(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の炭素触媒は、窒素が導入されている炭素触媒である。
さらに、導入されている窒素は、1s軌道の電子の結合エネルギーが398.5±1.0eVである第1の窒素原子と、1s軌道の電子の結合エネルギーが401±1.0eVである第2の窒素原子との、各エネルギーにおけるピークの面積の比、第1の窒素原子/第2の窒素原子の値が1.2以下であるものである。
【0015】
本発明の炭素触媒は、炭素がsp
2混成軌道により化学結合し、二次元に広がった六角網面構造を持つ炭素原子の集合体であるグラフェンが存在する。
そして、この六角網面構造に窒素原子が導入されると、ピロール型、グラフェン置換型、ピリジン型、ピリドン型の構造をとり、これによって触媒活性を示す、とされている。
ピロール型は、グラフェンの六角形から、窒素原子を含む五角形に変化したものである。
グラフェン置換型は、グラフェンの網目の隣接する六角形の境界部にある1つの炭素原子がそのまま窒素原子に置換されたものであり、窒素原子が3つの炭素原子と結合している。
ピリジン型は、グラフェンの網目の六角形の境界部でない1つの炭素原子(主として分子の外周部にある)が窒素原子に置換されたものであり、窒素原子が2つの炭素原子と結合して、六角形を構成している。
ピリドン型は、窒素原子が2つの炭素原子と結合して、六角形を構成すると共に、窒素原子と結合している1つの炭素原子に、OH基又はOが結合している。
【0016】
1s軌道の電子の結合エネルギーが398.5±1.0eVである第1の窒素原子としては、ピリジン型が含まれる。
また、1s軌道の電子の結合エネルギーが401±1.0eVである第2の窒素原子としては、ピロール型、グラフェン置換型、ピリドン型が含まれる。
【0017】
各結合エネルギーの量比をXPS(X線光電子分光観察)によって測定することにより、各エネルギーにおけるピークの面積比を計算することができる。
そして、第1の窒素原子/第2の窒素原子の比の値が1.2以下のときに、炭素触媒は高い活性を示す。より好ましくは、1.1以下である。1.2超のときは、活性が著しく低くなる。
【0018】
このことについて、
図1〜
図2を参照して、以下に補足説明する。
図1A及び
図1Bは、窒素を導入した炭素触媒の、XPSの測定により得られる、窒素原子の1s軌道の電子の結合エネルギーのスペクトルを示すものである。
図1Aは、低活性型炭素触媒の場合(従来提案されている、窒素原子を導入した炭素触媒)を示しており、
図1Bは、高活性型炭素触媒の場合(本発明の炭素触媒)を示している。
本発明では、結合エネルギーが398.5±1.0eVである範囲を第1の窒素原子とし、結合エネルギーが401.0±1.0eVである範囲を第2の窒素原子と定義している。
【0019】
第1の窒素原子は、主に
図1A及び
図1Bに太い破線で示す。
また、第2の窒素原子は、主に
図1A及び
図1Bに太い実線で示す。
なお、その他のピークとして、細い実線で示す402.7eV付近のピークがある。
【0020】
図1Aと
図1Bとを比較してわかるように、低活性型炭素触媒の場合には、第1の窒素原子がある程度多く存在しているが、高活性型炭素触媒の場合には、第1の窒素原子が少なくなり、第1の窒素原子/第2の窒素原子の比が小さくなっている。
【0021】
次に、これら、
図1A及び
図1Bに示す、各炭素触媒について、それぞれ酸素還元活性を測定した結果を、
図2に示す。
図2の縦軸は電流密度を示し、
図2の横軸は標準水素電極(NHE)に対する電圧Vを示している。
図2より、高活性型は、低活性型と比較して、電圧の変化による電流密度の変化が大きく、酸素還元活性が大きいことがわかる。
【0022】
なお、第1の窒素原子がほとんど存在せず、第2の窒素原子がほとんどである場合には、第1の窒素原子/第2の窒素原子の比の値が0に近くなるが、その場合も高い活性が得られると考えられる。
本発明の炭素触媒は、そのような第2の窒素原子がほとんどである場合も含むものである。
【0023】
さらに、本発明の炭素触媒において、炭素触媒中の表面窒素原子の含有量は表面の炭素に対して原子比で0.01以上0.3以下であることがより好ましい。窒素原子の含有量が0.01以下だと触媒活性が低く、また、0.3以上でも触媒活性が低い。
