【文献】
Ruggero Micheletto et al,Direct mapping of the far and near field optical emission of nano-sized tapered glass fibers by an i,Applied Surface Science,ELSEVIER,1999年 4月,Vol. 144-145,p514 - p519
【文献】
重藤知夫、横山浩,デュアルプローブ近接場光学顕微鏡,電子情報通信学会技術研究報告. OME, 有機エレクトロニクス,日本,社団法人電子情報通信学会,1996年 5月,96−12,p13−p18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プローブ近接検出手段が、前記第1音叉型振動子に誘起される特定周波数の電圧信号と前記第2音叉型振動子に誘起される特定周波数の電圧信号の積に基づき前記第1プローブと前記第2プローブが互いに近接したことを検出することを特徴とする請求項5に記載の走査型プローブ顕微鏡。
前記プローブ近接検出手段が、前記第1音叉型振動子に誘起される特定周波数の電圧信号と前記第2音叉型振動子に誘起される特定周波数の電圧信号の和に基づき前記第1プローブと前記第2プローブが互いに近接したことを検出することを特徴とする請求項5に記載の走査型プローブ顕微鏡。
前記第1音叉型振動子に誘起される特定周波数の電圧信号と前記第2音叉型振動子に誘起される特定周波数の電圧信号の積に基づき前記第1プローブと前記第2プローブが互いに近接したことを検出することを特徴とする請求項12に記載の走査型プローブ顕微鏡のプローブ近接検出方法。
前記第1音叉型振動子に誘起される特定周波数の電圧信号と前記第2音叉型振動子に誘起される特定周波数の電圧信号の和に基づき前記第1プローブと前記第2プローブが互いに近接したことを検出することを特徴とする請求項12に記載の走査型プローブ顕微鏡のプローブ近接検出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SNOMでは、試料表面とプローブ先端との間やプローブ相互間を光の回折限界を超えて近接させる場合がある。このような場合、光学顕微鏡を用いてモニタしながらプローブ先端位置を制御することは不可能である。一方、電子顕微鏡を用いれば、試料表面とプローブ先端との間やプローブ相互間の距離を観察することは可能であるが、手間や時間がかかる。
【0006】
また、単一のプローブを有するSNOMでは、プローブ先端と試料表面とが近接したときに両者の間に発生する相互作用(シアフォース)を利用してプローブ先端と試料表面との間の距離を制御しているが、この制御方法は複数のプローブを有するSNOMでは用いることができない。なぜなら、複数のプローブを有する場合、プローブ同士が近接した場合にプローブ相互間のシアフォースの影響を受けるため、各プローブの位置制御を独立に行うことができないからである。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、複数のプローブの相対距離を精度良く制御することができる走査型プローブ顕微鏡及びそのプローブ近接検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、本出願の第1発明は、試料表面との距離を一定に保持しながら前記試料上を走査する第1及び第2プローブを有する走査型プローブ顕微鏡であって、
a)試料に対して相対的に前記第1プローブを走査する第1走査手段と、
b)試料に対して相対的に前記第2プローブを走査する第2走査手段と、
c)前記第1プローブ及び第2プローブのいずれか一方に特定周波数の振動を付与する振動付与手段と、
d)前記第1プローブ及び前記第2プローブの前記特定周波数の振動を監視する振動監視手段と、
e)前記第1プローブ及び前記第2プローブの少なくとも一方の振動が変化したことに基づき前記第1プローブと前記第2プローブが互いに近接したことを検出するプローブ近接検出手段と、
f)前記プローブ近接検出手段の検出結果に基づき第1及び第2走査手段を制御する制御手段と
を有することを特徴とする。ここで、第1プローブは、1本に限らず複数本の場合を含む。同様に、第2プローブも1本又は複数本の場合を含む。
【0009】
上記の第1発明においては、前記振動付与手段が、前記第1プローブに振動を付与するように構成され、前記プローブ近接検出手段が、前記第1プローブの振動の変化率が閾値以下になったことに基づき前記第1プローブと前記第2プローブが互いに近接したことを検出しても良く、前記第2プローブの振動の変化率が閾値を上回ったことに基づき前記第1プローブと前記第2プローブが互いに近接したことを検出するようにしても良い。
【0010】
また、本出願の第2発明の走査型プローブ顕微鏡は、上記第1発明において、
前記第1及び第2プローブが第1及び第2の音叉型振動子に取り付けられ、
前記走査手段が、前記音叉型振動子をそれぞれ共振させて前記第1及び第2プローブのそれぞれを走査するように構成され、
前記第1及び第2の音叉型振動子をそれぞれ共振させて前記第1プローブ及び第2プローブの先端をそれぞれ試料表面に接近させたときに各音叉型振動子に誘起される電圧信号を検出する電圧検出手段と、
前記電圧検出手段の検出結果に基づき、各プローブ先端と前記試料表面の距離を一定に保持するプローブ・試料間距離制御手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本出願の第3発明は、試料表面との距離を一定に保持しながら前記試料上を走査する第1及び第2プローブを有する走査型プローブ顕微鏡であって、
a)前記第1プローブが取り付けられた第1音叉型振動子と、
b)前記第2プローブが取り付けられた第2音叉型振動子と、
c)前記第1音叉型振動子と前記第2音叉型振動子をそれぞれ共振させて、前記第1及び前記第2プローブのそれぞれを前記試料に対して相対的に走査する走査手段と、
