特許第5732455号(P5732455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5732455眼科用レンズ材料のための紫外線/可視光吸収剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732455
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】眼科用レンズ材料のための紫外線/可視光吸収剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 249/20 20060101AFI20150521BHJP
   A61F 2/16 20060101ALI20150521BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C07D249/20 503
   C07D249/20CSP
   A61F2/16
   G02C7/04
【請求項の数】19
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-519632(P2012-519632)
(86)(22)【出願日】2010年7月2日
(65)【公表番号】特表2012-532196(P2012-532196A)
(43)【公表日】2012年12月13日
(86)【国際出願番号】US2010040972
(87)【国際公開番号】WO2011005711
(87)【国際公開日】20110113
【審査請求日】2013年4月25日
(31)【優先権主張番号】61/223,251
(32)【優先日】2009年7月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100062409
【弁理士】
【氏名又は名称】安村 高明
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ラレド, ウォルター アール.
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−188581(JP,A)
【文献】 特表2002−516403(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0197067(US,A1)
【文献】 国際公開第2008/048880(WO,A2)
【文献】 特開2002−006268(JP,A)
【文献】 特開2006−335855(JP,A)
【文献】 特開昭60−038411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式のベンゾトリアゾール化合物
【化12】
(式中、
Xは、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキル、CHCHCHSCHCH、またはCHCHCHSCHCHCHであり、は、CFであるか;あるいは
Xは、CHCHCHSCHCH、またはCHCHCHSCHCHCHであり、Rは、H、CH、CHO、F、Cl、Br、I、またはCFであり、
XがC〜Cアルケニルである場合は、Yは存在せず、そうでない場合は、
Yは、−O−C(=O)−C(R)=CH、−O−C(=O)NHCHCHOC(=O)−C(R)=CH、または−O−C(=O)NHC(CH(C)C(CH)=CHであり、
は、H、CH、CHCH、またはCHOHであり、
は、C〜Cアルキルであ)。
【請求項2】
Xが、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキル、またはCHCHCHSCHCHであり、は、CFであるか;あるいは
Xは、CHCHCHSCHCHであり、Rは、CH、CHO、F、Cl、またはCFであり、
XがC〜Cアルケニルである場合は、Yが存在せず、そうでない場合はYが−O−C(=O)−C(R)=CHであり、
がHまたはCHであり、
がC〜Cアルキルであ
請求項1に記載のベンゾトリアゾール化合物。
【請求項3】
2−(3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−5−メトキシ−フェニル)プロピルチオ)エチルメタクリレート
4−アリル−2−メトキシ−6−(5−(トリフルオロメチル)−2H−ベンゾ[d][1,2,3]−トリアゾール−2−イル)フェノール;および
3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシ−5−(5−(トリフルオロメチル)−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)フェニル)プロピルメタクリレート
からなる群から選択される、請求項2に記載のベンゾトリアゾール化合物。
