特許第5732587号(P5732587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5732587鋼板の黒変防止用の皮膜形成組成物及び上記組成物によって皮膜が形成された鋼板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732587
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】鋼板の黒変防止用の皮膜形成組成物及び上記組成物によって皮膜が形成された鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/34 20060101AFI20150521BHJP
   C23C 22/44 20060101ALI20150521BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20150521BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20150521BHJP
   C09D 171/10 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C23C22/34
   C23C22/44
   C09D5/08
   C09D7/12
   C09D171/10
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-502464(P2014-502464)
(86)(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公表番号】特表2014-514448(P2014-514448A)
(43)【公表日】2014年6月19日
(86)【国際出願番号】KR2012002294
(87)【国際公開番号】WO2012134179
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2013年11月22日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0027814
(32)【優先日】2011年3月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
(73)【特許権者】
【識別番号】513243815
【氏名又は名称】ノル コイル コーティングズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】クァク、 ユン−ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ドン−ユン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、 ウ−ソン
(72)【発明者】
【氏名】ナム、 キュン−フン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ドン−ヨウル
(72)【発明者】
【氏名】ホン、 ソク−ジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 テ−ヨブ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、 ヨン−ファ
(72)【発明者】
【氏名】オム、 ムン−ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ミョン−ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ガブ−ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク、 サン−フン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 サン−チョル
(72)【発明者】
【氏名】ナム、 ヤン−ウ
【審査官】 川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−162098(JP,A)
【文献】 特開2003−105554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00 − 22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムを含むメッキ層を有するメッキ鋼板の表面の黒変防止用の皮膜形成組成物であって、固形分の重量で、水溶性フェノキシ樹脂2.5〜7.5重量部と、フッ化金属酸0.1〜0.5重量部と、金属化合物0.1〜0.5重量部と、架橋剤1〜5重量部と、を含む、黒変防止用の皮膜形成組成物。
