(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の微小可動鏡が配列される領域を、前記光照射部から前記反射性方向変換器に光が照射される領域に応じて設定した、請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の車両用照明装置。
前記固定鏡は、反射側の表面が凸面状であり、前記複数の微小可動鏡と接する部分に前記第1の角度で傾けられた反射面を有する、請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の車両用照明装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
視認性の向上を図るために、車両用照明装置の投光領域を拡げることが望まれる。特許文献1に記載の車両用照明装置において投光領域を拡げようとすると、MEMSミラーアレイの微小可動鏡の個数を増やすしかない。光源の輝度には上限値がある。投光領域で所望の光度を得るために、個々の微小可動鏡の反射面の面積は、一定面積(下限値)より小さくすることができない。このため、特許文献1に記載の車両用照明装置では、投光領域を拡げようとすると、微小可動鏡の個数が増加して、MEMSミラーアレイが大型化するという問題が生じる。
【0007】
MEMSミラーアレイの大型化は、個々のMEMSミラーアレイに使用される半導体回路基板(半導体チップ)の大型化を招く。半導体回路基板の大型化は、大面積露光が可能な半導体露光装置の導入など製造ラインの変更にも繋がる。従って、MEMSミラーアレイが大型化すると、製造歩留まりが低下する、製造コストが急激に上昇する等、副次的な問題が生じる。
【0008】
本発明の目的は、複数の微小可動鏡を備えたMEMSミラーアレイで配光を制御する車両用照明装置において、MEMSミラーアレイを大型化することなく、簡易な構成で投光領域を拡げることができる車両用照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、光を照射する光照射部と、独立に駆動されて第1の角度又は第2の角度で傾く反射面を有し且つ基板上に配列された複数の微小可動鏡と、前記第1の角度で傾けられた反射面を有し且つ前記複数の微小可動鏡の周囲に隣接して配置された固定鏡とを有し、前記光照射部から照射された光を前記複数の微小可動鏡又は前記固定鏡により反射して当該光の進行方向を変換する反射性方向変換器と、前記第1の角度で傾けられた微小可動鏡及び固定鏡により反射された反射光の光路上に配置され、入射した光を車両前方に投光する投光部と、を備え
、前記固定鏡による投光領域が、前記複数の微小可動鏡による投光領域の光度と連続した光度で形成されると共に前記複数の微小可動鏡による投光領域よりも外側に形成される車両用照明装置である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記固定鏡が、前記複数の微小可動鏡の
、車両正面視上下方向の上側に隣接して配置され
ると共に、
前記固定鏡による投光領域により前記複数の微小可動鏡による投光領域が車両正面視上下方向の下側に拡大される請求項1に記載の車両用照明装置である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記固定鏡が、前記複数の微小可動鏡の
、車両正面視左右方向の右側及び左側に隣接して配置され
ると共に、
前記固定鏡による投光領域が前記複数の微小可動鏡による投光領域の光よりも弱い光でかつ前記複数の微小可動鏡による投光領域の前記右側及び前記左側に拡大される請求項1又は
請求項2に記載の車両用照明装置である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記複数の微小可動鏡が配列される領域を、前記光照射部から前記反射性方向変換器に光が照射される領域に応じて設定した、請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の車両用照明装置である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記固定鏡は、反射側の表面が鋸歯状であり、前記第1の角度で傾けられた複数の反射面を有する、請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の車両用照明装置である。
【0014】
