特許第5732423号(P5732423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5732423ゲル状物含有組成物の製造方法および食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732423
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】ゲル状物含有組成物の製造方法および食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/06 20060101AFI20150521BHJP
   A23L 1/05 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   A23L1/06
   A23L1/04
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-72690(P2012-72690)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-201938(P2013-201938A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100119091
【弁理士】
【氏名又は名称】豊山 おぎ
(72)【発明者】
【氏名】田中 学
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 英樹
(72)【発明者】
【氏名】若尾 庄児
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−17272(JP,A)
【文献】 特開2004−194661(JP,A)
【文献】 特開2005−328768(JP,A)
【文献】 特開平10−99030(JP,A)
【文献】 特開2009−160526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/00−1/06
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、2価金属イオンと、2価金属イオンと反応してゲル化するゲル化剤と、増粘剤とを含む原料液を調製する原料液調製工程と、
該原料液中の前記ゲル化剤をゲル化させるゲル化工程を有し、
前記ゲル化剤が脱アシル型ジェランガムであり、
前記原料液調製工程が、少なくとも水と2価金属イオンを含む2価金属イオン含有液に、粉末状の脱アシル型ジェランガムを添加する工程を有し、
前記ゲル化工程において、前記原料液を90℃以上に加熱した後、流動させながら40℃以下に冷却して、粒状のゲル状物を含有し、10℃での粘度が1000mPa・s以上、2000mPa・s以下であるゲル状物含有組成物を形成することを特徴とする、ゲル状物含有組成物の製造方法。
【請求項2】
前記増粘剤が、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラヤガム、キサンタンガム、およびグァーガムからなる群より選ばれる1種以上の増粘剤である、請求項1記載のゲル状物含有組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法でゲル状物含有組成物を製造する工程と、
10℃以下で流通される食品と、前記ゲル状物含有組成物とを積層させる工程を有する、食品の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の製造方法でゲル状物含有組成物を製造する工程と、
これとは別に10℃以下で流通されるゲル状食品のゲル化前混合液を調製する工程と、
前記ゲル化前混合液に前記ゲル状物含有組成物を混合した後、該ゲル化前混合液をゲル化させる工程を有する、食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果物の果実(果肉)に似た食感を有するゲル状物を含み流動性を有するゲル状物含有組成物の製造方法、およびこれを用いた食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばケーキ、プリン、ゼリー等のデザート類に用いられるフルーツソースは、果物由来の特徴的な風味や香りを有するものが好まれる。中でも果物の果実(果肉)を含むフルーツソースはその果実(果肉)由来の風味や食感を得ることができるため、付加価値が大きい。しかしながら、果実は、季節性、保存性、形状変化(果肉崩れ)、価格等の面で不安定であり、果実を原料として継続的に安定して使用することは容易でない。
【0003】
下記特許文献1には、水中でローメトキシル(LM)ペクチンと二価金属イオンとを反応させると粒々状の比較的固いゲル状物が生じること、該ゲル状物が水中に配合または分散されてなる液状組成物は、あたかも果物の果肉小片または果肉繊維が含まれているような食感を呈し、擬似果肉配合ソース等として使用できることが記載されている。
また特許文献1には、LMペクチンの粉末と、脱アシル型ジェランガム等のマイナス電荷を有するゲル化剤の粉末とを混合して用いると、脱アシル型ジェランガム等とカルシウムイオンとの反応により形成されるゲル状組織の中に、LMペクチンとカルシウムイオンとの反応により形成される粒状のゲル状物が分散された、ゲル状食品が得られることが記載されている。
【0004】
