(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試験片に負荷を与える負荷機構の駆動源としての油圧シリンダと、前記油圧シリンダへのオイルの流量を制御するサーボバルブと、前記負荷機構の変位を検出する変位検出器と、選択されている制御量の検出値と目標値との偏差に応じて前記サーボバルブの弁開度指令値を算出し前記負荷機構の駆動を制御する制御機構とを備える材料試験機において、
前記制御機構は、
前記サーボバルブの弁開度指令値と、前記変位検出器の検出値より得られた前記負荷機構の一定時間内の移動量または変位速度との比率を試験の進行に伴い逐次計算するとともに、その算出された比率により、前記偏差に応じて算出された弁開度指令値を補正することを特徴とする材料試験機。
【背景技術】
【0002】
材料試験機においては、負荷機構の駆動により試験片に各種負荷を加えるが、その負荷機構の駆動源として油圧シリンダが多用されている。油圧シリンダを駆動源とする材料試験機においては、その油圧シリンダに対してポンプによりオイル(作動油)を供給している。そして、ポンプを駆動するためのモータは、AC電源で動作する一定回転数のものが用いられている。ポンプと油圧シリンダとの間には、サーボバルブが配設されており、ポンプから供給されたオイルは、サーボバルブにより必要な圧力に調整された後、油圧シリンダに供給される。
【0003】
また、このような材料試験機においては、負荷機構の変位は変位計等により刻々と検出される。そして、試験中における負荷機構の駆動は、油圧シリンダ等の油圧駆動系を制御対象とし、試験片に作用する試験力や負荷機構の変位量、変位速度等のうち、制御量に選択されている物理量の刻々の検出値を目標値にフィードバックすることにより自動制御されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
図7は、油圧シリンダの変位速度とサーボバルブの弁開度指令値との関係を示すグラフであり、引張試験または圧縮試験のように試験片に一方向に連続した試験力を与える場合の油圧シリンダの変位速度とサーボバルブの弁開度指令値との関係を示している。グラフの縦軸は油圧シリンダの変位速度であり、横軸はサーボバルブの弁開度指令値(速度)である。
【0005】
オイルの流量とサーボバルブの弁開度とでは比例関係が成立し、この関係は、制御量の検出値と目標値との偏差とオイル流量との関係や、制御量の検出値と目標値との偏差とサーボバルブの弁開度との関係でも成立すると考えられる。そうすると、サーボバルブの弁開度の指令値は、偏差に任意の比例定数を乗算することにより求めることができる。このような関係から、サーボバルブの弁開度とオイルの流入または流出による油圧シリンダの一方向への変位速度との関係は、計算上は
図7の破線(計算値)のように表すことができる。
【0006】
しかし、サーボバルブの弁開度と油圧シリンダの変位速度との実際の関係は、
図7に実線(実測値)で示すように、計算値とは一致しない。このような計算値と実測値との差は、特に試験開始直後の油圧シリンダの駆動の立ち上がりにおいて大きく現れる傾向にあり、
図7に示すように、実際には、計算値以上にサーボバルブの弁開度を大きくしてオイルの流量を上げなければ、必要な油圧シリンダの変位速度が得られないことになる。このため、従来の材料試験機における制御系では、計算値を実験的に得られた実測値に近づけるための補正テーブルを備え、その補正テーブルを用いて計算値を補正し、サーボバルブに供給する弁開度指令値としていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、補正テーブルによって計算値を補正しただけでは、負荷機構の駆動制御を高精度に行うことができなかった。これは、計算値補正のために用意される補正テーブルが、一般的に、油圧駆動系の各構成単位の仕様や過去の試験データ等から標準化されたものであるのに対し、油圧シリンダに流入または油圧シリンダから流出するオイルの流量は、オイルの温度変化や流れ方向等によっても変化するものであるためである。
図7に、一点鎖線で示すように、油圧シリンダとサーボバルブの仕様からこれらを組み合わせた場合に定まるサーボバルブの弁開度と油圧シリンダの変位速度との関係(想定値)は、実線で示す実測値とは必ずしも一致しない。仮に、想定値に基づいて補正テーブルを作成したとすると、このような補正テーブルによって計算値を補正しても、補正された値は想定値以上に実測値に近づくものではない。このように、補正テーブルによる補正のみでは試験ごとに異なるオイルの流量の変化には対応できず、また、試験中のある時間域においては、この補正テーブルが有効に機能しなくなる状況も生じていた。
