(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732589
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】点火プラグ電極材料および点火プラグ
(51)【国際特許分類】
C22C 19/03 20060101AFI20150521BHJP
H01T 13/39 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
C22C19/03 M
H01T13/39
【請求項の数】21
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-504218(P2014-504218)
(86)(22)【出願日】2012年2月15日
(65)【公表番号】特表2014-516385(P2014-516385A)
(43)【公表日】2014年7月10日
(86)【国際出願番号】EP2012052563
(87)【国際公開番号】WO2012139791
(87)【国際公開日】20121018
【審査請求日】2013年10月10日
(31)【優先権主張番号】102011007532.1
(32)【優先日】2011年4月15日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ジモーネ バウス
【審査官】
守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−370686(JP,A)
【文献】
特開2007−214136(JP,A)
【文献】
特表2013−508557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00
C22C 38/00
H01T 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、シリコンおよび銅を含有する点火プラグ電極材料において、電極材料が規定通りに使用されることによって、前記電極材料の表面の少なくとも一部に、酸化ニッケル粒子より成る酸化ニッケル層が形成され、前記酸化ニッケル粒子の粒子境界相がシリコンおよび/または酸化シリコンを包含している点火プラグ電極材料であって、シリコンの含有量が、0.7乃至1.3質量%であり、銅の含有量が0.5乃至1.0質量%であり、残部ニッケルと不可避的不純物より成るNi基合金より成ることを特徴とする、点火プラグ電極材料。
【請求項2】
前記酸化ニッケル粒子の粒子境界相がさらに、銅および/または酸化銅を包含している、請求項1に記載の点火プラグ電極材料。
【請求項3】
前記酸化ニッケル層内のシリコンおよび/または酸化シリコンの含有量が、酸化物層の全質量に関連して、1乃至5質量%である、請求項1または2に記載の点火プラグ電極材料。
【請求項4】
前記酸化ニッケル層内のシリコンおよび/または酸化シリコンの含有量が、酸化物層の全質量に関連して、2乃至4質量%である、請求項1または2に記載の点火プラグ電極材料。
【請求項5】
酸化ニッケル粒子の90%が、15μmよりも小さい、粒子の大きさを有している、請求項1から4のいずれか1項に記載の点火プラグ電極材料。
【請求項6】
酸化ニッケル粒子の95%が、15μmよりも小さい、粒子の大きさを有している、請求項1から4のいずれか1項に記載の点火プラグ電極材料。
【請求項7】
点火プラグ電極材料を規定通りに使用する前に、シリコンの含有量が、0.7乃至1.3質量%であり、銅の含有量が0.5乃至1.0質量%であり、ニッケルの含有量が、97.5乃至98.5質量%である、請求項1から6のいずれか1項に記載の点火プラグ電極材料。
【請求項8】
点火プラグ電極材料を規定通りに使用する前に、シリコンの含有量が、0.9乃至1.1質量%であり、銅の含有量が0.6乃至0.85質量%であり、ニッケルの含有量が、97.5乃至98.5質量%である、請求項1から6のいずれか1項に記載の点火プラグ電極材料。
【請求項9】
前記粒子境界相の層厚が、0.3μmよりも小さい、請求項1から8のいずれか1項に記載の点火プラグ電極材料。
【請求項10】
前記粒子境界相の層厚が、0.2μmよりも小さい、請求項1から8のいずれか1項に記載の点火プラグ電極材料。
【請求項11】
電極材料がさらに、0.07乃至0.13質量%のイットリウムを含有している、請求項1から10のいずれか1項に記載の点火プラグ電極材料。
【請求項12】
電極材料がさらに、0.09乃至0.11質量%のイットリウムを含有している、請求項1から10のいずれか1項に記載の点火プラグ電極材料。
【請求項13】