d)前記第1プローブ及び第2プローブのいずれか一方に特定周波数の振動を付与する振動付与手段と、
e)前記第1及び第2の音叉型振動子をそれぞれ共振させて前記第1プローブと第2プローブを互いに接近させたときに各音叉型振動子に誘起される前記特定周波数の電圧信号を検出する信号検出手段と、
f) 前記第1音叉型振動子及び第2音叉型振動子にそれぞれ誘起される前記特定周波数の電圧信号に基づき第1及び第2プローブが互いに近接したことを検出するプローブ近接検出手段と
を有することを特徴とする。
【0012】
第3発明においては、前記プローブ近接検出手段が、前記第1音叉型振動子に誘起される特定周波数の電圧信号と前記第2音叉型振動子に誘起される特定周波数の電圧信号の積に基づき前記第1プローブと前記第2プローブが互いに近接したことを検出するように構成すると良い。
【0013】
また、第3発明においては、前記プローブ近接検出手段が、前記第1音叉型振動子に誘起される特定周波数の電圧信号と前記第2音叉型振動子に誘起される特定周波数の電圧信号の和に基づき前記第1プローブと前記第2プローブが互いに近接したことを検出するように構成することもできる。
【0014】
第2発明及び第3発明においては、前記特定周波数は、前記音叉型振動子の共振周波数と異なる周波数であることが好ましい。
【0015】
また、本出願の第4発明は、試料表面との距離を一定に保持しながら前記試料上を走査する第1及び第2プローブを有する走査型プローブ顕微鏡のプローブ近接検出方法であって、
前記第1プローブ及び第2プローブのいずれか一方に特定周波数の振動を付与し、
前記第1プローブから前記第2プローブに伝播した特定周波数の振動を検出することにより前記第1プローブと前記第2プローブが互いに近接したことを検出することを特徴とする。
【0016】
具体的には、前記第1プローブ及び前記第2プローブの少なくとも一方の前記特定周波数の振動が変化したことにより前記第1プローブと前記第2プローブが互いに近接したことを検出することができる。
【0017】
また、本出願の第5発明は、試料表面との距離を一定に保持しながら前記試料上を走査する第1及び第2プローブを有する走査型プローブ顕微鏡のプローブ近接検出方法であって、
前記第1プローブは第1音叉型振動子に取り付けられ、
前記第2プローブは第2音叉型振動子に取り付けられ、
前記第1プローブ及び第2プローブのいずれか一方に特定周波数の振動を付与し、
前記第1音叉型振動子及び第2音叉型振動子にそれぞれ誘起される前記特定周波数の電圧信号に基づき第1プローブ及び第2プローブが互いに近接したことを検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
試料表面上にて複数のプローブを走査すると、これら複数のプローブが近接することによりプローブ間にシアフォースと呼ばれる相互作用が発生し、この相互作用の影響を受けて各プローブの振動状態が変化する。本発明の走査型プローブ顕微鏡では、第1及び第2プローブを走査する際に一方のプローブに特定周波数の振動を付与し、両プローブの該特定周波数の振動を監視するようにした。そして、両プローブのうちの少なくとも一方において特定周波数の振動が変化したことに基づき、両プローブが近接したことを検出するようにしたので、第1及び第2プローブの走査時に両プローブが衝突することを未然に防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面を参照して説明する。
まず、本発明の第1実施形態について
図1〜
図22を参照して説明する。本実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡(SPM)は近接場光学顕微鏡(SNOM)であり、
図1に、本実施形態に係る走査型近接場光学顕微鏡の概略構成図を示す。
図1に示すように、第1実施形態のSNOM1は試料Sが載置される試料ステージ3、試料Sの表面を走査する第1プローブ5及び第2プローブ6、試料ステージ3をXY方向(水平方向)及びZ方向(垂直方向)に移動させる試料移動機構8、第1プローブ5をXY方向(水平方向)及びZ方向(垂直方向)に移動させるプローブ移動機構10、第1プローブ5及び第2プローブ6の先端と試料との間の距離を制御する距離制御機構12、レーザ光を出射する光源14、試料から放射される信号光を検出する検出部16を備えている。検出部16は、集光レンズ、分光器、CCDを含んで構成されている。
【0021】
試料移動機構8は、ピエゾアクチュエータを駆動源とする微動機構18、ステッピングモータを駆動源とする粗動機構20からなり、水平(XY)方向及び垂直方向(Z方向)に試料ステージ3を移動させる。制御装置22は、粗動機構20による比較的大きな移動と微動機構18による微小な移動とを切り替えて行うよう試料移動機構8を制御する。これにより、試料ステージ3に載置された試料が水平方向及び垂直方向に移動される。
【0022】
第1プローブ5及び第2プローブ6は、いずれも先端が尖鋭化され、当該先端部に近接場光として取り出す波長以下の微小開口を有する光ファイバープローブから成る。各光ファイバープローブは、先端及び開口を除き金属コーティング(例えば金(Au)コーティング)されている。
【0023】
光源14から出射されたレーザ光は、第1プローブ5及び第2プローブ6のいずれかの端部から当該プローブに導入され、そのプローブ先端の微小開口から外部に洩れ出て試料表面に近接場光を形成する。一方、試料表面に形成された近接場光によって試料表面で発生した散乱光等は第1プローブ5及び第2プローブ6のいずれかの先端開口から当該開口に導入され検出部16に導かれる。光源14からの光を試料表面に導くプローブをイルミネーションプローブ(Iプローブ)、試料表面で発生した光を集光して検出部16に導くプローブをコレクションプローブ(Cプローブ)と呼ぶ。本実施形態のSNOM1では、第1プローブ5及び第2プローブ6のいずれもがIプローブ、Cプローブとなり得る。
【0024】
