(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも75質量%のナチュラルチーズと、溶融塩と、下記1)〜3)の特徴を有する乳濃縮物とを含む原料を加熱乳化する工程と、前記加熱乳化を終了した後、1〜10℃の冷水に浸漬させて急冷する工程を有することを特徴とする曳糸性プロセスチーズの製造方法。
1)乳濃縮物に含まれるタンパク質が少なくとも40質量%であること、
2)乳濃縮物に含まれるタンパク質の50〜95質量%がカゼインであること、
3)乳濃縮物が酵素処理する工程を経ずに得られるものであること。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は曳糸性プロセスチーズにおいて、曳糸性を向上させた曳糸性プロセスチーズおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、ナチュラルチーズと、溶融塩と、下記1)〜3)の特徴を有する乳濃縮物とを含む原料を加熱乳化する工程を有することを特徴とする曳糸性プロセスチーズの製造方法を提供する。
1)乳濃縮物に含まれるタンパク質が少なくとも40質量%であること、
2)乳濃縮物に含まれるタンパク質の50〜95質量%がカゼインであること、
3)乳濃縮物が酵素処理する工程を経ずに得られるものであること。
【0009】
前記曳糸性プロセスチーズの、下記式(I)で表される糸曳き特性値が少なくとも3であることが好ましい。
糸曳き特性値=X
1.2×Y
0.5 ・・・(I)
(式中のXは糸曳き本数(本)、Yは糸曳き幅Y(mm)を示し、
糸曳き本数Xおよび糸曳き幅Yは、一辺が85mmの正方形で厚さ2mmのシート状のプロセスチーズを試料とし、断面正方形にスライスされた食パン上の中央に、試料の周囲の辺と食パンの周囲の辺とが平行になるように載せ、食パンは、試料を載せる面が面積が等しい2つの長方形に分かれるように、予めカットし、カット面どうしを当接させた状態とし、試料の表面温度が90〜100℃の範囲内となるように加熱した後、表面温度が80℃になるまで放冷し、食パンをカット面に対して垂直な方向に沿って、該カット面が互いに離れる向きに、速度1000mm/分で引っ張り、カット面間の距離が5cmとなった時点で、カット面の間に生じた糸の本数と、試料を載せた面を上方から見たときの糸の幅を測定し、糸の本数を糸曳き本数X(本)、各糸の幅のうち、最も大きい値を糸曳き幅Y(mm)とすることにより決定される。)
【0010】
前記曳糸性プロセスチーズが、乳固形分を少なくとも40質量%含み、かつナチュラルチーズを少なくとも51質量%含むことが好ましい。
前記原料が、前記乳濃縮物由来のタンパク質を0.085〜8.5質量%含有することが好ましい。
前記乳濃縮物が、タンパク質を少なくとも70質量%含有することが好ましい。
【0011】
本発明は、ナチュラルチーズと、溶融塩と、下記1)〜3)の特徴を有する乳濃縮物とを含む、曳糸性プロセスチーズを提供する。
1)乳濃縮物に含まれるタンパク質が少なくとも40質量%であること、
2)乳濃縮物に含まれるタンパク質の50〜95質量%がカゼインであること、
3)乳濃縮物が酵素処理する工程を経ずに得られるものであること。
【0012】
本発明の曳糸性プロセスチーズは、前記式(I)で表される糸曳き特性値が少なくとも3であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた曳糸性を有する曳糸性プロセスチーズが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、曳糸性プロセスチーズを製造する際に、乳中に含まれるタンパク質の構成比をほとんど変化させずに濃縮され、かつカゼインを酵素処理する工程を経ずに製造された乳濃縮物を、原料として用いられるナチュラルチーズに添加して加熱乳化すると、曳糸性が向上することを見出して、本発明に至った。
【0015】
以下、本発明で用いられる、下記1)〜3)の特徴を有する乳濃縮物(乳タンパク質濃縮物)を乳濃縮物(P)(乳タンパク質濃縮物(P))と記載する。
1)乳濃縮物に含まれるタンパク質が少なくとも40質量%であること。
2)乳濃縮物に含まれるタンパク質の50〜95質量%がカゼインであること。
