特許第5732636号(P5732636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732636
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】配向カーボンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
   C01B31/02 101F
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-528893(P2011-528893)
(86)(22)【出願日】2010年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2010064719
(87)【国際公開番号】WO2011025000
(87)【国際公開日】20110303
【審査請求日】2013年8月23日
(31)【優先権主張番号】特願2009-200586(P2009-200586)
(32)【優先日】2009年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原田 洋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 良吾
(72)【発明者】
【氏名】大橋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】徳根 敏生
(72)【発明者】
【氏名】二川 秀史
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−036593(JP,A)
【文献】 特開2004−161539(JP,A)
【文献】 特開2002−190475(JP,A)
【文献】 特開2007−314391(JP,A)
【文献】 特開2005−350342(JP,A)
【文献】 特開2008−038164(JP,A)
【文献】 特開2008−303114(JP,A)
【文献】 特開2005−187309(JP,A)
【文献】 Guofang ZHONG et al.,"Low Temperature Synthesis of Extremely Dense and Vertically Aligned Single-Walled Carbon Nanotubes",Japanese Journal of Applied Physics,2005年,Vol.44, No.4A,p.1558-1561
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00−31/36
C23C 16/00−16/56
B82Y 30/00,40/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ型プラズマCVD装置を用いる配向カーボンナノチューブの製造方法であって、
該CVD装置は、処理室と、該処理室の外部に設けられたマイクロ波印加手段とを備え、該処理室は石英窓を介して該マイクロ波印加手段に気密に接続され、該マイクロ波印加手段は、内部に第1の水冷管を備え、該石英窓はアンテナを備え、
カーボンナノチューブの原料となる気体の流通下、所定の圧力に減圧された該処理室に、該石英窓を介して該マイクロ波印加手段により印加されるマイクロ波を導入することによりアンテナにプラズマを発生させ、
基材上に形成された反応防止層と該反応防止層上に形成された触媒材料層とを備える基板を、プラズマの発生領域に対し、該領域で発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避け得る距離であり、該ラジカルがラジカル状態を維持して到達し得る距離を存して保持すると共に、
該アンテナの先端を、マイクロ波の定在波の腹の位置に一致するように制御することを特徴とする配向カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の配向カーボンナノチューブの製造方法において、前記第1の水冷管は前記石英窓に気密に接続され、該第1の水冷管の先端には該石英窓を貫通して雄ねじ部が設けられ、該雄ねじ部にアンテナが螺着されていることを特徴とする配向カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の配向カーボンナノチューブの製造方法において、前記マイクロ波印加手段は、外周に沿って設けられた第2の水冷管を備えることを特徴とする配向カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の配向カーボンナノチューブの製造方法において、前記基板を650〜800℃の温度に維持することを特徴とする配向カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の配向カーボンナノチューブの製造方法において、