前記酸化ニッケル粒子が、シリコンおよび/または酸化シリコンを含有していない、請求項1から12のいずれか1項に記載の点火プラグ電極材料。
【請求項14】
前記電極材料が、実質的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム化合物および/または金属間化合物を含有していない、請求項1から13までのいずれか1項記載の点火プラグ電極材料。
【請求項15】
酸素含有量が、0.003質量%よりも小さい、請求項1から14のいずれか1項に記載の点火プラグ電極。
【請求項16】
酸素含有量が、0.002質量%よりも小さい、請求項1から14のいずれか1項に記載の点火プラグ電極。
【請求項17】
Ni基合金が、
a)98.15質量%のニッケル、
b)1質量%のシリコン、
c)0.75質量%の銅、
d)0.1質量%のイットリウム
と、不可避的不純物より成っている、請求項1から16のいずれか1項に記載の点火プラグ電極材料。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか1項に記載の点火プラグ電極材料を製造するための方法において、
ニッケル基合金を製造するステップと、
別の元素を添加するステップと、
を有することを特徴とする、点火プラグ電極材料を製造するための方法。
【請求項19】
点火プラグであって、請求項1から17のいずれか1項に記載の点火プラグ電極材料より成る電極を有することを特徴とする、点火プラグ。
【請求項20】
前記電極が中心電極および/または接地電極であって、これらの電極が、銅コアを有していても、また銅コア無しでも、中心電極および/または接地電極に使用される、請求項19に記載の点火プラグ。
【請求項21】
シリコンの含有量が、0.7乃至1.3質量%であり、銅の含有量が0.5乃至1.0質量%であり、残部ニッケルと不可避的不純物より成るNi基合金の使用法であって、点火プラグ電極材料のための合金を製造するために使用することを特徴とする、使用法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火プラグ電極材料、並びに前記点火プラグ電極材料より形成された電極を含有する点火プラグ、および前記点火プラグ電極材料を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
点火プラグは、様々な構成のものが背景技術において公知である。ガソリンエンジンにおいて、点火プラグはその電極間に、燃料空気混合気を点火するための点火火花を生ぜしめる。点火プラグは接地電極と中心電極とを有しており、この場合、2つ乃至5つまでの電極を有する点火プラグ型式が公知である。電極は、点火プラグハウジング(接地電極)に取り付けられるか、または中心電極としてセラミック碍子に取り付けられる。点火プラグの耐用年数は、電極材料の耐腐食性および耐侵食性によって影響を受ける。従来の電極材料は、アルミニウム部分を有するニッケル合金をベースとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような電極材料は、エンジンルーム内の運転条件下、つまり高温時および大気酸化時において、ニッケル表面の大部分、並びに電極材料内のニッケルの一部も、周囲の酸素と反応して酸化する、という問題を有している。これによって、ニッケル酸化層が形成され、このニッケル酸化層は、酸化アルミニウムも含有していて、断熱特性を有すると共に、導電性を遮断する特性も有している。従ってニッケル酸化層は、短時間で腐食若しくは火花侵食される傾向にある。これによって、電極間隔は拡大され、ひいては最終的に点火プラグの故障を招くことになる。点火プラグを規定通りに使用した場合の酸化層の形成は、場合によっては、純粋な貴金属より成る電極材料、或いは貴金属ベースの例えばプラチナ、またはイリジウムを含有するプラチナ合金より成る電極材料を使用することによって得られ、このようなプラチナまたはプラチナ合金は、火花侵食性の攻撃に対する摩耗に関連して、より高い耐性を有している。しかしながら、このような形式の電極材料、特にプラチナは、莫大な費用を必要とするので、このような大量生産品例えば点火プラグに使用するには問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の開示
