特許第5733301号(P5733301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特許5733301繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物、繊維強化複合材料およびその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733301
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物、繊維強化複合材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20150521BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20150521BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20150521BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20150521BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C08J5/04CFC
   C08G59/20
   C08G59/40
   C08K7/06
   C08L63/00
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-503821(P2012-503821)
(86)(22)【出願日】2012年1月20日
(86)【国際出願番号】JP2012051190
(87)【国際公開番号】WO2012102202
(87)【国際公開日】20120802
【審査請求日】2014年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2011-15038(P2011-15038)
(32)【優先日】2011年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡 英樹
(72)【発明者】
【氏名】富岡 伸之
(72)【発明者】
【氏名】本田 史郎
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/089145(WO,A1)
【文献】 国際公開第2001/92368(WO,A1)
【文献】 特開2004-204082(JP,A)
【文献】 特表2001-500444(JP,A)
【文献】 特開2010-100730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04− 5/10
C08L 63/00−63/10
C08G 59/00−59/72
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の[A]〜[D]を含み、かつ[A]と[B]の質量配合比[A]/[B]が55/45〜95/5の範囲にある繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物。
[A]常温で液状であるか、軟化点が65℃以下である多官能エポキシ樹脂であって、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも一つの多官能エポキシ樹脂
[B]脂環式エポキシ樹脂
[C]酸無水物硬化剤
[D]硬化促進剤
【請求項2】
[A]が、常温で液状であるか、軟化点が65℃以下であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂である請求項1記載の繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
[C]がヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ナジック酸無水物およびそれらのアルキル置換タイプより選ばれるものである、請求項1または2に記載の繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
キュアインデックスが次の式(a)〜(c)を満たす特定温度Tを有する請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物。
0.5≦t10≦4 ・・・ (a)
0.5≦t90≦10 ・・・ (b)
1<t90/t10≦3 ・・・ (c)
【請求項5】
前期温度Tが90〜130℃の範囲内にある請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
[D]が有機リン化合物もしくはイミダゾール類である請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
[D]がイミダゾール類である請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
[D]が有機リン化合物である請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物と強化繊維を組み合わせ、硬化してなる繊維強化複合材料。
【請求項10】
強化繊維が炭素繊維である請求項9記載の繊維強化複合材料。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物と強化繊維を用い、次の(i)および(ii)の工程を含む繊維強化複合材料の製造方法。
(i)90〜130℃の金型内で、0.5〜10分の間RTM成形し、ガラス転移温度を95〜150℃、反応率を50〜90%に至らしめた後に脱型し、予備成形体を得る工程
(ii)得られた予備成形体を、130〜200℃の温度範囲で後硬化を施し、ガラス転移温度を150〜220℃、反応率を90〜100%に至らしめた繊維強化複合材料を得る工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料に用いられるエポキシ樹脂組成物、およびそれを用いた繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂の利点を生かした材料設計が出来るため、航空宇宙分野を始め、スポーツ分野、一般産業分野などに用途が拡大されている。
【0003】