3)乳濃縮物が酵素処理する工程を経ずに得られるものであること。
【0016】
[ナチュラルチーズ(原料ナチュラルチーズ)]
本発明における原料として使用されるナチュラルチーズは、乳等省令(「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」、昭和26年12月27日厚生省令第52号)において定められる「ナチュラルチーズ」の少なくとも1種からなる。ただし、ナチュラルチーズの原料である乳は、乳等省令で定義される乳(生乳、牛乳、特別牛乳、生やぎ乳、生めん羊乳、殺菌やぎ乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳等)のほかに、水牛の乳、ラクダの乳など、チーズの原料として公知の動物一般の乳も含まれるものとする。
原料として用いられるナチュラルチーズ(原料ナチュラルチーズ)の例としては、モッツァレラチーズ、ステッペンチーズ、チェダーチーズ、ゴーダチーズ、エダムチーズ、エメンタールチーズ、パルメザンチーズ、クリームチーズ、カマンベールチーズ、ブルーチーズ等が挙げられる。原料として用いられるナチュラルチーズは少なくとも2種を組み合わせてもよい。また曳糸性プロセスチーズの組織および物性を調整するために、熟度が異なるナチュラルチーズを組み合わせることも好ましい。
特に良好な曳糸性と風味とを両立させるには、モッツァレラチーズ、チェダーチーズ、ゴーダチーズ等を用いることが好ましい。
【0017】
[曳糸性プロセスチーズ]
本発明の曳糸性プロセスチーズは、乳等省令において定められる「プロセスチーズ」の範疇に含まれるものであり、ナチュラルチーズを加熱溶融し、乳化したものである。
また公正競争規約において、プロセスチーズは、乳固形分(乳脂肪と乳蛋白質の総量)を40質量%以上含み、ナチュラルチーズ以外の添加成分として、脂肪量調整のためのクリーム、バター、バターオイルを含有することができる。水を含んでもよい。その他の添加成分として、味、香り、栄養成分、機能性または物性を付与する目的の食品を、製品の固形分重量の1/6以内で含有することができる。該その他の添加成分として前記クリーム、バター、バターオイル以外の乳等を添加する場合は、製品中における乳糖含量が5質量%を超えない範囲、かつ、製品の固形分重量の1/6以内と定められている。
本発明の曳糸性プロセスチーズは、ナチュラルチーズを少なくとも51質量%含むことが好ましく、少なくとも61質量%含むことがより好ましく、少なくとも75質量%含むことがさらに好ましく、少なくとも80質量%含むことが特に好ましい。該ナチュラルチーズの含有量の上限は100質量%未満であり、99.8質量%以下が好ましく、99.0質量%以下がさらに好ましい。
本発明における乳濃縮物(P)は、前記その他の添加成分に該当する。
【0018】
[曳糸性]
本発明においてプロセスチーズの曳糸性は下記の方法で評価する。
まず、プロセスチーズを一辺が85mmの正方形で厚さが2mmのシート状に成形した試料を断面正方形にスライスされた食パン上の中央に載せる。食パンの面積はプロセスチーズの面積より大きく、プロセスチーズの周囲の辺と食パンの周囲の辺とが平行になるように載せる。食パンは、チーズ(試料)を載せる面が、面積が等しい2つ長方形に分かれるように予めカットし、カット面どうしを当接させた状態で試料を載せる。これをオーブントースターで試料が溶融するまで焼成して取り出す。試料の溶融は、表面全体にわたって気泡が生じることで確認できる。取り出した直後の試料の表面温度が90〜100℃の範囲内となるように焼成条件を設定する。
オーブントースターから取り出した後、表面温度が80℃になるまで放冷する。取り出してから80℃になるまでの時間が25〜40秒の範囲内となるように放冷条件を設定する。
試料の表面温度が80℃まで下がったら、糸曳き測定器を用いて、食パンをカット面に対して垂直な方向に沿って、該カット面が互いに離れる向きに引っ張る。引っ張る速度は1000mm/分とし、カット面間の距離が5cmとなった時点で、カット面の間に生じた糸の本数と、試料を載せた面を上方から見たときの糸の幅を測定する。糸の本数は、一方のカット面から他方のカット面まで連続してつながっている糸の本数を数える。糸の幅は、試料を載せた面を上方から見たときに、一方のカット面から他方のカット面までの間で、カット面に対して平行な方向の幅が最も太い部分の、該幅を測定する。