下記特許文献2には、ジェランガムとLMペクチンを含むゲル化剤を水に加え、加熱撹拌溶解し、得られた溶液に2価の金属イオンを含む水溶液を滴下することにより、溶液中にLMペクチンと2価の金属イオンの反応物であるゲル状物を形成させた後、この混合液を冷却して全体をゲル化することにより、果肉食感を有するゼリーを製造する方法が記載されている。
下記特許文献3には、水にジェランガムを分散させてから約90℃まで湯煎で加熱して溶解した後、金属イオン封鎖剤であるクエン酸三ナトリウムと、2価の金属塩である乳酸カルシウムを加えて撹拌した後、冷却して透明なゲルを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−194661号公報
【特許文献2】特開平8−256705号公報
【特許文献3】特開平10−248505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている、LMペクチンと脱アシル型ジェランガムを併用してゲル状食品を製造する方法、特許文献2に記載されているゼリーの製造方法、および特許文献3に記載されている透明ゲルの製造方法は、いずれも流動性を有しないゲル状食品を製造する方法である。
特許文献1には、脱アシル型ジェランガム等のマイナス電荷を有するゲル化剤を用いず、LMペクチンのみを用いて、擬似果肉配合ソース等として使用可能な粒状のゲル状物を含有し流動性を有する液体組成物を製造できることが記載されている。
しかしながら、本発明者等の知見によれば、このようにLMペクチンを用いて製造した擬似果肉配合ソース等の液体組成物を使用して製造した食品にあっては、食品の陳列・販売期間中(例えば食品の製造後1〜7日程度の間)に該液体組成物が顕著に増粘する場合がある、という問題があった。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、果物の果実(果肉)に似た食感を有する粒状のゲル状物を含み、流動性を有し、物性の経時的安定性が良好なゲル状物含有組成物を製造する方法、およびゲル状物含有組成物を用いて食品を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のゲル状物含有組成物の製造方法は、水と、2価金属イオンと、2価金属イオンと反応してゲル化するゲル化剤と、増粘剤とを含む原料液を調製する原料液調製工程と、該原料液中の前記ゲル化剤をゲル化させるゲル化工程を有し、
前記ゲル化剤が脱アシル型ジェランガムであり、
前記原料液調製工程が、少なくとも水と2価金属イオンを含む2価金属イオン含有液に、粉末状の脱アシル型ジェランガムを添加する工程を有し、
前記ゲル化工程において、前記原料液を90℃以上に加熱した後、流動させながら40℃以下に冷却して、粒状のゲル状物を含有し、10℃での粘度が1000mPa・s以上、2000mPa・s以下であるゲル状物含有組成物を形成することを特徴とする。
【0009】
前記増粘剤が、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラヤガム、キサンタンガム、およびグァーガムからなる群より選ばれる1種以上の増粘剤であることが好ましい。
【0010】
本発明は、本発明の製造方法でゲル状物含有組成物を製造する工程と、
10℃以下で流通される食品と、前記ゲル状物含有組成物とを積層させる工程を有する、食品の製造方法を提供する。
【0011】
本発明は、本発明の製造方法でゲル状物含有組成物を製造する工程と、
これとは別に10℃以下で流通されるゲル状食品のゲル化前混合液を調製する工程と、
前記ゲル化前混合液に前記ゲル状物含有組成物を混合した後、該ゲル化前混合液をゲル化させる工程を有する、食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、果物の果実(果肉)に似た食感を有する粒状のゲル状物を含み、流動性を有し、物性の経時的安定性が良好な、ゲル状物含有組成物、および該ゲル状物含有組成物を用いた食品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明にかかるゲル状物含有組成物を用いた食品の一例を模式的に示した断面図である。
図2】本発明にかかるゲル状物含有組成物を用いた食品の他の例を模式的に示した断面図である。
図3】実施例および比較例にかかるゲル状物含有組成物の経時的粘度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明におけるゲル状物含有組成物の粘度の値は、B型粘度計にて、回転数60rpm、ローターNo.3または4を使用して測定した値である。
【0015】
<ゲル状物含有組成物の製造方法>
[水]
本発明のゲル状物含有組成物の製造方法で用いられる水は、特に限定されず、水道水や脱イオン水等を用いることができる。水道水には通常、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンが含まれる。水に含まれるカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンの合計量は、公知の水の硬度測定方法により測定できる。水の硬度は、水に含まれるカルシウムイオンとマグネシウムイオンの量を炭酸カルシウムの量に換算した値である。
【0016】
[2価金属イオン]
本発明で用いられる2価金属イオンは、脱アシル型ジェランガムと反応してゲル化を生じるものであればよい。好ましくはカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンである。風味および扱い易さ等の点でカルシウムイオンがより好ましい。