請求項6に記載の発明は、前記固定鏡は、反射側の表面が凸面状であり、前記複数の微小可動鏡と接する部分に前記第1の角度で傾けられた反射面を有する、請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の車両用照明装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、複数の微小可動鏡を備えたMEMSミラーアレイで配光を制御する車両用照明装置において、MEMSミラーアレイを大型化することなく、簡易な構成で投光領域を拡げることができる、という効果がある。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、固定鏡により投光領域を下方向に拡げることができ、車両前方の近距離領域を照明して違和感のない照明を実現することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、固定鏡により投光領域を左右両側に拡げることができ、投光領域と投光領域外側との境界が目立たないようにして、違和感のない照明を実現することができる。また、歩道や路肩を常時照明して安全性の高い照明を実現することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、光度の高い投光領域でだけ、複数の微小可動鏡により配向を制御することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、固定鏡を薄型化することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、反射性方向変換器上での照度分布とは異なる光度分布を、車両の遠方において得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0023】
<車両用照明システム>
まず、車両に搭載されて配向制御を行う車両用照明システムについて説明する。車両用照明システムは、車両に設置された配光可変ヘッドランプを用いて配光制御を行う。本実施の形態は、この配光可変ヘッドランプに、本発明の車両用照明装置を適用したものである。
【0024】
図1(A)及び(B)は、本実施の形態に係る配光可変ヘッドランプを車両に搭載した状態を示す図である。
図1(A)は、車両の平面図である。詳しくは、ルーフが省略された車両を上方から見たときの平面図である。
図1(B)は、車両の側面図である。
【0025】
図1(A)及び(B)に示すように、車両100の前端部の両サイドには、配光可変ヘッドランプ12A、12Bが、左右対称に設置されている。車両前方に向かって右側に配光可変ヘッドランプ12Aが設置され、左側に配光可変ヘッドランプ12Bが設置されている。以下では「配光可変ヘッドランプ12」と総称する。また、配光可変ヘッドランプ12Aに近接してカメラ18Aが設置され、配光可変ヘッドランプ12Bに近接してカメラ18Bが設置されている。以下では「カメラ18」と総称する。
【0026】
図2は、車両用照明システムの電気的構成を示すブロック図である。
図2に示すように、車両用照明システム10は、車両に設置された配光可変ヘッドランプ12を含んで構成されている。配光可変ヘッドランプ12は、ヘッドランプドライバ20を介して配光制御部14に接続されている。配光制御部14により、配光可変ヘッドランプ12の点灯や消灯が制御される。
【0027】
配光制御部14は、CPU14A、RAM14B、ROM14C、及びI/O14Dを含むマイクロコンピュータで構成されている。ROM14Cには、配光制御を行うためのテーブルやプログラム等が記憶されている。RAM14Bは、CPU14Aが各種演算等を行う際にワークエリアとして使用される。
【0028】
I/O14Dには、スイッチ16、カメラ18、及びヘッドランプドライバ20が接続されている。スイッチ16は、配光可変ヘッドランプ12のオンオフを指示すると共に、ロービームとハイビームを指示し、指示結果を配光制御部14に出力する。また、車両に設置されたカメラ18は、車両前方の画像を撮影して、撮影結果を配光制御部14に出力する。
【0029】
配光制御部14は、スイッチ16の状態に応じて、ヘッドランプドライバ20を制御して、配光可変ヘッドランプ12の点灯及び消灯を行う。また、配光制御部14は、カメラ18の撮影画像を解析して配光パターンを設定し、設定された配光パターンに応じて配光可変ヘッドランプ12の配光を制御する。例えば、次に説明するように、対向車両が検出された場合には、配光制御により幻惑を低減する。
【0030】
