特許第5733464号(P5733464)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5733464フェライト焼結磁石及びそれを備えるモータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733464
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】フェライト焼結磁石及びそれを備えるモータ
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/11 20060101AFI20150521BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20150521BHJP
   C04B 35/26 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   H01F1/11 B
   H01F41/02 G
   C04B35/26 F
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-500747(P2014-500747)
(86)(22)【出願日】2013年2月20日
(86)【国際出願番号】JP2013054231
(87)【国際公開番号】WO2013125601
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2014年6月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-34092(P2012-34092)
(32)【優先日】2012年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】田口 仁
【審査官】 久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−133798(JP,A)
【文献】 特開昭54−071395(JP,A)
【文献】 特開昭52−017694(JP,A)
【文献】 特開昭51−023500(JP,A)
【文献】 特開昭52−126795(JP,A)
【文献】 特開2006−327883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/00−1/11、1/40、41/00−41/04、
C04B 35/26−35/40、35/622
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶構造を有するSrフェライトを含有するM型のフェライト焼結磁石であって、
Na及びKの合計含有量が、NaO及びKOにそれぞれ換算して0.011〜0.086質量%、
Siの含有量がSiO換算で0.150〜0.270質量%、であり、
下記式(1)を満たすフェライト焼結磁石。
2.5≦(Sr+Ba+Ca+2Na+2K)/Si≦5.4 (1)
[式(1)中、Srは、前記Srフェライトを構成するSrを除いたSrのモル基準の含有量であり、Ba,Ca,Na及びKは、それぞれの元素のモル基準の含有量を示す。]
【請求項2】
下記式(2)を満たす、請求項1に記載のフェライト焼結磁石。
3.2≦(Sr+Ba+Ca+2Na+2K)/Si≦3.5 (2)
[式(2)中、Srは、前記Srフェライトを構成するSrを除いたSrのモル基準の含有量であり、Ba,Ca,Na及びKは、それぞれの元素のモル基準の含有量を示す。]
【請求項3】
下記式(3)を満たす、請求項1又は2に記載のフェライト焼結磁石。
Br+1/3HcJ≧5.2 (3)
[式(3)中、Br及びHcJは、それぞれ残留磁束密度(kG)及び保磁力(kOe)を示す。]
【請求項4】
前記Srフェライトの結晶粒の平均粒径が1.0μm以下であり、
粒径が2.0μm以上である前記結晶粒の個数基準の割合が1%以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフェライト焼結磁石。
【請求項5】
Na及びKの両方を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のフェライト焼結磁石。
【請求項6】
Srの含有量が、SrO換算で10〜13質量%であり、Baの含有量が、BaOの含有量が0.01〜2質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のフェライト焼結磁石。
【請求項7】
Caの含有量が、CaO換算で0.05〜0.5質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のフェライト焼結磁石。