【0009】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、負荷機構の駆動制御を高精度に行うことが可能な材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、試験片に負荷を与える負荷機構の駆動源としての油圧シリンダと、前記油圧シリンダへのオイルの流量を制御するサーボバルブと、前記負荷機構の変位を検出する変位検出器と、選択されている制御量の検出値と目標値との偏差に応じて前記サーボバルブの弁開度指令値を算出し前記負荷機構の駆動を制御する制御機構とを備える材料試験機において、前記制御機構は、前記サーボバルブの弁開度指令値と、前記変位検出器の検出値より得られた前記負荷機構の一定時間内の移動量または変位速度との比率を
試験の進行に伴い逐次計算するとともに、その算出された比率により、前記偏差に応じて算出された弁開度指令値を補正することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記制御機構は、油圧シリンダとサーボバルブの組み合わせにより定まる補正値を記述した補正テーブルを備え、前記目標値が変更されたときには、前記補正テーブルの補正値を利用して、前記偏差に応じて算出された弁開度指令値を補正する。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記補正テーブルは、前記比率により試験ごとに修正される。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明において、前記負荷機構の変位により試験片に作用する試験力を検出する試験力検出器を備え、前記制御機構は、前記制御量を、前記試験力検出器により検出される試験力とし、試験力の変化速度と前記負荷機構の変位速度との比率を逐次計算するとともに、前記偏差に応じて算出された弁開度指令値を、その算出された比率により前記偏差を除した値に比例した値とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明において、試験片の伸びを検出する伸び計を備え、前記制御機構は、前記制御量を、前記伸び計により検出される試験片の伸び速度とし、前記伸び速度と前記負荷機構の変位速度との比率を逐次計算するとともに、前記偏差に応じて算出された弁開度指令値を、その算出された比率により前記偏差を除した値に比例した値とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、サーボバルブの弁開度指令値と、変位検出器の検出値より得られた負荷機構の一定時間内の移動量または変位速度との比率を逐次計算するとともに、その算出された比率により、制御量の検出値と目標値の偏差に応じて算出された弁開度指令値を補正することから、負荷機構の駆動制御を高精度に行うことが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、油圧シリンダとサーボバルブの組み合わせにより定まる補正テーブルを備え、目標値が変更されたときには、補正テーブルの補正値を利用して、偏差に応じて算出された弁開度指令値を補正することから、選択されている制御量の設定を変更することにより油圧シリンダの変位速度を急激に変更しなければならない場合であっても、弁開度指令値を速やかに目標値に近づけることが可能となる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、比率により補正テーブルを試験ごとに修正することから、個々の材料試験機の補正テーブルを、その材料試験機の固有の試験時の油圧シリンダの変位速度と弁開度との関係が反映された補正テーブルへと最適化することが可能となる。
【0018】
請求項4および請求項5に記載の発明によれば、制御量と負荷機構の変位速度との比率を逐次計算するとともに、制御量の検出値と目標値との偏差に応じて算出された弁開度指令値を、その算出された比率により偏差を除した値に比例した値とすることから、ユーザ側で制御量を試験力や試験片の伸び速度に変更した場合に、その選択した制御量による制御に速やかに対応させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1はこの発明に係る材料試験機の概要図であり、
図2はそのA−A断面図である。
【0021】