強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維などが用いられる。マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも用いられるが、強化繊維への含浸が容易な熱硬化樹脂が用いられることが多い。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂などが用いられる。
【0004】
繊維強化複合材料の製造には、プリプレグ法、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法、RTM(Resin Transfer Molding)法などの方法が適用される。
【0005】
近年、世界的に自動車の環境規制が厳しくなる中、内外の自動車メーカーは燃費性能を左右する車体の軽量化に取り組んでおり、重量で鉄の半分、アルミの7割程度となる炭素繊維複合材料の適用が活発に検討されている。自動車用の各種部材は、軽量化とともに高い剛性、強度特性が求められ、かつ、三次元的な複雑形状を有する場合が多い。従って、高剛性・高強度な炭素繊維を連続繊維として用い、複雑形状に対応可能なRTM法が有力な成形方法となっている。RTM法とは型内に強化繊維基材を配置した後に型を閉じ、樹脂注入口から樹脂を注入し強化繊維に含浸させた後に樹脂を硬化させ、型を開放して成形品を取り出すことで繊維強化複合材料を得る方法である。ここで、自動車への炭素繊維複合材料普及の大きな課題が生産性であり、これが障壁となり一部の高級車に僅かに採用されるにとどまっている。それに加え、自動車部材への炭素繊維複合材料の適用には、通常170℃以上に達する塗装工程での耐熱性を考慮しなくてはならない。
【0006】
RTM法において、このような、高いレベルでの生産性と耐熱性を実現するためには、単に樹脂の硬化時間が短いというばかりでなく、以下の4つの条件を一挙に満たすものであることが具体的に求められる。1つ目に、樹脂原料の混合調製作業の際、各原料が低粘度の液状で混合作業性に優れること。2つ目に、強化繊維基材への樹脂注入工程の際、樹脂組成物が低粘度であり、かつ注入工程の間、粘度の上昇が抑えられることで含浸性に優れること。3つ目に、100℃付近の低温領域で十分な高速硬化ができることで、成形設備を簡素化でき、副資材等の耐熱性も不要となりコスト低減に繋がると共に、硬化温度と常温との温度差に由来する熱収縮を低減できることで、成形品の表面平滑性が優れること。4つ目に、成形後の脱型工程の際、樹脂が硬化により十分な剛性に到達しており、歪みを生じることが無くスムーズに脱型でき、更に塗装工程を経ても歪みや変形を生じることなく、成形品に高い寸法精度が得られることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
これらの課題に対し、主剤にビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂および/または少なくとも3個のグリシジル基を分子内に有するエポキシ樹脂を組み合わせて用いることで、低粘度かつ混合後の粘度上昇も小さく十分な含浸性を有しながら、硬化後は高い耐熱性を示すエポキシ樹脂組成物が開示されている(特許文献1)。
【0008】
また、主剤に脂環式エポキシ樹脂とクレゾールノボラック型エポキシ樹脂とを組み合わせて、高い流動性を有するエポキシ樹脂組成物が開示されている(特許文献2)。
【0009】
さらに、硬化剤に酸無水物、触媒に有機リン化合物を組み合わせたエポキシ樹脂組成物を用いることで、100℃付近の一定温度条件における、低粘度保持時間と硬化時間のバランスに優れたエポキシ樹脂組成物が開示されている(特許文献3)。
【0010】
さらに、主剤として脂環式エポキシをベースに、少量のフェノールノボラック型エポキシを組み合わせることで、低粘度で、かつ樹脂硬化物の耐熱性の高いエポキシ樹脂組成物が開示されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開昭59−155422号公報
【特許文献2】特開2004−204082号公報
【特許文献3】国際公開2007/125759号パンフレット
【特許文献4】国際公開2009/089145号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示されたエポキシ樹脂組成物は、フィラメントワインディング成形用のエポキシ樹脂組成物であり、40℃程度の樹脂浴中での粘度安定性と、150℃硬化後の耐熱性を両立できるものではあったが、ハイサイクルRTM法による成形に求められるような高速硬化性を有するものではなく、また耐熱性もガラス転移温度(以下、Tg)が150℃程度であり、自動車部材の塗装工程に耐えうるものではなかった。
【0012】
特許文献2に開示されたエポキシ樹脂組成物は、半導体封止材用途を想定した、常温で固体もしくは高粘度な液状樹脂組成物であり、強化繊維への含浸性が考慮されたものではなく、また硬化に30分以上要しており速硬化性を有するものではない。
【0013】
特許文献3に開示されたエポキシ樹脂組成物は、硬化後の耐熱性が不十分であることが問題となっていた。
【0014】
特許文献4に開示されたエポキシ樹脂組成物は、ハイサイクルRTM成形を想定したものではなく、注入行程での粘度上昇が大きく、また低温領域での高速硬化性が不十分なものであった。
【0015】
このように、ハイサイクルRTM法に適用でき、硬化物が十分な耐熱性を示すエポキシ樹脂組成物は、これまで存在しなかった。
【0016】
本発明の課題は、かかる従来技術の欠点を改良し、樹脂調製時の作業性に優れ、強化繊維への注入時に低粘度を保持し含浸性に優れ、かつ成形時に短時間で硬化し、硬化物の耐熱性が高く、塗装工程を経ても表面品位と寸法精度が高い繊維強化複合材料を与えるエポキシ樹脂組成物、およびそれを用いた繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は次の構成を有する。すなわち、
次の[A]〜[D]を含み、かつ[A]と[B]の質量配合比[A]/[B]が55/45〜95/5の範囲にある繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物である。
【0018】
[A]常温で液状であるか、軟化点が65℃以下である多官能エポキシ樹脂であって、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂から選ばれる、少なくとも一つの多官能エポキシ樹脂
[B]脂環式エポキシ樹脂
[C]酸無水物硬化剤
[D]硬化促進剤
かかる樹脂組成物は、[A]が、常温で液状であるか、軟化点が65℃以下であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0019】
