特許第5732819号(P5732819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5732819未加硫ゴム部材および未加硫タイヤ圧着装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5732819
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】未加硫ゴム部材および未加硫タイヤ圧着装置
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/30 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
   B29D30/30
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-251197(P2010-251197)
(22)【出願日】2010年11月9日
(65)【公開番号】特開2012-101426(P2012-101426A)
(43)【公開日】2012年5月31日
【審査請求日】2013年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147740
【弁理士】
【氏名又は名称】保坂 俊
(72)【発明者】
【氏名】玉井 裕基
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−286018(JP,A)
【文献】 特開2005−066850(JP,A)
【文献】 特開2005−014310(JP,A)
【文献】 特開2001−219478(JP,A)
【文献】 特開昭61−297129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00 − 30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)切り欠き部を有するプレート、
2)前記プレートを上昇および下降させる手段(上下移動手段)、
3)前記切り欠き部を有するプレートと相対するように配置され、案内溝15を有するガイド、
4)前記ガイドを上昇および下降させる手段(上下移動手段、および
5)前記プレートの切り欠き部および前記ガイドの案内溝の両方を通り、
前記プレートおよび前記ガイド移動可能に連結した軸を付設固定した支持板を有し、かつ前記支持板の一端に押圧部を設けた支持部
とから少なくとも構成され、
前記ガイドの案内溝は水平方向の溝であり、前記軸は前記案内溝に沿って水平方向に移動することができ、
前記プレートの切り欠き部は前記案内溝に対して斜め方向に傾いており、前記軸は前記切り欠き部に沿って水平方向に対して斜め上方または斜め下方方向へ移動することができることを特徴とし、
前記押圧部が、成形ドラムに取り付けられた未加硫ゴム部材および/または未加硫タイヤを圧着する際に、前記押圧部の移動方向が前記未加硫ゴム部材および/またはタイヤの幅手方向となるように、前記未加硫ゴム部材および/または未加硫タイヤが配置されたことを特徴とする未加硫ゴム部材並びに未加硫タイヤの圧着装置。
【請求項2】
前記1)のプレートに前記2)の上下移動手段を結合し、この上下移動手段と前記3)のガイドを一つのフレームに結合固定し、前記4)の上下移動手段により、このフレーム全体を上昇および下降させるようにし、これによって、前記押圧部を上下方向および水平方向に移動可能としたことを特徴とする請求項1に記載の未加硫ゴム部材並びに未加硫タイヤの圧着装置。
【請求項3】
前記案内溝は水平方向に矩形状に形成された溝であることを特徴とする請求項1または2に記載の未加硫ゴム部材並びに未加硫タイヤの圧着装置。
【請求項4】
前記切り欠き部断面の底辺は、水平方向に対して斜め方向に一定角度で傾いた勾配をつけた直線状であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の未加硫ゴム部材並びに未加硫タイヤの圧着装置。
【請求項5】
前記切り欠き断面の底辺の傾き角度は、30度〜50度であることを特徴とする、請求項4に記載の未加硫ゴム部材並びに未加硫タイヤの圧着装置。
【請求項6】