【請求項8】
粒界に、K,Na,Si,Ca,Sr及びBaから選ばれる少なくとも一種の元素を構成元素とするケイ酸ガラスを有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のフェライト焼結磁石。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載のフェライト焼結磁石を備えるモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェライト焼結磁石及びそれを備えるモータに関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結磁石に用いられる磁性材料として、六方晶系の結晶構造を有するBaフェライト、Srフェライト及びCaフェライトが知られている。近年、これらの中でも、モータ用等の磁石材料として、主にマグネトプランバイト型(M型)のSrフェライトが採用されている。M型フェライトは例えばAFe1219の一般式で表される。Srフェライトは、結晶構造のAサイトにSrを有する。
【0003】
フェライト焼結磁石の磁気特性を改善するために、Aサイトの元素及びBサイトの元素の一部を、それぞれLa等の希土類元素及びCoで置換することによって、磁気特性を改善することが試みられている。例えば、特許文献1では、Aサイト及びBサイトの一部を特定量の希土類元素及びCoで置換することによって、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を向上する技術が開示されている。
【0004】
フェライト焼結磁石の代表的な用途としては、モータが挙げられる。モータに用いられるフェライト焼結磁石は、BrとHcJの両特性に優れることが求められるものの、一般に、BrとHcJは、トレードオフの関係にあることが知られている。このため、Br及びHcJの両特性を一層向上することが可能な技術を確立することが求められている。
【0005】
Br及びHcJの両特性を考慮した磁気特性を示す指標として、Br+1/3HcJの計算式が知られている(例えば、特許文献1参照)。この値が高いほど、モータなど高い磁気特性が求められる用途に適したフェライト焼結磁石であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−154604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に示されるように、フェライト焼結磁石を構成する主な結晶粒の組成を制御して磁気特性を改善することは有効である。しかしながら、結晶粒の組成のみを制御しても、従来のフェライト焼結磁石の磁気特性を大きく改善することは難しい。一方、フェライト焼結磁石に含まれる副成分は、磁気特性や焼結性を改善する作用を有するものがある。しかしながら、副成分の種類や量によっては、フェライト焼結磁石の優れた強度や外観などの信頼性が損なわれる場合がある。例えば、強度が低いフェライト焼結磁石又は表面に異物が析出しやすいフェライト焼結磁石をモータに用いると、モータの使用中にフェライト焼結磁石が破損したり剥がれて落下したりすることが懸念される。このため、磁気特性のみならず、高い信頼性を有するフェライト焼結磁石が求められている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)の両方の特性に優れるとともに、高い信頼性を有するフェライト焼結磁石を提供することを目的とする。また、効率が高く信頼性に優れるモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、結晶粒の組成のみではなく、フェライト焼結磁石の全体の組成とともに粒界の組成に着目して磁気特性を向上させることを検討した。その結果、所定の副成分を含有することによってフェライト焼結磁石の磁気特性と信頼性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、六方晶構造を有するSrフェライトを含有するフェライト焼結磁石であって、Na及びKの合計含有量が、NaO及びKOにそれぞれ換算して0.01〜0.09質量%、Siの含有量がSiO換算で0.1〜0.29質量%、であり、下記式(1)を満たすフェライト焼結磁石を提供する。
2.5≦(Sr+Ba+Ca+2Na+2K)/Si≦5.4 (1)
【0011】
ここで、式(1)中、Srは、Srフェライトを構成するSrを除いたSrのモル基準の含有量であり、Ba,Ca,Na及びKは、それぞれの元素のモル基準の含有量を示す。
【0012】
