特許第5732672号(P5732672)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732672
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】塗料組成物、塗膜、及び塗装鋼板
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20150521BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20150521BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20150521BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20150521BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20150521BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D7/12
   C09D5/08
   C09D163/00
   C09D167/00
   C09D175/04
【請求項の数】13
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2011-205983(P2011-205983)
(22)【出願日】2011年9月21日
(65)【公開番号】特開2013-67699(P2013-67699A)
(43)【公開日】2013年4月18日
【審査請求日】2014年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】314014405
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(73)【特許権者】
【識別番号】503234872
【氏名又は名称】日本ファインコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】奥村 美明
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀人
(72)【発明者】
【氏名】古森 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】戸崎 洋一
(72)【発明者】
【氏名】石原 浩光
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−222833(JP,A)
【文献】 特開2002−030460(JP,A)
【文献】 特開2008−291160(JP,A)
【文献】 特開2011−052213(JP,A)
【文献】 特開2010−001477(JP,A)
【文献】 特開2010−270373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 5/08
C09D 7/12
C09D 163/00
C09D 167/00
C09D 175/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成性樹脂(a)と、架橋剤(b)と、1質量%水溶液の温度25℃における電導度が200μS/cm〜2000μS/cmとなるバナジン酸カルシウム及びバナジン酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のバナジウム化合物(c)と、防錆促進剤(d)とを含有する塗料組成物であって、
記バナジウム化合物(c)の合計含有量は前記塗膜形成性樹脂(a)の固形分及び前記架橋剤(b)の固形分の合計100質量部に対して5〜150質量部であり、
前記防錆促進剤(d)は水溶性化合物(d−1)及びキレート形成化合物(d−2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、前記防錆促進剤(d)の合計含有量は前記塗膜形成性樹脂(a)の固形分及び前記架橋剤(b)の固形分の合計100質量部に対して1〜150質量部であり、
前記水溶性化合物(d−1)は1質量%水溶液の温度25℃における電導度が2000μS/cmを超え15000μS/cm以下となる化合物であり、かつ前記水溶性化合物(d−1)はアルカリ土類金属の水酸化物、バナジン酸化合物、及びセリウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、
前記キレート形成化合物(d−2)は、複数の配位部位を有し、これらの配位部位が1つの金属イオンに配位される化合物である、塗料組成物。
【請求項2】
前記バナジン酸カルシウムは、カルシウム塩とバナジン酸塩とを水中で混合し、反応させることによって得られたものであり、前記バナジン酸マグネシウムは、マグネシウム塩とバナジン酸塩とを水中で混合し、反応させることによって得られたものである請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記水溶性化合物(d−1)が、水酸化カルシウム、バナジン酸カルシウム、バナジン酸アンモニウム、バナジン酸カリウム、バナジン酸ナトリウム、及び硫酸セリウム(III)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記キレート形成化合物(d−2)が、ヒドロキシカルボン酸化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記ヒドロキシカルボン酸化合物が、クエン酸カルシウム、クエン酸アンモニウム、クエン酸マグネシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、及び酒石酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項4に記載の塗料組成物。
【請求項6】
シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、及びジルコニウム系カップリング剤、フタル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である密着性向上成分をさらに含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項7】
炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、マイカ、及びシリカからなる群から選ばれる少なくとも1種の体質顔料をさらに含有し、
前記体質顔料の含有量が、前記塗膜形成性樹脂(a)の固形分及び前記架橋剤(b)の固形分の合計100質量部に対して1〜40質量部である請求項1〜6のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項8】
前記塗膜形成性樹脂(a)は、数平均分子量が2000〜10000であり、ガラス転移温度が60〜120℃である水酸基含有エポキシ樹脂、及び/又は数平均分子量が2000〜30000であり、ガラス転移温度が0〜80℃である水酸基含有ポリエステル樹脂を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項9】
前記架橋剤(b)は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を活性水素含有化合物でブロックしたブロックポリイソシアネート化合物、及び/又はメチロール基若しくはイミノ基を1分子中に平均して1つ以上有するアミノ樹脂を含み、
前記架橋剤(b)の固形分の含有量が、前記塗膜形成性樹脂(a)の固形分100質量部に対して10〜80質量部である請求項1〜8のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項10】
前記ブロックポリイソシアネート化合物が芳香族ポリイソシアネート化合物である請求項9に記載の塗料組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の塗料組成物を用いて形成された塗膜。
【請求項12】
35℃の5%食塩水中で1時間湿潤させた後の塗膜の直流抵抗値が10〜1012Ω・cmである請求項11に記載の塗膜。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の塗料組成物を用いて形成された塗膜を有する塗装鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物、この塗料組成物を用いて形成されてなる塗膜、及びこの塗料組成物を用いて形成されてなる塗膜を有する塗装鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板やメッキ鋼板を基材として塗装を施した塗装鋼板は、プレコートメタルとも呼ばれ、エアコンの室外機、給湯器の家電外装品、屋根、壁等の外装用建材等、種々の用途に用いられている。
【0003】