かかる樹脂組成物は、[C]がヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ナジック酸無水物およびそれらのアルキル置換タイプより選ばれるものであることが好ましい。
【0020】
かかる樹脂組成物は、キュアインデックスが次の式(a)〜(c)を満たす特定温度Tを有することが好ましい。
【0021】
0.5≦t10≦4 ・・・ (a)
0.5≦t90≦10 ・・・ (b)
1<t90/t10≦3 ・・・ (c)
かかる樹脂組成物は、前期温度Tが90〜130℃の範囲内にあることが好ましい。
【0022】
かかる樹脂組成物は、[D]が有機リン化合物もしくはイミダゾール類であることが好ましい。
【0023】
かかる樹脂組成物は、[D]がイミダゾール類であることが好ましい。
【0024】
かかる樹脂組成物は、[D]が有機リン化合物であることが好ましい。
【0025】
また、上記課題を解決するため、本発明の繊維強化複合材料は次の構成を有する。すなわち、前記した繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物と強化繊維を組み合わせ、硬化してなる繊維強化複合材料である。
【0026】
かかる繊維強化複合材料は、強化繊維が炭素繊維であることが好ましい。
【0027】
また、上記課題を解決するため、本発明の繊維強化複合材料の製造方法は次の構成を有する。すなわち、
上記繊維強化複合材料RTM成形用エポキシ樹脂組成物と強化繊維を用い、次の(i)および(ii)の工程を含む繊維強化複合材料の製造方法、である。
(i)90〜130℃の金型内で、0.5〜10分の間RTM成形し、ガラス転移温度を95〜150℃、反応率を50〜90%に至らしめた後に脱型し、予備成形体を得る工程
(ii)得られた予備成形体を、130〜200℃の温度範囲で後硬化を施し、ガラス転移温度を150〜220℃、反応率を90〜100%に至らしめた繊維強化複合材料を得る工程
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、樹脂調製時の作業性に優れ、強化繊維への注入時に低粘度を保持し含浸性に優れ、かつ成形時に短時間で硬化し、硬化物の耐熱性が高く、塗装工程を経ても表面品位と寸法精度が高い繊維複合材料を高い生産性で提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について、説明する。
【0030】
まず、本発明に係るエポキシ樹脂組成物について説明する。
【0031】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、[A]常温で液状であるか、軟化点が65℃以下である多官能エポキシ樹脂であって、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂から選ばれる、少なくとも一つの多官能エポキシ樹脂、[B]脂環式エポキシ樹脂、[C]酸無水物硬化剤、[D]硬化促進剤を含むエポキシ樹脂組成物である。尚、かかる軟化点は、JIS K 7234 (1986)に示される環球式測定法により測定した軟化温度とする。
【0032】
本発明において、多官能エポキシ樹脂とは、1分子内に3つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を意味し、多官能エポキシ樹脂の中でも、[A]としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂から選ばれる、少なくとも一種を用いる。また、本発明において、[A]として用いる多官能エポキシ樹脂は、常温で液体であるか、軟化点が65℃以下である。常温とは、通常25℃を意味する。
【0033】
本発明において[A]として用いることが出来るフェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては“jER(登録商標)”152、154(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン”(登録商標)N−740(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
【0034】
本発明において[A]として用いることが出来るクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン”(登録商標)N−660、N−665(以上、DIC(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S(以上、日本化薬(株)製)、YDCN−700、YDCN−701(以上、新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
【0035】
本発明において[A]として用いることが出来るトリフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては“Tactix”(登録商標)742(ハンツマン・アドバンスド・マテリアルズ社製)、EPPN−501H、EPPN−502H(以上、日本化薬(株)製)等が挙げられる。
【0036】
中でもフェノールノボラック型エポキシ樹脂は、樹脂組成物の粘度と、得られる樹脂硬化物の耐熱性や、弾性率等の力学物性とのバランスに優れることから、本発明における[A]として好ましく用いられ、フェノールノボラック型エポキシ樹脂は、[A]に該当する全多官能エポキシ樹脂中に60〜100質量%含まれることが好ましい。
【0037】
本発明において、脂環式エポキシ樹脂とは、分子中にシクロヘキセンオキシド構造を有するエポキシ樹脂を意味する。
【0038】
本発明における脂環式エポキシ樹脂[B]の市販品としては、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキセニルカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)製“セロキサイド”(登録商標)2021P)、1,2,8,9−ジエポキシリモネン(ダイセル化学工業(株)製“セロキサイド”(登録商標)3000)、ε−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセニルカルボキシレート(ダイセル化学工業(株)製“セロキサイド”(登録商標)2081)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート(ユニオン・カーバイト日本(株)製ERL−4299)、エポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス−(3−シクロヘキセニルメチル)修飾ε−カプロラクトン(ダイセル化学工業(株)製“エポリード”(登録商標)GT401)がある。
