(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732668
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】ローラコンベア装置及びローラ同士の間で動力を伝動する動力伝動構造
(51)【国際特許分類】
B65G 13/071 20060101AFI20150521BHJP
B65G 39/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
B65G13/071 A
B65G39/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-123391(P2010-123391)
(22)【出願日】2010年5月28日
(65)【公開番号】特開2011-246267(P2011-246267A)
(43)【公開日】2011年12月8日
【審査請求日】2013年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】592026819
【氏名又は名称】伊東電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】伊東 一夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】横田 圭祐
【審査官】
大野 明良
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−070366(JP,A)
【文献】
特開平06−042592(JP,A)
【文献】
特開2010−053992(JP,A)
【文献】
特表2007−517747(JP,A)
【文献】
特開平09−035367(JP,A)
【文献】
実開平04−034545(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0044158(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 13/00−13/12
B65G 39/00−39/20
F16G 1/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔をおいて並べて配置されたローラの、ローラ同士の間で動力を伝動する動力伝動構造において、ローラは金属製であって中空のローラ本体を有し、当該ローラ本体の表面側にはローラ本体自身を塑性変形させて作られた環状の溝が複数列設けられており、隣接するローラの前記溝同士に環状のベルトが懸架され、当該ベルトは抗張体が無く長手方向に弾性を有し、当該ベルトの断面形状は、円弧状に突出した複数の突出部と突出部同士を接続する連結部を有するものであり、突出部の中心間の距離がベルトの全高の1.5倍以上であり、連結部の突出部側の断面形状は円弧状であって当該円弧の半径は突出部の円弧の半径よりも大きいことを特徴とするローラ同士の間で動力を伝動する動力伝動構造。
【請求項2】
突出部の形状は、90度から200度程度の開き角度を持つ扇形であり、突出部の中心間の距離がベルトの全高の1.8倍以上であり、連結部の円弧の半径は突出部の円弧の半径よりも18パーセントから25パーセント大きいことを特徴とする請求項1に記載のローラ同士の間で動力を伝動する動力伝動構造。
【請求項3】
熱可塑性樹脂で作られた直線状のベルトの両端が融着されて環状に結合されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のローラ同士の間で動力を伝動する動力伝動構造。
【請求項4】
内部にモータが内蔵されていてローラ本体が回転するモータ内蔵ローラと、空転ローラを有し、モータ内蔵ローラと、空転ローラが所定の間隔をおいて配置されてなるローラコンベア装置において、前記モータ内蔵ローラと空転ローラとの間、及び/又は空転ローラ同士の間が請求項1乃至3のいずれかに記載の動力伝動構造によって動力伝動されることを特徴とするローラコンベア装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラコンベア装置及び、ローラコンベア装置に採用することが望ましい動力伝動構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場等の搬送ラインや、宅配便等の仕分け場では、ローラコンベア装置が多用されている。