亜鉛めっき鋼板を含む塗装鋼板には、耐食性を向上させて発錆を防ぐために、通常、防錆塗料がその表面に塗装される。従来、防錆塗料としてはクロム含有塗料を使用することが一般的であった。クロム含有塗膜を形成することにより、錆の発生を抑制することができる。しかしながらクロムは、環境への悪影響が懸念され、その使用が制限されつつある。そこで、クロム化合物以外の防錆剤としてバナジン酸金属塩等のバナジウム化合物を含有する塗料がこれまで種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1及び2には、クロムを含有しない防錆顔料として、リン酸イオンを放出する化合物とバナジン酸イオンを放出する化合物とを組み合わせた防錆顔料を用いることが開示されている。しかし、当該クロムを含有しない防錆顔料から形成された塗膜は、室外機等の屋外用途への適用に対して耐食性が十分でない等の問題を有している。
【0005】
また、特許文献3及び4には、クロムを含有しない防錆顔料として、(1)バナジウム化合物、(2)金属珪酸塩等、及び(3)リン酸系金属塩からなる防錆顔料を含有する防錆塗料組成物が開示されている。しかしながら、これらの防錆塗料組成物についても、特許文献1及び2で開示されている防錆塗料と同様、屋外用途への適用に対して耐食性が十分でなく、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平5−50444号公報
【特許文献2】特許第3461741号公報
【特許文献3】特許第4323530号公報
【特許文献4】特開2009−227748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
防錆塗料組成物の耐食性を向上させるための手段として、防錆顔料であるバナジウム化合物の含有量を増加させることが有効である。しかしながら、バナジウム化合物、特にバナジン酸の1価あるいは2価のカチオン塩は水溶性が高いため、多量に含有させると、塗膜が吸湿しやすくなる。その結果、塗膜の耐湿性が低下して、塗膜にフクレが生じるという問題があった。このような塗膜のフクレは、耐食性低下の原因ともなる。
【0008】
上記特許文献1〜4に記載の防錆顔料は、複数種の防錆成分からなる結果、これらを塗料に含有させる場合、バナジウム化合物の含有量は比較的低く抑えられる傾向にある。その結果、得られる塗膜の耐湿性は比較的良好であり得るものの、耐食性が十分に付与されない。得られる塗膜の耐食性を向上させるために、防錆塗料組成物中のバナジウム化合物の含有量を増加させると、上述のように塗膜の耐湿性の低下を招くこととなる。このように、耐食性と耐湿性とが両立されたクロムを含有しない防錆塗料組成物は、見出されていないのが現状である。さらには、塗装鋼板を上記室外機等に適用する場合は、平板鋼板に防錆塗料を塗装して得られた防錆塗膜を備えた平板鋼板を、折り曲げ加工して成形体を得るプレコート工法が採用されるため、上記防錆性だけではなく、同時に折り曲げ加工によって当該塗膜に剥離が生じない等の折り曲げ加工性、加工密着性をも具備することが求められる。
【0009】
そこで本発明者らは、上記問題を解決するために種々の防錆塗料組成物を作製し検討を行ってきた。その結果、電導度が所定の範囲内に調整されたバナジウム化合物を特定量用いた防錆塗料組成物によれば、長期の耐食性及び耐湿性を有する塗膜を形成することが可能であり、耐食性と耐湿性との両立という上記問題を解決できることを見出した。しかしながら、塗膜形成直後からの初期段階においては、当該防錆塗料組成物中の防錆顔料が溶出する前に鋼板の腐食が生じる現象が認められた。すなわち、この現象の再現試験である短期耐食性試験における耐食性については、未だ改善の余地があった。
【0010】
以上から、本発明は、長期に渡って優れた耐食性及び耐湿性を有する塗膜を形成することが可能で、かつ短期耐食性試験において塗膜形成対象物(被塗物)に腐食を生じさせにくい塗料組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、長期に渡って優れた耐食性及び耐湿性を有し、かつ、短期耐食性試験で良好な結果を示す、上記塗料組成物を用いて形成された塗膜及び当該塗膜を有する塗装鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、電導度が所定の範囲内に調整されたバナジウム化合物と、このバナジウム化合物が防錆機能を発現する前に防錆力を向上させる特定の防錆促進剤とを所定量用いた防錆塗料組成物によれば、上記課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は、下記の通りである。
【0012】
[1] 塗膜形成性樹脂(a)と、架橋剤(b)と、五酸化バナジウム及びバナジン酸アルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のバナジウム化合物(c)と、防錆促進剤(d)とを含有する塗料組成物であって、前記バナジウム化合物(c)は1質量%水溶液の温度25℃における電導度が200μS/cm〜2000μS/cmとなる化合物であり、かつ前記バナジウム化合物(c)の合計含有量は前記塗膜形成性樹脂(a)の固形分及び前記架橋剤(b)の固形分の合計100質量部に対して5〜150質量部であり、前記防錆促進剤(d)が、水溶性化合物(d−1)及びキレート形成化合物(d−2)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物であり、前記防錆促進剤(d)の合計含有量は前記塗膜形成性樹脂(a)の固形分及び架橋剤(b)の固形分の合計100質量部に対して1〜150質量部であり、前記水溶性化合物(d−1)は1質量%水溶液の温度25℃における電導度が2000μS/cmを超え15000μS/cm以下となる化合物であり、かつ前記水溶性化合物(d−1)はアルカリ土類金属の水酸化物、バナジン酸化合物、及びセリウム化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物であり、前記キレート形成化合物(d−2)は、複数の配位部位を有し、これらの配位部位が1つの金属イオンに配位される化合物である、塗料組成物。
【0013】
[2] 前記バナジン酸アルカリ土類金属塩(c)が、バナジン酸カルシウム及び/又はバナジン酸マグネシウムである[1]に記載の塗料組成物。
[3] 前記水溶性化合物(d−1)が、水酸化カルシウム、バナジン酸カルシウム、バナジン酸アンモニウム、バナジン酸カリウム、バナジン酸ナトリウム、及び硫酸セリウム(III)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物である[1]又は[2]に記載の塗料組成物。
【0014】
[4] 前記キレート形成化合物(d−2)が、ヒドロキシカルボン酸化合物である[1]〜[3]のいずれかに記載の塗料組成物。
[5] 前記ヒドロキシカルボン酸化合物が、クエン酸カルシウム、クエン酸アンモニウム、クエン酸マグネシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、及び酒石酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である[4]に記載の塗料組成物。
【0015】
[6] シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、及びジルコニウム系カップリング剤、フタル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である密着性向上成分をさらに含有する[1]〜[5]のいずれかに記載の塗料組成物。
[7] 炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、マイカ、及びシリカからなる群から選ばれる少なくとも1種の体質顔料をさらに含有し、
前記体質顔料の含有量が、前記塗膜形成性樹脂(a)の固形分及び前記架橋剤(b)の固形分の合計100質量部に対して1〜40質量部である[1]〜[6]のいずれかに記載の塗料組成物。
【0016】
[8] 前記塗膜形成性樹脂(a)は、数平均分子量が2000〜10000であり、ガラス転移温度が60〜120℃である水酸基含有エポキシ樹脂、及び/又は数平均分子量が2000〜30000であり、ガラス転移温度が0〜80℃である水酸基含有ポリエステル樹脂を含む[1]〜[7]のいずれかに記載の塗料組成物。
[9] 前記架橋剤(b)は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を活性水素含有化合物でブロックしたブロックポリイソシアネート化合物、及び/又はメチロール基若しくはイミノ基をトリアジン核に平均して1つ以上有するアミノ樹脂を含み、前記架橋剤(b)の固形分の含有量が、前記塗膜形成性樹脂(a)の固形分100質量部に対して10〜80質量部である[1]〜[8]のいずれかに記載の塗料組成物。
[10] 前記ブロックポリイソシアネート化合物が芳香族ポリイソシアネート化合物である[9]に記載の塗料組成物。
【0017】
[11] [1]〜[10]のいずれかに記載の塗料組成物を用いて形成された塗膜。
[12] 35℃の5%食塩水中で1時間湿潤させた後の塗膜の直流抵抗値が105〜1012Ω・cm2である[11]に記載の塗膜。