図3は、車両照明システムの幻惑低減動作を説明するための模式図である。配光可変ヘッドランプ12は、車両前方の投光領域32に光を投光する。カメラ18の撮影画像から車両前方に対向車両30が検出されると、配光制御部14は、幻惑が低減されるように配光可変ヘッドランプ12の配光を制御する。配光制御部14は、対向車両30に対応する遮蔽領域34に光が照射されないように配光パターンを設定し、この配光パターンに応じて配光可変ヘッドランプ12の配光を制御する。配光パターンは、視認性が高く且つ対向車両への幻惑が低減されるように設定される。
【0031】
<車両用照明装置>
(配光可変ヘッドランプの構成)
次に、車両用照明装置としての配光可変ヘッドランプ12について説明する。
図4は本実施の形態に係る配光可変ヘッドランプの構成を示す概略図である。
図4に示すように、配光可変ヘッドランプ12は、光源40、反射器42、反射性方向変換器44、投光レンズ46及び光吸収体48を備えている。光源40としては、ハロゲンランプ、HID(High Intensity Discharge)バルブ等と称される高輝度放電灯、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)などの高輝度光源を用いることができる。なお、光源40は、配光制御部14からの制御信号に基づいて、ヘッドランプドライバ20により駆動される(
図2参照)。
【0032】
反射器42は、凹面型の球面鏡である。光源40は、反射器42の内部に配置されている。光源40から射出された光は、反射器42で反射されて、反射性方向変換器44の表面に照射される。反射性方向変換器44は、後述する通り、複数の微小可動鏡と固定鏡とで構成されている。反射性方向変換器44に照射された光は、複数の微小可動鏡及び固定鏡の何れかで反射される。複数の微小可動鏡の各々は、独立に駆動されてオン状態又はオフ状態とされる。
【0033】
オン状態の微小可動鏡又は固定鏡で反射された光は、一点鎖線で示す光路L
onを通って投光レンズ46に入射する。投光レンズ46は、入射した光を車両前方に投光する。配光可変ヘッドランプ12は、投光レンズ46を通過した光により、車両前方を照明する。一方、オフ状態の微小可動鏡で反射された光は、二点鎖線で示す光路L
offを通って光吸収体48に照射される。光吸収体48は、照射された光を吸収する。
【0034】
配光可変ヘッドランプ12は、ハイビーム及びロービームの何れでもよい。ハイビームは、車両前方を遠くまで照明することができ、夜間のヘッドライトとして使用される。ロービームは、ハイビームより下方向を照明するように構成されている。本実施の形態では、ハイビーム用のヘッドランプを、配光可変ヘッドランプ12で構成した場合について説明する。従って、遮蔽領域が無い配光パターンの場合は、通常のヘッドランプのハイビームに相当する光が照射される。
【0035】
また、配光制御を行わない場合、オン状態及びオフ状態の何れの状態でもない微小可動鏡で反射された光は、その一部が投光レンズ46を通過する。従って、配光制御を行わない場合には、配光可変ヘッドランプ12を、通常のハイビーム用のヘッドランプとして使用できる。
【0036】
(反射性方向変換器の構成)
次に、反射性方向変換器44の詳細な構成について説明する。
図5(A)〜(E)は、
図4に示す反射性方向変換器44の構成を示す図である。
図5(A)は反射性方向変換器を上側から見たときの平面図である。
図5(B)は
図5(A)のA-A線での断面図であり、
図5(C)は
図5(A)のB-B線での断面図である。
図5(D)は
図5(B)に示す領域Yの部分を拡大して示す断面図であり、
図5(E)は
図5(A)に示す領域Xの部分を拡大して示す平面図である。
【0037】
図5(A)〜(E)に示すように、反射性方向変換器44は、半導体基板50、空間光変調器としてのMEMSミラーアレイ52及び固定鏡54を備えている。MEMSミラーアレイ52は、平面視が矩形状に構成されている。MEMSミラーアレイ52は、二次元状に配列された複数の微小可動鏡60を有している。複数の微小可動鏡60の各々は、半導体プロセスにより半導体基板50上に形成されている。
【0038】
複数の微小可動鏡60の各々は、反射面としてマイクロミラー62を有している。マイクロミラー62は、オン状態で第1の角度で傾けられ、オフ状態で第2の角度で傾けられる。例えば、MEMSミラーアレイ52では、16μm×16μmのマイクロミラー62が、17μmのピッチで配列されていてもよい。また、MEMSミラーアレイ52は、数十万個のマイクロミラー62で構成されていてもよい。
【0039】
