(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733526
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】車両のドア構造
(51)【国際特許分類】
B60J 5/00 20060101AFI20150521BHJP
B60R 21/04 20060101ALI20150521BHJP
B60R 21/08 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
B60J5/00 P
B60R21/04 E
B60R21/08 J
B60R21/08 F
B60R21/08 Z
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-236400(P2011-236400)
(22)【出願日】2011年10月27日
(65)【公開番号】特開2013-95145(P2013-95145A)
(43)【公開日】2013年5月20日
【審査請求日】2014年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100128532
【弁理士】
【氏名又は名称】村中 克年
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕之
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 直樹
【審査官】
岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−067140(JP,A)
【文献】
特開2009−006838(JP,A)
【文献】
実開平03−013251(JP,U)
【文献】
特開2006−001383(JP,A)
【文献】
特開2007−008448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00
B60R 13/02
B60R 21/04
B60R 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座した際の腰部周囲に対応するドアトリムの前記乗員の臀部に対応する部位を除く部位に、車幅方向の外側に凹む凹部が形成され、前記乗員の大腿部に対応する部位における前記ドアトリムとドアパネルの間に衝撃吸収材を配し、
前記凹部は、前記乗員の骨盤における寛骨臼及び腸骨に対応する部位に形成されていることを特徴とする車両のドア構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のドア構造において、
車両の衝突が検知された際に、前記衝撃吸収材を前記乗員側に機械的に移動させる移動
手段を備えたことを特徴とする車両のドア構造。
【請求項3】
請求項2に記載の車両のドア構造において、
前記移動手段は、
車両の衝突が検知された際にガスを発生させるインフレータと、
前記インフレータで発生した前記ガスにより動作して前記衝撃吸収材を前記乗員側に移
動させるピストンとを備えた
ことを特徴とする車両のドア構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両のドア構造において、
前記衝撃吸収材が配されている部位は、前記大腿部の付け根寄りに対応する部位である ことを特徴とする車両のドア構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車両のドア構造において、
前記凹部は、前記寛骨臼の下側及び前記腸骨の後側に対応する部位を含む範囲に形成されている
ことを特徴とする車両のドア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の側面衝突時にドアパネルが車室側に侵入した際に乗員の保護をより的確に行うことができる車両のドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に対して側面からの衝突が生じた場合、ドアの外側から外力が加えられ、ドアパネルが変形してドアトリムが車室側に変位し、ドアトリムが乗員に当接して荷重が作用することになる。ドアトリムが乗員に当接した際には、乗員に過剰な荷重が作用することなく、乗員の姿勢が維持されるように、最小限の荷重を受ける状態にすることが重要である。
【0003】
ドアトリムが乗員に激しく当接する場合、腹部や胸部は傷害に至る可能性があるため、比較的耐性が高い腰部の周りに当接させて乗員を拘束する、即ち、ドアトリムの変形に応じて乗員を初期移動させることが望ましい。
【0004】
