【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては、膨張比は圧縮比の約2倍である。10:1と16:1との間の圧縮比においては、この構成は10〜20%の効率の改善をもたらす。通常この種の過膨張サイクルに伴う固有のパワー損失は、長尺なシリンダボアの使用により軽減される。一方のチェンバ内でピストンの過膨張を継続するために要する当該シリンダボアの部分は、反対側の(対向する)チェンバの初期膨張のために要するシリンダの部分としても働く。このようにして、過膨張サイクルが、非常に僅かな追加の質量で、且つ、吸気チャージ体積を犠牲にすることなく達成される。
【0007】
本発明によれば、エンジンシリンダと、該シリンダ内で移動するように構成された双端ピストンを備える単一ピストン部材とを有するフリーピストンエンジンが提供され、上記ピストン部材は上記シリンダを2つの別個の燃焼室(チェンバ)に仕切り、これら燃焼室の各々には1以上の吸気手段から可圧縮作動流体が供給され、上記ピストンは各行程の間において上記吸気手段上を及び該吸気手段を越えて、上記ピストンが一方の燃焼室内に保持された流体を圧縮する間に他方の燃焼室内に流体が補給されるように、移動するよう構成される。
【0008】
上記ピストンが上記吸気手段上を及び該吸気手段を越えて移動することを可能にすることにより、燃焼室ガスの過膨張が、大幅な追加的エンジン寸法及び重量を要せずに達成される。何故なら、斯かる過膨張運動のために使用されるシリンダボアが、反対側の燃焼室と共用されるからである。同様にして、上記吸気手段も両燃焼室により共用され、低コストで効率的且つ小型のエンジンを提供する。
【0009】
好ましくは、上記吸気手段は上記シリンダに沿う中央位置に配置され、この構成は、各燃焼室への吸気が当該シリンダ内のピストンの位置により制御されることを可能にすることによりエンジン構成を簡素化する。更に、上記吸気手段を排気弁から隔てられた位置に配置することにより、燃焼室内において掃気(scavenging)を大幅に改善することができ、その結果、効率が改善されると共に排出(emission)が改善される。
【0010】
好ましくは、上記吸気手段は空気吸気手段と燃料噴射手段との両方を有し、燃焼室への燃料噴射が吸気チャージ空気の投入の間に生じ得るようにする。上記吸気手段に空気吸気手段と燃料噴射手段とを一緒に設けることは、これらの両フィーチャが共通の滑りポート弁(sliding port valve)を共用することを可能にし、各フィーチャは該滑りポート弁の背後の空洞内に埋め込まれる。この結果、簡素で、従って安価な構成が得られる。
【0011】
好ましくは、上記空気吸気手段は、直列に配置された滑りポート弁とソレノイドポペット弁とを有する。該ポペット弁は、上記滑りポート弁が前記ピストンにより覆われていない場合、如何なる時点においても上記チェンバ内に空気が流入するのを可能にすることができ、このことは、燃焼イベントに応答した膨張比の良好な制御を、上記滑りポート弁の開放及び閉鎖位置により定められる限界内での前記ピストンの位置とは無関係に可能にする。
【0012】
好ましくは、前記燃料噴射手段は上記空気吸気ポペット弁の各側に1つずつ配置された2つの噴射機を有し、燃料が対応するチェンバ内に、前記吸気ポペット弁が開いているか又は閉じられているかに拘わらず、直接噴射されることを可能にする。斯かる2つの噴射機は、好ましくは、燃料噴射の精密で、低コストの電子的駆動及び制御を行うために圧電噴射機とする。
【0013】
好ましくは、上記燃料噴射手段は、排気弁が閉じられる前の掃気する空気吸気チャージにより、噴射された燃料が排気ポートへ及び該排気ポートから外へ送られ得ないことを保証し、炭化水素(HC)排出を低減するために、前記滑り弁の閉鎖の直前に燃料を噴射するように構成される。
【0014】
好ましくは、噴射された空気/燃料混合物の燃焼を開始するための火花を生成するために各チェンバには火花点火手段が設けられる。火花点火燃料及びそれらに関連する動作サイクルの使用は、圧縮点火燃料及びサイクルよりも本来的に少ない微粒子排出しか生じない。
【0015】
好ましくは、各燃焼室には、燃焼に続いて当該チェンバから燃焼されたガスが排気されるのを可能にするために排気手段が設けられる。
【0016】
好ましくは、該排気手段は各燃焼室に設けられるソレノイドポペット弁とし、該弁は前記シリンダに対して、排気流における限界面積(limiting area)がシリンダボアの断面積の40%に達し得、排気及び掃気の間の背圧(exhaust gas back-pressure)を低減するように、同軸的とする。
【0017】
好ましくは、前記シリンダは該シリンダの直径より少なくとも10倍大きな長さを有し、このことは、上死点におけるピストン変位誤差による圧縮比の低変化率の結果として、各サイクルにおける圧縮比の変動を低減させる。
【0018】