上記本発明のフェライト焼結磁石は、Br及びHcJの両方の特性に優れるとともに、高い信頼性を有する。このような効果が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、本発明者らは、フェライト焼結磁石の粒界組成が寄与していると考えている。すなわち、フェライト焼結磁石の粒界には、Srフェライトを構成するSrとは異なるSrと、Ba、Ca並びにNa及びKの少なくとも一方と、を構成元素とするケイ酸ガラスが形成されていると考えられる。本発明のフェライト焼結磁石は、このケイ酸ガラスを安定して形成させるような比率の粒界組成を有すると考えられる。このため、フェライト焼結磁石が安定で且つ緻密な組織になりやすく、高いBr及びHcJと高い信頼性を有すると考えられる。
【0013】
本発明のフェライト焼結磁石は下記式(2)を満たすことが好ましい。これによって、Br+1/3HcJの値を一層高くすることができる。なお、式(2)中、Srは、Srフェライトを構成するSrを除いたSrのモル基準の含有量であり、Ba,Ca,Na及びKは、それぞれの元素のモル基準の含有量を示す。
2.9≦(Sr+Ba+Ca+2Na+2K)/Si≦3.5 (2)
【0014】
本発明のフェライト焼結磁石は、下記式(3)を満たすことが好ましい。これによって、一層磁気特性に優れるフェライト焼結磁石となる。
Br+1/3HcJ≧5.2 (3)
上式(3)中、Br及びHcJは、それぞれ残留磁束密度(kG)及び保磁力(kOe)を示す。
【0015】
本発明のフェライト焼結磁石におけるSrフェライトの結晶粒の平均粒径が1.0μm以下であり、粒径が2.0μm以上である結晶粒の個数基準の割合が1%以下であることが好ましい。これによって、磁気特性と信頼性とを一層高水準で両立することができる。
【0016】
本発明ではまた、上述のフェライト焼結磁石を備えるモータを提供する。このモータは、上述の特徴を有するフェライト焼結磁石を備えることから、高い効率と高い信頼性とを兼ね備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Br及びHcJの両方の特性に優れるとともに、高い信頼性を有するフェライト焼結磁石を提供することができる。また、効率が高く信頼性に優れるモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のフェライト焼結磁石の好適な実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の実施例及び比較例における複数のフェライト焼結磁石のBr(G)とHcJ(Oe)の関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本実施形態のフェライト焼結磁石を模式的に示す斜視図である。フェライト焼結磁石10は、端面が円弧状となるように湾曲した形状を有しており、一般にアークセグメント形状、C形形状、瓦型形状、又は弓形形状と呼ばれる形状を有している。フェライト焼結磁石10は、例えばモータ用の磁石として好適に用いられる。
【0021】
フェライト焼結磁石10は、主成分として、六方晶構造を有するM型のSrフェライトを含有するSrフェライト焼結磁石である。主成分であるSrフェライトは、例えば以下の式(4)で表わされる。
SrFe1219 (4)
【0022】
上式(4)のSrフェライトにおけるAサイトのSr及びBサイトのFeは、不純物又は意図的に添加された元素によって、その一部が置換されていてもよい。また、AサイトとBサイトの比率が若干ずれていてもよい。この場合、Srフェライトは、例えば以下の一般式(5)で表わすことができる。
Sr1−x(Fe12−y19 (5)
上式(5)中、x及びyは、例えば0.1〜0.5であり、zは0.7〜1.2である。
【0023】
一般式(5)におけるMは、例えば、Co(コバルト)、Zn(亜鉛)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)及びCr(クロム)からなる群より選ばれる1種以上の元素である。また、一般式(5)におけるRは、希土類元素であり、例えば、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)及びSm(サマリウム)からなる群より選ばれる1種以上の元素である。なお、この場合、Srは、M及びRが一般式(5)に示すようにSrフェライトを構成するとして算出することができる。
【0024】
フェライト焼結磁石10におけるSrフェライトの質量比率は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは97質量%以上である。このように、Srフェライトとは異なる結晶相の質量比率を低減することによって、磁気特性を一層高くすることができる。
