特許第5733530号(P5733530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5733530データ類似度算出方法およびデータ類似度算出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733530
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】データ類似度算出方法およびデータ類似度算出装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/30 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
   G06F17/30 350C
   G06F17/30 220Z
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-183089(P2012-183089)
(22)【出願日】2012年8月22日
(65)【公開番号】特開2014-41453(P2014-41453A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2013年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大谷 哲也
(72)【発明者】
【氏名】黒田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】和田 英彦
【審査官】 山本 俊介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−204991(JP,A)
【文献】 特開2009−048562(JP,A)
【文献】 特開2004−078812(JP,A)
【文献】 特開2002−351897(JP,A)
【文献】 特開2000−341631(JP,A)
【文献】 特開2003−248494(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0097356(US,A1)
【文献】 特開2005−114623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列データ間の類似度を算出するデータ類似度算出方法において、
第1の波形の選択を受け付ける受付ステップと、
前記時系列データを蓄積する蓄積ステップと、
前記蓄積ステップにより蓄積された前記時系列データを、時間軸と前記時系列データの値を示す軸からなる2次元座標上の波形に変換する波形取得ステップと、
前記波形取得ステップにより取得された前記波形に、前記時間軸方向についてのシフト、および前記値を示す軸方向についてのオフセットを与えることにより第2の波形を生成する波形生成ステップと、
前記受付ステップにより選択された前記第1の波形と、前記波形生成ステップにより生成された前記第2の波形の類似度を算出する類似度算出ステップと、
前記波形生成ステップおよび前記類似度算出ステップを繰り返すことにより、前記類似度が高くなる場合の前記時間軸方向についてのシフト量、および前記値を示す軸方向についてのオフセット量の組み合わせを抽出する抽出ステップと、
をコンピュータが実行し、
前記時系列データは、プラントの状態を示す物理量であり、
前記波形生成ステップでは、前記波形取得ステップにより取得された前記波形に前記時間軸方向についての伸縮を与えた波形を生成し、
前記抽出ステップでは、前記類似度が高くなる場合の前記時間軸方向についてのシフト量、前記値を示す軸方向についてのオフセット量、および前記時間軸方向についての伸縮比の組み合わせを抽出することを特徴とするデータ類似度算出方法。
【請求項2】
前記波形生成ステップでは、前記波形取得ステップにより取得された前記波形に前記値を示す軸方向についての伸縮を与えた波形を生成し、
前記抽出ステップでは、前記類似度が高くなる場合の前記時間軸方向についてのシフト量、前記値を示す軸方向についてのオフセット量、および前記値を示す軸方向についての伸縮比の組み合わせを抽出する
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ類似度算出方法。
【請求項3】
波形生成ステップにより生成される波形として、前記時系列データを線形グラフとして示す波形および前記時系列データを片対数グラフとして示す波形とが含まれる
ことを特徴とする請求項2に記載のデータ類似度算出方法。
【請求項4】
前記類似度算出ステップにおいて類似度を算出する対象となる前記第1の波形および前記第2の波形を同一座標上に画面表示する表示ステップを備える
ことを特徴とする請求項に記載のデータ類似度算出方法。
【請求項5】
第1の波形の選択を受け付ける受付ステップでは、前記波形取得ステップにより取得された波形の中から前記第1の波形の選択を受け付ける
ことを特徴とする請求項に記載のデータ類似度算出方法。
