特許第5732491号(P5732491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732491
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】シリコン系薄膜量産装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20150521BHJP
   C23C 16/24 20060101ALI20150521BHJP
   C23C 16/515 20060101ALI20150521BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20150521BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20150521BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/24
   C23C16/515
   H05H1/46 M
   H05H1/24
   H05H1/46 R
   H01L21/31 C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-149586(P2013-149586)
(22)【出願日】2013年7月18日
(62)【分割の表示】特願2009-73668(P2009-73668)の分割
【原出願日】2009年3月25日
(65)【公開番号】特開2013-258412(P2013-258412A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2013年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2008-91403(P2008-91403)
(32)【優先日】2008年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今枝 美能留
(72)【発明者】
【氏名】今西 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 隆雄
【審査官】 殿川 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−248037(JP,A)
【文献】 特開2000−260715(JP,A)
【文献】 特開2002−151508(JP,A)
【文献】 特開2004−072994(JP,A)
【文献】 特開2008−004814(JP,A)
【文献】 市川幸美、吉田隆、酒井博,高電圧パルス放電化学気相成長法によるアモルファスシリコン系薄膜の作製,応用物理,日本,応用物理学会,1992年,第61巻第10号,1039-1043
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/24
C23C 16/515
H01L 21/31
H05H 1/24
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被成膜部にシリコン系薄膜を生成するシリコン系薄膜量産装置であって、
シリコン系薄膜の原料ガスを導入するためのガス導入口を有するチャンバと、
該チャンバ内に設けられ前記被成膜部を支持可能な複数の支持電極と、
前記複数の支持電極の各々と隙間をもって対向するように設けられた複数の対向電極と、
互いに対をなす支持電極と対向電極との間にパルス半値幅が100〜1000nsec且つ立ち上がり時間がパルス半値幅の1/3以下の直流パルス電圧を印加する直流パルス電圧印加回路と、
を備えたシリコン系薄膜量産装置。
【請求項2】
前記被成膜部は、前記複数の対向電極の隙間を縫うようにジグザグに配置された長尺シート上に形成されている、
請求項1に記載のシリコン系薄膜量産装置。
【請求項3】
前記直流パルス電圧印加回路は、互いに対をなす支持電極と対向電極の組ごとに設けられている、
請求項1又は2に記載のシリコン系薄膜量産装置。
【請求項4】