これに対して、請求項1に記載した特徴を有する本発明による点火プラグ電極材料は、ニッケル基合金をベースとしているので、電極材料の費用およびひいては点火プラグの費用が安価に維持される、という利点を有している。さらに、この点火プラグ電極材料は、規定通りに使用した場合に、つまり高い温度および酸素が存在する状態で使用した場合に、少なくともその表面の一部に、短時間内に、大抵は数時間後に、酸化ニッケル粒子より成る、固有に構造化された特に均質な比較的薄い酸化物層が形成される。酸化物層の構造は、自己形成される酸化ニッケル層の酸化物粒子境界間に、火花侵食による摩耗に有利に作用する境界層(いわゆる粒子境界相)が自己形成され、それによって火花侵食による電極材料の摩耗が減少され、ひいては点火プラグ電極の耐用年数が延長されることを特徴としている。ニッケルをベースとした初期電極材料(ニッケル基合金)にシリコンを意図的に添加することによって、酸化ニッケル粒子の粒子境界相は、電極材料を規定通りに使用した場合にシリコンおよび/または酸化シリコンを包含している。好適には、酸化ニッケル粒子の粒子境界相は、シリコンおよび/または酸化シリコンより成る電極材料を規定通りに使用した場合に形成される。境界相のこのような構成、つまりシリコンおよび/または酸化シリコンを包含する構成によって、酸化物層の、熱機械的、電気的若しくは熱伝導的な特性が好適な影響を受ける。さらにこれによって、自己形成される酸化物層の導電率の他に、酸化物層の耐酸化性、並びにその熱力学的な形状安定性が改善され、それによって、電極材料の火花侵食性の摩耗が減少される。従って、本発明による点火プラグ電極材料の動作中に、電極材料の表面の少なくとも一部に、粒子境界相を有する特に酸化ニッケル粒子の酸化物層が形成され、この酸化物層は、シリコンおよび/または酸化シリコンを包含しているか、若しくはシリコンおよび/または酸化シリコンより成っている。この酸化物層は、好適には6W/mK、特に少なくとも8W/mKまたは10W/mKおよびそれ以上の高い熱伝導率、並びに特に高い導電率を有している。これによって、規定通りに使用した場合に、電極材料における電圧および電極材料に作用する温度は、迅速に電極材料全体に均一に分配され、従って電極表面の小さい領域に限定された局所的な温度最大値および電圧最大値が形成されることは避けられ、これによって、電極材料の腐食および侵食は著しく減少される。従って本発明は新しい手段を提供するものである。何故ならば、電極材料の構成要素、つまりニッケル、銅およびシリコンを適切に選択することによって、規定通りに使用した場合に形成される酸化物層が最適化され、背景技術におけるように、できるだけ高い耐腐食性に特別の注意を払う必要はないからである。
【0005】
従属請求項には、本発明の好適な実施態様が記載されている。
【0006】
個別の構成要素および化合物の量表示は、以下では特に定められていなければ、それぞれ点火プラグ電極材料の全質量に関連付けられる。
好適には、本発明による点火プラグ電極材料は、酸化ニッケル粒子の粒子境界相が、シリコンおよび/または酸化シリコンの他に、銅および/または酸化銅を含有している。しかしながら銅および/または酸化銅の主要な部分は、主に酸化ニッケル粒子内に蓄積されている。シリコンおよび/または酸化シリコンの他に銅および/または酸化銅も包含若しくは含有する酸化ニッケル粒子の粒子境界相によって、酸化物層の熱機械的な特性、電気的な特性若しくは熱伝導特性は、さらに好都合な影響を受ける。
【0007】
好適には、本発明による点火プラグ電極材料は、酸化ニッケル層のシリコンおよび/または酸化シリコンの含有量が、酸化ニッケル層の全質量に関連して、1乃至5質量%、特に2乃至4質量%、および特に3質量%であることを特徴としている。酸化ニッケル層のシリコンおよび/または酸化シリコンの含有量とは、粒子境界相内に存在する、シリコンおよび/または酸化シリコンの割合のことである。この割合は、例えば走査電子顕微鏡でエネルギ分散的なX線分光分析(EDX)によって測定可能である。酸化ニッケル粒子の粒子境界相における約1質量%のシリコンおよび/または酸化シリコンの少ない割合から、酸化物層の導電率の明らかな上昇を測定することができ、この割合は、粒子境界相の約5%質量%のシリコンおよび/または酸化シリコンの含有量まで増大する。もちろん、より高い割合において逆の効果が生じる。従って、好適には、シリコンおよび/または酸化シリコンの含有量は、酸化ニッケル層の全質量に関連して2乃至4質量%の範囲内にある。
【0008】