曳糸性の評価においては、上記の方法で測定した糸の本数を糸曳き本数X(本)、各糸の幅のうち、最も大きい値を糸曳き幅Y(mm)とし、下記数式(I)により糸曳き特性値を求める。該糸曳き特性値が高いほど糸の伸びが良く、曳糸性が良好であることを意味する。
糸曳き特性値=X
1.2×Y
0.5 ・・・(I)
【0019】
本方法では、例えば糸曳き本数が同じである場合には糸曳き幅が大きい方が曳糸性がより良好と評価し、糸曳き幅が同じである場合には糸曳き本数が多い方が曳糸性がより良好と評価する。また曳糸性の評価において、糸曳き幅が増加するよりも糸曳き本数が増加する方が、糸曳き感がより向上するため、上記糸曳き特性値に対する寄与は、糸曳き幅よりも糸曳き本数の方が大きい。
「曳糸性」とは、プロセスチーズを加熱溶融して引き延ばした際に、糸を曳く性質であり、本発明において「曳糸性」を有するとは、糸曳き特性値が少なくとも3であることを意味する。
【0020】
<原料>
本発明では、原料を加熱乳化する工程を経て曳糸性プロセスチーズを製造する。
原料は、主成分であるナチュラルチーズのほかに、少なくとも溶融塩と乳濃縮物(P)とを含む。その他にプロセスチーズに添加可能な成分を加えることができる。その際は、前記公正競争規約に定められるプロセスチーズの範疇から逸脱しない範囲で配合することが好ましい。
本発明における原料の組成(配合)は、該原料から乳濃縮物(P)を除いた残りの成分のみでプロセスチーズを製造した場合に、曳糸性を有するプロセスチーズを製造できる組成であることが好ましい。プロセスチーズの原料組成において、曳糸性を付与するための公知の手法を、本発明においても用いることができる。
【0021】
[乳濃縮物(P)]
本発明で用いられる乳濃縮物(P)は、原料である乳に元々含まれていた成分からなり、乳中に含まれるタンパク質の構成比がほぼ維持された、カゼインを主体(カゼイン以外のタンパク質は乳清タンパク質)とする乳タンパク質濃縮物である。乳濃縮物(P)は、タンパク質を少なくとも40質量%含有し、該タンパク質中の50〜95質量%がカゼインであり、酵素処理する工程を経ずに得られるものである。酵素処理とは、カゼインが酵素により分解される処理を意味し、例えばレンネットによってカゼインを酵素分解する処理である。
乳中に含まれるタンパク質の構成比は、通常、カゼイン:乳清タンパク質=80:20前後である。乳濃縮物(P)におけるタンパク質の構成比は、質量比でカゼイン:乳清タンパク質=75:25〜95:5が好ましく、75:25〜85:15がより好ましく、80:20が特に好ましい。
乳濃縮物(P)は粉末状が好ましい。
【0022】
乳濃縮物(P)の配合量が多くならない点および製造適性の点で、乳濃縮物(P)は、タンパク質を少なくとも70質量%含有することがより好ましい。該乳濃縮物(P)におけるタンパク質の含有量の上限は特に限定されないが、実質的には95質量%以下である。
乳濃縮物(P)に含まれるタンパク質は、カゼインを50〜90質量%含有することが好ましく、50〜85質量%含有することが特に好ましい。
【0023】
乳濃縮物(P)の製造方法は、上記の条件を満たす乳濃縮物(P)が得られる方法であれば特に限定されず、市販の乳濃縮物(乳タンパク質濃縮物)の中から適宜選択して使用してもよい。例えば、MPC(ミルクプロテインコンセントレート)、MCI(ミセラカゼインアイソレート)、およびMPI(ミルクプロテインアイソレート)からなる群から選ばれる少なくとも1種を、乳濃縮物(P)として好ましく用いることができる。乳濃縮物(P)は少なくとも2種を併用してもよい。
【0024】
MPC(ミルクプロテインコンセントレート)とは、脱脂乳を除菌した後、透析ろ過膜や限外ろ過膜等の膜処理により乳糖および塩類等を除去したものを加熱、濃縮、乾燥させて得られるものである。タンパク質の構成比は、質量比でカゼイン:乳清タンパク質=75:25〜85:15であることが好ましく、80:20であることがより好ましい。
MCI(ミセラカゼインアイソレート)とは、レンネット等の酵素処理を行わずに前記MPCのカゼイン比率をより高めることにより得られる乳濃縮物(乳タンパク質濃縮物)である。タンパク質の構成比は、質量比でカゼイン:乳清タンパク質=85:15〜95:5であることが好ましく、90:10であることがより好ましい。