前記処理室内の圧力を2.66〜13.33kPaの範囲に保持すると共に、前記プラズマ発生のために印加する電力を60〜180Wの範囲に保持することを特徴とする配向カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の配向カーボンナノチューブの製造方法において、前記触媒材料層は、2nm未満の範囲の厚さを備えることを特徴とする配向カーボンナノチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に成長させた複数のカーボンナノチューブが長手方向に揃った状態で、該基板と交差する方向、例えば垂直方向に配向されている配向カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電界放出用エミッタの多層カーボンナノチューブの合成のための、基板上に垂直方向に配向されている配向カーボンナノチューブの製造方法として、プラズマCVDを用いる方法が知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
前記プラズマCVDを用いる方法によれば、プラズマにより形成されるシースによる電界引き上げ効果がカーボンナノチューブの配向性に貢献するものと考えられている。しかし、プラズマCVDを用いる方法では、プラズマの発生領域で炭素ラジカルが発生する一方、該炭素ラジカルに副生するイオンにより基板が攻撃され、成長しつつあるカーボンナノチューブがエッチングされるという問題がある。このため、プラズマCVDを用いる方法は、長尺のカーボンナノチューブを成長させる場合には不利であり、単層カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブよりもエッチングを受けやすいので、さらに不利である。
【0004】
本発明者らは、前記問題を解決するために、アンテナ型プラズマCVDにおいて、プラズマの発生領域に対し、該領域で発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避け得ると共に、該ラジカルがラジカル状態を維持して到達し得る距離に基板を保持する技術を提案している(特許文献1参照)。前記技術において、前記基板は基材上に形成された反応防止層と該反応防止層上に形成された触媒材料層と、これら触媒材料層にさらに分散材料を形成したことを特徴としている。
【0005】
このような構成により、プラズマに由来するイオンの攻撃を避けることができると共に、前記基板が不必要に高い温度に曝されることもないため、触媒の熱凝集を抑制することができる。この結果、長尺の単層カーボンナノチューブからなる配向カーボンナノチューブを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−36593号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Science,282,1105,(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記方法による長尺の単層カーボンナノチューブからなる配向カーボンナノチューブの成長速度は、装置上の制約からプラズマ電力、ガス圧力、温度の印加に対する制限があり、270μm/時が限界であった。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑み、プラズマCVDにより長尺の単層カーボンナノチューブからなる配向カーボンナノチューブを製造するときに、カーボンナノチューブの成長速度を大きくすることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、本発明は、アンテナ型プラズマCVD装置を用いる配向カーボンナノチューブの製造方法であって、該CVD装置は、処理室と、該処理室の外部に設けられたマイクロ波印加手段とを備え、該処理室は石英窓を介して該マイクロ波印加手段に気密に接続され、該マイクロ波印加手段は、内部に第1の水冷管を備え、該石英窓はアンテナを備え、カーボンナノチューブの原料となる気体の流通下、所定の圧力に減圧された該処理室に、該石英窓を介して該マイクロ波印加手段により印加されるマイクロ波を導入することによりアンテナにプラズマを発生させ、基材上に形成された反応防止層と該反応防止層上に形成された触媒材料層とを備える基板を、プラズマの発生領域に対し、該領域で発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避け得る距離であり、該ラジカルがラジカル状態を維持して到達し得る距離を存して保持すると共に、該アンテナの先端を、マイクロ波の定在波の腹の位置に一致するように制御することを特徴とする。
本発明の配向カーボンナノチューブの製造方法において、前記第1の水冷管は前記石英窓に気密に接続され、該第1の水冷管の先端には該石英窓を貫通して雄ねじ部が設けられ、該雄ねじ部にアンテナが螺着されていることが好ましい。