【請求項6】
第1の波形の選択を受け付ける受付ステップでは、手書き入力に基づいて前記第1の波形の選択を受け付ける
ことを特徴とする請求項に記載のデータ類似度算出方法。
【請求項7】
前記波形取得ステップにより取得された波形が入力され、前記波形生成ステップにより生成された波形が入力され、前記抽出ステップにより抽出された複数の補正量が入力される表示部が、比較対象波形の表示形態を切り替えるステップを備える
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ類似度算出方法。
【請求項8】
時系列データ間の類似度を算出するデータ類似度算出装置において、
第1の波形の選択を受け付ける受付手段と、
前記時系列データを蓄積する蓄積手段と、
前記蓄積手段により蓄積された前記時系列データを、時間軸と前記時系列データの値を示す軸からなる2次元座標上の波形に変換する波形取得手段と、
前記波形取得手段により取得された前記波形に、前記時間軸方向についてのシフト、および前記値を示す軸方向についてのオフセットを与えることにより第2の波形を生成する波形生成手段と、
前記受付手段により選択された前記第1の波形と、前記波形生成手段により生成された前記第2の波形の類似度を算出する類似度算出手段と、
前記波形生成手段および前記類似度算出手段の動作を繰り返すことにより、前記類似度が高くなる場合の前記時間軸方向についてのシフト量、および前記値を示す軸方向についてのオフセット量の組み合わせを抽出する抽出手段と、
を備え、
前記時系列データは、プラントの状態を示す物理量であり、
前記波形生成手段は、前記波形取得手段により取得された前記波形に前記時間軸方向についての伸縮を与えた波形を生成し、
前記抽出手段は、前記類似度が高くなる場合の前記時間軸方向についてのシフト量、前記値を示す軸方向についてのオフセット量、および前記時間軸方向についての伸縮比の組み合わせを抽出する
ことを特徴とするデータ類似度算出装置。
【請求項9】
前記波形取得手段により取得された波形が入力され、前記波形生成手段により生成された波形が入力され、前記抽出手段により抽出された複数の補正量が入力され、比較対象波形の表示形態を切り替える表示部を備える
ことを特徴とする請求項に記載のデータ類似度算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時系列データが示す波形間の類似度を算出する波形類似度算出方法等に関し、とくに実質的に波形が類似する時系列データを的確に抽出できる波形類似度算出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
フィールド制御システム、プラント情報管理システム、各種記録計などにおいては、プラントの各部からあるサンプル間隔で収集された過去の時系列データである、ヒストリカルデータが蓄積されている。それらは分析されてプラント挙動の理解や操業の改善に役立てられている。特に、過去にも同じような操業を行っていると、その時のヒストリカルデータを現在の操業の参考にできる。過去の操業を抽出する方法としては、以下の方法が考えられる。
【0003】
(1)人が運転日誌などから近い操業条件の日時を探して、その時のヒストリカルデータを参照する。
(2)人がヒストリカルデータを順にグラフに表示して眺めて、近い操業の部分を探し出す。
(3)近い状態を、何かしらの条件式で表現して、計算機を用いて検索する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−204982号公報
【特許文献2】特開平6−274193号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Athanassios Kassidas,John F.MacGregor,Paul A.Taylor (McMaster University),「Synchronization of Batch Trajectories Using Dynamic Time Warping」,AIChE Journal,Vol.44,No.4,844-875 (1998).
【非特許文献2】DIANTONO C,高橋信,北村正晴(東北大),「原子力プラントにおける知的情報統合のための情報検索手法」,日本原子力学会誌,Vol.42,No.11,1215-1225 (2000).
【非特許文献3】櫻井保志(日本電信電話会社),「時系列データ検索方法、時系列データ検索装置、時系列データ検索プログラム、およびプログラム記録媒体」, 特開2004-348594.
【非特許文献4】中村哲也ら(神戸大学),「AMSS:時系列データの効率的な類似度測定手法」,電子情報通信学会論文誌, J91-D(11), pp2579-2588 (2008).
【非特許文献5】藤野友也,管野幹人,憮中達司(三菱電機株式会社),「状態監視時系列データの類似検索に関する検討」,FIT2009(第8回情報科学技術フォーラム)予稿集, pp295 (2009).