この材料試験機は、テーブル21と、このテーブル21に一対の支柱22を介して連結された上部クロスヘッド24と、テーブル21と上部クロスヘッド24とを同期して昇降させるラムシリンダ25と、一対の支柱22に沿って昇降可能な下部クロスヘッド26と、この下部クロスヘッド26の両端に設けられた図示しないナットと螺合する一対のネジ棹23と、一対のネジ棹23と図示しない駆動連結機構を介して連結され、一対のネジ棹23を互いに同期して回転させるモータ27とを備える。
【0022】
上部クロスヘッド24には上つかみ具31が配設されており、下部クロスヘッド26には下つかみ具32が配設されている。引張試験がなされる試験片10は、これらの上つかみ具31および下つかみ具32によりその両端を把持される。また、下部クロスヘッド26には圧盤28が付設されており、圧縮試験がなされる試験片11は、この圧盤28とテーブル21とによりその上下端部を押圧される。
【0023】
ラムシリンダ25は、シリンダ室25aに圧油を供給することによりラム25bが伸長する構成を有する。そして、ラム25bが伸長することにより、テーブル21、一対の支柱22および上部クロスヘッド24が同期して上昇する。このテーブル21および上部クロスヘッド24の上昇により、引張試験を行うときには上つかみ具31および下つかみ具32によりその両端を把持された試験片10に引張荷重が付与され、圧縮試験を行うときには圧盤28とテーブル21との間に配置された試験片11に圧縮荷重が付与される。このように、テーブル21、上部クロスヘッド24は、ラムシリンダ25の駆動により試験片10、11に負荷を加える負荷機構を構成する。ラムシリンダ25の動作は、ラムシリンダ25に圧油を供給する油圧源38により駆動制御される。この油圧源38は、記憶装置としてのRAM、ROM、演算装置としてのCPUを備える制御部35に接続されている。
【0024】
このときの試験力は、圧力センサ33により測定される。この測定値は、制御部35に送信され、制御部35内に保存されるとともに、必要に応じ表示部36に表示される。なお、試験力は、上部クロスヘッド24または下部クロスヘッド26にロードセルを配設して測定してもよい。
【0025】
また、テーブル21および上部クロスヘッド24の移動量は、ストローク検出器34により検出される。この検出値は、制御部35に送信され、制御部35内に保存されるとともに、必要に応じ表示部36に表示される。
【0026】
この材料試験機において、引張試験を行うときには、上部クロスヘッド24と下部クロスヘッド26との距離を引張試験を行う試験片10のサイズに対応した大きさとする必要がある。同様に、圧縮試験を行うときには、下部クロスヘッド26とテーブル21との距離を、圧縮試験を行う試験片11のサイズに対応させた大きさとする必要がある。この場合には、オペレータが操作部37における下部クロスヘッド26の昇降スイッチを操作して、制御部35を介してモータ27を回転させる。これにより、一対のネジ棹23が回転し、このネジ棹23に連結された下部クロスヘッド26が昇降する。
【0027】
図3は上述した油圧源38をラムシリンダ25とともに示すブロック図である。
【0028】
この油圧源38は、オイル(作動油)をラムシリンダ25に供給するためのポンプ41と、このポンプ41を回転させるためのモータ42と、ポンプ41からラムシリンダ25に至るオイルの供給管路に配設され、油圧制御装置として機能するサーボバルブ43と、を備える。この材料試験機では、サーボバルブ43の弁開度を調整し、ラムシリンダ25へのオイルの流量を制御している。そして、オイルの流量制御により伸張するラム25bの動きに連動してテーブル21および上部クロスヘッド24が移動する。
【0029】
次に、この材料試験機の制御機構について説明する。
図4は、制御機構の制御信号の伝達関係を示す概要図である。
【0030】
この制御機構は、ラムシリンダ25のラム25bのストローク量から求められるラムシリンダ25の変位量または変位速度を制御量として選択し、ストローク検出器34の検出値を入力側にフィードバックして目標値と比較し、その結果に応じて調節部50においてサーボバルブ43の弁開度指令値に適当な修正を与え、負荷機構の動作を制御するものである。なお、ラムシリンダ25の変位量はラム25bの移動に連動したテーブル21および上部クロスヘッド24の移動量でもあり、ラムシリンダ25の変位速度は、テーブル21および上部クロスヘッド24の移動量と移動に要した時間から容易に計算により求めることができる。また、目標値は、制御部35からの指令に基づき電圧またはパルス信号として制御系に供給される。
【0031】