前記直流パルス電圧印加回路は、直流電源の両端にインダクタ、第1半導体スイッチ及び第2半導体スイッチが直列接続され、前記インダクタは、一端が前記第1半導体スイッチのアノード端子に接続されると共に他端がダイオードを介して前記第1半導体スイッチのゲート端子に接続され、前記ダイオードは、アノード端子が前記第1半導体スイッチのゲート端子に接続されており、前記第2半導体スイッチがターンオンされると前記第1半導体スイッチの導通に伴って前記インダクタに誘導エネルギが蓄積され、前記第2半導体スイッチがターンオフされると前記第1半導体スイッチのターンオフに伴って前記インダクタでパルス電圧が発生し該インダクタと磁気的に結合された前記コイル素子に前記パルス電圧を昇圧して供給する回路である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコン系薄膜量産装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン系薄膜量産装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン系薄膜は、シリコン資源の制約などから、将来的に有望な太陽光発電用セルとして利用されることが期待されている。従来から利用されているアモルファスシリコン薄膜では、8%程度の変換効率の太陽光発電セルとして実用化がされている。最近では、アモルファスシリコン薄膜と微結晶薄膜シリコンを積層構造にしたタンデム型セルの開発により、広い波長域の太陽光を利用することで15%程度の変換効率の太陽光発電が可能となりつつある。このような薄膜構造を作成する方法としてはプラズマCVD装置によるシラン系ガスを分解成膜することが一般に行われている。アモルファスシリコン薄膜では数100nm程度、微結晶シリコン薄膜では数1000nm程度の膜厚を必要とするため、成膜速度とその膜厚均一性を両立させるためにプラズマCVD装置に関してさまざまな提案がなされている。
【0003】
たとえば、1kPa以下の減圧プラズマCVDにおいて、高速成膜かつ大面積基板での膜厚分布を改善するため、高周波を断続的に印加して放電させる方式(パルス放電)が近年取り入れられてきた。特許文献1には、こうした高周波パルス放電の例として、チャンバ内にカソード電極とアノード電極の組を2組設け、グランド電位の各カソード電極に被成膜用の基材を設置し、シランと水素との混合ガスをチャンバに導入し、各アノード電極に高周波パルスをオン期間が重ならないように印加することにより、基材上にシリコン系薄膜を成膜している。このときの放電条件は、高周波周波数が27.12MHz、変調パルスのオン期間が10μsec、デューティ比が20%、オン期間のずれが25μsecである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3420960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高周波を断続的に印加して放電させる方式では、高周波パルスのオン期間においては、定常状態で周波数に依存した高周波プラズマ密度分布が生じ、これに伴い面内膜厚分布が生じるという問題が発生する。また、基材の周囲にはシースと呼ばれる電子密度の低い領域が生じるが、定常状態ではこのシースの厚み(幅)が大きくなり、それに応じて対向電極と基材との間隔を大きくする必要があるため、装置の小型化が困難となる。更に、プラズマが基材と対向電極との間から横方向へ拡散するおそれもあり、この点でも装置の小型化が困難となる。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、面内膜厚分布が生じにくく装置の小型化が可能なシリコン系薄膜量産装置及びその方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の目的の少なくとも一つを達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明のシリコン系薄膜量産装置は、
複数の被成膜部にシリコン系薄膜を生成するシリコン系薄膜量産装置であって、
シリコン系薄膜の原料ガスを導入するためのガス導入口を有するチャンバと、
該チャンバ内に設けられ前記被成膜部を支持可能な複数の支持電極と、
前記複数の支持電極の各々と隙間をもって対向するように設けられた複数の対向電極と、
互いに対をなす支持電極と対向電極との間に直流パルス電圧を印加する直流パルス電圧印加回路と、
を備えたものである。
【0009】