【0039】
本発明における特定の多官能エポキシ樹脂[A]と脂環式エポキシ樹脂[B]の質量混合比[A]/[B]は、55/45〜95/5の範囲にあることが必要であり、60/40〜95/5であることが好ましく、60/40〜90/10であることがより好ましい。[A]/[B]が95/5を越えると、混合して得られた樹脂組成物の粘度が高く作業性・強化繊維への含浸性が低下し、反対に、[A]/[B]が55/45未満であると、硬化に要する時間が長くなり生産性が低下する。特に、90〜130℃の低温領域でRTM成形する際に、反応性の高い[A]成分が反応し尽くしてしまうため、成形途中で反応速度が低下し、硬化時間が長くなってしまうと共に、t90/t10が大きくなり樹脂注入時間が不足する場合がある。
【0040】
本発明における、酸無水物硬化剤[C]はカルボン酸無水物であり、より具体的にはエポキシ樹脂のエポキシ基と反応可能なカルボン酸無水物基を一分子中に1個以上有する化合物を指す。
【0041】
本発明における酸無水物硬化剤[C]は、フタル酸無水物のように、芳香環を有するが脂環式構造を持たない酸無水物であっても良いし、無水コハク酸のように、芳香環、脂環式構造のいずれも持たない酸無水物であっても良いが、低粘度な液状で取り扱いやすく、また硬化物の耐熱性や機械的物性の観点から、脂環式構造を有する酸無水物が用いられることが有効であり、中でもシクロアルカン環またはシクロアルケン環を有するものが好ましい。このような脂環式構造を有する酸無水物の具体例としては、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルジヒドロナジック酸無水物、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−3−メチル−1,2,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物などがあげられる。
【0042】
中でも、ヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ナジック酸無水物およびそれらのアルキル置換タイプより選ばれるものは、樹脂組成物の粘度と、得られる樹脂硬化物の耐熱性や、弾性率等の力学物性とのバランスに優れることから、本発明における酸無水物硬化剤[C]として好ましく用いられる。
【0043】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、速硬化性発現のため硬化促進剤[D]を含有することが必要である。
本発明における硬化促進剤[D]の具体例としては、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、p−スチリルジフェニルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボランなどの有機リン系化合物、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンのフェノール塩、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンのフタル酸塩、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、3−ジメチルアミノプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、3−ジブチルアミノプロピルアミン、2−ジエチルアミノエチルアミン、1−ジエチルアミノ−4−アミノペンタン、N−(3−アミノプロピル)−N−メチルプロパンジアミン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、3−(3−ジメチルアミノプロピル)プロピルアミン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、4−(2−アミノエチル)モルホリン、4−(3−アミノプロピル)モルホリンなどの三級アミン化合物とその塩類、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイドなどの四級アンモニウム塩類、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫やアルミニウムアセチルアセトン錯体などの有機金属化合物類、三フッ化ホウ素、トリフェニルボレート等のホウ素化合物、塩化亜鉛、塩化第二錫などの金属ハロゲン化物が挙げられる。更には、高融点イミダゾール化合物、ジシアンジアミド、アミンをエポキシ樹脂等に付加したアミン付加型促進剤等の高融点分散型潜在性促進剤、イミダゾール系、リン系、ホスフィン系促進剤の表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型潜在性促進剤、アミン塩型潜在性硬化促進剤、ルイス酸塩、ブレンステッド酸塩等の高温解離型の熱カチオン重合型の潜在性硬化促進剤等に代表される潜在性硬化促進剤も使用することができる。これらの硬化促進剤は単独又は2種以上を適宜混合して使用することができる。
【0044】
中でも、有機リン系化合物やイミダゾール類は、詳細な機構は定かではないが、エポキシ樹脂組成物の硬化反応初期において反応の進行が抑えられ、低粘度を維持する時間が長くなる一方で、硬化反応中後期での反応速度が十分に速く硬化時間を短縮できることから、本発明における硬化促進剤[D]として好ましく用いられる。また、特にイミダゾール類は、硬化反応により架橋構造に取り込まれるため、十分な耐熱性を発現でき、本発明における硬化促進剤[D]としてさらに好ましく用いられる。その中でも、特に1位に置換基を有するイミダゾール類は、そうでないイミダゾール類に比べて、硬化反応初期において低粘度をより長時間維持しつつ、硬化反応中後期の反応速度を十分に速くできることから、本発明における硬化促進剤[D]として特に好ましく用いられる。
【0045】
かかる1位に置換基を有するイミダゾール類としては、1,2−ジメチルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0046】
特に、1,2−ジメチルイミダゾールや1−イソブチル−2−メチルイミダゾールのように、[C]における置換基が炭素数1〜4のアルキル基であると、イミダゾール類自体の粘度が低く、かつ結晶化が抑えられ、それにより樹脂組成物の粘度を低く抑えられ、取り扱いやすくなるという利点がある。中でも、組成物の粘度を必要以上に上げないために、好ましくは融点が50℃以下のもの、より好ましくは融点が25℃以下であり25℃で液状であるイミダゾール類が好ましく用いられる。
