特許第5732725号(P5732725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732725
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】電池状態検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/36 20060101AFI20150521BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20150521BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   G01R31/36 A
   H01M10/48 P
   H02J7/00 X
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-35128(P2010-35128)
(22)【出願日】2010年2月19日
(65)【公開番号】特開2011-169817(P2011-169817A)
(43)【公開日】2011年9月1日
【審査請求日】2012年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】馬島 吉英
【審査官】 川瀬 正巳
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−289685(JP,A)
【文献】 特開平07−191107(JP,A)
【文献】 特開2007−327971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の開放電圧を検出する電圧検出手段と、
前記電圧検出手段によって検出された前記二次電池の充電後の開放電圧を、前記二次電池の充電後の開放電圧と前記二次電池の充電率との関係を示す第1の電池特性に適用して、前記充電率を算出し、前記電圧検出手段によって検出された前記二次電池の放電後の開放電圧を、前記二次電池の放電後の開放電圧と前記二次電池の充電率との関係を示す第2の電池特性に適用して、前記充電率を算出する、充電率算出手段とを備え、
前記充電率算出手段は、前記二次電池の充電後の無負荷状態での放電容量が第1の基準容量以上である場合、前記第2の電池特性の適用を選択して、前記充電率を算出する、電池状態検知装置。
【請求項2】
前記充電率算出手段は、前記放電容量が前記第1の基準容量未満であり且つ前記二次電池の充電終了時点からの経過時間が第1の基準時間以上である場合、前記第2の電池特性の適用を選択して、前記充電率を算出する、請求項1に記載の電池状態検知装置。
【請求項3】
前記充電率算出手段は、前記放電容量が前記第1の基準容量未満であり且つ前記経過時間が前記第1の基準時間未満である場合、前記第1の電池特性の適用を選択して、前記充電率を算出する、請求項2に記載の電池状態検知装置。
【請求項4】
前記第1の電池特性を特定するための第1の特性データと前記第2の電池特性を特定するための第2の特性データを記憶する記憶手段を備え、
前記第1の特性データを構成する開放電圧データと前記第2の特性データを構成する開放電圧データのいずれか一方が、もう一方との差分の電圧データによって表される、請求項1から3のいずれか一項に記載の電池状態検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の状態を検知する電池状態検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、二次電池の出力電圧が所定の電圧安定期間以上継続しているときに、その出力電圧を二次電池の開放電圧とみなして、開放電圧と残存容量との間の特性に基づいて、二次電池の残存容量を推定する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、「バッテリ電流の変化に伴うバッテリ電圧の変化は一定の遅れをもっており、緩和時間と呼ばれる一定時間の経過後に、バッテリ電圧が安定する」と記載されている。
【0003】