2価金属イオンの一部または全部は、2価金属イオン源である水溶性の塩を水に溶解して生じる2価金属イオンであることが好ましい。2価金属イオン源として、水溶性のカルシウム塩および/または水溶性のマグネシウム塩を用いることが好ましい。これらは食品に使用可能な公知のものを適宜用いることができる。
水溶性のカルシウム塩の具体例としては、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、クエン酸カルシウム等が挙げられる。特に、食品の原料として広く使用されている乳酸カルシウムが好ましい。
水溶性のマグネシウム塩の具体例としては、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム等が挙げられる。特に、風味や扱い易さの点で塩化マグネシウムが好ましい。
【0017】
[ゲル化剤]
一般に、2価金属イオンと反応してゲル化するゲル化剤としては、脱アシル型ジェランガムのほかに、例えばペクチン、アルギン酸塩等があるが、本発明では脱アシル型ジェランガムのみを用いる。脱アシル型ジェランガムは、ゲル化剤として市販されているものを使用できる。2価金属イオン存在下での脱アシル型ジェランガムのゲル化温度は30〜40℃である。
【0018】
[増粘剤]
本発明で用いられる増粘剤は、2価の金属イオンと反応せず、水に溶解して粘稠性を生じる高分子物質である。物性が良好なゲル状物含有組成物が得られやすい点で、増粘剤として、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラヤガム、キサンタンガム、およびグァーガムからなる群より選ばれる1種以上の増粘剤を用いることが好ましい。
【0019】
[その他の成分]
その他の成分として、糖類、果汁等の食品や、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料等の食品添加物など、食品の分野で公知の添加成分を本発明の効果を損なわない範囲で用いることができる。
糖類としては、例えば砂糖(上白糖、グラニュー糖)、水あめ、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖等が挙げられる。
甘味料としては、トレハロース、パラチノース、D−キシロース等の糖類;キシリトール、ソルビトール、マルチロール、エリスリトール等の糖アルコール類;サッカリンナトリウム、サイクラメート及びその塩、アセスルファムカリウム、ソーマチン、アスパルテーム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、ステビア抽出物に含まれるステビオサイドなどの高甘味度甘味料;等が挙げられる。
酸味料としては、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等を用いることができる。
調味料としては、クエン酸ナトリウム、等を用いることができる。
【0020】
[原料液調製工程]
原料液調製工程では、水と、2価金属イオンと、脱アシル型ジェランガム(ゲル化剤)と、増粘剤とを含む原料液を調製する。一般に、脱アシル型ジェランガムは2価金属イオンを含む溶媒には水和し難く、溶解し難いことが知られているが、本発明では、少なくとも水と2価金属イオンを含む2価金属イオン含有液を先に調製しておき、該2価金属イオン含有液に粉末状の脱アシル型ジェランガムを添加して分散させる。
増粘剤は、脱アシル型ジェランガムを添加する前の2価金属イオン含有液に含有させてもよく、脱アシル型ジェランガムと同時に2価金属イオン含有液に添加してもよく、2価金属イオン含有液に脱アシル型ジェランガムを添加した後に添加してもよく、これらを組み合わせてもよい。
その他の成分は、脱アシル型ジェランガムを添加する前の2価金属イオン含有液に含有させてもよく、脱アシル型ジェランガムと同時に2価金属イオン含有液に添加してもよく、2価金属イオン含有液に脱アシル型ジェランガムを添加した後に添加してもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0021】
具体的には、まず、水(溶解水)と2価金属イオン源、および必要に応じて2価金属イオン含有液に含有させる成分とを混合し、これらを均一に溶解または分散させて2価金属イオン含有液を調製する。溶解水に複数の成分を添加する場合、その添加順序は限定されない。溶解水の温度は特に限定されず、常温(15〜25℃程度)とすることができる。
【0022】
原料液中の2価金属イオンの含有量によって、得られるゲル状物含有組成物中のゲル状物のゲル強度が変化する。2価金属イオンの含有量がある程度までは、該含有量が多くなると該ゲル状物のゲル強度が高くなる傾向がある。多すぎると風味を損なう場合もある。したがって、該2価金属イオンの含有量は、ゲル状物の良好な固さと大きさが得られる範囲で設定することが好ましい。
原料液の調製に用いる全原料(溶解水も含む)の100g当たりに含まれる2価金属イオンの質量が、3.0〜130mg/100gであることが好ましく、5.0〜100mg/100gであることがより好ましく、10〜50mg/100gがさらに好ましい。
原料液中の2価金属イオンがカルシウムイオンのみである場合、原料液の調製に用いる全原料(溶解水も含む)の100g当たりに含まれるカルシウムイオンの質量が、3.0〜130mg/100gであることが好ましく、7.0〜70mg/100gがより好ましく、13.0〜39.0mg/100gが特に好ましい。