【請求項2】
前記水溶性フェノキシ樹脂は、数平均分子量が20,000〜60,000である、請求項1に記載の黒変防止用の皮膜形成組成物。
【請求項3】
前記フッ化金属酸は、六フッ化チタン酸、六フッ化珪酸、六フッ化ジルコニウム酸、六フッ化タングステン酸、六フッ化モリブデン酸、及び六フッ化ゲルマニウム酸からなる群から選択された少なくとも1つを含む、請求項1に記載の黒変防止用の皮膜形成組成物。
【請求項4】
前記金属化合物は、珪素、アルミニウム、マンガン、チタニウム、セリウム、亜鉛、モリブデン、バナジウム及びジルコニウムから選択される1つ以上の金属成分を含む金属化合物又はこれらの混合物から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の黒変防止用の皮膜形成組成物。
【請求項5】
前記金属化合物は、水中に塩及びナノサイズのコロイドのうちの1つの形で存在するか又は同時に両方の形で存在する、請求項4に記載の黒変防止用の皮膜形成組成物。
【請求項6】
前記架橋剤は、3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2‐(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2‐(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランからなる群から選択された少なくとも1つを含む、請求項1に記載の黒変防止用の皮膜形成組成物。
【請求項7】
鋼板上に、請求項1から6のいずれか一項に記載の黒変防止用の皮膜形成組成物で形成された黒変防止皮膜を含み、前記鋼板は少なくとも表面にマグネシウムを含む、マグネシウム含有鋼板。
【請求項8】
前記黒変防止皮膜は、鋼板のマグネシウムを含む表面上に形成され、乾燥皮膜付着量が100〜1000mg/mである、請求項7に記載のマグネシウム含有鋼板。
【請求項9】
前記鋼板は、マグネシウムメッキ鋼板又はマグネシウム合金メッキ鋼板である、請求項7に記載のマグネシウム含有鋼板。
【請求項10】
前記マグネシウム合金メッキ鋼板は、Zn‐Al‐Mg、Zn‐Al‐Mg‐Si、Zn‐Mg、Mg‐Zn、Al‐Mg及びAl‐Mg‐Siからなる群から選択されるマグネシウム合金メッキ層を含む、請求項9に記載のマグネシウム含有鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の表面、特に、Mg板材及びMgを含むメッキ層を有するメッキ鋼板等、表面にMgを含む鋼板の表面の耐黒変性を改善させる皮膜形成組成物及び上記組成物によって形成された皮膜を含む鋼板に関する。
【0002】
より詳細には、Mg板材及びMgを含有する製品の最も大きな問題である耐黒変性を改善させることにより、高温多湿な環境下でも、Mgを含むメッキ鋼板の高光沢及び美麗な表面外観を維持することができる、耐黒変性に優れ、表面外観が美麗で表面にMgを含有する鋼板に対する皮膜形成組成物、及び上記組成物によって形成された皮膜を含み表面にMgが存在する鋼板に関する。
【背景技術】
【0003】
鉄鋼産業において、表面処理鋼板は、高付加価値製品であり、自動車、家電、建築及び容器用素材として広く用いられており、需要産業の高度化につれ、多様な特性を求められている。
【0004】
鋼板の耐食性を向上させるために各種の表面処理技術が用いられており、ほとんどの表面処理鋼板は電気メッキ、溶融メッキ、化成処理及び塗装に大別される湿式工程により製造されている。鉄鋼製品に対する代表的な耐食性向上コーティング物質としては亜鉛が挙げられ、顧客からの耐食性向上への要求が高まるにつれ、亜鉛物質に他の物質を添加するメッキ層改良及びPVD及びCVD工程を用いた多様な工程が検討及び提案されている。また、航空機、自動車、電子製品等の多様な産業分野でマグネシウムの使用量が増加するにつれ、本質的に軽くて比強度の高いマグネシウムが含有された板材への関心が増加している。
【0005】
Mgを含むZn‐Al‐Mg、Zn‐Al‐Mg‐Si、Zn‐Mg、Mg/Zn、Al‐Mg、Al‐Mg‐Si等のようなマグネシウム含有合金メッキ鋼板及びMg板材は、耐食性には優れるが、運送及び保管中に高温多湿な環境下で空気中の酸素や水蒸気によって鋼板の表面が黒色に変わる黒変が発生しやすくなる。