【0024】
本発明の炭素触媒には、金属又は金属の化合物が含まれていても良い。金属は炭素触媒の活性を阻害しない限り種類が限定されるものではないが、より好ましくは遷移金属であり、更に好ましくは、周期律表の3族から12族の第4周期に属する元素が挙げられる。このような遷移金属としてコバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)等が挙げられる。
なお、本発明においては、前記範囲内であれば、遷移金属以外の元素(例えば、ホウ素B等)が含まれていても良い。
【0025】
本発明の炭素触媒は、窒素を導入すること、並びに、炭素前駆体高分子を炭素化することにより、製造することができる。
窒素を導入する方法としては、窒素原子を構成元素として含む炭素前駆体高分子を用いても良いし、窒素原子を構成元素として含む炭素前駆体化合物を窒素を含まない炭素前駆体化合物に加えても良いし、炭素化後に窒素原子を導入しても良い。
また、これらの窒素を導入する方法の複数種類を組み合わせて行っても良い。
【0026】
上述のようにして炭素触媒を製造することにより、高い濃度で窒素原子を含有する炭素触媒が得られる。
形成された炭素触媒中の表面窒素原子の含有量は、前述したように、表面の炭素に対して原子比で0.01以上0.3以下が好ましい。窒素原子の含有量が0.01以下だと触媒活性が低く、また、0.3以上でも触媒活性が低い。
ここで、表面の原子含有率を測定する方法として、XPS(X線光電子分光観察)等が挙げられる。
【0027】
次に、本発明の炭素触媒の製造方法について、以下に詳細に説明する。
【0028】
まず、炭素触媒を製造するための炭素前駆体高分子については、熱硬化によって炭素化が可能な高分子材料であれば、特に限定されるものではない。
例えば、ポリアクリロニトリル、キレート樹脂、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリフルフリルアルコール、フラン樹脂、フェノール樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリイミダゾール、メラミン樹脂、ピッチ、褐炭、ポリ塩化ビニリデン、ポリカルボジイミド、リグニン、石炭、バイオマス、タンパク質、フミン酸、ポリイミド、ポリアニリン、ポリピロール、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。
【0029】
なお、炭素前駆体高分子には、熱硬化によって炭素化可能な高分子材料であれば、金属原子を含んでいても良い。
例えば、含窒素配位子重合物や、金属配位化合物等が挙げられる。
また、炭素化に不適な高分子材料であっても、架橋を促す高分子材料を混合又は共重合させることにより、本発明の炭素触媒の製造に適した炭素前駆体高分子を調製することができる。
【0030】
また、窒素原子を構成元素として含む炭素前駆体化合物を加えても良く、このような炭素前駆体化合物は、炭素化可能な化合物であれば、限定されるものではない。
例えば、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、メラミン、ピリジン、尿素、アミノ酸、イミダゾール、ピロール、インドール、キノリン、キノキサリン、アクリジン、ピリダジン、シンノリン、オキサゾール、モルホリン、カルボジイミド等を用いることができる。
【0031】
さらにまた、炭素前駆体高分子に金属又は金属の化合物を混合してもよい。金属は、炭素触媒の活性を阻害しない限り限定するものではないが、より好ましくは遷移金属であり、更に好ましくは周期律表の3族〜12族の第4周期に属する元素が挙げられる。このような遷移金属としてコバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)等が挙げられる。
また、金属の化合物としては、金属塩、水酸化物、酸化物、窒化物、硫化物、炭素化物、錯体等を用いることができ、より好ましくは塩化物、酸化物、錯体である。
【0032】
炭素前駆体高分子、又は炭素前駆体高分子−金属間化合物の形状は、炭素触媒の活性を有する限り特に限定はされない。
例えば、シート状、繊維状、ブロック状、粒子状等が挙げられる。
【0033】
次に、炭素前駆体として、熱硬化性に乏しい高分子材料を用いる場合、不融化を行うことができる。