[13] [1]〜[10]のいずれかに記載の塗料組成物を用いて形成された塗膜を有する塗装鋼板。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、長期に渡って優れた耐食性及び耐湿性を有する塗膜を形成することが可能で、かつ短期耐食性試験において塗膜形成対象物(被塗物)に腐食を生じさせにくい塗料組成物を提供することができる。また、本発明によれば、長期に渡って優れた耐食性及び耐湿性を有し、かつ、短期耐食性試験で良好な結果を示す、上記塗料組成物を用いて形成された塗膜及び当該塗膜を有する塗装鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】短期耐食性試験に用いた塗装鋼板試験片の概略に示す模式図である。
図2】短期耐食性試験に用いた塗装鋼板試験片断面図(図1のA−A’断面図)であり、上バリ及び下バリの断面を誇張して表現した模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[1.塗料組成物]
本発明の塗料組成物は、塗膜形成性樹脂(a)と、架橋剤(b)と、五酸化バナジウム及びバナジン酸アルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のバナジウム化合物(c)と、防錆促進剤(d)とを含有する。また、必要に応じて、密着性向上成分、体質顔料等の添加剤が含有されていてもよい。
【0021】
(塗膜形成性樹脂(a))
本発明の塗料組成物に用いられる塗膜形成性樹脂(a)は、熱硬化性樹脂である。熱硬化性樹脂としては、後述する架橋剤(b)と反応しうる官能基を有し、かつ塗膜形成能を有する樹脂である限り特に制限されず、例えば、エポキシ樹脂及びその変性物(アクリル変性エポキシ樹脂等);ポリエステル樹脂及びその変性物(ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂等);アクリル樹脂及びその変性物(シリコーン変性アクリル樹脂等);ウレタン樹脂及びその変性物(エポキシ変性ウレタン樹脂等);フェノール樹脂及びその変性物(アクリル変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂等);フェノキシ樹脂;アルキド樹脂及びその変性物(ウレタン変性アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂等);フッ素樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂等の樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
上記のなかでも、塗膜形成性樹脂(a)としては、得られる塗膜の折り曲げ加工性や得られる塗膜の耐湿性、耐食性及び耐候性のバランスの観点から、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂又はこれらの変性物等の熱硬化性樹脂を用いることが可能であって、これらから選択される1種以上を用いることができる。好ましくは、熱硬化性樹脂として、水酸基含有エポキシ樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂及び水酸基を含有するこれらの変性物から選択される1種以上が用いられる。エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂及びこれらの変性物が水酸基を有していると、架橋剤(b)として、各種メラミン樹脂、各種イソシアネート化合物を選択することができる。その結果、種々の架橋剤(b)の中から、所望の性質を有する架橋剤(b)を選択することによって、塗膜に多様な物性を付与することができるようになるため、特に好ましい。
【0023】
上記水酸基含有エポキシ樹脂(水酸基含有エポキシ樹脂変性物を含む)の数平均分子量(Mn)は、2000〜10000であることが好ましく、2000〜4000であることがより好ましい。ガラス転移温度(Tg)は60〜120℃であることが好ましく、60〜100℃であることがより好ましい。また、上記水酸基含有ポリエステル樹脂(水酸基含有ポリエステル樹脂変性物を含む)の数平均分子量(Mn)は、2000〜30000であることが好ましく、10000〜20000であることがより好ましい。ガラス転移温度(Tg)は0〜80℃であることが好ましく、10〜40℃であることがより好ましい。使用する水酸基含有エポキシ樹脂及び/又は水酸基含有ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が上記範囲内であることにより、後述する架橋剤(b)との架橋反応が十分に進行し、塗膜の耐湿性が十分となり、それに伴い長期の耐食性を確保できるとともに、得られる塗料組成物が適切な粘度になって取り扱い性が良好となる。また、塗膜中に含まれるバナジウム化合物の溶出が適切となり、短期及び長期の耐食性の両方が良好となり、好ましい。また適当な架橋密度となる結果、得られる塗膜の伸び率が確保でき、十分な折り曲げ加工性が得られる。また、使用する水酸基含有エポキシ樹脂及び/又は水酸基含有ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であることにより、塗膜の透湿性が過度に高くなることなく、塗膜の耐湿性が十分となり、長期の耐食性も良好となるとともに、塗膜の伸び率が確保でき、十分な折り曲げ加工性が得られる。
【0024】
上記水酸基含有エポキシ樹脂(水酸基含有エポキシ樹脂変性物を含む)としては、例えば、ジャパンエポキシレジン株式会社製のjER1004、jER1007、E1255HX30、YX8100BH30等を挙げることができる。また、水酸基含有ポリエステル樹脂(水酸基含有ポリエステル樹脂変性物を含む)としては、例えば、DIC株式会社製のベッコライト47−335、東洋紡績株式会社製のバイロン220、バイロンUR3500、バイロンUR5537、バイロンUR8300等を挙げることができる。
【0025】
なお、本明細書中において、数平均分子量(Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。また、本明細書中において、ガラス転移温度(Tg)とは、熱分析装置(セイコーインスツル株式会社製「TMA100/SSC5020」)を用いて測定した値である。また、「伸び率」(単位:%)とは、塗膜単体(フリーフィルム)について引っ張り試験を行ない、伸ばしていった際に、当該塗膜が破断するまでにどのぐらい伸びるかを示しており、破断時における塗膜の長さ(L)及び初期塗膜の長さ(L0)を用いて、「伸び率」=100×(L−L0)/L0(%)で表される。
【0026】
本発明の塗料組成物における塗膜形成性樹脂(a)の含有量は、通常、全固形分中10〜80質量%であり、20〜70質量%であることが好ましい。10質量%以上であることにより、折り曲げ加工性、塗装作業性、塗膜強度が良好となる。また、塗膜形成性樹脂(a)の含有量が80質量%以下であることにより、十分な耐食性を得ることができる。
【0027】
本発明の塗料組成物は、塗膜形成性樹脂(a)以外の樹脂として、熱可塑性樹脂(h)を含有させてもよい。熱可塑性樹脂(h)としては、例えば、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化オレフィン系樹脂;塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニリデン等をモノマー成分とする単独重合体または共重合体;セルロース系樹脂;アセタール樹脂;アルキド樹脂;塩化ゴム系樹脂;変性ポリプロピレン樹脂(酸無水物変性ポリプロピレン樹脂等);フッ素樹脂(例えばフッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ素化オレフィンとビニルエーテルとの共重合体、フッ素化オレフィンとビニルエステルとの共重合体)等を挙げることができる。熱可塑性樹脂(h)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。熱可塑性樹脂(h)を併用することで、塗膜物性を所望の性質に調製することができる。
【0028】
(架橋剤(b))
架橋剤(b)は、熱硬化性樹脂と反応して硬化塗膜を形成するものである。架橋剤(b)としては、ポリイソシアネート化合物;ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を活性水素含有化合物でブロックしたブロックポリイソシアネート化合物(e);アミノ樹脂(f);フェノール樹脂等を挙げることができ、なかでも、ブロックポリイソシアネート化合物(e)及びメチロール基若しくはイミノ基を1分子中に平均して1つ以上有するアミノ樹脂(f)からなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0029】
上記ポリイソシアネート化合物及び上記ブロックポリイソシアネート化合物(e)を構成するポリイソシアネート化合物としては特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。