【0011】
本発明の製造方法では、前記アンテナ型プラズマCVD装置は、そのアンテナの先端が所定波長(例えば2.45GHz)のマイクロ波の定在波の腹(1/4波長)の位置に一致するように制御される。このようにすることにより、アンテナの先端にのみプラズマを正確に集中させることが可能となり、前記基板上に形成されるカーボンナノチューブの成長速度を増大させることができる。
【0012】
本発明の製造方法においては、前記処理室の外部に設けられたマイクロ波印加手段を備え、該処理室は石英窓を介して該マイクロ波印加手段に気密に接続されると共に、該石英窓は前記アンテナを備えている。このようにするときには、前記マイクロ波印加手段により印加されるマイクロ波を、大気中から前記減圧下の処理室に前記石英窓を介して低損失で導入することができ、該石英窓部及び前記アンテナでの温度上昇を抑制することができる。この結果、前記アンテナの先端で最も温度を高くすることができ、該アンテナの先端にのみプラズマの発生を正確に集中させることができる。
【0013】
本発明の製造方法においては、前記石英窓及び前記アンテナにおける温度上昇を効率よく抑制するために、前記マイクロ波印加手段は、第1の水冷管を備える。また、前記マイクロ波印加手段は、外周に沿って設けられた第2の水冷管を備えることができる。前記石英窓における温度上昇を効率よく抑制するためには、前記第1及び第2の水冷管を両方とも設けることが好ましい。
【0014】
前記第1、第2の水冷管を備えることにより、前記基板の温度、前記処理室内の圧力、前記プラズマ発生のために印加する電力に対する制限を大幅に緩和することができ、該基板上に形成されるカーボンナノチューブの成長速度を増大させることができる。
【0015】
そこで、本発明の製造方法においては、前記基板を650〜800℃の温度に維持することが好ましい。前記基板の温度が650℃未満であるときには、触媒の活性発現が不十分となり、前記カーボンナノチューブの成長速度を十分に増大させることができないことがある。一方、前記基板の温度が800℃を超えるときには、触媒の熱凝集が顕著となる傾向があり、微細な触媒粒子の肥大化が起こり、細径のカーボンナノチューブを得ることができないことがある。
【0016】
また、本発明の製造方法においては、前記処理室内の圧力を2.66〜13.33kPaの範囲に保持すると共に、前記プラズマ発生のために印加する電力を60〜180Wの範囲に保持することが好ましい。
【0017】
前記処理室内の圧力が2.66kPa未満であるか、または前記プラズマ発生のために印加する電力が60W未満であるときには、前記カーボンナノチューブが成長しないか、または成長速度が著しく小さくなることがある。一方、前記処理室内の圧力が13.33kPaを超えるか、または前記プラズマ発生のために印加する電力が180Wを超えるときには、ラジカルの発生密度が大きくなりすぎることがある。この場合、アモルファスカーボンや他のカーボン種が前記カーボンナノチューブの周囲に付着することとなり、得られるカーボンナノチューブの品質が低下する。
【0018】
さらに、本発明の製造方法において、前記触媒材料層は、2nm未満の範囲の厚さを備えることが好ましい。前記基板に形成されている前記触媒材料層の厚さが2nmを超える場合には、多層カーボンナノチューブが選択的に成長し、細径の長尺カーボンナノチューブを得ることができないことがある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の製造方法に用いる装置の一構成例を示す説明的断面図。
図2】本発明の製造方法に用いる装置の他の構成例を示す説明的断面図。
図3】本発明の製造方法に用いるアンテナ構造の構成例を示す説明的断面図。
図4】カーボンナノチューブの長さと製造時間との関係を示すグラフ。
図5】熱処理後の触媒粒子を示す走査型電子顕微鏡写真。
図6】本発明の製造方法で得られたカーボンナノチューブの一例の走査型電子顕微鏡写真。
図7】本発明の製造方法で得られたカーボンナノチューブの一例の透過型電子顕微鏡写真。
図8】本発明の製造方法で得られたカーボンナノチューブの一例のラマンスペクトル。
図9】本発明の製造方法で得られたカーボンナノチューブの一例のラマンRBMスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0021】
本実施形態の配向カーボンナノチューブの製造方法は、例えば、図1または図2に示す装置により実施することができる。
【0022】
図1に示すCVD装置1は、箱形のチャンバー(処理室)2を備える例であり、天井部にカーボンナノチューブの原料となる気体(以下、原料ガスと略記する)を導入する原料ガス導入部3を備えると共に、底部側面にはチャンバー2内のガスを排出するガス排出部4を備えている。ガス排出部4は例えば図示しない真空ポンプに接続されている。また、チャンバー2の天井部には、マイクロ波導波管5及びアンテナ6が備えられており、所定の周波数(例えば2.45GHz)のマイクロ波の印加によりアンテナ6の先端部6aにプラズマを集中発生させるようになっている。この結果、先端部6の周囲にプラズマ発生領域7が形成される。