原料液中の2価金属イオンの全部が乳酸カルシウム由来のカルシウムイオンである場合、原料液の調製に用いる全原料の質量合計に対して、乳酸カルシウムの含有量が0.02〜1.0質量%であることが好ましく、0.05〜0.5質量%がより好ましく、0.1〜0.3質量%が特に好ましい。
【0023】
次に、2価金属イオン含有液を撹拌しながら粉末状の脱アシル型ジェランガムを添加し、均一に分散させて原料液を調製する。このとき、脱アシル型ジェランガムと、粉末状の糖類等のその他の成分とを混合した混合粉末を添加してもよい。脱アシル型ジェランガムを添加し分散させた後に、必要に応じてその他の成分を添加し混合して原料液を調製してもよい。
原料液中の脱アシル型ジェランガムの含有量によって、ゲル状物含有組成物中におけるゲル状物の固さおよび量が変化する。
【0024】
ゲル状物含有組成物における粒状のゲル状物の含有量は、ゲル状物が組成物中に含まれているのが、目視にて確認できる程度以上であればよく、容易に確認できる程度が好ましい。概ねゲル状物含有組成物中の粒状のゲル状物の含有量が、ゲル状物含有組成物の質量に対して25質量%以上であると目視にて容易に確認できる。
一方、脱アシル型ジェランガムを多くすると、ゲル状物含有組成物中の粒状のゲル状物の含有量は多くなる傾向があるが、粒状のゲル状物が多すぎると良好な食感が得られなかったり、脱アシル型ジェランガムが多すぎると後述のゲル化工程で粒状のゲル状物が生成せず原料液全体がゲル化する場合もある。
良好な食感が得られやすい点で、ゲル状物含有組成物中の粒状のゲル状物の含有量は50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0025】
粒状のゲル状物の固さおよび量が良好で、食感が良好なゲル状物含有組成物が得られやすい点で、原料液中の脱アシル型ジェランガムの含有量は、原料液の調製に用いる全原料の質量合計に対して0.1〜1.2質量%が好ましく、0.2〜1.0%がより好ましく、0.3〜0.7質量%が特に好ましい。
【0026】
原料液中の増粘剤の種類と含有量によってゲル状物含有組成物の粘度が変化し、これによってゲル状物の大きさおよび量が変化する。
後述のゲル化工程で得られるゲル状物含有組成物の、10℃での粘度が1000mPa・s以上、2000mPa・s以下となるように、増粘剤の種類と含有量を調整すると、ゲル状物含有組成物中の粒状のゲル状物の大きさおよび量が良好な範囲で得られやすく、良好な食感が得られやすい。
ここで、本発明における「ゲル状物含有組成物の10℃での粘度」とは、測定温度が10℃であるときの粘度を意味する。すなわち、仮にゲル状物含有組成物の粘度を10℃以外の測定温度で測定したときの値が1000mPa・s以上、2000mPa・s以下の範囲外にあったとしても、測定温度10℃のときの粘度に換算したときに、その値が上記範囲に含まれるゲル状物含有組成物は、本発明における「10℃での粘度が1000mPa・s以上、2000mPa・s以下であるゲル状物含有組成物」に該当する。
本発明における原料液中の増粘剤の好ましい組み合わせおよび含有量として、例えば以下の組成が挙げられる。
ローカストビーンガム0.1〜0.8質量%、タマリンドシードガム0.1〜0.8質量%、合計0.2〜1.6質量%の組み合わせ。
グアーガム0.1〜0.8質量%、キサンタンガム0.05〜0.2質量%、合計0.15〜1.0質量%の組み合わせ。
【0027】
原料液の固形分濃度(溶解水以外の成分の合計の含有量)は、10〜40質量%が好ましく、20〜30質量%がより好ましい。上記範囲内であるとゲル状物の適度な固さが得られ、良好な食感が得られる。
【0028】
[ゲル化工程]
(加熱工程)
ゲル化工程では、まず原料液調製工程で調製した原料液を90℃以上の加熱温度に加熱する。原料液調製工程で得られる原料液において脱アシル型ジェランガムは溶解しておらず、該原料液を90℃以上に加熱することによって脱アシル型ジェランガムを溶解することができる。原料液中で脱アシル型ジェランガムが水和して溶解することにより、該原料液中の2価金属イオンと反応し得る状態となる。
加熱温度は、脱アシルジェランガムをより十分に溶解するために、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。原料液を加圧することで原料液の沸点以上の温度に加熱することができる。該加熱温度の上限は、原料液の粘度および香味が良好になりやすい点で140℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。
原料液の加熱は、原料液を流動させながら行うことが好ましい。例えば原料液を撹拌する方法で流動させてもよく、管状の流路に原料液を流す方法で流動させてもよい。
前記加熱温度に保持する時間(保持時間)は、脱アシルジェランガムを溶解できる時間あればよい。例えば加熱温度が100℃を超える場合、保持時間は1秒以上が好ましく、2秒以上がより好ましい。加熱時間の上限は、料液の粘度および香味が良好になりやすい点で10秒以下が好ましく、5秒以下がより好ましい。
【0029】
(冷却工程)
次いで、加熱工程を終えた原料液を、流動させながら40℃以下の冷却温度まで冷却する。原料液を所定の加熱温度に所定時間保持した後、直ちに原料液の液温を降下させるための冷却操作を開始することが好ましい。