まず、目標値とストローク検出器34の検出値との偏差が求められ、第1調節部51において、この偏差に対して予め設定した定数Dを乗算することにより、弁開度指令値の計算値a(t)が得られる。すなわち、計算値a(t)は、ストローク検出器34の現在の検出値をx(t)、その時点における目標値をx
d(t)として、以下の式(1)〜(3)のいずれかにより求められる。なお、式(1)〜(3)中のD、D
P、D
Dは予め設定される定数である。
【0035】
なお、第1調節部51に採用する計算値a(t)を求める計算式は、検出値と目標値との偏差を、いかなる単位(例えば、速度や距離など)の数値を用いて表現するかにより、式(1)〜(3)のように表すことができる。
【0036】
次に、第1調節部51により得られた計算値a(t)を、第2調節部52において補正するために用いる比率K
1を求める。比率K
1は、Δ時間前にサーボバルブ43に供給され現在までの一定時間内において弁開度指令値として設定されている値をb(t−Δ)、現在時間tでのストローク検出器34の検出値であるラムシリンダ25の変位量をx(t)、Δ時間前のラムシリンダ25の変位量をx(t−Δ)として下記式(4)のように表すことができる。
【0038】
比率K
1は、現在時間tとそこから一定時間遡った時間の検出値であるラムシリンダ25の変位量または変位速度と、現在時間tの一定時間前にサーボバルブ43に供給された弁開度との関係から求められる。なお、式(4)において、分母は、ラムシリンダ25の変位量x(t)とΔ時間前のラムシリンダ25の変位量x(t−Δ)の差分を一定時間Δで除して得られるラムシリンダ25の変位速度である。このようにサーボバルブ43の弁開度をラムシリンダ25の変位速度で除算することにより、比率K
1を決定している。
【0039】
この比率K
1を逐次計算する動作は、制御量(ラムシリンダ25の変位量または変位速度)と弁開度との関係が、瞬時的にほぼ比例し、試験の進行に伴いオイルの温度やオイルのシリンダへの流入・流出方向が変化することで比例定数が変化していくことを前提としている。この材料試験機の制御機構では、刻々と変化するストローク検出器34の検出値に対して一定時間ごとに、式(4)による計算を行うことにより、その一定時間内において適切な比例定数を逐次定めることになる。そして、第2調節部52において、下記式(5)を用いて、計算値a(t)を補正する。
【0041】
以上の計算は、ストローク検出器34からの検出値が制御部35に取り込まれるごとに行われる。このように、この制御機構では、比率K1を逐次計算し、補正された弁開度指令値b(t)をサーボバルブ
43に供給することで、試験の進行に伴いオイルの温度やオイルのシリンダへの流入・流出方向が変化するために生じるオイル流量の変化が弁開度指令値に及ぼす影響を低減し、目標値の検出値への応答性を高め、負荷機構の高精度な駆動制御を実現可能としている。
【0042】
次に、制御量として試験力を選択した場合に、上述した制御機構に加えられる変形について説明する。
図5は、試験力を制御量とした場合の制御機構の制御信号の伝達関係を示す概要図である。
【0043】
試験力の変化速度は、圧力センサ33の検出値より計測可能である。この材料試験機では、引張試験または圧縮試験において、テーブル21および上部クロスヘッド24を移動させることにより試験力(引張荷重、圧縮荷重)を試験片10、11に加えているが、試験力が試験片10、11に加わると試験片10、11が変形し、その変形に起因したテーブル21および上部クロスヘッド24の移動が、サーボバルブ43によって調整されるラムシリンダ25へのオイルの流量から予想される移動量に変動を生じさせることになる。このため、試験力の変化速度を制御しようとした場合には、第1調節部51での計算値a(t)を求める計算式を、試験力の変位速度とラムシリンダ25の変位速度との関係を考慮した計算式とすることが求められる。
【0044】
現在時間tにおける弁開度指令値b(t)がわかると、弁開度がb(t)に設定された場合の将来のラムシリンダ25の変位速度を予測することができ、その変位速度から試験力が推定できる。そうすると、ラムシリンダ25の変位速度と試験力の変位速度との関係を知ることができる。現在時間tでのストローク検出器34の検出値であるラムシリンダ25の変位量をx(t)、Δ時間前のラムシリンダ25の変位量をx(t−Δ)、圧力センサ33による試験力の現在の検出値をF(t)、Δ時間前の試験力の検出値をF(t−Δ)とし、下記式(6)により比率K
2を刻々と算出することができる。
【0046】