【0006】
このような黒変は、Mgを含有するメッキ鋼板が水分と接触するときに最表層にMg及びZnの複合水酸化物及び/又は酸化物が生成されることによるとされている。このような鋼板の表面に生成された黒変は、製品の外観品質を低下させて製品の価値を落としたり、需要者からのクレームの原因となる等の問題を有する。
【0007】
よって、上記マグネシウム含有メッキ層が形成された鋼板又はMg板材のように表面にマグネシウムを含む鋼板の黒変を防止又は抑制するための多様な試みが行われてきた。
【0008】
その代表的な問題解決方案として、マグネシウム鋼板又はマグネシウム合金メッキ鋼板の表面を単に塗油処理したり、鋼板の表面に陽極皮膜又はコーティングを形成して耐黒変性を付与する方法が広く行われてきた。しかしながら、塗油処理の場合、長時間保存による耐黒変性の改善を期待することが困難であるという限界がある。
【0009】
また、陽極皮膜を形成する方法は、メッキ及び皮膜形成速度と関連した作業性及び生産性を考慮して既存のPVD及びCVD工程の代わりに行われるものであり、表面の酸化物を除去する脱スマット過程によるエッチング部位及び露出部位を酸化皮膜で堅固に形成することにより黒変を防止するものである。しかしながら、このような陽極皮膜は、環境及び人体に危険な強い無機酸を多く用いるため安全性を確保することが困難であり、作業が複雑で陽極皮膜を形成するのに時間が多く必要とされるため連続生産ラインに適用するのに制限があるという問題がある。
【0010】
一方、有機皮膜を形成する方法は、通常、鋼板の表面に有機シランを用いて皮膜を形成するものであり、皮膜の形成に高い温度が必要とされ、形成された皮膜を乾燥するのに長時間が必要とされるという短所がある。よって、耐黒変性の確保と連続的な生産作業が可能な塗布型コーティング方法が求められている。
【0011】
このような塗布型コーティング方法と関連して、従来の表面処理技術として計10段階の方法でマグネシウム合金製品を表面処理する陽極皮膜処理方法が韓国特開2007‐0082367号公報に開示されている。この中で、製品装着及び着色、乾燥段階などの単純過程を除いた7段階が実際の表面処理に用いられる。この特許文献に開示された方法は、鋼板ではなく部品の形で表面処理を行うため処理段階数が多く、時間が多く必要とされるため非経済的である。
【0012】
米国特開2010‐7754799号には、有機ポリシロキサン及び非反応性シリコーンオイルとシランで処理された酸化亜鉛、パラフィンで処理された炭酸カルシウム、エポキシシラン、チタニウムキレート等で構成されたマグネシウム合金鋼板の耐化学性を向上させる方法が開示されている。しかしながら、この技術も、低温であるが長時間の乾燥が必要とされる上、用いられる有機ポリシロキサン及びシリコーンオイルが上塗りのペイントの付着を困難にするため、マグネシウム鋼板及び合金鋼板の多様な用途に合わせて用いられるのに問題がある。
【0013】
日本特開1997‐241828号公報には、Zn‐Mgメッキ層をリン酸濃度0.01〜30wt%のリン酸酸洗槽に浸漬し、メッキ層の表層部のMg濃度をリン酸酸洗浄で1%以下に低下させて表層部を形成し、マグネシウム水酸化物又は酸化物の生成を抑制して表層部の黒変を防止する技術が開示されている。しかしながら、酸洗処理時、Zn‐Mgメッキ鋼板固有の光沢及び表面外観を失ってしまい、酸洗処理による酸洗処理ゾーンのスラッジを処理しなければならないという問題がある。
【0014】
日本特開1995‐143679号公報には、鋼板上にZn、Mgの順で蒸着メッキし、加熱合金化処理してZn‐Mgメッキ鋼板を製造し、これによって形成された所定付着量の単層、2層、又は3層の構造からなるMgが含まれたメッキ層を形成した後、温度80℃、相対湿度80%の高温多湿環境下で10〜60分間放置し、表層をMg(OH)、Zn及びZnOからなる層に改質することにより全体的に表面を予め黒化させる技術が開示されている。しかしながら、この場合、Zn‐Mgメッキ層に不均一な黒色表面が形成されるため、表面外観の欠陥をもたらす上、高光沢の表面外観を有する美麗なZn‐Mgメッキ鋼板の固有の特性を低下させるため、製品不良及び製品価値低下をもたらすという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、鋼板の表面にMgを含むMg含有合金メッキ鋼板及びMg板材の黒変問題を改善して耐黒変性を向上させ、作業性を改善し、マグネシウム含有メッキ鋼板及びマグネシウム板材固有の美麗な表面外観を害しない、表面にMgを含む鋼板の黒変を防止するための皮膜形成組成物、上記組成物によって形成された黒変防止皮膜、表面にMgを含有する鋼板上に上記黒変防止皮膜が形成された鋼板、及び上記皮膜を形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、マグネシウムを含むメッキ層を有するメッキ鋼板の表面の黒変防止用の皮膜形成組成物であって、固形分の重量で、水溶性フェノキシ樹脂2.5〜7.5重量部と、フッ化金属酸0.1〜0.5重量部と、金属化合物0.1〜0.5重量部と、架橋剤1〜5重量部と、を含む黒変防止用の皮膜形成組成物を提供する。