例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−又は1,4−ジイソシアネート、1−イソシアナト−3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(別名イソホロンジイソシアネート;IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(別名:水添MDI)、2−又は4−イソシアナトシクロヘキシル−2’−イソシアナトシクロヘキシルメタン、1,3−又は1,4−ビス−(イソシアナトメチル)−シクロヘキサン、ビス−(4−イソシアナト−3−メチルシクロヘキシル)メタン、1,3−又は1,4−α,α,α’α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,4−又は2,6−ジイソシアナトトルエン、2,2’−、2,4’−又は4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−又はm−フェニレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニル−4,4’−ジイソシアネート等である。また、各ジイソシアネート同士の環化重合体(イソシアヌレート型)、さらにはイソシアネート・ビウレット体(ビウレット型)、アダクト型を使用してもよい。ポリイソシアネート化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。イソシアヌレート型のポリイソシアネート化合物は、本発明において好ましく用いられるものの1つである。
【0030】
上記のなかでも、ポリイソシアネート化合物としては、分子内に1以上の芳香族官能基を含有する芳香族ポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。芳香族ポリイソシアネート化合物を用いることにより、塗膜の耐湿性を向上させることができるとともに、塗膜強度を向上させることができる。好ましく用いられる芳香族ポリイソシアネート化合物としては、2,4−又は2,6−ジイソシアナトトルエン(TDI)、2,2’−、2,4’−又は4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)等を挙げることができる。
【0031】
ブロックポリイソシアネート化合物(e)を構成するポリイソシアネート化合物の、JIS K 7301−1995に準拠して測定されるイソシアネート基含有率は、ポリイソシアネート化合物の固形分中、通常3〜20%であり、好ましくは5〜15%である。イソシアネート基含有率が上記好ましい範囲の下限値以上であることにより、塗膜の硬化性が十分となり好ましい。一方、イソシアネート基含有率が上記好ましい範囲の上限値以下であることにより、得られる塗膜の架橋密度が適切となり好ましい。
【0032】
上記ブロックポリイソシアネート化合物(e)に用いられる活性水素含有化合物(ブロック化剤)としては特に制限されず、−OH基(アルコール類、フェノール類等)、=N−OH基(オキシム類等)、=N−H基(アミン類、アミド類、イミド類、ラクタム類等)を有する化合物や、−CH2−基(活性メチレン基)を有する化合物、アゾール類を挙げることができる。
例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ε−カプロラクタム、σ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、メタノール、エタノール、n−、i−、又はt−ブチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、ホルムアミドオキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケドキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシム、マロン酸ジメチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、ピラゾール等である。活性水素含有化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
ブロックポリイソシアネート化合物(e)の熱による解離温度は、これを構成するポリイソシアネート化合物及び活性水素含有化合物の種類や触媒の有無及びその量に依存するが、本発明においては、熱による解離温度(無触媒状態)が120〜180℃であるブロックポリイソシアネート化合物(e)が好ましく用いられる。この範囲内に解離温度を示すブロックポリイソシアネート化合物(e)を用いることにより、塗料の安定性を向上させることができ、また、塗膜形成性樹脂(a)との架橋反応性に優れているため、耐湿性が良好な塗膜を得ることができる。解離温度が120〜180℃であるブロックポリイソシアネート化合物(e)としては、例えば、住化バイエルウレタン株式会社製のデスモジュールBL3175、デスモサーム2170等を挙げることができる。
【0034】
上記アミノ樹脂(f)としては、メラミン樹脂、尿素樹脂等を挙げることができ、なかでもメラミン樹脂が好ましく用いられる。「メラミン樹脂」とは、一般的に、メラミンとアルデヒドから合成される熱硬化性の樹脂を意味し、トリアジン核1分子中に3つの反応性官能基−NX12を有している。メラミン樹脂としては、反応性官能基として−N−(CH2OR)2〔Rはアルキル基、以下同じ〕を含む完全アルキル型;反応性官能基として−N−(CH2OR)(CH2OH)を含むメチロール基型;反応性官能基として−N−(CH2OR)(H)を含むイミノ基型;反応性官能基として、−N−(CH2OR)(CH2OH)と−N−(CH2OR)(H)とを含む、あるいは−N−(CH2OH)(H)を含むメチロール/イミノ基型の4種類を例示することができる。
【0035】
本発明においては、上記メラミン樹脂のなかでも、メチロール基又はイミノ基をトリアジン核に平均して1つ以上有するメラミン樹脂(以下、メラミン樹脂(f1)という)、すなわち、メチロール基型、イミノ基型あるいはメチロール/イミノ基型メラミン樹脂又はこれらの混合物を用いることが好ましい。メラミン樹脂(f1)は、無触媒下においても塗膜形成性樹脂(a)との架橋反応性に優れており、耐湿性が良好な塗膜を得ることができる。メラミン樹脂(f1)としては、例えば、日本サイテックインダストリーズ株式会社製のマイコート715等を挙げることができる。
【0036】
本発明の塗料組成物における架橋剤(b)の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)の固形分100質量部に対して、好ましくは、固形分で10〜80質量部であり、より好ましくは20〜70質量部である。架橋剤(b)の含有量(固形分換算)が、塗膜形成性樹脂(a)の固形分100質量部に対して10質量部以上であることにより、塗膜形成性樹脂(a)との架橋反応が十分に進行し、塗膜の透湿性が適切となって、塗膜の耐湿性が良好となり、長期の耐食性が良好となる。また、架橋剤(b)の含有量(固形分換算)が、塗膜形成性樹脂(a)の固形分100質量部に対して80質量部以下であることにより、塗膜中の防錆顔料の溶出が十分となり短期及び長期の耐食性が良好となる。
【0037】
(バナジウム化合物(c))
防錆顔料であるバナジウム化合物(c)は、五酸化バナジウム及びバナジン酸アルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。バナジウム化合物(c)は、特定の電導度を有するものであり、具体的には、その1質量%水溶液の電導度が温度25℃において200μS/cm〜2000μS/cmである。この範囲内の電導度を有するバナジウム化合物(c)を所定量用いることにより、長期の耐食性と耐湿性とがともに向上された塗膜を得ることができる。また、この範囲内の電導度を有するバナジウム化合物(c)は、適度な溶解性を示すことから、被塗物(鋼板等)の塗装面だけでなく、端面部の腐食を効果的に防止することができる。電導度が200μS/cm未満であると、塗膜から被塗物(鋼板等)へのバナジウム化合物の溶出が少なくなる結果、長期の耐食性が低下する。また、電導度が2000μS/cmを超えると、塗膜の透湿性が過度に高くなって(塗膜に水が過度に浸入しやすくなって)、塗膜の耐湿性が低下し、それに伴い長期の耐食性も低下する。バナジウム化合物(c)の1質量%水溶液の電導度は、好ましくは200〜1000μS/cmである。なお、バナジン酸塩におけるバナジウムの原子価は3、4、5のいずれかであり、バナジン酸とは、オルトバナジン酸と、メタバナジン酸、ピロバナジン酸等の縮合バナジン酸のいずれも包含するものである。バナジン酸アルカリ土類金属塩としては、バナジン酸カルシウム及び/又はバナジン酸マグネシウムが好ましい。
【0038】
本明細書中において、「1質量%水溶液」とは、イオン交換水99gに対して試料(例えば、バナジウム化合物(c))1gを加え、室温にて4時間攪拌して得られる溶液をいう。ただし、添加した試料の水への溶解度が1質量%未満の場合は、添加した試料のすべてがイオン交換水に溶解していなくてもよい。上記電導度は、温度25℃においてこの1質量%水溶液の電導度を、電気伝導度計(例えば、東亜電波工業株式会社製電導度計「CM−30ET」)を用いて測定したときの値である。
【0039】