【非特許文献6】藤野友也,今村誠,管野幹人,憮中達司(三菱電機株式会社),「時系列データ類似検索方式DIASTRAの提案と評価」,DEIM Forum 2011 D9-4 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、膨大なヒストリカルデータから、同じような操業行っている部分、あるいは、参考になる操業を行っている部分を抽出することは容易ではない。例えば、上記の(1)、(2)は人手によるものであり、大変に時間と手間がかかる。(3)に関しては、あらかじめヒストリカルトレンドに、操業条件をメタデータとして記入しておいて、それを検索する方法が考えられるが、これもメタデータの記入に大変な手間がかかる。そこで、ヒストリカルデータからあるヒストリカルデータの挙動と類似した部分を、何らかのアルゴリズムによって計算機で検索することが考えられる。
【0007】
ヒストリカルデータの中から、ある挙動に近い部分を検索するニーズは、すでに認識されており、例えば、現在までの数時間のプラントの挙動に近い挙動をヒストリカルデータから見つけたり、あるいは、これからの運転の目標軌道に近い動きをヒストリカルデータから見つけたりすると、今後の運転の参考になる。プラントの挙動を表わすものとして、数時間のヒストリカルデータの挙動が示す「波形」が、検索対象となる。
【0008】
なお、2つの波形が完全に一致することは少ないため、類似した波形を検索することになる。そのためには、2つの波形をベクトルで表現して、ベクトル間の距離を定義して、距離が小さいものを類似度が大きいと評価する。このような距離としては、例えば、ユークリッド距離がある。
【0009】
また、2つの波形の相関係数に基づいて類似度を評価することもできる。この場合には、相関係数が大きいものを類似度が大きいと評価する。
【0010】
波形の類似度を使い、ヒストリカルデータからある参照波形に類似した部分を検索する場合には、以下の方法をとることが考えられる。
【0011】
(1)まず、検索対象のヒストリカルデータと、検索したい波形を表した参照波形を用意する。
(2)ヒストリカルデータの先頭と、参照波形の先頭とを一致させて、2つの波形の類似度を算出する。
(3)ヒストリカルデータから取り出す部分を一定時間、後ろへずらして、(2)と同様に、2つの波形の類似度を計算し記憶する。これをヒストリカルデータの末尾まで繰り返す。
(4)記憶された類似度をソートして、ヒストリカルデータのうち参照波形に対する類似度が高い時間帯を抽出する。
【0012】
しかし、この方法には、以下の問題がある。
(1)2つの波形は似ているが、絶対値がずれているため、類似度が小さくなり、類似していないと判断されるケースが存在する。ユークリッド距離を類似度とする場合も、相関係数と同様に、平均値を引く処理を施すと、絶対値のずれを補償できるが、絶対値を微調整するとより大きい類似度が得られるケースがある。
(2)2つの波形は似ているが、片方の波形が時間軸方向あるいは絶対値の軸方向に伸びたり縮んだりしていると、形は類似しているのだが、類似度が小さくなり、類似していないと判断されるケースが存在する。例えば、参照波形の時間軸方向の大きさが、ヒストリカルデータ中の類似した時間帯の波形より小さい場合には、両波形が重なりあう状態が得られず、類似度が小さな値を示す。このためこの時間帯が抽出されずに、実質的に参照波形に類似していない他の時間帯が誤って抽出されてしまう。
【0013】
本発明の目的は、形状が実質的に類似している波形を確実に抽出することができるデータ類似度算出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のデータ類似度算出方法は、時系列データ間の類似度を算出するデータ類似度算出方法において、第1の波形の選択を受け付ける受付ステップと、前記時系列データを蓄積する蓄積ステップと、前記蓄積ステップにより蓄積された前記時系列データを、時間軸と前記時系列データの値を示す軸からなる2次元座標上の波形に変換する波形取得ステップと、前記波形取得ステップにより取得された前記波形に、前記時間軸方向についてのシフト、および前記値を示す軸方向についてのオフセットを与えることにより第2の波形を生成する波形生成ステップと、前記受付ステップにより選択された前記第1の波形と、前記波形生成ステップにより生成された前記第2の波形の類似度を算出する類似度算出ステップと、前記波形生成ステップおよび前記類似度算出ステップを繰り返すことにより、前記類似度が高くなる場合の前記時間軸方向についてのシフト量、および前記値を示す軸方向についてのオフセット量の組み合わせを抽出する抽出ステップと、をコンピュータが実行し、前記時系列データは、プラントの状態を示す物理量であり、前記波形生成ステップでは、前記波形取得ステップにより取得された前記波形に前記時間軸方向についての伸縮を与えた波形を生成し、前記抽出ステップでは、前記類似度が高くなる場合の前記時間軸方向についてのシフト量、前記値を示す軸方向についてのオフセット量、および前記時間軸方向についての伸縮比の組み合わせを抽出することを特徴とする。