このシリコン系薄膜量産装置では、まず、被成膜部の表面と対向電極との間に隙間ができるように被成膜部を支持電極に支持する。続いて、チャンバの内圧を1kPa以下に調整し、該チャンバに原料ガスを導入しながら互いに対をなす対向電極と支持電極との間に直流パルス電圧印加回路により直流パルス電圧を印加してプラズマを発生させることにより、前記被成膜部に前記シリコン系薄膜を生成する。このように直流パルス電圧を印加して放電させる方式であるため、高周波を断続的に印加して放電させる方式のようにプラズマ密度分布が生じることがなく、面内膜厚分布が生じにくい。また、直流パルス電圧は急峻に立ち上がることからオン期間を短くすることができ、その結果、シースは定常状態に至る前の過渡状態で止まり厚みが薄くなるため、対向電極と被成膜部との間隔を狭くすることができ、装置の小型化が可能となる。更に、直流パルス電圧を利用することで、プラズマが被成膜部と対向電極との間から横方向へ拡散するおそれも少なくなり、この点でも装置の小型化が可能となる。
【0010】
なお、プラズマ発生時のチャンバの内圧は1kPa以下が好ましく、10〜100Paがより好ましい。1kPaを超えると異常放電が起きやすくなるため好ましくない。
【0011】
本発明のシリコン系薄膜量産装置において、前記被成膜部は、前記複数の対向電極の隙間を縫うようにジグザグに配置された長尺シート上に形成されていてもよい。こうすれば、シリコン系薄膜を量産しやすくなる。
【0012】
本発明のシリコン系薄膜量産装置において、前記直流パルス電圧印加回路は、互いに対をなす支持電極と対向電極の組ごとに設けられていてもよい。こうすれば、一つの直流パルス電圧印加回路ですべての対向電極に直流パルス電圧を印加する場合に比べて、プラズマが一様に発生しやすい。また、各被成膜部に均一なシリコン系薄膜が成膜されるように、直流パルス印加回路を個別に制御することも可能となる。
【0013】
本発明のシリコン系薄膜量産装置において、前記直流パルス電圧印加回路は、直流電源の両端にインダクタ、第1半導体スイッチ及び第2半導体スイッチが直列接続され、前記インダクタは、一端が前記第1半導体スイッチのアノード端子に接続されると共に他端がダイオードを介して前記第1半導体スイッチのゲート端子に接続され、前記ダイオードは、アノード端子が前記第1半導体スイッチのゲート端子に接続されており、前記第2半導体スイッチがターンオンされると前記第1半導体スイッチの導通に伴って前記インダクタに誘導エネルギが蓄積され、前記第2半導体スイッチがターンオフされると前記第1半導体スイッチのターンオフに伴って前記インダクタでパルス電圧が発生し該インダクタと磁気的に結合された前記コイル素子に前記パルス電圧を昇圧して供給する回路としてもよい。こうすれば、急峻に立ち上がる直流パルス電圧を印加することが可能となる。
【0014】
本発明のシリコン系薄膜量産方法は、
シリコン系薄膜の原料ガスを導入するためのガス導入口を有するチャンバと、該チャンバ内に設けられ前記被成膜部を支持可能な複数の支持電極と、前記複数の支持電極の各々と隙間をもって対向するように設けられた複数の対向電極と、互いに対をなす支持電極と対向電極との間に直流パルス電圧を印加する直流パルス電圧印加回路と、を備えたシリコ
ン系薄膜量産装置を用いて、前記被成膜部にシリコン系薄膜を生成するシリコン系薄膜量産方法であって、
(a)前記被成膜部の表面と前記対向電極との間に隙間ができるように前記被成膜部を前記支持電極に支持する工程と、
(b)前記チャンバの内圧を1kPa以下に調整し、該チャンバに前記原料ガスを導入しながら互いに対をなす対向電極と支持電極との間に前記直流パルス電圧印加回路により直流パルス電圧を印加してプラズマを発生させることにより、前記被成膜部に前記シリコン系薄膜を生成する工程と、
を含むものである。
【0015】
このシリコン系薄膜量産方法は、直流パルス電圧を印加して放電させる方式を採用しているため、高周波を断続的に印加して放電させる方式のようにプラズマ密度分布が生じることがなく、面内膜厚分布が生じにくい。また、直流パルス電圧は急峻に立ち上がることからオン期間を短くすることができ、その結果、シースは定常状態に至る前の過渡状態で止まり厚みが薄くなるため、対向電極と被成膜部との間隔を狭くすることができ、装置の小型化が可能となる。更に、直流パルス電圧を利用することで、プラズマが被成膜部と対向電極との間から横方向へ拡散するおそれも少なくなり、この点でも装置の小型化が可能となる。
【0016】
本発明のシリコン系薄膜量産方法において、前記工程(a)では、各被成膜部は、前記複数の対向電極の隙間を縫うようにジグザグに配置された長尺シート上に形成されたものを用いてもよい。こうすれば、シリコン系薄膜を量産しやすくなる。この長尺シートは、可撓性を有していることが好ましい。