前記加熱によって脱アシル型ジェランガムが溶解した原料液が40℃以下に冷却されることによって、脱アシル型ジェランガムと2価金属イオンとが急速に反応してゲル化を生じる。原料液は増粘剤を含むため粘稠性を有しており、かつ流動している。したがって、粘稠性を有する原料液中でゲルが生成すると同時に、流動によるせん断力を受けて該ゲルが粉砕され、粒状のゲル状物を有するゲル状物含有組成物が形成される。
冷却温度は、ゲル化が良好に進んで、強固で果肉様の食感が良好なゲル状物が得られやすい点で、30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。冷却温度の下限値は、得られたゲル状物含有組成物の保存温度以上が好ましい。
【0030】
冷却工程では急速に冷却することが、強固で果肉様の食感が良好なゲル状物が得られやすい点で好ましい。冷却工程における冷却速度は8.0℃/分以上が好ましく、8.5℃/分以上がより好ましく、9.0℃/分以上がさらに好ましく、10.0℃/分以上が特に好ましい。該冷却速度の上限は特に限定されず、設備的に実現しやすい範囲とすることができる。例えば20℃/分以下が好ましく、15℃/分以下がより好ましい。
本明細書における冷却工程とは、原料液の液温を降下させるための操作が継続されている期間を意味する。冷却工程における冷却速度は一定でもよく、途中で変化してもよい。一定であることがより好ましい。変化する場合は、上記の冷却速度の好ましい範囲内で変化することが好ましい。
【0031】
冷却工程における流動は、該流動によるせん断力によって、原料液中で生成するゲルが良好に粉砕されるように行う。原料液を流動させる方法は、例えば原料液を撹拌する方法で流動させてもよく、管状の流路に原料液を流す方法で流動させてもよい。冷媒ジャケットを備えた冷却管内を流す方法が、冷却速度を高くしやすい点で好ましい。
例えば、内径2.0インチ(50.8mm)の管(冷却管)に1,000〜10,000L/時間の流量で流す方法、またはこれと同等のせん断力が生じる方法が好ましい。
【0032】
本発明におけるゲル化工程、すなわち前記加熱工程および冷却工程は、殺菌工程を兼ねることができる。
例えば、ゲル化工程をチューブラー殺菌機を好適に用いて行うことができる。具体的にはチューブラー式殺菌機内の加熱部で110〜140℃、1〜10秒間の加熱殺菌を行った後、冷媒ジャケットを備えた冷却管内を流れる間に所定の冷却温度にまで急速に冷却して、殺菌機の出口から目的のゲル状物含有組成物を排出させる方法を用いることができる。
【0033】
冷却工程を終えて得られたゲル状物含有組成物は、必要に応じて保冷タンク等に移送されて所定の保存温度で保存された後、食品の製造に使用される。
ゲル状物含有組成物が保存される場合の保存温度、およびこれを用いて製造された食品が流通され、喫食されるまでの温度(製品の温度)は0〜15℃の範囲内が好ましく、0〜10℃がより好ましい。該保存温度が上記範囲内であると良好な風味が得られやすく、品質の劣化も生じ難い。
冷却工程における冷却温度よりも保存温度が低い場合は、保存工程中にゲル状物含有組成物は緩やかに冷却される。
【0034】
このようにして得られるゲル状物含有組成物は、流動性を有する媒体中に、粒状のゲル状物が分散している組成物であり、10℃での粘度が1000mPa・s以上、2000mPa・s以下である。
該粒状のゲル状物は、脱アシル型ジェランガムと2価金属イオンの反応により生成した、比較的弾力性が低い強固なゲルからなり、果物の果実(果肉)に似た食感(擬似果肉食感)を有する。
本明細書における粒状とは、塊状のゲルが粉砕された状態を意味し、形状は限定されない。例えば小片状、鱗片状、砕片状等であってもよい。ゲル状物含有組成物中に存在する粒状のゲル状物の粒径は、1〜5mmの範囲内であることが好ましく、1〜3mmの範囲内がより好ましい。該粒径は不均一であってよい。粒状のゲル状物の粒径が上記の範囲内であると果物の果実(果肉)に似た食感が良好に得られやすい。なお本明細書における粒状のゲル状物の大きさは、ゲル状物含有組成物から粒状のゲル状物を分離して粒径を測定し、10個の粒の平均値で表した粒径である。
本発明によれば、例えば、すりおろしリンゴ様、または大根おろし様のゲル状物含有組成物が得られる。
脱アシル型ジェランガムと2価金属イオンの反応により生成するゲルは、融解温度が100℃以上であり、熱不可逆性である。したがってゲル状物含有組成物を喫食した際に、粒状のゲル状物が口腔内で軟化せず、飲み込むまで果肉様の食感を維持することができる。
【0035】
本発明の製造方法で得られるゲル状物含有組成物は、後述の実施例に示されるように、乳成分などカルシウムを含む成分の存在下においても、保存中に増粘せず物性の経時的安定性が良好である。
したがって、カルシウムが含まれる食品に積層または錬り込んで使用することができ、保存安定性を損なわずに擬似果肉食感を付与することができる、という利点を有する。
【0036】
<食品の製造方法>
本発明で得られるゲル状物含有組成物は、擬似果肉食感を有するフルーツソースとして、10℃以下で流通される食品の製造に好適に用いることができる。例えば包装容器に収納されたゲル状食品(プリン、ゼリー、ババロア、ブラマンジェ等)に含有させるソースまたはトッピング用ソース;ケーキ類等のトッピング用ソース等として好適に用いることができる。
【0037】
本発明の食品の製造方法の第1の形態は、10℃以下で流通される食品を公知の方法で製造し、該食品と、本発明の方法で製造したゲル状物含有組成物とを積層させる方法である。