このように、リチウムイオン電池などの二次電池の特性として、その充電率と開放電圧との間に高い相関関係があることが知られており、その相関関係を利用して、二次電池の充電率を推定することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−178215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、同一の残容量(又は、充電率)であっても、充電後に無負荷状態にした場合と放電後に無負荷状態にした場合とを比較すると、時間が数日の単位で経過しなければ、二次電池の開放電圧が一致しないことが、実測の結果明らかになった。したがって、例えば、放電後の開放電圧と充電率との相関関係を基準に、充電後の開放電圧から充電率を求めると、その求めた充電率に大きな誤差が含まれるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、二次電池の充電率を精度良く算出することができる、電池状態検知装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る電池状態検知装置は、
二次電池の開放電圧を検出する電圧検出手段と、
前記電圧検出手段によって検出された前記二次電池の充電後の開放電圧を、前記二次電池の充電後の開放電圧と前記二次電池の充電率との関係を示す第1の電池特性に適用して、前記充電率を算出し、前記電圧検出手段によって検出された前記二次電池の放電後の開放電圧を、前記二次電池の放電後の開放電圧と前記二次電池の充電率との関係を示す第2の電池特性に適用して、前記充電率を算出する、充電率算出手段とを備え、
前記充電率算出手段は、前記二次電池の充電後の無負荷状態での放電容量が第1の基準容量以上である場合、前記第2の電池特性の適用を選択して、前記充電率を算出する、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二次電池の充電率を精度良く算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態である電池状態検知装置20を備える電池監視システム1の全体構成図である。
図2】「開放電圧−充電率」との相関関係を表す実測データである。
図3】放電側テーブル及び充電側テーブルの適用期間を示した図である。
図4A】演算部24の動作フローを示した図である。
図4B】演算部24の動作フローを示した図である。
図5】「開放電圧−周囲温度」特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態の説明を行う。図1は、本発明の一実施形態である電池状態検知装置20を備える電池監視システム1の全体構成図である。電池監視システム1は、二次電池10と、二次電池10の状態を検知する電池状態検知装置20とを備える。二次電池10の具体例として、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池などが挙げられる。電池状態検知装置20は、電圧検出器21と、温度検出器22と、メモリ23と、演算部24とを備える。電池状態検知装置20は、二次電池10の充放電電流(入出力電流)を検出する電流検出器27を備えていてもよい。電圧検出器21などの電池状態検知装置20のこれらの構成要素は、例えば、集積回路によって構成されている。
【0011】
電圧検出器21は、二次電池10の出力電圧を検出する電圧検出手段である。電圧検出器21は、二次電池10の出力電圧の検出データを演算部24に出力する。また、電圧検出器21は、二次電池10の充放電電流(入出力電流)が少なくとも所定の第1の閾値(例えば、零又は零より僅かに大きい値)以下の状態での二次電池10の出力電圧を、二次電池10の開放電圧として、検出する。また、電圧検出器21は、安定した二次電池10の両極間を開放して又はハイインピーダンスで測定した両極間電圧、又は二次電池10と電池状態検知装置20が接続される外部機器(例えば、携帯電話やゲーム機などの携帯機器)の待機状態電流(例えば、1mA以下)の負荷で測定した両極間電圧を、二次電池10の開放電圧として、検出してもよい。
【0012】
温度検出器22は、二次電池10の周囲温度Taを検出する温度検出手段である。温度検出器22は、二次電池10の周囲温度Taの検出データを演算部24に出力する。温度検出器22は、周囲温度Taとして、二次電池10自体の温度を検出するものでもよい。
【0013】
演算部24は、電圧検出器21による電圧検出データと温度検出器22による温度検出データとメモリ23に予め記憶された二次電池10固有の電池特性とに基づいて、二次電池10の残容量状態(特には、充電率)を推定する推定手段である。演算部24の具体例として、中央演算処理装置などを内蔵するマイクロコンピュータが挙げられる。二次電池10の電池特性を特定するための特性パラメータを保持するメモリ23の具体例として、EEPROM、フラッシュメモリなどが挙げられる。