押圧部は回転自在のローラーであり、未加硫ゴム部材並びに未加硫タイヤの周方向に1つまたは複数配置されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の未加硫ゴム部材並びに未加硫タイヤの圧着装置。
【請求項7】
前記複数配置されたローラーは、円弧状マルチローラーであり、前記円弧状マルチローラーが描く曲率がトレッド端部〜ショルダー部分のタイヤ周方向の曲率に等しいことを特徴とする、請求項6に記載の未加硫ゴム部材並びに未加硫タイヤの圧着装置。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかの項に記載の圧着装置を用いて、少なくとも、未加硫タイヤのトレッド部〜ショルダー部を押圧部によってタイヤ幅手方向に圧着する工程、押圧部を未加硫タイヤから離隔させる工程、未加硫タイヤまたは圧着装置のいずれかをタイヤ周方向に回転させる工程、および、回転を止めた位置でトレッド部〜ショルダー部をタイヤ幅手方向に圧着する工程、を含むことを特徴とする未加硫タイヤの圧着方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかの項に記載の圧着装置を未加硫タイヤの周囲に複数台並べて、少なくとも、未加硫タイヤのトレッド部〜ショルダー部を押圧部によってタイヤ幅手方向に圧着する工程、押圧部を未加硫タイヤから離隔させる工程、未加硫タイヤまたは圧着装置のいずれかをタイヤ周方向に回転させる工程、および、回転を止めた位置でトレッド部〜ショルダー部をタイヤ幅手方向に圧着する工程、を含むことを特徴とする未加硫タイヤの圧着方法。
【請求項10】
少なくとも、未加硫タイヤのトレッド部〜ショルダー部を押圧部によってタイヤ幅手方向にその幅手方向断面外形の形状に合うように圧着する工程、押圧部を未加硫タイヤから離隔させる工程、未加硫タイヤまたは圧着装置のいずれかをタイヤ周方向に回転させる工程、および、回転を止めた位置でトレッド部〜ショルダー部をタイヤ幅手方向に圧着する工程からなり、前記工程における押圧部の動作を、前記2)および前記4)の2つの上下移動手段の動作を調整することによって行うことを特徴とする請求項8または9に記載の未加硫タイヤの圧着方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未加硫ゴム部材同士並びに未加硫タイヤのトレッド部からショルダー部を圧着する装置(ステッチャーとも呼ぶ)および方法に関するものであり、特に本発明は、押圧による未加硫ゴム部材や未加硫タイヤの変形を抑えることにより、部材の寸法精度を向上させると共に、タイヤの品質を向上させつつ、且つ、簡易で低コストの圧着方法と圧着装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤに使用される未加硫ゴム部材同士の圧着においては、過度な荷重を掛けることにより未加硫ゴム部材が変形する場合がある。未加硫ゴム部材同士を貼り合わせたり、未加硫ゴム部材を円筒状に積層した場合でも、押圧が過度であれば、未加硫ゴム部材の厚さが不均一になる。また、成形ドラム上にて未加硫タイヤのトレッド部からショルダー部を圧着する場合においても、押圧が過度であれば未加硫タイヤが変形し、加硫工程で加硫故障を生じたり或いは製品タイヤのユニフォミティが悪化するなどの問題を生ずる。逆に、押圧が低すぎると密着性が不充分となり加硫工程へ進むまでの間に、圧着した部位が剥がれたり位置がずれたりするなどの問題が発生する。また、未加硫タイヤの形状がサイズ毎に変化するため、これに合わせるために圧着装置の制御が複雑となり装置も大型化してコスト高となりやすい。
【0003】
図6は、一般的なラジアルタイヤの成形工程において、未加硫タイヤ基体301とトレッドリング302を圧着する様子を示した図である。ここで、未加硫タイヤ基体301は、カーカス306、サイドウォール307、ビード308等から構成され、トレッドリング302は、トレッド304とベルト305を貼り合わせたものである。従来方法では、この図に示すように、トロイダル状に膨張させた未加硫基体301と円環状のトレッドリング302をステッチャーロールと呼ばれるロール303a、303bを用いて圧着する。