【請求項4】
2−(3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−5−メトキシ−フェニル)プロピルチオ)エチルメタクリレートである、請求項3に記載のベンゾトリアゾール化合物。
【請求項5】
3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシ−5−(5−(トリフルオロメチル)−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)フェニル)プロピルメタクリレートである、請求項3に記載のベンゾトリアゾール化合物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のベンゾトリアゾール化合物と、アクリルモノマーおよびシリコーン含有モノマーからなる群から選択されるデバイス形成モノマーとを含む、眼科用デバイス材料。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のベンゾトリアゾール化合物を0.1から5%(w/w)含む、請求項6に記載の眼科用デバイス材料。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のベンゾトリアゾール化合物を0.5から4%(w/w)含む、請求項7に記載の眼科用デバイス材料。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載のベンゾトリアゾール化合物を1から3%(w/w)含む、請求項8に記載の眼科用デバイス材料。
【請求項10】
式[IV]のデバイス形成モノマーを含む、請求項6に記載の眼科用デバイス材料
【化13】
(式[IV]中、
Aは、H、CH、CHCH、またはCHOHであり、
Bは、(CHまたは[O(CHであり、
Cは、(CHであり、
mは、2〜6であり、
zは、1〜10であり、
Yは、存在しないか、またはO、S、もしくはNR’であるが、但し、YがO、S、またはNR’である場合、Bが(CHであり、
R’は、H、CH、Cn’2n’+1(n’=1〜10)、イソ−OC、C、またはCHであり、
wは、0〜6であるが、但し、m+w≦8であり、
Dは、H、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C、CH、またはハロゲンである)。
【請求項11】
式[IV]中、
AがHまたはCHであり、
Bが(CHであり、
mが2〜5であり、
Yが存在しないかまたはOであり、
wが0〜1であり、
DがHである、
請求項10に記載の眼科用デバイス材料。
【請求項12】
2−フェニルエチルメタクリレート、4−フェニルブチルメタクリレート、5−フェニルペンチルメタクリレート、2−ベンジルオキシエチルメタクリレート、および3−ベンジルオキシプロピルメタクリレート、およびこれらに対応するアクリレートからなる群から選択されるモノマーを含む、請求項11に記載の眼科用デバイス材料。
【請求項13】
架橋剤を含む、請求項6に記載の眼科用デバイス材料。
【請求項14】
反応性青色光吸収化合物を含む、請求項6に記載の眼科用デバイス材料。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれかに記載のベンゾトリアゾール化合物を含む眼内レンズ。
【請求項16】
請求項2に記載のベンゾトリアゾール化合物を含む眼内レンズ。
【請求項17】
請求項3に記載のベンゾトリアゾール化合物を含む眼内レンズ。
【請求項18】
請求項6に記載の眼科用デバイス材料を含む眼科用デバイス。
【請求項19】
眼内レンズ、コンタクトレンズ、人工角膜、および角膜インレーまたは角膜リングからなる群から選択される、請求項18に記載の眼科用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、紫外線/可視光吸収剤を対象とする。詳細には、本発明は、移植可能な眼科用レンズの材料で使用するのに特に適した、新規なベンゾトリアゾールモノマーに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
多くの紫外線および可視光の吸収剤は、眼科用レンズの作製に使用されるポリマー材料の成分として公知である。そのような吸収剤は、移動しないように、相分離しないように、またはレンズ材料から浸出しないように、当該材料内に単に物理的に取り込まれているのではなく、レンズ材料のポリマー網状構造に好ましくは共有結合している。そのような安定性は、吸収剤の浸出によって、毒性学的課題が示され、かつインプラントに紫外可視遮断活性の損失がもたらされる可能性がある、移植可能な眼科用レンズに特に重要である。
【0003】
