(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
従来、入力軸と出力軸との間に連結する歯車対を切り替えることにより減速比を変える一般の変速機では、減速比を切り替える際にいずれの歯車対も入力軸と出力軸との間に連結されていない状態があり、このときには動力が伝達されない。そこで、減速比を切り替える際に過渡的に非円形歯車対を入力軸と出力軸との間に連結することにより、減速比を切り替える際も連続して動力が伝達されるようにすることができる、非円形歯車対を備えた変速機が提案されている。
【0004】
例えば
図4の機構図に模式的に示すように、変速機50は、入力軸52と出力軸54との間に、歯車対55,56,57と非円形歯車対58,59が、クラッチ80,82,84,86,88を介して選択的に連結される。
【0005】
図5は、各歯車対55,56,57,58,59の噛み合いピッチ円あるいは噛み合いピッチ曲線を模式的に示す説明図である。
【0006】
図5に示すように、歯車対55,56,57の歯車60,70;62,72;64,74の噛み合いピッチ円60p,70p;62p,72p;64p,74pが互いに接し、一定の減速比で動力を伝達する。非円形歯車対58,59の歯車66,76;68,78のピッチ曲線66p,76p;68p,78pは、実線で示すように、歯車対55,56,57の歯車60,70;62,72;64,74の噛み合いピッチ円60p,70p;62p,72p;64p,74pの円弧と等しい定速噛み合い区間101,103,105;111,113,115;201,203,205;211,213,215と、隣り合う定速噛み合い区間101,103,105;111,113,115;201,203,205;211,213,215の間を接続する変速噛み合い区間102,104,106;112,114,116;202,204,206;212,214,216とを含む。減速比を切り替えるとき、入力軸52と出力軸54との間に非円形歯車対58,59を連結し、非円形歯車対58,59が変速噛み合い区間で噛み合い、動力が途切れることなく伝達されるようにする。
【0007】
自動車やトラック・バスでは変速機により歯車対の切り替えを行う場合、例えば、1速→2速→3速のようなアップシフトも、3速→2速→1速のようなダウンシフトも必要となる。
【0008】
そのため、変速機50は、
図5(a)、(b)にそれぞれの噛み合いピッチ曲線を実線で示す2つの非円形歯車対58,59を備えている。
【0009】
すなわち、
図5において矢印で示す方向に回転するとき、
図5(b)に示す一方の非円形歯車対は、1速→2速→3速(1周して元に戻る)と変化する。このため、1速から2速の変速、2速から3速の変速であるアップシフトの場合に用いる。
【0010】
この非円形歯車対を用いて3速から2速に変速(すなわち、ダウンシフト)しようとすると、3速→1速→2速、という経由が必要となり、3速から1速に変化するプロセスを経る必要があり、適切な変速ができない。
【0011】
そのため、
図5(b)に示す噛み合いピッチ曲線を有する一方の非円形歯車対に加えて、
図5(a)に示す噛み合いピッチ曲線を有する他方の非円形歯車対を用いる。
図5(a)に示す噛み合いピッチ曲線を有する他方の非円形歯車対は、3速→2速→1速(1周して元に戻る)と変化するため、3速から2速の変速、2速から1速の変速であるダウンシフトの場合に用いる(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図5(a)及び(b)のように、アップシフトに用いる非円形歯車対と、ダウンシフトに用いる非円形歯車対とを別々に備えると、変速機は、アップシフトにもダウンシフトにも対応できる。しかしながら、2つの非円形歯車対を備えると、変速機が大型化し、重量が増え、コストも増大する。
【0014】
本発明は、かかる実情に鑑み、一つの非円形歯車対をアップシフトとダウンシフトの両方に用いることができる変速機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成した変速機を提供する。
【0016】
変速機は、(a)回転可能に支持された入力部材と、(b)回転可能に支持された出力部材と、(c)前記入力部材と前記出力部材との間に配置され、減速比が順に小さくなる、少なくとも3つの第1段乃至第3段の歯車対と、(d)前記入力部材と前記出力部材との間に、前記歯車対をそれぞれ解除可能に連結する、少なくとも3つの第1乃至第3のクラッチと、(e)前記入力部材と前記出力部材との間に配置された非円形歯車対と、(f)前記入力部材と前記出力部材との間に前記非円形歯車対を解除可能に連結する