圧着はステッチャーロール303a、303bをトレッドリング302に押し当て、未加硫タイヤ基体301を回転させながら、ステッチャーロール303a、303bをタイヤ軸方向外方かつ半径方向内方に徐々に移動させることにより、全体を貼り付ける。即ち、従来の未加硫タイヤ基体301へのトレッドリング302の圧着は、ステッチャーロール303a、303bを用いてタイヤ周方向へ圧着するものであった。この場合、トレッドが周方向へ伸びて、伸びた部分のトレッドが薄くなる一方、ゴムが集積された部分は厚くなって、トレッド部材の厚みが周方向に不均一となる。また、未加硫タイヤ基体301とトレッドリング302間にエアー溜りができ、加硫故障を起こしたり、走行中に破壊の起点となったり、或いはタイヤのユニフォミティが悪化するといった問題を生じやすい。
【0004】
また、上述のようにタイヤ周方向に押圧すると、未加硫タイヤ基体301が周方向に変形し、コードウェーブと呼ばれる不良を生じやすい。このようなコードウェーブが発生すると、ビードとビードとの間のカーカス長さにバラツキが生じ、タイヤをインフレートした時に、タイヤの振れやバランスを悪化させてタイヤ性能に悪影響を与えるという問題がある。特に冬場は、ゴムが硬くなりゴムの粘着性も低下するため、より強い力で押圧することが多くなり、これらの問題が生じやすく、圧着した部分が加硫前に剥がれるという問題も発生しやすくなる。
【0005】
これらの問題の改良として、圧着用ホイールを、支持ロッドに対して回転自在に嵌挿された複数枚の圧着ホイール板と、それらの両側を規制するサイドプレートから構成し、圧着ホイール板と支持ロッドとの間に、圧着ホイール板を径方向に付勢する弾性部材を介設することによって、圧着用ホイールがタイヤの成形ドラム軸方向に沿って移動しながらタイヤ構成部材の接合部を圧着する装置が提案されている。(特許文献1)これは、継ぎ目を有する未加硫ゴム部材をその段差形状に沿って圧着可能とする目的から、圧着ローラーを複数枚のプレートとし、個々のプレートにバネおよび/または弾性体を付設し、個々のプレートの回転中心が継ぎ目の形状に沿って変化するように構成したところに特徴がある。
【0006】
成形ドラムの軸方向にローラーを押圧移動してエアー抜きをする際に、周方向に複数の押え部材で一端側を押えて、周方向にジグザグ配置された複数のローラーを中央部から他端部へ押圧移動し、次いでローラーを中央部へ戻し、他端側を押えて、ローラーを一端側へ押圧移動して、環状部材の1/3周分を圧着し、ドラム1/3周割り出し後、上記動作を繰り返して、確実に効率よくエアー抜きをすると共に部材相互を圧着する装置が提案されている。(特許文献2)これは、円筒状に積層した未加硫ゴム部材間のエアー抜きを目的に、部材の一方の端部を押さえつけて圧着ロールを移動させることによって、エアー抜きと未加硫ゴム部材の変形を減少させた点に特徴がある。
【0007】
さらに、バンドトランスファーにリング状部材を連接し、このリング状部材に、周方向に複数の圧着ローラーを配設し、バンド取り出しに際し、バンドドラムに嵌装されるに伴い、バンドを成形ドラム軸方向に圧着してコードウェーブの発生を防止する圧着装置が提案されている。(特許文献3)これは、成形ドラムより大径のリング状フレームに圧着ロールを設置した点に特徴がある。
【0008】
環状基体の両側に内径側に開口したV字状の環状ガイド板を設け、円環状のゴムチューブ体を収納することにより、チューブ体を膨出してベルト及びトレッドのショルダー部を未加硫タイヤに圧着する装置が提案されている。(特許文献4)これは、ベルト及びトレッドを未加硫タイヤ基体に圧着する部材をゴムチューブとした点に特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−297129
【特許文献2】特開平06−286018
【特許文献3】特開2005−066850
【特許文献4】特開2005−014310
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