この比率K2を逐次計算する動作は、制御量(試験力)とラムシリンダ25の変位との関係が、瞬時的にほぼ比例し、かつ、試験の進行に伴う試験片10、11の塑性変形によりその比例定数が変化していくことを前提としている。こうして、刻々と変化する圧力センサ33の検出値である現在の試験力F(t)、その時点における試験力の目標値Fd(t)、一定時間ごとに式(6)により求めた試験力の変化速度とラムシリンダ25の変化速度との比率K
2から、下記式(7)〜(9)に示すサーボバルブ
43の弁開度の計算値a(t)を求める計算式を得る。なお、式(7)〜(9)のD、D
P、D
Dは、上述した式(1)〜(3)中のD、DP、DDと同様に予め設定される定数である。
【0050】
このように、試験力を制御量として選択した場合には、圧力センサ33の検出値がフィードバックされ、そのフィードバックされた試験力の検出値と目標値との偏差に応じて算出された値を、比率K
2で除した値に比例した値が、計算値a(t)となる。
【0051】
第1調節部51において、上記式(7)〜(9)のいずれかにより得られた計算値a(t)は、第2調節部52に入力され、しかる後、第2調節部52において式(5)を用いて得られた弁開度指令値b(t)が、サーボバルブ43に供給される。
【0052】
このように、この制御機構では、第1調節部51の計算式における比例定数を一定時間ごとに修正するため、試験力を制御量として選択した場合にも、試験片10、11の可塑性変形等が弁開度指令値に及ぼす影響が低減され、負荷機構の高精度な駆動制御を実現可能としている。また、比率K
2を用いることで、従来は試験に先立って試行錯誤的にオペレータが行っていたフィードバックゲインの設定も実質的に不要となる。
【0053】
さらに、
図1に示す材料試験機で引張試験を行うときに、材料試験機に試験片10の伸びを計測する伸び計を接続した場合には、上述した試験力を制御量として選択した場合と同様に、伸び計の検出値をフィードバック信号として検出値と目標値との偏差を求める。そして、その偏差に応じて算出された値を、伸び計の伸び速度とラムシリンダ25の変化速度との関係から得られた比率で除した値に比例した値とする計算式を、第1調節部51で用いる計算式とする。これにより、伸び速度を制御量として選択した場合にも、試験片10の可塑性変形等が弁開度指令値に及ぼす影響が低減され、負荷機構の高精度な駆動制御を実現可能となる。
【0054】
なお、上述した実施形態においてはテーブル21と上部クロスヘッド24とを同期して昇降させる油圧シリンダに、単動油圧シリンダであるラムシリンダ25を使用したが、その他の油圧シリンダを使用してもよい。
【0055】
次に、上述した制御機構に、さらに補正テーブルを利用した補正を追加した場合について説明する。
図6は、補正テーブル53を利用した制御機構の制御信号の伝達関係を示す概要図である。
【0056】
この制御機構は、
図4に示す制御機構と同様に、ラムシリンダ25のラム25bのストローク量から求められるラムシリンダ25の変位量または変位速度を制御量として選択し、ストローク検出器34の検出値を入力側にフィードバックして目標値と比較し、その結果に応じて調節部50においてサーボバルブ43の弁開度指令値に適当な修正を与え、負荷機構の動作を制御するものである。そして、この制御機構においては、目標値が変更された場合には、補正テーブル53を利用して計算値a(t)を補正している点において、
図4を参照して説明した制御機構と異なる。
【0057】
この制御機構では、目標値が変更されたときには、目標値に対応する補正値を補正テーブル53より選択して第2調節部52に供給することで、目標値変更前に設定されていた比率K1の値を、補正テーブル53より選択した補正値に置き換えている。すなわち、目標値が変更されたときには、上述した式(5)の比率K
1の値として補正テーブル53の補正値を採用して計算値a(t)を補正し、補正された弁開度指令値b(t)をサーボバルブ
43に供給している。その後、目標値が変更されない間は、上述した式(4)により逐次算出された比率K1を、上述した式(5)のK
1の値として計算値a(t)が補正され、補正された弁開度指令値b(t)がサーボバルブ
43に供給される。
【0058】
なお、補正テーブル53は、制御部35に予め保持させているものであり、ラムシリンダ25とサーボバルブ43の組み合わせにより定まる補正値を、ラムシリンダ25の変位速度やサーボバルブ43の弁開度指令値等に対応づけて記述したものである。すなわち、補正テーブル53は、
図7に示すような、油圧シリンダの変位速度と弁開度との関係がわかるデータに基づいて作成されるものである。ここで、ラムシリンダ25とサーボバルブ43の組み合わせにより定まるとは、ラムシリンダ25の仕様と、サー