1つの非円形歯車対用クラッチとを備える。前記非円形歯車対は、前記入力部材と前記出力部材との間に前記非円形歯車対が連結され、前記非円形歯車対の一方が1回転し、前記非円形歯車対の他方が1回転以上回転して前記非円形歯車対の噛み合いが一巡するときに、(i)前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材と前記出力部材との間の減速比が、前記入力部材と前記出力部材との間に少なくとも3つの前記第1段乃至第3段の歯車対がそれぞれ連結されたときの減速比と同じになる、少なくとも3つの第1段乃至第3段の定速噛み合い区間と、(ii)隣り合う前記定速噛み合い区間の間において、前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材と前記出力部材との間の減速比が、隣り合う前記定速噛み合い区間の一方の減速比から隣り合う前記定速噛み合い区間の他方の減速比まで次第に増加又は減少する、複数の変速噛み合い区間とを含む。前記定速噛み合い区間は、(1)前記入力部材と前記出力部材との間の減速比が最大となる最大減速比段の前記定速噛み合い区間と、(2)前記入力部材と前記出力部材との間の減速比が最小となる最小減速比段の前記定速噛み合い区間と、(3)前記入力部材と前記出力部材との間の減速比が最大と最小の中間となる中間段の前記定速噛み合い区間とを含む。前記中間段の前記定速噛み合い区間は、前記非円形歯車対の噛み合いが一巡するときに、前記最大減速比段の前記定速噛み合い区間から前記最小減速比段の前記定速噛み合い区間まで前記非円形歯車対の噛み合いが進行する減速比減少領域と、前記最小減速比段の前記定速噛み合い区間から前記最大減速比段の前記定速噛み合い区間まで前記非円形歯車対の噛み合いが進行する減速比増加領域とに、それぞれ、含まれている。
【0017】
上記構成において、例えば、ある段から他の段に減速比を切り換えるとき、非円形歯車対がある段の定速噛み合い区間で噛み合っているときに、入力軸と出力軸との間に非円形歯車対を連結した後、ある段の歯車対が入力軸と出力軸との間に連結された状態を解除する。そして、非円形歯車対が他の段の定速噛み合い区間で噛み合っているときに、他の段の歯車対を入力軸と出力軸との間に連結した後、非円形歯車対が入力軸と出力軸との間に連結された状態を解除する。これにより、回転を止めることなく負荷を支持しつつ減速比を変えることができ、正確に回転角度を伝達し、かつ動力を効率よく伝達することができる。
【0018】
上記構成によれば、最大減速比段の減速比から最小減速比段の減速比まで減速比が減少するときに、途中で中間段の減速比にすることができる。また、最小減速比段の減速比から最大減速比段の減速比まで減速比が増加するときに、途中で中間段の減速比にすることができる。したがって、一つの非円形歯車対をアップシフトとダウンシフトの両方に用いることができる。
【0019】
減速比減少領域では巨視的には減速比は減少するが、必ずしも減速比が単調に減少する場合だけを意味するものではない。減速比増加領域では巨視的には減速比は増加するが、必ずしも減速比が単調に増加する場合だけを意味するものではない。
【0020】
好ましくは、前記非円形歯車対の隣り合う前記定速噛み合い区間の減速比がすべて1段相当だけ離れている。
【0021】
これであれば、減速比を1段だけ変えたい場合に、他の段を経由することなく1段だけ変えることができ、円滑に変速できる。例えば、減速比を1段上げるときに減速比を一旦下げた後に上げたり、減速比を1段下げるときに減速比を一旦上げた後に下げたりすることなく、1段だけ減速比を変えることができる。
【0022】
好ましくは、前記非円形歯車対は、前記最大減速比段の前記定速噛み合い区間が1つだけであり、前記最小減速比段の前記定速噛み合い区間が1つだけであり、前記非円形歯車対の噛み合いが一巡するときに、前記減速比減少領域において、隣り合う前記定速噛み合い区間の減速比が1段ずつ減少し、前記減速比増加領域において、隣り合う前記定速噛み合い区間の減速比が1段ずつ増加する。
【0023】
この場合、非円形歯車対のそれぞれの歯車は、構成が簡単になる。
【0024】