【0017】
上記組成物において、上記水溶性フェノキシ樹脂は、数平均分子量が20,000〜60,000であることができる。
【0018】
上記フッ化金属酸は、六フッ化チタン酸、六フッ化珪酸、六フッ化ジルコニウム酸、六フッ化タングステン酸、六フッ化モリブデン酸、及び六フッ化ゲルマニウム酸からなる群から選択された少なくとも1つを含むことができる。
【0019】
また、上記金属化合物は、珪素、アルミニウム、マンガン、チタニウム、セリウム、亜鉛、モリブデン、バナジウム及びジルコニウムからなる群から選択される単独又は複数の金属を含む金属化合物から選択される少なくとも1つであり、水に塩及びナノサイズのコロイドのうち1つの形で存在するか又は同時に両方の形で存在することができる。
【0020】
また、上記架橋剤は、3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2‐(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2‐(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランからなる群から選択された少なくとも1つを含むことができる。
【0021】
また、本発明は、鋼板上に上記黒変防止用の皮膜形成組成物からなる黒変防止皮膜を含み、上記鋼板は少なくとも表面にマグネシウムを含むマグネシウム含有鋼板を提供する。
【0022】
上記皮膜は鋼板のマグネシウムを含む表面に形成され、乾燥皮膜付着量が100〜1000mg/mであることができる。
【0023】
この際、上記鋼板は、マグネシウムメッキ鋼板又はマグネシウム合金メッキ鋼板であり、マグネシウム合金メッキ鋼板は、Zn‐Al‐Mg、Zn‐Al‐Mg‐Si、Zn‐Mg、Mg‐Zn、Al‐Mg及びAl‐Mg‐Siからなる群から選択されるマグネシウム合金メッキ層を含む鋼板であることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、マグネシウムの含有された鋼板用コーティング組成物は、クロムを含まないため、作業者に有害ではない上、表面外観及び耐黒変性に優れた皮膜を形成するため、Mg板材及びMgを含有するメッキ鋼板の固有の特性を維持し、製品としての価値をより高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、鋼板の黒変を防止するための皮膜形成組成物であって、水溶性フェノキシ樹脂、フッ化金属酸、金属化合物及び架橋剤を含む組成物を提供する。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、鋼板の表面の黒変を防止するためのものであり、本発明の樹脂組成物が適用される鋼板は、特に限定されないが、好ましくは、マグネシウムを表面に含む鋼板に適宜適用されることができる。例えば、Mg含有板材はもちろん、鋼板の表面にZn‐Al‐Mg、Zn‐Al‐Mg‐Si、Zn‐Mg、Mg/Zn、Al‐Mg、Al‐Mg‐Siのようにメッキ層にマグネシウムを含有する合金メッキ層を有する鋼板等が挙げられる。上記メッキ層は、溶融合金メッキ又は乾式メッキ等のメッキ層にマグネシウムを含むものであれば特に限定されない。
【0027】
本発明の皮膜形成組成物において、上記水溶性フェノキシ樹脂は、本発明の皮膜を形成する主な樹脂であり、水分が浸透することを抑制することにより水分が素材の表面のMgと接触することを防止し且つ基本的な耐食性と耐黒性を発揮するために用いられる。
【0028】
上記水溶性フェノキシ樹脂は、水溶性又は水分散性で水中で安定化できるものであり、数平均分子量が20,000〜60,000程度の高分子であることが好ましい。上記のような分子量を有するフェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂とビスフェノールAを用いて分子量を上記範囲に増加させることにより得られる。上記合成された水溶性フェノキシ樹脂の数平均分子量が20,000未満の場合は、耐湿性が十分な塗膜を形成することができず、数平均分子量が60,000を超える場合は、フェノキシ樹脂を水に水溶化させたり円滑に分散させることができないため、水に安定したポリマーが得られない。