この不融化の操作により、炭素前駆体の融点又は軟化点以上の温度であっても、樹脂の構造を維持することができる。不融化の処理は、公知の方法により行うことができる。
【0034】
炭素前駆体は、300℃以上1500℃以下、好ましくは400℃以上1200℃以下において、5分から180分、好ましくは20分から120分間保持して炭素化する。
このとき、窒素等の不活性ガス流通下で炭素化しても良い。炭素化温度が300℃未満であると炭素前駆体高分子の炭素化が不充分であり、また、1500℃を超えると炭素化が進み触媒活性が著しく低下する。
また、保持時間が5分未満では、炭素前駆体を均一に熱処理することができない。また、保持時間が180分を超えると、触媒活性が著しく低下する。
【0035】
また、炭素化後に窒素原子を導入することもできる。
このとき、窒素原子を導入する方法としては、アンモオキシデーション法、液相ドープ法、気相ドープ法、又は、気相−液相ドープ法を用いて行うことができる。例えば、炭素触媒に窒素源であるアンモニア、メラミン、アセトニトリル等を混合し、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で550℃以上1200℃以下、5分以上180分以下保持することにより、熱処理して、炭素触媒の表面に窒素原子を導入することができる。
【0036】
炭素触媒に金属が含まれている場合、必要に応じて酸又は電解処理等によって除去することもできる。
炭素化後、金属は不要となる場合がある。そのような場合、必要に応じて炭素触媒を酸又は電解処理等によって除去する。特に、燃料電池用アノード触媒として用いる場合、金属が溶出し、酸素還元活性の低下と固体高分子膜を劣化させるため、使用前に除去する必要がある。
【0037】
このようにして作られた炭素触媒は、0.65Vvs.NHE(電流密度−10μA/cm
2のとき)以上の触媒活性を有する。
【0038】
本発明の炭素触媒は、様々な用途に使用することが可能である。
例えば、燃料電池や蓄電装置(電池、電気二重層キャパシタ等)を構成したり、化学反応一般用の触媒として使用したりすることが可能である。
【0039】
本発明の炭素触媒を使用して、燃料電池を構成する場合には、固体電解質と、その固体電解質を挟んで対向配置された2つ(一対)の電極触媒とから燃料電池を構成して、2つ(一対)の電極触媒のうち少なくとも一方に本発明の炭素触媒を使用する。
【0040】
本発明の炭素触媒を使用して、蓄電装置を構成する場合には、電極材と電解質とを含んで蓄電装置を構成して、電極材に本発明の炭素触媒を使用する。
【0041】
ここで、本発明の炭素触媒を使用した燃料電池の一実施の形態の概略構成図を、
図3に示す。
この燃料電池10は、固体高分子電解質1を挟むように、対向配置された一対の電極触媒層2,3を有し、これら電極触媒層2,3のさらに外側に、それぞれ電極触媒層2,3を支持するための支持体4,5を有している。所謂、固体高分子形燃料電池(PFEC)と呼ばれている構成である。
図中左側の電極触媒層2は、アノード電極触媒層(燃料極)である。
図中右側の電極触媒層3は、カソード電極触媒層(酸化剤極)である。
【0042】
これら一対の電極触媒層2,3のうち、いずれか一方又は両方に、本発明の炭素触媒を使用して、燃料電池10を構成することができる。
【0043】
固体高分子電解質1としては、パーフルオロスルホン酸樹脂膜を代表とするフッ素系陽イオン交換樹脂膜を用いることができる。
【0044】
支持体4,5は、アノード電極触媒層2及びカソード電極触媒層3を支持すると共に、燃料ガスH
2や酸化剤ガスO
2等の反応ガスの供給・排出を行うものである。
【0045】
なお、支持体4,5は、通常、外側のセパレータ及び内側(電解質側)のガス拡散層により構成されるが、炭素触媒の性状によっては、ガス拡散層を不要としてセパレータのみにより支持体を構成することが可能になる。例えば、比表面積が大きく、さらに、気体の拡散性が高い炭素触媒を電極触媒層に使用することにより、触媒層がガス拡散層の機能をも兼ねるため、ガス拡散層を省略することが可能になる。
セパレータは、例えば、反応ガスを通すための溝を形成した樹脂により、構成することができる。
ガス拡散層は、例えば、多孔質のシート(例えば、カーボンペーパー)により、構成することができる。このガス拡散層は、集電体としての機能も有している。