数多くの共重合性ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、およびトリアジン吸収剤が公知である。これらの化合物のほとんどは紫外線吸収剤として公知であるが、いくつかは、可視光の一部も吸収することが公知であり得る。多くの吸収剤は、メタクリレート、アクリレート、メタクリルアミド、アクリルアミド、またはスチレン基などの、従来のオレフィン重合性基を含有する。レンズ材料中のその他の成分、典型的にはラジカル開始剤を用いる共重合は、得られたポリマー鎖に吸収剤を取り込む。吸収剤への追加の官能基の取り込みは、吸収剤の光吸収特性、溶解度、または反応性の1つまたは複数に影響を及ぼす可能性がある。吸収剤が、眼科用レンズ材料成分またはポリマーレンズ材料の残りに対して十分な溶解度を持たない場合、吸収剤は、光と相互に作用する可能性があるドメインに合体し、レンズの光学的透明度に低下をもたらす可能性がある。
【0004】
紫外線吸収剤を組み込むポリマー性眼科用レンズ材料の例は、特許文献1、特許文献2、および特許文献3に見出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,290,892号明細書
【特許文献2】米国特許第5,331,073号明細書
【特許文献3】米国特許第5,693,095号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の概要)
本発明は、紫外線と可視光の一部との両方を吸収する、ベンゾトリアゾール光吸収モノマーを提供する(「UV/Vis吸収剤」)。これらの吸収剤は、コンタクトレンズを含む眼科用レンズで使用するのに適している。これらの吸収剤は、眼内レンズ(IOL)などの移植可能なレンズで特に有用である。
【0007】
本発明の吸収剤化合物は、より高いエネルギーの400〜320nmの間のUVA光線、320〜280nmの間のUVB光線、および280nmよりも低いUVC光線の他に、400〜450nmの間の波長の光を吸収する。本発明の吸収剤化合物は、吸収剤と眼科用レンズ材料との共有結合を可能にする反応性基を含有する。あるいは、本発明の吸収剤は、容易に入手可能な出発材料から約4〜6ステップで合成することができる。
【0008】
本発明は、そのようなUV/Vis吸収剤を含有する眼科用デバイス材料にも関する。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
下式のベンゾトリアゾール化合物
【化12】

(式中、
Xは、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキル、CHCHCHSCHCH、またはCHCHCHSCHCHCHであり、
XがC〜Cアルケニルである場合は、Yは存在せず、そうでない場合は、
Yは、−O−C(=O)−C(R)=CH、−O−C(=O)NHCHCHOC(=O)−C(R)=CH、または−O−C(=O)NHC(CH(C)C(CH)=CHであり、
は、H、CH、CHCH、またはCHOHであり、
は、C〜Cアルキルであり、
は、H、CH、CHO、F、Cl、Br、I、またはCFである)。
(項目2)
Xが、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキル、またはCHCHCHSCHCHであり、
XがC〜Cアルケニルである場合は、Yが存在せず、そうでない場合はYが−O−C(=O)−C(R)=CHであり、
がHまたはCHであり、
がC〜Cアルキルであり、
が、CH、CHO、F、Cl、またはCFである、
項目1に記載のベンゾトリアゾール化合物。
(項目3)
2−(3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−5−メトキシ−フェニル)プロピルチオ)エチルメタクリレート;
4−アリル−2−(5−クロロ−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)−6−メトキシフェノール;
3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−5−メトキシフェニル)−プロピルメタクリレート;
4−アリル−2−メトキシ−6−(5−(トリフルオロメチル)−2H−ベンゾ[d][1,2,3]−トリアゾール−2−イル)フェノール;および
3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシ−5−(5−(トリフルオロメチル)−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)フェニル)プロピルメタクリレート
からなる群から選択される、項目2に記載のベンゾトリアゾール化合物。
(項目4)