好ましくは、前記入力部材と前記出力部材とは、それぞれ、第1部分と第2部分とを含む。前記第1段乃至第3段の前記歯車対は、前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間に配置される。前記非円形歯車対は、前記入力部材の前記第2部分と前記出力部材の前記第2部分との間に配置される。変速機は、(a)前記入力部材の前記第1部分と前記入力部材の前記第2部分とを回転伝達可能に結合する第1の増減速装置と、(b)前記出力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第2部分とを回転伝達可能に結合する第2の増減速装置とをさらに備える。前記非円形歯車対用クラッチは、前記第1の増減速装置と前記入力部材の前記第2部分と前記非円形歯車対と前記出力部材の前記第2部分と前記第2の増減速装置とを介して前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間を解除可能に連結する。前記非円形歯車対は、前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間に前記非円形歯車対が連結され、前記非円形歯車対の一方が1回転し、前記非円形歯車対の他方が1回転以上回転して前記非円形歯車対の噛み合いが一巡するときに、(a)前記第1段乃至第3段の定速噛み合い区間において、前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比が、前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間に前記第1段乃至第3段の歯車対がそれぞれ連結されたときの前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比と同じになり、(b)前記変速噛み合い区間において、前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比が、隣り合う前記定速噛み合い区間の一方の減速比から隣り合う前記定速噛み合い区間の他方の減速比まで次第に増加又は減少する。前記定速噛み合い区間は、(i)前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比が最大となる最大減速比段の前記定速噛み合い区間と、(ii)前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比が最小となる最小減速比段の前記定速噛み合い区間と、(iii)前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比が最大と最小の中間となる中間段の前記定速噛み合い区間とを含む。前記中間段の前記定速噛み合い区間は、前記非円形歯車対の噛み合いが一巡するときに、前記最大減速比段の前記定速噛み合い区間から前記最小減速比段の前記定速噛み合い区間まで前記非円形歯車対の噛み合いが進行する減速比減少領域と、前記最小減速比段の前記定速噛み合い区間から前記最大減速比段の前記定速噛み合い区間まで前記非円形歯車対の噛み合いが進行する減速比増加領域とに、それぞれ、含まれている。
【0025】
この場合、増減速装置により、入力部材の第1部分と出力部材の第1部分との間に連結する歯車対を切り換える際に、非円形歯車対が入力部材の第2部分と出力部材の第2部分との間に連結されている時間を長く(又は、短く)することができ、それに伴って、クラッチを作動させる時間を長く(又は、減速比の切り替えに要する時間を短く)することができる。
【0026】
入力が高速回転であっても、適宜な減速比の増減速装置により非円形歯車対の回転を遅くすることで、クラッチの切り換え動作をすべき時間を長くすることができるので、容易に減速比を変えることができる。入力が低速回転である場合には、適宜な減速比の増減速装置により非円形歯車対の回転を速くすることで、減速比の切り換えに要する時間を短縮することができる。
【0027】
また、非円形歯車対の設計の自由度を高くできる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、一つの非円形歯車対をアップシフトとダウンシフトの両方に用いることができ、変速機の小型化、軽量化、コスト低減を図ることができる。そのため、アップシフトに用いる非円形歯車対と、ダウンシフトに用いる非円形歯車対とを別々に備える場合に比べると、体積、重量、コストの面で有利である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、
図1〜
図3を参照しながら説明する。
【0031】
<実施例1> 実施例1の変速機について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
【0032】
図1の機構図に模式的に示すように、変速機10は、回転可能に支持されている入力軸12及び出力軸14と、第1段の歯車対15と、第2段の歯車対16と、第3段の歯車対17と、非円形歯車対18と、クラッチ40,42,44,46とを備えている。
【0033】
各歯車対15,16,17,18は、それぞれ、一対の歯車20,30;22,32;24,34;26,36が噛み合い、回転角度の遅れがない。