【0023】
チャンバー2内には、マイクロ波導波管5に対向する位置に基板加熱部8が上下動自在に設けられており、基板加熱部8上に基板9が載置されている。CVD装置1では、基板加熱部8を上下動させることにより、マイクロ波導波管5直下のプラズマ発生領域7と基板9との距離dを調整するようになっている。この結果、距離dは、基板9がプラズマ発生領域7に発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避けることができると共に、該ラジカルがラジカル状態を維持して基板9に到達することができる距離に調整される。
【0024】
また、図2に示すCVD装置11は、管状のチャンバー(処理室)12を備える例であり、チャンバー12の一方の端部から原料ガスを導入すると共に、他方の端部からチャンバー12内のガスを排出するようになっている。チャンバー12のガス排出側の端部は例えば図示しない真空ポンプに接続されている。また、チャンバー12の原料ガス導入側の端部近傍には、CVD装置1と同様のマイクロ波導波管5及びアンテナ6が備えられており、所定の周波数(例えば2.45GHz)のマイクロ波の印加によりアンテナ6の先端部6aにプラズマを集中発生させるようになっている。この結果、先端部6の周囲にプラズマ発生領域7が形成される。
【0025】
導入される原料ガスに対し、プラズマ領域7の下流側には、チャンバー12を挟んで1対の基板加熱部13a,13bが、チャンバー12の長さ方向に沿ってプラズマ領域7に対して進退自在に設けられている。そして、チャンバー12内には、基板加熱部13bに対向して基板載置部14が設けられ、基板載置部14上に基板15が載置されている。CVD装置11では、基板加熱部13a,13bを進退させることにより、プラズマ発生領域7と基板15との距離dを調整するようになっている。この結果、距離dは、基板15がプラズマ発生領域7に発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避けることができると共に、該ラジカルがラジカル状態を維持して基板15に到達することができる距離に調整される。
【0026】
次に、図3にCVD装置1,11のアンテナ6の部分の拡大図を、CVD装置1を例として示す。
【0027】
マイクロ波導波管5はチャンバー2の外部に設けられ、チャンバー2は天井部に設けられた石英窓21を介してマイクロ波導波管5に接続されている。マイクロ波導波管5は、石英窓21の外周側にフランジ部5aを備えており、チャンバー2はフランジ部5aに配設されたOリング22によりマイクロ波導波管5に気密に接続されている。
【0028】
また、マイクロ導波管5は、内部に軸に沿って水冷管23を備えており、水冷管23の先端には石英窓21を貫通して設けられた雄ねじ部24にアンテナ6が螺着されている。尚、石英窓21と水冷管23とは真空シールにより気密に接続されている。
【0029】
さらに、マイクロ導波管5は、その先端部の外周側のフランジ部5a上方に水冷管26を備えている。
【0030】
CVD装置1では、マイクロ波導波管5の外部に設けられたマイクロ波発生装置(図示せず)により、例えば周波数2.45GHzのマイクロ波がマイクロ波導波管5に照射されると、アンテナ6の先端部6aで開放端反射され、進行波と干渉して定在波27が形成される。定在波27は石英窓21の位置が節となる一方、アンテナ6の先端部6aの位置が腹(1/4波長、長さ3cmに相当)に一致するように正確に制御される。
【0031】
このとき、前記構成のCVD装置1によれば、石英窓21では温度の上昇が抑制される一方、アンテナ6の先端部6aでは最も温度が高くなるため、アンテナ6の先端部6aにのみプラズマを正確に集中させることが可能となる。この結果、アンテナ6の先端部6aの周囲にプラズマ球(プラズマ発生領域)7が形成される。
【0032】
また、CVD装置1ではマイクロ波導波管5の内部に水冷管23を備えると共に、マイクロ波導波管5の先端部の外周側に水冷管26を備えることにより、さらに石英窓21の温度の上昇を抑制し、相対的にアンテナ6の先端部6aの温度を高くすることができる。水冷管23,26による冷却に加え、チャンバー2外からのファンによる空冷を行うと、さらに石英窓21の冷却効果が増大するので好ましい。
【0033】
基板9,15の基材としては、シリコン、ガラス、溶融石英、耐熱セラミックス、耐熱鋼板等を挙げることができる。基板9,15は、前記基材上に形成された反応防止層と、該反応防止層上に形成された触媒材料層とを備えている。
【0034】