圧着ロール等でタイヤの周方向に押圧する方法は、未加硫ゴム部材の貼り合わせにおいても、成形ドラム上にゴムシートを積層した場合でも、また、成形ドラム上にて未加硫タイヤのトレッド部からショルダー部を押圧する場合でも、タイヤ周方向のゴム厚を一定に維持することが難しいという問題がある。タイヤ周方向のゴム厚が一定にならないと、タイヤのユニフォミティへ悪影響を及ぼすという問題がある。また、カーカスコードがコードウェーブを起こすと、タイヤの振れやバランスを悪化させてタイヤ性能に悪影響を与えるという問題がある。また、特に冬場は、ゴムが硬くなりゴムの粘着性も低下するため、より強い力で押圧することが多くなり、これらの問題が発生しやすい。そして、トレッドなど剛性の大きな部材の場合、圧着が弱いと圧着した部分が加硫前に剥がれるという問題も生じる。
【0011】
また、タイヤ周方向に圧着すると、部材間の段差にエアーが溜りやすく、加硫後にエアーが残った場合は、走行中にエアー溜り部分が破壊の起点になりやすいという問題もある。
そのため、タイヤの幅手方向(成形ドラム軸方向)に圧着することが試みられているが、装置が複雑な場合や、タイヤサイズ毎に装置を動作させる制御を頻繁に変更するケースでは、工数の増加とメンテナンス時間の増加と追加費用がかさむという問題がある。また、装置が大型になると、装置の価格が高額になると共に、サイズ段替え時の作業性が劣る場合が多い。更に、常に一定の圧力で圧着する点においても不充分であり問題となっている。此れまでの方法は、上記の問題に対して充分に対応できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以上の課題を解決するために、小型且つ簡易な装置にて、タイヤの幅手方向(成形ドラム軸方向)に圧着することにより、未加硫ゴム部材や未加硫タイヤの変形を抑えて部材の寸法精度を向上させると共に、タイヤの品質を向上させることが可能な低コストの圧着装置を提供するものである。特に、未加硫タイヤのトレッド部及びショルダー部の成形ドラム軸方向掛け圧着装置(ステッチャー)として有用である。より具体的には、本発明の圧着装置とその圧着方法は下記(1)〜(3)の構成から成る。
【0013】
(1)本発明の基本的な構成は、1)切り欠き部を有するプレートと、2)前記プレートを上昇・下降させる手段(上下移動手段)と、3)切り欠き部を有するプレートと相対するように配置された案内溝を有するガイドと、4)前記ガイドを上昇・下降させる手段(上下移動手段)と、5)この切り欠き部を通り前記ガイドに移動可能に連結した軸を支持板に付設固定し、前記支持板の一端に押圧部を設けた支持部とから成り、未加硫ゴム部材においても未加硫タイヤにおいても、これらを圧着する際に、押圧部の移動方向が、タイヤとしての幅手方向となるように配置されたことを特徴とする未加硫ゴム部材並びに未加硫タイヤの圧着装置である。そして、本発明は、前記1)のプレートに前記2)の上下移動手段を結合し、この上下移動手段と前記3)のガイドを一つのフレームに結合固定し、前記4)の上下移動手段により、このフレーム全体を上昇・下降させるように構成するのが望ましい。
【0014】
また、本発明の圧着装置は、上記(1)に加えて下記(2)の構成を含んでも良い。
(2)押圧部の移動を、部材の形状、または、未加硫タイヤのトレッド部〜ショルダー部の形状に合わせる為に、前記切り欠き部断面の底辺を勾配をつけた直線状とし、前記案内溝を有するガイドを直線状とする。
【0015】
さらに、本発明は以下の(3)を特徴とする未加硫タイヤの製造方法である。
すなわち、(3)本発明は、上記(1)または(2)のいずれかの圧着装置を用いて、未加硫タイヤのトレッド部〜ショルダー部を、押圧部によってタイヤ幅手方向に圧着し、押圧部を未加硫タイヤから離隔させ、未加硫タイヤまたは圧着装置のいずれかをタイヤ周方向に回転させた後、同様にトレッド部〜ショルダー部をタイヤ幅手方向に圧着する未加硫タイヤの製造方法である。本発明はまた、上記(1)または(2)のいずれかの圧着装置を未加硫タイヤの周囲に複数台並べて圧着する未加硫タイヤの製造方法である。本発明はまた、上記(1)または(2)のいずれかの圧着装置を、未加硫タイヤのトレッド部〜ショルダー部の断面外形の形状に合うように、前記2)と前記4)の2つの上下移動手段の動作を制御する未加硫タイヤの製造方法である。さらに本発明は、これらの方法による圧着を繰り返すことにより、トレッド部〜ショルダー部をタイヤ周方向全周にわたりタイヤ幅手方向に押圧する圧着方法である。
【発明の効果】
【0016】
