(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732659
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】低速溶解ポリマーを有する埋込型デバイス
(51)【国際特許分類】
A61F 2/82 20130101AFI20150521BHJP
【FI】
A61F2/82
【請求項の数】25
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-531295(P2010-531295)
(86)(22)【出願日】2008年10月24日
(65)【公表番号】特表2011-502009(P2011-502009A)
(43)【公表日】2011年1月20日
(86)【国際出願番号】US2008081209
(87)【国際公開番号】WO2009058694
(87)【国際公開日】20090507
【審査請求日】2011年8月26日
(31)【優先権主張番号】11/933,017
(32)【優先日】2007年10月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507135788
【氏名又は名称】アボット カーディオヴァスキュラー システムズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】トロールサス, ミカエル, オー
(72)【発明者】
【氏名】ゴー, マイケル, ハイ
(72)【発明者】
【氏名】シャーマン, デイビッド, ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ホセイニー, シド エフ. エー.
【審査官】
鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−190369(JP,A)
【文献】
特表2002−516910(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/026201(WO,A1)
【文献】
特開2004−559(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/109069(WO,A2)
【文献】
欧州特許出願公開第1891993(EP,A2)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0246108(US,A1)
【文献】
国際公開第2006/118808(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/82
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクチド(LA)、グリコリド(GA)及びポリエチレングリコール(PEG)から誘導されるポリマーを含むコーティングを自己上に配置する埋込型デバイスであって、
前記LAは、D,L−ラクチド(DLLA)、L−ラクチド(LLA)、D−ラクチド(DLA)、メソ−ラクチド(mLA)又はこれらの組合せであり、
前記ポリマーは、90kDa〜220kDaの重量平均分子量、9重量%〜55重量%のGA含量、及び、4.5重量%〜55重量%のPEG含量を有し、
前記コーティングは、生理学的環境に暴露されると12ヶ月以内に完全に吸収され得るものである、埋込型デバイス。
【請求項2】
前記ポリマーは、ポリ(DLLA−co−GA)、ポリ(LLA−co−GA)、ポリ(DLA−co−GA)及びポリ(mLA−co−GA)から選択されるブロックを含む、請求項1に記載の埋込型デバイス。
【請求項3】
前記ブロックは、99/1〜1/99のLA/GA比を有する、請求項2に記載の埋込型デバイス。
【請求項4】
前記ブロックは、90/10〜10/90のLA/GA比を有する、請求項2に記載の埋込型デバイス。
【請求項5】
前記ブロックは、70/30〜30/70のLA/GA比を有する、請求項2に記載の埋込型デバイス。
【請求項6】
前記PEG含量は、少なくとも20重量%である、請求項1に記載の埋込型デバイス。
【請求項7】
前記PEG含量は、27重量%〜33重量%、又は、36重量%〜44重量%である、請求項1に記載の埋込型デバイス。
【請求項8】
前記ポリマーは、前記コーティングが生学理的環境に曝露されると、フラグメントに分解する、請求項1に記載の埋込型デバイス。
【請求項9】
前記コーティングは、生物活性薬を更に含む、請求項1に記載の埋込型デバイス。
【請求項10】
前記生物活性薬は、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、17−β−エストラジオール、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、バイオリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT−578)、γ−ヒリダン、クロベタゾール、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、フェノフィブラート、及びこれらの組合せから選択される、請求項9に記載の埋込型デバイス。
【請求項11】
ステントである、請求項1に記載の埋込型デバイス。
【請求項12】
生体吸収性ステントである、請求項1に記載の埋込型デバイス。
【請求項13】
埋込型デバイス上にコーティングを配置するステップを備え、
前記コーティングは、ラクチド(LA)、グリコリド(GA)及びポリ(エチレングリコール)(PEG)から誘導されるポリマーを含み、
前記LAは、D,L−ラクチド(DLLA)、L−ラクチド(LLA)、D−ラクチド(DLA)、メソ−ラクチド(mLA)又はこれらの組合せであり、
前記ポリマーは、90kDa〜220kDaの重量平均分子量(Mw)、9重量%〜55重量%のGA含量、及び、4.5重量%〜55重量%のPEG含量を含み、
前記コーティングは、生学理的環境に曝露されると12カ月以内に完全に吸収され得るものである、埋込型デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記ポリマーは、ポリ(DLLA−co−GA)、ポリ(LLA−co−GA)、ポリ(DLA−co−GA)及びポリ(mLA−co−GA)から選択されるブロックを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ブロックは、99/1〜1/99のLA/GA比を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ブロックは、90/10〜10/90のLA/GA比を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ブロックは、70/30〜30/70のLA/GA比を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記PEG含量は、少なくとも20重量%である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記PEG含量は、27重量%〜33重量%、又は、36重量%〜44重量%である、