【0046】
本実施の形態の燃料電池10は、上述のように構成されているので、以下に説明するように動作する。
アノード電極触媒層2及びカソード電極触媒層3にそれぞれ反応ガス(燃料ガスH
2、酸化剤ガスO
2)が供給されると、両電極触媒層2,3に備えられた炭素触媒と固体高分子電解質1との境界において、気相(反応ガス)、液相(固体高分子電解質膜)、固相(両電極が持つ触媒)の三相界面が形成される。
このとき、電気化学反応を生じさせることによって、直流電力が発生する。
【0047】
上記電気化学反応において、
アノード側:H
2→2H
++2e
−
カソード側:O
2+4H
++4e
−→2H
2O
の反応が起こり、アノード側で生成されたH
+イオンは固体高分子電解質1中をカソード側に向かって移動し、e
−(電子)は外部の負荷を通ってカソード側に移動する。
一方、カソード側では酸化剤ガス中に含まれる酸素と、アノード側から移動してきたH
+イオン及びe
−とが反応して水が生成される。
この結果、燃料電池10は、水素と酸素とから直流電力を発生し、水を生成することになる。
【0048】
本実施の形態の燃料電池10は、従来公知の固体高分子形燃料電池(PFEC)と同様にして、製造することができる。
例えば、本発明の炭素触媒を、アノード電極触媒層2及びカソード電極触媒層3として固体高分子電解質1の両主面に形成して、固体高分子電解質1の両主面にホットプレスにより密着させることにより、MEA(Membrane Electrode Assembly)として一体化させることが可能である。
【0049】
上述の実施の形態の燃料電池10の構成によれば、アノード電極触媒層2及びカソード電極触媒層3の少なくとも一方に、高い活性を有する本発明の炭素触媒を使用するので、高い性能を有する燃料電池10を、白金触媒を使用した場合よりも充分に安いコストで実現することが可能になる。
【0050】
上述の実施の形態の燃料電池10は、本発明の燃料電池を固体高分子形燃料電池(PFEC)に適用した場合であった。
本発明の燃料電池は、炭素触媒を使用することが可能な燃料電池であれば、固体高分子形燃料電池(PFEC)に限らず、その他の種類の燃料電池にも適用することが可能である。
【0051】
次に、本発明の炭素触媒を使用した蓄電装置の一実施の形態として、電気二重層キャパシタの概略構成図を、
図4に示す。
この電気二重層キャパシタ20は、セパレータ23を介して、分極性電極である第1の電極21及び第2の電極22が対向し、外装蓋24aと外装ケース24bの中に収容されて成る。
第1の電極21及び第2の電極22は、それぞれ集電体25を介して、外装蓋24aと外装ケース24bに接続されている。
また、セパレータ23には、電解液が含浸されている。
そして、ガスケット26を介して電気的に絶縁させた状態で、外装蓋24aと外装ケース24bとがかしめられることによって、内部が密封されている。
【0052】
本実施の形態の電気二重層キャパシタ20において、本発明の炭素触媒を、第1の電極21及び/又は第2の電極22に適用することができる。そして、電極材に炭素触媒が適用された電気二重層キャパシタを構成することができる。
【0053】
本発明の炭素触媒は、電解液に対して電気化学的に不活性であり、適度な電気導電性を有する。
このため、キャパシタの電極として適用することにより、電極の単位体積当たりの静電容量を向上させることができる。
【0054】
また、上述の実施の形態の電気二重層キャパシタ20と同様に、例えば、リチウムイオン二次電池の負極材等のように、炭素材料から構成される電極材として、本発明の炭素触媒を使用することができる。
【0055】
次に、本発明の炭素触媒を、白金等の貴金属を含む環境触媒の代替品として使用する場合について、説明する。
汚染空気に含まれる汚染物質を(主にガス状物質)等を分解処理により除去するための排ガス浄化用触媒として、白金等の貴金属系の材料が単独又は複合化物とされて構成された触媒材料による環境触媒が用いられている。
これらの白金等の貴金属を含む排ガス浄化用触媒の代替品として、本発明の炭素触媒を使用することができる。
これにより、白金等の高価な貴金属類を使用する必要がないため、低コストの環境触媒を提供することができる。また、比表面積が大きいことにより、単位体積あたりの被処理物質を分解する処理面積を大きくすることができ、単位体積当たりの分解機能が優れた環境触媒を構成できる。