2−(3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−5−メトキシ−フェニル)プロピルチオ)エチルメタクリレートである、項目3に記載のベンゾトリアゾール化合物。
(項目5)
3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシ−5−(5−(トリフルオロメチル)−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)フェニル)プロピルメタクリレートである、項目3に記載のベンゾトリアゾール化合物。
(項目6)
項目1に記載のベンゾトリアゾール化合物と、アクリルモノマーおよびシリコーン含有モノマーからなる群から選択されるデバイス形成モノマーとを含む、眼科用デバイス材料。
(項目7)
項目1に記載のベンゾトリアゾール化合物を0.1から5%(w/w)含む、項目6に記載の眼科用デバイス材料。
(項目8)
項目1に記載のベンゾトリアゾール化合物を0.5から4%(w/w)含む、項目7に記載の眼科用デバイス材料。
(項目9)
項目1に記載のベンゾトリアゾール化合物を1から3%(w/w)含む、項目8に記載の眼科用デバイス材料。
(項目10)
式[IV]のデバイス形成モノマーを含む、項目6に記載の眼科用デバイス材料
【化13】

(式[IV]中、
Aは、H、CH、CHCH、またはCHOHであり、
Bは、(CHまたは[O(CHであり、
Cは、(CHであり、
mは、2〜6であり、
zは、1〜10であり、
Yは、存在しないか、またはO、S、もしくはNR’であるが、但し、YがO、S、またはNR’である場合、Bが(CHであり、
R’は、H、CH、Cn’2n’+1(n’=1〜10)、イソ−OC、C、またはCHであり、
wは、0〜6であるが、但し、m+w≦8であり、
Dは、H、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C、CH、またはハロゲンである)。
(項目11)
式[IV]中、
AがHまたはCHであり、
Bが(CHであり、
mが2〜5であり、
Yが存在しないかまたはOであり、
wが0〜1であり、
DがHである、
項目10に記載の眼科用デバイス材料。
(項目12)
2−フェニルエチルメタクリレート、4−フェニルブチルメタクリレート、5−フェニルペンチルメタクリレート、2−ベンジルオキシエチルメタクリレート、および3−ベンジルオキシプロピルメタクリレート、およびこれらに対応するアクリレートからなる群から選択されるモノマーを含む、項目11に記載の眼科用デバイス材料。
(項目13)
架橋剤を含む、項目6に記載の眼科用デバイス材料。
(項目14)
反応性青色光吸収化合物を含む、項目6に記載の眼科用デバイス材料。
(項目15)
項目1に記載のベンゾトリアゾール化合物を含む眼内レンズ。
(項目16)
項目2に記載のベンゾトリアゾール化合物を含む眼内レンズ。
(項目17)
項目3に記載のベンゾトリアゾール化合物を含む眼内レンズ。
(項目18)
項目6に記載の眼科用デバイス材料を含む眼科用デバイス。
(項目19)
眼内レンズ、コンタクトレンズ、人工角膜、および角膜インレーまたは角膜リングからなる群から選択される、項目18に記載の眼科用デバイス。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、様々な濃度のUV/Vis吸収剤化合物2に関する透過率%曲線を示す図である。
図2図2は、アセトン抽出前後での、ポリマーサンプル中の化合物2に関する透過率%曲線を示す図である。
図3図3は、化合物2に関する吸光度曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
他に指示しない限り、パーセンテージという用語で表される全ての成分量は、%w/wとして示される。
【0011】
本発明のUV/Vis吸収剤は、下記の構造を有する。
【0012】
【化1】
(式中、Xは、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキル、CHCHCHSCHCH、またはCHCHCHSCHCHCHであり、
XがC〜Cアルケニルである場合は、Yは存在せず、そうでない場合は、
Yは、−O−C(=O)−C(R)=CH、−O−C(=O)NHCHCHOC(=O)−C(R)=CH、または−O−C(=O)NHC(CH(C)C(CH)=CHであり、
は、H、CH、CHCH、またはCHOHであり、
は、C〜Cアルキルであり、
は、H、CH、CHO、F、Cl、Br、I、またはCFである)。
【0013】
好ましくは、本発明のUV/Vis吸収剤は、
Xが、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキル、またはCHCHCHSCHCHであり、
XがC〜Cアルケニルである場合は、Yが存在せず、そうでない場合はYが−O−C(=O)−C(R)=CHであり、