請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記ポリマーは、前記コーティングが生学理的環境に曝露されると、フラグメントに分解する、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記ポリマー性マトリックスは、生物活性薬を更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記生物活性薬が、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、17−β−エストラジオール、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、バイオリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT−578)、γ−ヒリダン、クロベタゾール、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、フェノフィブラート、及びこれらの組合せから選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、出血、血管剥離又は血管穿孔、動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、卵円孔開存症、跛行、血管及び人工グラフトにおける吻合部増殖、胆管障害、尿管閉鎖、腫瘍性閉塞、及びこれらの組合せからなる群から選択される障害を有する患者に埋め込まれる、請求項1に記載の埋込型デバイス。
【請求項24】
前記ポリマーは、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド−b−エチレングリコール−b−D,L−ラクチド−co−グリコリド)トリブロックコポリマー(PLGA−PEG−PLGA)である、請求項1に記載の埋込型デバイス。
【請求項25】
ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド−b−エチレングリコール−b−D,L−ラクチド−co−グリコリド)トリブロックコポリマー(PLGA−PEG−PLGA)を含むコーティングを自己上に配置する埋込型デバイスであって、
前記トリブロックコポリマーは、
D,L−ラクチド/グリコリドのモル比が5/1〜3/2であり、
PEGのモル濃度が5〜40%であり、
重量平均分子量が90kDa〜220kDaである、埋込型デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶性コーティングを有する医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
生物材料研究の現在の目標は、医療用デバイス及び医療用デバイスのためのコーティング等の医療用品を生み出す組成物を改良することである。そのような医療用品の一例は、埋込型医療用デバイスである。
【0003】
様々な医学的手技、例えば、経皮経管冠動脈形成術(PTCA)等では、ステントは重要な役割を演じる。ステントは、物理的に開通性を維持するための、また望むならば、対象の流路を広げるための機械的な介入として機能する。しかし、血栓症及び再狭窄が、特定の手技後に、数カ月にわたり発症する可能性があり、これらは、ステントの使用に関連する問題に属し、更なる血管形成術、又は外科的バイパス手術の必要性を生み出す可能性がある。
【0004】
このような問題に対処するために、ステントは、薬剤の局所送達を実現するように開発されている。局所送達する方法には、医療用品、例えばステントの表面をポリマー性担体でコーティングするステップ、及びポリマー性担体に薬剤を結合させるステップ、又はポリマー性担体と薬剤を混合するステップが含まれる。このような薬剤は、単独で、又は他の適当な薬剤と併用して使用可能である。しかし、薬物送達デバイスにおいて使用するための、新規なポリマーコーティングが常に必要とされている。
【0005】
以下に記載する実施形態は、上記において識別された必要性、及び問題点を対象としている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、可溶性コーティング、又は可溶性ポリマー性マトリックスを含む埋込型デバイスに関する。埋め込まれると、埋込み部位の生学理的環境により、ポリマー性マトリックスは、例えばポリマーが分解して、溶解消失が可能となる。いくつかの実施形態では、可溶性コーティングは、D,L−ラクチド/グリコリドのモル比が5/1〜3/2の範囲、及びPEGのモル濃度が5〜40%の範囲である、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド−b−エチレングリコール−b−D,L−ラクチド−co−グリコリド)トリブロックコポリマー(PLGA−PEG−PLGA)を含む。
【0007】
本明細書で用いる場合、表示の基材、例えば、ステント又は別の層の「上に配置される」層として記載される材料とは、表示の基材の実質的に全ての露出表面に直接塗布される材料の比較的薄いコーティングを指す。但し、用語「上に配置される」は、基材に塗布された中間層に、材料の薄い層を塗布することも意味することがあり、この場合、中間層が存在しなかったならば、材料は基材の実質的に全ての露出表面を被覆するであろう方法で塗布される。本明細書で用いる場合、用語「ポリマー性マトリックス」は、用語「ポリマー性コーティング」、又は「コーティング」と交換可能に用いられる。
【0008】
いくつかの実施形態では、ポリマー性マトリックスは、任意の非分解性ポリマー若しくは材料、又は生体耐久性ポリマー若しくは材料を含むことができる。
【0009】