このため、乗員の骨盤に衝撃吸収材が当接するようにしたドアトリムの構造が従来から提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された技術は、骨盤の周囲の腸骨以外の部位に衝撃吸収材を配し、ドアトリムが変形した際に、腸骨に衝撃吸収材が当接しない状態で乗員の骨盤が押されるようにし、骨盤への負担を最小限に抑えて乗員を車室の内側に移動させるようにしている。
【0005】
しかし、骨盤に対する荷重の負担は、腸骨以外の股関節の部位の荷重も影響するため、腸骨以外の部位に衝撃吸収材を配しただけでは、ドアトリムの変形に伴って乗員の骨盤が押された際に、腸骨以外の部位の負担が軽減されず、骨盤に対する荷重の負担を十分に軽減することができないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3214247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、ドアトリムの変形に伴って乗員の骨盤が押された際に、骨盤に対する荷重をより的確に低減した状態で乗員の腰部回りを押すことができる(拘束することができる)車両のドア構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の車両のドア構造は、乗員が着座した際の腰部周囲に対応するドアトリムの前記乗員の臀部に対応する部位を除く部位に、車幅方向の外側に凹む凹部が形成され、前記乗員の大腿部に対応する部位における前記ドアト
リムとドアパネルの間に衝撃吸収材を配し
、前記凹部は、前記乗員の骨盤における寛骨臼及び腸骨に対応する部位に形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項1に係る本発明では、臀部に対応する部位を除く部位に凹部が形成され、大腿部
に対応する部位に衝撃吸収材が配されているので、ドアトリムが変形した際には、初期移
動時に大腿部及び臀部が押されて乗員の骨盤が押されることになる。
そして、凹部が乗員の骨盤における寛骨臼及び腸骨に対応する部位に形成されているので、ドアトリムが変形した際に、寛骨臼及び腸骨にドアトリムが当接しない状態で乗員の腰部の周りが押され、骨盤への負担を最小限に抑えることができる。
【0010】
このため、ドアトリムの変形に伴って乗員の骨盤が押された際に、骨盤に対する荷重をより的確に低減した状態で乗員の腰部回りを押すことが可能になる(拘束することが可能になる)。
【0011】
そして、請求項2に係る本発明の車両のドア構造は、請求項1に記載の車両のドア構造において、車両の衝突が検知された際に、前記衝撃吸収材を前記乗員側に機械的に移動させる移動手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る本発明では、移動手段により衝撃吸収材を確実に移動させることができる。
【0013】
また、請求項3に係る本発明の車両のドア構造は、請求項2に記載の車両のドア構造において、前記移動手段は、車両の衝突が検知された際にガスを発生させるインフレータと、前記インフレータで発生した前記ガスにより動作して前記衝撃吸収材を前記乗員側に移動させるピストンとを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る本発明では、インフレータで発生したガスによりピストンを動作させて衝撃吸収材を乗員側に移動させるので、衝撃吸収材を速やかに移動させることができる。
【0017】
また、
請求項4に係る本発明の車両のドア構造は、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両のドア構造において、前記衝撃吸収材が配されている部位は、前記大腿部の付け根寄りに対応する部位であることを特徴とする。
【0018】
請求項4に係る本発明では、腰部周囲に対応するドアトリムの大腿部の付け根寄りに対応する部位に衝撃吸収材が配され、比較的耐性が高い大腿部の付け根寄りが押されることになる。
【0019】
また、
請求項5に係る本発明の車両のドア構造は、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車両のドア構造において、前記凹部は、前記寛骨臼の下側及び前記腸骨の後側に対応する部位を含む範囲に形成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項5に係る本発明では、寛骨臼の下側に対応する部位に形成された凹部により、シート下部のレバー等の操作スペースが確保され、腸骨の後側に対応する部位に形成された凹部により、エアバッグの展開スペースが確保される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の車両のドア構造は、ドアトリムの変形に伴って乗員の骨盤が押された際に、骨盤に対する荷重をより的確に低減した状態で乗員の腰部回りを押すことが可能になる(拘束することが可能になる)。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施例に係る車両のドア構造を適用した後部ドアの車室内側からの側面図である。