プローブ移動機構10は、ピエゾアクチュエータを駆動源とする微動機構10a、ステッピングモータを駆動源とする粗動機構10bからなり、XY方向(水平方向)及びZ方向(垂直方向)に第1プローブ5を移動させる。微動機構10a及び粗動機構10bは前記制御装置22に接続されている。制御装置22は、粗動機構10bによる比較的大きな移動と微動機構10aによる微小な移動とを切り替えて行う。
本実施形態では、試料移動機構8及びプローブ移動機構10が第1走査手段として機能し、試料移動機構8が第2走査手段として機能する。
【0025】
距離制御機構12は、微小振動された第1プローブ5及び第2プローブ6が試料表面に近づいたときに第1プローブ5及び第2プローブ6それぞれの先端と試料表面との間に働くシアフォースを検出することにより第1プローブ5及び第2プローブ6の先端と試料表面との距離を制御する。具体的には、距離制御機構12は音叉状(U字状)の水晶振動子(チューニングフォーク)25,27、各水晶振動子25,27に接続された発振器29,30、及びロックインアンプ32,34から成る。各水晶振動子25,27は一対の振動体を連結したU字構造を有している。一対の振動体は電気的に絶縁されている。水晶振動子25の一方の振動体に発振器29が、水晶振動子27の一方の振動体に発振器30が、それぞれ電気的に接続されている。
図1では、発振器(発振器29,発振器30)が接続された振動体にプローブ(第1プローブ5、第2プローブ6)が固定されているが、ロックインアンプ(ロックインアンプ32,ロックインアンプ34)が接続された振動体に前記プローブ(第1プローブ5、第2プローブ6)を固定しても良い。
なお、ロックインアンプ32,34には、発振器29,30から参照用の信号が供給され、位相検波(同期検波)するようになっている。
【0026】
発振器29,30から振動体に加振用電圧(交流電圧)が印加されると、当該振動体がチューニングフォークのU字構造が存在する面内に振動し、これに同期して他方の振動体も振動する。そして、共振点の周波数のときに最大の振幅で共振する。このとき、振動体に誘起される電圧はロックインアンプ32,34で測定され、制御装置22に入力される。
この状態で、プローブ5,6の先端を試料表面に近づけていくと、プローブ5,6の先端と試料表面との距離が一定以下になったときにシアフォースが作用してプローブ5,6の振幅が小さくなり、この影響により振動体の振幅も小さくなる。振動体の振幅が小さくなるとロックインアンプ32,34で測定される電圧振幅も小さくなる。制御装置22は電圧振幅の変化をモニタし、ロックインアンプ32で測定される電圧振幅を一定に保つようにプローブ移動機構10を制御、ロックインアンプ34で測定される電圧振幅を一定に保つように試料移動機構8を制御する。これにより、プローブ5,6の先端と試料表面との距離をそれぞれ一定に保ちながらプローブ5,6を走査することができる。
【0027】
本実施形態のSNOM1では、第1プローブ5及び第2プローブ6の両方、或いはいずれか一方のみを用いて試料表面を観察することができる。第1プローブ5及び第2プローブ6のいずれか一方をIプローブ、他方をCプローブとして試料表面を観察するモードをデュアルICモードと呼ぶ。また、第1プローブ5及び第2プローブ6のうちの一方のみを用いて試料表面を観察するモードをICモード、Iモード、Cモードと呼ぶ。ICモードでは、1本のプローブがIプローブ及びCプローブを兼用するICプローブとなり、光源14からのレーザ光を試料表面に導くプローブ自身が試料表面で発生した散乱光を検出部16に導く。Cモードでは第1プローブ5及び第2プローブ6のいずれかがCプローブとなり、ファーフィールドから試料表面に光を照射し、その光によって試料表面に発生した散乱光等をCプローブで集光する。Iモードでは第1プローブ5及び第2プローブ6のいずれかがIプローブとなり、このIプローブを用いて試料表面に光を照射し、その光によって発生する散乱光等をレンズにより広域的に観察する。
【0028】
例えば半導体を試料Sとした場合、上述した4種類のモードによって次のような観察が可能である。すなわち、Cモードでは、ファーフィールドから半導体に広域的に光を照射してキャリアを励起し、そのキャリアの再結合による局所的な発光をCプローブで集光して観察することができる。Iモードでは、Iプローブを用いて半導体に局所的に光を照射し、励起されたキャリアの発光をレンズにより広域的に観察することができる。ICモード又はデュアルICモードでは、Iプローブ又はICプローブを用いて半導体を局所的に励起し、その励起されたキャリアの再結合による発光の局所的な集光をCプローブ又はICプローブにより観察することができる。
【0029】
特に、デュアルICモードでは、IプローブとCプローブとを近接させることで、Iプローブからの光で励起されたキャリアの発光をCプローブで捉ることができ、キャリアが流れる方向、つまりキャリア流路を観察することができる。半導体の一種であるInGaN中のキャリア拡散長は数百nm程度と見積もられており、InGaNのキャリア流路を観察する場合は、第1及び第2プローブ5、6間の距離を数百nm以下まで近づける必要がある。
【0030】
このように、1本のプローブで試料表面を走査するICモード、Iモード、Cモードに対して、2本のプローブで試料表面を走査するデュアルICモードは、両プローブと試料との距離に加えてプローブ間の距離を制御する必要がある。特に両プローブ5,6を近接させる場合には、両プローブ5,6が衝突しないように両プローブ5,6の移動を制御する必要がある。
ところが、プローブ5,6間の距離が一定値以下になるとプローブ5,6相互間にシアフォースが働くため、両プローブ5,6の移動を制御する際は、シアフォースの影響を考慮しなければならない。
【0031】
そこで、本実施形態のSNOM1では、デュアルICモードで測定を行う場合は、第1プローブ5及び第2プローブ6のうちの一方、例えば第1プローブ5に、水晶振動子25の共振周波数とは異なる特定周波数の振動(以下、この振動を「変調振動」という)を付与している。そして、両プローブ5,6の変調振動の振幅を検出し、この振幅の変化に基づき2本のプローブ5,6が互いに近接したことを判定するようにしている。