【0025】
フェライト焼結磁石10は、副成分として、Srフェライトとは異なる成分を含有する。副成分としては、酸化物が挙げられる。酸化物としては、構成元素として、K(カリウム)、Na(ナトリウム),Si(ケイ素),Ca(カルシウム),Sr(ストロンチウム)及びBa(バリウム)から選ばれる少なくとも一種を有する酸化物並びに複合酸化物が挙げられる。酸化物としては、例えばSiO、KO、NaO、CaO、SrO、BaOが挙げられる。また、ケイ酸ガラスを含んでいてもよい。
【0026】
フェライト焼結磁石10におけるNa及びKの合計含有量は、NaO及びKOにそれぞれ換算して0.01〜0.09質量%である。Na及びKの合計含有量の下限は、NaO及びKOにそれぞれ換算して、好ましくは0.02質量%であり、より好ましくは0.04質量%である。Na及びKの合計含有量が低くなり過ぎると、焼結温度を低減することができず、結晶粒が粒成長して十分に高い磁気特性を得ることが困難になる傾向にある。
【0027】
Na及びKの合計含有量の上限は、NaO及びKOにそれぞれ換算して、好ましくは0.075質量%である。Na及びKの合計含有量が高くなり過ぎると、フェライト焼結磁石10の表面に白色の粉体が生じ易くなる傾向にある。フェライト焼結磁石10の表面に粉体が生じると、例えばモータ部材とフェライト焼結磁石10との接着力が低下して、フェライト焼結磁石10がモータ部材から剥離する可能性がある。すなわち、フェライト焼結磁石10の信頼性が損なわれてしまう。
【0028】
フェライト焼結磁石10におけるSiの含有量は、SiO換算で0.1〜0.29質量%である。Siの含有量の下限は、SiO換算で好ましくは0.15質量%であり、より好ましくは0.2質量%である。Siの含有量が低くなり過ぎると、焼結体が十分に緻密化せずに優れた磁気特性が損なわれる傾向にある。Siの含有量が高くなり過ぎると、十分に優れた磁気特性が損なわれる傾向にある。
【0029】
フェライト焼結磁石10におけるSrの含有量は、磁気特性と信頼性とを一層向上する観点から、SrO換算で好ましくは10〜13質量%であり、より好ましくは10.2〜11質量%である。また、フェライト焼結磁石10におけるBaの含有量は、同様の観点からBaO換算で好ましくは0.01〜2.0質量%であり、より好ましくは0.01〜0.2質量%である。
【0030】
フェライト焼結磁石10におけるCaの含有量は、磁気特性と信頼性とを一層向上する観点から、CaO換算で好ましくは0.05〜0.5質量%であり、より好ましくは0.1〜0.3質量%である。また、フェライト焼結磁石10には、これらの成分の他に、原料に含まれる不純物や製造設備に由来する不可避的な成分が含まれていてもよい。このような成分としては、例えば、Ti(チタン),Cr(クロム),Mn(マンガン),Mo(モリブデン),V(バナジウム)及びAl(アルミニウム)等の各酸化物が挙げられる。
【0031】
副成分は、主に、フェライト焼結磁石10におけるSrフェライトの結晶粒の粒界に含まれる。副成分に含まれる各元素の比率が変わると、粒界の組成が変化し、その結果フェライト焼結磁石10の磁気特性や信頼性に影響を及ぼす場合がある。本実施形態のフェライト焼結磁石10は、副成分に含まれる特定の元素の比率を所定の範囲に調整することによって、優れた磁気特性と高い信頼性を有する。なお、フェライト焼結磁石10の各成分の含有量は、蛍光X線分析及び誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP分析)によって測定することができる。
【0032】
フェライト焼結磁石10は、磁気特性及び信頼性を一層向上させる観点から、下記式(1)を満たし、好ましくは下記式(1)’を満たし、より好ましくは下記式(6)を満たし、さらに好ましくは下記式(7)を満たし、特に好ましくは下記式(2)を満たす。
2.5≦(Sr+Ba+Ca+2Na+2K)/Si≦5.4 (1)
2.5≦(Sr+Ba+Ca+2Na+2K)/Si≦4.1 (1)’
2.7≦(Sr+Ba+Ca+2Na+2K)/Si≦4.0 (6)
2.8≦(Sr+Ba+Ca+2Na+2K)/Si≦3.8 (7)
3.2≦(Sr+Ba+Ca+2Na+2K)/Si≦3.5 (2)
【0033】
上式(1),(1)’,(2),(6)及び(7)中、Srは、Srフェライトを構成するSrを除いたSrのモル基準の含有量を示し、Ba,Ca,Na及びKは、それぞれの元素のモル基準の含有量を示す。Srは、フェライト焼結磁石10の製造過程において、Fe源に対するSr源の割合を、Srフェライトの量論比[SrFe1219又はRSr1−x(Fe12−y19]よりも多くした場合に生じる。Srの含有量がSrフェライトの量論比[SrFe1219又はRSr1−x(Fe12−y19]よりも少ない場合は、Srは0未満の数値、すなわちマイナスの数値となる。この場合も上記式を満足することが好ましい。