上記(1)にかかる本発明により、積層した未加硫ゴム部材並びに成形ドラム上にて未加硫タイヤのトレッド部からショルダー部を一定の押圧で圧着することができる。すなわち、未加硫タイヤの厚みを所定の厚みとし、且つエアー溜りを無くすことができる。その結果、タイヤのユニフォミティが改善され、タイヤの破壊起点となるエアー溜りを減少させることができる。また、カーカスコードのコードウェーブを減少させることにより、タイヤの振れやバランスを改善することができる。更に、冬場にゴムが硬くなっても、適正な力で押圧することが可能になり、圧着した部分が加硫前に剥がれるという問題をなくすことができ、タイヤの品質を向上させることができる。さらに、小型で簡易な低コストの圧着装置を提供することができる。
【0017】
上記(2)にかかる本発明により、積層した未加硫ゴム部材や未加硫タイヤの場合、そのトレッド部からショルダー部にかけ、その形状に合わせてステッチャー部を移動させることができるので、未加硫ゴム部材や未加硫タイヤに過度の押圧をかけることなく、また、押圧が不足することもなく、適正な圧力で圧着することが可能となる。すなわち、後述するように、図2に示した、プレート13の切り欠き部10や案内溝19のように、これらの切り欠き部と案内溝の形状を圧着対象の形状に合うように組み合わせることにより、適正な一定圧力で圧着することができる。
【0018】
上記(3)にかかる本発明により、未加硫タイヤのトレッド部からショルダー部にかけて、その形状に合わせてタイヤの周方向に常に一定の圧力で圧着することができる。そして、この動作を繰り返すことにより、トレッド部からショルダー部をタイヤ周方向全周にわたって均一に圧着することができる。更に、上記(1)および(2)にかかる本発明の装置において、後述のように、タイヤサイズ毎に、2つの上下移動手段14、40のストローク量をあらかじめ圧着動作時間に合わせて設定しておけば、トレッド部からショルダー部をタイヤ周方向全周にわたって均一に圧着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の第1の実施形態を示す図である。
図2図2は、本発明の押圧部の実施形態を示す図である。
図3図3は、本発明の第1の実施形態における圧着動作例を示す図である。
図4図4は、本発明の第1の実施形態における上下移動手段の動作例(ストローク量)を示す図である。
図5図5は、本発明における圧着動作の制御を示す図である。
図6図6は、従来方法での未加硫タイヤの圧着例を示す図である。
図7図7は、圧着によるカーカスコードの変位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の未加硫タイヤの実施形態(製造工程)を簡潔に述べると、次のような構成となる。すなわち、少なくとも、未加硫タイヤのトレッド部〜ショルダー部を押圧部によってタイヤ幅手方向に圧着する工程、押圧部を未加硫タイヤから離隔させる工程、未加硫タイヤまたは圧着装置のいずれかをタイヤ周方向に回転させる工程、回転を止めた位置でトレッド部〜ショルダー部をタイヤ幅手方向に圧着する工程、そして、トレッド部〜ショルダー部をタイヤ周方向全周にわたって圧着する工程から成る。また、上記(1)、(2)のいずれかの圧着装置を未加硫タイヤの周囲に複数台並べて、上記の製造工程を構成するものである。更には、これらの工程における押圧部の動作を、前記2)と前記4)の2つの上下移動手段の動作を調整することから成る。このような構成とすることで、未加硫タイヤのトレッド部〜ショルダー部をタイヤの幅手方向に、タイヤ周方向全周にわたって均一に圧着することができる。以下に本発明の実施形態を詳細に述べる。
【0021】
図1は本発明の第1の実施形態を示す図である。1は本発明の圧着装置を示すが、通常は図3に示すように未加硫タイヤ周方向面に対して2台以上配置するが、ここでは説明のために1台だけ記載している。本発明の圧着装置1は、切り欠き部10を有するプレート13と、このプレート13を上昇・下降させる手段(以下、上下移動手段)14と、切り欠き部10を有するプレート13に相対するように配置された案内溝15を有するガイド16と、このガイド16の上下移動手段40と、この切り欠き部10とガイド16の案内溝15との両方を通る軸21を支持板20に付設固定し、この支持板20に座板22を設けて支持部とし、座板22に、固定板23と弾性体からなるクッション部26を有する固定部に、押圧部25をベアリング等から成る回転中心軸24を介した構成となっている。また、座板22は、例えばボルトとナットで支持板20への締付位置を変更することで、タイヤ幅手方向に取り付け位置を調整可能に構成されている。押圧部25は回転するローラーであり、金属、プラスチック、ウレタンまたは発泡体や硬質ゴムなど、未加硫タイヤに粘着し難く且つローラーとしての形状を保って部材に圧力を伝達可能なものなら特に限定されない。