【0014】
演算部24は、二次電池10の出力電圧の安定に要する安定待ち時間Tを算出する安定待ち時間算出手段として、安定待ち時間算出部26を備える。安定待ち時間Tは、二次電池10の放電電流(又は、充電電流でもよい)が所定の第1の閾値(例えば、零又は零より僅かに大きい値)以下になってから二次電池10の単位時間当たりの電圧変化量が所定の第2の閾値(例えば、零又は零より僅かに大きい量)以下になるまでの待機時間である。つまり、二次電池10の出力電圧が安定している電圧安定状態は、二次電池10の放電電流(又は、充電電流でもよい)が所定の第1の閾値以下である状態が安定待ち時間T以上継続している状態に相当する。安定待ち時間算出部26は、例えば、二次電池10の出力電圧、充放電電流及び周囲温度などの検出値、並びにこれらの検出値に基づき導出可能な容量保持率(劣化率)の算出値の少なくともいずれか一つに基づき、演算部24のタイマー(計時手段)によって、電圧安定状態に遷移するまでの安定待ち時間Tを算出すると好適である。安定待ち時間Tの算出方法は、周知の方法を用いることができ、特に限定しなくてもよい。
【0015】
また、演算部24は、電圧検出器21によって検出された二次電池10の充電後の開放電圧を、二次電池10の充電後の開放電圧と二次電池10の充電率との関係を示す第1の電池特性に適用して、二次電池10の充電率を算出し、電圧検出器21によって検出された二次電池10の放電後の開放電圧を、二次電池10の放電後の開放電圧と二次電池の充電率10との関係を示す第2の電池特性に適用して、二次電池10の充電率を算出する、充電率算出手段である。第1の電池特性を特定するための第1の特性データと第2の電池特性を特定するための第2の特性データが、メモリ23に予め記憶されている。
【0016】
充電率とは、その時点での二次電池10の満充電容量を100としたときに二次電池10の残容量の割合を百分率で表したものをいう。充電率を算出するために必要な「開放電圧−充電率」の相関関係を示した電池特性は、補正テーブルや補正関数によって表される。補正テーブル内のデータや補正関数の係数が特性データとしてメモリ23に格納される。演算部24は、メモリ23から読み出された特性データを反映させた補正テーブルや補正関数に基づき、電圧検出器21によって測定された開放電圧に応じて、充電率の算出・補正を行う。
【0017】
「開放電圧−充電率」との相関関係について予め実測して得られた結果(図2参照)に基づいて決定された特性データが、メモリ23に格納される。図2において、特性グラフaは、残容量0mAhの状態から所定量(50mAh)充電するたびに所定時間(4時間)無負荷にすることを繰り返し行ったときの実測データである。特性グラフaに見られるように、充電中は両極間電圧が上昇し、4時間無負荷にしたa1,a2,a3・・・の状態では開放電圧が低下する。この場合、充電後の4時間無負荷状態における「開放電圧−充電率」の情報が、二次電池10の充電後の充電率毎の開放電圧データとして、メモリ23に記憶される。なお、特性グラフcは、充電後の4時間無負荷状態における開放電圧を結んだものである。
【0018】
一方、特性グラフbは、満充電の状態から所定量(50mAh)放電するたびに所定時間(4時間)無負荷にすることを繰り返し行ったときの実測データである。特性グラフbに見られるように、放電中は開放電圧が低下し、4時間無負荷にしたb1,b2,b3・・・の状態では開放電圧が上昇する。この場合、放電後の4時間無負荷状態における「開放電圧−充電率」の情報が、二次電池10の放電後の充電率毎の開放電圧データとして、メモリ23に記憶される。なお、特性グラフdは、放電後の4時間無負荷状態における開放電圧を結んだものである。特性グラフdは、満充電の状態から3mAで常時放電したときの特性グラフeにほぼ重なっている。
【0019】
なお、上述の充放電容量50mAh、無負荷時間4時間については、システムの処理方法に応じて最適な値にするとよい。
【0020】