本発明において、上記バナジウム化合物(c)の合計含有量は、後述する塗膜形成性樹脂(a)の固形分及び架橋剤(b)の固形分の合計100質量部に対して5〜150質量部であり、好ましくは30〜100質量部であり、より好ましくは55〜90質量部である。バナジウム化合物(c)の含有量が、塗膜形成性樹脂(a)及び架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して5質量部未満であると、塗膜から被塗物(鋼板等)へのバナジウム化合物(c)の溶出が少なくなる結果、長期の耐食性が低下する。また、バナジウム化合物(c)の含有量が150質量部を超えると、塗膜の透湿性が過度に高くなって塗膜に水が過度に浸入しやすくなり、塗膜の耐湿性が低下し、耐湿性の低下に伴い長期の耐食性も低下する。このように、本発明においては、防錆顔料である特定のバナジウム化合物(c)と樹脂固形分との比率を、適正な範囲に調整することにより、耐湿性と長期の耐食性を高位で両立することが可能となっている。
【0040】
本発明で用いられるバナジウム化合物(c)の調製方法は特に制限されず、いかなる方法が用いられてもよい。例えば、バナジウム化合物(c)がバナジン酸カルシウムである場合、カルシウム塩とバナジン酸塩とを水中で混合し、反応させることによって得ることができる。当該反応によって得られた固体(通常、白色固体)は、必要に応じて水洗、脱水、乾燥、粉砕等の処理に供されてもよい。
【0041】
バナジン酸カルシウムを調製するためのカルシウム塩としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム及び硫酸カルシウムが例示される。さらに、ギ酸カルシウム等の有機酸のカルシウム塩もまた好適に用いられる。バナジン酸塩としては、五酸化バナジウム、バナジン酸カリウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸アンモニウムが例示されるが、これらに限定されない。
【0042】
カルシウム塩とバナジン酸塩とを反応させてバナジン酸カルシウムを調製する場合には、カルシウム塩とバナジン酸塩との使用比率を調整することによって、所望の電導度を示すバナジン酸カルシウムを得ることができる。また、電導度を上記範囲内に調整するために、異なる電導度を示す2種以上のバナジン酸カルシウムを均一に混合してもよい。
【0043】
同様にして、バナジウム化合物(c)がバナジン酸マグネシウムである場合は、マグネシウム塩とバナジン酸塩とを水中で混合し、反応させることによって得ることができる。当該反応によって得られた固体(通常、白色固体)は、必要に応じて水洗、脱水、乾燥、粉砕等の処理に供されてもよい。
【0044】
バナジン酸マグネシウムを調製するためのマグネシウム塩としては、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム及び硫酸マグネシウムが例示される。さらに、ギ酸マグネシウム等の有機酸のマグネシウム塩もまた好適に用いられる。バナジン酸塩としては、五酸化バナジウム、バナジン酸カリウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸アンモニウムが例示されるが、これらに限定されない。
【0045】
マグネシウム塩とバナジン酸塩とを反応させてバナジン酸マグネシウムを調製する場合も、マグネシウム塩とバナジン酸塩との使用比率を調整することによって、所望の電導度を示すバナジン酸マグネシウムを得ることができる。また、電導度を上記範囲内に調整するために、異なる電導度を示す2種以上のバナジン酸マグネシウムを均一に混合してもよい。
【0046】
(防錆促進剤(d))
防錆促進剤(d)は、水溶性化合物(d−1)及びキレート形成化合物(d−2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。防錆促進剤(d)は、バナジウム化合物(c)が溶出する前の時期において耐食性を向上させる機能を有するため、本発明の塗料組成物によって得られる塗膜は、短期耐食性試験において優れた効果を発揮する。
防錆促進剤(d)の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)の固形分及び架橋剤(b)の固形分の合計100質量部に対して1〜150質量部である。1質量部未満では、塗膜から被塗物である鋼板等への防錆促進剤(d)の溶出が少なくなる結果、短期の耐食性が低下する。また、含有量が150質量部を超えると、塗膜の透湿性が過度に高くなって塗膜に水が過度に浸入しやすくなり、塗膜の耐湿性が低下し、耐湿性の低下に伴い長期の耐食性も低下する。
【0047】
防錆促進剤(d)のうち、水溶性化合物(d−1)はバナジウム化合物(c)が溶出する前に素早く保護皮膜を生成することで短期耐食性試験での耐食性を向上させる。
【0048】
水溶性化合物(d−1)は、温度25℃においてその1質量%水溶液の電導度が2000μS/cmを超え15000μS/cm以下となる化合物であり、かつアルカリ土類金属の水酸化物、バナジン酸化合物、及びセリウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。これらの化合物を用い、適宜組み合わせたり、添加量を調整したりして所望の電導度とすることができる。電導度が2000μS/cm以下であると、短期耐食性試験開始時に、塗膜中からの防錆促進剤(d)の溶解が不足し、短期耐食性試験結果が不良となり、15000μS/cmを超えると、塗膜の耐湿性が低下し、長期の耐食性も低下する。
【0049】
水溶性化合物(d−1)としては、上記の電導度を満たす水酸化カルシウム、バナジン酸カルシウム、バナジン酸アンモニウム、バナジン酸カリウム、及び硫酸セリウム(III)からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましい。なお、バナジン酸塩におけるバナジウムの原子価は3、4、5のいずれかであり、前記のバナジン酸塩は、オルトバナジン酸、メタバナジン酸、ピロバナジン酸等の縮合バナジン酸塩のいずれの塩も包含するものである。
【0050】
なお、1質量%水溶液の電導度が2000μS/cmを超え15000μS/cm以下となるバナジン酸カルシウムを防錆促進剤(d)として、1質量%水溶液の電導度が200μS/cm〜2000μS/cmであるバナジン酸カルシウムをバナジウム化合物(c)として、これらを併用することも可能である。
【0051】
キレート形成化合物(d−2)は、鋼板の金属と特異的に吸着することで、バナジウム化合物(c)が防錆機能を発現する前に防錆力を向上させると考えられる。キレート形成化合物(d−2)は、複数の配位部位を有し、これらの配位部位が1つの金属イオンに配位できる化合物である。
【0052】
キレート形成化合物(d−2)としては、ヒドロキシカルボン酸化合物が好ましく、中でもクエン酸カルシウム、クエン酸アンモニウム、クエン酸マグネシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、及び酒石酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることがより好ましい。
【0053】
(密着性向上成分)
本発明の塗料組成物は、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤及びジルコニウム系カップリング剤、フタル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である密着性向上成分をさらに含有していてもよい。密着性向上成分の添加により、基材との密着性を向上させることができ、塗膜の耐湿性をさらに向上させることができる。
【0054】
上記密着性向上成分としては特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。好適に用いられる密着性向上成分の具体例を挙げれば、東レ・ダウコーニング株式会社製 DOW CORNING TORAY Z−6011、DOW CORNING TORAY Z−6040等のシラン系カップリング剤;松本ファインケミカル株式会社製 オルガチックスTC−401、オルガチックスTC−750等のチタン系カップリング剤;松本ファインケミカル株式会社製 オルガチックスZC−580、オルガチックスZC−700等のジルコニウム系カップリング剤、市販試薬のフタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等のフタル酸エステルである。なかでも、シラン系カップリング剤が好ましく用いられる。
【0055】
密着性向上成分の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)及び架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して0.1〜20質量部であることが好ましい。密着性向上成分の含有量が0.1質量部以上であることにより、耐湿性向上効果が得られる。また、密着性向上成分の含有量が20質量部以下であることにより、塗料組成物の貯蔵安定性が良好となる。
【0056】
(体質顔料)
本発明の塗料組成物は、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、マイカ及びシリカからなる群から選ばれる少なくとも1種の体質顔料をさらに含有していてもよい。体質顔料の添加により、塗膜強度を向上させることができるとともに、塗膜表面に凹凸が生じ、上塗り塗膜との密着性が向上する等の理由により、耐湿性が良好となる。体質顔料の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)及び架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して1〜40質量部であることが好ましい。体質顔料の含有量が1質量部以上であることにより、耐湿性向上効果が得られる。また、体質顔料の含有量が40質量部以下であることにより、塗膜の透湿性が適切となって、塗膜の耐湿性が良好となり、長期の耐食性が良好となる。