このデータ類似度算出方法によれば、波形取得ステップにより取得された波形に、時間軸方向についてのシフト、および値を示す軸方向についてのオフセットを与えることにより第2の波形を生成するとともに、第1の波形と第2の波形の類似度を算出するので、第1の波形に類似する波形の部分を確実に抽出できる。
【0015】
前記波形生成ステップでは、前記波形取得ステップにより取得された前記波形に前記値を示す軸方向についての伸縮を与えた波形を生成し、前記抽出ステップでは、前記類似度が高くなる場合の前記時間軸方向についてのシフト量、前記値を示す軸方向についてのオフセット量、および前記値を示す軸方向についての伸縮比の組み合わせを抽出してもよい。
【0017】
波形生成ステップにより生成される波形として、前記時系列データを線形グラフとして示す波形および前記時系列データを片対数グラフとして示す波形とが含まれてもよい。
【0018】
前記類似度算出ステップにおいて類似度を算出する対象となる前記第1の波形および前記第2の波形を同一座標上に画面表示する表示ステップを備えてもよい。
【0019】
第1の波形の選択を受け付ける受付ステップでは、前記波形取得ステップにより取得された波形の中から前記第1の波形の選択を受け付けてもよい。
【0020】
第1の波形の選択を受け付ける受付ステップでは、手書き入力に基づいて前記第1の波形の選択を受け付けてもよい。
【0021】
本発明のデータ類似度算出装置は、時系列データ間の類似度を算出するデータ類似度算出装置において、第1の波形の選択を受け付ける受付手段と、前記時系列データを蓄積する蓄積手段と、前記蓄積手段により蓄積された前記時系列データを、時間軸と前記時系列データの値を示す軸からなる2次元座標上の波形に変換する波形取得手段と、前記波形取得手段により取得された前記波形に、前記時間軸方向についてのシフト、および前記値を示す軸方向についてのオフセットを与えることにより第2の波形を生成する波形生成手段と、前記受付手段により選択された前記第1の波形と、前記波形生成手段により生成された前記第2の波形の類似度を算出する類似度算出手段と、前記波形生成手段および前記類似度算出手段の動作を繰り返すことにより、前記類似度が高くなる場合の前記時間軸方向についてのシフト量、および前記値を示す軸方向についてのオフセット量の組み合わせを抽出する抽出手段と、を備え、前記時系列データは、プラントの状態を示す物理量であり、前記波形生成手段は、前記波形取得手段により取得された前記波形に前記時間軸方向についての伸縮を与えた波形を生成し、前記抽出手段は、前記類似度が高くなる場合の前記時間軸方向についてのシフト量、前記値を示す軸方向についてのオフセット量、および前記時間軸方向についての伸縮比の組み合わせを抽出することを特徴とする。
このデータ類似度算出装置によれば、波形取得手段により取得された波形に、時間軸方向についてのシフト、および値を示す軸方向についてのオフセットを与えることにより第2の波形を生成するとともに、第1の波形と第2の波形の類似度を算出するので、第1の波形に類似する波形の部分を確実に抽出できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のデータ類似度算出方法によれば、波形取得ステップにより取得された波形に、時間軸方向についてのシフト、および値を示す軸方向についてのオフセットを与えることにより第2の波形を生成するとともに、第1の波形と第2の波形の類似度を算出するので、第1の波形に類似する波形の部分を確実に抽出できる。
【0023】
また、本発明のデータ類似度算出装置によれば、波形取得手段により取得された波形に、時間軸方向についてのシフト、および値を示す軸方向についてのオフセットを与えることにより第2の波形を生成するとともに、第1の波形と第2の波形の類似度を算出するので、第1の波形に類似する波形の部分を確実に抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明によるデータ類似度算出方法が適用されるフィールド制御装置の構成例を示すブロック図。
図2】データ解析装置の構成を示すブロック図。
図3】データ解析装置5による類似度算出の手順を示すフローチャート。
図4】波形生成手段による比較対象波形に対する補正の様子を示す図であり、(a)は、比較対象波形に対する時間軸方向のシフトについて示す図、(b)は、比較対象波形に対する時間軸方向の伸縮について示す図。