【0034】
入力軸12には、各歯車対15,16,17,18の一方の歯車(入力側歯車)20,22,24,26が固定され、これらの歯車20,22,24,26は入力軸12と一体となって回転する。
【0035】
出力軸14には、各歯車対15,16,17,18の他方の歯車(出力側歯車)30,32,34,36が、相対回転可能な状態に支持されている。出力側歯車30,32,34,36は、クラッチ40,42,44,46により、選択的に出力軸14に結合される。すなわち、クラッチ40,42,44,46がつながっているONのときには、対応する出力側歯車30,32,34,36は出力軸14に対して結合され、結合された出力側歯車30,32,34,36と出力軸14とは一体となって回転する。クラッチ40,42,44,46が切れているOFFのときには、出力側歯車30,32,34,36は、出力軸14の軸方向の移動が拘束されながら、出力軸14に対して相対回転可能となる。
【0036】
クラッチ40,42,44,46がONのとき、クラッチ40,42,44,46での滑り等がなければ、クラッチ40,42,44,46がONとなっている出力側歯車30,32,34,36から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0037】
クラッチ40,42,44,46には、ドグクラッチ、ジョークラッチ、歯形クラッチ等の噛み合いクラッチを用いることが好ましい。円板クラッチ、ドラムクラッチなどの摩擦クラッチでは滑りが発生する可能性があるのに対して、噛み合いクラッチでは、駆動側と被動側とに形成された突起や穴等の機械的構造が噛み合い、摩擦クラッチのような滑りが発生しない。噛み合いクラッチを用いると、回転角度を極めて正確に伝達し、かつ動力を極めて効率的に伝達することができる。
【0038】
もっとも、クラッチ40,42,44,46は、ドグクラッチ等の噛み合いクラッチに限定されるものではなく、噛み合いクラッチ以外の摩擦クラッチなどを用いても構わない。
【0039】
図示していないが、クラッチ40,42,44,46はアクチュエータによって駆動され、アクチュエータの動作は、制御装置によって制御される。また、非円形歯車対18の位相(回転角度)は不図示のセンサにより検出され、センサからの検出信号は制御装置に入力される。制御装置は、回転を止めることなく減速比を切り替え、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができるように、クラッチ40,42,44,46のON/OFFを制御する。
【0040】
クラッチ40のONにより第1段の歯車対15が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は一定の減速比R1となる。クラッチ42のONにより第2段の歯車対16が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は一定の減速比R2となる。クラッチ44のONにより第3段の歯車対17が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は一定の減速比R3となる。減速比R1〜R3は、R1>R2>R3であり、クラッチ40がONのとき1速、クラッチ42がONのとき2速、クラッチ44がONのとき3速になる。
【0041】
クラッチ46のONにより非円形歯車対18が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、減速比R1とR3とを含む範囲内(すなわち、R3以上、かつR1以下の範囲内)で変化する。
【0042】
図2は、各歯車対15,16,17,18の歯車の噛み合いピッチ円(以下、単に「ピッチ円」という。)あるいは噛み合いピッチ曲線(以下、単に「ピッチ曲線」という。)を模式的に示す説明図である。
図2は、歯の図示を省略している。
【0043】
図2に示すように、第1段の歯車対15は、対をなす歯車20,30のピッチ円20p,30pが互いに接する。第2段の歯車対16は、対をなす歯車22,32のピッチ円22p,32pが互いに接する。第3段の歯車対17は、対をなす歯車24,34のピッチ円24p,34pが互いに接する。第1段〜第3段の歯車対15〜17の対をなす歯車20,30;22,32;24,34は、円形の歯車である。
【0044】
非円形歯車対18の対をなす歯車26,36は、非円形の歯車である。非円形歯車対18の対をなす歯車26,36のピッチ曲線は、複数の区間26a,26b,26c,26d,26s,26t,26u,26v;36a,36b,36c,36d,36s,36t,36u,36vを含む。すなわち、