メモリ23に記憶される充電後の充電率毎の開放電圧データと放電後の充電率毎の開放電圧データは、いずれも、測定して得られた電圧データであってもよいが、充電後の充電率毎の開放電圧データと放電後の充電率毎の開放電圧データのいずれか一方が、もう一方との差分で特定された電圧データによって表されるものでもよい。すなわち、いずれか一方の開放電圧データは、その測定電圧の値をそのままメモリ23に格納しなくてもよい。これにより、メモリ23に要求される記憶容量を削減できる。演算部24は、いずれか一方の開放電圧データともう一方の差分電圧データとに基づいて、当該もう一方の開放電圧データを演算できる。
【0021】
特性グラフaと特性グラフbとの充電率毎の差電圧が、充電後の開放電圧データと放電後の開放電圧データとの差分の電圧データに相当する。例えば、充電後の開放電圧データを測定電圧データとして記憶し、放電後の開放電圧データを差分電圧データとして記憶する。その逆でもよい。図2に示されるように、開放電圧の絶対値が数V単位であるのに対して、差電圧は数十mV単位である。したがって、充電後と放電後のいずれか一方の開放電圧データを差電圧データで記憶することによって、充電後と放電後の両方の開放電圧をその絶対値で記憶する場合に比べて、メモリ23の記憶容量の必要量を大きく削減することができる。
【0022】
次に、演算部24が充電率を算出する際の処理方法について説明する。演算部24は、例えば、二次電池10の充電終了時点からの放電容量及び二次電池10の充電終了時点からの経過時間に応じて、充電後の充電率毎の開放電圧データ群が記憶される「充電側テーブル」と放電後の充電率毎の開放電圧データ群が記憶される「放電側テーブル」のいずれか一方を選択する。そして、選択したテーブルに基づいて、充電率を算出する。図3は、充電側テーブル又は放電側テーブルが選択適用される期間を示した図である。二次電池10の充電期間は、充電開始時点t1から充電終了時点t2までの期間に相当する。
【0023】
演算部24は、図3(a)に示されるように、充電終了時点t2後、無負荷又は微放電により所定の基準容量A1以上の放電が発生しない状況で二次電池10の出力電圧が安定していると判断された場合(例えば、充電終了時点t2から電圧安定時点t3までの期間(すなわち、上述の安定待ち時間T)が経過した場合)、電圧検出器21によって検出される開放電圧は「充電後の開放電圧」であるとして、充電側テーブルに基づいて充電率を算出する。
【0024】
ただし、充電終了時点t2後の負荷状態が必ず無負荷になるとは限らず、二次電池10を電源とする不図示の外部機器(例えば、携帯電話、ゲーム機など)によっては、数mA程度の消費電流が流れ続ける微放電の状態になる場合もある。そのため、充電終了時点t2からある程度の時間が経った時点で検出される開放電圧を「充電後の開放電圧」として取り扱うことは、不適当と考えられる。そのため、充電側テーブルに基づいて充電率を算出してもよい期間は、充電終了時点t2からの経過時間が所定の基準時間A2未満であることが必要である。
【0025】
なお、基準容量A1及び基準時間A2は、二次電池10のセルの特性、二次電池10から給電される外部機器の消費電流に応じて決定されるとよい。
【0026】
また、演算部24は、充電終了時点t2後に基準容量A1以上の放電が発生した場合、一定の放電量又は放電時間が発生しなければ、放電側テーブルと充電側テーブルのどちらのテーブルを基準にすれば正確な充電率を算出できるのか判別しにくい。そこで、例えば、演算部24は、充電終了時点t2後に二次電池10のセルの特性等に応じた一定の放電容量(例えば、基準容量A1よりも大きい基準容量B1)又は放電時間(例えば、基準時間A2よりも長い基準時間B2)が発生するまで、二次電池10の出力電圧から充電率を算出する処理を中止することによって、充電率の算出誤差が大きくなることを防止できる。
【0027】
また、演算部24は、図3(a)に示されるように、充電終了時点t2後、微放電により一定の放電容量(例えば、基準容量B1)が発生した後に(又は、充電終了時点t2からの経過時間が所定の基準時間B2以上経過した後に)二次電池10の出力電圧が電圧安定開始時点t3以後でも依然安定している場合、電圧検出器21によって検出される開放電圧は「放電後の開放電圧」であるとして、放電側テーブルに基づいて充電率を算出する。また、演算部24は、図3(b)に示されるように、充電終了時点t12後、微放電を超える大きな放電(t13〜t14)により一定の放電容量(例えば、基準容量B1)が発生した後に(又は、充電終了時点t2からの経過時間が所定の基準時間B2以上経過した後に)二次電池10の出力電圧が電圧安定開始時点t15以後でも依然安定している場合、電圧検出器21によって検出される開放電圧は「放電後の開放電圧」であるとして、放電側テーブルに基づいて充電率を算出する。なお、図3(b)において、放電終了時点t14から電圧安定開始時点t15までの期間が、上述の安定待ち時間Tに相当する。