例えば図1に示すように、冷却によってゲル化するゲル化剤を含むミルクプリンベース液11を、カップ1内に充填した後、冷却してゲル化(固化)させてミルクプリン(10℃以下で流通される食品)11aを製造し、その上にゲル状物含有組成物からなるフルーツソース12を積層させる方法で、プリン製品が得られる。
【0038】
本発明の食品の製造方法の第2の形態は、10℃以下で流通されるゲル状食品のゲル化前混合液を公知の方法で調製し、これに本発明の方法で製造したゲル状物含有組成物を混合した後、該ゲル化前混合液をゲル化させる方法である。
ゲル化前混合液とは、冷却によってゲル化するゲル化剤と、その他の原料を含み、冷却してゲル化させることによって、10℃以下で流通されるゲル状食品となるものである。
例えば図2に示すように、冷却によってゲル化するゲル化剤を含むゼリーベース液(ゲル化前混合液)に、ゲル状物含有組成物からなるフルーツソースを混合したものを、カップ1に充填して冷却してゲル化させることにより、ゼリー21の内部に、擬似果肉食感を持つゲル状物22が分散されたゼリー製品が得られる。
ゼリーベース液(ゲル化前混合液)にゲル状物含有組成物を混合する際の、ゼリーベース液の液温は、ゼリーベース液中のゲル化剤のゲル化温度以上とする。使用するゲル化剤にもよるが、例えばゲル化剤が寒天を含む場合には、50〜80℃が好ましく、60〜70℃がより好ましい。前述したように、ゲル状物は熱不可逆性であるから、かかる混合によるゲル状物の形状変化は生じ難い。
ゼリーベース液(ゲル化前混合液):ゲル状物含有組成物の混合比(質量比)は特に限定されないが、例えば90:10〜20:80が好ましく、80:20〜30:70がより好ましい。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[試験例1]
本例では、2価金属イオン、脱アシル型ジェランガム、増粘多糖類を溶解させる順序を変えてフルーツソース(ゲル状物含有組成物)を製造した。
すなわち表1に示す配合でフルーツソースを調製した。表1における原料(a1)は粉末状の乳酸カルシウム(Caイオン含有量130mg/1g)であり、原料(b1)は粉末状の脱アシル型ジェランガムと、砂糖(グラニュー糖)の混合物であり、原料(c1)は粉末状のローカストビンガムと粉末状のタマリンドガムと砂糖(グラニュー糖)の混合物であり、原料(d1)は水あめ、りんご果汁、アップルフレーバー、粉末状のリンゴ酸、および粉末状のクエン酸ナトリウムの混合物である。
表1に示す原料のうち2価金属イオン源は乳酸カルシウム(カルシウムイオン源)である。乳酸カルシウム以外の原料に含まれる2価金属イオンは、乳酸カルシウム由来のカルシウムイオンに比べて微量であり影響がないため、表中のカルシウムイオン含有量には含めていない(以下、同様)。
【0040】
表2に示す添加順序A〜Fで、常温(約20℃)の脱イオン水に原料(a1)〜(d1)を、所定の順序で添加混合して原料液を得た。例えば添加順序Aでは、まず水に原料(a1)を添加し撹拌して溶解または分散させた後に、原料(b1)を添加し撹拌して溶解または分散させ、さらに原料(c1)、(d1)も同様にして順次に溶解または分散させた。なお、本発明者等の知見によれば、原料(d1)はどの段階で添加しても製品の物性に影響を及ぼさない成分であり、本例では最後に添加した。
得られた原料液をチューブラー式殺菌機で120℃、2秒間の加熱殺菌を行い、20℃まで冷却した。チューブラー式殺菌機から排出されたフルーツソース(ゲル状物含有組成物)を、保冷タンク内で攪拌しながら10℃まで冷却した。評価には保冷タンク内のフルーツソースを用いた(以下、同様)。
チューブラー式殺菌機内において原料液は加圧された状態となっており、加熱部で120℃、2秒間の加熱殺菌が施された後、冷却部において、内径2.0インチ(50.8mm)の冷却管内を、2000L/時間の流量で9分間かけて流れる間に、冷媒ジャケットの冷却水との熱交換により冷却され、殺菌機の出口近傍で大気圧に減圧されるようになっている。本例において、冷却部における冷却水の温度は、殺菌機の出口から排出された直後の出口温度が20℃となるように設定されている。
【0041】
(評価)
表3に示すミルクプリンの原料を混合溶解し、90℃10分の加熱殺菌を行い、続けてホモジナイザーで15Mpaの条件で均質化し、10℃に冷却してミルクプリンベース液を調製し、タンクに冷却保持した。
表3で用いたゲル化剤は寒天およびゼラチンを主成分とする混合ゲル化剤(製品名:ネオソフト、太陽化学社製)、増粘多糖類はローカストビーンガム(製品名:ビストップ、三栄源FFI社製)、乳化剤はグリセリン脂肪酸エステル(製品名:ステップ、花王社製)である。
前記タンクから供給されるミルクプリンベース液を90℃に加温した後、50℃まで冷却して、充填機(トーワテクノ社製)にて、透明プラスチックカップ(商品名:PPカップ;大日本印刷社製、容量190ml)に、1カップ当たり105gずつ充填した。これを10℃の冷蔵庫にて2時間冷却してゲル化(固化)させてゲル状のミルクプリンを得た。
得られたミルクプリンの表面上に、上記で製造したフルーツソースを、充填機(トーワテクノ社製)にて、1穴12mmノズルを使用し、1カップ当たり20gずつ充填した。その後、再び10℃の冷蔵庫にて12時間冷却して、図1に示すプリン製品を得た。
【0042】
得られたプリン製品について、フルーツソースの外観を目視にて観察し、下記の基準で評価した。またプリン製品のミルクプリンおよびフルーツソースを同時に喫食したときの食感を下記の基準で評価した。結果を表2に示す。