【0017】
本発明のシリコン系薄膜量産方法において、前記シリコン系薄膜量産装置として、互いに対をなす支持電極と対向電極の組ごとに前記直流パルス印加回路を設けたものとしてもよい。こうすれば、一つの直流パルス電圧印加回路ですべての対向電極に直流パルス電圧を印加する場合に比べて、プラズマが一様に発生しやすい。また、各被成膜部に均一なシリコン系薄膜が成膜されるように、直流パルス印加回路を個別に制御することも可能となる。
【0018】
本発明のシリコン系薄膜量産方法において、前記直流パルス電圧印加回路として、直流電源の両端にインダクタ、第1半導体スイッチ及び第2半導体スイッチが直列接続され、前記インダクタは、一端が前記第1半導体スイッチのアノード端子に接続されると共に他端がダイオードを介して前記第1半導体スイッチのゲート端子に接続され、前記ダイオードは、アノード端子が前記第1半導体スイッチのゲート端子に接続されており、前記第2半導体スイッチがターンオンされると前記第1半導体スイッチの導通に伴って前記インダクタに誘導エネルギが蓄積され、前記第2半導体スイッチがターンオフされると前記第1半導体スイッチのターンオフに伴って前記インダクタでパルス電圧が発生し該インダクタと磁気的に結合された前記コイル素子に前記パルス電圧を昇圧して供給する回路を使用してもよい。こうすれば、急峻に立ち上がる直流パルス電圧を印加することが可能となる。
【0019】
本発明のシリコン系薄膜量産装置は、被成膜部を温度制御する温度制御機構を備えていてもよく、この温度制御機構は支持電極に組み込まれていてもよい。温度制御機構は、例えばヒータであってもよいし、ヒータと冷却液循環経路であってもよい。また、被成膜部はシート基材上に形成されていてもよい。シート基材は、ガラス基材としてもよいし可撓性基材としてもよい。また、シート基材は、移動機構により、チャンバの外側からチャンバ内に導入しチャンバ内を通過したあとチャンバの外側に導出するようにしてもよい。
【0020】
本発明のシリコン系薄膜量産装置及びその方法では、直流パルス電圧のパルス半値幅(
最大パルス電圧値の半分の電圧における時間幅)は3000nsec以下が好ましく、100〜1000nsecがより好ましい。また、直流パルス電圧に関し、立ち上がり時間はパルス半値幅の1/3以下であることが好ましく、最大電圧値は絶対値で2kV以上の負の電圧であることが好ましく、デューティ比が0.01%〜10%であることが好ましく、電力密度が10〜200mW/cm2であることが好ましい。また、プラズマ発生時
のチャンバ内の圧力は10〜100Paが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】シリコン系薄膜量産装置10の概略構成を示す説明図である。
図2】直流パルス電圧印加回路22の説明図である。
図3】各部の電流及び電圧の動作波形の説明図である。
図4】シリコン系薄膜量産装置110の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1はシリコン系薄膜量産装置10の概略構成を示す説明図、図2は直流パルス電圧印加回路の説明図である。
【0023】
シリコン系薄膜量産装置10は、ソーダフロートガラス製のシート基材60上に蒸着されたITOからなる透明電極62(本発明の被成膜部)にシリコン系薄膜を生成する装置である。なお、シート基材60は、例えば縦1.4m×横1.1m×厚さ4mmの大きさとすることができる。また、透明電極62は、ITOの代わりに、例えばSnO2やZn
Oなどを用いることができる。
【0024】
このシリコン系薄膜量産装置10は、アースに接続されたステンレス製のチャンバ12と、チャンバ12内に設けられた複数の支持電極18と、複数の支持電極18の各々と隙間をもって対向するように設けられた複数の対向電極16と、互いに対をなす支持電極18と対向電極16との間に直流パルス電圧を印加する直流パルス電圧印加回路22とを備えている。
【0025】