さらに好適には、点火プラグ電極材料は、酸化ニッケル粒子のほぼ90%、特に酸化ニッケル粒子のほぼ95%が、15μmよりも小さい、粒子の大きさを有していることを特徴としている。できるだけ小さい粒子の大きさを有する酸化ニッケル粒子を形成することは、シリコンを含有する粒子境界相の均一な分配を有する酸化ニッケル層を、酸化ニッケル粒子から形成するために必要である。しかも、酸化ニッケル粒子の各粒子の大きさが小さければ小さいほど、より頑丈な酸化物層が形成される。これは、より小さい粒子が、より緊密な酸化ニッケル粒子の構成物を形成し、これによってより大きい中空スペースの形成、およびひいてはいわゆる規定破断個所の形成が避けられることに起因している。粒子境界相を有する酸化ニッケル粒子より成る酸化ニッケル層を包含する本発明による電極材料の十分な形状安定性は、点火プラグ電極材料を規定通りに使用した場合に形成される酸化ニッケル粒子の少なくとも90%、特に95%が、15μmよりも小さい、粒子の大きさを有していれば、得られる。15μmよりも小さい酸化ニッケル粒子の各粒子の大きさは、例えば放電プラズマが本発明による電極材料に作用することによって生ぜしめられる。
【0009】
点火プラグ電極材料を規定通りに使用する前に、シリコンの含有量が、電極材料の全質量に関連して、0.7乃至1.3質量%、特に0.9乃至1.1質量%、特に1質量%であり、銅の含有量が0.5乃至1.0質量%、特に0.60乃至0.85質量%、特に0.75質量%であり、ニッケルの含有量が、ほぼ97.5乃至98.5質量%であれば、特に好適である。点火プラグ電極材料を規定通りに使用した場合に、使用されたシリコンの約1乃至5質量%の十分な量のシリコンおよび/または酸化シリコンが酸化ニッケル粒子の粒子境界相内に含有されていることによって、0.7質量%の割合の少量のシリコンにおいて既に、電極材料の酸化反応および電極材料に形成される酸化物層の電気抵抗は好ましい影響を受ける。しかしながら、1.3質量%以上のシリコンの全割合から、逆の効果が発生する。電極材料の全質量に関連して0.5乃至1.0質量%の割合で銅を添加することによって、電極材料の電気抵抗はさらに減少される。何故ならば銅イオンが主として酸化ニッケル格子に蓄積され、それによって自己形成される酸化物層の導電率は高められるからである。この効果はすでに0.5質量%の僅かな割合の銅において検出可能である。しかしながら銅の割合は1質量%を越えてはならない。何故ならば、そうでないと、点火プラグ電極材料の十分な機械的強度は、もはや十分に保証され得ないからである。従って特に好適には、点火プラグ電極材料は、0.9乃至1.1質量%、特に1質量%のシリコンの含有量を有していて、0.6乃至0.85質量%、特に0.75質量%の銅の含有量を有している。この割合において、添加された元素であるシリコンおよび銅は、シリコンおよび/若しくは酸化シリコン、またはシリコンおよび/若しくは酸化シリコン並びに銅および/若しくは酸化銅が、点火プラグ電極材料を規定通りに使用した場合に自己形成される酸化ニッケル層の酸化ニッケル粒子が粒子境界相に蓄積され、かつ集積されることによって、酸化物層の特に高い導電率を生ぜしめる。さらに、自己形成される酸化物層は、熱力学的および機械的に十分に頑丈であるので、本発明による点火プラグ電極材料の火花侵食による摩耗および腐食も効果的に減少される。
【0010】
本発明による点火プラグ電極材料は、粒子境界相の層厚が、0.3μmよりも小さく、特に0.2μmよりも小さく、特に0.1μmよりも小さいことを特徴としている。粒子境界相が薄く形成されていればいるほど、酸化ニッケル粒子間の中空スペースはより小さくなり、酸化物層表面はより密閉され、かつ頑丈になるので、粒子境界相は火花侵食の攻撃に対して良好に保護される。何故ならば、これによって粒子境界相は、規定破断個所に僅かに関与するだけだからである。しかしながら、好適な形式で、粒子境界相の層厚は、少なくとも個別のシリコン原子および/または酸化シリコン粒子が粒子境界相に蓄積する程度の大きさであってよい。従って、特に粒子境界相の層厚は、0.1nmよりも大きいが、0.2μmよりも小さく、特に0.1μmよりも小さい。
【0011】
本発明の別の好適な実施態様によれば、本発明による点火プラグ電極材料は、ニッケル、銅およびシリコンの他に、0.07乃至0.13質量%、特に0.09乃至0.11質量%、および特に0.10質量%のイットリウムを含有していることを特徴としている。このように少量のイットリウムを添加することによって、本発明による点火プラグ電極材料を有する点火プラグの規定通りの使用中における異常な粒子の成長が阻止される。イットリウム含有量は、例えば合金の低い酸素含有量によって適切に低く維持することができる。0.13質量%よりも多いイットリウム割合から、酸化反応およびひいては自己形成される酸化物層の電気抵抗も不都合な影響を受ける。何故ならば電極材料内にイットリウムを含有する析出が形成されるからである。
【0012】
本発明の別の好適な実施態様によれば、点火プラグ電極材料は、金属の不純物の含有量の合計が、0.2質量%よりも少ない、特に0.1質量%よりも少ないことを特徴としている。この場合、金属の不純物は、例えば鉄、チタン、クロム、マンガン等の元素および化合物を包含している。このような不純物は、シリコンおよび銅をニッケル基材料の所定の領域に添加することによって得られるような、導電性を高める効果を低下させる。しかも、このような不純物によって、合金の熱伝導率は低下せしめられる。