(フルーツソースの外観)
○:果肉様のゲル状物がソース中に含まれているのが、目視にて容易に確認できる。
△:果肉様のゲル状物がソース中に含まれているのが、目視にてわずかに確認できる。
×:果肉様のゲル状物がソース中に含まれているのが、目視にて確認できない。
(プリン製品の食感)
○:製品の喫食時に果肉様のゲル状物がソース中に含まれているのが、食感で容易に感じられ、複合的な食感が明かに得られる。
△:製品の喫食時に果肉様のゲル状物がソース中に含まれているのが、食感でわずかに感じられる。
×:製品の喫食時に果肉様のゲル状物がソース中に含まれているのが、食感で感じられず、複合的な食感が得られない。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
表2の結果に示されるように、乳酸カルシウムである原料(a1)を溶解させた後に、脱アシル型ジェランガムを含む原料(b1)を溶解させた添加順序A、B,Eでは、とろみのあるソース中に果肉様のゲル状物が含まれるフルーツソースが得られた。ゲル状物は粒径が概ね1〜5mm程度の粒状であった。
一方、先に脱アシル型ジェランガムを含む原料(b1)を溶解させた溶液に、乳酸カルシウムである原料(a1)を添加して溶解させた添加順序C、D、Fでは、加熱殺菌工程前の溶液が増粘する傾向は見られたが、加熱殺菌工程後のソース中に粒状のゲル状物の生成は認められなかった。
製品を喫食したときの評価においても、添加順序A、B、Eで製造したフルーツソースをミルクプリン上に積層した場合に、ミルクプリンと、とろみのあるソースと、粒状の果肉様ゲルの複合的な食感が得られた。添加順序C、D、Fでは、果肉様の食感が感じられなかった。
これらのことから、脱アシル型ジェランガムが溶解している溶液に乳酸カルシウムが添加されると、脱アシル型ジェランガムとカルシウムイオンとが弱く反応して増粘するものの、その後の加熱によって強固なゲルは生成されず、結果的に果肉様のゲル状物が得られないことがわかる。
【0047】
[試験例2:例2−1〜例2−6]
本例では、チューブラー式殺菌機の冷却部における冷却速度を変えてフルーツソース(ゲル状物含有組成物)を製造した。
すなわち表4に示す配合でフルーツソースを調製した。表4における原料(a1)および(d1)は、試験例1で用いた原料(a1)および(d1)と同様である。表4の原料(b2)は、表1における原料(b1)と(c1)を混合したものに相当する。
本例では表2に示す添加順序Aに相当する方法で原料液を調製した。すなわち、水に原料(a1)、原料(b2)、原料(d1)を、この順に添加して溶解または分散させた。
得られた原料液を試験例1と同じチューブラー式殺菌機で120℃、2秒間の加熱殺菌を行った後、出口温度が表5に示す温度となるように冷却部で冷却してフルーツソースを得た。その後タンク内にて攪拌をしながら10℃まで冷却した。表5に、冷却部での冷却速度の値を記載する。
なお例2−1では殺菌機の加熱部で120℃、2秒間の加熱殺菌を行った後、冷却部で冷却を行わなかった。すなわち、冷却部に冷却水を流さなかったところ殺菌機の出口温度は90℃であった。
保冷タンクに移送されてから、10℃になるまでの時間は、例2−1で約360分、例2−2で約300分、例2−3で約220分であった。
【0048】
(評価)
試験例1と同様にして、プリン製品を製造し、フルーツソースの外観およびプリン製品の食感を評価した。結果を表5に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
表5の結果に示されるように、殺菌機の出口温度を40℃以下、好ましくは20℃以下とすることにより、フルーツソースに果肉様のゲル状物の存在が確認された。
一方、殺菌機の出口温度が、脱アシルジェランガムのゲル化温度(約40℃)よりも高い例2−1〜3では、果肉様のゲル状物は得られなかった。
なお、殺菌機の出口から排出された直後のフルーツソースの外観も観察したが、表5と同様の結果が得られた。
【0052】
[試験例3:例3−1、例3−2]
本例では、脱アシル型ジェランガムを用いた場合(例3−1)と、これに代えてローメトキシルペクチン(LM−ペクチン)を用いた場合(例3−2)とで、製品の経時変化を比較した。
(例3−1)
例3−1は、表4に示す配合を用い、表2に示す添加順序Aに相当する方法でフルーツソースを調製した。すなわち、水に原料(a1)、原料(b2)、原料(d1)を、この順に添加し溶解または分散させて原料液を得た。
得られた原料液を試験例1と同じチューブラー式殺菌機で120℃、2秒間の加熱殺菌を行った後、冷却部で出口温度が20℃となるように冷却してフルーツソースを得た。その後タンク内にて攪拌しながら10℃まで冷却した。
(例3−2)
例3−2では、表6に示す配合を用い、表2に示す添加順序Aに相当する方法でフルーツソースを調製した。すなわち、水に原料(a1)、原料(b3)、原料(d1)を、この順に添加し溶解または分散させて原料液を得た。
得られた原料液を試験例1と同じチューブラー式殺菌機で120℃、2秒間の加熱殺菌を行った後、冷却部で出口温度が20℃となるように冷却してフルーツソースを得た。その後タンク内にて攪拌しながら10℃まで冷却した。
【0053】
(評価)
試験例1と同様にして、プリン製品を各例10個ずつ製造した。得られたプリン製品を10℃の冷蔵庫に8日間保存した。
製造直後、保存3日後(保存開始日の翌日を1日後とする)、および保存7日後のプリン製品の食感を、試験例1と同様にして評価した。結果を表7に示す。