固定鏡54は、MEMSミラーアレイ52の周囲に、MEMSミラーアレイ52と隣接するように配置されている。固定鏡54は、オン状態のマイクロミラー62と同様に、第1の角度で傾けられた反射面を有している。従って、固定鏡54で反射された光は、常に投光レンズ46を通過して、車両前方に投光される。これにより、MEMSミラーアレイ52を大型化することなく、投光領域を拡げることができる。
【0040】
固定鏡54は、1枚の鏡でもよいし、複数枚に分割されていてもよい。また、固定鏡54は、MEMSミラーアレイ52を平面視したときに、半導体基板50上に収まるように配置されていてもよく、半導体基板50からはみ出すように配置されていてもよい。
【0041】
図5(A)に示す例では、MEMSミラーアレイ52の四方を囲むように、4枚の固定鏡54が配置されている。4枚の固定鏡54の各々は、半導体基板50からはみ出すように配置されている。MEMSミラーアレイ52の上側に固定鏡54Aが配置され、MEMSミラーアレイ52の右側及び左側に固定鏡54Bが配置され、MEMSミラーアレイ52の下側に固定鏡54Cが配置されている。以下では、固定鏡54A、54B、54Cを区別する必要が無い場合には、「固定鏡54」と総称する。
【0042】
ここで、微小可動鏡60の詳細な構成について説明する。
図6(A)は、微小可動鏡の構成を示す斜視図である。また、
図6(B)は微小可動鏡がオン状態である場合を示し、
図6(C)は微小可動鏡がオフ状態である場合を示す。なお、MEMSミラーアレイ52の複数の微小可動鏡60の各々は、配光制御部14からの制御信号に基づいて、ヘッドランプドライバ20により駆動される(
図2参照)。
【0043】
図6(A)に示すように、微小可動鏡60は、マイクロミラー62、支柱63、メモリセル64、支持梁65、支柱66、固定電極67A、固定電極67B及び可動電極68を備えている。微小可動鏡60全体はモノリシック(一体型)に構成されている。メモリセル64の表面には、固定電極67A及び固定電極67Bが配置されている。マイクロミラー62は、2本の支柱66により可動電極68に固定されている。可動電極68は、固定電極67A及び67Bと離間するように、支柱63によりメモリセル64の上方に配置されている。また、可動電極68は、支柱63から延びた2本の支持梁65により、回転可能に支持されている。マイクロミラー62の表面には、アルミニウム等の反射率の高い材料が蒸着されている。
【0044】
微小可動鏡60のメモリセル64にデジタル信号が書き込まれると、固定電極67A及び固定電極67Bの何れか一方に電圧が印加される。固定電極67A又は固定電極67Bに電圧が印加されると、可動電極68と電圧が印加された固定電極との間に静電気力が発生する。この静電気力により、可動電極68が、支持梁65の周りに矢印で示す方向に回転して、予め定めた角度で傾けられる。この結果、可動電極68に固定されたマイクロミラー62は、半導体基板50の法線65に対して+α度又は−α度だけ傾けられる。例えば、±α度は、±10度としてもよい。
【0045】
図6(B)に示すように、微小可動鏡60がオン状態では、図面手前側の固定電極67Aに電圧が印加されて、マイクロミラー62は法線65に対して+α度だけ傾けられる。+α度だけ傾けられたマイクロミラー62で反射された光は、
図4に示すように、一点鎖線で示す光路L
onを通って投光レンズ46に入射する。また、
図6(C)に示すように、微小可動鏡60がオフ状態では、図面奥側の固定電極67Bに電圧が印加されて、マイクロミラー62は法線65に対して−α度だけ傾けられる。−α度だけ傾けられたマイクロミラー62で反射された光は、
図4に示すように、二点鎖線で示す光路L
offを通って光吸収体48に照射される。
【0046】
なお、
図6(A)に示す例は、静電気力によりマイクロミラーが回転する静電気式の微小可動鏡であるが、静電気力の代わりに電磁力や圧電素子を用いた構造の微小可動鏡を用いてもよい。
【0047】
(固定鏡の他の配置例)
次に、固定鏡の他の配置例について説明する。
図5(A)に示す例では、MEMSミラーアレイ52の四方を囲むように4枚の固定鏡54を配置する配置例について説明したが、固定鏡の配置はこれに限定される訳ではない。固定鏡54は、MEMSミラーアレイ52の周囲の一部に配置されていてもよい。
図7(A)に示すように、MEMSミラーアレイ52の左右両側だけに2枚の固定鏡54Bを配置してもよい。また、
図7(B)に示すように、MEMSミラーアレイ52の上側だけに1枚の固定鏡54Aを配置してもよい。
【0048】