【0022】
また、図1はフレーム17に、プレート13を上下移動手段14と、案内溝15を有するガイド16とを各々結合固定し、このフレーム17を上下移動手段40によりフレーム全体を上昇・下降することが可能な構成となっている。プレート13の切り欠き部10は矩形状に且つ一定角度傾いて形成されていて、軸21はこの切り欠き部内を動くことができるように作製されている。また、案内溝15は水平方向に矩形状に形成されている。ここで、上下移動手段14がプレート13を上昇させると、軸21は、切り欠き部10の矩形状の底辺11に押されて、見掛け上、底辺11を滑り降りるように動いて、案内溝15に沿って紙面の水平方向左側に移動することになる。軸21が水平方向に移動すると、軸21が付設された支持部に固定されている押圧部25も軸21と同時に水平方向に移動する。
【0023】
図1の圧着装置の上方には、未加硫タイヤ基体101とトレッドリング102から構成される未加硫タイヤ100が、成形ドラム(図示せず)にセットされている。未加硫タイヤ基体101は、カーカス110、サイドウォール111、ビード112等から構成される。また、トレッドリング102はトレッド113とベルト114を貼りあわせたものである。未加硫タイヤ基体101はトロイダル形状、トレッドリング102は円環状となっており、図1においては、未加硫タイヤ基体101を膨張させてトレッドリング102と接合させている。
【0024】
図1で、上下移動手段40を上昇させると、押圧部25が成形ドラムに取り付けられタイヤ基体101を押圧するので、トレッドリング102を未加硫タイヤ基体101へ圧着することができる。また、上下移動手段14を上昇させることによりプレート13が上昇し、軸21が、切り欠き部10の底辺11に押されてガイド16の案内溝15に沿って紙面左側へ水平移動する。その結果、軸21と結合している支持板20が軸21と同じく紙面左側へ水平移動し、押圧部25も同様に紙面左側へ水平移動する。従って、2つの上下移動手段14と40の上昇量を適宜制御することで、押圧部25を自由に上下移動および水平移動できるので、トレッドリング102を未加硫タイヤ基体101へ、未加硫タイヤ100の外形形状に合わせて圧着することができる。
【0025】
図4は、2つの上下移動手段14と40の動作を、時間に対する上昇量(ストローク量)として示した図である。図1において、記号Aはトレッドの幅手方向端部側の位置、記号Bはトレッドの台形状の角部の位置、記号Cは未加硫タイヤのショルダーのタイヤ径方向内側の終端位置を示す。ここで、A〜Bは略水平であり、B〜Cは曲線状となっている。
図4(a)は上下移動手段40の動作を示し、図4(b)は上下移動手段14の動作を示す。時間taは押圧部25がトレッドのAの位置に達した時刻、時間tbは押圧部がトレッドのBの位置に達した時刻、時間tcは押圧部がショルダーの終端部Cに達した時刻を示している。
【0026】
本発明の第1の実施形態を示す図1における2つの上下移動手段14と40の動作を、この図4を用いて示す。先ず上下移動手段40が決められた量だけ上昇して押圧部25が位置Aに達する。次に、位置A〜B間は略水平な為に上下移動手段40はその状態で静止し、上下移動手段14が時間tbまで上昇し続ける。この時、上下移動手段14の上昇量が時間に対して一定なら、図4(b)の時間ta〜tb間は略直線となる。次に押圧部25が位置Bを超えて位置Cに達するまでは、上下移動手段14の上昇量を一定とすれば図4(b)の時間tb〜tc間は直線状になるが、上下移動手段40は未加硫タイヤの位置B〜Cの曲線状に合うように徐々に上昇量を増加させる必要がある為、図4(a)に示したように時間tb〜tc間は曲線状となる。但し、上記のように上下移動手段14と40を動作させると、位置B〜C間での押圧速度が位置A〜B間より速くなる。位置B〜C間の押圧速度を位置A〜Bと同程度にするには、上下移動手段14を、図4(b)の破線で示したように時間tb〜tc間での速度を遅くすれば(すなわち、ストローク量の増加を小さくすれば)よい。