【0056】
なお、本発明の炭素触媒を担体として、従来の環境触媒に使用されている白金等の貴金属系の材料が単独又は複合化物を担持させることにより、より分解機能等の触媒作用に優れた環境触媒を構成することができる。
なお、本発明の炭素触媒を備える環境触媒は、上述の排ガス浄化用触媒だけでなく、水処理用の浄化触媒として用いることもできる。
【0057】
本発明の炭素触媒は、広く一般の化学反応用の触媒としても使用することができる。
特に、白金等の貴金属を含む、化学工業用の一般的なプロセス触媒の代替品としても使用することができる。
【0058】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【0059】
<実施例>
窒素が導入された炭素触媒を、実際に作製して、その特性を調べた。
【0060】
(実施例1)
〔窒素化合物及びコバルト化合物添加ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体(PAN−co−PMA)の調製〕
ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体(以下、PAN−co−PMAとする)1.5gを、ジメチルホルムアミド20gに溶解させた。その後、塩化コバルト六水和物1.5gと、2−メチルイミダゾール1.5gとを加え、2時間攪拌して青色溶液を得た。
次に、この青色溶液を60℃で真空乾燥して、窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAを得た。
【0061】
〔不融化処理〕
次に、不融化処理を行った。
まず、得られた窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAを、強制循環式乾燥機内にセットした。
そして、空気雰囲気下で、30分間で室温から150℃まで昇温し、続いて2時間かけて150℃〜220℃まで昇温し、220℃でそのまま3時間保持した。
このようにして、不融化処理を行った。
【0062】
〔炭素化処理〕
次に、炭素化処理を行った。
まず、不融化処理した窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAを石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、20分間窒素パージし、1.5時間かけて室温から900℃まで昇温した。
その後、900℃で1時間保持した。
このようにして、窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAの炭素化処理を行った。
【0063】
〔粉砕処理〕
炭素化処理を行った後に、粉砕処理を行った。
まず、炭素化処理を行った窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAを、遊星ボールミル(フリッチュ製;P−7)内に1.5mmΦのジルコニアボールと共にセットした。
そして、回転速度800rpmで、5分間粉砕処理を行った。
その後、遊星ボールミルから取り出して、目開き105μmの篩にかけた。この篩を通過したものを、実施例1の試料とした。
【0064】
(実施例2)
PAN−co−PMAとする1.5gを、ジメチルホルムアミド20gに溶解させた。その後、塩化コバルト六水和物0.75gと、2−メチルイミダゾール0.75gとを加え、2時間攪拌して青色溶液を得た。
次に、この青色溶液を60℃で真空乾燥して、窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAを得た。
得られた窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAに対して、不融化処理以降の工程を実施例1と同様に行い、炭素触媒を得て、実施例2の試料とした。
【0065】
(実施例3)
PAN−co−PMAとする1.5gを、ジメチルホルムアミド20gに溶解させた。その後、塩化コバルト六水和物1.5gと、2−メチルイミダゾール0.75gとを加え、2時間攪拌して青色溶液を得た。