【0029】
フェノキシ樹脂を水溶化するために、上記得られたフェノキシ樹脂を、水酸基を有する3級アミンを用いて酸が中和された基を有するようにし、ここに、水溶化のための中和剤としてリン酸を投入して中和し、水を投入する。これにより、水溶性フェノキシ樹脂溶液を製造することができる。この際、上記リン酸は、得られたフェノキシ樹脂溶液のpHが3〜5の範囲となるように添加されることが好ましい。pHが3未満と低い場合は、マグネシウムの酸化が速くなるため、初期にマグネシウムの表面にスマットが発生する可能性があり、pHが5を超える場合は、中和が十分ではないため、水に対する水溶性又は水分散性を得るのが困難となる。
【0030】
上記水溶性フェノキシ樹脂の含量は2.5〜7.5重量部であることが好ましい。フェノキシ樹脂の含量が2.5重量部未満の場合は、十分な耐黒変性及び耐食性が得られず、7.5重量部を超える場合は、中和剤として用いられるリン酸の含量が過度に多いことから、反応せずに残存するリン酸成分の含量が多くなるため、耐黒変性が落ちる。
【0031】
上記フッ化金属酸は鋼板の表面に存在するマグネシウムの表面の一部を微細に溶かしながら反応して安定したフッ化皮膜を形成し、上記フッ化金属酸によって一部溶けたマグネシウムは上記水溶性フェノキシ樹脂とキレートを形成してイオン架橋することにより耐腐食性能を向上させる。本発明の組成物に使用可能なフッ化金属酸としては、特に限定されず、六フッ化チタン酸、六フッ化珪酸、六フッ化ジルコニウム酸、六フッ化タングステン酸、六フッ化モリブデン酸、及び六フッ化ゲルマニウム酸等が挙げられ、これらを単独で又は2つ以上混合して用いることができる。
【0032】
上記フッ化金属酸の含量は0.1〜0.5重量部であることが好ましい。上記フッ化金属酸の含量が0.1重量部未満の場合は、堅固な皮膜を形成するのが困難であるため、耐黒変性が落ち、0.5重量部を超える場合は、酸の含量が過度に多いため、組成物によって形成された塗膜の耐水性が落ち、マグネシウムの初期変色をもたらすため、塗膜の黒変を起こす恐れがある。上記フッ化金属酸を使用前に水に希釈して用いることが、過量の金属塩による水溶性フェノキシ樹脂とのショック現象を防止するのに好ましい。
【0033】
また、本発明の皮膜形成組成物は、金属化合物を含む。上記金属化合物は、マグネシウムの酸化過程に関与し、それ自体は溶出されて不溶性酸化皮膜を形成するための目的で用いられ、水溶性フェノキシ樹脂と共に水や塩化物等の外部腐食因子がマグネシウムと接触することを遮断して鋼板の黒変を防止するバリア剤の役割を行う。
【0034】
上記金属化合物のうち金属成分は珪素、アルミニウム、マンガン、チタニウム、セリウム、亜鉛、モリブデン、バナジウム、ジルコニウムの1つ又は複数であり、これらの金属化合物を単独で又は2つ以上を混合して用いることができる。このような金属化合物は、水中に塩の形で溶けているか又はナノサイズのコロイドの形で存在することができ、同時に両方の形で存在することもできる。
【0035】
上記金属化合物の含量は0.1〜0.5重量部であることが好ましい。上記金属化合物の含量が0.1重量部未満の場合は、溶出されたマグネシウムの酸化還元過程に関与することができないため、黒変をもたらし、0.5重量部を超える場合は、フッ化金属酸の場合のように耐水性が落ちるため、耐黒変性が落ちる。このような金属化合物も、使用前に水に希釈して用いることが、過量の金属化合物による水溶性フェノキシ樹脂及びフッ化金属酸とのショック現象を防止するのに好ましい。
【0036】
さらに、上記架橋剤は、水溶性フェノキシ樹脂とフェノキシ樹脂、また、フェノキシ樹脂と鋼板の表面に存在するマグネシウムとのカップリングに関与し、フェノキシ樹脂の分子構造中のエポキシ部分は、水溶性フェノキシ樹脂間の架橋を図り、分子構造中のアルコキシ部分は、水によって加水分解されてマグネシウム素材の水酸化部分とカップリングする。
【0037】
このような架橋剤のうち本発明に適宜使用可能なものとしては、特に限定されず、3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2‐(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2‐(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが挙げられ、これらを単独で又は2つ以上混合して用いることができる。