【
図2】乗員と後部ドアの関係を説明する概略図である。
【
図5】本発明の第2実施例に係る車両のドア構造を適用した後部ドアの車両前方からの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1から
図4に基づいて本発明の車両のドア構造の第1実施例を説明する。
【0024】
図1には本発明の第1実施例に係る車両のドア構造を適用した後部ドアの車室内側からの側面視、
図2には乗員と後部ドアの関係を説明する概略状況を示してあり、
図2(a)は車室内側からの側面視、
図2(b)は車両後方からの後方視、
図2(c)は平面視である。また、
図3には
図1中のIII−III線矢視、
図4には
図1中のIV−IV線矢視を示してある。
【0025】
図1、
図4に示すように、後部ドア(ドア)1はドアインナパネル7及びドアアウタパネル8により構成され、ドア1の車室側には、即ち、ドアインナパネル7の内側には、ドアトリム2が取り付けられている。ドアトリム2の中央部位には車両の前後方向に延びる段部が形成されたアームレスト3が設けられている。また、ドアインナパネル7とドアアウタパネル8の間にはインパクトバーが配置される。
【0026】
図1に示すように、リヤシート(シート)4に乗員5が着座した際の腰部6の周囲に対応するドアトリム2には車幅方向に凹む凹部21が形成されている。
【0027】
図2(a)(b)(c)に示すように、乗員5の腰部6には骨盤11が存在し、骨盤11には腸骨12、大腿骨13の頭が入り込んで股関節をつくる寛骨臼14が存在している。大腿骨13の付け根寄りの部位に大腿部15が存在し、腸骨12の下側で寛骨臼14の後側に臀部16が存在している。
【0028】
図1、
図2(a)、
図3、
図4に示すように、シート4に乗員5が着座した際の腰部6の周囲である臀部16に対応する部位を除く部位におけるドアトリム2には、凹部21が形成されている。即ち、骨盤11の寛骨臼14及び腸骨12に対応する部位のドアトリム2には、車幅方向に凹む凹部21が形成されている。
【0029】
そして、凹部21が形成されることにより、ドアトリム2の腰部6の周囲に対応する部位の凹部21以外の部位におけるドアトリム2には凸部22が形成された状態になっている。即ち、臀部16の部位におけるドアトリム2には、凸部22が形成された状態になっている。
【0030】
図1に示すように、ドアトリム2の凹部21は、着座した乗員5の寛骨臼14の下側に対応する部位21a及び着座した乗員5の腸骨12の後側に対応する部位21bを含む範囲に形成されている。このため、凹部21の部位21aによりシート4の下部のレバー等の操作スペースが確保され、凹部21の部位21bによりエアバッグの展開スペースが確保される。
【0031】
着座した乗員5の大腿部15の付け根寄りに対応する部位におけるドアインナパネル7とドアアウタパネル8の間には、即ち、大腿部15の付け根寄りに対応する部位におけるドアトリム2の凹部21の部位には、衝撃吸収材36が設けられている。
【0033】
側面衝突等で、ドア1の外側から(ドアアウタパネル8の外側から)ドアトリム2に向かって荷重が加わった場合、ドアインナパネル7が車室側に押されて変形する。ドアインナパネル7が車室側に変形すると、ドアトリム2がドアインナパネル7と共に荷重が加わる方向、即ち、乗員5の方向に向かって移動する(変形する)。
【0034】
ドアトリム2がドアインナパネル7と共に乗員5の方向に向かって変形すると、ドアトリム2の下側の部位では、乗員5の腰部周りが車室側に押される。ドアトリム2には、臀部16に対応する部位を除く部位に凹部21が形成されているので、即ち、ドアトリム2には、臀部16に対応する部位に凸部22が形成されているので、ドアトリム2が変形した際には、初期移動時に臀部16が凸部22で押される。
【0035】
同時に、ドアアウタパネル8が車室内側に侵入すると(
図4中点線で示してある)、衝撃吸収材36が押されて大腿部15に対応する部位の凹部21から車室内側に衝撃吸収材36が突出する。更に、ドアトリム2が変形した際に、比較的耐性が高い大腿部15が衝撃吸収材36で押される。
【0036】
側面衝突等でドアアウタパネル8が外側から変形すると、臀部16がドアトリム2の凸部22で押されると共に、大腿部15が衝撃吸収材36で押され、乗員5の腰部(骨盤11)が押されて拘束される。