【0027】
上記のように、本発明の第1の実施形態は、2つの上下移動手段14と40の上昇量をタイヤサイズ毎に調整することで多くのタイヤサイズに適用できる。
【0028】
図1において、符号12で示した、切り欠き部10の底辺11の水平方向に対する角度は、タイヤサイズや圧着部の水平方向と垂直方向の長さ等に合わせて決めることができるが、30°〜50°が望ましい。角度が50°を超えると、上下移動手段14のストローク量に対する押圧部25の水平方向の移動距離が相対的に短くなりすぎてしまうのと、それによって、圧着作業時間が長くなりやすい。また、左右水平方向の距離が短くなり、トレッド〜ショルダー部にかけてステッチャーロールを転がすことが難しくなる。一方、角度が30°未満の場合は、切り欠き部10の底辺11が軸21を水平方向に移動させる力が相対的に弱まるので、これを補おうとして上下移動手段14への負荷を高く設定すると、切り欠き部10や案内溝15、そして軸21へかかる荷重が高くなるため、これらを強固に製作しておかなければならず、圧着装置のサイズや重量が大きくなりやすい。
【0029】
図2(a)は、複数のローラーを円弧状に配置した円弧状マルチローラー27を示す図である。複数のローラー28は回転軸29を中心に自由に回転することができ、フレーム30内に収納されて、回転自在な軸31を介して支持板32と連結している。ここで、支持板32は、図1および図2における支持板20に相当する部品である一方、図2(b)はこの円弧状マルチローラー27を本発明の押圧部としたことを示す図である。図2(b)は未加硫タイヤの側面図であり、ここで、未加硫タイヤ100は、トレッドリング102、サイドウォール111、ビード112等から構成される。この円弧状マルチローラー27が描く曲率(回転軸29の曲率に相当する)を、トレッド端部〜ショルダー部分のタイヤ周方向の曲率に合わせることにより、一回の押圧によって広い範囲を圧着できるので圧着時間を短縮することが可能となる。また、回転軸29に適度な柔軟性をもたせておけば、回転軸29の描く曲率を、圧着部のタイヤ周方向曲率に自動的に一致させることができる。回転軸29の材質は、金属やプラスチックなど、線条体として弾性を示すものであれば特に限定されず、軸線の直径を変えることでもその柔軟性を調整することができる。
【0030】
押圧部25は、金属、プラスチック、ウレタンまたは発泡体や硬質ゴムなど、未加硫タイヤに粘着し難く且つローラーとしての形状を保って部材に圧力を伝達可能なものなら特に限定されない。
【0031】
上下移動手段14および40としては、電動シリンダー、流体を利用した油圧や水圧シリンダー、エアーシリンダーなど、上昇・下降の運動を行えるものなら特に限定されない。
【0032】
図1及び図2に示したクッション部26は、押圧部25が未加硫ゴム部材や未加硫タイヤに過度の圧力をかけたり、或いは圧力不足を生じないように、常に一定の圧着力となるように伸縮することができるものである。クッション部26の材質はエラストマーやゴム、或いは金属製やプラスチック製バネなど弾性体であれば特に限定されない。また、このクッション部は必要に応じて使用することができる。
【0033】
また、ガイド16、18の案内溝15、19に流体を封じ込める方法がある。軸21がこれらの案内溝15、19に沿って移動する際、流体が案内溝15、19と軸21の間隙を通過するようにすることで、その潤滑作用により軸21が案内溝の中を滑らかに移動することができる。また、仮に、上下移動手段14の動作に変動があった場合においても、軸21の急激な動きに対しては流体が抵抗体となって軸21の急激な動きを緩和するように作用する。流体としては、鉱物油、動物油、植物油などの各種オイル、或いは液状のゴムなど、適度な流動性と粘稠性を有するものが望ましい。
【0034】