【0028】
図4A,4Bは、二次電池10の充電率の算出処理フローである。演算部24は、所定の第1の閾値以下の二次電池10の充放電電流が検出された場合、本フローに従った動作を開始する。
【0029】
演算部24は、電圧検出器21によって二次電池10の出力電圧を開放電圧として測定する(ステップS11)。また、演算部24は、電流検出器27によって二次電池10の充放電電流を測定する(ステップS13)。また、演算部24は、温度検出器22によって二次電池10の周囲温度を測定する(ステップS15)。ステップS11から15は、この順番に限らなくてよい。
【0030】
安定待ち時間算出部26は、二次電池10の周囲温度Taと充放電電流の少なくともいずれか一方が、既に算出済みの安定待ち時間Tの経過前に所定の基準を超える変動をした場合、その変動に伴い変化した値を使って安定待ち時間Tを再度上述したように算出し直して、安定待ち時間Tのレジスタ値をその再算出値に更新する(ステップS17〜23)。
【0031】
例えば、一定期間内に基準値を超えた温度が検出された場合、その検出後の時点で必要な安定待ち時間Tを再設定する。二次電池10の周囲温度の変動が安定しても二次電池10自体の温度が安定するまでにはタイムラグがあるため、測定した開放電圧や電池温度等の電池状態は安定していないことがある。したがって、周囲温度Taや充放電電流が変動する前の周囲温度Ta等の電池状態に基づいて二次電池10の残容量状態を推定することにより、その推定誤差が拡大するおそれがある。しかしながら、ステップS17〜23のように安定待ち時間Tを延長することによって、このような推定誤差の拡大を抑えることができる。このように、温度変化等を検出した場合に安定待ち時間Tを延長することで、より正確な開放電圧や周囲温度等の電池状態を測定することができ、後述の充電率の算出時期を遅らせて、算出される充電率の精度を向上させることができる。
【0032】
例えば、ステップS17において、所定の第1の閾値以下の二次電池10の充放電電流が検出されてから一定時間の間に基準値を超えた周囲温度Taの変動が検出された場合、安定待ち時間算出部26は、既に算出済みの容量保持率Kとその変動後の周囲温度Taに対応する安定待ち時間Tを再算出し、その再算出値にレジスタ値を更新する(ステップS19)。
【0033】
また、例えば、ステップS21において、所定の閾値以上の二次電池10の充放電電流が流れることは安定待ち時間Tを再計算する条件であり、容量保持率Kの変動要因にもなりうるので、安定待ち時間算出部26は、既に測定済みの周囲温度Kとその変動後の容量保持率Kに対応する安定待ち時間Tを再算出し、その再算出値にレジスタ値を更新する(ステップS23)。
【0034】
演算部24は、ステップS17,S21において、二次電池10の周囲温度Taと充放電電流のいずれも所定の基準を超えない場合(例えば、一定の範囲内の変動である場合)、安定待ち時間Tのレジスタ値を所定値だけ減算し(ステップS25)、安定待ち時間Tが経過したか否か、すなわち、安定待ち時間Tのレジスタ値が零になったか否かを判断する(ステップS27)。安定待ち時間Tが経過していなければ、本フローの最初に戻る。
【0035】
安定待ち時間Tが経過していれば、演算部24は、メモリ23に予め格納された「開放電圧−周囲温度」特性(図5)を示す特性データに基づき、安定待ち時間T以後の電圧安定状態で測定された周囲温度(又は、ステップS15で測定された周囲温度)に応じて、安定待ち時間T以後の電圧安定状態で測定された開放電圧(又は、ステップS11で測定された開放電圧)を25℃条件に補正する(ステップS29)。「開放電圧−周囲温度」特性(図5)は、25℃を基準とする各温度における開放電圧のオフセット量を示している。図5には、二次電池10の充電率毎の開放電圧のオフセット量が示されている。これにより、開放電圧を温度で補正することができ、充電率の算出誤差の増加を抑えることができる。
【0036】
図4Bにおいて、演算部24は、充電終了時点からの放電容量が所定の第1の基準容量B1以上であるか否かを判断する(ステップS31)。演算部24は、基準容量B1以上であると判断した場合、図3(b)に示されるように、充電終了時点t2後に大きな放電が発生し、その発生後に無負荷又は微放電の負荷状態が継続することにより出力電圧がタイミングt15で安定したとして、放電後の充電率と開放電圧との関係が特定された「放電側テーブル」を充電率算出用テーブルとして選択する(ステップS33)。