ローラコンベア装置は、フレームに複数のローラが並列に設置されたものである。即ちローラコンベア装置は、長尺状の取付け部材が平行に配されたフレームを有し、取付け部材間にローラが平行に設置されたものである。旧来のローラコンベア装置は、外付けのモータによってローラを回転させる構造が主流であったが、近年では、モータ内蔵ローラを使用するローラコンベア装置が多い。
【0003】
ここでモータ内蔵ローラは、中空のローラ本体を有し、当該ローラ本体内にモータと減速機が内蔵されており、内部のモータによってローラ本体自体を回転させる構造を持つ。
【0004】
モータ内蔵ローラを使用したローラコンベア装置100では、
図8の様にモータ内蔵ローラ2と、空転ローラ3とを混在させてフレーム5に取り付けられている。
そしてモータ内蔵ローラ2と両隣の空転ローラ3間にベルトA,Bが懸架され、空転ローラ3がモータ内蔵ローラ2の回転力を受けて回転される。
さらに当該空転ローラ3とこれに隣接する空転ローラ3との間にもベルトC,Dが懸架されて、隣接する空転ローラ3が回転させる。
こうしてモータ内蔵ローラ2と空転ローラ3とが順次ベルトA,B,C,Dで結合され、全てのローラが回転される。
【0005】
従来技術においては、ベルトA,B,C,Dを懸架するプーリは、ローラ本体とは別途に成形されたものが使用されていた。即ち切削加工や射出成形によってプーリを成形し、当該プーリをローラ本体に装着し、プーリにベルトを懸架していた。
また他の方策として、ローラ本体を絞り加工して環状の溝を形成し、当該溝をプーリとしてベルトを懸架させる場合もあった。
従来技術で使用されていたベルトは、
図9の様な公知の丸ベルト101または
図10の様な公知のVリブドベルト102である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−6526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
切削加工等によって成形されたプーリを使用する構成は、動力の伝動効率が高く、性能がよい。しかしながら、プーリの成形や、ローラ本体に対するプーリの取り付けに手間がかかり、高コストである。
これに対してローラ本体を絞り加工して溝を設ける構造は、製造コストが低いものの、動力伝動効率が劣るという問題がある。
即ち絞り加工によって形成される溝は、シャープさに欠ける。即ち丸ベルト101やVリブドベルト102は、断面形状がV形の溝と係合することによって楔効果を発揮し、高い動力伝動効率を発揮するが、絞り加工によって形成される溝は、丸みを帯びた形状となってしまい、楔効果が低い。
またVリブドベルト102を使用する場合には、複数の溝を形成し、複数の溝にリブを係合させる必要があるが、絞り加工によって形成される溝は、溝同士の間隔についても寸法精度が低い。
そのためVリブドベルト102が正規の姿勢で溝と係合せず、いわゆる片当たり状態となる。
また前記した様に丸ベルト101を使用する場合には、動力伝動効率が低い。
【0008】
そこで本発明は、従来技術の上記した問題点に注目し、ローラ本体を例えば絞り加工して組成変形させた溝を利用して動力を伝動するものであり、効率の高い動力伝動構造を提案するものである。
また同様の課題を解決するローラコンベア装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、所定の間隔をおいて並べて配置されたローラの、ローラ同士の間で動力を伝動する動力伝動構造において、ローラは金属製であって中空のローラ本体を有し、当該ローラ本体の表面側にはローラ本体自身を塑性変形させて作られた環状の溝が複数列設けられており、隣接するローラの前記溝同士に環状のベルトが懸架され、
当該ベルトは抗張体が無く長手方向に弾性を有し、当該ベルトの断面形状は、円弧状に突出した複数の突出部と突出部同士を接続する連結部を有するものであり、突出部の中心間の距離がベルトの全高の1.5倍以上であ
り、連結部の突出部側の断面形状は円弧状であって当該円弧の半径は突出部の円弧の半径よりも大きいことを特徴とするローラ同士の間で動力を伝動する動力伝動構造である。
【0010】
本発明の動力伝動構造で採用するベルトは、その断面形状が、円弧状に突出した複数の突出部と突出部同士を接続する連結部を有するものである。
本発明の動力伝動構造では、ベルトの突出部がローラ本体の環状の溝と係合する。本発明で採用するベルトは、突出部の中心間の距離がベルトの全高の1.5倍以上であり、長い。そのため溝同士の間隔が多少突出部の中心間の距離と異なっていても、ベルトの幅方向の弾性や、弛み等で距離の相違が吸収される。