いくつかの実施形態では、ポリマー性マトリックスは、治療用物質又は治療用薬物等の生物活性薬を含むことができる。生物活性薬のいくつかの例には、内皮細胞の移動を阻害するsiRNA及び/又はその他のオリゴヌクレオチドが含まれる。生物活性薬は、リゾホスファチジン酸(LPA)又はスフィンゴシン−1−ホスフェート(S1P)であってもよい。LPAは、多種多様な正常細胞種及び悪性細胞種において、増殖因子様活性を発揮することができる、「生物活性な」リン脂質である。LPAは、創傷治癒等の正常な生学理的プロセス、及び血管緊張、血管壁統合性、又は再生において、重要な役割を果たしている。他のいくつかの典型的な生物活性薬は、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、17−β−エストラジオール、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、バイオリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT−578)、γ−ヒリダン、クロベタゾール、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、及びこれらの組合せである。
【0010】
ポリマー性マトリックス、又はポリマー性コーティングは、ステント等の埋込型デバイス上に形成可能で、この埋込型デバイスは、血管の病状を治療、予防、緩和、又は低減するために、又は治癒促進効果をもたらすために患者に埋込み可能である。このような状態の例として、アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、出血、血管剥離又は血管穿孔、動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、跛行、吻合部増殖(血管及び人工グラフトにおける)、胆管障害、尿管閉鎖、腫瘍性閉塞、又はこれらの組合せが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】異なった分子量及び比のポリ(エチレングリコール)(PEG)を有する本発明のポリマーPLGA−PEG−PLGAから形成されたコーティングの走査電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図1B】異なった分子量及び比のポリ(エチレングリコール)(PEG)を有する本発明のポリマーPLGA−PEG−PLGAから形成されたコーティングの走査電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図1C】異なった分子量及び比のポリ(エチレングリコール)(PEG)を有する本発明のポリマーPLGA−PEG−PLGAから形成されたコーティングの走査電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図2】異なった分子量及び比のPEGを有する本発明のポリマーから形成されたコーティングからのエベロリムスの溶出プロファイルを示す図である。
【
図3】異なった分子量及び比のPEGを有する本発明のポリマーから形成されたコーティングの膨潤試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、可溶性コーティング、又は可溶性ポリマー性マトリックスを含む埋込型デバイスに関する。埋め込まれると、埋込み部位の生学理的環境により、ポリマー性マトリックスは、例えばポリマーが分解して、溶解消失が可能となる。いくつかの実施形態では、可溶性コーティングは、D,L−ラクチド/グリコリドのモル比が5/1〜3/2の範囲、及びPEGのモル濃度が5〜40%の範囲である、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド−b−エチレングリコール−b−D,L−ラクチド−co−グリコリド)トリブロックコポリマー(PLGA−PEG−PLGA)を含む。
【0013】
本明細書で用いる場合、表示の基材、例えば、ステント又は別の層の「上に配置される」層として記載される材料とは、表示の基材の実質的に全ての露出表面に、直接的に塗布される材料の比較的薄いコーティングを指す。但し、用語「上に配置される」は、基材に塗布された中間層に、材料の薄い層を塗布することも意味することがあり、この場合、中間層が存在しなかったならば、材料は、基材の実質的に全ての露出表面を被覆するであろう方法で、材料は塗布される。本明細書で用いる場合、用語「ポリマー性マトリックス」は、用語「ポリマー性コーティング」、又は「コーティング」と交換可能に用いられる。
【0014】
いくつかの実施形態では、ポリマー性マトリックスは、任意の非分解性ポリマー若しくは材料、又は生体耐久性ポリマー若しくは材料を含むことができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、ポリマー性マトリックスは、治療用物質又は治療用薬物等の生物活性薬を含むことができる。生物活性薬のいくつかの例には、内皮細胞の移動を阻害するsiRNA及び/又はその他のオリゴヌクレオチドが含まれる。生物活性薬は、リゾホスファチジン酸(LPA)又はスフィンゴシン−1−ホスフェート(S1P)であってもよい。LPAは、多種多様な正常細胞種及び悪性細胞種において、増殖因子様活性を発揮することができる、「生物活性な」リン脂質である。LPAは、創傷治癒等の正常な生学理的プロセス、及び血管緊張、血管壁統合性、又は再生において、重要な役割を果たしている。他のいくつかの典型的な生物活性薬は、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、17−β−エストラジオール、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、バイオリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT−578)、γ−ヒリダン、クロベタゾール、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、及びこれらの組合せである。
【0016】
ポリマー性マトリックス、又はポリマー性コーティングは、ステント等の埋込型デバイス上に形成可能で、この埋込型デバイスは、血管の病状を治療、予防、緩和、又は低減するために、又は治癒促進効果をもたらすために患者に埋込み可能である。このような状態の例として、アテローム性動脈硬化症、血栓症、再狭窄、出血、血管剥離又は血管穿孔、動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、跛行、吻合部増殖(血管及び人工グラフトにおける)、胆管障害、尿管閉鎖、腫瘍性閉塞、又はこれらの組合せが挙げられる。
【0017】
定義
適用可能な場合は常に、本発明の説明全体を通じて用いられる、以下に記載するようないくつかの用語に対する定義を適用するものとする。
【0018】
本明細書で用いる場合、用語「生体安定性」は、用語「生体耐久性」と交換可能に用いられる。生体安定性ポリマー、又は生体安定性コーティングとは、以下に定義する生分解性ではないポリマー、又はコーティングを指す。
【0019】