【0047】
かかる1位に置換基を有するイミダゾール類の具体的な市販品を列挙すると、1,2−ジメチルイミダゾールの市販品としては、“キュアゾール”(登録商標)1,2DMZ(融点:35℃、四国化成工業(株)製)が、挙げられ、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾールの市販品としては、“キュアゾール”(登録商標)1B2PZ(融点:40℃、四国化成工業(株)製)が、挙げられ、1−ベンジル−2−メチルイミダゾールの市販品としては、“jERキュア”(登録商標)BMI12(粘度:23mPa・s、三菱化学(株)製)が挙げられ、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾールの市販品としては、“キュアゾール”(登録商標)2MZ−CN(融点:53℃、四国化成工業(株)製)が挙げられ、1−イソブチル−2−メチルイミダゾールの市販品としては、“jERキュア”(登録商標)IBMI12(粘度:11mPa・s、三菱化学(株)製)が挙げられる。
【0048】
かかる1位に置換基を有するイミダゾール類以外のイミダゾール類を用いることも可能である。1位に置換基を有しないイミダゾール類を列挙すると、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルー4−メチルイミダゾールなどが挙げられる。かかるイミダゾール類の市販品としては、“キュアゾール”(登録商標)2MZ(四国化成工業(株)製)が挙げられ、2−エチル−4−メチルイミダゾールの市販品としては“キュアゾール”(登録商標)2E4MZ(四国化成工業(株)製)、“jERキュア”(登録商標)EMI24(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
【0049】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、25℃における粘度が0.2〜5Pa・sであることが好ましい。粘度を5Pa・s以下とすることにより、成形温度における粘度を低くでき、強化繊維基材への注入時間が短くなり、未含浸の原因を防ぐことができる。また、粘度が0.2Pa・s以上とすることにより、成形温度での粘度が低くなりすぎず、強化繊維基材への注入時に空気を巻き込むことによるピットの発生を防ぐことができ、また含浸が不均一になることによる未含浸領域の発生を防ぐことができる。
【0050】
かかる粘度は、たとえば、ISO 2884-1 (1999)における円錐−平板型回転粘度計を使用した測定方法に基づき、エポキシ樹脂組成物の調製直後の粘度を測定することで求められる。測定装置としては、たとえば、東機産業(株)製のTVE−30H型などをあげることができる。
【0051】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、定温保持下での誘電測定で求められるキュアインデックスが、10%および90%となる時間をそれぞれ、t10、t90としたとき、t10、t90が次の3つの関係式を満たす特定温度Tを有することが好ましい。
【0052】
0.5≦t10≦4 ・・・ (a)
0.5≦t90≦10 ・・・ (b)
1<t90/t10≦3 ・・・ (c)
(ここで、t10は、温度Tにおける測定開始からキュアインデックスが10%に到達するまでの時間(分)を表し、t90は、測定開始からキュアインデックスが90%に到達する時間(分)を表す。)。
【0053】
誘電測定は、粘度や弾性率との一義的な対応はとれないが、低粘度液体から高弾性率非晶質固体まで変化する熱硬化性樹脂の硬化プロファイルを求めるのに有益である。誘電測定では、熱硬化性樹脂に高周波電界を印加して測定される複素誘電率から計算されるイオン粘度(等価抵抗率)の時間変化から硬化プロファイルを求める。
【0054】
誘電測定装置としては、例えば、Holometrix-Micromet社製のMDE−10キュアモニターが使用できる。測定方法としては、まず、TMS−1インチ型センサーを下面に埋め込んだプログラマブルミニプレスMP2000の下面に内径32mm、厚さ3mmのバイトン製Oリングを設置し、プレスの温度を所定の温度Tに設定する。次に、Oリングの内側にエポキシ樹脂組成物を注ぎ、プレスを閉じ、樹脂組成物のイオン粘度の時間変化を追跡する。誘電測定は、1、10、100、1,000、及び10,000Hzの各周波数で行い、装置付属のソフトウェア(ユーメトリック)を用いて、周波数非依存のイオン粘度の対数Logσを得る。
【0055】
硬化所要時間tにおけるキュアインデックス(単位:%)は次の式(1)で求められ、キュアインデックスが10%に達する時間をt10、90%に達する時間をt90とする。
【0056】
キュアインデックス=(Logα−Logαmin)/(Logαmax−Logαmin)×100 ・・・ (1)
α:時間tにおけるイオン粘度(単位:Ω・cm)
αmin:イオン粘度の最小値(単位:Ω・cm)
αmax:イオン粘度の最大値(単位:Ω・cm)。
【0057】
誘電測定によるイオン粘度の追跡は硬化反応が速くても比較的容易である。さらにイオン粘度は、ゲル化以降も測定が可能であり、硬化の進行とともに増加し、硬化完了に伴って飽和するという性質をもつため、初期の粘度変化だけではなく硬化反応の進行を追跡するためにも用いることができる。上記のようにイオン粘度の対数を、最小値が0%になり、飽和値(最大値)が100%になるように規格化した数値をキュアインデックスといい、熱硬化性樹脂の硬化プロファイルを記述するために用いられる。初期の粘度上昇の速さに関わる指標としてキュアインデックスが10%に到達する時間を用い、硬化時間に関わる指標としてキュアインデックスが90%に到達する時間を用いると、初期の粘度上昇が小さく、短時間で硬化できるために好ましい条件を記述することができる。
【0058】
本発明における上記3つの関係式の意味を要約すると、特定温度Tにおいてエポキシ樹脂組成物の流動が可能となる時間(流動可能時間)に比例するt10が0.5分以上4分以下(式(a))、エポキシ樹脂組成物の硬化がほぼ完了し、脱型が可能となる時間(脱型可能時間)に比例するt90が0.5分以上10分以下(式(b))、エポキシ樹脂組成物の脱型可能時間と流動可能時間の比が1より大きく3以下(式(c))となる。すなわち、上記範囲の中ではt10が大きい場合、エポキシ樹脂組成物は強化繊維基材に含浸しやすく、t90は小さい場合、エポキシ樹脂組成物の硬化が速いことを意味するので、t90/t10は1より大きく3以下の範囲において小さい方がより好ましい。
