連している。CHAPドメインは、ペプチドグリカンに対するエンドペプチダーゼ及びアミダーゼ活性を有することが実験的に明らかにされているエンドリシンと関連していることも分かっている。
図1は、Lys87のN末端領域とファージP68、Twort及びΦ11の既知の溶解素とのアラインメントを示している。前記アラインメントは、Lys87がエンドペプチダーゼ活性と関連していることが知られているいくつかの保存された残基を共有することを示している。
【実施例2】
【0137】
Lys87のクローニング及び発現
発現された溶解素の精製を可能にするために、ヒスチジンテイルを利用する原核生物発現系に基づく2つの異なる戦略を使用した。
図2は、使用した2つの発現ベクターのベクター地図を示している。第1戦略では、Lys87をコードするcDNA配列を、発現ベクターpQE−30(pCC1)にライゲーションした。
図3に示されるように、この発現ベクターを用いて得られた結果は非常に低く、溶解素それ自体が不溶性であった。Ni−NTAシステムを使用するLys87His6の精製により得られる結果は満足のいくものではなかった(
図4)。最後に、精製されたLys87の試料は、黄色ブドウ球菌の株ではまったく溶菌活性を示さなかった。
【0138】
前の戦略は効果的ではなかったため、発現ベクター及び精製戦略を変更した。使用した新しい発現ベクターは、Lys87のC末端ドメインへの6ヒスチジンのテイル融合体をコードする配列を有するpET−29(a)(pCC2)であった。このベクターは、所望のタンパク質の直接発現のためのT7プロモーターも利用する。pCC2の使用により、pCC1に比べてLys87の発現が増加した(
図5)。溶解素発現量は著しく改善されたが、以前の戦略の場合と同じように、溶解素は不溶性凝集体又は封入体の形態で発現された。封入体を可溶化し所望の精製されたタンパク質を回収しようと試みて、封入体を連続洗浄により可溶化し、続いて尿素中で溶解素を変性し、続いてタンパク質を再生し濃縮した。
図6に観察できるように、封入体の連続洗浄は、望まれないタンパク質の一部を取り除いたが、望まれないタンパク質を完全に取り除くことはなかった。
【0139】
最初の精製及び可溶化工程後に得られるLys87の純度を改善するために、Lys87をAKTA FPLCクロマトグラフィーシステムを使用してさらに精製した。精製工程中に溶出する試料は、望まれないタンパク質の数の減少及び溶解素の量の増加を示していた(
図7a及び7b)。
【実施例3】
【0140】
Lys87の溶菌活性の解析
封入体から単離された不純なLys87とAKTA FPLCシステムを使用して精製されたLys87の両方を、グラム陽性菌のいくつかの臨床分離株において溶菌活性について試験した。前記アッセイは、実験法の項に記載されているプロトコールに従って実施した。表IIは、封入体から単離されたLys87が、連鎖球菌種を除いて試験されたグラム陽性菌のすべてにおいて増殖を阻害したことを示している。予想通りに、溶解素はグラム陰性菌の大腸菌に対しては溶菌活性を示さなかった。表IIIは、AKTA FPLCシステムを使用して単離された精製されたLys87が、表IIの分離株のサブセットを使用して封入体から単離される不純なLys87と同じ範囲の溶菌活性を有することを立証している。
【0141】
【表2】
【0142】
【表3】
【実施例4】
【0143】
黄色ブドウ球菌に対するLys87のMICの決定
分離株77を使用して、黄色ブドウ球菌におけるLys87の最小阻害濃度(MIC)を決定した。前記アッセイは実験法の項に記載されているプロトコールに従って実施した。黄色ブドウ球菌に対するLys87のMICは、30mg/mlであると決定した。
【実施例5】
【0144】
液体培養におけるLys87の溶菌活性
液体培地中のLys87の溶菌活性の評価は、上記方法に従って実施した。精製されたLys87の50mg/mlの濃度は、液体培養における黄色ブドウ球菌の増殖を阻害するのに十分であることが分かった。結果は表IVに示されている。
【0145】
【表4】
【実施例6】
【0146】
キメラ遺伝子の構築
lys87の細胞壁結合ドメイン(cell wall binding domain、CWBD)コード配列と融合されたLys170又はLys168のCDドメインのコード配列を担うキメラエンドリシン遺伝子lys170−87及びlys168−87をそれぞれ構築した。Overlap-Extension by polymerase Chain Reaction(OE−PCR)の技法が使用された。例えば、Ho, S.N., Hunt, H. D., Horton, R.M., Pullen, J.K., and Pease, L.R. (1989). Site-Directed mutagenesis by overlap extension using the polymerase chain reaction. Gene. 77: 51-59を参照されたい。