そのため本発明の動力伝動構造は、動力伝動効率が高く、空転ローラを高トルクで回転させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、
突出部の形状は、90度から200度程度の開き角度を持つ扇形であり、突出部の中心間の距離がベルトの全高の1.8倍以上であり、
連結部の円弧の半径は突出部の円弧の半径よりも18パーセントから25パーセント大きいことを特徴とする請求項1に記載のローラ同士の間で動力を伝動する動力伝動構造である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、熱可塑性樹脂で作られた直線状のベルトの両端が融着されて環状に結合されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のローラ同士の間で動力を伝動する動力伝動構造である。
【0013】
本発明の動力伝動構造によると、ローラ同士の間隔に応じてベルトの周長を変えることが可能であり、汎用性が高い。
【0014】
またローラコンベア装置に関する発明は、内部にモータが内蔵されていてローラ本体が回転するモータ内蔵ローラと、空転ローラを有し、モータ内蔵ローラと、空転ローラが所定の間隔をおいて配置されてなるローラコンベア装置において、前記モータ内蔵ローラと空転ローラとの間、及び/又は空転ローラ同士の間が請求項1乃至3のいずれかに記載の動力伝動構造によって動力伝動されることを特徴とする。
【0015】
本発明のローラコンベア装置は、空転ローラを高トルクで回転させることができるので、重い搬送物であっても円滑に搬送することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のローラ同士の間で動力を伝動する動力伝動構造は、動力伝動効率が高いという効果がある。また本発明の動力伝動構造は別途のプーリを必要としない。
さらに本発明のローラコンベア装置は、部品点数が少なく低コストで製造することができ、且つ空転ローラを高トルクで回転させることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態のローラコンベア装置の要部を示す斜視図である。
【
図2】
図1のローラコンベア装置で使用するベルトの断面斜視図である。
【
図5】(a)(b)(c)は、ベルトを環状に接続する工程を示す説明図である。
【
図6】ローラ本体の溝同士の間隔がベルトの突出部の間隔よりも広い場合のベルトの係合状態を示す断面図である。
【
図7】ローラ本体の溝同士の間隔がベルトの突出部の間隔よりも狭い場合のベルトの係合状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下さらに本発明の実施形態について説明する。
本実施形態のローラコンベア装置7の外観は、従来技術と同一であり、
図1,8の様にモータ内蔵ローラ2と、空転ローラ3とを混在させてフレーム5に平行に取り付けられたものである。そしてモータ内蔵ローラ2と両隣の空転ローラ3間にベルトA,Bが懸架され、空転ローラ3がモータ内蔵ローラ2の回転力を受けて回転される。
さらに当該空転ローラ3とこれに隣接する空転ローラ3との間にもベルトC,Dが懸架されて、隣接する空転ローラ3が回転される。
こうしてモータ内蔵ローラ2と空転ローラ3とが順次ベルトA,B,C,Dで結合され、全てのローラが回転される。
【0019】
本実施形態で採用されているベルト1(A,B,C,D)は、
図2の様な異形断面の樹脂ベルトでる。
即ちベルト1は、円弧状に突出した二つの突出部10と突出部11同士を接続する連結部12を有するものである。
突出部10の形状は、90度から200度程度、より好ましくは、120度から180度の開き角度アルファ(α)を持つ扇形である。突出部10,11の中心軸X同士の距離Wは、ベルト1の全高Hの1.5倍以上であり、より好ましくは、1.8倍以上、もっとも好ましい範囲は、1.9倍から2.1倍である。
【0020】
連結部12の上面は、略平坦である。これに対して連結部12の下面の断面形状は、円弧状である。
連結部12の下面を構成する円弧の半径Rは、突出部10の円弧の半径rよりも大きい。より具体的には、下面を構成する円弧の半径Rは、突出部10の円弧の半径rよりも10パーセント以上大きい。より好ましくは、下面を構成する円弧の半径Rは、突出部10の円弧の半径rよりも18パーセントから25パーセント程度大きい。
【0021】