【0034】
フェライト焼結磁石10の粒界には、副成分として挙げた元素を構成元素とするケイ酸ガラスが生成していると考えられる。フェライト焼結磁石10は、上記式(1),(1)’,(2),(6)又は(7)を満足することによって粒界の組成が安定化し、それが磁気特性及び信頼性の向上に寄与すると考えられる。
【0035】
フェライト焼結磁石10におけるSrフェライトの結晶粒の平均粒径は、好ましくは2.0μm以下であり、より好ましくは1.0μm以下であり、さらに好ましくは0.3〜1.0μmである。Srフェライトの結晶粒の平均粒径が2.0μmを超えると、十分に優れた磁気特性を得ることが困難になる傾向にある。一方、Srフェライトの結晶粒の平均粒径が0.3μm未満のフェライト焼結磁石は、製造することが困難である。
【0036】
フェライト焼結磁石10のSrフェライトの結晶粒の平均粒径は、SEM又はTEMを用いて測定することができる。SEMで測定する場合には、フェライト焼結磁石の断面を、鏡面研磨してフッ酸等の酸でエッチング処理する。そして、エッチング面をSEMで観察する。数百個の結晶粒を含むSEM又はTEMの観察画像において、結晶粒の輪郭を明確化したのち、画像処理などを行って、c面の粒径分布を測定する。本明細書における「粒径」は、a面における長径(a軸方向の径)をいう。この長径は、各結晶粒に外接する「面積が最小となる長方形」の長辺として求められる。また、「面積が最小となる長方形」の短辺に対する長辺の比が「アスペクト比」である。なお、酸によるエッチングに代えて、試料を加熱してエッチングする、いわゆるサーマルエッチングを行ってもよい。
【0037】
測定した個数基準の粒径分布から、結晶粒の粒径の個数基準の平均値を算出する。また、測定した粒径分布と平均値から標準偏差を算出する。本明細書では、これらをSrフェライトの結晶粒の平均粒径及び標準偏差とする。Srフェライトの結晶粒全体に対する該結晶粒の粒径が2μm以上である結晶粒の個数基準の割合は1%以下であることが好ましく、0.9%以下であることがより好ましい。これによって、十分に高い磁気特性を有するフェライト焼結磁石とすることができる。同様の観点から、各結晶粒のアスペクト比の個数平均値(平均アスペクト比)は、約1.0であることが好ましい。
【0038】
フェライト焼結磁石10は、好ましくは下記式(3)を満足し、より好ましくは下記式(8)を満足する。本実施形態のフェライト焼結磁石10は、Srフェライトの結晶粒が十分に微細であるうえに、特定の組成を有するものであることから、式(3)又は(8)を満足するような高い磁気特性を有する。この式(3)又は(8)を満足するフェライト焼結磁石は、十分に優れた磁気特性を有する。このようなフェライト焼結磁石によって、一層高い効率を有するモータを提供することができる。
Br+1/3HcJ≧5.2 (3)
Br+1/3HcJ≧5.3 (8)
式(3)及び(8)中、Br及びHcJは、それぞれ残留磁束密度(kG)及び保磁力(kOe)を示す。
【0039】
図2は、本発明の実施例及び比較例における複数のフェライト焼結磁石のBr(G)とHcJ(Oe)の関係をプロットしたグラフである。図2は、Hk/HcJ>90%を満たすデータのみをプロットしたものである。この図2から分かるように、フェライト焼結磁石は、組成、添加条件及び焼成温度などの製造条件が変わることによって、BrやHcJなどの磁気特性が変動することが一般的である。そして、BrとHcJは、互いにトレードオフの関係にあり、所定の勾配(Br+1/3HcJ)に沿って変動する。フェライト焼結磁石10は、図2の点線1(Br+1/3HcJ=5.2)の上又は点線1よりも右上の磁気特性(Br,HcJ)を有することが好ましく、直線2(Br+1/3HcJ=5.3)の上又は直線2よりも右上の磁気特性(Br,HcJ)を有することがより好ましくい。
【0040】
フェライト焼結磁石10は、例えば、フューエルポンプ用、パワーウィンドウ用、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータの磁石として使用することができる。また、FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD/DVD/MDスピンドル用、CD/DVD/MDローディング用、CD/DVD光ピックアップ用等のOA/AV機器用モータの磁石として使用することができる。さらに、エアコンコンプレッサー用、冷凍庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータの磁石としても使用することができる。さらにまた、ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータの磁石としても使用することが可能である。