製造直後、および保存1日後〜8日後まで1日毎に、ミルクプリン上のフルーツソースの粘度を測定した。すなわち、プリン製品のフルーツソースのみをビーカーに集め、東機株式会社製、B型粘度計RB−80Lを用い、回転数60rpm、ローターNo.4を使用して、10℃にて粘度の測定を行った。結果を表8に示す。保存1日後〜8日後の結果を図3のグラフに示す。
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
【表8】
【0057】
表7の結果に示されるように、脱アシルジェランガムを用いた例3−1では、保存3日後および保存7日後でも、ミルクプリンと、とろみのあるソースと、粒状の果肉様ゲルの複合的な食感が得られた。これにより、物性の経時変化が見られない良好な保存安定性を有することが確認された。
一方、ペクチンを用いた例3−2では、保存中にフルーツソースのゲル化が進行し、保存7日後にはソース全体がゲル化して、ミルクプリンとの食感の差を感じられない結果となった。これは保存中にフルーツソース中のペクチンがミルクプリン中のカルシウムと反応してゲル化を生じたためと考えられる。
また表8および図3に示す粘度測定の結果でも、脱アシルジェランガムを用いた例3−1では、経時的に粘度が変化することは無かったが、ペクチンを用いた例3−2では、フルーツソースの経時的な粘度増加が顕著に見られた。
これらの結果より、フルーツソースの製造工程において、脱アシルジェランガムが原料液中のカルシウムイオンと反応してゲル状物を生成した後は、カルシウムの存在下でもゲル化が生じないことがわかる。
【0058】
[試験例4:例4−1〜例4−9]
本例では、ゲル化剤(脱アシル型ジェランガムおよび増粘多糖類)の配合を変えてフルーツソースの粘度を変化させた。
表9、10に示す配合を用い、表2に示す添加順序Aに相当する方法でフルーツソースを調製した。すなわち、水に原料(a1)、原料(b11)〜(b19)のいずれか、および原料(d1)を、この順に添加し溶解または分散させて原料液を得た。
得られた原料液を試験例1と同じチューブラー式殺菌機で120℃、2秒間の加熱殺菌を行った後、冷却部で出口温度が20℃となるように冷却してフルーツソースを得た。その後タンク内にて攪拌しながら10℃まで冷却した。
【0059】
(評価)
タンク内で10℃に達したフルーツソースの粘度を、東機株式会社製、B型粘度計RB−80Lを用い、回転数60rpm、ローターNo.4を使用して測定した。フルーツソースを喫食したときの食感を下記の基準で評価した。ソース中のゲル状物の粒径を前記の方法で測定した。これらの結果を表11に示す。
(フルーツソースの食感)
○:果肉様のゲル状物がソース中に含まれているのが、食感で容易に感じられる。
△:果肉様のゲル状物がソース中に含まれているのが、食感でわずかに感じられる。
×:果肉様のゲル状物がソース中に含まれているのが、食感で感じられない。
【0060】
【表9】
【0061】
【表10】
【0062】
【表11】
【0063】
表11の結果より、10℃におけるフルーツソースの粘度が1000mPa・s以上、2000mPa・s以下の範囲で、良好な食感を有する果肉様ゲル状物を含むフルーツソースが得られた。
また、例4−3、例4−7、例4−8を比べると、脱アシルジェランガムが少なすぎても、多すぎてもフルーツソースの良好な粘度が得られないことがわかる。また例4−7では脱アシルジェランガムが少なすぎるため、果肉様ゲル状物が少なく、該ゲル状物の物性も柔らかい。例4−8では脱アシルジェランガムが多すぎため、フルーツソース全体がゲル化してゼリー状になってしまった。
【0064】
[実施例1]
表12に示す配合を用い、表2に示す添加順序Aに相当する方法でフルーツソースを調製した。
すなわち、水に原料(a2)、原料(b4)、原料(d2)を、この順に添加し溶解または分散させて原料液を得た。
得られた原料液を試験例1と同じチューブラー式殺菌機で120℃、2秒間の加熱殺菌を行った後、冷却部で出口温度が20℃となるように冷却してフルーツソースを得た。その後タンク内にて攪拌をしながら10℃まで冷却した。タンク内で10℃に達したフルーツソースの粘度は1500mPa・sであった。
【0065】
これとは別にゼリーベース液を調製した。表13に示すゼリーベースの原料を混合溶解し、プレート式殺菌機で130℃、2秒間の加熱殺菌を行い、出口温度80℃まで冷却した後、タンクへ入れて10℃に冷却保持した。
前記タンクから供給されるゼリーベース液を、加温プレートにて90℃以上に加温した後70℃まで冷却した。このゼリーベース液と上記で得たフルーツソースを、ゼリーベース液:フルーツソース=6:4(質量比)の割合で、バランスタンクにて混合し、充填機(HAMBA社製)にて透明プラスチックカップ(商品名:PPカップ;大日本印刷社製、容量190ml)に、1カップ当たり105gずつ充填した。続いて、連続式冷却機(HAMBA社製)で中心温度が20℃以下まで冷却し、シールを行い、10℃で12時間冷却してゼリー製品を得た。
得られたゼリー製品は、図2に示すように、清涼感のあるゼリー21の内部に、苺様の擬似果肉食感を持つゲル状物22が分散されているものであった。ゼリー製品中の粒状のゲル状物22の形状は、フルーツソース中のゲル状物の形状がほぼ維持されていた。
【0066】
【表12】
【0067】
【表13】
【符号の説明】
【0068】
1 カップ
11 ミルクプリンベース液
11a ミルクプリン
12 フルーツソース
21 ゼリー
22 ゲル状物
図1
図2
図3