図9及び10は、キメラ遺伝子のヌクレオチド配列及びこうして得られた産物の一次配列の詳細を描いている。具体的には、
図9a及び9bは、キメラ構築物溶解素170−87の核酸配列(配列番号3)及びそのコードされたアミノ酸配列(配列番号4)をそれぞれ示している。遺伝子lys170由来の配列は太字であり、遺伝子lys87由来の配列は標準文字であり、ベクター生まれの配列は斜字体である。同様に、
図10a及び10bは、キメラ構築物溶解素168−87の核酸配列(配列番号5)及びそのコードされたアミノ酸配列(配列番号6)をそれぞれ示している。遺伝子lys168由来の配列は太字であり、遺伝子lys87由来の配列は標準文字であり、ベクター生まれの配列は斜字体である。
【実施例7】
【0147】
Lys170−87及びLys168−87の発現及び精製
キメラ遺伝子lys170−87及びlys168−87は、誘導性プロモーターP
T7の制御下の発現ベクターpIVEX2.3d(Roche Applied Science社製)にクローニングし、それぞれ組換えプラスミドpSF170-87及びpSF168-87を生じた。これらの構築物から産生されるキメラエンドリシンは、ベクターにコードされた11アミノ酸残基(PGGGSHHHHHH)のC末端伸長を示し、この残基は酵素の免疫検出及び親和性精製のために用いられるヘキサヒスチジンテイルとリンカー領域を構成する(
図9及び10)。
【0148】
これらのコンストラクトを使用して、発現株CG61を形質転換した(Sao-Jose, C., Parreira, R., Vieira, G. and Santos, M.A. (2000))。オエノコッカス・オエニ(Oenococcus oeni)バクテリオファージfOg44溶解素のN末端領域は、大腸菌における本物のシグナルペプチドとして、及びオエノコッカス細胞上での溶菌活性を妨げるシス阻害エレメントとして振る舞い(J. Bacteriol. 182: 5823-5831)、この細胞はプラスミドpGP1-2を担っておりそれが熱誘導によりT7RNAポリメラーゼの供給源を提供する。こうして得られた株(SF170−87及びSF168−87)は、600nmでの培養物光学密度(OD
600)が0.8〜1.0に到達するまで100μg/mlのアンピシリン及び30μg/mlカナマイシンを補充したLB培地で増殖させた。この時点で、培養物は熱誘導され(攪拌しながら42℃で30分間)、次に16℃で14時間インキュベートに供された。
【0149】
細胞は遠心分離により回収し、1/50容積の溶解素緩衝液A(20mM Heppes pH6.5、500mM NaCl、1%グリセロール、1mM DTT及び20mMイミダゾール)に再懸濁した。細胞は超音波処理により破壊され、可溶性画分は、FPLCシステム(AKTA、GE Heathcare社製)に連結させたHisTrap(商標)HP(GE Healthcare社製)への適用前に0.22μmのフィルターでろ過した。カラムは、先ず10〜15カラム容積の溶解素緩衝液Aを用いて洗浄し、次に同容積の溶解素緩衝液B(イミダゾールが50mMの濃度であること以外、緩衝液Aと同一組成)を用いて洗浄した。カラムに結合したタンパク質は再び、イミダゾールが500mMの濃度であること以外、緩衝液Aと同一組成を有する溶出緩衝液を用いて1ステップで溶出させた。純粋な酵素を含有する画分を貯め、濃縮し、HiTrap(商標)脱塩カラム(GE Healthcare社製)を使用して酵素貯蔵緩衝液(50mM Pho−Na pH6.5、500mM NaCl、25%グリセロール、1mM DTT)に変えた。純粋なキメラエンドリシンの調製物は使用するまで−20℃で維持された。
【0150】
上記の方法論により、可溶性形態での大量のキメラ酵素の産生が可能になった。精製プロトコール後、高度に純粋な状態で高収率の酵素が得られた(
図11a及び11b)。
【実施例8】
【0151】
Lys170−87及びLys168−87溶菌活性の解析
キメラエンドリシンの溶菌活性を調べるために、5μl容積での純粋な酵素の異なる量(10、5、1及び0.2μg)を、生存可能な標的細菌を含有する軟寒天培地表面にスポットした(全部で123株を試験した)。異なる標的細菌を、適切な培地でOD
600=0.8〜1.0まで増殖させ、新しい培地で100倍に濃縮した。この細胞懸濁液の100マイクロリットルを10mlの軟寒天培地(25mM リン酸ナトリウム緩衝液pH6.5、250mM NaCl、0.7%寒天)に取り込み、ペトリ皿に流した。この手順であれば、標的細菌の均質で高密度な菌叢が保証された。様々な酵素量を用いて得られる相対的溶菌活性は、37℃での一晩のインキュベーション後、溶解ハローの寸法及び透明度を記載することにより定性的に評価した。
【0152】