チャンバ12は、ステンレス製の板材によって箱型に形成されている。このチャンバ12の内部は圧力調整可能な閉空間となっている。また、チャンバ12は、チャンバ12の内圧を負圧に調整するためのガス排出口13と、内部に各種のガスを導入可能なガス導入管14とを有している。ガス排出口13には、図示しないが油回転ポンプ及び油拡散ポンプ又はターボ分子ポンプが接続されており、両ポンプを用いることでチャンバ12の内圧を1Pa程度に真空引きすることが可能である。また、ガス導入管14には、対向電極16と支持電極18との間にシリコン系薄膜の原料ガスが噴出するようにガス噴出口14aが設けられている。ここで、シリコン系薄膜としては、例えばアモルファスシリコン薄膜や微結晶シリコン薄膜などが挙げられる。アモルファスシリコン薄膜や微結晶シリコン薄膜の原料ガスとしては、SiH4、Si26又はこれらのシラン系ガスにCH4,C22,PH3,B26,GeH4のいずれかを添加したものを用いてもよい。これらの原料ガスは、水素、ヘリウム、アルゴン、キセノンなどで希釈して用いてもよい。なお、原料ガスに応じてp型、n型、i型のアモルファスシリコン薄膜や微結晶シリコン薄膜が生成されることは周知である。例えば、シラン系ガスにB26を添加するとp型、PH3を添加する
とn型となる。
【0026】
支持電極18は、ステンレス製のブロックであり、対向電極16同士の間に配置されている。この支持電極18は、透明電極62が対向電極16と所定間隔をもって平行に対向するように、シート基材60を介して透明電極62を支持している。また、支持電極18は、内部にヒータ20と図示しない冷却液循環経路とが内蔵されている。このヒータ20による加熱と冷却液循環経路による冷却とが温度制御機構であり、図示しないコントロー
ラで温度制御機構を制御することにより、透明電極62の温度が所望の温度(例えば200℃)となるように調節する。各支持電極18は、アースに接続されており、電位はグランドレベルとなっている。
【0027】
対向電極16は、ステンレス製の板材である。この対向電極16は、表面に透明電極62が形成されたシート基材60が支持電極18に支持されたときに、透明電極62の表面から所定距離だけ離間するように配置されている。この所定距離は、シリコン系薄膜の成膜時に発生するシースの厚みを超えるように設定されている。
【0028】
直流パルス電圧印加回路22は、各対向電極16ごとに設けられ、各対向電極16に負の直流パルス電圧を印加可能となっている。この直流パルス電圧印加回路22は、図2に示すように、直流電源24と高周波インピーダンスを低くするコンデンサ26とを有する直流電源部28の両端にインダクタ30、第1半導体スイッチ32及び第2半導体スイッチ34が直列接続された一次巻線側回路44と、一端が対向電極16に電気的に接続され他端がアースに接続されたコイル素子48を備えた二次巻線側回路50とで構成されている。一次巻線側回路44では、インダクタ30は、一端が第1半導体スイッチ32のアノード端子32Aに接続され、他端がダイオード42を介して第1半導体スイッチ32の制御端子であるゲート端子32Gに接続されている。ダイオード42は、アノード側が第1半導体スイッチ32のゲート端子32Gに接続されている。第1半導体スイッチ32は、電流制御形デバイスや自己消弧形デバイス、転流消弧形デバイスを用いることができるが、ここではターンオフ時の電圧上昇率(dv/dt)に対する耐量が極めて大きく且つ電圧定格の高いSIサイリスタを用いている。第2半導体スイッチ34は、自己消弧形デバイスや転流消弧形デバイスを用いることができるが、ここでは、アバランシェ形ダイオード36が逆並列で内蔵されたパワーMOSFET38を使用し、このパワーMOSFET38と、パワーMOSFET38のゲート端子38Gとソース端子38Sに接続されソース端子38S−ドレイン端子38D間の電流の流れをオンオフ制御するゲート駆動回路40とから構成されている。ここで、一次巻線側回路44のインダクタ30は一次巻線を構成し、二次巻線側回路50のコイル素子48は二次巻線を構成し、両者がトランスとして機能する。そして、一次巻線の巻数をN1、二次巻線の巻数をN2、第1半導体スイッチ32のアノード−ゲート間電圧をVAGとすれば、VAG×N2/N1の電圧をコイル素子48の両端に印加することができる。
【0029】
次に、シリコン系薄膜量産装置10の一次巻線側回路44でパルス電圧が発生するメカニズムを説明する。ゲート駆動回路40からパワーMOSFET38のゲート−ソース間に制御信号Vcが供給されると、パワーMOSFET38がオフからオンになる。このとき、ダイオード42の逆極性の極めて大きなインピーダンスにより、第1半導体スイッチ32は、ゲート端子32G及びカソード端子32K間に正に印加される電界効果によりターンオンしてアノード端子32A−カソード端子32K間が通流する(A−K間電流)。このようにして、第1及び第2半導体スイッチ32,34が導通すると、インダクタ30に直流電源24の電圧Eと略同等の電圧が印加され、所望のエネルギが蓄積される。