【0057】
(硬化触媒)
架橋剤(b)としてブロックポリイソシアネート化合物(e)及び/又はポリイソシアネート化合物を用いる場合、本発明の塗料組成物は、硬化触媒を含有してもよい。硬化触媒としては、例えば、スズ触媒、アミン触媒、鉛触媒等を挙げることができ、なかでも有機スズ化合物が好ましく用いられる。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジラウレート(DBTL)、ジブチルスズオキサイド、テトラ−n−ブチル−1,3−ジアセトキシスタノキサン等を用いることができる。
【0058】
また、架橋剤(b)として、メラミン樹脂(f1)を用いる場合にも、本発明の塗料組成物は、硬化触媒を含有してもよい。この場合の硬化触媒としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸のような酸触媒等を挙げることができ、なかでもドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等が好ましく用いられる。
【0059】
上記硬化触媒の含有量は、塗膜形成性樹脂(a)及び架橋剤(b)の合計固形分100質量部に対して、通常0.1〜10質量部であり、0.1〜1質量部であることが好ましい。硬化触媒の含有量が0.1〜10質量部であることにより、塗料組成物の貯蔵安定性が良好となる。
【0060】
(その他の添加剤)
本発明の塗料組成物は、必要に応じて、上記以外のその他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、上記バナジウム化合物(c)以外の防錆顔料;上記体質顔料以外の体質顔料;着色顔料、染料等の着色剤;光輝性顔料;溶剤;紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等);酸化防止剤(フェノール系、スルフォイド系、ヒンダードアミン系酸化防止剤等);可塑剤;表面調整剤(シリコーン、有機高分子等);タレ止め剤;増粘剤;ワックス等の滑剤;顔料分散剤;顔料湿潤剤;レベリング剤;色分かれ防止剤;沈殿防止剤;消泡剤;防腐剤;凍結防止剤;乳化剤;防かび剤;抗菌剤;安定剤等がある。これらの添加剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
上記バナジウム化合物(c)以外の防錆顔料としては、非クロム系防錆顔料を用いることができ、例えば、モリブデン酸塩顔料(モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸ストロンチウム等)、リンモリブデン酸塩顔料(リンモリブデン酸アルミニウム系顔料等)、カルシウムシリカ系顔料、リン酸塩系防錆顔料、ケイ酸塩系防錆顔料等の非クロム系防錆顔料が挙げられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明の塗料組成物は、所定の電導度を有するバナジウム化合物(c)を所定量含有することから、十分に高い耐食性を示すが、必要に応じて、上記のようなバナジウム化合物(c)以外の防錆顔料が使用されてもよい。
【0062】
上記体質顔料以外のその他の顔料として、得られる塗膜の耐湿性、防錆性、折り曲げ加工性等を損なわない範囲でアルミナ、ベントナイト等を添加することができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
上記着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉄、コールダスト等の無機着色顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、ペリレン、アンスラピリミジン、カルバゾールバイオレット、アントラピリジン、アゾオレンジ、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、アゾイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド等の有機着色顔料;アルミニウム粉、アルミナ粉、ブロンズ粉、銅粉、スズ粉、亜鉛粉、リン化鉄、微粒化チタン等を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記光輝性顔料としては、例えば、アルミ箔、ブロンズ箔、スズ箔、金箔、銀箔、チタン金属箔、ステンレススチール箔、ニッケル・銅等の合金箔、箔状フタロシアニンブルー等の箔顔料を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
上記溶剤としては、例えば、水;エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール系有機溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;3−メトキシブチルアセテート、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系有機溶剤;ならびに、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、ペンタン、iso−ペンタン、ヘキサン、iso−ヘキサン、シクロヘキサン、ソルベントナフサ、ミネラルスピリット、ソルベッソ100、ソルベッソ150(いずれも芳香族炭化水素系溶剤)等を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明の塗料組成物は、水系塗料であってもよく、有機溶剤系の塗料であってもよい。
【0066】
本発明の塗料組成物は、例えば、塗膜形成性樹脂(a)、架橋剤(b)及びバナジウム化合物(c)、体質顔料、密着性向上成分、硬化触媒及びその他の添加剤を、ローラーミル、ボールミル、ビーズミル、ペブルミル、サンドグラインドミル、ポットミル、ペイントシェーカー、ディスパー等の混合機を用いて混合することにより、調製することができる。あるいは、本発明の塗料組成物は、塗膜形成性樹脂(a)及びバナジウム化合物(c)を含む主剤成分と、架橋剤(b)を含む架橋剤成分とからなる2液型塗料であってもよい。
【0067】
本発明の塗料組成物は、プライマーとも呼ばれる下塗り塗料として適用してもよいし、下塗り塗料の上に重ねる上塗り塗料としてもよい。さらには下塗り塗料と上塗り塗料の中間層に形成する中塗り塗料としてもよい。あるいは、本発明の塗料組成物は、複層塗膜形成用ではなく1層の塗膜を形成するための塗料として用いられてもよい。本発明の塗料組成物は、複層塗膜のどの部位に用いても優れた耐食性及び耐湿性を発揮することができる。なかでも、本発明の塗料組成物は、下塗り塗料として用いられることが好ましい。本発明の塗料組成物以外の下塗り塗料、上塗り塗料及び中塗り塗料は従来公知のものであってよく、例えば、下塗り塗料としては、従来公知の非クロム系防錆塗料等が挙げられ、上塗り塗料、中塗り塗料としては、ポリエステル樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料等が挙げられる。
【0068】
[2.塗膜及び塗装鋼板]
本発明の塗料組成物による塗膜が形成される被塗物は、耐食性が要求されるものであるかぎり特に制限されないが、典型例としてプレコートメタル(塗装鋼板)等の基材となる鋼板を挙げることができる。鋼板としては、亜鉛めっき鋼板や冷延鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板等が例示される。亜鉛めっき鋼板としては、亜鉛の犠牲防食を活用する亜鉛含有めっき鋼板、具体的には、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛めっき鋼板、ニッケル−亜鉛めっき鋼板、マグネシウム−アルミニウム−亜鉛めっき鋼板、マグネシウム−アルミニウム−シリカ−亜鉛めっき鋼板等が挙げられる。鋼板は、塗装前に化成処理剤による表面処理を施したものであることが好ましい。上記表面処理としては、使用する鋼板に応じて適宜選択することができるが、重金属を含まない処理が好ましい。
【0069】
本発明の塗料組成物の被塗物への塗布方法としては、ロールコーター、エアレススプレー、静電スプレー、カーテンフローコーター等従来公知の方法を採用することができる。本発明の塗料組成物を用いて形成された本発明の塗膜は、塗料組成物を鋼板等の被塗物に塗布した後、被塗物を加熱する焼付け処理を行なうことによって形成することができる。これによって、本発明の塗装鋼板が得られる。なお、焼付け温度(鋼板等の被塗物が達する最高温度)は、通常180〜250℃であり、焼付け時間は、通常10〜200秒である。
【0070】
例えば、下塗り塗膜と上塗り塗膜の2層からなる複層塗膜を形成する場合、下塗り塗料組成物を塗布した後焼付けを行ない、その後、上塗り塗料組成物を塗布し、上塗り塗膜の焼付けを行なうものであってもよいし、下塗り塗料組成物を塗布した後、焼付けを行なわずにウェットオンウェットで上塗り塗料組成物を塗布し、同時に焼付けを行なうものであってもよい。