【0032】
図2は、各プローブに付与される振動を示す図である。具体的には、制御装置22の制御により微動機構10aを駆動させ、これにより水晶振動子25を、共振周波数の30kHz近辺とは異なる特定周波数(100Hz)で物理的に振動させている。つまり、本実施形態では、制御装置22は各プローブの移動を制御する機能と、一方のプローブ(水晶振動子)を特定周波数(100Hz)で発振させる機能を備えている。これにより、第1プローブ5は、水晶振動子25の共振周波数である30kHzで振動すると同時に、100Hzで試料表面と平行方向(水平方向)に振動する。
図3は、第1プローブ5に付与される振動波形を示す図である。このように本実施形態のSNOM1では、第1及び第2プローブ5,6を共振周波数で振動させると共に、第1プローブ5に物理的な振動による変調を与えることにより、第1プローブ5及び第2プローブ6と試料との距離及び、第1プローブ5と第2プローブ6との間の距離(プローブ間距離)を制御している。以下の説明では、このような制御方式を二帯域変調制御方式と呼ぶ。
【0033】
図4は二帯域変調制御方式の処理の流れを示すダイヤグラムである。なお、
図4では、発振器が特定周波数(100Hz)で発振させることとしているが、実際は、前述の通り制御装置22が特定周波数で発振させる機能を有している。
以下に、二帯域変調制御方式の処理の流れについて詳細に説明する。
例えばプローブAの近傍にプローブBと試料(の表面)の2つの物体が存在するものとし、プローブAからプローブBまで及び試料の表面までの距離をそれぞれx、zとする。また、水晶振動子(チューニングフォーク)の振幅をCとしたときの実際の振動を
C cos ω
1t
と記述するものとし、このときのCとx、zの関係を
C=fx(x) fz(z)
と表すこととする。
【0034】
Fx(x)はプローブBがプローブAに与える振幅減衰量の大きさの関係を表す関数、fz(z)は試料表面がプローブAに与える振幅減衰量の大きさの関係を表す関数である。fx(x)とfz(z)はいずれも単調減少する関数であり、さらに、ある程度離れている領域では微分関数f’x(x)とf’z(z)も単調減少する。
距離xに周波数ω
m/2π、振幅aの変調をかけた場合、振幅aが十分に小さいとすると、fx(x)は次の近似式
fx(x)=fx(x0)+af’x(x0) cosω
mt
で表すことができる。
これより、例えば水晶振動子27の振動によって生じるチューニングフォークの圧電信号s(x,z,t)(=kC cosω
1t)は、
s(x,z,t) = kfz(z) (fx(x0) + af’x(x0) cosω
mt)cosω
1t
となり、変調振動と共振振動が重畳された形になる。ここで、kは水晶振動子の振幅Cと圧電信号s(x,z,t)の関係を表す比例(物理)定数である。
【0035】
この圧電信号s(x,z,t)に共振振動と同期した参照信号のcosω1tを乗じると
s(x,z,t) cosω1t
=k fz(z) (fx(x0) + af'x(x0) cosω
mt) cos
2ω
1t
=k fz(z) (fx(x0) + af'x(x0) cosω
mt) [(1+cos2ω
1t)/2]
=(1/2) k fz(z) (fx(x0) + af'x(x0) cosω
mt)
+ (1/2) k fz(z) (fx(x0) + af'x(x0) cosω
mt) cos2ω
1t
となる。
ローパスフィルタ(LPF)221を通すことで、第1項の共振振動と等しい周波数成分のみの共振振動の振幅s1(x,z,t)が得られる。
すなわち、
s
1(x,z,t)=(1/2) k fz(z) (fx(x0) + af'x(x0) cosω
mt)
である。
この信号s
1(x,z,t)には、変調信号成分cosω
mtも含まれるため、さらにLPF222を通過させることで変調信号成分を取り除くことができる。
すなわち、
s
1(x,z)=(1/2) k fz(z)
fx(x0)
が得られる。
【0036】
これにより、第2プローブ6と試料表面との間の距離h及び第2プローブ6と第1プローブ5との間の距離dに関する情報s
1(x,z) が得られる。
一方、s
1(x,z,t)に変調信号成分cosω
mtを乗じると
s
1(x,z,t) cosω
mt=(1/2) k fz(z) (fx(x0) + af’x(x0) cosω
mt) cosω
mt
=(1/2)k fz(z) (fx(x0) cosω
mt+(1/2)k fz(z) af’x(x0) cos
2 ω
mt)
=(1/2)k fz(z) (fx(x0) cosω
mt+(1/2)k fz(z) af’x(x0) [(1+cos2ω
mt)/2]
=(1/2)k fz(z) (fx(x0) cosω
mt+(1/4)k fz(z) af’x(x0) +(1/4)k fz(z) af’x(x0) cos2ω
mt
となる。
LPF224を通すことで、第2項の変調信号と等しい周波数成分のみ(変調振動の振幅s
2(x,z))が得られる。
すなわち、
s
2(x,z)=(1/4) k fz(z) af’x(x0)
が得られる。
【0037】
この信号s
2(x,z)にも第2プローブ6と試料表面との距離hと第2プローブ6と第1プローブ5との間の距離dに関する情報が含まれている。この信号s
2(x,z)をs
1(x,z)で除することで、第2プローブ6と第1プローブとの間の距離に関する情報s
2(x)が得られる。
すなわち、
s
2(x)=(1/2) a [f’x(x0)/fx(x0)]
が得られる。
さらに得られた信号s
2(x)をs
1(x,z)に反映させることで、第2プローブ6と試料表面との間の距離hに関する情報s
1(z)が得られる。
なお、ここでは、第2プローブ6に取り付けられた水晶振動子27の振動によって生じる圧電信号について説明したが、第1プローブ5に取り付けられた水晶振動子25の振動によって生じる圧電信号についても同様である。