がHまたはCHであり、
がC〜Cアルキルであり、
が、CH、CHO、F、Cl、またはCFである、化合物である。
【0014】
本発明の3種の好ましい吸収剤は、
2−(3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−5−メトキシ−フェニル)プロピルチオ)エチルメタクリレート(「化合物1」);
4−アリル−2−(5−クロロ−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)−6−メトキシフェノール(「化合物2」);
3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−5−メトキシ−フェニル)プロピルメタクリレート(「化合物3」);
4−アリル−2−メトキシ−6−(5−(トリフルオロメチル)−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)フェノール(「化合物4」);および
3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシ−5−(5−(トリフルオロメチル)−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)フェニル)プロピルメタクリレート(「化合物5」)である。
【0015】
【化2】
【0016】
【化3】
本発明のUV/Vis吸収剤の合成を以下に示す。
【0017】
1.紫外線吸収剤は、4〜6ステップで合成される。ステップ1では、チョウジ油、ナツメグ、シナモン、および月桂樹の葉などの精油由来の安価な出発材料であるオイゲノールのヒドロキシメチル化を介して、フェノール誘導体1を合成する。
【0018】
【化4】
2.ステップ2および3では、2−ニトロアニリン誘導体のジアゾニウム塩を調製し、その後、1と反応させてアゾ染料を形成する。
【0019】
【化5】
3.ステップ4では、アゾ染料を、ホルムアミジンスルフィン酸などの還元剤で処理して、対応するベンゾトリアゾール化合物を形成する。この段階で、ベンゾトリアゾールは、フリーラジカル条件下で重合することができるプロペニル二重結合の存在により、IOL調合物に組み込まれてよい。あるいは、二重結合は、ステップ5および6に示されるように、その他のより好ましい官能基に変換することができる。
【0020】
【化6】
4.ステップ4からのベンゾトリアゾールを、ステップ5および6に示されるようにさらに反応させて、ヒドロキシル基を含有する中間体を形成することができ、次いでこの中間体を(メタ)アクリレート基を含有するようにエステル化することができる。ヒドロキシル基の組込みは、メルカプタンを使用するマイケル付加またはボラン−メチルスルフィド錯体などのホウ素含有化合物を使用するヒドロホウ素化/酸化を含む広範な合成方法を使用して、実施することができる。次いで得られたヒドロキシル基を、重合性(メタ)アクリレート基に変換することができる。次いで(メタ)アクリレート基は、ビニルモノマー、コモノマー、マクロマー、および架橋剤、ならびにポリマー系眼科用材料、特にアクリルを作製するのに典型的に使用されるその他の構成成分と反応すると、共有結合を形成することができる。
【0021】
【化7】
本発明のUV/Vis吸収剤は、IOLで使用するのに特に適している。IOL材料は、一般に、本発明のUV/Vis吸収剤を0.1から5%(w/w)含有することになる。好ましくは、IOL材料は、本発明の吸収剤を0.5から4%(w/w)含有する。最も好ましくは、IOL材料は、本発明の吸収剤を1から3%(w/w)含有する。そのようなデバイス材料は、本発明の吸収剤と、デバイス形成材料や架橋剤などのその他の成分と、任意選択で青色光遮断発色団とを共重合させることによって調製される。
【0022】
多くのデバイス形成モノマーは、当技術分野で公知であり、とりわけアクリルおよびシリコーン含有モノマーを共に含む。例えば、米国特許第7,101,949号、第7,067,602号、第7,037,954号、第6,872,793号、第6,852,793号、第6,846,897号、第6,806,337号、第6,528,602号、および第5,693,095号を参照されたい。IOLの場合、任意の公知のIOLデバイス材料が、本発明の組成物で使用するのに適している。好ましくは、眼科用デバイス材料は、アクリルまたはメタクリルデバイス形成モノマーを含む。より好ましくは、デバイス形成モノマーは、式IVのモノマーを含む。
【0023】
【化8】
(式IV中、
Aは、H、CH、CHCH、またはCHOHであり、
Bは、(CHまたは[O(CHであり、
Cは、(CHであり、
mは、2〜6であり、
zは、1〜10であり、
Yは、存在しないか、またはO、S、もしくはNR’であるが、但し、YがO、S、またはNR’である場合、Bが(CHであり、