用語「生物学的に分解可能」(又は、「生分解性」)、「生物学的に侵食可能」(又は「生体侵食性」)、「生物学的に吸収可能」(又は、「生体吸収性」)、及び「生物学的に再吸収可能」(又は、「生体再吸収性」)は、ポリマー及びコーティングに関する場合には、交換可能に用いられ、生学理的条件に曝露された場合には、やがて完全に、又は実質的に完全に分解、溶解、及び/又は侵食される能力があり、また身体によって徐々に再吸収、吸収及び/又は排除可能であり、又は動物(例えば、ヒト)の腎臓膜を通過できる断片、例えば、約40,000ダルトン(40kDa)以下の分子量を有する断片に分解可能なポリマー及びコーティングを指す。ポリマー又はコーティングが分解し、最終的に吸収、排除されるプロセスは、例えば、加水分解、代謝プロセス、酸化、酵素的プロセス、バルク侵食又は表面侵食等に起因し得る。
【0020】
「生物学的に分解可能」、「生物学的に侵食可能」、「生物学的に吸収可能」、及び「生物学的に再吸収可能」なステントコーティング、又はそのようなステントコーティングを形成するポリマーに言及する場合は常に、分解、侵食、吸収、及び/又は再吸収のプロセスが完了し、又は実質的に完了した後には、ステント上にコーティングが全く存在しない、又は実質的にほとんどコーティングが存在しないと理解される。本出願において、用語「分解可能」、「生分解可能」、又は「生物学的に分解可能」が用いられる場合は常に、これらの用語は、生物学的に分解可能な、生物学的に侵食可能な、生物学的に吸収可能な、及び生物学的に再吸収可能なポリマー又はコーティングを幅広く含むように意図されている。
【0021】
「生学理的条件」とは、インプラントが、動物(例えば、ヒト)の体内において曝露される条件を指す。生学理的条件には、その動物種の「正常」体温(ヒトの場合、約37℃)、並びに生学理的なイオン強度、pH、及び酵素の水性環境が含まれるが、但し、これらに限定されない。場合によっては、特定の動物の体温は、その動物種の「正常」体温とみなされる温度よりも高い、又は低い可能性がある。例えば、ヒトの体温は、場合によっては、約37℃よりも高い、又は低い可能性がある。本発明の範囲には、ある動物の生学理的条件(例えば、体温)が、「正常」とはみなされない場合が含まれる。血液に接触する埋込型デバイスの場合、「治癒促進性」薬物又は薬剤とは、動脈管の再内皮化を促進又は増強して、血管組織の治癒を促進する特性を有する薬物又は薬剤を指す。治癒促進性薬物又は薬剤を含む埋込型デバイス(例えば、ステント)の(1つ又は複数の)部分は、内皮細胞(例えば、内皮前駆細胞)を引き付け、これと結合し、最終的には内皮細胞によって取り囲まれ得る。細胞を引き付け、これと結合し、またこれにより包埋されると、ステントが十分に包埋されなかった場合に生ずる可能性のある、機械的特性の喪失に起因した塞栓形成又は血栓形成が低減又は防止される。再内皮化を強化することにより、ステントの機械特性が失われる速度よりも速い速度で、内皮化を促進することができる。
【0022】
治癒促進性薬物又は薬剤を生体吸収性ポリマー基材又は足場の本体内に分散させることができる。治癒促進性薬物又は薬剤を埋込型デバイス(例えば、ステント)表面上の生体吸収性ポリマーコーティング内に分散させることも可能である。
【0023】
「内皮前駆細胞」とは、血流に侵入し、血管損傷部位に到達して損傷部の修復を支援することができる、骨髄内で生成する原始細胞を指す。内皮前駆細胞は、成人ヒト末梢血において循環し、サイトカイン、増殖因子、及び虚血状態により、骨髄から動員される。血管の損傷は、血管新生機構、及び脈管形成機構の両方により修復される。循環性内皮前駆細胞は、主に脈管形成機構により、損傷血管を修復するのに寄与する。
【0024】
本明細書で用いる場合、用語「コドラッグ」とは、特定の薬理効果を実現するために、別の薬物と共に、同時に又は連続的に投与される薬物である。効果は、全身的でもあれば、また特異的でもあり得る。コドラッグは、他の薬物とは異なる効果を発揮することができ、又は他の薬物の効果を促進、強化、又は増強することができる。
【0025】
本明細書で用いる場合、用語「プロドラッグ」とは、化学的な部分又は生物学的な部分により、活性が低減された薬剤を指し、当該部分は、in vivoで代謝され、又は加水分解を受けてプロドラッグ由来の薬物又は活性成分を形成する。用語「プロドラッグ」は、「プロエージェント(proagent)」、「潜在化薬物(latentiated drugs)」、「生可逆的誘導体(bioreversible derivatives)」、及び「同族体(congeners)」等の用語と交換可能に使用可能である。N.J.Harper、Drug latentiation、Prog Drug Res.、第4巻:221〜294ページ(1962);E.B.Roche、Design of Biopharmaceutical Properties through Prodrugs and Analogs、Washington,DC:American Pharmaceutical Association(1977);A.A.Sinkula及びS.H.Yalkowsky、Rationale for design of biologically reversible drug derivatives:prodrugs、J.Pharm.Sci.、第64巻:181〜210ページ(1975)。用語「プロドラッグ」を使用する場合、活性薬物分子のいくつかの塩の形態を特徴付けるために、この用語を用いる著者もいるが、通常は、薬物と化学的な部分との間の共有結合を意味する。プロドラッグそのものについて、厳密で普遍的な定義は存在せず、定義は著者によって異なり得るが、プロドラッグは、一般的に、薬理学的により低活性な化学誘導体であって、治療、予防、又は診断上の効果を発揮する活性な、又はより活性な薬物分子に、in vivoで酵素的又は非酵素的に変換され得る化学誘導体として定義され得る。Sinkula及びYalkowsky、前出;V.J.Stellaら、Prodrugs:Do they have advantages in clinical practice?、Drugs、第29巻:455〜473ページ(1985)。
【0026】
用語「ポリマー」、及び「ポリマー性」とは、重合反応生成物である化合物を指す。これらの用語には、ホモポリマー(すなわち、1種類のモノマーを重合させることにより得られるポリマー)、コポリマー(すなわち、2種類以上の異なる種類のモノマーを重合させることにより得られるポリマー)、ターポリマー等が含まれ、ランダム状、交互型、ブロック型、グラフト型、樹枝状、架橋型、及びこれらのその他のあらゆる変形物が含まれる。
【0027】