【0038】
これらプローブと試料表面との間の距離hに関する情報、プローブ間の距離dに関する情報に基づき制御装置22は第1プローブ5と第2プローブ6が互いに近接したことを検出し、試料移動機構8及びプローブ移動機構10を制御する。従って、本実施形態では、ロックインアンプ32,34及び制御装置22が振動監視手段として機能する。また、制御装置22が振動付与手段、プローブ近接検出手段、制御手段として機能する。
【0039】
二帯域変調制御方式による第1プローブ5及び第2プローブ6の制御について検証するために、いくつかの実験を行った。検証は、両プローブの近接判定の可否を中心に行い、近接判定が期待通りに行われなかった場合に予測される現象(「近接不十分」、「衝突」、「一方のプローブの他方のプローブへの乗り上げ」)についても判定可能か調べた。
図5の(a)は、第1及び第2プローブ間の制御の概念図を、(b)〜(d)は制御が期待通りに行われていないときに予想される現象をそれぞれ示す。以下、その結果について説明する。
【0040】
まず、第1プローブ5を第2プローブ6に近接させていき、そのときの両プローブ(第1プローブ5及び第2プローブ6)の振動の変化を調べた。その結果を、
図6及び
図7に示す。
図6、
図7は、二帯域変調制御方式の検証結果を示す図である。なお、
図7は、
図6とは別の検証結果を示している。
図6及び
図7の(a)は、第2プローブ6に第1プローブ5を接近させたときの第1プローブ5のX軸座標の位置(x)と各プローブのZ軸座標の位置(z)との関係を示している。また、
図6及び
図7の(b)は、第1プローブ5のX軸座標の位置(x)と、各プローブ5,6の共振振動の振幅との関係を、
図6及び
図7の(c)は、第1プローブ5のX軸座標の位置(x)と、各プローブ5,6の変調振動の振幅との関係をそれぞれ示している。ここでは、第1プローブ5の初期位置(試料表面に対して任意の位置)の先端をX軸座標の原点とし、原点から第2プローブ6に向かう方向を正(+)とする。従って、X軸座標が大きいほど第1プローブ5が第2プローブ6に近接していることになる。
【0041】
図6及び
図7の横軸はいずれも第1プローブ5のX軸座標を表す。また、
図6及び
図7の(a)の縦軸は、試料ステージ3と各プローブ5,6との間の距離(z)、(b)の縦軸は水晶振動子25,27の振動から変調振動を除いたものの振幅、(c)の縦軸は第1及び第2プローブ5,6の変調信号の振幅を表す。
【0042】
図6に基づき説明すると、
図6(a)に示すように、第1プローブ5及び第2プローブ6と試料ステージ3との距離は、第1プローブ5及び第2プローブ6が離間しているとき及び接近しているときのいずれにおいても、ほぼ同じで且つ一定であった。また、
図6(b)に示すように、第1プローブ5の水晶振動子25の振動のうち変調振動を除いたもの及び第2プローブ6の水晶振動子27の振動のうち変調振動を除いたもの、すなわち共振振動の振幅もほぼ一定となった。
【0043】
一方、
図6(c)に示すように、第1プローブ5及び第2プロー
ブ6が離間しているときは第1プローブ5からのみ変調信号が検出された。変調を停止すると、変調信号が検出されなくなったことから、これは、第1プローブ5自身の変調信号が検出されたものと考えられる。
【0044】
また、第1プローブ5を第2プローブ6に近づけていくと、第1、第2プローブ5,6の両方から変調信号が検出された(
図6(c)において破線の円で囲んだ部分)。つまり、第1及び第2プローブ5,6の接近により第1プローブ5の変調信号が第2プローブ6に伝播したと考えられる。なお、第2プローブ6から変調信号が検出されることに応じて第1プローブ5から検出される変調信号が減衰した。第1及び第2プローブ5,6が近接すると、第1プローブ5と第2プローブ6の相互作用により第1プローブ5も第2プローブ6の影響を受けるためだと考えられる。このため、第1プローブ5の変調信号が減衰したものと思われる。
【0045】
さらに、上述したように、第1プローブ5と第2プローブ6とが接近しても、両プローブ5、6と試料ステージ3との距離(z)はほぼ同じで且つ一定であった(
図6(a))。また、第1プローブ5の水晶振動子25及び第2プローブ6の水晶振動子27の共振振動の振幅もほぼ一定であった(
図6(b))。このことから、両プローブ5,6が近接し、第1プローブ5の変調信号が第2プローブ6に伝播しても、一方のプローブが他方のプローブに乗り上げていないことが分かる。また、少なくとも第2プローブ6から変調信号が検出される初期においては、両プローブ5,6の衝突を回避できていると考えられる。両プローブ5,6が衝突すれば、水晶振動子の共振振動の振幅も大きく減衰すると考えられるからである。
【0046】
図7では、第1プローブ5を第2プローブ6に近接させたときの両プローブ5,6のZ軸座標(z)及び水晶振動子の共振振動の振幅は
図6とほぼ同様の結果が得られた(
図7の(a)及び(b)参照)。一方、第2プローブ6で変調信号が検出されても第1プローブ5の変調信号の減衰が観察されず、
図6に示す結果と異なる傾向を示した(
図7の(c)参照)。
【0047】
以上、
図6及び
図7に示す結果から、第1及び第2プローブ5,6が近接すると、(1)第1プローブ5の変調信号の減衰、(2)第2プローブ6の変調信号の検出、のいずれか或いは両方に基づいて、第1及び第2プローブ5,6の接近判定が可能であることが示唆された。この場合、例えば第1及び第2プローブ5,6の少なくとも一方の変調信号の変化が所定の閾値を超えたことに基づき第1及び第2プローブ5,6の接近を判定する方法が考えられる。
【0048】
そこで、次に、第2プローブ6の先端との衝突を回避しつつ該第2プローブ6の先端付近の領域を第1プローブ5で走査可能かについて検証した。この検証実験では、まず、光学顕微鏡を用い、目視にて第1及び第2プローブ5,6のY方向の位置合わせを行った。
図8は、プローブ同士の衝突を避けつつ第2プローブ6先端付近の領域を第1プローブ5で走査したときの第1プローブの軌跡を示す図である。