好ましくは、前記ピストンは長尺となるように構成され、前記エンジンシリンダは10:1と16:1との間の圧縮比が達成され得るように寸法決めされたボア(内径)を有する。これは、デトネーション(ノッキング)により従来の火花点火エンジンにおいて達成され得るよりも高い。好ましくは、当該エンジンは、ガソリン、無水エタノール及び含水エタノールの如何なる混合物でも動作する“フレックス燃料”エンジンとする。圧縮比は、エンジン管理システムにより、使用される特定のエタノール/ガソリン/水の混合に従って最適化することができる。
【0019】
また、圧縮比の2倍より大きな膨張比が得られる。長い膨張行程は、燃焼エネルギの一層多くがピストンに移転されることを可能にすると共に、更に制御のための(即ち、測定されたピストン速度変動に反応するための)一層多くの時間を可能にする。
【0020】
好ましくは、前記吸気手段は前記排気弁から適切な距離に配置され、10:1と16:1との間の圧縮比を達成することができることを保証するようにする。
【0021】
本発明によれば、上述したようなフリーピストンエンジンを有する車両も提供される。
【0022】
本発明によれば、上述したようなエンジンを有すると共に前記シリンダの長さの少なくとも一部に沿って配置された複数のコイル及びステータエレメントを更に有する、横磁束リニア切換リラクタンスマシン(transverse flux linear switched reluctance machine)の形態のエンジン発電機も提供され、前記シリンダ内でのピストンの上記コイルを通過する運動が上記ステータエレメント内の切り換えられる磁束と作用し合って、有用な仕事のために使用することができるか又は後の使用のために蓄積することができる電力を発生する。
【0023】
横磁束リニア切換リラクタンスマシンは、上述したように磁束を誘導することにより電力を発生するために特に有用である。
【0024】
使用することが可能な他のタイプの電気マシンは、横磁束リニア切換磁束マシンであり、該マシンにおいてはDCコイル又は永久磁石が各磁気回路内の磁束に貢献する。
【0025】
本発明によれば、上述したようなエンジン発電機を有する車両も提供される。
【0026】
本発明のエンジンは、燃焼管理システムと共に、直列に配置されると共にシリンダ端部から或る距離に設けられる滑りポート弁及び吸気ソレノイドポペット弁を有する吸気手段と、上記シリンダ端部の各々に設けられる排気ソレノイドポペット弁とを備えた少なくとも1つのシリンダを有する燃焼機関のために使用することができる。このような燃焼管理システムの一例は、
圧縮比及び膨張比を制御するために上記吸気ソレノイドポペット弁及び排気ソレノイドポペット弁をシリンダ内で動くピストンの位置とは無関係に制御するための弁制御手段、
を有し、上記ピストンは各行程の間において上記吸気手段上を及び該吸気手段を越えて移動する。
【0027】
吸気弁の開放タイミング及び排気弁の閉鎖タイミングを制御することにより、圧縮比及び膨張比を、当該エンジンの効率を最適化するように制御することができる。
【0028】
前記ピストン部材が前記シリンダ内での動きの極限位置にある場合、好ましくは、該ピストンの端部と前記シリンダの端部に設けられるシリンダヘッドとの間の間隔は、上死点において低い表面積対容積比を持つ燃焼室形態をもたらすために上記ピストンの直径の半分より大きくし、この結果、上死点における熱損失が低減され、最少の熱除去(heat rejection)しか伴なわない概ね断熱的なサイクルとなる。
【0029】
更に、上記燃焼室の寸法は、エンジンの損傷無しで接近するピストンのエネルギの変動を吸収するような空気バネとして効果的に作用する。このような変動は、対向する燃焼室における燃焼の変動及び他の変動源により生じ得る。これらの変動の結果は、前記圧縮比制御手段により目標とされるよりも高い又は低い圧縮比となる。
【0030】
好ましくは、圧縮比変動のエンジン排出及び効率に対する悪影響が低減されるように火花のタイミングを調整するために、火花点火制御手段が設けられる。
【0031】
前記弁制御手段は、好ましくは、前記吸気弁及び排気弁の開放を独立に制御して、排気ガス再循環(EGR)、吸気チャージ及び圧縮比の制御を可能にするように構成される。
【0032】
前記吸気弁は、好ましくは、膨張行程の終了時に、前記滑りポート弁が開状態のままである間の定められた期間にわたり開くように独立に制御され、次の燃焼イベントのために所望の量の吸気チャージを投入する。このように吸気チャージを制御することは、別のスロットルの必要性を回避し、これによって、絞り損失を低減することによりエンジン効率を増加させる。
【0033】
好ましくは、当該エンジンに使用されるべき燃料のタイプを決定するために燃料センサが設けられる。
【0034】
好ましくは、各チェンバに噴射すべき燃料の量を、追加される空気の量及び使用される燃料のタイプに従って決定するために、空気流量センサ及び排気ガスセンサが設けられる。
【0035】
好ましくは、燃料噴射制御手段は、前記燃料噴射手段を、掃気の間における炭化水素(HC)排出を低減するために燃料を燃焼室内に前記滑りポート弁の閉鎖の直前に噴射するように制御するよう構成される。
【0036】