本明細書で用いる場合、用語「埋込み可能」とは、哺乳動物(例えば、ヒト又は患者)に埋込み可能な特性であって、デバイスが指示する通りに使用するとき、デバイスが安全且つ有効であるように、法律、及び政府当局(例えば、米国FDA)の規則により規定される、デバイスの機械的、物理的、化学的、生物学的、及び薬理学的要求事項を満たす特性を指す。本明細書で用いる場合、「埋込型デバイス」は、ヒト又はヒトではない動物に埋め込まれ得る、あらゆる適した基材であり得る。埋込型デバイスの例として、自己拡張型ステント、バルーン拡張型ステント、冠状動脈ステント、末梢血管ステント、ステント−グラフト、カテーテル、様々な体内の管腔、又は腔孔用のその他の拡張型管状デバイス、グラフト、血管グラフト、動脈−静脈グラフト、バイパスグラフト、ペースメーカー及び除細動器、前出デバイス用のリード線及び電極、人工心臓弁、吻合クリップ、動脈閉鎖デバイス、卵円孔開存閉鎖デバイス、髄液シャント、及び粒子(例えば、薬物溶出性粒子、微粒子、及びナノ粒子)が挙げられるが、但し、これらに限定されない。ステントは、体内の任意の管腔を対象とすることができ、これには、神経、頸動脈、静脈移植血管、冠動脈、大動脈、腎臓、腸骨、大腿骨、膝窩血管系、及び尿道に関する流路が含まれる。
【0028】
本明細書で用いる場合、用語「埋込型デバイス」は、用語「医療用デバイス」と交換可能に用いられる。
【0029】
埋込型デバイスは、治療薬の局所送達用として設計することができる。薬物処理された埋込型デバイスは、部分的に、例えば、治療薬を含むコーティング材料でデバイスをコーティングすることにより、構築可能である。デバイス本体も、治療薬を含むことができる。
【0030】
埋込型デバイスは、生分解性/生体吸収性/生体侵食性ポリマー、生体安定性ポリマー、又はこれらの組合せを部分的に、又は全体的に含むコーティングを用いて作製可能である。埋込型デバイスそのものも、生分解性/生体吸収性/生体侵食性ポリマー、生体安定性ポリマー、又はこれらの組合せから、部分的に又は全体的に作製可能である。
【0031】
本明細書で用いる場合、表示の基材(例えば、埋込型デバイス)の「上に配置される」層、又はフィルム、(例えば、コーティング)として記載される材料とは、例えば、基材の表面上の少なくとも一部分上に直接的又は間接的に配置される材料のコーティングを指す。直接的に配置するとは、コーティングを基材の露出表面に直接塗布することを意味する。間接的に配置するとは、コーティングを基材上に直接的又は間接的に配置された中間層に塗布することを意味する。いくつかの実施形態では、用語「層」又は「フィルム」からは、非埋込型デバイス上に形成されたフィルム、又は層が除外される。
【0032】
ステントの場合、「送達」とは、ステントを身体の管腔経由で治療を必要とする管内の部位、例えば病変部等に導入、及び輸送することを指す。「留置」とは、管腔内の治療部位でステントを拡張させることに対応する。ステントの送達及び留置は、カテーテルの一端近くにステントを配置し、皮膚を経由してカテーテルの一端を身体管腔内に挿入し、身体管腔内においてカテーテルを所望の治療部位まで前進させ、治療部位でステントを拡張させ、及びカテーテルを管腔から抜去することにより達成される。
【0033】
可溶性コーティング
本明細書で用いる場合、用語「水に溶解可能」とは、本出願に記載する材料又はポリマーの水溶性としての特性を指す。この用語には、水が、アニオンでも、またカチオンでもあり得るイオンを含む場合に、水溶性となる材料の特性も含まれる。このようなイオンの例としては、生学理的環境に存在するイオン、例えば、Na
+、K
+、Ca
+2、Mg
+2、Al
+3、Cl
−、 SO
4−2、又はリン酸イオン等であるが、但し、これらに限定されない。用語「可溶性」とは、周囲温度(20℃)において、水100cc(又はmL)当たり、少なくとも1gの材料を含む濃度を有する溶液を形成することができる材料の特性を指す。
【0034】
本明細書で用いる場合、用語「低速溶解」とは、水又は生学理的環境と接触すると、すぐには水又は生学理的環境に完全には溶解せず、むしろ長期にわたり、例えば、1日〜最大2年、例えば、約2日〜約2年、約4日〜約20カ月、約7日〜約18カ月、約14日〜約16カ月、約30日〜約14カ月、約2カ月〜約12カ月、又は約6カ月の期間、生学理的環境に溶解する、材料又はポリマーの特性を指す。いくつかの実施形態では、用語「低速溶解」は、最大、約2年、約1年、約6カ月、約3カ月、約2カ月、約1カ月、約2週間、約1週間、約2日、又は約1日の期間に、50質量%(半減期)溶解することができるポリマー性マトリックスの特性であり得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、コーティングは、PLGA−PEG−PLGAトリブロックコポリマーを含むことができる。本明細書で用いる場合、用語PLGAは、ポリ(D,L−乳酸−co−グリコール酸)であり、PEGは、ポリ(エチレングリコール)である。
【0036】
PLGA−PEG−PLGAトリブロックコポリマーでは、PEGブロックは、生学理的環境等の水性環境にすばやく溶解し、したがってポリマーに溶解性を付与する。更に、PLGAブロックは、ポリマーに疎水性を付与し、またPEGブロックはポリマーに親水性を付与する。したがって、トリブロックコポリマー中のPEGの濃度を変化させることにより、最適な溶解速度を有するPLGA−PEG−PLGAブロックコポリマーを作製することができる。
【0037】
いくつかの実施形態では、PLGA−PEG−PLGAトリブロックコポリマーは、様々な分子量のPLGAブロック及びPEGブロックから形成可能である。一般的に、PEGブロックは、約40KD未満の重量平均分子量(M
w)を有し得る。いくつかの実施形態では、PEGブロックは、約300D〜約40KDのM
wを有し得る。例えば、PEGブロックは、約500D、約1KD、約2KD、約5KD、約8KD、約10KD、約15KD、約20KD、約30KD、約35KD、又は約40KDのM
wを有し得る。本明細書で用いる場合、用語「約」とは、表示の値から10%以内のばらつきを指す。PLGAブロックは、所望の溶解速度に応じて、約5KD〜約100KDのM
wを有し得る。PLGAブロックについて適切な分子量範囲を選択する際には、いくつかある要因のうち、下記要因について検討される:(1)ラクチド(LA)ユニットは、一般的に疎水性であり、したがって、LAユニットの割合(%)を高めれば、ポリマーの溶解速度が低減するように、ポリマーの吸水能力を低めることができ、(2)ポリマー中のPEGブロックの割合(%)を高めれば、一般的に、ポリマーの溶解速度が増加するように、ポリマーの吸水能力が高まり、及び(3)グリコリド(GA)ユニットは、ラクチドユニットよりも速い分解速度をもたらす。いくつかの実施形態では、ポリマーは、約10%〜約90%w/wのPLGAブロックを有することができる。いくつかの実施形態では、ポリマーは、重量にして、約20%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、又は約90%のPLGAブロックを有し得る。いくつかの実施形態では、ポリマーは、重量にして約30%のGAユニット、又はGA濃度を有し得る。