【0013】
酸化ニッケル粒子がシリコンおよび/または酸化シリコンを含有していなければ、特に好適である。シリコン若しくは酸化シリコンが酸化ニッケル粒子内に蓄積されていると、シリコン若しくは酸化シリコンは、銅粒子(銅イオン)若しくは酸化銅と競合し、それによって、本発明による電極材料の導電率は効果的に高められなくなる。
【0014】
特に好適には、電極材料は、実質的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム化合物および/または金属間化合物を含有していない。アルミニウムおよびその化合物は、電極材料および自己形成される酸化物層の導電率を低下させ、ひいては電極材料を火花侵食により摩耗させる。アルミニウムを省くことによって、酸化反応および特に自己形成される酸化物層の電気抵抗、ひいては点火プラグ電極材料の侵食反応が著しく改善される、つまり、測定可能に改善される。しかも材料の変形可能性が著しく改善される。類似の効果は、金属間化合物を省くことによっても得られる。何故ならば金属間化合物は、ニッケルマトリックス内に析出物として存在し、熱機械的な応力を生ぜしめ、熱伝導率を低下させ、それによって火花侵食による摩耗および電極材料の腐食が高められるからである。
【0015】
特に好適には、鉄および/またはクロムおよび/またはチタンの含有量が、0.05質量%よりも小さく、特に0.01質量%よりも小さく、および/または硫黄および/または硫黄化合物および/または炭素および/または炭素化合物の含有量が、0.01質量%よりも小さく、特に0.005質量%よりも小さく、特に0.001質量%よりも小さい。元素としての鉄および/またはクロムおよび/またはチタンは、電極材料の導電性に不都合な影響を及ぼす。さらに好適には、硫黄および/または硫黄化合物および/または炭素および/または炭素化合物の含有量が、0.01質量%よりも小さく、特に0.005質量%よりも小さく、特に0.001質量%よりも小さい。何故ならば、これらの元素および化合物も、合金の酸化反応に不都合な影響を及ぼし、特に電極材料を著しく腐食させるからである。
【0016】
特に好適には、点火プラグ電極材料内の酸素含有量が、0.003質量%よりも小さく、特に0.002質量%よりも小さい。何故ならば、酸素は、ニッケル材料を酸化させるだけではなく、場合によっては不純物も酸化させ、これによって電極材料の摩耗を高めるからである。
【0017】
本発明のさらに好適な実施態様によれば、点火プラグ電極材料が、実質的に、つまり技術的な制限により避けることができない不純物は除いて、1質量%のシリコン、0.75質量%の銅、および0.1質量%のイットリウムより成っており、残りの材料はニッケルより成っていて、約98.15質量%のニッケルを構成する。このような電極材料は、規定通りに使用した場合に、微細な粒子境界相を有する薄くて均一でしかも頑丈な酸化ニッケル層を形成し、この粒子境界相内に、シリコンおよび/若しくは酸化シリコン、またはシリコンおよび/若しくは酸化シリコン並びに銅および/若しくは酸化銅が蓄積されている。この電極材料は、10W/mKよりも高い熱伝導率、および僅かな電気抵抗、つまり高い導電性を有している。これによって点火プラグ電極材料は、低減された火花侵食性の摩耗および、著しく減少された腐食傾向を有しており、従って高い温度において継続使用するために最も適している。
【0018】
さらに好適には、点火プラグ電極材料は、実質的に、つまり技術的な制限により避けることのできない不純物を除いて、0.7乃至1.3質量%、特に1質量%のシリコン、0.5乃至1.0質量%、特に0.75質量%の銅、0.07乃至0.13質量%、特に0.1質量%のイットリウムより成っていて、0.003質量%よりも少なく、特に0.002質量%よりも少ない酸素、0.001質量%の硫黄、および0.003質量%の炭素を含有しており、残りの材料はニッケルであって、金属の不純物の割合の合計が0.1質量%よりも少ない。この電極材料は、その組成に基づいて、最小の火花侵食性摩耗および最小の腐食傾向を有している。
【0019】
さらに本発明は、本発明による点火プラグ電極材料を製造するための方法に関するものであり、この方法は、ニッケル基合金を製造するステップと、シリコン、銅および場合によってはイットリウム等の別の元素を添加するステップとを有している。
【0020】