そして、所望のエネルギが得られた後、ゲート駆動回路40からの制御信号の供給を停止し、パワーMOSFET38をターンオフさせる。すると、パワーMOSFET38がターンオフするのに伴ってインダクタ30でパルス電圧が発生する。具体的には、第2半導体スイッチ34がターンオフすると、インダクタ30の電流ILは、第1半導体スイッチ32のアノード端子32A→ゲート端子32G→ダイオード42のアノード→ダイオード42のカソードの経路に転流するため、アノード端子32A−ゲート端子32G間が通流する(A−G間電流)。そして、インダクタ30に蓄積したエネルギによる電流が引き続きアノード端子32Aからゲート端子32Gに流れ、第1半導体スイッチ32がオフ状態に移行するので、第1半導体スイッチ32のアノード−ゲート間電圧VAGとインダクタ端子間電圧VLが急上昇する。そして、電流ILがゼロになると、電圧VAGとインダクタ端子間
電圧VLが最大となる。その後、第1半導体スイッチ32が非通流になると、各電圧VAG,VLは急下降する。このときの様子を図3に示す。図3において、電流ILはインダクタ30を流れる電流であり、電圧VAGは第1半導体スイッチ32のアノード−ゲート間電圧であり、電圧VLはインダクタ30の端子間電圧である。なお、パルス電圧の詳しいメカニズムについては例えば特許第3811681号に記載されている。
【0030】
次に、こうしたシリコン系薄膜量産装置10を用いてシート基材60上に形成された透明電極62にシリコン系薄膜を生成する場合について説明する。まず、図1に示すように、支持電極18に透明電極62が形成されたシート基材60を支持する。このとき、透明電極62の表面と対向電極16との間は所定間隔だけ離れている。また、基材温度を100〜300℃に設定する。続いて、ガス導入管14から原料ガスをチャンバ12内に導入しつつガス排出口13から一定の割合で排気してチャンバ12内の圧力を1kPa以下(例えば10〜100Pa)に調節する。次いで、直流パルス電圧印加回路22を制御して、各対向電極16に負電位でパルス半値幅が所定時間(300〜1000nsecの範囲内で定めた時間)になるように直流パルス電圧を印加し、シリコン系薄膜を成膜する。このとき、直流パルス電圧のピーク電圧が絶対値で2kV以上、デューティ比が0.01〜10%、立ち上がり時間がパルス半値幅の1/3以下、電力密度が10〜200mW/cm2となるように設定する。なお、各対向電極16に一斉に直流パルス電圧を印加しても
よいし、順次直流パルス電圧を印加してもよい。
【0031】
例えば、透明電極62にアモルファスシリコン薄膜(膜厚コンマ数μm)と微結晶シリコン薄膜(膜厚数μm)とを積層する場合、チャンバ12の内圧を100Paとする。そして、アモルファスシリコン薄膜成膜時には、シラン:水素=15:100(体積比)の原料ガスをガス導入管14から導入し、基材温度を150℃、直流パルス電圧のパルス半値幅を200nsec、立ち上がり時間50nsec、ピーク電圧5kV、デューティ比を0.1%、電力密度を25mW/cm2とする。続く微結晶シリコン薄膜成膜時には、
シラン:水素=5:100(体積比)の原料ガスをガス導入管14から導入し、基材温度を200℃、デューティ比を1%、電力密度を100mW/cm2とした以外は、アモル
ファスシリコン薄膜成膜時と同条件とする。こうすることにより、アモルファスシリコン薄膜及び微結晶シリコン薄膜の成膜速度が数10〜数100nm/minとなる。このようにして得られるアモルファスシリコン薄膜と微結晶シリコン薄膜との積層構造を用いて作製されるタンデム型の太陽電池は、従来法により得られるものと同等の変換効率が得られる。
【0032】
以上詳述した本実施形態のシリコン系薄膜量産装置10によれば、直流パルス電圧を印加して放電させる方式であるため、高周波を断続的に印加して放電させる方式のように高周波プラズマ密度分布が生じることがなく、面内膜厚分布が生じにくい。また、直流パルス電圧は急峻に立ち上がることからオン期間を短くすることができ、その結果、シースは定常状態に至る前の過渡状態で止まり厚みが薄くなるため、対向電極16と透明電極62との間隔を狭くすることができ、装置の小型化が可能となる。更に、直流パルス電圧を利用することで、プラズマが対向電極16と透明電極62との間から横方向へ拡散するおそれも少なくなり、この点でも装置の小型化が可能となる。更にまた、プラズマ発生時にチャンバ12の内圧を1kPa以下に設定したため、異常放電が起きにくい。そしてまた、直流パルス電圧印加回路22を各対向電極16ごとに設けたため、一つの直流パルス電圧印加回路ですべての対向電極に直流パルス電圧を印加する場合に比べて、プラズマが一様に発生しやすい。また、各被成膜部に均一なシリコン系薄膜が成膜されるように、複数の直流パルス印加回路22を個別に制御することも可能となる。