(a)減速比R1の第1段の歯車対15のピッチ円20p,30pの円弧と等しい1つの1速区間26a,36aと、
(b)減速比R2の第2段の歯車対16のピッチ円22p,32pの円弧と等しい2つの2速区間26b,26d;36b,36dと、
(c)減速比R3の第3段の歯車対17のピッチ円24p,34pの円弧と等しい1つの3速区間26c,36cと、
(d)1速区間26a,36aと2速区間26b,26d;36b,36dとの間をつなぎ、減速比がR1とR2との間で次第に増加又は減少する、2つの1−2変速区間26s,26t;36s,36tと、
(e)2速区間26b,26d;36b,36dと3速区間26c,36cとの間をつなぎ、減速比がR2とR3との間で次第に増加又は減少する、2つの2−3変速区間26u,26v;36u,36vと、
を含む。
【0045】
1速区間26a,36aと、2速区間26b,26d;36b,36dと、3速区間26c,36cは、定速噛み合い区間である。1−2変速区間26s,26t;36s,36tと、2−3変速区間26u,26v;36u,36vは、変速噛み合い区間である。
【0046】
非円形歯車対18の対をなす歯車26,36が
図2において矢印20x,30xで示す方向に1回転するとき、歯車26,36のピッチ曲線同士は、順に、1速区間26a,36a、第1の1−2変速区間26s,36s、第1の2速区間26b,36b、第1の2−3変速区間26u,36u、3速区間26c,36c、第2の2−3変速区間26v,36v、第2の2速区間26d、36d、第2の1−2変速区間26t,36tが噛み合う。
【0047】
非円形歯車対18が入力軸12と出力軸14との間に連結され、非円形歯車対18の対をなす歯車26,36が
図2において矢印で示す方向に回転すると、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、R1→R2→R3→R2→R1(元に戻る)の順に変化を繰り返す。
【0048】
すなわち、非円形歯車対18が入力軸12と出力軸14との間に連結され、非円形歯車対18が1速区間26a,36aで噛み合うとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR1となる。非円形歯車対18が第1の1−2変速区間26s,36sで噛み合うとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、R1からR2に変化する。非円形歯車対18が第1の2速区間26b,36bで噛み合うとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR2となる。非円形歯車対18が第1の2−3変速区間26u,36uで噛み合うとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR2からR3に変化する。非円形歯車対18が、3速区間26c,36cで噛み合うとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR3となる。
【0049】
非円形歯車対18が第2の2−3変速区間26v,36vで噛み合うとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR3からR2に変化する。非円形歯車対18が第2の2速区間26d,36dで噛み合うとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR2となる。非円形歯車対18が第2の1−2変速区間26t,36tで噛み合うとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR2からR1に変化する。非円形歯車対18が、再び1速区間26a,36aで噛み合うとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR1となる。
【0050】
次に、変速機10の動作の一例を説明する。
【0051】
(1)R1
第1段の歯車対15のクラッチ40がON、かつ、他のすべてのクラッチ42,44,46がOFFのとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR1となる。
【0052】
(2)R1→R2
入力軸12と出力軸14との間の減速比をR1からR2に変える場合(1速から2速にアップシフトする場合)には、非円形歯車対18が、減速比R1となる1速区間での噛み合いを開始したら、減速比R1の第1段の歯車対15のクラッチ40に加え、非円形歯車対18のクラッチ46をONにする。次いで、非円形歯車対18が1速区間で噛み合っている間に、第1段の歯車対15のクラッチ40をOFFにする。