前記反応防止層は、前記基材と前記触媒材料層との反応を防止するものである。前記反応防止層は、前記基材上にアルミニウム、シリコン、マグネシウム及びこれらの酸化物、またはこれらの複合物等を蒸着させることにより2〜70nmの範囲の厚さに形成する。前記蒸着は、スパッタ法、抵抗加熱法又は電子ビーム蒸着法等により行うことができる。尚、前記基材上にアルミニウムを蒸着させると、製膜の際におけるチャンバー2,12内の残留酸素、あるいは製膜後の大気暴露によりアルミニウムが酸化され、酸化アルミニウムからなる反応防止層が形成されるので好都合である。
【0035】
また、前記触媒材料層は、前記反応防止層上に、鉄、ニッケル、コバルト、パラジウム、白金、イットリウム、ランタン、モリブデン、マンガン、またはこれらの元素を含む合金、酸化物等を蒸着させることにより2nm未満、例えば0.025〜1.5nmの範囲の厚さに形成する。前記蒸着は、スパッタ法、抵抗加熱法又は電子ビーム蒸着法等により行うことができる。
【0036】
基板9,15は、さらに、前記触媒材料層上に分散層を備えていてもよい。前記分散層は、前記触媒材料層から生成する触媒粒子を安定して分散させるとともに、粒子径を所望の大きさに規定することができる。前記分散層は、アルミニウム、シリコン、マグネシウム及びこれらの酸化物、又はこれらの複合物等を蒸着させることにより6nm未満の範囲で、前記触媒材料層の厚さの3倍を超えない範囲の厚さに形成する。前記蒸着は、スパッタ法、抵抗加熱法又は電子ビーム蒸着法等により行うことができる。
【0037】
本実施形態では、前記CVD装置1に基板9を用いるか、またはCVD装置11に基板15を用い、基板を650〜800℃の温度に維持すると共に、チャンバー2,12内にプラズマを発生させることにより、配向カーボンナノチューブを製造する。このとき、チャンバー2,12内は、原料ガスを供給しつつ、チャンバー2,12内のガスを排出することにより減圧され、2.66〜13.33kPaの範囲の圧力に保持される。そして、プラズマ発生のために印加する電力を60〜180Wの範囲に保持することにより、長尺で細径のカーボンナノチューブを0.6〜4mm/時という大きな成長速度で製造することができる。
【0038】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0039】
本実施例では図1に示すCVD装置1を用いて、配向カーボンナノチューブの製造を行った。
【0040】
基板9は、シリコンを基材とし、該基材上にアルミニウムをスパッタ法または抵抗加熱と電子ビームとの併用法により蒸着させ、5〜70nmの厚さのアルミニウムからなる反応防止層を形成した。また、前記反応防止層上に鉄をスパッタ法または抵抗加熱と電子ビームとの併用法により蒸着させ、0.025〜1.5nmの厚さの鉄からなる触媒材料層を形成した。さらに、前記触媒材料層上に分散層を形成する場合には、アルミニウムをスパッタ法、抵抗加熱法又は電子ビーム蒸着法等により蒸着させ、0.025〜2nmの厚さのアルミニウムからなる分散層を形成した。
【0041】
基板9を基板加熱部8上に載置し、原料ガス導入部3から原料ガスを導入する一方、ガス排出部4からチャンバー2内のガスを排出して、チャンバー2内を減圧した。前記原料ガスとして、メタン5sccm、水素45sccmで流通させ、チャンバー2内の圧力を2.66kPaから10.6kPaの範囲に保持した。
【0042】
この状態で、基板加熱部8により基板9を690℃〜740℃の範囲で加熱し、マイクロ波導波管5から周波数2.45GHzのマイクロ波をチャンバー2内に照射し、アンテナ6の先端部6aにプラズマを発生させた。マイクロ波の出力(プラズマ発生のために印加する電力)は、60Wから180Wの範囲とし、基板9とプラズマ発生領域7との距離dは50mmとした。尚、マイクロ波の照射は、基板9の温度が室温から前記温度に達してから5分後に行った。
【0043】
それぞれの製造条件により得られたカーボンナノチューブの長さと、製造に要した時間とから、それぞれの製造条件に対するカーボンナノチューブの成長速度を算出した。配向カーボンナノチューブの製造条件と、それぞれの製造条件に対するカーボンナノチューブの成長速度とを表1,2に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
〔比較例〕
本比較例では図1に示すCVD装置1を用いて、配向カーボンナノチューブの製造を行った。
【0047】
基板9は、シリコンを基材とし、該基材上にアルミニウムをスパッタ法、抵抗加熱法又は電子ビーム蒸着法により蒸着させ、5〜70nmの厚さのアルミニウムからなる反応防止層を形成した。また、前記反応防止層上に鉄をスパッタ法、抵抗加熱法又は電子ビーム蒸着法により蒸着させ、0.1〜2nmの厚さの鉄からなる触媒材料層を形成した。さらに、前記触媒材料層上に分散層を形成する場合には、アルミニウムをスパッタ法、抵抗加熱法又は電子ビーム蒸着法により蒸着させ、0.25〜2nmの厚さのアルミニウムからなる分散層を形成した。
【0048】