【0033】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0034】
例えば、上述した実施形態では、ソーダフロートガラス製のシート基材60上に蒸着されたITOからなる透明電極62にシリコン系薄膜を生成する場合について説明したが、可撓性のシート基材上に形成された金属電極にシリコン系薄膜を生成してもよい。図4は、可撓性のポリイミド系樹脂のシート基材160上にスパッタ成膜された銀電極162(本発明の被成膜部)にシリコン系薄膜を生成する場合のシリコン系薄膜量産装置110の概略説明図である。シート基材160の大きさは、幅1000mm、厚さ100μm程度のものを用いる。なお、シリコン系薄膜量産装置110のうち、シリコン系薄膜量産装置10と同じ構成要素については同じ符号を付し、その説明を省略する。シリコン系薄膜量産装置110では、支持電極18の上部と対向電極16の下部に搬送ローラ112が配置されている。また、チャンバ12の左側にアンワインダ室、右側にワインダ室が設けられている。アンワインダ室には、シリコン系薄膜が成膜される前のシート基材160が巻かれたアンワインダロール114が配置され、ワインダ室には、シリコン系薄膜が成膜された後のシート基材160が巻かれたワインダロール116が配置されている。シート基材160は、アンワインダロール114からチャンバ12内に導入され、支持電極18の上部の搬送ローラ112と対向電極16の下部の搬送ローラ112とに順次掛け渡されることによりジグザグ状に配置され、ワインダロール116に至っている。このとき、シート基材160上に形成された各銀電極162と各対向電極16とが互いに向き合うように配置される。この状態で、ガス導入管14のガス噴出口14aから原料ガスをチャンバ12内に導入し、直流パルス電圧印加回路22を制御して直流パルス電圧を各対向電極16に印加し、プラズマを発生させることにより、シート基材160の各銀電極162上にシリコン系薄膜を生成させる。シリコン系薄膜の生成後、搬送ローラ112を図中矢印方向に回転させることにより、ワインダロール116にシート基材160を巻き取る。なお、プラズマ発生条件は上述した実施形態と同様である。こうすれば、シート基材160をジグザグ状に配置するため、直線上に配置する場合に比べてチャンバ12内により多くの銀電極162を配置することができ、シリコン系薄膜を量産しやすくなる。
【0035】
上述した実施形態において、一枚の対向電極16を上下方向に複数に分割して分割後の電極の各々に直流パルス電圧印加回路22を設けてもよい。こうすれば、プラズマが一層一様に発生しやすくなる。
【0036】
上述した実施形態では、直流パルス電圧印加回路22を一次巻線側回路44と二次巻線側回路50とで構成したが、インダクタ30の代わりにコイル素子48を電気的に接続してもよい。この場合、コイル素子48に発生したパルス電圧がそのまま対向電極16に印加されることになる。
【0037】
上述した実施形態では、一次巻線側回路44として第1及び第2半導体スイッチ32,34を開いたときにパルス電圧が発生するオープニング方式の回路を採用したが、スイッチを閉じたときにパルス電圧が発生するクロージング方式の回路を採用してもよい。
【符号の説明】
【0038】
10 シリコン系薄膜量産装置、12 チャンバ、13 ガス排出口、14 ガス導入管、14a ガス噴出口、16 対向電極、18 支持電極、20 ヒータ、22 直流パルス電圧印加回路、24 直流電源、26 コンデンサ、28 直流電源部、30 インダクタ、32 第1半導体スイッチ、32A アノード端子、32G ゲート端子、32K カソード端子、34 第2半導体スイッチ、36 アバランシェ形ダイオード、38D ドレイン端子、38G ゲート端子、38S ソース端子、40 ゲート駆動回路、42 ダイオード、44 一次巻線側回路、48 コイル素子、50 二次巻線側回路、60 シート基材、62 透明電極、110 シリコン系薄膜量産装置、112 搬送ローラ、114 アンワインダロール、116 ワインダロール、160 シート基材、1
62 銀電極。
図1
図2
図4
図3