【0038】
上記架橋剤の含量は1〜5重量部であることが好ましい。上記架橋剤の含量が1重量部未満の場合は、水溶性フェノキシ樹脂とマグネシウム素材とのカップリングが弱いため、素材との付着性が落ち、黒変防止効果が十分ではなく、架橋剤の含量が5重量部を超える場合は、溶液の貯蔵性が悪くなり、過量の架橋剤による未反応物によって黒変が発生する恐れがある。
【0039】
このような本発明の皮膜形成組成物は、全組成物100重量部に対し、上記のような含量でフェノキシ樹脂、フッ化金属酸、金属化合物及び架橋剤を含み、残部が水である。
【0040】
上記のような本発明の皮膜形成組成物は、クロムを含まないため、作業者に有害ではない上、表面外観及び耐黒変性等に優れた皮膜が得られるため、マグネシウムが含有された鋼板の表面品質を改善し、鋼板の活用度を高くすることができる。
【0041】
本発明による皮膜形成組成物は、鋼板の表面、特に、マグネシウム板材又はマグネシウムを含むメッキ層上に形成されることが好ましい。このように、マグネシウムが存在する箇所に形成されることにより、マグネシウムが水分と接触することをより効果的に遮断することができる。
【0042】
このような皮膜は、上記組成物を鋼板の表面に塗布し乾燥することにより形成されることができる。塗布方法としては、特に限定されず、本発明の属する技術分野で通常用いられる方法を用いることができる。例えば、ロールコーティング、バーコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング等が挙げられる。
【0043】
このような皮膜の形成において、乾燥皮膜の付着量は、特に限定されず、必要に応じて適宜選択可能であり、例えば、100〜1000mg/m、好ましくは250〜800mg/mの範囲であることができる。この際、乾燥温度は特に限定されず、鋼板温度80〜150℃の範囲に加熱して乾燥を行うことができる。
【0044】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、以下の実施例は本発明の一具現例に過ぎず、これにより本発明が限定されるわけではない。
【0045】
[合成例‐フェノキシ樹脂の合成]
<合成例1>
攪拌機、コンデンサー、加熱用マントル、温度計、及び窒素投入管が装着された2Lのフラスコでエポキシ樹脂(商品名YD‐128、国都化学社製)450g、ビスフェノール‐A160g及び触媒としてテトラアンモニウムブロマイド0.095gを混合し、窒素を投入して130℃で反応させた。反応5時間後にメチルジエタノールアミン56gを投入してさらに2時間反応させた後、2‐ブトキシエタノール1237gで希釈してフェノキシ樹脂を得た。得られたフェノキシ樹脂は、数平均分子量32,000、固形分35%、ガードナー粘度Z2であった。
【0046】
得られた樹脂にリン酸(85%)57gを攪拌しながら1時間均一に滴下投入して中和することにより水溶性フェノキシ樹脂を得た。投入が終わった後、水を投入してフェノキシ樹脂を溶解した。この際、水の量は固形分を25%の濃度に希釈する量であり、溶液のpHは約4であった。
【0047】
<合成例2>
攪拌機、コンデンサー、加熱用マントル、温度計、及び窒素投入管が装着された2Lのフラスコでエポキシ樹脂(商品名YD‐014、国都化学社製)570g、ビスフェノール‐A13g及び触媒としてテトラアンモニウムブロマイド0.15gを混合し、窒素を投入して130℃で反応させた。反応5時間後にメチルジエタノールアミン27gを投入してさらに2時間反応させた後、2‐ブトキシエタノール1133gで希釈してフェノキシ樹脂を得た。得られたフェノキシ樹脂は、数平均分子量36,000、固形分35%、ガードナー粘度Z6であった。
【0048】
得られた樹脂にリン酸(85%)28gを攪拌しながら1時間均一に滴下投入して中和することにより水溶性フェノキシ樹脂を得た。投入が終わった後、水を投入してフェノキシ樹脂を溶解した。この際、水の量は固形分を25%の濃度に希釈する量であり、溶液のpHは約4であった。
【0049】
<合成例3>
攪拌機、コンデンサー、加熱用マントル、温度計、及び窒素投入管が装着された2Lのフラスコでエポキシ樹脂(商品名YD‐128、国都化学社製)300g、ビスフェノール‐A106g及び触媒としてテトラアンモニウムブロマイド0.15gを混合し、窒素を投入して130℃で反応させた。反応5時間後にメチルジエタノールアミン37gを投入してさらに2時間反応させた後、2‐ブトキシエタノール823gで希釈してフェノキシ樹脂を得た。得られたフェノキシ樹脂は、数平均分子量19,000、固形分35%、ガードナー粘度X+であった。