図3は、本発明の第1の実施例を用いて、未加硫タイヤの圧着動作を示した図である。未加硫タイヤ100は、成形ドラム(図示せず)にセットされている。圧着装置1aと1bはタイヤの幅手方向左右に配置され連動して動作する。図3(a)は圧着作業に入る時の圧着装置1aと1bの待機位置を示す。この段階では図3(a)に示すように押圧部25はタイヤのトレッド部とは接触していない。図3(b)は圧着開始位置を示す図であり、上下移動手段40が上昇してトレッドの所定位置に到達した時の圧着装置1aと1bの動作状態を示す。図3(c)は圧着動作の折り返し位置を示す図であり、上下移動手段14と40が、図4(b)の時間tb〜tcに示す動作によりトレッド端部からショルダー部を圧着終了した状態を示す。図3(d)は圧着を終えて押圧部25が未加硫タイヤから離隔した状態を示す。圧着は、この図のように(a)、(b)、(c)、(d)の順番に動作して待機位置(a)に戻った後、未加硫タイヤ100を所定量回転させて、次の圧着を行う。これを繰り返すことで、タイヤ周方向全周を圧着する。その際、圧着装置が未加硫タイヤの周囲に複数台あれば、圧着作業時間を短縮することができる。また、圧着装置1aと1bを未加硫タイヤの周方向面に対して鏡像対称に配置し、上記の一連の圧着動作を同時に行うことによって、1aと1bの押圧部は未加硫タイヤをその周方向面に対して鏡像対称に圧着するので、より安定した圧着作業を行うことができる。
【0035】
図5は、本発明における圧着動作の制御を示す図である。成形ドラムと圧着装置をコントロールする制御盤201から、圧着装置の上下移動手段14と40への指令が其々202と203のように指示される。成形ドラムへの指令は204で指示され、制御盤201が全体をコントロールする。これにより、図3で示した上下移動手段14と40の動作と成形ドラムの回転が制御される。
【0036】
【表1】
【0037】
図6に示した従来法によって作製したタイヤと本発明によって作製したタイヤのユニフォミティをRFV(ラジアルフォースバリエーション)により比較した。表1において、従来法のタイヤのRFV値を100としたときの本発明のRFV値を指数表示で示した。表1から分かるように、本発明のタイヤのRFVは従来法のタイヤのRFVより約46%改善(RFVが低減)し、タイヤのユニフォミティが向上した。カーカスコード乱れについては、格子模様のマーカー(いわゆる、升目シート)をカーカスに貼りつけて、圧着前後の格子模様カーカスコードの変位を画像処理で解析した。図7は、タイヤサイズ235/40R18の空気入りタイヤの圧着後のカーカスコードの位置変化を画像処理した結果を示した図である。横軸はタイヤの幅手方向を示すもので、数値0はクラウンセンターの位置であり、数値+−180がビード真下の位置である。縦軸は圧着前後のカーカスコードの変位量を指数表示したものである。表1に記したカーカスコード乱れの指数は、図7の変位量の標準偏差を計算し、比較例を基準にパーセントで表示したものである。指数が大きいほどカーカスコード乱れが大きくて悪化していることを示す。以上のように本発明を用いることで、未加硫タイヤのゲージを均一に維持し、トレッドリングと未加硫タイヤ基体間のエアー溜りを減少させ、且つ、カーカスコードの乱れを小さくすることでユニフォミティを向上させることができる。
【0038】
本発明を用いることにより、小型且つ簡易な装置とすることが可能となり、その制御も簡便なものとすることができる。そして、タイヤの幅手方向に圧着することにより、未加硫ゴム部材や未加硫タイヤの変形を抑えて寸法精度を向上させ、トレッドリングと未加硫タイヤ基体間のエアー溜りを減少させると共に、未加硫タイヤ中のカーカスコードの乱れも減少させて、タイヤのユニフォミティを向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、未加硫ゴム部材並びに未加硫タイヤの圧着に用いることができる。簡易な構成であり制御も簡単なことから、低コストな圧着装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0040】
1・・・圧着装置
10・・・切り欠き部
13・・・プレート
14・・・上下移動手段
15・・・案内溝
16・・・案内溝を有するガイド
17・・・フレーム
20・・・支持板
21・・・軸
22・・・座板
23・・・固定部
24・・・回転軸
25・・・押圧部
26・・・クッション部
27・・・円弧状マルチローラー
40・・・上下移動手段
100・・・未加硫タイヤ
101・・・未加硫タイヤ基体
102・・・トレッドリング
303a、303b・・・ステッチャーロール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7