【0038】
PLGAブロック内のLA/GA比も変化し得る。例えば、LA/GA比は、約5/95〜約10/90、約20/80、約30/70、約40/60、約50/50、約60/40、約70/30、約80/20、約90/10、又は約95/5w/wであり得る。LAユニット及びGAユニットにおける溶解速度の違いにより、PLGA内のGAの比が高くなるほど、一般的に、高い溶解速度を有するPLGA−PEG−PLGAブロックコポリマーを生成する。
【0039】
LAユニットは、L−乳酸(LLA)、D−乳酸(DLA)、D,L−乳酸(DLLA)、又はメソ−乳酸(mLA)より形成可能である。LAユニットが、LLA又はDLAからの場合には、PLGA−PEG−PLGAトリブロックコポリマーは、半結晶性ポリマーであり得る。LAユニットが、DLLAからの場合には、PLGA−PEG−PLGAトリブロックコポリマーは、非結晶性ポリマーであり得る。一般的に、非結晶性のPLGA−PEG−PLGAブロックコポリマーは、より高い溶解速度を有することができ、また、薬物を含むコーティングを形成することにより、薬物の制御放出に用いられる場合には、コーティングは、バースト型放出のプロファイルを含み得る薬物放出プロファイルを有することができる。バースト型放出は、半結晶性ポリマーを用いることにより制御可能である。半結晶性PLGA−PEG−PLGAトリブロックコポリマーも、同一の組成物を有する非結晶性ポリマーと比較して、より遅い溶解速度を有し得る。
【0040】
PLGA−PEG−PLGAトリポリマーは、約40KD〜約1000KDの全体分子量(M
w)を有し得る。いくつかの実施形態では、ポリマーは、約50KD〜約500KD、例えば、約60KD、約70KD、約80KD、約90KD、約100KD、約120KD、約130KD、約140KD、約150KD、約160KD、約170KD、約180KD、約190KD、約200KD、約250KD、約300KD、約350KD、約400KD、又は約450KDの全体M
wを有し得る。
【0041】
いくつかの実施形態では、ポリマー性マトリックス又はポリマー性コーティングは、天然ポリマー、例えば、キトサン、アルギネート、フィブリン、フィブリノゲン、セルロース、デンプン、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸の断片及び誘導体、ヘパリン、ヘパリンの断片及び誘導体、グリコサミノグリカン(GAG)、GAG誘導体、多糖類、キトサン、アルギネート等、又はこれらの組合せを含むことができる。
【0042】
本明細書に記載するコーティングは、医療用デバイスの表面であり得る基材(例えば、ステントの金属表面)、又は生体安定性ポリマー性基材の上に配置され得る。生体安定性ポリマー性基材は、生体安定性ポリマー又は材料を含み得る。そのような生体安定性ポリマー性基材は、任意の生体安定性ポリマーを含み得る。
【0043】
そのような生体安定性ポリマーのいくつかの例として、ポリエステル、co−ポリエステル、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリイソブチレンとエチレン−α−オレフィンとのコポリマー、アクリル酸ポリマー及び同コポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ビニルポリマー及び同コポリマー、ポリビニルメチルエーテル等のポリビニルエーテル、ポリ塩化ビニリデン等のポリハロゲン化ビニリデン、ポリビニルケトン、ポリスチレン等のポリビニル芳香族、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリ酢酸ビニル(EVAL)等のポリビニルエステル、エチレン−メチルメタクリレートコポリマー等の、ビニルモノマー同士、及びビニルモノマーとオレフィンとのコポリマー、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、ABS樹脂、及びエチレン−酢酸ビニルコポリマー、ナイロン66、及びポリカプロラクタム等のポリアミド、アルキド樹脂、ポリエーテル又はエステルブロックアミド(Pebax)等のco−ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリ(n−ブチルメタクリレート)、ポリ(sec−ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリ(n−プロピルメタクリレート)、ポリ(イソプロピルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、エポキシ樹脂、ポリウレタン、レーヨン、レーヨン−トリアセテート、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、セロファン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース、ポリ(エチレングリコール)(PEG)等のポリエーテル、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)等のポリアルキレンオキシド、コリン又はホスホリルコリンを有するモノマーのポリマー及びコポリマー、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド等の水酸基を有するモノマーのポリマー及びコポリマー、PEGアクリレート(PEGA)、PEGメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)及びn−ビニルピロリドン(VP)、メタクリル酸(MA)、アクリル酸(AA)、アルコキシメタクリレート、アルコキシアクリレート、及び3−トリメチルシリルプロピルメタクリレート(TMSPMA)等のカルボン酸を有するモノマー、ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)−PEG(SIS−PEG)、ポリスチレン−PEG、ポリイソブチレン−PEG、ポリカプロラクトン−PEG(PCL−PEG)、PLA−PEG、ポリ(メチルメタクリレート)−PEG(PMMA−PEG)、ポリジメチルシロキサン−co−PEG(PDMS−PEG)、プルロニック(PLURONIC)(商標)界面活性剤(ポリプロピレンオキシド−co−ポリエチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、水酸基機能性ポリ(ビニルピロリドン)、又はこれらの組合せが挙げられるが、但し、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、生体安定性ポリマーは、フルオロ−オレフィンからのポリマー又はコポリマーである。そのようなポリマーのいくつかの例は、ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)、又はポリ(ビニリデンフルオリド−co−ヘキサフルオロプロペン)(PVDF−HFP)等の、ソレフ(Solef)(商標)ポリマーである。