【0053】
次いで、非円形歯車対18は、減速比がR1からR2に変化する第1の1−2変速区間で噛み合う。このとき、非円形歯車対18のクラッチ46のみがONであり、入力軸12と出力軸14との間には非円形歯車対18のみが連結され、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、R1からR2に変化する。
【0054】
次いで、非円形歯車対18が、減速比R2となる第1の2速区間での噛み合いを開始したら、減速比R2の第2段の歯車対16のクラッチ42をONにする。次いで、非円形歯車対18が第1の2速区間で噛み合っている間に、非円形歯車対18のクラッチ46をOFFにする。これにより、入力軸12と出力軸14との間に第2段の歯車対16のみが連結され、入力軸12と出力軸14との間の減速比がR2に切り替わる。
【0055】
(3)R2
第2段の歯車対16のクラッチ42がON、かつ、他のすべてのクラッチ40,44,46がOFFのとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR2となる。
【0056】
(4)R2→R3
入力軸12と出力軸14との間の減速比をR2からR3に変える場合(2速から3速にアップシフトする場合)には、非円形歯車対18が、減速比R2となる第1の2速区間での噛み合いを開始したら、減速比R2の第2段の歯車対16のクラッチ42に加え、非円形歯車対18のクラッチ46をONにする。次いで、非円形歯車対18が第1の2速区間で噛み合っている間に、第2段の歯車対16のクラッチ42をOFFにする。
【0057】
次いで、非円形歯車対18は、減速比がR2からR3に変化する第1の2−3変速区間で噛み合う。このとき、非円形歯車対18のクラッチ46のみがONであり、入力軸12と出力軸14との間には非円形歯車対18のみが連結され、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、R2からR3に変化する。
【0058】
次いで、非円形歯車対18が、減速比R3となる3速区間での噛み合いを開始したら、減速比R3の第3段の歯車対17のクラッチ44をONにする。次いで、非円形歯車対18が3速区間で噛み合っている間に、非円形歯車対18のクラッチ46をOFFにする。これにより、入力軸12と出力軸14との間に第3段の歯車対17のみが連結され、入力軸12と出力軸14との間の減速比がR3に切り替わる。
【0059】
(5)R3
第3段の歯車対17のクラッチ44がON、かつ、他のすべてのクラッチ40,42,46がOFFのとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR3となる。
【0060】
(6)R3→R2
入力軸12と出力軸14との間の減速比をR3からR2に変える場合(3速から2速にダウンシフトする場合)には、非円形歯車対18が、減速比R3となる3速区間での噛み合いを開始したら、減速比R3の第3段の歯車対17のクラッチ44に加え、非円形歯車対18のクラッチ46をONにする。次いで、非円形歯車対18が3速区間で噛み合っている間に、第3段の歯車対17のクラッチ44をOFFにする。
【0061】
次いで、非円形歯車対18は、減速比がR3からR2に変化する第2の2−3変速区間で噛み合う。このとき、非円形歯車対18のクラッチ46のみがONであり、入力軸12と出力軸14との間に非円形歯車対18が連結され、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、R3からR2に変化する。
【0062】
次いで、非円形歯車対18が、減速比R2となる第2の2速区間での噛み合いを開始したら、減速比R2の第2段の歯車対16のクラッチ42をONにする。次いで、非円形歯車対18が第2の2速区間で噛み合っている間に、非円形歯車対18のクラッチ46をOFFにする。これにより、入力軸12と出力軸14との間に第2段の歯車対16のみが連結され、入力軸12と出力軸14との間の減速比がR2に切り替わる。
【0063】
(7)R2
第2段の歯車対16のクラッチ42がON、他のすべてのクラッチ40,44,46がOFFのとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比はR2となる。
【0064】
(8)R2→R1
入力軸12と出力軸14との間の減速比をR2からR1に変える場合(2速から1速にダウンシフトする場合)には、非円形歯車対18が、減速比R2となる第2の2速区間での噛み合いを開始したら、減速比R2の第2段の歯車対16のクラッチ42に加え、非円形歯車対18のクラッチ46をONにする。次いで、非円形歯車対18が第2の2速区間で噛み合っている間に、第2段の歯車対16のクラッチ42をOFFにする。