試験された細菌株は、101株の黄色ブドウ球菌(そのうちの39%がMRSAであった)、5株の表皮ブドウ球菌、3株のS.ヘモリチカス、3株のS.サプロフィチカス、4株のエンテロコッカス種、1株のミクロコッカス・ルテウス、2株の化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、1株の枯草菌、1株のバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)及び2株の大腸菌であった。これらの細菌株は、ミクロコッカス及びバチルス株(ATCC株)を除いて、異なったポルトガルの病院及び臨床環境において臨床試料(血液、尿、皮膚病変及び医療機器を含む)から2005〜2009年中に単離された。
【0153】
黄色ブドウ球菌株566/07に対するLys170−87及びLys168−87の溶菌活性も液体培地(25mM リン酸ナトリウム緩衝液pH6.5、250mM NaCl)において評価された。黄色ブドウ球菌株566/07の培養物は、対数増殖期(OD
600=0.3〜0.4)まで増殖させ、遠心分離により回収し、液体培地で2倍に濃縮した。次に、各精製された酵素の10マイクログラム(5μl容積中)を1mlのこの細胞懸濁液に添加し、細胞溶解はエンドリシン添加後の異なる時点でOD
600値を記録することによりモニターした。5μlの酵素貯蔵緩衝液を添加された1ミリリットルの細胞懸濁液は陰性対照の働きをした。
【0154】
軟寒天培地に取り込まれた生存可能な細菌を溶解するキメラ酵素の能力は上記の通りに評価した。手短に言えば、異なった量の酵素を生存可能な標的細菌(試験された123細菌株)の高密度の菌叢上にスポットし、溶菌活性を37℃での一晩のインキュベーション後の溶解ハローの外見によりモニターした。
図12は、得られた結果の数例を示している。
【0155】
前記結果は、キメラ溶解素が、予想通りにグラム陰性菌種の大腸菌を除いて、試験された細菌種すべての株を溶解することができることを示していた(表V及びVI)。表Vは、123の細菌株におけるLys1680−87及びLys170−87の相対的活性を示している。
【0156】
【表5】
【0157】
表Vでは、「溶菌活性
a)」は、キメラ酵素の溶菌作用に対する各株の感受性を示しており、この感受性は、濁り/小(+/−)から澄んだ/大(+++)溶解ハローまでの範囲の相対的尺度に基づいて評価し、溶菌作用に対する耐性は(−)として示されている。1518/05
b)は、ファージF168/08の宿主株を表し、926/05
c)は、ファージ170/08の宿主株を表している。特に、試験された40のMRSA株のうち、1つ(862/06)だけが両酵素に対して耐性を示した(表V)。興味深いことに、上記の通りに両酵素の活性を黄色ブドウ球菌株566/07に対して液体培地中で試験した場合、Lys170−87はLys168−87と比べるとより高い溶菌効率を示しており(
図13)、軟寒天培地で得られた結果と対照的であった(表V)。
【0158】
下の表VIは、Lys168−87とLys170−87の溶菌活性を比較している。
【0159】
【表6】
【0160】
溶菌活性(%)
a)は、試験された異なった量のLys168−87及びLys170−87の溶菌作用に感受性の各細菌種の株の割合を示す。Lys170−87及びLys168−87が主要標的とするようデザインされた黄色ブドウ球菌株を考えると、試験された株の90%以上が10μgのどちらの溶解素の溶菌作用に対しても感受性であることが観察された(表VI)。記載された実験条件及び同量の酵素では、Lys168−87はLys170−87と比べると黄色ブドウ球菌に対してより強い溶菌作用を示しているように思われた(表VI)。
【0161】
特定の組成物、検出のための方法、活性の供給源、有効性の提案、その他同類のものに関して記載してきたので、添付の特許請求の範囲により定義されているように、本発明がそのような実例となる実施形態又は機構により限定されることを意図しておらず、本発明の範囲又は精神から逸脱することなく修正を加えることができることは、当業者には明らかであろう。そのような明白な修正及び変化すべてが添付の特許請求の範囲により定義されている本発明の範囲内に含まれることは意図されている。いずれの実施形態由来の上記の1又は2以上の要素のうちのいずれも、他のいずれの実施形態中のいずれの1又は2以上の要素とも組み合わせることが可能であることは理解されるはずである。さらに、範囲が言及されている場合、その範囲に含まれるいずれの実数も予期されるエンドポイントであることが企図されていることは理解されるはずである。例えば、0.9〜1.1g/kgの範囲が与えられている場合、その範囲に含まれるいずれの実数値(例えば、0.954〜1.052g/kg)も、たとえそれらの値がはっきりと言及されていなくても、本発明の亜属範囲として予期されていることが企図されている。本明細書において参照される参考文献はすべて、参照によりその全体を組み込まれている。最後に、上の説明は本発明を限定すると解釈されるべきではなく、むしろ本発明は下の特許請求の範囲により定義されるはずである。