R’は、H、CH、Cn’2n’+1(n’=1〜10)、イソ−OC、C、またはCHであり、
wは、0〜6であるが、但し、m+w≦8であり、
Dは、H、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、C、CH、またはハロゲンである)。
【0024】
式IVの好ましいモノマーは、AがHまたはCHであり、Bが(CHであり、mが2〜5であり、Yが存在しないかまたはOであり、wが0〜1であり、DがHであるモノマーである。2−フェニルエチルメタクリレート、4−フェニルブチルメタクリレート、5−フェニルペンチルメタクリレート、2−ベンジルオキシエチルメタクリレート、および3−ベンジルオキシプロピルメタクリレート、およびこれらに対応するアクリレートが最も好ましい。
【0025】
式IVのモノマーは公知であり、公知の方法によって作製することができる。例えば、所望のモノマーの共役アルコールは、反応容器内で、メチルメタクリレート、テトラブチルチタネート(触媒)、および4−ベンジルオキシフェノールなどの重合阻害剤と組み合わせてもよい。次いでこの容器を加熱して、反応を促進させかつ反応副生成物を留去して反応を終了させることができる。代替の合成スキームでは、メタクリル酸を共役アルコールに添加し、カルボジイミドで触媒するか、または共役アルコールを、塩化メタクリロイルおよびピリジンやトリエチルアミンなどの塩基と混合する。
【0026】
デバイス材料は、一般に、デバイス形成モノマーを合計で少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約80%含む。
【0027】
本発明の吸収剤およびデバイス形成モノマーに加え、本発明のデバイス材料は、一般に架橋剤を含む。本発明のデバイス材料で使用される架橋剤は、一つより多くの不飽和基を有する任意の末端エチレン系不飽和化合物であってもよい。適切な架橋剤には、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、2,3−プロパンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、CH=C(CH)C(=O)O−(CHCHO)−C(=O)C(CH)=CH(但し、p=1〜50である)、およびCH=C(CH)C(=O)O(CHO−C(=O)C(CH)=CH(但し、t=3〜20である)、およびこれらの対応するアクリレートが含まれる。好ましい架橋モノマーは、CH=C(CH)C(=O)O−(CHCHO)−C(=O)C(CH)=CHであり、ここでpは数平均分子量が約400、約600、または約1000になるようなものである。
【0028】
一般に、架橋構成成分の合計量は少なくとも0.1重量%であり、残りの構成成分の種類および濃度と所望の物理的性質に応じて、約20重量%に及び得る。架橋構成成分の好ましい濃度範囲は、分子量が典型的には500ダルトン未満である小さな疎水性化合物の場合に1〜5%であり、分子量が典型的には500〜5000ダルトンの間であるより大きな親水性化合物の場合に5〜17%(w/w)である。
【0029】
本発明のUV/Vis吸収剤を含有するデバイス材料に適した重合開始剤は、熱開始剤および光開始剤を含む。好ましい熱開始剤は、t−ブチル(ペルオキシ−2−エチル)ヘキサノエートおよびジ−(tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート(Akzo Chemicals Inc.(Chicago、Illinois)からPerkadox(登録商標)16として市販されている)などのペルオキシフリーラジカル開始剤を含む。開始剤は、典型的には約5%(w/w)以下の量で存在する。フリーラジカル開始剤は、形成されたポリマーの一部に化学的にはならないので、開始剤の総量は、その他の成分の量を決定するときに通常は含まれない。
【0030】
本発明のUV/Vis吸収剤を含有するデバイス材料は、反応性着色剤も任意選択で含有する。適切な反応性青色光吸収化合物には、米国特許第5,470,932号に記載されているものが含まれる。青色光吸収剤は、典型的には約0.01〜0.5%(重量)の量で存在する。
【0031】
式IのUV/Vis吸収剤、デバイス形成モノマー、架橋剤、および任意選択で紫外線吸収剤またはその他の可視光吸収剤の他に、本発明の材料は、粘着性またはぎらつきを低減させる剤を含むがこれらに限定することのないその他の成分を含有していてもよい。粘着性を低減させる剤の例は、米国特許出願公開第2009/0132039A1および同第2009/0137745A1に開示されているものである。ぎらつきを低減させる剤の例は、米国特許出願公開第2009/0093604A1号および同第2009/0088544A1号に開示されているものである。