図5】波形生成手段による比較対象波形に対する補正の様子を示す図であり、(a)は、比較対象波形に対する絶対値方向のオフセットについて示す図、(b)は、比較対象波形に対する絶対値方向の伸縮について示す図。
図6】表示部における画面表示の具体例を示す図であり、(a)は、参照波形に対する類似度が最も大きくなった補正量を与えた状態で比較対象波形を参照波形と重ねて同一座標上に表示する例を示す図、(b)は、比較対象波形に補正を与えない状態で、参照波形と同一座標に表示する例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明によるデータ類似度算出方法の一実施形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明によるデータ類似度算出方法が適用されるフィールド制御装置の構成例を示すブロック図、図2は本発明によるデータ類似度算出方法を実行するデータ解析装置の構成を示すブロック図である。
【0027】
図1に示すように、フィールド制御装置は、プラントに分散配置されたフィールドコントローラ1,1,・・・と、フィールドコントローラ1,1,・・・を介してフィールド機器群(不図示)の操作、監視を行う操作監視装置2とを備え、フィールドコントローラ1,1,・・・および操作監視装置2は、通信回線3を介して接続される。
【0028】
通信回線3には、本発明によるデータ類似度算出方法を実行するデータ解析装置5が接続される。なお、データ解析装置5を設ける代わりに、これと同様の機能を操作監視装置に与えてもよい。
【0029】
図2に示すように、データ解析装置5は、第1の波形としての参照波形の選択を受け付ける受付手段51と、時系列データを蓄積する蓄積手段52と、蓄積手段52により蓄積された時系列データを、時間軸と時系列データの値を示す軸からなる2次元座標上の波形に変換する波形取得手段53と、波形取得手段53により取得された波形に、時間軸についてのシフト、および値を示す軸についてのオフセット等の補正を与えることにより第2の波形を生成する波形生成手段54と、受付手段51により選択された参照波形と、波形生成手段54により生成された第2の波形の類似度を算出する類似度算出手段55と、波形生成手段54および前記類似度算出手段55の動作を繰り返すことにより、上記類似度が高くなる場合の時間軸についてのシフト量、および値を示す軸についてのオフセット量等の組み合わせを抽出する抽出手段56と、を構成する。また、データ解析装置5には、波形生成手段54により生成された波形や抽出手段56による抽出結果に基づく波形等を画面表示する表示部60が設けられている。
【0030】
次に、データ解析装置5の動作について説明する。
【0031】
蓄積手段52には、通信回線3を介してプロセスデータ、設定値その他の時系列データが、順次、取得、蓄積される。蓄積手段52は、通信回線3を介して操作監視装置2とフィールドコントローラ1間で送受信されるデータ、および通信回線3を介してフィールドコントローラ1,1,・・・間で送受信されるデータなどを取得できるほか、操作監視装置2あるいはフィールドコントローラ1に格納された各種の時系列データを通信回線3を介して取得することができる。
【0032】
蓄積手段52に蓄積された時系列データは、波形取得手段53により、時間軸と時系列データの値を示す軸からなる2次元座標上の波形に変換され、この波形は表示部60に画面表示可能とされる。表示部60における波形の画面表示時の動作は波形を画面上に表示する従来の装置と同様であり、例えば、時間軸方向へのスクロール操作によって、必要な時間帯について特定の時系列データのトレンドグラフを画面上に導くことができる。また、波形取得手段53により得られた波形は、波形生成手段54による処理を経て、表示部60に画面表示可能とされる。
【0033】
波形生成手段54は、波形取得手段53により得られた波形に対し、時間軸についてのシフト、時系列データの値を示す軸についてのオフセット、時間軸方向についての伸縮、および時系列データの値を示す軸方向についての伸縮を行う。本明細書では、これらの処理を波形に対する「補正」ともいう。
【0034】
本実施形態のデータ類似度算出方法では、ユーザによって選択された参照波形と、蓄積手段52に蓄積された時系列データが示す比較対象波形とを比較し、参照波形に類似した比較対象波形を示す時系列データを検索する。時系列データの検索に際しては、最初に、参照波形の先頭を比較対象波形の先頭に合わせた後、比較対象波形の絶対値のオフセット量、比較対象波形の絶対値方向の伸縮比、時系列データの値を示す軸方向の伸縮比、を少しずつ調整して、類似度が最大となる時の、類似度と、補正量(その時の絶対値のオフセット量、時系列データの値を示す軸方向の伸縮比、時間軸方向の伸縮量)を記憶する。