図8において左右方向をX方向、上下方向をY方向とする。また、
図8中、白抜き丸数字は第1プローブ5の移動順序を示す。
図8に示すように、第1プローブ5を第2プローブ6に向かってX方向に移動させ(アプローチ)、変調信号の変化を検出したら引き返し、Y方向に500nmほど移動させてから再び第2プローブ6にアプローチする、という動作を繰り返した。
【0049】
ここでは、第1プローブ5の変調信号の電圧値が80〜90%に減少したことをもって変調信号が変化したと判断した。電圧値の減少の下限を80%に設定したのは、第1プローブ5と第2プローブ6の衝突をできるだけ避けるためである。変調信号が大きく減衰するほどシアフォースの影響が大きく、両プローブが接近していることになる反面、両プローブが接触したり衝突したりする可能性が大きくなる。今回用いたプローブは金コーティングしており、接触により金コーティングが剥がれ易い。金コーティングが剥がれたプローブは交換が必要になることから、接触の可能性を小さく抑えるために、電圧値の減少の下限を80%とした。ただし、多少接触しても破損し難いプローブの場合や、コーティングが多少剥離しても測定に影響を及ぼさないプローブの場合には、下限を70%程度に設定しても良い。
【0050】
また、変調信号の上限を90%としたのは、ノイズの影響を除くためである。変調信号の減衰は、両プローブ間にシアフォースが作用し始めたことを意味するが、シアフォースが作用していない場合でもノイズによって変調信号が減衰する場合があるからである。従って、ノイズの影響を無くすことができれば、変調信号の上限を95%程度に設定しても良い。
【0051】
図9〜
図11に具体的に第2プローブ6の先端付近の領域を第1プローブ5で走査したときの結果を示す。
図9〜
図11の各(a)は走査に用いた第1プローブ5及び第2プローブ6の先端のSEM像を示す。また、
図9及び
図10の各(b)は第1プローブ5の軌跡及びこの軌跡から推定される第2プローブ6の先端位置を示す。また、
図11(b)は走査中の両プローブ5,6の変調信号の大きさを示す。なお、
図9及び
図10の各(b)では、説明を簡単にするため、第1プローブ5の軌跡を直線で表しているが、実際は、第1プローブ5は周期100Hz、振幅50nm(peak-to-peak)で振動しながら2次元走査される。すなわち、第1プローブ5はy軸方向に波打つように動きながらx軸方向に移動している。
【0052】
図9及び
図10に示すように、第1プローブ5の軌跡から破線の円が第2プローブ6の先端位置であると推定された。また、第1プローブ5の軌跡の変調信号検出位置を結んだ形状は第2プローブの先端の輪郭と類似していた。
図9に示す検証実験では、終了後の第1及び第2プローブ5,6の先端に破損が見られなかったことから、第2プローブ6と衝突させることなく当該第2プローブ6の近辺の領域を第1プローブ5で走査できた。
図10に示す検証実験では、終了後の第1及び第2プローブ5、6,の先端の一部から金コーティングが剥がれていた。ただし、ガラス部分の破損は見られなかったことから、第1プローブ5の走査時に両プローブ5,6が接触した可能性が示唆された。
【0053】
また、
図11に示すように、両プローブ5,6間の距離が所定値を下回ると(近接すると)、第1プローブ5の変調信号が急激に減衰することが分かった。さらに、第1プローブ5の変調信号マッピングの形状から、第2プローブ6の先端部分の輪郭が推定可能であることが分かった。なお、実験終了後の第2プローブ6の先端部において金コーティングの大きな剥離が見られた(
図11(a)参照)。ただし、変調信号マッピングからは、両プローブが衝突した形跡はみられなかった。
【0054】
図12は、特徴的な先端形状を有するプローブを用いて広範囲に走査したときの第1プローブ5の変調信号マッピングを示す。変調マッピングでは各点の色の濃淡で電圧値の増減を表しており、最も濃い黒色が、両プローブが離間しているときの変調信号の電圧値に対して10%減少したことを、最も淡い黒色(灰色)が10%増加したことを意味する。
【0055】
図12(a)に示すように、両プローブの先端部はダブルテーパ状になっており、異なる角度の2段の傾斜が見られる。一方、
図12(b)に示す変調マッピングでも2段の傾斜が観察され、プローブの先端形状を推定可能であることが分かった。
【0056】
図13は、先端が大きく破損した第1プローブを用いてアプローチを行った場合の
図12相当図である。
図13(b)に示すように、破損によるプローブ先端の特殊形状が観察された。また、第1プローブ5と第2プローブ6の衝突の形跡(楕円で囲んだ部分)が変調信号マッピングに見られることが分かった。
【実施例】
【0057】
次に、上記近接場光学顕微鏡を用い、デュアルICモードにてInGaNの単一量子井戸(SQW:Single Quantum Well)サンプルについてキャリア流路の観察を行った結果について説明する。ここでは、第1プローブ5をCプローブ、第2プローブ6をIプローブとし、プローブ移動機構10により第1プローブ5を移動させながら観察を行った。また、第1及び第2プローブ5,6間の距離の制御は上述の二帯域変調制御方式で行った。
【0058】
図14は観察に用いた近接場光学顕微鏡の光学系の概要を示す。本実施例の光学系は、デュアルICモード、ICモード、Iモード、Cモードのいずれかの測定モードに自由に変更できるように設計されている。また、デュアルICモードの場合には、IプローブとCプローブの配置を変更できるように設計されている。
【0059】