【0065】
次いで、非円形歯車対18は、減速比がR2からR1に変化する第2の1−2変速区間で噛み合う。このとき、非円形歯車対18のクラッチ46のみがONであり、入力軸12と出力軸14との間に非円形歯車対18のみが連結され、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、R2からR1に変化する。
【0066】
次いで、非円形歯車対18が、減速比R1となる1速区間での噛み合いを開始したら、減速比R1の第1段の歯車対15のクラッチ40をONにする。次いで、非円形歯車対18が1速区間で噛み合っている間に、非円形歯車対18のクラッチ46をOFFにする。これにより、入力軸12と出力軸14との間に第1段の歯車対15のみが連結され、入力軸12と出力軸14との間の減速比が、R1に切り替わる。
【0067】
以上の(1)〜(8)のように、変速機10は、一つの非円形歯車対18を1速→2速、2速→3速のアップシフトと、3速→2速、2速→1速のダウンシフトの両方に用いることができる。そのため、アップシフト用の非円形歯車対と、ダウンシフト用の非円形歯車対とを別々に設ける場合よりも、変速機10の小型化、軽量化、コスト低減を図ることができる。
【0068】
また、非円形歯車対は、隣り合う定速噛み合い区間の減速比がすべて1段相当だけ離れているため、減速比を1段だけ変えたい場合に、他の段を経由することなく1段だけ変えることができ、円滑に変速できる。例えば、減速比を上げるときに減速比を一旦下げた後に上げたり、減速比を下げるときに減速比を一旦上げた後に下げたりすることなく、1段だけ減速比を変えることができる。
【0069】
非円形歯車対18は、1段ずつ増速した後、1段ずつ減速するため、
図2に示すように、非円形歯車対18の歯車26,36は、各歯車26,36の中心、すなわち入力軸12と出力軸14の中心12c,14c同士を結ぶ中心線27に関して、略対称な形状となり、構成が簡単になる。
【0070】
<実施例2> 実施例2の変速機10aについて、
図3を参照しながら説明する。
【0071】
実施例2の変速機10aは、実施例1の変速機10と略同様に構成されている。以下では、実施例1との相違点を中心に説明し、同じ構成部分には同じ符号を用いる。
【0072】
実施例2の変速機10aは、実施例1と異なり、増減速装置29,39を備える。入力軸12a及び出力軸14aは、第1段〜第3段の歯車対15,16,17が配置される第1部分12s,14sと、非円形歯車対18が配置される第2部分12t,14tとに分割されている。入力軸12aの第1部分12sと入力軸12aの第2部分12tとは、第1の増減速装置29を介して回転伝達可能に結合されている。出力軸14aの第1部分14sと出力軸14aの第2部分14tとは、第2の増減速装置39を介して回転伝達可能に結合されている。
【0073】
ここで、第1の増減速装置29の減速比を、入力軸12aの第1部分12sの回転速度N
i1と入力軸12aの第2部分12tの回転速度N
i2とを用いて、N
i1/N
i2と定義する。第2の増減速装置39の減速比を、出力軸14aの第2部分14tの回転速度N
o2と出力軸14aの第1部分14sの回転速度N
o1を用いて、N
o2/N
o1と定義する。第2の増減速装置39の減速比の定義は、N
o1/N
o2ではないことに留意する必要がある。
【0074】
例えば、増減速装置29,39により、非円形歯車対18側の回転速度を遅くすることができる。すなわち、入力軸12aの第1部分12sと第2部分12tの間に設けられた第1の増減速装置29の減速比をR
0とし、入力軸12aの第1部分12sの回転速度に対して、入力軸12aの第2部分12tの回転速度を遅くするとともに、出力軸14aの第2部分14tと第1部分14sとの間に設けられた第2の増減速装置39の減速比を1/R
0とし、出力軸14aの第1部分14sの回転速度に対して、出力軸14aの第2部分14tの回転速度を遅くすることで、非円形歯車対18側の回転速度を遅くする。これによって、入力軸12aの第1部分12sの回転が高速であっても、実施例1と同様に、非円形歯車対18側の噛み合いによって減速比を変化させながら回転を伝達することができる。
【0075】
なお、増減速装置29,39に同じ構成の増減速装置を用い、入力側と出力側を入れ替えて、一方で減速し、他方で増速してもよい。
【0076】
増減速装置29,39により、非円形歯車対18側の回転速度を速くすることも可能である。
【0077】