【0035】
次に、比較対象波形の先頭を一定の時間ずらして、同様に類似度が最大となる時の、補正量(その時の絶対値のオフセット量、時系列データの値を示す軸方向の伸縮比、時間軸方向の伸縮量、時間軸方向のシフト量)を記憶する。その後、比較対象波形の先頭を一定の時間ずらしながら、同様の処理を比較対象波形の末尾まで繰り返し、最後に類似度をソートして、大きい方から順に、所定数(k)の波形を抽出する。
【0036】
図3は、データ解析装置5による類似度算出の手順を示すフローチャートである。この手順では、通常、波形の比較は、プロセスの状態遷移ないし操作状況等が近似するケースの抽出を目的とするため、参照波形と同一種類の時系列データに基づく波形、あるいは参照波形と類似する時系列データに基づく波形が比較対象波形となる。図3に示す動作では、比較対象波形に対応する時系列データのデータ種(例えば、特定のプロセスデータ)は予め特定されているものとする。
【0037】
図3のステップS1では、受付手段51を介して、ユーザの選択操作に応じた参照波形の選択を受け付ける。ここでは、ユーザは蓄積手段52に蓄積された時系列データの中から所定の時系列データを指定することで、この時系列データに対応する波形を参照波形として選択することができる。この場合、ユーザは、波形取得手段53により得られた波形を表示部60に表示させることにより、指定すべき時系列データを容易に確認することができる。例えば、対応する時系列データの波形を表示部60の画面上に表示させた状態で、画面上への操作によって当該波形を選択できるようにしてもよい。このような方法により、ユーザは、例えば目標とすべき波形に対応する時系列データを蓄積手段52に格納されたヒストリカルデータ(時系列データ)の中から容易に指定することができる。
【0038】
また、ユーザはタッチパネル等の入力装置に対する操作によって、参照波形を手書き入力することができ、この場合には手書き入力された波形が参照波形として選択される。ユーザは、例えば目標とすべき波形を直接、手書き入力できる。なお、タッチパネル等を表示部60の表示画面に設けることで、表示部60の表示画面に表示された波形等を参照しながら波形を入力することができる。例えば、表示部60の表示画面に表示された現在までのトレンドグラフに続く目標カーブを表示画面に書き込むことにより、その目標カーブを参照波形として入力できる。
【0039】
次に、図3のステップS2では、波形取得手段53および波形生成手段54により、参照波形の先頭を比較対象波形の先頭に合わせる。また、波形生成手段54による、時系列データの値を示す軸についてのオフセット、時系列データの値を示す軸方向についての伸縮、および時系列データの値を示す軸方向についての伸縮についての補正量を初期値に設定する。
【0040】
次に、ステップS3では、類似度算出手段55により、参照波形と比較対象波形の類似度を算出する。類似度算出手段55は、2つの波形をベクトルで表現して、ベクトル間の距離を定義して、距離が小さいものを類似度が大きいと評価する。距離としては、例えば、以下のユークリッド距離がある。
【0041】
まず、参照波形をn個のサンプルx(1)〜x(n)で表現し、比較対象波形をn個のサンプルy(1)〜y(n)で表現する。そのとき、参照波形と比較対象波形のユークリッド距離は、(1)式として示される。
【数1】
【0042】
次に、ステップS4では、ステップS3において算出されたユークリッド距離とともに、そのときの波形生成手段54による補正量、すなわち、比較対象波形に対する時間軸についてのシフト量、時系列データの値を示す軸についてのオフセット量、時系列データの値を示す軸方向についての伸縮比、および時間軸方向についての伸縮比を記憶する。
【0043】
なお、類似度を算出する際に、ユークリッド距離に代えて相関係数を用いることもできる。この場合には相関係数が大きいものを類似度が大きいと評価する。参照波形をn個のサンプルx(1)〜x(n)で表現し、比較対象波形をn個のサンプルy(1)〜y(n)で表現した場合、参照波形と比較対象波形の相関係数は、(2)式として示される。
【数2】
【0044】
次に、ステップS5では、波形生成手段54による時間軸方向についての伸縮、時系列データの値を示す軸についてのオフセット、および時系列データの値を示す軸方向についての伸縮について、すべての補正量の組み合わせが終了したか否か判断する。この判断が肯定されればステップS7へ進み、この判断が否定されればステップS6へ進む。
【0045】
ステップS6では、波形生成手段54による補正の補正量を変更してステップS3へ戻る。このステップS6では、波形生成手段54により、時間軸方向についての伸縮比、時系列データの値を示す軸についてのオフセット量、および時系列データの値を示す軸方向についての伸縮比の少なくともいずれかの補正量が変更される。