以上のように本発明に従って製造された点火プラグ電極材料を規定通りに使用することによって、点火プラグ電極材料の表面の少なくとも一部に、最適化された構造を有する酸化物層が形成される。この場合、最適化された構造とは、酸化物層が均一で頑丈な優れた結合部であり、しかも、従来の電極に形成される酸化物層と比較して、薄くて表面が均一である、という意味である。さらに、酸化ニッケル粒子間に粒子境界相が形成されており、この粒子境界相が、シリコンおよび/または酸化シリコンを含有している。これは、電極表面に電気抵抗の小さい酸化物層を有する電極材料の形成を可能として、これによってこの酸化物層の改善された導電率が得られる。しかも電極材料の熱伝導率も高められる。従って本発明の方法によれば、安価な電極材料より製造された点火プラグ電極が提供され、この電極材料は、著しく高い耐熱性、および著しく低減された火花侵食性摩耗および電極焼損を特徴としており、優れた耐酸化性および耐腐食性を有している。従って、本発明によって製造された点火プラグ電極は、例えばエンジンの燃焼室内等の、過酷な条件下での高い温度においても、頑丈であり、耐摩耗性がある。
【0021】
さらに本発明は、前記点火プラグ電極材料より成る電極に関するものであり、電極は例えば、点火プラグの中心電極としておよび/または接地電極として、周壁材料としての本発明による電極材料および銅コアを有する、単一材料電極または2種類の材料より成る電極としても、使用することができる。
【0022】
さらに本発明は、非常に良好な導電性および高い熱伝導率、およびひいては長い耐用年数を有する、優れた点火プラグ電極材料のための合金を製造するための、ニッケル、シリコンおよび銅の使用法に関する。
【0023】
以下に本発明の実施例を添付の図面を用いて詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明による点火プラグ電極材料の概略的な断面図である。
【
図2】本発明による点火プラグ電極材料の酸化物層の一部の別の概略図である。
【
図3】本発明による点火プラグ電極材料の酸化物層の、
図2の一部を破線で囲んだ部分の拡大図である。
【
図4】本発明による点火プラグ電極材料を有する点火プラグの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明による点火プラグ電極材料1の概略的な断面図を示す。ニッケル合金11の表面に、電極材料1を規定通りに使用したことによって酸化ニッケル層10が形成されており、この酸化ニッケル層10は、粒子境界3を備えた酸化ニッケル粒子2を包含しており、酸化ニッケル粒子2間に粒子境界相4が位置していて、この粒子境界相は、この概略的な断面図では誇張して大きく示されている。酸化ニッケル粒子2は、銅粒子(銅イオン)8および酸化銅粒子9を含有しており、酸化銅粒子9は、酸化ニッケル層10の酸化ニッケル格子(図示せず)内に蓄積されている。粒子境界相4は、シリコン粒子6および酸化シリコン粒子7を含有している。このように構成された酸化ニッケル層10は、高い熱力学的な形状安定性、高い熱伝導率および優れた導電性を有している。
【0026】
図2は、本発明による点火プラグ電極材料1の酸化ニッケル層10の一部の概略図を示す。点火プラグ電極材料は、酸化物層を形成する前に、概ね、1質量%のシリコン、0.75質量%の銅、98.25質量%のニッケルから成っている。粒子境界3を備えた酸化ニッケル粒子2間に、シリコン6を含有する粒子境界相4が形成されている。例えば2つの亀裂8も図示されており、この亀裂8は酸化ニッケル層10内に自己形成され得る。
【0027】
図3は、
図2に示した本発明による点火プラグ電極材料の、破線で囲んだ部分の拡大図を示す。
図3では、粒子境界相4内に蓄積されたシリコン6若しくは酸化シリコン7が特によく分かる。
【0028】
図4は、中心電極21と接地電極22とを備えた、本発明による点火プラグ20が示されており、この場合、中心電極21も接地電極22も、本発明による点火プラグ電極材料より形成されており、接地電極22は単一材料電極として構成されていて、中心電極21は2種類の材料より成る電極として構成されている。
【0029】
従って本発明によれば、特に規定通りに使用した場合に、酸化物層の形成に基づいて、火花侵食による摩耗が少なく、最少化された製造コストでしかも優れた耐腐食性、並びに熱力学的例えば機械的に十分な形状安定性を有する、点火プラグ電極または一般的に点火プラグを製造するための点火プラグ電極材料が提供される。
【符号の説明】
【0030】
1 点火プラグ電極材料
2 酸化ニッケル粒子
3 粒子境界
4 粒子境界相
6 シリコン粒子
7 酸化シリコン粒子
8 銅粒子(銅イオン);亀裂
9 酸化銅粒子
10 酸化ニッケル層
11 ニッケル合金
20 点火プラグ
21 中心電極
22 接地電極