(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733710
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】光増幅器及びそれを用いた光増幅システム
(51)【国際特許分類】
H01S 3/16 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
H01S3/16
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2008-141704(P2008-141704)
(22)【出願日】2008年5月29日
(65)【公開番号】特開2009-290030(P2009-290030A)
(43)【公開日】2009年12月10日
【審査請求日】2011年5月20日
【審判番号】不服2013-16656(P2013-16656/J1)
【審判請求日】2013年8月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 研究集会名 平成19年度情報画像工学科 卒業研究発表会 主催者名 国立大学法人千葉大学 開催日 平成20年2月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2008年3月27日 社団法人応用物理学会発行の「2008年(平成20年)春季第55回応用物理学関係連合講演会予稿集第3分冊」の第1124ページに発表
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】尾松 孝茂
【合議体】
【審判長】
小松 徹三
【審判官】
松川 直樹
【審判官】
鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−70108号公報(JP,A)
【文献】
特表平2−503617号公報(JP,A)
【文献】
特開2004−289066号公報(JP,A)
【文献】
特開2006−186230号公報(JP,A)
【文献】
特開2007−227448号公報(JP,A)
【文献】
特開平10−270781号公報(JP,A)
【文献】
特表2007−523499号公報(JP,A)
【文献】
古谷泰司 他,>10W 半導体レーザー側面励起Nd3+:GdxY1−xVO4レーザー,2005年(平成17年)秋季 第66回応用物理学会学術講演会講演予稿集,2005年9月7日,第3分冊,p.935
【文献】
Jing−Liang He et al.,4−ps passively mode−locked Nd:Gd0.5Y0.5VO4 laser with a semiconductor satuable−absorber mirror,Optics Letters,2004年12月1日,Vol.29, No.23,pp.2803−2805
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/02
H01S 3/04-3/0959
H01S 3/098-3/102
H01S 3/105-3/131
H01S 3/136-3/213
H01S 3/23-3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を発するレーザーダイオードと、
前記励起光によりパルス光を増幅するパルスレーザー増幅器と、
前記パルスレーザー増幅器から出射された増幅光を反射し、前記パルスレーザー増幅器へ入射する位相共役鏡と、を有し、
前記パルスレーザー増幅器は、Nd:GdxY1−xVO4(Xは0.4以上0.6以下である)で表わされるNdイオンドープバナデート混晶を用いた光増幅システム。
【請求項2】
前記位相共役鏡に前記増幅光を入射する前に前記パルスレーザー増幅器から出射された増幅光を反射し前記パルスレーザー増幅器へ入射する反射部材と、を有する請求項1に記載の光増幅システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光増幅器及びそれを用いた光増幅システムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーアブレーション微細加工やレーザーディスプレイの用途として、パルスレーザーが用いられている。
【0003】
レーザーアブレーション微細加工として用いる際には高精度で加工を行うことが必要であり、またレーザーディスプレイとして用いる際には、広範囲で色度分布を有することが必要となる。
【0004】
ピコ秒パルスレーザー光の光パワーを大きくし、高出力高強度ピコ秒パルスレーザーを構築するために、ピコ秒レーザー発振器(マスターレーザー)とNdドープバナデート光増幅器とを組み合わせたいわゆるMOPA(Master oscillator
power amplifier)システムが用いられている。このシステムでは、マスターレーザーから出射された信号光を光増幅器に入射させることで増幅するシステムであるが、光増幅器の利得帯域幅が信号光のスペクトル幅を狭窄するため、増幅された信号光のパルス幅は一般に広がってしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のNd:YVO
4結晶やNd:GdVO
4結晶等のNdドープバナデート光増幅器を用いた光増幅器では、利得帯域幅が狭いため5ps以下のパルス幅を持つレーザー光のパルス幅を保ったまま増幅して高出力なレーザーを得ることは難しいという問題があった。したがって、より広い波長範囲にわたって利得を示す増幅器を構築することが重要な課題であった。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決し、高出力ピコ秒レーザーを実現することが可能な光増幅システム及びそれに用いられる増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討をおこなっていたところ、Gd及びYを有するNdイオンドープバナデート混晶を光増幅器に用いることで、目的を達成できることを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
特に、前記の混晶はNd:Gd
xY
1−xVO
4で表わされ、Xが0.3以上0.7以下であることが望ましいことを実証し、本発明に至った。用いている。