【0041】
フェライト焼結磁石10は、上述のモータの部材に接着してモータ内に設置される。優れた磁気特性を有するフェライト焼結磁石10は、クラックの発生及び表面における異物(白粉)の発生が十分に抑制されていることから、モータ部材と十分強固に接着される。このように、フェライト焼結磁石10がモータの部材から剥離することを十分に抑制することができる。このため、フェライト焼結磁石10を備える各種モータは、高い効率と高い信頼性とを兼ね備える。
【0042】
フェライト焼結磁石10の用途は、モータに限定されるものではなく、例えば、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、CD−ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オイルレベルセンサ、マグネトラッチ、又はアイソレータ等の部材として用いることもできる。また、磁気記録媒体の磁性層を蒸着法又はスパッタ法等で形成する際のターゲット(ペレット)として用いることもできる。
【0043】
次に、フェライト焼結磁石10の製造方法を説明する。フェライト焼結磁石10の製造方法は、配合工程、仮焼工程、粉砕工程、磁場中成形工程及び焼成工程を有する。以下、各工程の詳細を説明する。
【0044】
配合工程は、仮焼用の混合粉末を調製する工程である。配合工程では、まず、出発原料を秤量して所定の割合で配合し、湿式アトライタ、又はボールミル等で1〜20時間程度混合するとともに粉砕処理を行う。出発原料としては、主成分であるSrフェライトの構成元素を有する化合物を準備する。
【0045】
配合工程では、副成分であるSiO、CaCO,NaCO及びKCOの等の粉末を添加してもよい。Na又はKの構成元素を有する化合物としては炭酸塩以外に珪酸塩やNa又はKを含む有機化合物(分散剤)を用いることができる。
【0046】
Srフェライトの構成元素を有する化合物としては、酸化物又は焼成により酸化物となる、炭酸塩、水酸化物又は硝酸塩等の化合物を用いることができる。このような化合物としては、例えば、SrCO、La(OH)、Fe及びCo等が挙げられる。出発原料の平均粒径は特に限定されず、例えば0.1〜2.0μmである。出発原料は、仮焼前の配合工程ですべてを混合する必要はなく、各化合物の一部又は全部を仮焼の後に添加してもよい。
【0047】
仮焼工程は、配合工程で得られた原料組成物を仮焼する工程である。仮焼は、空気中等の酸化性雰囲気中で行うことができる。仮焼温度は、好ましくは800〜1450℃であり、より好ましくは850〜1300℃であり、さらに好ましくは900〜1200℃であり、仮焼温度における仮焼時間は、好ましくは1秒間〜10時間、より好ましくは1分間〜3時間である。仮焼して得られる仮焼物におけるSrフェライトの含有量は、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。仮焼物の一次粒子径は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは2.0μm以下である。
【0048】
粉砕工程は、仮焼物を粉砕してフェライト磁石の粉末を得る工程である。粉砕工程は、一段階で行ってもよく、粗粉砕工程と微粉砕工程の二段階に分けて行ってもよい。仮焼物は、通常顆粒状又は塊状であるため、まずは粗粉砕工程を行うことが好ましい。粗粉砕工程では、振動ロッドミル等を使用して乾式で粉砕を行って、平均粒径0.5〜5.0μmの粉砕粉を調製する。このようにして調製した粉砕粉を、湿式アトライタ、ボールミル、又はジェットミル等を用いて湿式で粉砕して、平均粒径0.08〜2.0μm、好ましくは0.1〜1.0μm、より好ましくは0.2〜0.8μmの微粉末を得る。
【0049】
微粉末のBET法による比表面積は、好ましくは5〜14m/g、より好ましくは7〜12m/gである。粉砕時間は、例えば湿式アトライタを用いる場合、30分間〜10時間であり、ボールミルを用いる場合、5〜50時間である。これらの時間は、粉砕方法によって適宜調整することが好ましい。
【0050】