また、固定鏡54は、MEMSミラーアレイ52の周囲に配置されていればよい。
図5に示す例では、平面視が矩形状のMEMSミラーアレイ52を用いている。換言すれば、複数の微小可動鏡60は、反射性方向変換器44の表面の矩形状領域に配列されている。しかしながら、MEMSミラーアレイ52は、平面視が矩形状の構造に限定される訳ではない。
【0049】
光源40から射出された光は、反射器42で反射されて、この矩形状領域に照射される(
図4参照)。反射性方向変換器44の表面での位置は、投光領域の遠方に在る仮想面内の位置に対応している(
図3参照)。投光レンズ46による損失が無視できるとすると、反射性方向変換器44の表面における照度分布が、遠方での光度分布になる。
【0050】
反射性方向変換器44の表面における照度分布に応じて、照度の高い中央領域に微小可動鏡60が配置され、矩形の角部等、照度の低い周辺領域に固定鏡54が配置されるように、MEMSミラーアレイ52の形状を適宜変更してもよい。例えば、
図8(A)〜(D)に示すように、MEMSミラーアレイ52を矩形の四隅が欠けた形状としてもよい。照度の低い角部には、微小可動鏡60に代えて固定鏡54を配置する。
【0051】
図8(A)に示すように、平面視が十字状のMEMSミラーアレイ52を用いて、4つの角部の各々に矩形状の固定鏡54Dを配置してもよい。
図8(B)に示すように、平面視が略六角形のMEMSミラーアレイ52を用いて、4つの角部の各々に階段状の固定鏡54Eを配置してもよい。
図8(C)に示すように、平面視が略六角形のMEMSミラーアレイ52を用いて、4つの角部の各々に三角形の固定鏡54Fを配置してもよい。
図8(D)に示すように、平面視が長円のMEMSミラーアレイ52を用いて、4つの角部の各々に略三角形の固定鏡54Gを配置してもよい。
【0052】
(投光領域の左右両側への拡大)
次に、固定鏡により投光領域が水平方向に拡大する原理について説明する。
図9は、固定鏡の配置により水平光度分布が変化する様子を示すグラフである。横軸は水平画角(単位:度)を表す。縦軸は1灯分の光度(単位:カンデラ(cd))を表す。また、実線はMEMSミラーアレイ52のみを用いた場合を表す。破線はMEMSミラーアレイ52の左右両側に固定鏡54が配置された配光可変ヘッドランプ12を用いた場合を表す(
図7(A)参照)。配光可変ヘッドランプ12は、通常のハイビーム用のヘッドランプとして使用されている。配光可変ヘッドランプ12を用いた場合を「元のハイビーム/固定鏡ありの場合」と表示している。
【0053】
図9に破線で示すように、現行ヘッドランプのハイビームは、画角の正面方向にのみ非常に光度が高く、周囲に行くに従い急激に光度が低下するような分布を有している。光の広がり角度は、水平方向に±15度程度である。しかしながら、水平方向に±10度程度において、すでに光度はピーク値の1/20程度しかない。この程度の光度であれば、幻惑の原因にはなりにくい。換言すれば、水平方向の±10度より外側においては、配光制御を行う必要はあまりない。従って、MEMSミラーアレイ52の必要最低限の横幅は、投光レンズ46の焦点面における水平方向の±10度分に相当する幅となる。
【0054】
上述した通り、水平方向に±10度の位置では、光度はかなり低下しているが、完全に0ではない。このため、MEMSミラーアレイ52を水平方向の±10度分に相当する幅に配置しただけでは、投光される光の光度は、
図9に実線で示すように、水平方向に±10度の位置で不連続に変化することになる。路面や道路上の構造物に光が照射されると、投光領域と投光領域外側との境界が明確となり、ドライバーに違和感を与えてしまう。
【0055】
そこで、
図7(A)に示すように、MEMSミラーアレイ52の左右両側に、オン状態のマイクロミラー62と同じ角度で傾けられた反射面を有する固定鏡54を配置する。固定鏡54を配置したことにより、投光領域が左右両側に拡げられる。詳しくは、水平方向の±10度よりも外側には常に弱い光が投光されて、投光領域の外側に向かってなだらかに繋がる。このため、投光領域と投光領域外側との境界は目立たなくなり、違和感のない照明を実現することができる。また、歩道や路肩を常時照明して安全性の高い照明を実現することができる。
【0056】
(投光領域の下方向への拡大)
次に、固定鏡により投光領域が下方向に拡大する様子について説明する。
図10は、固定鏡で投光領域を下方向に拡大する場合の路面照度分布を示す平面図である。路面照度分布は、車両100の前方に在る路面を約200m先までヘッドランプで照明した場合の照度分布である。路面照度が高いほど濃い色で表示されている。