【0059】
なお、後述する成形温度とのバランスを考慮すると、エポキシ樹脂組成物の成形温度(加熱硬化温度)、すなわち、前記特定温度Tは90〜130℃の範囲であることが好ましい。特定温度Tの範囲を90〜130℃と比較的低温領域に設定することにより、成形設備を簡素化でき、副資材等の耐熱性も不要となりコスト低減に繋がると同時に、脱型後の熱収縮を緩和させることにより、寸法精度が高く、表面品位の良好な繊維強化複合材料を得ることができる。
【0060】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、特定温度Tすなわち90〜130℃で0.5〜10分間硬化後、ガラス転移温度が95〜150℃、反応率が50〜90%の範囲内となるものであり、ガラス転移温度が100〜145℃、反応率が55〜85%の範囲内となるものであることが好ましい。
【0061】
かかるガラス転移温度が95〜150℃の範囲内となることで、成形体に歪みを生じることなく容易に脱型が可能となる。かかるガラス転移温度が95℃に満たない場合、脱型の際に歪みを生じたり、脱型が困難となる。一方で150℃を上回る場合、脱型の際に成形体にヒビ割れが生じたり、成形体の表面品位が悪化する。
【0062】
かかる反応率が50%に満たない場合、脱型の際に歪みを生じたり、型に樹脂の一部が付着してしまう問題が生じる。一方で90%を上回る場合、後硬化を施しても十分な耐熱性が付与されないものとなる。
【0063】
併せて、かかるガラス転移温度は特定温度Tより5〜20℃高いものとなることがより好ましい。このようにより好ましい範囲とすることで、成形体に歪みを生じることなく容易に脱型が可能となる。
【0064】
かかるガラス転移温度は、例えばDMAにより測定することができる。DMAとは、ダイナミックメカニカルアナリシスの略号であり、得られた樹脂硬化物について、特定温度および特定周波数における動的粘弾性の評価手法である。DMAでは、一般的な動的粘弾性測定装置を用い、所定サイズの板状に加工した樹脂硬化物を所定の温度環境下で所定周波数のねじり歪みを負荷し、発生する応力を粘性項と弾性項に切り分けて検出するものである。かかるTgは、弾性項を反映するパラメーターである貯蔵弾性率(G’)を所定昇温速度、所定周波数で測定したG’昇温チャートにおいて、ガラス領域における接線とガラス状態からゴム状態の転移領域における接線の交点温度により定義されるものである。
【0065】
また、かかる反応率は、DSCにより測定することができる。DSCとは、示差走査型熱量計の略号であり、樹脂の硬化反応に伴う発熱量を検出することが可能である。DSCにより、硬化反応を進行させる前の樹脂組成物の硬化反応発熱量(Q)を測定し、また反応率を求めたい樹脂反応物の硬化反応発熱量(Q’)を測定することで、次の式(2)から反応率を算出することができる。
【0066】
反応率(%)={(Q−Q’)/Q}×100 ・・・ (2)
本発明の製造方法においては、特定温度Tすなわち90〜130℃で0.5〜10分間硬化させて、ガラス転移温度を95〜150℃、反応率を50〜90%に至らしめる工程(i)の後、130〜200℃の温度範囲で後硬化(工程(ii))を施し、ガラス転移温度を150〜220℃、反応率を90〜100%に至らしめるものである。
【0067】
かかるガラス転移温度が150℃に満たない場合、塗装工程等で大きく寸法変化を生じる場合がある。一方でガラス転移温度が220℃を上回る場合、繊維強化複合材料の表面品位に劣り、また力学特性が不十分となる場合がある。
【0068】
かかる反応率が90%に満たない場合、繊維強化複合材料の耐薬品性が不十分となり、また使用過程で特性変化を生じてしまう場合がある。
【0069】
次に、本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いて繊維強化複合材料を製造する方法の一例について説明する。
【0070】
本発明の繊維強化複合材料は、加温した前記エポキシ樹脂組成物を、特定温度Tに加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に注入し、含浸させ、該成形型内で硬化することにより製造されることが好ましい。
【0071】
エポキシ樹脂組成物を加温する温度は、強化繊維基材への含浸性の点から、エポキシ樹脂組成物の初期粘度と粘度上昇の関係から決められ、60〜90℃が好ましく、より好ましくは70〜80℃である。
【0072】
また、かかる繊維強化複合材料の製造方法においては、成形型に複数の注入口を有するものを用い、エポキシ樹脂組成物を複数の注入口から同時に、または時間差を設けて順次注入するなど、得ようとする繊維強化複合材料に応じて適切な条件を選ぶことが、様々な形状や大きさの成形体に対応できる自由度が得られるために好ましい。かかる注入口の数や形状に制限はないが、短時間での注入を可能にするために注入口は多い程良く、その配置は、成形品の形状に応じて樹脂の流動長を短くできる位置が好ましい。
【0073】
繊維強化複合材料の製造方法に用いられるエポキシ樹脂組成物は、前記した特定の多官能エポキシ樹脂[A]と脂環式エポキシ樹脂[B]を含むa液と、酸無水物硬化剤[C]を含むb液とを別々に加温しておき、注入の直前にミキサーを用いて混合した後、注入することが樹脂の可使時間の点から好ましい。硬化促進剤[D]や、他の配合成分はa液、b液のどちらに配合しても良く、あらかじめ少なくともどちらかに混合して使用できる。
【0074】
エポキシ樹脂組成物の注入圧力は、通常0.1〜1.0MPaで、型内を真空吸引して樹脂組成物を注入するVaRTM(Vacuum Assist Resin Transfer Molding)法も用いることができるが、注入時間と設備の経済性の点から0.1〜0.6MPaが好ましい。また、加圧注入を行う場合でも、樹脂組成物を注入する前に型内を真空に吸引しておくと、ボイドの発生が抑えられ好ましい。
【0075】
次に、本発明に係るエポキシ樹脂組成物と強化繊維とを用いて得られる繊維強化複合材料の一例について説明する。
【0076】
本発明の繊維強化複合材料において、強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等が好適に用いられる。中でも、軽量でありながら、強度や、弾性率等の力学物性が優れる繊維強化複合材料が得られるという理由から、炭素繊維が好適に用いられる。
【0077】