粉砕工程では、副成分であるSiO、NaCO及びKCOの少なくとも一種の粉末に加えて、CaCO,SrCO及びBaCO等の粉末を添加してもよい。Na又はKの構成元素を有する化合物としては炭酸塩以外に珪酸塩やNa又はKを含む有機化合物(分散剤)を用いることができる。このような副成分を添加することによって、焼結性を向上すること、及び磁気特性を向上することができる。なお、これらの副成分は、湿式で成形を行う場合にスラリーの溶媒とともに流出することがあるため、フェライト焼結磁石における目標の含有量よりも多めに配合することが好ましい。
【0051】
フェライト焼結磁石の磁気的配向度を高めるために、上述の副成分に加えて、多価アルコールを微粉砕工程で添加することが好ましい。多価アルコールの添加量は、添加対象物に対して0.05〜5.0質量%、好ましくは0.1〜3.0質量%、より好ましくは0.3〜2.0質量%である。なお、添加した多価アルコールは、磁場中成形工程後の焼成工程で熱分解して除去される。
【0052】
磁場中成形工程は、粉砕工程で得られた微粉末を磁場中で成形して成形体を作製する工程である。磁場中成形工程は、乾式成形、又は湿式成形のどちらの方法でも行うことができる。磁気的配向度を高くする観点から、湿式成形が好ましい。湿式成形を行う場合、微粉砕工程を湿式で行って、得られたスラリーを所定の濃度に調整し、湿式成形用スラリーとしてもよい。スラリーの濃縮は、遠心分離やフィルタープレス等によって行うことができる。
【0053】
湿式成形用スラリー中における微粉末の含有量は、好ましくは30〜85質量%である。スラリーの分散媒としては水又は非水系溶媒を用いることができる。湿式成形用スラリーには、水に加えて、グルコン酸、グルコン酸塩、又はソルビトール等の界面活性剤を添加してもよい。このような湿式成形用スラリーを用いて磁場中成形を行う。成形圧力は例えば0.1〜0.5トン/cmであり、印加磁場は例えば5〜15kOeである。
【0054】
焼成工程は、成形体を焼成して焼結体を得る工程である。焼成工程は、通常、大気中等の酸化性雰囲気中で行う。焼成温度は、好ましくは1050〜1300℃、より好ましくは1150〜1250℃である。焼成温度における焼成時間は、好ましくは0.5〜3時間である。以上の工程によって、焼結体、すなわちフェライト焼結磁石10を得ることができる。なお、本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、上述の方法に限定されるものではない。
【0055】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明のフェライト焼結磁石及びモータは、上述のものに限定されない。例えば、フェライト焼結磁石の形状は、図1の形状に限定されず、上述の各用途に適した形状に適宜変更することができる。
【実施例】
【0056】
本発明の内容を実施例及び比較例を参照してさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1〜8、比較例1〜17]
(フェライト焼結磁石の作製)
まず、以下の出発原料を準備した。
・FeCO粉末(一次粒子径:0.3μm)
・SrCO粉末(一次粒子径:2μm)
・SiO粉末(一次粒子径:0.01μm)
・CaCO粉末
・NaCO粉末
【0058】
FeCO粉末1000g、SrCO粉末161.2g、及びSiO粉末2.3gを、湿式アトライタを用いて粉砕しながら混合し、乾燥及び整粒を行った。このようにして得られた粉末を、大気中、1250℃で3時間焼成し、顆粒状の仮焼物を得た。乾式振動ロッドミルを用いて、この仮焼物を粗粉砕して、BET法による比表面積が1m/gの粉末を調製した。
【0059】
粗粉砕した粉末130gに、ソルビトール、SiO粉末及びCaCO粉末を所定量添加し、ボールミルを用いて湿式粉砕を21時間行ってスラリーを得た。ソルビトールの添加量は、粗粉砕した粉末の質量を基準として、1質量%とした。スラリーに含まれる微粉末の比表面積は6〜8m/gであった。粉砕終了後のスラリーに対してNaCO粉末を所定量添加して攪拌した。その後、スラリーの固形分濃度を調整し、湿式磁場成形機を用いて12kOeの印加磁場中で成形を行って成形体を得た。このような成形体を4個作製した。これらの成形体を、大気中で、それぞれ1180℃、1200℃、1220℃及び1240℃で焼成して、焼成温度が異なる4種類の円柱形状のフェライト焼結磁石を得た。この成形体を、大気中1180〜1240℃で焼成して円柱形状のフェライト焼結磁石を得た。このようにして実施例1のフェライト焼結磁石を作製した。また、スラリー調製時のSiO粉末及びCaCO粉末の添加量、並びにスラリーへのNaCO粉末の添加量を変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例1とは組成の異なる実施例2〜8及び比較例1〜17のフェライト焼結磁石を作製した。各実施例及び比較例において、焼成温度が異なる4種類のフェライト焼結磁石を作製した。