次に、この青色溶液を60℃で真空乾燥して、窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAを得た。
得られた窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAに対して、不融化処理以降の工程を実施例1と同様に行い、炭素触媒を得て、実施例3の試料とした。
【0066】
(実施例4)
〔コバルト化合物添加ポリベンゾイミダゾールの調製〕
ポリベンゾイミダゾール1.5gを、ジメチルアセトアミド20gに溶解させた。その後、塩化コバルト六水和物1.5gを加え、2時間攪拌して青色溶液を得た。
次に、この青色溶液を60℃で真空乾燥して、コバルト化合物添加ポリベンゾイミダゾールを得た。
【0067】
〔不融化処理〕
次に、不融化処理を行った。
まず、得られたコバルト化合物添加ポリベンゾイミダゾールを、強制循環式乾燥機内にセットした。
そして、空気雰囲気下で、30分間で室温から150℃まで昇温し、続いて2時間かけて150℃〜220℃まで昇温し、220℃でそのまま3時間保持した。
【0068】
〔炭素化処理〕
次に、炭素化処理を行った。
まず、不融化処理したコバルト化合物添加ポリベンゾイミダゾールを石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、20分間窒素パージし、1.5時間かけて室温から900℃まで昇温した。
その後、900℃で1時間保持した。
このようにして、コバルト化合物添加ポリベンゾイミダゾールの炭素化処理を行って、炭素触媒を得た。
【0069】
〔窒素導入処理〕
炭素化処理して得られた炭素触媒を石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、20分間窒素ガスをパージし、20分間かけて室温から600℃まで昇温した後、アンモニアガス:Airガス=7:3の混合ガスに置換し600℃でそのまま2時間保持し、窒素を導入した。
【0070】
〔粉砕処理〕
窒素導入処理を行った後に、粉砕処理を行った。
まず、炭素化処理を行ったコバルト化合物添加ポリベンゾイミダゾールを、遊星ボールミル(フリッチュ製;P−7)内に1.5mmΦのジルコニアボールと共にセットした。
そして、回転速度800rpmで、5分間粉砕処理を行った。
その後、遊星ボールミルから取り出して、目開き105μmの篩にかけた。この篩を通過したものを、実施例4の試料とした。
【0071】
(比較例1)
フルフリルアルコール(和光純薬工業(株)製)10gにメタノール(和光純薬工業(株)製)100mlを混合して混合溶液を調製し、この混合溶液に、コバルトフタロシアニン錯体(和光純薬工業(株)製)2.090gと、メラミン(和光純薬工業(株)製)7.499g加え、常温下でマグネチックスターラを用いて1時間撹拌した。
この混合物に、超音波を照射しながらロータリエバポレータを用いて60℃で溶媒を除去した。
その後、シャーレに移して、圧力0.1MPa及び温度80℃の窒素ガス雰囲気中に24時間保持して重合反応させて、コバルトフタロシアニン錯体及びメラミンを含有するポリフルフリルアルコール(炭素前駆体高分子)を合成した。
得られた炭素前駆体高分子に対して、炭素化処理以降の工程を実施例1と同様に行い、炭素触媒を得て、比較例1の試料とした。
【0072】
(比較例2)
比較例1の炭素触媒を用いて、さらに、アンモオキシデーション法により窒素を導入した。
比較例1の炭素触媒を石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、20分間窒素ガスをパージし、20分間かけて室温から600℃まで昇温した後、アンモニアガス:Airガス=7:3の混合ガスに置換し600℃でそのまま2時間保持した。
このようにして、得られた炭素触媒を、比較例2の試料とした。
【0073】
(比較例3)
導電性の高い炭素材料である、ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製)を用いて、これを比較例3の試料とした。
【0074】
(比較例4)
ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製)を用いて、アンモオキシデーション法により窒素を導入した。