好ましくは、燃焼デトネーション及び自己点火の読み(測定情報)を前記圧縮比制御手段に出力して、使用されている燃料のタイプに対して排気弁タイミングの閉ループ制御により最適圧縮比が実現されることを保証するために、ノックセンサも設けられる。
【0037】
好ましくは、当該システムは前記シリンダに沿って配置された複数のコイル及びステータエレメントも有し、上記コイルを通過するシリンダ内でのピストンの運動は、上記ステータエレメント内の切り換えられる磁束と作用し合って、有用な仕事のために使用し又は後の使用のために蓄積することが可能な電力を発生する。
【0038】
好ましくは、シリンダ内のピストンの位置は、上記コイルの電気的出力から決定することができる。
【0039】
好ましくは、前記圧縮比制御手段は、ピストンに付与される磁力の変調により該ピストンの運動範囲を制限するように前記コイルを制御することができ、従って前記排気弁の閉鎖の時点の前後における及び上記ピストンの上死点への接近の間における該ピストンの運動エネルギを、所望の圧縮比が達成されるように、調整することができる。
【0040】
好ましくは、温度制御手段に測定値を供給するために、前記コイル、電子装置及び高温に敏感な他のエレメントの近傍に複数の温度センサが設けられる。
【0041】
好ましくは、上記温度制御手段は、上昇された温度に応答して、冷却手段における冷却空気の流れを増加させるように動作する。
【0042】
好ましくは、前記温度制御手段は、エンジンの損傷を回避するために、継続する高い温度が記録された場合にエンジンパワー出力が低減されるように前記弁制御手段にも入力を供給する。
【0043】
本発明は、多数の用途を有する。例えば、本発明は、小型乗用車両において自動車用動力源として使用するのに適した1以上の駆動モータ及び一時的パワー貯蔵部を含んだ直列ハイブリッド電気車両動力列に組み込むことができ、当該フリーピストンエンジンにより発生される電力は、要求に応じて車両駆動モータに供給されるべく、車載の電気エネルギ貯蔵装置に蓄積される。
【0044】
小型乗用車両のためのパワー源として、本発明は好ましくは火花点火による2行程エンジンサイクルで動作し、4つのシリンダは当該エンジンが車両の前席又は後席の下に横置きに取り付けられ得るように平面的構成で配列され、従来の内燃機関と比較して乗客及び集積空間の配置に対して一層大幅な設計柔軟性を提供するものである。
【0045】
各シリンダは自由ピストンを含み、該ピストンの運動は各シリンダの周りに配置されるリニア発電機に電力を誘起し、また、該ピストンの運動は弁及び点火イベントのタイミングを含む種々の手段により、且つ、各行程でピストンから引き出され又はピストンに供給されるパワーの変調により制御可能である。上記ピストンの運動は、当該エンジンが完全にバランスされるように同期される。
【0046】
更に、各シリンダは、燃料を当該シリンダに該シリンダの各端部から離れた位置において導入する吸気メカニズムにより装填(チャージ)される。該吸気メカニズムは、吸気の流れイベントのタイミングをシリンダに対するピストンの位置とは独立に制御することができるように、ポペット弁及び滑りポート弁を直列に含む。排気ガスは、各シリンダの端部に配置された排気弁メカニズムを介して当該シリンダを離れる。
【0047】
上記シリンダの幾何学構造及び上記吸気及び排気メカニズムの配置は、排気の掃気が吸気流体と排気流体との間の限られた混合でもって完了されるようなものとなっている。燃焼室の幾何学構造は低い面積対容積比をもたらし、当該エンジンから最少の熱しか除去されないように、前記ピストンクラウン及びシリンダヘッドには低伝導率材料が使用される。該シリンダ及びピストンの幾何学構造は、圧縮比の少なくとも2倍の膨張比をもたらす。
【0048】
しかしながら、使用されるシリンダの配置及び数は用途に依存し、エンジン動作サイクルも、例えば、火花点火内部燃焼、均一チャージ圧縮点火内部燃焼、及び不均一チャージ圧縮点火等の異なる応用例に対して変化され得る。本発明の上記フィーチャのうちの幾つかは、スターリングサイクル等の外部燃焼サイクルでもって実施化することもできる。このタイプのエンジンにおいて、外部燃焼源からの熱は、上死点における圧縮された作動流体を含むチェンバに供給される。膨張の後、排気ガスは、閉じた回路内の吸気手段を介して当該チェンバに再投入される前に、閉じた冷却チェンバに排出される。
【0049】
種々の他の実施例における燃料は、含水エタノール、無水エタノール/ガソリン混合物又はガソリンとすることができる。また、本発明はディーゼル、バイオ・ディーゼル、メタン(CNG、LNG若しくはバイオガス)又は他の気体若しくは液体燃料を使用するものとして実施化することができる。外燃型実施例においては、広範囲の可燃性燃料を使用することができる。
【0050】
従って、ピーク過渡パワー出力要件をもたらすエネルギ貯蔵システムとの関連で、本発明は、小型乗用車両の自動車用途、及び例えば分散型パワー発生のための静止型パワー発生機のような、低コスト及び高効率が重要な設計考慮事項となる多くの他の用途に対して低コストで高効率なパワー供給部を提供する。