ベルト1は、熱可塑性ウレタン等の熱可塑性樹脂で作られている。ベルト1は、押し出し成形によって作られており、抗張体は無い。
【0022】
モータ内蔵ローラ2及び空転ローラ3は、いずれも中空のローラ本体20を有し、その周囲に絞り加工によって2組4条の溝21,22,23,25が形成されたものである。即ち空転ローラ3は、金属製の筒であり、当該筒を組成変形させて溝21,22,23,25を形成している。
【0023】
溝は、二つの溝21,22が一組となった第1組30と、他の二つの溝23,25が一組となった第2組31に分かれている。
各溝21,22,23,25の形状は、それぞれベルト1の突出部10の形状及び寸法と等しい。また各組30,31の溝21,22,23,25同士の間は、円弧で結ばれている。当該円弧の直径は、連結部12の下面を構成する円弧の半径Rと略等しい。
従ってベルト1が各組30,31の溝21,22,23,25に係合した状態では、
図4の様に、ベルト1の突出部10だけでなく、連結部12の下面についてもローラ本体20の表面と接する。
【0024】
またベルト1は、長手方向に弾性を持っているから、自己の弾性力によって適度の張力が維持される。
さらにベルト1は、幅方向にもある程度の弾性力があり、特に連結部12の下面が円弧状であって撓みやすいから、各組30,31の溝21,22,23,25同士の間隔が多少、ベルト1の突出部10の中心軸X同士の距離Wと合わなくても、動力伝達効率が顕著に下がることはない。
【0025】
例えば各組30,31の溝21,22,23,25同士の間隔が、ベルト1の突出部10の中心軸X同士の距離Wよりも広い場合には、
図6の様にベルト1の上面が僅かに凹状に湾曲し、突出部10,11と溝21,22,23,25との係合を維持する。
逆に各組30,31の溝21,22,23,25同士の間隔が、ベルト1の突出部10の中心軸X同士の距離Wよりも狭い場合には、
図7の様にベルト1の上面が僅かに凸状に湾曲し、突出部10と溝21,22,23,25との係合を維持する。
【0026】
本実施形態のベルト1は、熱可塑性樹脂の押し出し成形で作られる。具体的には、ベルト1の断面形状を有するダイを使用し、公知の押し出し成形によって
図5(a)の様な長尺状のベルト35を成形する。そして当該ベルト35を任意に長さに切断し、
図5(b)の様にヒータ36に両端面を押し当て、両端面を加熱して半溶融状態とする。その後、
図5(c)の様に端部同士を当接し、冷却して環状に接続する。この様に、ベルト1は、熱可塑性樹脂で作られた直線状のベルト35の両端が融着されて環状に結合されたものである。
【0027】
上記した実施形態では、2個の突出部10,11を有するベルト1を例示したが、突出部の数は任意であり、3個以上であっても構わない。
またベルト1の素材についても任意であり、ウレタン等の熱硬化性樹脂やゴムを利用することもできる。
【0028】
また上記した実施形態のローラコンベア装置7は、直線状に搬送物を搬送するものであり、各ローラが平行に配置されているが、曲部に設けられるローラコンベアの様に、各ローラが所定の角度を有して配列された構造のものにも本発明を適用することができる。
【実施例】
【0029】
本発明の実施例として、
図2,3の様に二つの突出部10,11が連結部12によって結合されたベルト1(異形ベルト)を試作した。
突出部10,11の円弧の半径rは、2.5mmであり、連結部12の下面を構成する円弧の半径Rは、3mmである。即ち、連結部12の下面を構成する円弧の半径Rは、突出部10の円弧の半径rよりも20パーセント大きい。
突出部10の中心軸X同士の距離Wは、ベルト1の全高Hの2倍である。
【0030】
当該ベルト1をモータ内蔵ローラ2と空転ローラ3との間に懸架し、接線力からトルクの伝達効率を測定した。
また比較例として、丸ベルト101(2本がけ)による伝動とVリブドベルト102による動力伝動を行った。なおVリブドベルト102による動力伝動の際には、モータ本体は、実施例のそれではなく、別途成形したプーリを取り付けたものを利用した。
結果は、次の表の通りであった。
尚、表中「異形ベルト」が本実施形態のベルト1である。
【0031】
【表1】
【0032】
表から明らかな様に、本実施形態の動力伝動構造は、丸ベルトを使用したものに対して顕著に高い伝動効率を発揮する。また、本実施形態のベルト1は、Vリブドベルト102に匹敵する伝動効率を発揮する。
【符号の説明】
【0033】
1 ベルト
2 モータ内蔵ローラ
3 空転ローラ
5 フレーム
7,100 ローラコンベア装置
10,11 突出部
12 連結部
20 ローラ本体
21,22,23,25 溝