MPI(ミルクプロテインアイソレート)とは、レンネット等の酵素処理を行わずに前記MPCから残留乳糖を除去することにより得られる乳濃縮物(乳タンパク質濃縮物)である。約95質量%のタンパク質を含有し、タンパク質の構成比は、質量比でカゼイン:乳清タンパク質=75:25〜85:15であることが好ましく、80:20であることがより好ましい。
【0025】
本発明では原料に乳濃縮物(P)を添加することにより、曳糸性を向上させることができる。乳濃縮物(P)の添加量は、乳濃縮物(P)の添加による曳糸性の向上効果が十分に得られやすい点で、全原料における、乳濃縮物(P)由来の(乳濃縮物(P)に含まれる)タンパク質の含有量が、0.085質量%以上、より好ましくは0.25質量%以上、特に好ましくは0.4質量%以上となるものであることが好ましい。
乳濃縮物(P)の添加量の上限は、乳濃縮物(P)の添加による高粘度化や乳化機内での付着等が抑えられて、良好な製造適性が得られやすい点で、全原料における、乳濃縮物(P)由来のタンパク質の含有量が、10質量%以下、より好ましくは8.5質量%以下となるものであることがより好ましい。
特に良好な曳糸性が得られやすい点で、全原料における、乳濃縮物(P)由来のタンパク質の含有量が、0.4〜3.0質量%となることがより更に好ましく、0.8〜2.5質量%となることが特に好ましい。
【0026】
[溶融塩]
本発明の曳糸性プロセスチーズの製造においては、原料に溶融塩を含有させることにより加熱乳化工程における乳化性を向上させることができる。
溶融塩としては、曳糸性プロセスチーズの製造において公知の溶融塩を適宜使用できる。溶融塩は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
良好な曳糸性が得られやすい点で、溶融塩は解膠作用が比較的弱いものが好ましく、具体的には、クエン酸塩、モノリン酸塩、ジリン酸塩が好ましい。
クエン酸塩としては、例えばクエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等が挙げられる。モノリン酸塩としては、例えばオルトリン酸ナトリウム等が挙げられる。ジリン酸塩としてはピロリン酸ナトリウム等が挙げられる。
原料に対する溶融塩の含有量は0.1〜3質量%が好ましく、0.4〜1.5質量%がより好ましい。該溶融塩の含有量が上記範囲の下限値以上であると、溶融塩の添加による乳化性の向上効果が十分に得られやすい。上記範囲の上限値以下であると、溶融塩の添加による風味の低下が良好に抑えられる。
【0027】
[添加剤等]
上記乳濃縮物(P)および溶融塩以外のその他の添加成分として、プロセスチーズにおいて公知の調味料、増粘安定剤、日持ち向上剤、乳化剤、pH調整剤、保存料、または香料等を、本発明の効果を損なわない範囲で、かつ公正競争規約に定められるプロセスチーズの範疇から逸脱しない範囲で添加してもよい。
調味料としては、食塩、糖質類、香辛料等が挙げられる。
増粘安定剤としては、寒天、ローカストビーンガム、カラギーナン、グアガム、キサンタンガム等が挙げられる。
日持ち向上剤としては、グリシン、酢酸ナトリウム、リゾチーム、ローズマリー抽出物等が挙げられる。
乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、グリセライド類等が挙げられる。
pH調整剤としては、重曹、乳酸等が挙げられる。
保存料としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ナイシン等が挙げられる。
【0028】
<曳糸性プロセスチーズの製造方法>
本発明の曳糸性プロセスチーズの製造方法は、ナチュラルチーズ、溶融塩および乳濃縮物(P)を含む原料を加熱乳化する工程を有する。乳濃縮物(P)が添加された原料を用いるほかは、曳糸性プロセスチーズの公知の製法を用いて行うことができる。製造条件等は好ましい品質が得られるように適宜変更してよい。
まず、原料を構成する各成分を乳化機に投入して加熱乳化する。加熱乳化は、原料を撹拌しながら、加熱処理を行う工程であり殺菌工程も兼ねている。加熱処理は、好ましくは直接蒸気または間接蒸気を用いて行われる。乳化機は、例えば、ケトル型、2軸スクリューをもつクッカー型、サーモシリンダー型等の乳化機を用いることができる。原料として用いられるナチュラルチーズは予め粉砕された粉砕物を用いることが好ましい。