即ち、ケッチェンブラックEC600JDを石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、20分間窒素ガスをパージし、20分間かけて室温から600℃まで昇温した後、アンモニアガス:Airガス=7:3の混合ガスに置換し600℃でそのまま2時間保持した。
このようにして、比較例4の試料を作製した。
【0075】
(比較例5)
導電性の高い炭素材料である、バルカンXC−72R(エレクトロケム社製)を用いて、これを比較例5の試料とした。
【0076】
(比較例6)
バルカンXC−72R(エレクトロケム社製)を用いて、アンモオキシデーション法により窒素を導入した。
即ち、バルカンXC−72Rを石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、20分間窒素ガスをパージし、20分間かけて室温から600℃まで昇温した後、アンモニアガス:Airガス=7:3の混合ガスに置換し600℃でそのまま2時間保持した。
このようにして、比較例6の試料を作製した。
【0077】
<特性の評価>
作製した各実施例及び各比較例の試料について、以下に説明するようにして、特性の測定を行った。
【0078】
(X線光電子分光観察(XPS))
Perkin Elmer社製ESCA5600を用いて、各試料についてXPS測定を行った。
【0079】
(表面の窒素原子の炭素原子に対する比)
XPS測定により得られたスペクトルの各ピークの面積と検出感度係数から、窒素、炭素、酸素の表面元素濃度を求めて、これにより、表面の窒素原子の炭素原子に対する比(窒素/炭素)の比の値を算出した。
【0080】
(第1の窒素原子/第2の窒素原子)
XPS測定により得られたスペクトルの各ピークの面積から、ピークの面積比(第1の窒素原子/第2の窒素原子)を算出した。
【0081】
(酸素還元に関する電極活性試験)
酸素還元に関する電極活性を、3極回転電極セルを用いて測定した。
さらに、測定して得られた電極活性から、ボルタモグラム(
図2に示したような、電圧と電流密度の関係)を作成した。
そして、このボルタモグラムから、電流密度が−10
−2mA/cm
2の電圧を求めて、この電圧をEo2とし、電圧が0.7Vvs.NHEのときの還元電流密度を求めて、この還元電流密度を酸素還元活性値とした。
【0082】
各試料の測定結果として、Eo2、酸素還元活性値、表面の窒素原子と炭素原子との比、第1の窒素原子の第2の窒素原子に対する比を、それぞれ表1に示す。
【0084】
図2からもわかるように、高活性型炭素触媒は、低活性型炭素触媒と比較して、Eo2が大きく、また、酸素還元活性値(ある電圧における電流密度の絶対値)も大きくなる。
【0085】
表1より、実施例1〜実施例4の試料は、各比較例の試料よりも、Eo2及び酸素還元活性値が大きくなっており、活性が高いことがわかる。
そして、表1より、実施例1の試料は、表面の窒素原子と炭素原子との比が大きいだけでなく、第1の窒素原子の第2の窒素原子に対する比が0.65と、各比較例の試料よりも充分に小さくなっている。
また、実施例2、実施例3及び実施例4の試料は、表面の窒素原子と炭素原子との比が大きいだけでなく、第1の窒素原子の第2の窒素原子に対する比が1.11、0.82及び1.16と、各比較例の試料よりも小さくなっている。
さらに、実施例1〜実施例3は出発材料の窒素のみで触媒としており、実施例4は炭素化後にさらに窒素を導入しているが、共に高い窒素含有量と活性が得られている。
【0086】
一方、比較例3及び比較例5の結果から、窒素を導入していないと活性が低いことがわかる。
また、比較例2、比較例4、比較例6の結果から、窒素を導入すると、導入していないものと比較して活性が向上するが、単に導入しただけでは、実施例1のような高い活性は得られていないことがわかる。
比較例6の試料は、表面の窒素原子と炭素原子との比が大きいが、第1の窒素原子の第2の窒素原子に対する比が1.42と大きくなっており、Eo2及び酸素還元活性値が、実施例1の試料と比較して遥かに小さくなっている。
即ち、単に導入する窒素原子を多くするだけでは、活性の向上につながるとは限らない、ということである。
【0087】
従って、各実施例の試料のように、表面の窒素原子と炭素原子との比が大きいだけでなく、第1の窒素原子の第2の窒素原子に対する比が小さい構成とすることにより、高い活性が得られることがわかる。