【0071】
本発明の塗料組成物を用いて得られる塗膜(本発明の塗膜)の膜厚(乾燥膜厚)は、通常1〜30μmであり、例えば上塗り塗膜である場合は、好ましくは10〜30μmであり、下塗り塗膜である場合は、好ましくは1〜10μmである。
【0072】
本発明の塗膜は、これを形成する塗料組成物が所定の電導度を有するバナジウム化合物(c)を所定量含有することから、通常、105〜1012Ω・cm2の湿潤抵抗値を示す。塗料組成物に用いる樹脂や架橋剤の種類、含有させる添加剤の種類と量、焼付条件等で塗膜の湿潤抵抗値は変動するが、概ね、塗膜の湿潤抵抗値が上記範囲内であることは、塗膜が適度な透湿性を有している一方で、良好な耐湿性を示すことを意味している。すなわち、湿潤抵抗値が105Ω・cm2未満であることは、塗膜の透湿性が過度に高く、耐湿性が低いことを意味しており、従って、フクレや剥がれ等が生じやすい傾向にある。また、湿潤抵抗値が1012Ω・cm2を超えることは、塗膜の透湿性が過度に低いことを意味しており、塗膜中の防錆顔料の溶出が阻害されて耐食性が低下する傾向にある。本発明の塗膜の湿潤抵抗値は、好ましくは106〜1011Ω・cm2である。なお、塗膜の湿潤抵抗値とは、乾燥塗膜厚15μmの塗膜を5%NaCl水溶液で35℃にて1時間湿潤させた後に印加電圧の波高±0.5Vで測定した直流抵抗値を意味する。塗膜の湿潤抵抗値測定の詳細条件については、後述の実施例で述べる
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記実施例中、「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0074】
[1.バナジン酸カルシウムの調製]
(製造例1:バナジン酸カルシウム1の調製)
水酸化カルシウム(Ca(OH)2)41gと、五酸化バナジウム(V25)959gを水10Lに添加し、60℃に昇温後、同温度で2時間攪拌した。得られた反応生成物(白色固体)を水洗後脱水し、100℃にて乾燥した後、粉砕することにより、バナジン酸カルシウム1を得た。
以下の手順に従い、上記で調製したバナジン酸カルシウム1の1質量%水溶液の電導度を測定した。
【0075】
(電導度の測定手順)
〔i〕イオン交換水で洗浄したポリエチレン製細口瓶に、イオン交換水99g及び試料1gを添加する。
〔ii〕イオン交換水で洗浄したスターラーチップを投入して、室温下で4時間撹拌する。
〔iii〕撹拌後、電気伝導度計(東亜電波工業株式会社製電導度計「CM−30ET」)を用いて、温度25℃における電導度を測定する。
【0076】
(製造例2〜6:バナジン酸カルシウム2〜5の調製)
水酸化カルシウム、五酸化バナジウムの使用量を、それぞれ表1に記載の量に変更したこと以外は、製造例1と同様にしてバナジン酸カルシウム2〜5を得、それぞれの1質量%水溶液の電導度を測定した。
【0077】
(製造例6:バナジン酸マグネシウムの調製)
水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)645gと、五酸化バナジウム355gを水10Lに添加し、60℃に昇温後、同温度で2時間攪拌した。得られた反応生成物(白色固体)を水洗後脱水し、100℃にて乾燥した後、粉砕することにより、バナジン酸マグネシウムを得た。
【0078】
[その他の防錆顔料の1質量%水溶液の電導度の測定]
上記で調製したバナジン酸マグネシウム、五酸化バナジウム、シールデックスC303、K-WHITE Ca650、水酸化カルシウム、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸ナトリウム、硫酸セリウム(III)、クエン酸アンモニウム、クエン酸カルシウム4水和物及びグルコン酸カルシウムの1質量%水溶液についても、バナジン酸カルシウム1と同様の測定を行なった。結果を下記表1〜表4に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
表2〜4に示されるバナジン酸カルシウム1〜5及びバナジン酸マグネシウム以外の他の防錆顔料の詳細は次の通りである。
・「五酸化バナジウム」:市販試薬
・「水酸化カルシウム」:市販試薬
・「メタバナジン酸ナトリウム」:和光純薬工業株式会社製
・「メタバナジン酸カリウム」:和光純薬工業株式会社製
・「メタバナジン酸アンモニウム」:和光純薬工業株式会社製
・「硫酸セリウム」:市販試薬
・「クエン酸アンモニウム」:市販試薬
・「クエン酸カルシウム4水和物」:市販試薬
・「グルコン酸カルシウム」:市販試薬
・「シールデックスC303」:グレースジャパン株式会社製、カルシウムイオン交換シリカ微粒子
・「K−WHITE Ca650」:テイカ株式会社製、トリポリリン酸第2水素AlのCa処理
【0084】
(実施例1)
塗膜形成性樹脂(a)である「jER1007」222部、「シクロヘキサノン」30部及び「ソルベッソ150」30部からなる混合物に、防錆顔料である「バナジン酸カルシウム3」5部、「メタバナジン酸アンモニウム」30部を混合し、分散機(大平システム社製 卓上式SGミル1500W型)に、得られた混合物とガラスビーズ340部(顔料分散塗料の合計質量の1.5倍に相当するガラスビーズ)とを入れ、「バナジン酸カルシウム3」及び「メタバナジン酸アンモニウム」粗粒子の粒子径が15μm以下となるまで顔料分散を実施し、顔料分散塗料を調製した。
その後、この顔料分散塗料に、ブロックポリイソシアネート化合物(e)である「デスモジュールBL3175」45部、「ジブチルスズジラウレート(DBTL)」0.5部、「シクロヘキサノン」45部及び「ソルベッソ150」45部を加えて均一に混合し、塗料組成物1を得た。
【0085】
(鋼板裏面用塗料組成物の調製)
塗膜形成性樹脂(a)である「jER1007」222部、「シクロヘキサノン」30部及び「ソルベッソ150」30部からなる混合物に、「酸化チタン」80部を混合し、分散機に、得られた混合物とガラスビーズ332部とを入れ、酸化チタン粗粒子の粒子径が15μm以下となるまで顔料分散を実施し、顔料分散塗料を調製した。
その後、この顔料分散塗料に、ブロックポリイソシアネート化合物(e)である「デスモジュールBL3175」45部、「ジブチルスズジラウレート(DBTL)」0.5部、「シクロヘキサノン」45部及び「ソルベッソ150」45部を加えて均一に混合し、裏面用塗料組成物を得た。
【0086】
(塗装鋼板の作製)
厚さ0.4mmのアルミニウム亜鉛めっき鋼板をアルカリ脱脂した後、日本ペイント株式会社製のリン酸処理剤「サーフコートEC2310」を、鋼板表面及び裏面に塗布することにより、ノンクロム化成処理を施し、乾燥した。ついで、得られた鋼板の裏面に、裏面用塗料組成物を、乾燥塗膜が7μmとなるように塗布し、最高到達温度180℃にて30秒間焼き付けを行なって、裏面塗膜を形成した。
次に、鋼板の表面に塗料組成物1を、乾燥塗膜が5μmとなるように塗布し、最高到達温度200℃にて30秒間焼き付けを行なって、表面下塗り塗膜を形成した。さらに、上記下塗り塗膜上に日本ペイント株式会社製のポリエステル系上塗り塗料「NSC300HQ」を表面上塗り塗料として、乾燥塗膜が10μmとなるように塗布し、最高到達温度210℃にて40秒間焼き付けを行なって、表面上塗り塗膜を形成し、実施例1の塗装鋼板を得た。
【0087】
(実施例2〜49、比較例1〜10)
表9〜表16に示される組成に従い、含有成分の種類及び/又は添加量を変更したこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物2〜49及び比較塗料組成物1〜10を調製した。
さらに、塗料組成物1の代わりに塗料組成物2〜49及び比較塗料組成物1〜10を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2〜49及び比較例1〜10の塗装鋼板を得た。
【0088】
表9〜表16に示される各種含有成分の詳細は次のとおりである。
・塗膜形成性樹脂(a)
「jER1004」:ジャパンエポキシレジン株式会社製、水酸基含有エポキシ樹脂〔不揮発分:30%(不揮発分が30%となるようシクロヘキサンを加えて濃度調整を行なった)、数平均分子量(Mn):1400、ガラス転移温度(Tg):60℃〕
「jER1007」:ジャパンエポキシレジン株式会社製、水酸基含有エポキシ樹脂〔不揮発分:30%(不揮発分が30%となるようシクロヘキサンを加えて濃度調整を行なった)、Mn:2900、Tg:73℃〕
「E1255HX30」:ジャパンエポキシレジン株式会社製、水酸基含有エポキシ樹脂〔不揮発分:30%、Mn:10000、Tg:85℃〕
「YX8100BH30」:ジャパンエポキシレジン株式会社製、水酸基含有エポキシ樹脂〔不揮発分:30%、Mn:14000、Tg:110℃〕。
「ベッコライト47−335」:DIC株式会社製、水酸基含有ポリエステル樹脂〔不揮発分:60%、Mn:1800、Tg:0℃〕
「バイロン220」:東洋紡績株式会社製、水酸基含有ポリエステル樹脂〔不揮発分:60%(不揮発分が60%となるようシクロヘキサンを加えて濃度調整を行なった)、Mn:3000、Tg:53℃〕
「バイロンUR5537」:東洋紡績株式会社製、水酸基含有ポリエステル樹脂〔不揮発分:30%、Mn:20000、Tg:34℃〕