【0032】
本発明の材料で構成されたIOLは、断面が小さくなるように巻くかまたは折り畳むことが可能な任意のデザインのものであり得、その小さい断面は比較的小さい切開部を通すのに適合し得る。例えばIOLは、1片または多片のデザインとして公知のものであり得、光学的構成要素およびレンズ支持(haptic)構成要素を含む。光学構成要素は、レンズとして働く部分である。レンズ支持構成要素は光学構成要素に取り付けられ、眼の適正な場所に光学構成要素を保持する。光学構成要素および(1つまたは複数の)レンズ支持構成要素は、同じまたは異なる材料から成ってもよい。多片レンズと呼ばれる理由は、光学構成要素および(1つまたは複数の)レンズ支持構成要素が別々に作製され、次いでレンズ支持構成要素が光学構成要素に取り付けられるからである。単片レンズでは、光学構成要素およびレンズ支持構成要素が1片の材料から形成される。次いで材料に応じて、レンズ支持構成要素が材料から切断されまたは旋盤加工されて、IOLが生成される。
【0033】
IOLに加え、本発明の材料は、コンタクトレンズ、人工角膜、および角膜インレーまたは角膜リングなどのその他の眼科用デバイスにおける使用にも適している。
【0034】
本発明について、例示を目的とするものであり限定するものではない下記の実施例によって、さらに例示する。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
4−アリル−2−(ヒドロキシメチル)−6−メトキシフェノールの合成。窒素入口および磁気撹拌機を備えた2リットルの丸底フラスコ内で、NaOH 286gを0℃の水1.2Lに溶かしたものからなる溶液にオイゲノール99%(Alfa Aesar)を溶解させた。ホルムアルデヒド(828g、10.2mol)溶液(37重量%水溶液)を撹拌しながら、そこにACS試薬(Sigma−Aldrich)を滴下した。混合物を、周囲温度にて窒素下で4時間撹拌し、次いで55℃で20時間撹拌した。反応混合物を、酢酸エチル1L中に注ぎ、1N HClおよび脱イオン水で洗浄した。約30モル%の未反応オイゲノールを含有する粗製生成物を、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0036】
【化9】
(実施例2)
4−アリル−2−((5−クロロ−2−ニトロフェニル)ジアゼニル)−6−メトキシ−フェノールの合成。磁気撹拌機を備えた1000mlの3つ口丸底フラスコに、5−クロロ−2−ニトロアニリン(Acros Organics、29.9g、173mmol)、濃HCl水溶液(36.5〜38.0%、75ml)、脱イオン水150ml、および無水エタノール150mlを添加した。懸濁液を−10℃に冷却し、亜硝酸ナトリウム(Sigma−Aldrich、12.7g、184mmol)を水50mlに溶かした溶液を、−10℃で30分にわたり滴下した。反応混合物を1時間撹拌し、スルファミン酸(Aldrich)324mgを添加した。撹拌から10分後、固形分を濾別し、冷溶液はそのままにした。NaOH溶液は、NaOH(Aldrich、37.7g、944mmol)を脱イオン水120mlに溶解させることによって調製した。水酸化ナトリウム溶液の約4分の1を、実施例1からの4−アリル−2−(ヒドロキシメチル)−6−メトキシフェノールを水100mlおよび無水エタノール300mlに溶かした溶液に滴下した。ジアゾニウム混合物および残りのNaOH溶液を、−10℃の4−アリル−2−(ヒドロキシメチル)−6−メトキシフェノール溶液に1時間にわたり同時に滴下した。得られた暗色混合物を、0℃で1時間そして周囲温度で2時間撹拌した。内容物を、3リットルの脱イオン水に注ぎ入れ、pHを、1N HClを使用して5に調節した。固体を濾過し、P乾燥剤を使用して50℃で64時間乾燥することにより、28g(46%)が得られ、これをさらに精製することなく次のステップで使用した。
【0037】
【化10】
(実施例3)
4−アリル−2−(5−クロロ−2H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−2−イル)−6−メトキシ−フェノールの合成。磁気撹拌機、添加漏斗、粉末添加漏斗、および窒素入口を備えた1L丸底フラスコに、実施例2からの4−アリル−2−((5−クロロ−2−ニトロフェニル)ジアゼニル)−6−メトキシフェノール(27.9、80.2mmol)および無水エタノール300mlを添加した。NaOH(19.3g、483mmol)を、脱イオン水140mlに溶解させ、体積で約4分の1のそれを反応混合物に滴下した。反応混合物を80℃に加熱し、ホルムアミジンスルフィン酸(Aldrich、26.0g、241mmol)を、残りの水酸化ナトリウム溶液と共にゆっくりかつ同時に、30分にわたり添加した。反応混合物を脱イオン水3L中に注ぎ入れ、1N HClでpH4に酸性化した。黄色の固体を42℃で20時間乾燥し、次いで高温のトルエンに溶解させ、次いで暗色の不純物を濾別することによって精製した。濾液を濃縮減量し、エタノールおよびジエチルエーテルでの再結晶を介して精製することにより、純粋な生成物が得られた(5g、20%)。