【0009】
また、本発明の他の一つの切り口である光増幅システムは、励起光を発するレーザーダイオードと、上述した光増幅の機能を有するNd:Gd
xY
1−xVO
4結晶からなる光増増幅システムの構成を成す。その他、本発明を構成する手段の詳細については、以下の実施形態及び実施例で説明する。
【発明の効果】
【0010】
以上、本発明により、従来よりも短いパルス幅(5ps以下)のピコ秒レーザー光が高出力で発生できる光増幅システム及びそれに用いられる増幅器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態の記載にのみ限定されるものではないことはいうまでもない。
【0012】
図1は、本実施形態に係る光増幅システムの概略図である。
図1で示すように、本実施形態に係る光増幅システム(以下「本光増幅システム」という。)は、マスターレーザー11と、光増幅器12と、位相共役鏡13とを有する。マスターレーザー11から出射された信号光は、光増幅器12で増幅される。光増幅器12から出射された増幅光は位相共役鏡13で反射され、光増幅器12へ再入射し、再び増幅される。この構成により、5ps以下の短いパルス幅を持つマスターレーザー11からの信号光はパルス幅が広がることなく増幅されて高出力化される。
【0013】
ここで、本発明では光増幅器12に用いる結晶として、Gd及びYを有するNdイオンドープバナデート混晶を使用する。
図2に混晶の概念図を示す。Nd:GdVO
4及びNd:YVO
4は、同じ構造体を持ち、粒子半径が類似するため、Nd:Gd
xY
1−xVO
4として両者の混晶の形で共存することができる。この混晶体を用いて、信号光を増幅することにより、本発明の目的を達成することができる。
【0014】
図3は光増幅器に、それぞれNd:GdVO
4結晶、Nd:Gd
0.4Y
0.6VO
4混晶、Nd:Gd
0.6Y
0.4VO
4混晶を用いた際の、増幅光のスペクトルを示したものである。
図3の横軸は波長(nm)、縦軸は強度(a.u.)を示す。
【0015】
図3からもわかるように、従来のNd:GdVO
4結晶の場合に比べ、Nd:Gd
0.4Y
0.6VO
4混晶ではより広波長範囲にわたって強い蛍光(レーザー利得)が得られており、Nd:Gd
0.6Y
0.4VO
4混晶ではさらに広い波長範囲で強い蛍光が観測されている。蛍光が見える波長範囲がレーザー利得帯域に対応する。
【0016】
このように、本実施形態ではNd:Gd
xY
1−xVO
4混晶により、従来よりも広波長範囲で高出力を実現する。Xは0より大きく1未満の数値で調整が可能であるが、より好ましくは0.4以上0.6以下の数値となる。
【0017】
また、本実施形態における別の効果として、従来よりも熱伝導性を高めることが可能であり、さらにはNd:Gd
xY
1−xVO
4混晶におけるxを変化させることにより、使用用途に合わせて利得帯域や増幅器の増幅率をカスタマイズできることが挙げられる。
【実施例】
【0018】
上記説明した光増幅システムを実際に作製し、その効果について確認を行った。以下に説明する。
【0019】
(実施例1)
図4に、本実施例として作製した光増幅システムの光学系を示す。信号光を発するマスターレーザー21として、Ybドープファイバーレーザー(平均出力パワー13mW、パルス繰返し周波数20MHz、パルス幅 <5ps、中心波長λ=1063nm)を用いた。また、信号光を増幅する光増幅器22は、20mm×5mm×2mmのNd:Gd
0.6Y
0.4VO
4のスラブ型結晶23、レンズ24、及び励起半導体レーザーアレイ25(λ=808nm)で構成される。
【0020】
マスターレーザー21から光増幅器22の間には、半波長板26、29、32、偏光方向により光を反射又は透過する偏光ビームスプリッタ27、30、ファラデー回転子28、31、及びレンズ33、34、35が、図に示すように配置される。
光増幅器22から出射した光は、レンズ36を通過しプリズム37で反射された後、再び光増幅器22へと入射する。
【0021】
その後、レンズ38、39、40、及び半波長板41を透過し、位相共役鏡(PCM)42で反射された後、再び光増幅器22へと入射する。位相共役鏡(PCM)42は、6mm×5mm×5mmのRh:BaTiO
3単結晶43及びレンズ44、45で構成される。再び光増幅器22へ入射した光は、同様の経路を経て、最終的にビームスプリッタ30を透過し出射する。
【0022】
このようにして、本実施例ではマスターレーザー21からの光が計4回、光増幅器22を透過することとなる。
【0023】
図5にレーザー出力の結果を示す。
図5において、横軸は励起半導体レーザーアレイ25の出力パワー(W)を表し、縦軸は最終的に出射するレーザーの出力パワー(W)を表す。励起半導体レーザーアレイには3列のアレイが層状に積まれた(スタックされた)構造になっているものを用いており、光増幅器を4回透過する構成でのレーザー最大平均出力15.1W、ピークパワーに換算して186kWを達成することができた。出力レーザーのパルス幅は4psと5ps以下であった。なお
図6に本実施例に係るレーザー出力のパルス幅を示す。
【0024】
以上、本実施例により、本発明の効果であるレーザーの高出力を確認することができた。
尚、本実施例では光増幅器を4回透過する構成を採ったが、1回透過の構成、例えば2回透過の構成についても、同様に本発明を利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、光増幅器、光増幅システムとしてレーザー加工、波長変換用光源など産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態1に係る光増幅システムの概略図である。
【
図3】実施形態1に係る増幅光のスペクトルである。
【
図4】実施例1に係る光増幅システムを示す図である。
【
図5】実施例1に係るレーザー出力結果を示す図である。
【
図6】実施例1に係るレーザー出力のパルス幅を示す図である。
【0027】
11,21…マスターレーザー、12,22…光増幅器、13…位相共役鏡、23,43…Ndドープバナデート混結晶、25…励起半導体レーザーアレイからの励起出力光、26,29,32,41…半波長板、27,30…ビームスプリッタ、28,31…ファラデー回転子、24,33,34,35,36,38,39,40,44,45…レンズ、37…プリズム、42…位相共役鏡(PCM)