基板9を基板加熱部8上に載置し、原料ガス導入部3から原料ガスを導入する一方、ガス排出部4からチャンバー2内のガスを排出して、チャンバー2内を減圧した。前記原料ガスとして、メタン5sccm、水素45sccmで流通させ、チャンバー2内の圧力を2.66kPaに保持した。
【0049】
この状態で、基板加熱部8により基板9を600℃に加熱し、マイクロ波導波管5から周波数2.45GHzのマイクロ波をチャンバー2内に照射し、プラズマを発生させた。マイクロ波の出力(プラズマ発生のために印加するる電力)は、60Wとし、基板9とプラズマ発生領域7との距離dは50mmとした。尚、マイクロ波の照射は、基板9の温度が室温から前記温度に達してから5分後に行った。
【0050】
それぞれの製造条件により得られたカーボンナノチューブの長さと、製造に要した時間とから、それぞれの製造条件に対するカーボンナノチューブの成長速度を算出した。配向カーボンナノチューブの製造条件と、それぞれの製造条件に対するカーボンナノチューブの成長速度とを表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表1〜3から、本比較例の製造方法によれば成長速度が0.2mm/時以下であるのに対し、本実施例の製造方法によれば0.6〜4mm/時と格段に優れた効果を奏することが明らかである。
【0053】
次に、(1)実施例のサンプル8と比較例のサンプル3とで得られたカーボンナノチューブの長さと製造時間との関係、(2)実施例のサンプル14と比較例のサンプル5とで得られたカーボンナノチューブの長さと製造時間との関係、(3)実施例のサンプル18,19と比較例のサンプル7とで得られたカーボンナノチューブの長さと製造時間との関係、の3組を図4に示す。前記3組は、組毎にそれぞれ実施例のサンプルと比較例のサンプルとの基板の条件が同一になっている。
【0054】
図4においては、それぞれのラインの傾きがそれぞれの製造条件における成長速度を示している。図4からも、本実施例の製造方法によれば、カーボンナノチューブの成長速度について、格段に優れた効果を得ることができることが明らかである。
【0055】
次に、本実施例に用いた基板と、本比較例に用いた基板とで、形成された触媒粒子を比較した。本実施例のサンプル24の基板について、表1に記載の温度(690℃)に加熱した後、カーボンナノチューブの製造を行うことなく室温に冷却して取り出したものの走査型電子顕微鏡写真を図5(a)に示す。また、本比較例のサンプル10の基板について、表2に記載の温度(690℃)に加熱した後、カーボンナノチューブの製造を行うことなく室温に冷却して取り出したものの走査型電子顕微鏡写真を図5(b)に示す。
【0056】
図5(a),(b)から、本実施例に用いた基板では、触媒の粒子密度は、1.2×1012個/cmであったのに対し、本比較例に用いた基板では2×1011個/cmであった。この結果より、触媒材料層の厚さを2nm未満とすることにより、触媒の粒子径を小さくすることができ、かつ製造されるカーボンナノチューブの面密度に直接関係する触媒の粒子密度を大きくすることができることが明らかである。
【0057】
次に、本実施例のサンプル17の製造条件で得られたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡写真を図6に、本実施例のサンプル10の製造条件で得られたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡写真を図7に、それぞれ示す。図6よりカーボンナノチューブが基板に対し垂直方向に長尺化していることが明らかである。また、図7より、本実施例の方法により製造されるナノチューブは細径の単層カーボンナノチューブが多く含まれることが明らかである。
【0058】
次に、本実施例のサンプル11の製造条件で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトル(励起波長632.8nmのHe−Neレーザーにて測定)を図8に示す。図8によれば、1600cm−1付近にグラファイト網面に由来するGバンドが観察され、1550cm−1付近に細径金属チューブに由来するBWFピークが観察され、1300cm−1付近に欠陥に由来するDバンドが形成される。さらに、100〜450cm−1の範囲に単層カーボンナノチューブ等の径の細いチューブに由来するRBMピークが観察される。従って、図8から、本実施例のサンプル11の製造条件で得られたカーボンナノチューブは径が細く、単層カーボンナノチューブを多く含むものであることが明らかである。
【0059】
次に、本実施例のサンプル9の製造条件で得られたカーボンナノチューブのラマンRBMスペクトルを図9に示す。図9によれば、100〜450cm−1の範囲に明確なピークが観察され、平均直径2nm以下の細径の単層カーボンナノチューブの存在が示唆される。
【符号の説明】
【0060】
1,11…CVD装置、 2,12…処理室、 6…アンテナ、 6a…先端部、 7…プラズマ発生領域、 9,15…基板。
図1
図2
図3
図4
図8
図9
図5
図6
図7