【0050】
得られた樹脂にリン酸(85%)38gを攪拌しながら1時間均一に滴下投入して中和することにより水溶性フェノキシ樹脂を得た。投入が終わった後、水を投入してフェノキシ樹脂を溶解した。この際、水の量は固形分を25%の濃度に希釈する量であり、溶液のpHは約4であった。
【0051】
<合成例4>
攪拌機、コンデンサー、加熱用マントル、温度計、及び窒素投入管が装着された2Lのフラスコでエポキシ樹脂(商品名YD‐014、国都化学社製)800g、ビスフェノール‐A19g、及び触媒としてテトラアンモニウムブロマイド0.15gを混合し、窒素を投入して130℃で反応させた。反応5時間後にメチルジエタノールアミン40gを投入してさらに2時間反応させた後、2‐ブトキシエタノール1595gで希釈してフェノキシ樹脂を得た。得られたフェノキシ樹脂は、数平均分子量62,000、固形分35%、ガードナー粘度Z6であった。
【0052】
得られた樹脂にリン酸(85%)89gを攪拌しながら1時間均一に滴下投入し、投入が終わった後に水を投入した。しかしながら、均一な水溶性樹脂が得られず、水から樹脂の固形分が析出されたため、使用に適していない。
【0053】
<実施例1〜8及び比較例1〜12>
上記合成例1〜3から得られたフェノキシ樹脂水溶液を用いて、下記表1の組成の実施例のようにマグネシウムが含有された鋼板用コーティング組成物を製造した。
【0054】
各実施例及び比較例で用いられた各成分のうち、フェノキシ樹脂としては合成例1〜3から得られた固形分濃度25%のフェノキシ樹脂溶液を用い、他の組成成分としては下記のものを用いた。
【0055】
六フッ化ジルコニウム酸(FZr):固形分の濃度が10%となるように水に希釈して使用した。
【0056】
六フッ化チタン酸(FTi):固形分の濃度が10%となるように水に希釈して使用した。
【0057】
硝酸ジルコニウム(NZr):固形分の濃度が20%となるように水に希釈して使用した。
【0058】
硝酸セリウム(NCe):固形分の濃度が20%となるように水に希釈して使用した。
【0059】
シリカ:固形分の濃度が20%となるように水に希釈して使用した。
【0060】
バナジウム酸ナトリウム(VNa):固形分の濃度が20%となるように水に希釈して使用した。
【0061】
架橋剤:日本の信越社製のシラン化合物である製品名KBM403又はKBM303を使用した。
【0062】
【表1】
【0063】
実験例‐皮膜の物性評価
上記実施例1〜8及び比較例1〜12から得られたそれぞれの皮膜形成組成物を、Zn‐Mg合金メッキが形成された鋼板にバーコーターを用いて乾燥皮膜量が500mg/mとなるように塗布し、鋼板の温度が100℃となるように乾燥して皮膜を形成した後、当該皮膜を24時間熟成した。
【0064】
これにより得られた皮膜に対して耐黒変性及び溶液貯蔵性を評価し、その結果を下記表2及び3に示した。表2は各実施例による結果を示したものであり、表3は各比較例による結果を示したものである。各塗膜の耐黒変性と溶液貯蔵性に対しては、以下の基準に沿って2段階評価法(○:良好、X:不良)で評価した。
【0065】
耐黒変性:処理された試片を防錆油で処理して24時間熟成させた後、処理された面が触れ合うようにし、その間に浄水を0.1mLずつ2cmの間隔で3ヶ所に落とした後に重ね、ここに10〜50kgf/cmの条件下で圧力を加えた状態で、50℃、95%の湿度条件下で120時間維持した後、表面の色差変化(ΔE、デルタE)を色差計を用いて測定した。その結果、ΔEが4以下(ΔE≦4)であれば良好、ΔEが4超(ΔE>4)であれば不良と判定した。
【0066】
溶液貯蔵性:実施例及び比較例で製造された溶液を常温で30日間保管した後、初期と比較して溶液の外観、色相又は粘度の変化が3秒未満発生すれば良好、3秒以上発生すれば不良と判定した。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
上記表2及び3から、本発明で提示する水溶性フェノキシ樹脂2.5〜7.5重量部、フッ化金属酸0.1〜0.5重量部、金属酸化物0.1〜0.5重量部及び架橋剤1〜5重量部を含む実施例のコーティング組成物を用いて形成された皮膜は、本発明で提示する範囲を外れる組成物を用いて形成された皮膜に比べて耐黒変性と溶液貯蔵性に優れることが分かる。