「バイロンUR8300」:東洋紡績株式会社製、水酸基含有ポリエステル樹脂〔不揮発分:30%、Mn:30000、Tg:23℃〕
「バイロンUR3500」:東洋紡績株式会社製、水酸基含有ポリエステル樹脂〔不揮発分:40%、Mn:40000、Tg:10℃〕
【0089】
・架橋剤(b)
「デスモジュールBL3175」:住化バイエルウレタン株式会社製、ブロックポリイソシアネート〔ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のブロック体(イソシアヌレート型、ブロック剤:メチルエチルケトンオキシム)、熱による解離温度(無触媒状態):160℃、イソシアネート基含有率:14.9%、不揮発分:75%〕
「デスモサーム2170」:住化バイエルウレタン株式会社製、ブロックポリイソシアネート〔4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)のブロック体(イソシアヌレート型、ブロック剤:活性メチレン基含有化合物)、熱による解離温度(無触媒状態):120℃、イソシアネート基含有率:5.7%、不揮発分:70%〕
「マイコート715」:日本サイテックインダストリーズ株式会社製、イミノ基型メラミン樹脂〔不揮発分:80%〕
【0090】
・体質顔料(g)
「沈降性硫酸バリウムB−55」:堺化学工業株式会社製、沈降性硫酸バリウム
「クレー1号」:丸尾カルシウム株式会社製、クレー
【0091】
・密着向上性成分(カップリング剤)
「DOW CORNING TORAY Z−6011」:東レ・ダウコーニング株式会社製、シランカップリング剤〔γ−アミノプロピルトリエトキシシラン〕、不揮発分:100%
「フタル酸ジメチル」:市販試薬、不揮発分:100%
【0092】
・スズ触媒
「DBTL」:日東化成株式会社製、「TVS Tin Lau」〔ジブチルスズジラウレート、不揮発分:100%〕
・溶剤
「ソルベッソ150」:昭永化学工業株式会社製
「シクロヘキサノン」:三菱化学株式会社製
【0093】
(実施例50〜55の塗装鋼板の作製)
・実施例50
裏面用塗料組成物の代わりに塗料組成物2を用いたこと以外は実施例2と同様にして、実施例50の塗装鋼板を得た。
・実施例51
塗料組成物2を用いて形成した裏面塗膜上に、裏面用塗料組成物を乾燥塗膜が7μmとなるように塗布し、最高到達温度180℃にて30秒間焼き付けを行なって、複層の裏面塗膜を形成し、その後に表面を塗装したこと以外は実施例50と同様にして、実施例51の塗装鋼板を得た。
・実施例52
塗料組成物2の代わりに塗料組成物19を用いたこと以外は実施例50と同様にして、実施例52の塗装鋼板を得た。
・実施例53
塗料組成物2の代わりに塗料組成物21を用いたこと以外は実施例50と同様にして、実施例53の塗装鋼板を得た。
・実施例54
上塗り塗料「NSC300HQ」を塗装しなかったこと以外は実施例38と同様にして、実施例54の塗装鋼板を得た。
・実施例55
上塗り塗料「NSC300HQ」の代わりに塗料組成物38を用いたこと以外は実施例50と同様にして、実施例55の塗装鋼板を得た。
【0094】
(実施例及び比較例に係る塗膜の性能評価)
実施例1〜55及び比較例1〜10の塗装鋼板を用いて塗膜の性能評価を下記のようにして行った。結果を表9〜表17に示す。
【0095】
<1>耐沸騰水性試験(表面の評価)
上記で得られた各塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片を、約100℃の沸騰水中に2時間浸漬した後、引き上げて表面側の塗装外観を、ASTM D714−56に従って評価した(平面部フクレ評価)。
【0096】
ASTM D714−56は、各フクレの大きさ(平均径)と密度について、標準判定写真と対比して評価し、等級記号を示すものである。大きさについては8(直径約1mm)、6(直径約2mm)、4(直径約3mm)、2(直径約5mm)の順に4段階、密度については、小さい方からF、FM、M、MD、Dの5段階に級別するものであり、フクレがなければ、10とする。さらにそれを、下記表5にあるように7段階評価(5点満点)にて、3点以上を良好とした。
【0097】
【表5】
【0098】
<2>耐湿性試験(表面の評価)
上記で得られた各塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片を、純水により50℃×98RH%とした条件下に250時間放置した後、耐沸騰水性試験と同様にして、ASTM D714−56に従って平面部のフクレ評価を行なった。その後、耐沸騰水性試験と同様に、下記表6をもとに7段階評価(5点満点)にて、3点以上を良好とした。
【0099】
【表6】
【0100】
<3>短期耐食性試験
上記で得られた各塗装鋼板を図1に示すように2cm×7cmに切断した。この際、切断は表面からと裏面からの交互に行ない、図2に示すように、各試験片の断面が上バリ(裏面より切断)、下バリ(表面より切断)の両方を有するように試験片を作製した。塗装鋼板10上部及び下部エッジ部を耐水テープ12(積水化学工業株式会社製)にてシールして、片側5cmの浸漬部位を作製した。
なお、図2は、図1の耐水テープ12を設ける前の塗装鋼板10のA−A’断面であり、上バリ14A及び下バリ14Bの断面を模式的に示す図である。
100ccポリカップに100ccイオン交換水を入れ、塗装鋼板10を垂直に浸漬し、50℃、96時間浸漬後、板を乾燥させて、下記評価方法及び評価基準に基づいて評価した。いずれも3点以上を良好と評価した。
【0101】
「エッジ部の錆 評価方法」
5:錆の発生が認められない。
4:白錆が認められるが、10mm未満。
3:白錆が10mm以上かつ25mm未満。
2:白錆が25mm以上かつ40mm未満。
1:白錆が40mm以上、又は赤錆の発生が認められる。
【0102】
<4>長期耐食性試験(表面の評価)
「試験片作製方法」
上記で得られた各塗装鋼板を5cm×15cmとなるよう切断した。この際、切断は表面からと裏面からの交互に行ない、各試験片の断面が上バリ(裏面より切断)、下バリ(表面より切断)の両方を有するように試験片を作製した。塗装鋼板上部及び下部エッジ部を耐水テープにてシールした。
【0103】
「耐食性試験方法」
得られた各塗装鋼板試験片について、JIS K5600−7−9A JASO M609に従い、複合サイクル腐食試験(CCT)を行なった。(35℃で5%食塩水噴霧2時間)−(60℃で乾燥4時間)−(50℃でRH95%以上の耐湿試験機内で静置2時間)を1サイクルとして、60サイクル試験(合計480時間)を行なった。この試験後の塗装鋼板試験片の表面のエッジ部の状態を下記評価方法及び評価基準に基づいて評価した。いずれも3点以上を良好と評価した。
【0104】
「耐食性評価方法」
塗装鋼板試験片の左右の長辺(すなわち、上バリを有する長辺と下バリを有する長辺)の表面のエッジクリープ幅(フクレの幅)の平均値を求め、次の基準により評価した。
5:フクレ幅が5mm未満。
4:フクレ幅が5mm以上かつ10mm未満。
3:フクレ幅が10mm以上かつ15mm未満。
2:フクレ幅が15mm以上かつ20mm未満。
1:フクレ幅が20mm以上。
【0105】
<5>耐アルカリ性試験(表面の評価)
上記で得られた各塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片を、23℃の5%水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬した後、取り出し洗浄し、室温にて乾燥した。この塗装鋼板試験片について、耐沸騰水性試験と同様にして、ASTM D714−56に従って平面部のフクレ評価を行なった。その後、耐沸騰水性試験と同様に、下記表7をもとに7段階評価(5点満点)にて、3点以上を良好とした。
【0106】
【表7】
【0107】
<6>耐酸性試験(表面の評価)
上記で得られた各塗装鋼板を5cm×10cmに切断し、得られた試験片を、23℃の5%硫酸水溶液に24時間浸漬した後、取り出し洗浄し、室温にて乾燥した。この塗装鋼板試験片について、耐沸騰水性試験と同様にして、ASTM D714−56に従って平面部のフクレ評価を行なった。その後、耐沸騰水性試験と同様に、下記表8をもとに7段階評価(5点満点)にて、3点以上を良好とした。
【0108】
【表8】
【0109】
<7>湿潤抵抗値Rfの測定(表面の評価)
上記で得られた各塗装鋼板を15cm×10cmに切断し、これを電気化学セル(測定面積0.785cm2)にセットして5%NaCl水溶液を加え、35℃で1時間湿潤させた後に、塗膜の直流抵抗値を高抵抗計(Keithley社製「モデル6517A」)を用いて測定した。直流抵抗値Rは、塗装鋼板試験片とPt対極との間に波高±0.5V、時間間隔1分間の矩形波電圧を5分間印加し、1分後毎の電流値の差を4点求め、その平均値をΔIとして、直流抵抗値R=ΔV/ΔI=1/ΔIの関係式から算出したものである。表9〜表17に示される湿潤抵抗値Rfは、算出した直流抵抗値Rに測定面積0.785(cm2)を乗じ、有効数字1桁で単位面積(cm2)当たりに換算したものである。
【0110】
【表9】
【0111】
【表10】
【0112】
【表11】
【0113】
【表12】
【0114】
【表13】
【0115】
【表14】
【0116】
【表15】
【0117】
【表16】
【0118】
【表17】
図1
図2