加熱乳化の条件は特に限定されない。例えば、回転数100〜1500rpmで撹拌しながら、加熱して乳化するとともに、所定の加熱殺菌条件を満したら、乳化を終了させる。得られた乳化物を容器に充填するなどして、所定の形状に成形し、冷却することにより曳糸性プロセスチーズが得られる。良好な曳糸性が得られやすい点で、急冷することが好ましい。例えば1〜10℃の冷水に浸漬させて急冷する。
【0029】
曳糸性プロセスチーズの最終製品の形状は特に限定されない。一般に曳糸性プロセスチーズで用いられている方法と同様の方法で、シュレッド状、スライス状(シート状)、ブロック状、ダイス状等、任意の形状に成形することが可能である。
例えば、シート状のスライスチーズは、加熱乳化工程で得られた乳化物を、例えば10cm×10cm×厚さ100cmのモールドに充填し、冷却後、モールドから取り出し、スライサーで厚さを2〜5mm程度にスライスしてもよい。または、該乳化物をフィルムに挟んで所定の厚さのシート状に押圧した後にカットする方法でも、スライスチーズを製造することができる。
【0030】
<曳糸性プロセスチーズ>
本発明の製造方法によれば、ナチュラルチーズと溶融塩と、タンパク質を少なくとも40質量%含有し、該タンパク質中の50〜95質量%がカゼインであり、酵素処理する工程を経ずに得られる乳濃縮物(P)とを含む曳糸性プロセスチーズが得られる。
好ましくはナチュラルチーズ、溶融塩および乳濃縮物(P)を含み、上記の方法で曳糸性を評価したときに、糸曳き特性値が7以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上となるような、優れた曳糸性を有する曳糸性プロセスチーズが得られる。
本発明の曳糸性プロセスチーズは、原料に乳濃縮物(P)を添加することにより、曳糸性が向上されたものであり、優れた曳糸性を有する。
曳糸性プロセスチーズ中の乳濃縮物(P)の含有量は、原料中の乳濃縮物(P)の含有量と同じである。
【0031】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
表に示す原料は以下の通りである。
<ナチュラルチーズ>
・原料として用いられるナチュラルチーズ(a)は、質量比で、ナチュラルチーズ(a)に含まれるモッツァレラチーズ以外のナチュラルチーズ:モッツァレラチーズ=57:25の混合物である。
<乳濃縮物(P)>
・MPC(b)は、ミルクプロテインコンセントレート、製品名;MPC4857、フォンテラ社製、タンパク質含有量85質量%である。
・MPC(c)は、ミルクプロテインコンセントレート、製品名;MPC480、フォンテラ社製、タンパク質含有量80質量%である。
・MCI(d)は、ミセラカゼインアイソレート、DOMO社製、タンパク質含有量85質量%、カゼイン:乳清タンパク質=約90:10である。
・MPI(e)は、ミルクプロテインアイソレート、DOMO社製、タンパク質含有量85質量%、カゼイン:乳清タンパク質=約80:20である。
<比較例で用いた乳タンパク質製品>
・カゼインNaは、カゼインナトリウム、タツア社製、タンパク質含有量100質量%である。該タンパク質の100質量%がカゼインである。
・レンネットカゼインは、タツア社製、タンパク質含有量100質量%である。該タンパク質の100質量%がカゼインである。
・WPCは、乳清タンパク質濃縮物、ワーナンブールチーズ&バター社製、タンパク質含有量80質量%である。該タンパク質の100質量%が乳清タンパク質である。
・脱脂粉乳は、森永乳業社製、タンパク質含有量34質量%である。カゼイン:乳清タンパク質=約80:20である。
<溶融塩>
・溶融塩(f)は、クエン酸三ナトリウム:ポリリン酸ナトリウム=3:1である。
<添加成分>
・増粘安定剤(g)は、ローカストビーンガムである。
【0032】
<実施例1〜4、比較例5〜8>
表1に示す配合でスライスチーズを製造した。実施例1〜4は本発明にかかる実施例である。比較例5は、乳濃縮物(P)に代えてカゼインNaを添加した比較例である。比較例6は、乳濃縮物(P)に代えてレンネットカゼインを添加した比較例である。比較例7は、乳濃縮物(P)に代えて乳清タンパク質濃縮物(WPC)を添加した比較例である。比較例8は、乳濃縮物(P)に代えて脱脂粉乳を添加した比較例である。