【0037】
つまり、ドアアウタパネル8が外側から変形してドアトリム2が変形した際の初期移動時には、骨盤11の腸骨12及び股関節をつくる寛骨臼14に対応する部位に対して、凹部21の存在によりドアトリム2が直接当接せずに荷重が加わらず、骨盤11への負担を最小限に抑えることができる。そして、骨盤11の全体に対する荷重が低減された状態で、比較的耐性が高い大腿部15が衝撃吸収材36で押されると共に、臀部16がドアトリム2の凸部22で押されることで乗員5の腰部(骨盤11)が拘束されることになる。
【0038】
このため、ドアトリム2の変形に伴って乗員5の骨盤11が押された際に、骨盤11への負担を最小限に抑えて、骨盤11に対する荷重を低減した状態で乗員5の腰部回りを押すことが可能になる(拘束することが可能になる)。そして、ドアトリム2の凹部21の面積を広くして、車室内側のスペースを広く確保することができるため、物入れなどとして車室内のスペースを最大限に活用することが可能になる。
【0039】
図5から
図7に基づいて本発明の車両のドア構造の第2実施例を説明する。
【0040】
図5には本発明の第2実施例に係る車両のドア構造を適用した後部ドアの車両前方からの断面、
図6には移動手段の平面視、
図7には
図5中の水平方向の断面を示してあり、
図7(a)は移動前の状態、
図7(b)は移動後の状態である。
【0041】
図5は第1実施例の
図3の状態に対応し、
図7は第1実施例の
図4の状態に対応する。このため、第1実施例と同一構成部材には同一符号を付して重複する説明は省略してある。
【0042】
図5、
図7に示すように、着座した乗員5の大腿部15の付け根寄りに対応する部位におけるドアインナパネル7とドアアウタパネル8の間には、即ち、大腿部15の付け根寄りに対応する部位におけるドアトリム2の凹部21の部位には、衝撃吸収材41が設けられている。
【0043】
衝撃吸収材41は、乗員5側に衝撃吸収材41を機械的に移動させる移動手段を介してドアインナパネル7とドアアウタパネル8の間に設けられている。即ち、
図5から
図7に示すように、ドアインナパネル7とドアアウタパネル8の間にはインフレータ42が設けられ、インフレータ42にはピストン43が設けられている。ピストン43の先端(ドアインナパネル7側)に衝撃吸収材41が取り付けられている。
【0044】
尚、移動手段としては、インフレータ42で発生するガスによりピストンを動作させる構造に限らず、衝撃吸収材41を機械的に移動させる構造であれば、他の流体でピストンを移動させたり、機械要素の組み合わせによりピストンを移動させたりする構造を適用することができる。
【0045】
車両には側面衝突を検知する衝突検知センサー44が備えられ、衝突検知センサー44により側面衝突が検知されると、インフレータ42が点火してガスが発生する。インフレータ42で発生したガスによりピストン43が動作してドアインナパネル7側に移動する。これにより、大腿部15に対応する部位の凹部21から車室内側に衝撃吸収材41が突出する(
図7(b)参照)。
【0046】
側面衝突時にドアトリム2がドアインナパネル7と共に乗員5の方向に向かって変形すると、初期移動時に臀部16が凸部22で押される。同時に、衝突検知センサー44により側面衝突が検知されインフレータ42が点火し、ピストン43が動作して衝撃吸収材41が車室内側に突出する(
図7(b)参照)。これにより、比較的耐性が高い大腿部15が衝撃吸収材41で押される。
【0047】
第1実施例と同様に、側面衝突の際には、臀部16がドアトリム2の凸部22で押されると共に、大腿部15が衝撃吸収材41で乗員5の腰部(骨盤11)が押されて拘束される。インフレータ42によりピストン43が動作して衝撃吸収材41が車室内側に突出するので、衝撃吸収材41を確実に、且つ、速やかに移動させることができる。
【0048】
上述した実施例は後部のドア構造を例に挙げて説明したが、側面衝突に対する乗員保護構造を備える車両用ドアであれば、車両前部、後部に限らず本願発明のドア構造を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、ドアパネルが車室側に侵入した際に乗員の保護を的確に行うことができる車両のドア構造の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 後部ドア(ドア)
2 ドアトリム
3 アームレスト
4 リヤシート(シート)
5 乗員
7 ドアインナパネル
8 ドアアウタパネル
11 骨盤
12 腸骨
13 大腿骨
14 寛骨臼
15 大腿部
16 臀部
21 凹部
36 衝撃吸収材
41 衝撃吸収材
42 インフレータ
43 ピストン
44 衝突検知センサー