【0046】
一方、ステップS7では、波形生成手段54による時間軸方向のシフトが終了したか否か判断し、判断が肯定されればステップS9へ進み、判断が否定されればステップS8へ進む。このステップS7では、比較対象波形の末尾までステップS3〜ステップS5の処理が終了した場合に、判断が肯定される。
【0047】
ステップS8では、波形生成手段54による一定量の時間軸方向のシフトを実行するとともに、時系列データの値を示す軸方向についての伸縮、時系列データの値を示す軸についてのオフセット、および時系列データの値を示す軸方向についての伸縮についての補正量を初期値に設定し、ステップS3へ戻る。
【0048】
一方、ステップS9では、抽出手段56(図2)により、ステップS4で記憶された類似度をソートし、類似度が大きい波形の補正量(絶対値のオフセット量、絶対値方向の伸縮比、時間軸方向の伸縮量、時間軸方向のシフト量)の組み合わせを抽出する。ここでは、例えば、類似度が大きい順に、k個の補正量を抽出する。
【0049】
次に、ステップS10では、表示部60(図2)に、参照波形と抽出手段56により抽出された比較対象波形とを画面表示する。画面表示の具体例については後述する。
【0050】
図4および図5は、波形生成手段54による比較対象波形に対する補正の様子を示す図である。図4および図5において、実線61は参照波形を、破線62は比較対象波形を、それぞれ示している。
【0051】
図4(a)は、比較対象波形に対する時間軸方向のシフトについて示しており、状態I、状態II、状態IIIの順に、破線62で示す比較対象波形が順次、時間軸方向(右方向)にシフトする様子が表示されている。
【0052】
図4(b)は、比較対象波形に対する時間軸方向の伸縮について示しており、状態I、状態II、状態IIIの順に、破線62で示す比較対象波形が順次、時間軸方向(左右方向)に拡大される様子が表示されている。図4(b)において、状態Iは状態IIに対して比較対象波形が時間軸方向に縮小された状態を、状態IIIは状態IIに対して比較対象波形が時間軸方向に拡大された状態を、それぞれ表現している。
【0053】
図5(a)は、比較対象波形に対する絶対値方向(時系列データの値を示す軸方向)のオフセットについて示しており、状態I、状態II、状態IIIの順に、破線62で示す比較対象波形が順次、絶対値方向(上方向)にシフトする様子が表示されている。
【0054】
図5(b)は、比較対象波形に対する絶対値方向(時系列データの値を示す軸方向)の伸縮について示しており、状態I、状態II、状態IIIの順に、破線62で示す比較対象波形が順次、絶対値方向(上下方向)に拡大される様子が表示されている。図5(b)において、状態Iは状態IIに対して比較対象波形が絶対値方向に縮小された状態を、状態IIIは状態IIに対して比較対象波形が絶対値方向に拡大された状態を、それぞれ表現している。
【0055】
本実施形態のデータ類似度算出方法では、図4および図5に示すような2軸方向についてのシフト(オフセット)と伸縮とを組み合わせ、最も参照波形と類似するような補正量を抽出している。このため、位相がずれていたり、絶対値が違っていたり、時間軸方向の大きさが少々違っていても、形が似ている2つの波形に対して大きな類似度を得ることができる。このため、参照波形と実質的に類似する比較対象波形を確実に抽出することが可能となる。これにより、ヒストリカルデータから、参照波形に類似した部分をより柔軟に検索できるようになる。
【0056】
例えば、時間軸方向の伸縮により、プラントに存在する容器の容量の相違による流量の変化や温度の変化速度の影響などを排除することができ、実質的に類似する比較対象波形を確実に抽出できる。このため、例えば、プラントの運転中に生産量やタンク内の容量が変わると、プロセス量の絶対値や変化にかかる時間が変わることが考えられが、そのような場合にも、プラントあるいは操作に特有の波形の類似性を見逃すことなく検索可能となる。また、圧力の時系列変化について、絶対値よりも圧力の比率を問題とする場合には、圧力の値を示す軸方向への伸縮により、参照波形と実質的に類似する比較対象波形を確実に抽出することが可能となる。
【0057】
また、比較対象波形に対する絶対値方向についてオフセットと伸縮とを組み合わせることで、時系列データ種の特性や表示部60の画面上での座標の取り方を考慮するまでもなく、参照波形と類似する比較対象波形を確実に抽出できる効果がある。例えば、時系列データのデータ種によって、トレンドグラフが線形表示される場合と、対数表示(片対数表示)される場合とが混在していても、表示形態を意識することなく、類似する波形を取り逃がすことなく確実に抽出することができる。また、例えば、線形表示においても、座標における原点の取り方によって、波形の類似性を見出すために有効な補正方法が変わる可能性がある。しかし、本実施形態によれば、比較対象波形に対する絶対値方向についてオフセットと伸縮とを組み合わせることで、時系列データのデータ種や、トレンドグラフの表示形態に関わりなく、参照波形に類似する比較対象波形を確実に抽出できる。