ボバルブ43の仕様とから、ラムシリンダ25とサーボバルブ43を組み合わせた場合の性能特性がわかり(
図7に一点鎖線で示す想定値として表すことが可能)、そこから補正値も導き出されることを意味している。
【0059】
このような補正テーブル53を利用した制御機構は、目標値が大きく変更された場合に特に有効に機能する。比率K
1の算出は、上述した式(4)によりストローク検出器34からの検出値が制御部35に取り込まれるごとに行われるものであるが、例えば、
図4を参照して説明した制御機構の場合は、目標値が大きく変更されたときには、ストローク検出器34の検出のタイミング等により、式(4)による1回の計算で比率K
1を適切な比率として求めることができない場合もある。このような場合には、数回の計算を繰り返して適切な比率に収束させていくことになり、その間、装置制御が不安定となる。しかし、目標値が変更されたときに補正テーブル53の補正値を利用して計算値a(t)を補正するようにすれば、目標値が大きく変更された場合であっても、式(4)による計算結果を待たずに、適切な比率に近い値を第2調節部52に速やかに供給できる。そうすると、補正された弁開度指令値b(t)の値を速く目標値に近づけることができ、装置制御を安定させることができる。
【0060】
なお、このように材料試験機の制御機構において補正テーブル53を利用する構成は、
図5を参照して説明した、試験力を制御量として選択した場合の制御機構においても追加することができる。
【0061】
また、上述した補正テーブル53は、比率K
1により試験ごとに修正することで、材料試験機ごとに最適化することもできる。以下、補正テーブル53の修正について説明する。
【0062】
図1に示すような材料試験機では、試験中のラムストローク検出器34の検出値、圧力センサ33の検出値および算出された比率K
1の値等は、試験の記録として制御部35の内部に保存される。そして、制御機構において利用される補正テーブル53は、試験が終了すると、試験中に保存された比率K1を用いて修正される。
【0063】
例えば、一定負荷(制御量としてのラムシリンダ25の変位速度または試験力の設定を一定にしている状態であって目標値が一定の状態)を所定の時間だけ試験片10、11に与え、さらにその後異なる一定負荷を所定の時間だけ試験片10、11に与える材料試験を行ったとする。この試験が終了すると、制御機構において最初の目標値が変更されて、次の目標値に変更される直前に第2調節部52に比率K
1の値として設定されていた値を用いて、目標値変更前の変位速度に対応する補正テーブル53の補正値を修正するとともに、試験終了時に第2調節部52に比率K
1の値として設定されていた値を用いて、目標値変更後の変位速度に対応する補正テーブル53の補正値を修正する。
【0064】
再度
図7を参照して説明すると、材料試験機がユーザのもとに設置され稼動する前においては、
図7に一点鎖線で示す想定値に基づいて作成された補正テーブル53が材料試験機に搭載されているとする。上述した式(4)から算出される比率K
1は、ある変位速度での適切な弁開度指令値を求めるための比率であるから、
図7に破線で示された計算値に比率K
1が乗算された値は、実測値を示す実線上にあることになる。そうすると、補正テーブル53の補正値を比率K
1に置き換えれば、想定値もまた実測値を示す実線上に重なることになる。しかし、試験ごとにデータにバラツキがあり、一般的な材料試験の一回の試験により得られる補正テーブル53の修正に用いられる比率K
1のデータも、
図7に示すグラフ中の一部の領域に対応するものに過ぎない。このため、補正テーブル53の修正は、補正テーブル53の補正値をそのまま比率K
1に置き換えるのではなく、以下の式(10)により求めた値に置き換えることによって行う。
【0066】
式(10)において、y
oldはある変位速度に対応する補正テーブル53における修正される前の補正値、y
nowは補正値の修正に使用する比率K
1の値、y
newは修正後の補正値、αは任意に定められる1以下の正の係数である。なお、αは、例えば、油圧駆動系の実際の動作から実験的に1/100などとされる。このように式(10)を用いることで、試験ごとのデータのバラツキ等の影響を小さくし、試験の回数が重なるごとに、補正テーブル53が最適化される。
【0067】
このように、試験ごと、言い換えると、1つの試験が終了する度に、補正テーブル53を修正して最適化しておけば、目標値が変更されたときに補正テーブル53から第2調節部52に供給される補正値が、より適切な比率に近い値となり、サーボバルブ43への弁開度指令値を速やかに目標値に近づけることが可能となる。