具体的には、InGaN半導体レーザ100の出射光路上には2個のレンズ101,102と1個のミラー103が配置されている。そして、このミラー103と3個のファイバーマウント104〜106との間及び3個のファイバーマウント104〜106と分光器108との間には、5個のミラーm1〜m5及び1個のビームスプリッタbsがマトリックス状に配置されている。前記ファイバーマウント104〜106には、先端にプローブを有する光ファイバが保持される。マトリックス状に配置されたミラーm1〜m5及びビームスプリッタbsはいずれも光路から外れた位置に移動可能に構成されている。分光器108とミラーm5との間にはロングパスフィルター(LPF、430nm)109とレンズ110が配置されている。LPF109は半導体レーザ100の405nm励起光をカットするためのものである。LPF109、レンズ110を通って分光器108に入射した光は、液体窒素冷却CCD112によって検出される。
【0060】
図15は、左右両側のファイバーマウント106及びファイバーマウント
104にそれぞれCプローブ、Iプローブを取り付けたデュアルICモードの光学系を示している。
図15に示すように、この場合は、ミラー103の直ぐ後段のミラーm1と、LPF109の直ぐ前段のミラーm5を除く3個のミラー及びビームスプリッタは光路から外れた位置に移動されている。このため、半導体レーザ100からのレーザ光は、一点鎖線L1で示すようにミラーm1によってIプローブに導かれる。Iプローブに導かれたレーザ光はプローブ先端の開口から出射してSQWを励起する。一方、Cプローブで集光された発光は、一点鎖線L2で示すようにミラーm5によってLPF109に導かれ、分光器108を経てCCD112によって検出される。
なお、
図16及び
図17は1本のプローブを用いるIモード及びICモードの光学系の例を示す。
【0061】
図18は、Iプローブ及びCプローブと試料の測定時の様子を示す写真である。
図18ではまだCプローブのアプローチを行っていないが、右側のIプローブから励起光(レーザ光)が照射されている様子がわかる。
【0062】
図19に観察結果を示す。
図19の(a)は、発光強度マッピングを、(b)は発光ピーク波長マッピングを示す。ここでは、CプローブをIプローブにアプローチさせ、Cプローブの変調信号の電圧値が85%に減少するとアプローチを止めて引き返し、Y方向に少し移動させて再びアプローチさせることとした。なお、
図19(a)及び(b)の中央部のデータが欠落しているのは、ノイズにより変調信号の減衰を誤検出したことによってCプローブが引き返したことによる。
また、
図19の(a)及び(b)に丸数字で示すラインのプロファイルを
図20及び
図21に示す。
図20は
図19の丸数字の「1」に対応し、
図21は
図19の丸数字の「2」に対応する。更に、
図20及び
図21の発光強度の縦軸を対数スケールに換算したグラフを
図22に示す。
【0063】
図19〜
図21から、励起点から離れるに従って発光が弱くなっていることが分かる。このことから、Cプローブで段階的なキャリアの分布を捉えることができることが示唆された。特に、励起点から1μm程度以内の領域において発光が強くなっていることから、励起点からのキャリアの拡散がこの領域内に及んでいる可能性が示唆された。
【0064】
次に、本発明の第2実施形態について
図23〜
図30を参照して説明する。なお、第1実施形態と同一部分には同一符号を付してその説明を省略し、第1実施形態と異なる部分について説明する。
第2実施形態が第1実施形態と大きく異なる点は次の3点である。
(1)特定周波数の振幅方向及び水晶振動子の配置
(2)二帯域変調制御方式の処理の流れ
(3)プローブの走査方式
また、上記以外にも、本実施形態では金(Au)に比べて硬いアルミニウム(Al)コーティングのプローブを用いた点が第1実施形態と異なるが、この点については説明を省略し、以下では上記(1)〜(3)について順に説明する。
【0065】
(1)特定周波数の振幅方向及び水晶振動子の配置
図23(a)は第1実施形態における第1及び第2プローブ5,6の振動の様子を示している。第1実施形態では、
図23(a)に矢印で示すように、第1及び第2プローブ5,6の特定周波数の振幅方向は、いずれも試料表面を叩く方向に設定されている。また、両プローブ5,6の対向面とは反対側の面に水晶振動子25,27がそれぞれ取り付けられている。
【0066】
一方、
図23(b)及び(c)は第2実施形態における第1及び第2プローブ5,6の振動の様子を示している。第2実施形態では、
図23(b)及び(c)に矢印で示すように、第1及び第2プローブ5,6の特定周波数の振幅方向を、試料表面とほぼ平行な方向に設定した。また、水晶振動子25,27は、第1実施形態の取り付け位置からプローブ
5,6を中心に90度回転させた位置、つまり、各プローブ5,6の側方に取り付けた。
【0067】
このような設計変更により、本実施形態では、各プローブ5,6が試料にタッピングするモードを除去することができ、各プローブ5,6の先端が試料に接触して破損することを防止できる。
【0068】
(2)二帯域変調制御方式の処理の流れ
図24は第2実施形態における二帯域変調制御方式の処理の流れを示すダイヤグラムである。第2実施形態では、制御装置22は、第1プローブ5に取り付けられた水晶振動子25の圧電信号S(x,z,t)から得られる第1プローブ5と第2プローブ6の間の距離dに関する情報s3(x)、第2プローブ6に取り付けられた水晶振動子27の圧電信号S(x,z,t)から得られる第2プローブ6と第1プローブ5の間の距離dに関する情報s3(x)の積d'から、両プローブ5,6が近接したことを検出する。尚、図
24では、発振器が特定周波数(100Hz)で発振させることとしているが、実際は、第1実施形態と同様、制御装置22が特定周波数で発振させる機能を有している。
【0069】
なお、本実施形態では32kHz付近(32.7kHz)に共振周波数をもつ音叉型水晶振動子25,27を第1及び第2プローブ5,6に取り付けている。また、第1プローブ5に与える物理的な振動の周波数(特定周波数)は100Hzとする。
【0070】
図25は、特定周波数(100Hz)の変調振幅を25nm、ピーク・ツー・ピーク(peak-to-peak)値を50nm、スキャンステップ間隔を25nm、水晶振動子25,27の印加電圧を50mVに設定して、第1及び第2プローブ5,6の一方を他方のプローブに徐々に接近させたときの各プローブ5,6の信号s