まず、表に示す原料の全部を、試験用の溶融乳化機(ステファン社製、万能高速カッター・ミキサーUMM/SK5型、ミキシングアタッチメント使用)に投入した。なお該溶融乳化機ではスチームを吹き込んで加熱するため、該スチームによって添加される水分に相当する水量を添加水量から予め差し引いておく。表に示す水の配合量は、スチームによって添加される水分も含んでいる。
次いで、溶融乳化機において、回転数600rpmで撹拌しながら、約2分間で87℃に達するように加熱して加熱乳化を行った。87℃に達したら、スチームの吹き込みを停止し、60秒間撹拌することにより加熱殺菌して、スチームの吹き込みおよび撹拌を停止し、乳化物を得た。
得られた乳化物を、該乳化物の品温が70℃以上である状態で、一辺が85mmの正方形で厚さが2mmのシート状に包装し、水温5℃の水槽内に浸漬して、品温が5℃に達するまで急冷した。
こうして得られたスライスチーズを試料とし、上記の方法で曳糸性を評価し、糸曳き本数X(本)、糸曳き幅Y(mm)、および糸曳き特性値を測定した。その結果を表1に示す。糸曳き特性値が大きいほど糸の伸びが良く、曳糸性に優れることを示す。
また風味、糸の強さについて下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。
【0033】
<評価基準>
[風味]
得られたスライスチーズを試料とし、オーブントースターで試料が溶融するまで焼成して取り出す。試料の溶融は、表面全体にわたって気泡が生じることで確認できる。取り出した直後の試料の表面温度が90〜100℃の範囲内となるように焼成条件を設定する。オーブントースターから取り出した後、表面温度が80℃になるまで放冷する。取り出してから80℃になるまでの時間が25〜40秒の範囲内となるように放冷条件を設定する。放冷直後の試料を試食し、下記の基準で風味を評価した。
A:乳濃縮物(P)または乳タンパク質製品に由来すると考えられる酸味や渋み等の異味を感じない(良好)。
B:乳濃縮物(P)または乳タンパク質製品に由来すると考えられる酸味や渋み等の異味をわずかに感じる(やや良)。
C:乳濃縮物(P)または乳タンパク質製品に由来すると考えられる酸味や渋み等の異味をはっきりと感じる(不良)。
[糸の強さ]
A:幅があり、しっかりとした糸(良好)。
B:幅はあるものの、切れやすい糸(やや不良)。
C:糸は曳くものの、幅は狭く、切れやすい糸(不良)。
【0035】
表1の結果に示されるように、カゼインを主体とする乳濃縮物(P)を添加した実施例1〜4では、良好な曳糸性を有する曳糸性プロセスチーズが得られた。糸は、幅が太くて、しっかりとしており、糸の強さも良好であった。特に実施例1、2では優れた曳糸性が得られ、実施例1〜4は風味も良好であった。
カゼインを添加した比較例5、6は、実施例1〜4と比べて同程度の糸曳き特性値が得られたが、風味が劣るものとなった。特に比較例6では、原料の粘度が上昇し、製造したプロセスチーズの風味は良好なものとはならなかった。
WPCを添加した比較例7は、実施例2と同程度の糸曳き幅が得られるが、糸が切れやすいため、糸曳き本数は実施例2よりも少なく、十分な曳糸性の効果は得られなかった。
脱脂粉乳を添加した比較例8は、糸曳き特性値が4.7となり糸の伸びは十分ではなかった。
【0036】
<実施例1、12〜16、比較例11>
本例ではMPCの添加量を変えてスライスチーズを製造した。実施例1および12〜16は本発明にかかる実施例である。比較例11は、MPCの添加量がゼロの比較例である。
すなわち、実施例1において、原料の配合を表2に示す通りに変更したほかは同様にしてスライスチーズを製造し、曳糸性を評価した。また上記の方法で風味について評価した。その結果を表2に示す。
なお、比較例11はMPCを含まない比較対照であるため、表における風味の評価結果は「‐」で示した。
【0038】
表2の結果に示されるように、実施例1および12〜16のいずれにおいても、MPCを添加したことによって、風味が損なわれることなく曳糸性が効果的に向上し、優れた曳糸性を有する曳糸性プロセスチーズが得られた。