強化繊維は、短繊維、連続繊維いずれであってもよく、両者を併用してもよい。高Vの繊維強化複合材料が得るためには、連続繊維が好ましい。
【0078】
本発明の繊維強化複合材料では、強化繊維はストランドの形態で用いられることもあるが、強化繊維をマット、織物、ニット、ブレイド、一方向シート等の形態に加工した強化繊維基材が好適に用いられる。中でも、高Vfの繊維強化複合材料が得やすく、かつ取扱い性に優れた織物が好適に用いられる。
【0079】
織物の見かけ体積に対する、強化繊維の正味の体積の比を織物の充填率とする。織物の充填率は、目付W(単位:g/m)、厚みt(単位:mm)、強化繊維の密度ρ(単位:g/cm)からW/(1,000t・ρ)の式により求められる。織物の目付と厚みはJIS R 7602 (1995)に準拠して求められる。織物の充填率が高い方が高Vの繊維強化複合材料を得やすいため、織物の充填率は、0.10〜0.85、好ましくは0.40〜0.85、より好ましくは0.50〜0.85の範囲内であることが好ましい。
【0080】
本発明の繊維強化複合材料が高い比強度、あるいは比弾性率をもつためには、その繊維体積含有率Vが、40〜85%、好ましくは45〜85%の範囲内であることが好ましい。なお、ここで言う、繊維強化複合材料の繊維体積含有率Vとは、ASTM D3171 (1999)に準拠して、以下により定義され、測定される値であり、強化繊維基材に対してエポキシ樹脂組成物を注入、硬化した後の状態でのものをいう。すなわち、繊維強化複合材料の繊維体積含有率Vの測定は、繊維強化複合材料の厚みhから、次の式(3)を用いて表すことができる。
【0081】
繊維体積含有率V(%)=(A×N)/(ρ×h)/10 ・・・ (3)
:繊維基材1枚・1m当たりの重量(g/m2
N:繊維基材の積層枚数(枚)
ρ:強化繊維の密度(g/cm
h:繊維強化複合材料(試験片)の厚み(mm)
なお、繊維基材1枚・1m当たりの重量Aや、繊維基材の積層枚数N、強化繊維の密度ρが明らかでない場合は、JIS K 7075 (1991)に基づく燃焼法もしくは硝酸分解法、硫酸分解法のいずれかにより、繊維強化複合材料の繊維体積含有率を測定する。この場合に用いる強化繊維の密度は、JIS R 7603 (1999)に基づき測定した値を用いる。
【0082】
具体的な繊維強化複合材料の厚みhの測定方法としては、繊維強化複合材料の厚みを正しく測定できる方法であれば、特に限定されるものではないが、JIS K 7072 (1991)に記載されているように、JIS B 7502 (1994)に規定のマイクロメーターまたはこれと同等以上の精度をもつもので測定することが好ましい。繊維強化複合材料が複雑な形状をしていて、測定ができない場合には、繊維強化複合材料からサンプル(測定用としてのある程度の形と大きさを有しているサンプル)を切り出して、測定してもよい。
【0083】
本発明の繊維強化複合材料の好ましい形態の一つとして、単板が挙げられる。また、別の好ましい形態として、単板状の繊維強化複合材料がコア材の両面に配置されたサンドイッチ構造体や単板状の構造体に周囲を覆われた中空構造体、単板状の繊維強化複合材料がコア材の片面に配置されたいわゆるカナッペ構造体などが挙げられる。
【0084】
サンドイッチ構造体、カナッペ構造体のコア材としては、アルミニウムやアラミドからなるハニカムコアや、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等のフォームコア、バルサなどの木材等が挙げられる。中でも、コア材としては、軽量の繊維強化複合材料が得られるという理由から、フォームコアが好適に用いられる。
【0085】
本発明による繊維強化複合材料は、軽量でありながら強度や弾性率等の力学特性が優れるので、航空機や宇宙衛星、産業機械、鉄道車両、船舶、自動車などの構造部材や外板などに好ましく用いられる。また、色調や表面品位、寸法精度にも優れるので、特に自動車外板用途に好ましく用いられる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により、本発明のエポキシ樹脂組成物についてさらに詳細に説明する。
(樹脂原料)
各実施例の樹脂組成物を得るために、以下の樹脂原料を用いた。なお、表1、2中の樹脂組成物の含有割合の単位は、特に断らない限り「質量部」を意味する。
1.エポキシ樹脂
[A]常温で液状であるか、軟化点が65℃以下である多官能エポキシ樹脂
・“jER”(登録商標)154(三菱化学(株)製):フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量178、25℃において液状
・YDCN−700−2(新日鐵化学(株)製):o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量200、軟化点61℃
・“Tactix”(登録商標)742(ハンツマン・アドバンスド・マテリアルズ社製):トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、エポキシ当量160、軟化点49℃
[B]脂環式エポキシ樹脂
・“セロキサイド”(登録商標)2021P(ダイセル化学工業(株)製):脂環式エポキシ樹脂、エポキシ当量137
・“セロキサイド”(登録商標)3000(ダイセル化学工業(株)製):脂環式エポキシ樹脂、エポキシ当量94
[A]、[B]以外のエポキシ樹脂
・“EPICLON”(登録商標)N−775(DIC(株)製):フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量190、軟化点75℃
・YD−128(新日鐵化学(株)製):ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量189、25℃において液状
・ELM434(住友化学(株)製):アミン型エポキシ樹脂、エポキシ当量120、25℃において液状
[C]酸無水物硬化剤
・“リカシッド”(登録商標)MH−700(新日本理化(株)製):メチルヘキサヒドロフタル酸無水物
・“カヤハード”(登録商標)MCD(日本化薬(株)製):メチルナジック酸無水物
・“リカシッド”(登録商標)OSA(新日本理化(株)製):オクテニルコハク酸無水物
[D]硬化促進剤
・“キュアゾール”(登録商標)1,2−DMZ(四国化成工業(株)製)):1,2−ジメチルイミダゾール
・トリフェニルホスフィン(ケイ・アイ化成(株)製)
・N,N−ジメチルベンジルアミン(東京化成工業(株)製)
(エポキシ樹脂組成物の調製)
表1、2に記載した配合比でエポキシ樹脂を混合しI液とした。表1、2に記載した配合比で、酸無水物硬化剤と硬化促進剤を混合し、II液とした。
【0087】