【0038】
【化11】
化合物2(0.002%w/v、CHCl中)の単純な吸光度プロットを、10mmの石英セルを使用するUV/Vis分光法によって作成した。結果を図3に示す。
【0039】
(実施例4)
様々な濃度での化合物2に関する透過率曲線を、UV/Vis分光法によって作成した。化合物1は、クロロホルムに溶解させ、PerkinElmer Lambda 35 UV/Vis分光計で評価した。結果を図1に示す。
【0040】
(実施例5)
化合物2を含有するポリマー試験サンプル
実施例3からの化合物1を、表1に示されるように配合した。全ての構成成分を、40mlガラスバイアル内で渦流混合し、窒素で脱気し、次いで0.2ミクロンのTeflon(登録商標)フィルタを使用して、約1mmの深さの長方形のポリプロピレンの型内にシリンジ濾過した。サンプルを、90℃で1時間そして110℃で2.5時間熱硬化させ、次いで、90分ごとに新たな溶媒に交換しながら、還流するアセトンで6時間抽出した。
【0041】
【表1】
BzA=ベンジルアクリレート
BzMA=ベンジルメタクリレート
ポリPEG=ポリエチレングリコール(550)−メタクリレート(ポリPEGマクロモノマー)の、分子量が4000のポリマー
BDDA =1,4−ブタンジオールジアクリレート
AIBN=2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)
ポリマー試験サンプルに関し、表2に示されるように抽出物%、屈折率、および平衡含水率(35℃)の試験をした。試験サンプルは、45℃で20時間試験サンプルを平衡にし、次いで22℃に冷却した後のぎらつきに関しても試験をした。引張り特性を測定し、値を表3に報告する。
【0042】
【表2】
サンプルを、45℃の脱イオン水中で20時間平衡にし、次いで周囲温度に冷却し、1〜2時間後に光学顕微鏡により検査した。
【0043】
【表3】
約1mmの厚さのサンプル切片からのUV/Visスペクトルを、PerkinElmer Lambda 35 UV/Vis分光計を使用して収集した。図2に示されるように、実施例5のポリマー材料に関する、抽出された試験サンプルおよび抽出されていない試験サンプルのUV/Visスペクトルは、紫外線吸収剤の全てがポリマー網状構造に共有結合で組み込まれているとは限らないことを裏付けている。表2の比較的高い抽出物%は、これらの結果を裏付けている。これは、所与の反応条件下での、化合物1のプロペニル二重結合の比較的遅い反応速度による。UV/Vis吸収剤の比較的少ない組込みは、プロペニル二重結合を上述の(例えば、化合物2および3)(メタ)アクリレート基に変換することによって容易に回避することができる。
【0044】
(実施例6)
アクリルIOL配合物
化合物2を、表4に示されるようにIOL材料に配合した。全ての構成成分を、30mlのガラスバイアルで渦流混合し、窒素で脱気し、次いで0.2ミクロンのTeflon(登録商標)フィルタを使用して、約1mmの深さの長方形のポリプロピレンの型内にシリンジ濾過した。サンプルを、70℃で1時間そして110℃で2時間熱硬化し、次いで、90分ごとに新たな溶媒に交換しながら50℃のアセトンで6時間抽出した。
【0045】
【表4】
PEA=2−フェニルエチルアクリレート
PEMA=2−フェニルエチルメタクリレート
BzA=ベンジルアクリレート
BzMA=ベンジルメタクリレート
BDDA=1,4−ブタンジオールジアクリレート
第二級アルコールエトキシレート、メタクリル酸エステル=Tergitol(商標)NP−70界面活性剤(Dow/Union Carbide)のメタクリル酸エステル
ポリPEGMA=ポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテルメタクリレートのマクロモノマー(MW=550)、Mn(SEC):4100ダルトン、Mn(NMR):3200ダルトン、PDI=1.5。
AIBN=2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)
【0046】
【表5】
本発明について、ある特定の好ましい実施形態を参照することにより述べてきたが、その特有のまたは本質的な特徴から逸脱することなく、これらに関するその他の特定の形または変形例に具体化できることを理解すべきである。したがって上述の実施形態は、全ての点で例示的なものでありかつ制限するものではないと見なされ、本発明の範囲は、前述の内容によるのではなく添付される特許請求の範囲によって示される。
図1
図2
図3