【0044】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載するコポリマーからは、上記ポリマーのいずれか1つ又は複数が除外され得る。
【0045】
生物活性薬
このような生物活性薬は、治療薬、予防薬、又は診断薬である任意の薬剤であり得る。これらの薬剤は、抗増殖特性、又は抗炎症特性を有することも可能で、また抗腫瘍性、抗血小板性、抗凝固性、抗フィブリン性、抗トロンビン性、抗有糸分裂性、抗生性、抗アレルギー性、又は抗酸化性の特性等の、その他の特性を有することも可能である。
【0046】
このような薬剤は細胞増殖抑制薬、内皮の治癒を促進する薬剤(NOの放出又は生成による以外)、又は、平滑筋細胞の増殖を抑えつつ、内皮細胞の付着、移動、及び増殖を促進する薬剤であり得る。適する治療薬、及び予防薬の例として、治療、予防、又は診断活性を有する、合成無機化合物及び合成有機化合物、タンパク質及びペプチド、多糖類及びその他の糖類、脂質、並びにDNA及びRNA核酸配列が挙げられる。核酸配列としては、遺伝子、転写を阻害するように相補的DNAに結合するアンチセンス分子、及びリボザイムが挙げられる。生物活性薬のその他のいくつかの例として、抗体、受容体リガンド、酵素、接着性ペプチド、血液凝固因子、ストレプトキナーゼ及び組織プラスミノゲン活性化因子等の阻害剤又は血栓溶解剤、予防接種用抗原、ホルモン及び成長因子、アンチセンスオリゴヌクレオチド等のオリゴヌクレオチド、及びリボザイム、及び遺伝子療法に用いられるレトロウイルスベクターが挙げられる。抗増殖薬の例として、ラパマイシン、及びその機能的誘導体又は構造的誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、及びその機能的誘導体又は構造的誘導体、パクリタキセル及びその機能的誘導体又は構造的誘導体、が挙げられる。ラパマイシン誘導体の例として、ABT−578、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、が挙げられる。パクリタキセル誘導体の例として、ドセタキセルが挙げられる。抗腫瘍薬及び/又は抗有糸分裂薬の例として、メトトレキサート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、ドキソルビシン塩酸塩(例えば、Pharmacia & Upjohn、Peapack N.J.のアドリアマイシン(Adriamycin)(登録商標))、及びマイトマイシン(例えば、Bristol−Myers Squibb Co.、Stamford、Conn.のムタマイシン(Mutamycin)(登録商標))が挙げられる。そのような抗血小板薬、抗凝固薬、抗フィブリン薬、及び抗トロンビン薬の例としてヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヘパリノイド、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリン、及びプロスタサイクリン類似体、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン(合成抗トロンビン)、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa血小板膜受容体拮抗薬抗体、組換えヒルジン、アンジオマックス(Angiomax)(Biogen,Inc.、Cambridge、Mass.)等のトロンビン阻害剤、カルシウムチャンネル遮断薬(例えば、ニフェジピン)、コルヒチン、線維芽細胞増殖因子(FGF)拮抗薬、魚油(ω3−脂肪酸)、ヒスタミン拮抗薬、ロバスタチン(HMG−CoAリダクターゼの阻害剤、コレステロール低下薬、Merck & Co.,Inc.、Whitehouse Station、NJのブランド名メバコール(Mevacor)(登録商標))、モノクローナル抗体(例えば、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体に特異的なもの)、ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、スラミン、セロトニン遮断薬、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン(PDGF拮抗薬)、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、エストラジオール、抗がん剤、種々のビタミン等の栄養補助食品、及びこれらの組合せが挙げられる。ステロイド系、及び非ステロイド系抗炎症薬を含む抗炎症薬の例として、バイオリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、クロベタゾール、コルチコステロイド、又はこれらの組合せが挙げられる。そのような細胞増殖抑制物質の例として、アンジオペプチン、カプトプリル等のアンジオテンシン転換酵素阻害剤(例えば、Bristol−Myers Squibb Co.、Stamford、Conn.のカポテン(Capoten)(登録商標)及びカポジド(Capozide)(登録商標))、シラザプリル又はリシノプリル(例えば、Merck&Co.,Inc.、Whitehouse Station、NJのプリニビル(Prinivil)(登録商標)及びプリンジド(Prinzide)(登録商標))が挙げられる。抗アレルギー薬の例として、ペルミロラストカリウムが挙げられる。適当と考えられるその他の治療用の物質又は薬剤として、α−インターフェロン、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、及び遺伝子工学による上皮細胞が挙げられる。上記物質は、それらのプロドラッグ又はコドラッグの形態で用いることも可能である。上記物質には、それらの代謝物、及び/又は代謝物のプロドラッグも含まれる。上記物質は、例示目的で掲載されており、限定することを意味しない。現在入手可能な、又は将来開発される可能性のあるその他の活性薬も、同様に適用可能である。
【0047】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載するコーティングに含まれ得る生物活性薬からは、上記で識別された薬物又は薬剤の任意の1つ又は複数が、特別に除外され得る。
【0048】