【0057】
配光可変ヘッドランプ12では、対向車両への幻惑を防止するために、遮蔽領域を有する配光パターンを設定することができる(
図3参照)。投光領域のうち垂直方向の画角が0度以下(少し余裕を見て−1度以下)の領域については、通常、光は路面を照らし、対向車両のドライバーを照射するとは考え難い。
【0058】
従って、投光レンズ46の焦点面において、MEMSミラーアレイ52が縦方向に必要とする領域(必要最低限な領域)は、垂直−1度分に相当する領域である。しかしながら、この領域にMEMSミラーアレイを配置しただけでは、
図10の上側に示すように、路面照度分布で見ると、近距離領域(約40m以内の領域)が照明されず、非常に不自然である。
【0059】
これに対し、
図7(B)に示すように、垂直−1度より下側に対応する領域、即ち、MEMSミラーアレイ52の上側に、オン状態のマイクロミラー62と同じ角度で傾けられた反射面を有する固定鏡54を配置する。固定鏡54を配置したことにより、投光領域が下方向に拡げられる。即ち、
図10の下側に示すように、近距離領域から遠距離領域までが照明された、通常のハイビームと同等の自然な路面照度分布を得ることができる。
【0060】
(ハイビームとロービームを併用)
次に、ハイビームとロービームを併用した場合の効果について説明する。ここでは、配光可変ヘッドランプ12はハイビーム用として使用されている。
図11は、ハイビームとロービームを併用した場合の路面照度分布を示す平面図である。
図11に示すように、近距離領域の視認性をより高めるために、配光可変ヘッドランプ12の使用時に照射画角の広いロービームを併用してもよい。
【0061】
この場合にも、垂直−1度分に相当する領域にMEMSミラーアレイ52を配置しただけでは、
図11の上側に示すように、ハイビーム照射部分とロービーム照射部分との境界において、照度ギャップが生じて不自然である。投光領域が下方向に拡大する場合と同様に、MEMSミラーアレイ52の上側に固定鏡54を配置して、垂直方向に−3度まで投光領域を広げると、
図11の下側に示すように、照度ギャップをなくすことができる。例えば、最も路面照度が高い濃い色の領域は、
図11の上側では2つの領域に分かれている(照度ギャップがある)が、
図11の下側では1つの領域となる(照度ギャップが解消される)。
【0062】
(固定鏡の設計例)
次に、固定鏡の設計例について説明する。
図12(A)〜(D)は、固定鏡の設計例を示す部分断面図である。
図13は、固定鏡の配置により垂直光度分布が変化する様子を示すグラフである。横軸は垂直画角(単位:度)を表す。縦軸は1灯分の光度(単位:カンデラ(cd))を表す。また、実線は反射性方向変換器44の表面上での照度分布を表す。この実線で示す場合を「MEMS面上での照度分布」と表示している。破線は遠方における光度分布を表す。
【0063】
図12(A)に示すように、反射側の表面R
Aが平面状の固定鏡54Aとしてもよい。平面状の表面R
Aは、オン状態のマイクロミラー62と同じ角度で傾けられた反射面とされる。また、
図12(B)に示すように、反射側の表面R
Hが鋸歯状の固定鏡54Hとしてもよい。鋸歯状の表面R
Hの複数の斜面の各々は、オン状態のマイクロミラー62と同じ角度で傾けられた反射面とされる。表面R
Hが鋸歯状の固定鏡54Hでは、表面R
Aが平面状の固定鏡54Aに比べて、固定鏡を薄型化することができる。
【0064】
図12(C)に示すように、反射側の表面R
Iが凸面状の固定鏡54Iとしてもよい。凸面状の表面R
Iは、MEMSミラーアレイ52と接する部分に、オン状態のマイクロミラー62と同じ角度で傾けられた反射面を有している。即ち、凸面状の表面R
Iの傾斜角度は、MEMSミラーアレイ52と隣接する部分では、オン状態のマイクロミラー62と同じ角度である。そして、凸面状の表面R
Iの傾斜角度は、MEMSミラーアレイ52から離れるほど、オフ状態のマイクロミラー62と同じ角度に変化する。
【0065】
反射側の表面R
Iが凸面状の固定鏡54Iを、垂直−1度より下側に対応する領域、即ち、MEMSミラーアレイ52の上側に配置すると、
図13に破線で示すように、遠方の下方向において、反射性方向変換器44の表面上での照度分布よりも、急激に暗くなる(光度が低下する)光度分布となる。
図12(D)に示すように、反射側の表面R
Jが凸面状で且つ鋸歯状の固定鏡54Jとしても、
図12(C)に示す凸面状の固定鏡54Iと同様に、反射性方向変換器44の表面上での照度分布と異なる光度分布を得ることができる。