【0037】
演算部24は、メモリ23に格納された「放電側テーブル」を示す特性データに基づいて、ステップS29で25℃条件に補正された開放電圧に対応する充電率を、二次電池10の残容量状態として算出し、充電率のレジスタ値を当該算出値に更新する(ステップS43)。
【0038】
一方、ステップS31において、演算部24は、基準容量B1以上でないと判断した場合、充電終了時点からの放電容量が所定の第2の基準容量A1未満であるか否かを判断する(ステップS35)。基準容量A1は、基準容量B1よりも小さい値である。演算部24は、基準容量A1未満でないと判断した場合、充電終了時点t2からの放電量が大きく、電圧検出器21によって検出される開放電圧が放電後の開放電圧なのか充電後の開放電圧なのかを区別しにくいとして、充電率のレジスタ値の更新を実施しない。
【0039】
ステップS35において、演算部24は、基準容量A1未満であると判断した場合、充電終了時点からの経過時間が所定の第1の基準時間B2以上か否かを判断する(ステップS37)。演算部24は、基準時間B2以上と判断した場合、電圧検出器21によって検出される開放電圧は「放電後の開放電圧」であるとして、放電側テーブルを充電率算出用テーブルとして選択する(ステップS33)。この後のステップS43の処理は、上述と同様である。例えば、図3(a)の状況であれば、基準時間B2の経過時点t5から電圧不安定時点t6までの期間に放電側テーブルが選択され、図3(b)の状況であれば、電圧安定時点t15から電圧不安定時点t16までの期間に放電側テーブルが選択される。電圧不安定時点t6又はt16は、充放電電流が、開放電圧が不安定とみなすことができる所定値を超える時点である。
【0040】
一方、ステップS35で基準容量A1未満と判断した演算部24は、ステップS37において、基準時間B2未満と判断した場合、充電終了時点からの放電容量が所定の第2の基準時間A2未満であるか否かを判断する(ステップS39)。基準時間A2は、基準時間B2よりも短い長さである。演算部24は、基準時間A2未満でないと判断した場合、充電終了時点t2からの経過時間が長く、電圧検出器21によって検出される開放電圧が放電後の開放電圧なのか充電後の開放電圧なのかを区別しにくいとして、充電率のレジスタ値の更新を実施しない。
【0041】
ステップS39において、演算部24は、基準時間A2未満であると判断した場合、電圧検出器21によって検出される開放電圧は「充電後の開放電圧」であるとして、充電側テーブルを充電率算出用テーブルとして選択する(ステップS41)。例えば、図3(a)の状況であれば、電圧安定時点t3から、基準時間A2の経過時点t4までの期間に充電側テーブルが選択される。
【0042】
演算部24は、メモリ23に格納された「充電側テーブル」を示す特性データに基づいて、ステップS29で25℃条件に補正された開放電圧に対応する充電率を、二次電池10の残容量状態として算出し、充電率のレジスタ値を当該算出値に更新する(ステップS43)。
【0043】
したがって、上述の実施例によれば、充電後の開放電圧と放電後の開放電圧を区別して測定し、充電率算出用テーブルとして充電側テーブルと放電側テーブルを選択的に適用することによって、充電後と放電後の状態にかかわらず、常に正確な充電率を算出することができる。
【0044】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形、改良及び置換を加えることができる。
【0045】
例えば、図2において、充電後の無負荷状態での特性グラフc及び/又は放電後の無負荷状態での特性グラフdを、カーブフィット処理によって多項式の近似モデル関数によって表し、その多項式の各係数をメモリ23に予め記憶しておいてもよい。これにより、充電率毎の開放電圧データをそのまま記憶する場合に比べて、メモリ23の記憶容量を削減できる。
【符号の説明】
【0046】
1 電池監視システム
10 二次電池
20 電池状態検知装置
21 電圧検出器
22 温度検出器
23 メモリ
24 演算部
26 安定待ち時間算出部
27 電流検出器
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5