好ましい治療効果を発揮するために必要な生物活性薬の用量又は濃度は、生物活性薬が毒性効果を発現するレベルより低く、且つ治療結果が全く得られないレベルよりも高くあるべきである。この生物活性薬の用量又は濃度は、患者の具体的な状況、外傷の性質、所望の療法の性質、投与された成分が血管部位に留まる期間、及び、他の活性薬も用いられる場合には、当該物質の性質及び種類、又はこれらの物質の組合せ等の要因に依存し得る。治療有効用量は、実験的に、例えば、適当な動物モデル系の血管に輸液し、薬剤及びその効果を検出するための免疫組織化学法、蛍光分析法、又は電子顕微鏡検査法を用い、又は適当なin vitro試験を実施することにより決定可能である。用量を決定するための標準的な薬理学試験手順は、当業者により、理解されている。
【0049】
埋込型デバイスの例
本明細書で用いる場合、埋込型デバイスは、ヒト又は動物患者に埋込み可能なあらゆる適する医療用基材であり得る。そのような埋込型デバイスの例として、自己拡張型ステント、バルーン拡張型ステント、ステント−グラフト、グラフト(例えば、大動脈グラフト)、心臓弁人工器官(例えば、人工心臓弁)又は血管グラフト、脳脊髄液シャント、ペースメーカーの電極、カテーテル、心内膜リード線(例えば、Guidant Corporation、Santa Clara、CAから入手可能なFINELINE及びENDOTAK)、及び吻合コネクター等の吻合を容易にするデバイスが挙げられる。デバイスの基底構造は、事実上、いかなる設計であってもよい。デバイスは、コバルトクロム合金(ELGILOY)、ステンレス鋼(316L)、高窒素ステンレス鋼、例えばBIODUR108、コバルトクロム合金L−605、「MP35N」、「MP20N」、ELASTINITE(Nitinol)、タンタル、ニッケル−チタン合金、白金イリジウム合金、金、マグネシウム、又はこれらの組合せ等の金属材料又は合金から作製することができるが、但し、これらに限定されない。「MP35N」及び「MP20N」は、Standard Press Steel Co.、Jenkintown、PA.から入手可能なコバルト、ニッケル、クロム及びモリブデンの合金の商標名である。「MP35N」は、35%のコバルト、35%のニッケル、20%のクロム、及び10%のモリブデンからなる。「MP20N」は、50%のコバルト、20%のニッケル、20%のクロム、及び10%のモリブデンからなる。生体吸収性ポリマー、又は生体安定性ポリマーから作製されたデバイスも、本発明の実施形態と共に使用可能であり得る。このデバイスは、例えば生体吸収性のステントであり得る。
【0050】
使用方法
本明細書に記載するデバイス(例えば、ステント)は、様々な医学的手技に有用であり、これには、例示目的として、胆管、食道、気管/気管支、及びその他の生物学的流路内の、腫瘍によって引き起された閉塞の治療が含まれる。上記コーティングを有するステントは、平滑筋細胞の異常、又は不適切な移動及び増殖に起因する血管閉塞部位の治療、血栓症、及び再狭窄の治療に特に有用である。ステントは、動脈及び静脈の両方を含む様々な血管の内部に配置することができる。部位の代表例として、腸骨動脈、腎臓動脈、及び冠状動脈が挙げられる。
【0051】
ステントを埋め込む際には、まず、ステント治療を行うために適切な位置を決定するために、血管造影が実施される。血管造影は、一般的に、X線撮影する際に、動脈又は静脈内に挿入されたカテーテルを経由して、X線造影剤を注入することにより達成される。次に、ガイドワイヤーを病変又は治療候補部位を通過するまで前進させる。このガイドワイヤー上を送達カテーテルが通過し、同カテーテルは、つぶれた形状にあるステントが流路内に挿入されるのを可能にする。送達カテーテルは、経皮的又は外科的、いずれかの方法により、大腿動脈、上腕動脈、大腿静脈、又は上腕静脈に挿入され、蛍光透視鏡による誘導に従い、血管系を通じてカテーテルを操縦することにより、適切な血管に至る。上記コーティングを有するステントは、次いで、治療対象となる所望の部位で拡張させることができる。挿入後血管造影も、適切な位置を確認するために利用可能である。
【実施例】
【0052】
以下の実施例は、上述した本発明の種々の実施形態を説明するために提供されるものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈するべきではない。
【0053】
3種の異なった組成のPDLGA−PEG−PDLGAから形成されたコーティングを模擬使用試験に供し、続いて走査電子顕微鏡(SEM)解析、膨潤試験、及び薬剤放出プロファイル解析を行った。ポリマーの3種の組成は、D,L−ラクチド/グリコリド70:30及びPEG13質量%、30質量%、及び40質量%である。
【0054】
図1Aに、PEG13質量%で10kDのPEGを有する上記ポリマーから形成されたコーティングのSEM像を示す。
図1Bに、PEG30質量%で20kDのPEGを有する上記コポリマーから形成されたコーティングのSEM像を示す。
図1Cに、PEG40質量%で20kDのPEGを有する上記コポリマーから形成されたコーティングのSEM像を示す。PEG30質量%を有する上記コポリマーから形成されたコーティングはコーティング一体性が良好であり、PEG40質量%を有する上記コポリマーから形成されたコーティングも同様である。PEG13質量%を有する上記コポリマーから形成されたコーティングは、高応力領域において亀裂の兆候を示す。これは、コポリマーのPEG含量が比較的低く、全M
w(79,000ダルトン)が比較的低いためであろう。20kDのPEGブロックを有するブロックコポリマーにおいては、溶解(表面侵食)の兆候もある。
【0055】
ブタ血清中、1〜3日後の薬剤放出プロファイル解析も実施した。結果を
図2に示す。PEG含量の高いポリマーから形成されたコーティングはバースト放出があり、1日後に99%超の薬剤が放出された。PEG13質量%を有するポリマーから形成されたコーティングも初期放出速度が高いが、薬剤放出は、より高いPEG含量を有する2種よりも制御されている。
【0056】
これらのポリマーについて、薄いフィルムを作成し、これらのフィルムを37℃のリン酸緩衝溶液に一定時間浸漬することによって、上記コポリマーから形成されたコーティングの膨潤試験を行った。膨潤結果を以下の
図3に示す。PEG含量が高い2種の材料における大量の膨潤は、これら2種の材料でバースト放出があることを説明している。更に、PEG30%及びPEG40%の材料のフィルムは柔軟で、そのグラフの終点において小片に分解した(PEG40%の材料は2時間後に分解した)。
【0057】
本発明の特定の実施形態を示し、記述したが、そのより広い態様において本発明から逸脱することなく変更及び改良をなし得ることは当業者には明らかであろう。したがって、添付した特許請求の範囲は、本発明の真の精神及び範囲に含まれる全ての変更及び改良をその範囲の中に包含するためのものである。