変速機10aの減速比は、増減速装置29,39と非円形歯車対18とによって全体として切り換えればよいので、入力軸12a側に設ける第1の増減速装置29の減速比R
inと、出力軸14a側に設ける第2の増減速装置39の減速比R
outとが、R
in×R
out=1とならなくても構わない。
【0078】
例えば、第1段の歯車対15の減速比がR1、第2段の歯車対16の減速比がR2、非円形歯車対18のある区間の減速比がR1'、非円形歯車対18の他の区間の減速比がR2'とすると、次の2つの式、
R1=R
in×R1'×R
out (1)
R2=R
in×R2'×R
out (2)
を満たせば、変速機10aの減速比を、R1からR2、又はR2からR1に切り換えることができる。
【0079】
実施例1の変速機では、入力が高速回転であると、クラッチの切り換え動作をすべき時間が短くなり、減速比の切り換えが困難になる場合がある。
【0080】
これに対し、実施例2の変速機10aは、入力が高速回転であっても、適宜な減速比の増減速装置29,39により非円形歯車対18の回転を遅くすることで、クラッチの切り換え動作をすべき時間を長くすることができるので、容易に減速比を変えることができる。
【0081】
逆に、入力が低速回転である場合には、適宜な減速比の増減速装置29,39により非円形歯車対18の回転を速くすることで、減速比の切り換えに要する時間を短縮することができる。
【0082】
また、非円形歯車対18の設計の自由度を高くすることも可能である。
【0083】
非円形歯車対用クラッチは、第1の増減速装置29と入力軸12aの第2部分12tと非円形歯車対18と出力軸14aの第2部分14tと第2の増減速装置39とを介して入力軸12aの第1部分12sと出力軸14aの第1部分14sとの間を解除可能に連結すればよい。そのため、例えば、非円形歯車対用クラッチは、入力軸12aの第1部分12sと第1の増減速装置29との間、第1の増減速装置29と入力軸12aの第2部分12tとの間、出力軸14aの第2部分14tと第2の増減速装置39との間、又は第2の増減速装置39と出力軸14aの第1部分14sとの間に設けることもできる。この場合、非円形歯車対18が常に入力軸12aの第2部分12tと出力軸14aの第2部分14tとの間に連結された構成にすることができる。
【0084】
<変形例1> 1速〜5速の第1段〜第5段の歯車対と、非円形歯車対とを備える。非円形歯車対の1周に対して、定速噛み合い区間が1速→2速→3速→4速→5速→4速→3速→2速→1速(元に戻る)の順に1段ずつ変わるように構成する。すなわち、最も減速比が大きい最大減速比段(1速)から、1段ずつ減速比が小さくなり、減速比が最も小さい最小減速比段(5速)になった後は、1段ずつ減速比が大きくなって元の最大減速比段(1速)に戻る。非円形歯車対は、減速比が最大、最小となる1速と5速の定速噛み合い区間をそれぞれ1つだけ含み、構成が簡単になる。
【0085】
<変形例2> 1速〜5速の第1段〜第5段の歯車対と、非円形歯車対とを備える。非変形歯車対の1周に対して、定速噛み合い区間が1速→2速→3速→2速→3速→4速→5速→4速→3速→2速→1速(元に戻る)の順に1段ずつ変わるように構成することも可能である。この場合、1速(最大減速比段)から5速(最小減速比段)まで減速比が減少する途中に、一旦、3速→2速と減速比が増加した後、再び減速比が減少する。
【0086】
5速(最小減速比段)から1速(最大減速比段)まで減速比が増加する途中に、一旦、減速比が減少した後、再び減速比が増加する構成も可能である。
【0087】
<変形例3> 1速〜5速の第1段〜第5段の歯車対と、2つの非円形歯車対とを備え、一方の非円形歯車対は定速噛み合い区間が1速→2速→3速→2速→1速(元に戻る)の順に1段ずつ変わり、他方の非円形歯車対は定速噛み合い区間が3速→4速→5速→4速→3速(元に戻る)の順に1段ずつ変わるように構成してもよい。
【0088】
<まとめ> 一つの非円形歯車対に、最大減速比段の定速噛み合い区間から最小減速比段の定速噛み合い区間まで減速比が減少する減速比減少領域に中間段の定速噛み合い区間を設け、最小減速比段の定速噛み合い区間から最大減速比段の定速噛み合い区間まで減速比が増大する減速比増加領域に中間段の定速噛み合い区間を設けることによって、一つの非円形歯車対をアップシフトとダウンシフトの両方に用いることができる。
【0089】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【0090】
各歯車対の軸方向の配置順序は任意に選択できる。例えば、第1段の歯車対と第2段の歯車対の間に、第3段の歯車対や非円形歯車対が配置されても構わない。
【0091】
各歯車対のクラッチは入力軸側に配置してもよい。