【0060】
(フェライト焼結磁石の評価)
<組成分析>
作製した各実施例及び各比較例のフェライト焼結磁石の組成を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP分析)及び蛍光X線分析によって測定した。フェライト焼結磁石は、Fe,Sr,Si,Caの他に、出発原料に含まれる不純物に由来する元素(Ba等)が検出された。表1及び表2に、検出されたNa,Al,K,Si,Ca,Cr,Mn,Fe,Ni,Sr及びBaを、それぞれNaO,Al,KO,SiO,CaO,Cr,MnO,Fe,NiO,SrO及びBaOに換算したときの含有量を示す。これらの含有量は、フェライト焼結磁石全体を基準とした値(質量%)である。なお、これらの含有量の合計値が100質量%とならないのは、フェライト焼結磁石が、これらの成分の他に不純物などの微量成分を含有すること、及び各酸化物の構成元素の酸化数が異なる場合があるためである。
【0061】
上述の組成分析で検出されたAl,Cr,Mn及びNiは、Feとともに、一般式(5)に示すSrフェライトのBサイトを構成するとの前提の下、Fe,Al,Cr,Mn及びNiの含有量に基づいて、一般式(5)に示すSrフェライトのAサイトを構成するSrの含有量を算出した。なお、希土類元素Rは含まれていないことから、一般式(5)におけるxは0である。そして、上述の組成分析で求めたSrの含有量から、上述のとおり算出したAサイトを構成するSrの含有量を差し引いて、Srフェライトを構成しないSr(Sr)の含有量(質量%)を求めた。このSr含有量(質量%)と、Ba、Ca及びNaの含有量(質量%)を、全てモル基準に換算した後、モル比a[=(Sr+Ba+Ca+2Na+2K)/Si]を求めた。これらの結果を表1及び表2に示す。
【0062】
<外観評価>
作製したフェライト磁石を大気中で7日間放置した後、その表面を目視で観察し、以下の基準で評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
A:磁石の表面にクラック及び白粉がどちらも発生しなかった。
B:磁石の表面にクラックが発生していたが、白粉は発生しなかった。
C:磁石の表面にクラックが発生しており、且つ白粉が付着していた。
【0063】
<磁気特性の評価>
作製した円柱形状のフェライト焼結磁石の上下面を加工した後、最大印加磁場25kOeのB−Hトレーサを用いて磁気特性を測定した。測定では、Br、HcJ、bHc、4PImax及び(BH)maxを求めるとともに、Brの90%になるときの外部磁界強度(Hk)を測定し、これに基づいてHk/HcJ(%)を求めた。各実施例及び比較例において、焼成温度1180℃、1200℃、1220℃及び1240℃でそれぞれ作製したフェライト焼結磁石のうち、Hk/HcJ>90%を満たし、且つ最も高いBr+1/3HcJを示したフェライト焼結磁石の磁気特性を焼結温度とともに表1及び表2に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
表1及び表2に示すとおり、実施例のフェライト焼結磁石は、クラックや白粉の発生がなく、且つBr+1/3HcJの値が5.2以上であった。また、NaO及びKOの合計含有量が0.09質量%を超えるフェライト焼結磁石は、クラックが発生し易いうえに、大気中に所定期間放置すると白粉が析出する場合があることが確認された。また、モル比aの比率が過大又は過小になると、磁気特性が低下する現象が確認された。
【0067】
実施例1〜8のフェライト焼結磁石の断面(a面)を鏡面研磨した後、フッ酸でエッチングした。その後、エッチング面をFE−SEMで観察した。観察した画像におけるSrフェライトの結晶粒の輪郭を明確化した後、画像処理によってSrフェライトの結晶粒の個数基準の粒度分布を測定した。
【0068】
粒度分布のデータから、Srフェライトの結晶粒の個数基準の平均粒径及び標準偏差を求めた。その結果、実施例1〜8のフェライト焼結磁石の平均粒径はいずれも1.0μm以下であり、標準偏差はいずれも0.42以下であった。また、Srフェライトの結晶粒全体に対する粒径が2.0μm以上である結晶粒の個数基準の割合は、いずれも1%以下であった。このように、実施例1〜8のフェライト焼結磁石に含まれるSrフェライトの結晶粒は十分に微細で高い均一性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、Br及びHcJの両方の特性に優れるとともに、高い信頼性を有するフェライト焼結磁石を提供することができる。また、効率が高く信頼性に優れるモータを提供することができる。
【符号の説明】
【0070】
10…フェライト焼結磁石。
図1
図2