(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733668
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】溶射被覆部材
(51)【国際特許分類】
C23C 4/06 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
C23C4/06
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2011-176644(P2011-176644)
(22)【出願日】2011年8月12日
(65)【公開番号】特開2013-40362(P2013-40362A)
(43)【公開日】2013年2月28日
【審査請求日】2014年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】中本 光二
(72)【発明者】
【氏名】山田 祥延
【審査官】
川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−264301(JP,A)
【文献】
特開平6−248413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00 − 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄製または鋼製の基材の表面に金属溶射による溶射被覆層が形成された溶射被覆部材において、前記溶射被覆層が、マグネシウムを含有するアルミニウム合金層とケイ素を含有するアルミニウム合金層とを混成した擬合金層であることを特徴とする溶射被覆部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に金属溶射によって形成された溶射被覆層を有する鉄製または鋼製の溶射被覆部材に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に金属溶射によって形成された溶射被覆層(以下、単に「被覆層」とも記す。)を有する鉄製または鋼製の溶射被覆部材は、幅広く使用されており、特に耐食性が要求される用途等によく使用される。このような溶射被覆部材としては、亜鉛とアルミニウムの合金や擬合金の被覆層を有し、その犠牲陽極作用によって基材を保護するものがよく知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、上記のような溶射被覆部材の被覆層を形成する金属材料の一つである亜鉛は、その入手先の多くを輸入に頼っており、国内で十分な量を確保できなくなる事態が今後発生しないとも限らない。このため、亜鉛を含まずに従来と同等以上の防食性能を発揮する溶射被覆層を形成する技術の確立が急がれるようになってきている。
【0004】
このような要求に対しては、溶射被覆部材の被覆層を形成する金属材料として、強固な保護膜が優れた防食性能を発揮するアルミニウムや、より防食性能の高いマグネシウム含有アルミニウム合金を単独で用いることが考えられるが、その場合には、被覆層の表面に孔食が発生しやすくなり、外観性に問題が生じてしまう。また、その孔食の部分から鉄製または鋼製の基材が腐食してしまうおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−264301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、溶射被覆層に亜鉛を使用することなく耐食性と外観性を両立させた溶射被覆部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、鉄製または鋼製の基材の表面に金属溶射による溶射被覆層が形成された溶射被覆部材において、前記溶射被覆層を、マグネシウムを含有するアルミニウム合金層とケイ素を含有するアルミニウム合金層とを混成した擬合金層としたのである。
【0008】
上記の構成によれば、溶射被覆層をアルミニウムやマグネシウム含有アルミニウム合金で形成した場合と同等の耐食性を有し、しかもその表面に孔食のない溶射被覆部材が得られる。
【発明の効果】
【0009】
上述したように、本発明の溶射被覆部材は、表面の溶射被覆層を、マグネシウムを含有するアルミニウム合金層とケイ素を含有するアルミニウム合金層とを混成した擬合金層としたものであり、被覆層を形成する金属材料として亜鉛を使用することなく、優れた耐食性と外観性を確保することができる。したがって、亜鉛が入手困難となった場合にも、安定して製造・使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の溶射被覆部材の耐食試験の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態の溶射被覆部材は、鉄製または鋼製の基材の表面に、金属溶射によってマグネシウムを5mass%含有するアルミニウム合金層とケイ素を12mass%含有するアルミニウム合金層とが混じり合った擬合金層(溶射被覆層)を形成したものである。
【0012】
以下、上記実施形態の溶射被覆部材の耐食性を確認するために行った耐食試験について説明する。その試験片は、サンドブラスト処理を施した150mm×70mm×1.6mmの軟鋼板に、マグネシウムを5mass%含有するアルミニウム合金の線材と、ケイ素を12mass%含有するアルミニウム合金の線材とを体積比1:1でアーク溶射して、130g/m
2の擬合金層を形成したものを用いた(実施例)。
【0013】
また、比較例として、溶射被覆層をアルミニウムのみで形成した試験片を作製した。その作製方法は、実施例の場合と溶射用の金属線材の材質が異なるだけで、同じ溶射方法でほぼ同量の被覆層が形成されるようにした。各試験片の構成を表1に示す。
【0015】
そして、各試験片の中央部に一辺が50mmのクロスカットを下地に達するように入れた後、各試験片に対して、JIS K5600−7−9に規定されるサイクル腐食試験(サイクルA:塩水噴霧2hr→乾燥4hr→湿潤2hrのサイクルを繰り返す)を行い、その途中で試験片を週1回程度塩水に漬けて参照電極(飽和銀・塩化銀電極)に対する電位を測定した。その測定結果を
図1に示す。
【0016】
図1から、実施例の電位は比較例とほぼ同じ推移を示しており、実施例が比較例と同等の耐食性を有していることがわかる。また、試験後の各試験片の表面を観察したところ、比較例では多数の孔食が発生していたが、実施例の表面に孔食は見られなかった。
【0017】
上記の耐食試験の結果から、実施形態の溶射被覆部材は、その被覆層をアルミニウムで形成した場合と同等の耐食性を有し、かつ外観性に優れたものとなることが確認された。