3(x)の測定結果を示している。このうち、
図25(a)は両プローブ5,6が離間しているとき(ファーフィールド)の測定結果、(b)は両プローブ5,6が近接しているとき(ニアフィールド)の測定結果を示す。
図25の縦軸は信号の強度、横軸は時間(ミリ秒)を示している。
図25から分かるように、両プローブ5,6が離間しているとき、近接しているときのいずれであっても両プローブ5,6の信号s
3(x)は変動するが、プローブ5,6が近接している場合は両プローブ5,6の信号s
3(x)の変化が同期する。なお、ニアフィールド(
図25(b))では、両プローブ5,6が近接して信号s
3(x)が減衰したことにより、両プローブ5,6が一旦離れ、再度、両プローブ5,6が接近するという動作を繰り返しているため、信号s
3(x)の減衰のピークが複数箇所見られるのが分かる。
【0071】
図25から分かるように、各プローブ5,6の変調信号s
3(x)の変化は、両プローブ5,6が近接したときだけでなく、各プローブ5,6が試料に近接したときにもみられる。従って、一方のプローブの信号が閾値を超えたことにより両プローブ5,6の近接を検出する場合は、パルスノイズを考慮して閾値を高く設定する必要がある。
これに対して、本実施形態のように両プローブ5,6の信号s
3(x)の積を利用することにより、一種の同期検波方式による信号検出が可能となり、S/N比が向上する。このため、閾値を低く設定することが可能となり、検出感度の向上を図ることができる。
【0072】
また、両プローブ5,6の信号s
3(x)の積を利用することで、一方のプローブに発生したパルスノイズの影響による信号の変化を、プローブ5,6が近接したものと誤って判定してしまうことを防止することができる。特に、両プローブ5,6が近接しているときは信号s
3(x)の変化が同期することから、両プローブ5,6の信号s
3(x)の積を利用することにより、両プローブ5,6が離間領域にあるときの誤判定を極力排除することができ、プローブ5,6の近接を精度良く検出することができる。
【0073】
図26は、第2プローブ6先端付近の領域を第1プローブ5で走査したときの両プローブ5,6の信号s
3(x)及び両信号の積の変化を示す。
図26から、信号s
3(x)の積の変化が大きいときは両プローブ5,6の信号も大きく変化していること、つまり、各プローブ5,6の特定周波数の電圧信号の変化がプローブ5,6の近接によるものであることが分かる。なお、
図26に複数のピークが見られるのは、おそらく、第2プローブ6の先端に第1プローブ5の先端が近接したときだけでなく第2プローブ6の側部に第1プローブ5の先端が近接したときにも信号が減衰したためと思われる。
【0074】
(3)プローブの走査方式
図27は第1実施形態で採用した走査方式を示す。
図27に示すように、第1実施形態では、走査を行うCモードのプローブ(Cプローブ)がIモードのプローブ(Iプローブ)に接近したことが認識されると、Cプローブは次のラインに強制的に移動される。そして、Iプローブから離れる方向に折り返して走査した後、再びIプローブに近づく方向に走査する往復走査が行われている。
【0075】
しかし、Cプローブを強制的に次のラインに移動させる場合、この強制的移動によってCプローブとIプローブが衝突するおそれがある。また、CプローブとIプローブが接近すると、特定周波数(100Hz)の信号だけでなく共振周波数(32kHz)の信号も減衰する。このため、制御装置22はCプローブが試料に接近したものと誤認識し、Cプローブを試料から離れる方向に移動させてしまう。この結果、往復走査方式では、CプローブとIプローブの最近接領域におけるCプローブの折り返し走査時にCプローブが試料から離間する。
【0076】
図28は、往復走査時における試料表面像(トポグラフィック像)を示す。ここでは、表面がほぼ平坦な試料を用いている。また、
図28中、左側がCプローブの走査領域を示し、右側の真っ黒の領域との境界部分がCプローブとIプローブの最近接領域となる。
図28に示すように、CプローブとIプローブの最近接領域では、隣接する走査ラインの濃淡が異なることから、プローブ走査の往路と復路とではCプローブと試料との距離が異なることが分かる。
【0077】
そこで、第2実施形態では、
図29に示す一方向走査方式を採用した。
図30は一方向走査時における試料表面像を示す。一方向走査方式では、両プローブ5,6の最接近領域での走査時における両プローブ5,6の衝突を避けることができる。また、
図28との比較から、一方向走査方式では、両プローブ5,6の最接近領域においても隣接するラインに濃淡の差が小さく、また、同じラインで濃淡が異なることもないことから、試料との距離を一定に保持した状態でCプローブを走査できることが分かる。
【0078】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
例えば、走査型プローブ顕微鏡には、走査型近接場光学顕微鏡の他、走査型トンネル顕微鏡、原子間力顕微鏡、磁気力顕微鏡、摩擦力顕微鏡等が含まれる。
第1及び第2プローブの数は1本に限らない。第1及び第2プローブの両方が2本以上であっても良く、一方が1本、他方が2本以上でも良い。
【0079】
試料ステージを移動させることにより試料表面に対して相対的に第2プローブが走査されるように構成したが、直接的に第2プローブを移動させて試料表面上を走査するようにしても良い。また、直接的に移動させるプローブは第1及び第2プローブの一方でも良く、両方でも良い。
特定周波数の振動を付与するプローブは、第1及び第2プローブのいずれでも良く、また、両方のプローブに特定周波数の振動を付与するようにしても良い。
特定周波数は100Hzに限らず、自由に設定することが可能である。
【0080】
第2実施形態では、第1及び第2プローブの距離に関する信号s
3(x)の積に基づき両プローブの近接を検出したが、前記信号s
3(x)の和に基づき両プローブの近接を検出するようにしても良い。