これらI液とII液とを用い、表1、2に記載した配合比でエポキシ樹脂組成物を調製した。
(樹脂組成物の粘度測定)
ISO 2884-1(1994)における円錐平板型回転粘度計を使用した測定方法に準拠し、エポキシ樹脂組成物の調製直後の粘度を測定した。装置には東機産業(株)製のTVE−30H型を用いた。ここでローターは1゜34’×R24を用い、サンプル量は1cmとした。
(誘電測定)
樹脂の硬化を追跡するために誘電測定を行った。誘電測定装置として、Holometrix-Micromet社製のMDE−10キュアモニターを使用した。TMS−1インチ型センサーを下面に埋め込んだプログラマブルミニプレスMP2000の下面に内径32mm、厚さ3mmのバイトン製Oリングを設置し、プレスの温度を110℃に設定し、Oリングの内側にエポキシ樹脂組成物を注ぎ、プレスを閉じ、樹脂組成物のイオン粘度の時間変化を追跡した。誘電測定は1、10、100、1,000、および10,000Hzの各周波数で行い、付属のソフトウェアを用いて、周波数非依存のイオン粘度の対数Logαを得た。
【0088】
次に、前記した式(1)によりキュアインデックスを求め、キュアインデックスが10%に到達する時間t10に対する、キュアインデックスが90%に到達する時間t90の比t90/t10を求めた。
(樹脂硬化板の作製)
プレス装置下面に、一辺50mmの正方形をくり抜いた、厚さ2mmの銅製スペーサーを設置し、プレスの温度を110℃に設定し、エポキシ樹脂組成物をスペーサーの内側に注ぎ、プレスを閉じた。10分後にプレスを開け、樹脂硬化板を得た。
(後硬化樹脂板の作製)
得られた樹脂硬化版を、180℃の熱風オーブンに投入し、30分間の後硬化を施し、後硬化樹脂板を得た。
(樹脂硬化板および後硬化樹脂板のガラス転移温度Tg測定)
樹脂硬化板から幅12.7mm、長さ40mmの試験片を切り出し、レオメーター(TAインスツルメンツ社製ARES)を用いてねじりDMA測定を行った。測定条件は、周波数1Hz、測定温度範囲30〜300℃、昇温速度20℃/分である。測定で得られた貯蔵弾性率G’の変曲点での温度をTgとした。
【0089】
また、後硬化樹脂板から幅12.7mm、長さ40mmの試験片を切り出し、レオメーター(TAインスツルメンツ社製ARES)を用いてねじりDMA測定を行った。測定条件は、周波数1Hz、測定温度範囲30〜300℃、昇温速度5℃/分である。測定で得られた貯蔵弾性率G’の変曲点での温度をTgとした。
(樹脂硬化板および後硬化樹脂板の反応率測定)
樹脂組成物から約3mgを採取し、DSC(TAインスツルメンツ社製2910)を用いて硬化発熱量測定を行った。測定条件は、測定温度範囲30〜300℃、昇温速度10℃/分である。測定で得られた縦軸:発熱量、横軸:温度の硬化発熱曲線において、ベースラインとの差し引きの面積を硬化発熱量とした。樹脂組成物の硬化発熱量Qを算出した。
【0090】
同様の手順で、樹脂硬化板および後硬化樹脂板の硬化発熱量Q’を算出し、前記した式(2)より反応率を導出した。
(実施例1〜12)
前記したようにして、表1、2に示す組成でエポキシ樹脂組成物を調製し、粘度測定、誘電測定を行った。また、調製したエポキシ樹脂組成物を用いて、前記したようにして、樹脂硬化板および後硬化樹脂板を作製し、ガラス転移温度Tgおよび反応率を測定した。
【0091】
表1、2に示したように、本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化剤や触媒が低粘度液体であるため混合作業性に優れる。また樹脂組成物の初期粘度が低く、成形温度(110℃)においてt10で表される流動可能時間が長いため強化繊維への含浸性、充填性に優れる。さらにt90で表される脱型可能時間が短いため、t90/t10の値が3以下になり、繊維強化複合材料の成形において、成形時間の短縮にも効果的であることが分かる。
【0092】
また、180℃で熱処理後の後硬化樹脂板のTgが174℃〜211℃の範囲となるため、塗装工程を経ても成形品の表面品位や寸法精度を確保することが出来る。
(比較例1〜5)
前記したようにして、表2に示す組成でエポキシ樹脂組成物を調製し、粘度測定、誘電測定を行った。また、調製したエポキシ樹脂組成物を用いて、前記したようにして、樹脂硬化板および後硬化樹脂板を作製し、ガラス転移温度Tgおよび反応率を測定した。
【0093】
表2に示したように、本発明の範囲を外れるエポキシ樹脂組成物は満足な特性を得られていない。まず、脂環式エポキシ樹脂を含まない比較例1では、組成物の粘度が高く含浸性に劣り、また硬化物のTgも低く、成形品の表面品位や寸法精度に劣るものとなる。
【0094】
次に、多官能エポキシ樹脂を含まない比較例2は、ハイサイクル成形に必要な硬化速度が得られず、繊維強化複合材料の生産には適さない。
【0095】
軟化点が65℃よりも高い多官能エポキシ樹脂を用いた比較例3は、組成物の粘度が高く含浸性に劣り、繊維強化複合材料の生産に適さない。
【0096】
エポキシ基を2つのみ有するビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた比較例4は、十分な硬化速度が得られない上に、樹脂硬化板のガラス転移点が低く十分な耐熱性が得られていない。
【0097】
多官能エポキシ樹脂としてアミン型エポキシ樹脂を用いた比較例5は、十分な硬化速度が得られず、樹脂硬化板のTgが低いものとなり、繊維強化複合材料の脱型作業性に劣るものとなる。
【0098】
酸無水物硬化剤を含まない比較例6は、組成物の粘度が極めて高く、含浸性が大きく不足する。
【0099】
多官能エポキシ樹脂の含有量が40質量%と少ない比較例7は、硬化反応後半における反応速度が顕著に低下し、硬化に時間がかかりすぎるとともに、t90/t10が2.8とやや劣るものとなる。
【0100】
以上のように、本発明のエポキシ樹脂組成物は繊維強化複合材料の成形に適しており、RTM法などにより、外観、表面品位にも優れた繊維強化複合材料を生産性良く短時間で得られる。また、本発明のエポキシ樹脂組成物は大きな形状の繊維強化複合材料の成形にも優れており、特に自動車部材への適用に好適である。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、樹脂調製時の作業性に優れ、強化繊維への注入時に低粘度を保持し含浸性に優れ、かつ成形時に短時間で硬化し、耐熱性の高い硬化物となり、高品位の繊維強化複合材料を与えるため、RTM法などによって高品位の繊維強化複合材料を高い生産性で提供可能となる。これにより、特に自動車用途への繊維強化複合材料の適用が進み、自動車の更なる軽量化による燃費向上、地球温暖化ガス排出削減への貢献が期待できる。