【0058】
図6は、表示部60における画面表示の具体例を示す図である。
【0059】
上記のように、ステップ10(図3)では、参照波形と比較対象波形とを画面表示する。本実施形態では、比較対象波形の表示形態を切り替え可能としている。表示形態はユーザによって選択される。
【0060】
図6(a)は、参照波形に対する類似度が最も大きくなった補正量を与えた状態で比較対象波形を参照波形と重ねて同一座標上に表示する例を示している。補正量はステップS9(図3)において抽出されたものを用いる。
【0061】
図6(b)は、比較対象波形に補正を与えない状態で、参照波形と同一座標に表示する例を示している。なお、この場合、比較対象波形を参照波形と同一画面内に導くため、時間軸方向のシフトについては参照波形に対する類似度が最も大きくなった補正量を与え、他の補正量はゼロとしてもよい。
【0062】
なお、図6(a)および図6(b)では、1つの比較対象波形のみを表示する例を示しているが、抽出手段56(図2)により抽出された複数の補正量に対応する複数の波形を同時に表示してもよい。また、これら複数の波形の中から任意の波形を表示対象として選択することができる。画面上に表示される比較対象波形は、ユーザによって選択可能とされる。
【0063】
このように、比較対象波形の表示形態を切り替え可能とすることにより、どのような補正により参照波形に近似した比較対象波形が得られるのかをユーザが容易に把握でき、計算により算出された類似度に対しユーザがさらに解析を加えることも可能となる。これにより、例えば、参考とすべき波形をより正確に特定することができる。
【0064】
上記実施形態では、波形生成手段54による4種類の補正、すなわち時間軸方向についてのシフト、時間軸方向についての伸縮、時系列データの値を示す軸方向についてのオフセット、および時系列データの値を示す軸方向についての伸縮を組み合わせる例を示したが、このうちの一部の補正方法のみを組み合わせてもよく、組み合わせ方は任意である。例えば、時間軸方向についてのシフト、および時系列データの値を示す軸方向についてのオフセットという2種類の補正方法を組み合わせてもよいし、あるいは、時間軸方向についてのシフト、時間軸方向についての伸縮、および時系列データの値を示す軸方向についてのオフセットという3種類の補正方法を組み合わせてもよい。
【0065】
また、時系列データのデータ種や表示部60における表示形態が認識されるとともに、そのデータ種や表示形態に応じた有効/無効な補正方法が予め認識できる場合には、個々のデータ種や表示形態に応じて波形生成手段54による補正方法を絞り込んでもよい。
【0066】
また、蓄積手段52(図2)に蓄積された時系列データに、センサの故障やキャリブレーション、通信エラーなどにより生じた値の欠落などによる異常値やノイズが多く含まれている場合には、類似度の値がこれらの影響を大きく受けて正しく数値化できない可能性がある。これを避けるために、時系列データから異常値を除去し、あるいは、フィルタ処理によりノイズ成分を低減するなどの前処理を行ってもよい。
【0067】
また、類似度を算出するに際し、ユークリッド距離の値を正規化してもよい。この場合、公知の方法を広く用いることができ、例えば2つの波形の分散や、2つの波形の最大値−最小値が1になるように正規化することができる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態のデータ類似度算出方法によれば、比較対象波形に補正を加えつつ類似度を算出するため、参照波形に類似する比較対象波形を確実に抽出することができる。このため、プラントの運転中の状況変化があっても、また時系列データのデータ種やトレンドグラフの表示形態に関わりなく、参照波形に類似する比較対象波形を確実に抽出できる。
【0069】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、時系列データ間の類似度を算出するデータ類似度算出方法等に対し、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
5 データ解析装置(データ類似度算出装置)
51 受付手段
52 蓄積手段
53 波形取得手段
54 波形生成手段
55 類似度算出手段
56 抽出手段
60 表示部(表示手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6