(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733726
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】喉頭拡径具
(51)【国際特許分類】
A61B 1/267 20060101AFI20150521BHJP
A61B 1/273 20060101ALI20150521BHJP
A61B 1/06 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
A61B1/26
A61B1/06 A
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-538424(P2011-538424)
(86)(22)【出願日】2010年10月26日
(86)【国際出願番号】JP2010068905
(87)【国際公開番号】WO2011052558
(87)【国際公開日】20110505
【審査請求日】2013年10月16日
(31)【優先権主張番号】特願2009-252484(P2009-252484)
(32)【優先日】2009年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(72)【発明者】
【氏名】國本 桂史
【審査官】
安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05584795(US,A)
【文献】
英国特許出願公告第00375491(GB,A)
【文献】
米国特許第04384570(US,A)
【文献】
特表2006−517120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/06
A61B 1/267
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリップとブレードとを備える喉頭拡径具であって、
前記グリップは前記ブレード側の第1握り部と自由端側の第2握り部とを備え、前記第1握り部は前記第2握り部より細径であり、前記第1握り部と前記第2握り部との段差部がグリップの背側に形成され、前記第2握り部の自由端はその腹側に膨出部を備え、
前記第1握り部と前記第2握り部とは一体物であり、腹側を内周とする1つの円弧状に形成されている、ことを特徴とする喉頭拡径具。
【請求項2】
前記第2握り部の膨出部に第1の光源が配設される、ことを特徴とする請求項1に記載の喉頭拡径具。
【請求項3】
前記第1握り部の腹側において前記ブレードへ連結される部分の近傍に第2の光源が配設される、ことを特徴とする請求項2に記載の喉頭拡径具。
【請求項4】
前記ブレードは導光体からなり、前記グリップには該ブレードに対向して該ブレードへ光を入射する第3の光源が配設され、該ブレード内へ入射された光は該ブレードの周面から放出される、ことを特徴とする請求項3に記載の喉頭拡径具。
【請求項5】
前記グリップに対して前記ブレードが着脱可能若しくは折り曲げ可能に連結され、前記ブレードを前記グリップに対して立設させた使用状態において前記第1〜第3の光源のうちの少なくとも1つの光源をオンとし、前記ブレードを前記グリップに対して取り外すか若しくは折り曲げた状態で前記第1〜第3の光源をオフとする、ことを特徴とする請求項4に記載の喉頭拡径具。
【請求項6】
前記第2握り部に電源が内蔵される、ことを特徴とする請求項2〜5のいずれか一つに記載の喉頭拡径具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は喉頭拡径具の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
喉頭拡径具は緊急時等に患者の喉頭へ挿入してこれを拡径し、気道を確保したり、喉頭へ挿管チューブを挿入したりするために用いられる。
喉頭拡径具として従来より
図1に示す喉頭鏡1が用いられてきた。この喉頭鏡1は円柱形のグリップ3とブレード5とをL字状に連結した構成である。ブレード5を咽頭へ挿入し、グリップ3をその軸線方向へ移動することにより患者の気道を確保し、また挿管チューブを挿入する(非特許文献1参照)
操作性を向上するため喉頭鏡のブレードに光源を付設したものが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特表2009―500056号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】月刊消防 2003年4月号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
喉頭鏡は長い使用の歴史をもつものの、円柱状のグリップ3とこのグリップ3の一端に取り付けられるブレード5とからなる基本形態は何ら変更されることはなかった。
一般的に喉頭鏡は意識のない患者に用いられるため、(1)固く閉じられた患者の口から喉頭へブレード5を挿入し、さらに(2)下顎を開かせて気道を確保する。
上記において、特に(2)下顎を開かせる施術時に、術者はグリップ3を強く握りその軸方向へ移動させる。このとき、グリップ3に対して掌が横つかみの状態となるので、グリップ3をその軸方向へ移動させるとき何ら指がかからず滑りやすい。従って、グリップ3の把持に強い握力が要求され、術者に大きな負担がかかっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、その第1の局面は次のように規定される。
グリップとブレードとを備える喉頭拡径具であって、
前記グリップは前記ブレード側の第1握り部と自由端側の第2握り部とを備え、前記第1握り部は前記第2握り部より細径であり、前記第1握り部と前記第2握り部との段差部がグリップの背側に形成され、前記第2の握り部の自由端はその腹側に膨出部を備える、ことを特徴とする喉頭拡径具。
【0007】
このように構成される喉頭拡径部によれば、グリップにおいてブレード側の第1握り部を第2握り部より細径に形成したため、両者のつなぎ部に段差が生じる。この段差をグリップの背側(ブレードの突出方向と反対側)へ設けた。これにより、グリップを横握りにしたとき、当該段差へ指若しくは掌が係合し、グリップへ力をかけやすくなる。
更には、第2握り部の自由端の腹側へ膨出部を設けたため、この部分にも指を掛けられるようになり、グリップの滑りを防止できる。
更には、グリップの背側に段差を設け、グリップ自由端の腹側に膨出部を設けることにより、掌のほぼ中央部を当該段差へ押しつけつつさらに指を膨出部にかけることが可能になる。これにより、グリップをその軸方方向へ移動させるときに、術者の掌の中央部及び指の側面がグリップ自体に係合するので、より効率よく力がかけられることとなる。
【0008】
この発明の第2の局面は次のように規定される。即ち、第1の局面に規定の喉頭拡径具において、前記グリップは腹側を内周とする円弧状に形成される。
このように規定される第2の局面の喉頭拡径具によれば、グリップが腹側を内周とする円弧状に形成されているので、ブレードを挿入した状態でグリップが下方へ向いた状態となる。施術時にはブレードの軸方向へ力を掛ける必要があるので、このようにグリップが下向きになると、術者は自身の体重を効率良く利用してグリップを引き下げて患者の喉頭を拡径でき、施術時の負担が軽減される。
【0009】
この発明の第3の局面は次のように規定される。即ち、第1又は第2の局面に規定の喉頭拡径具において、前記第2握り部の膨出部に第1の光源が配設される。
喉頭拡径具の使用時において最初にブレードを口腔内へ挿入するときはグリップにおいてブレードに近い部分、即ち第1握り部を片手で握り、他方の手を患者に当てる。従って、上記構成の第3の局面の喉頭拡径具によれば、第2握り部はフリーの状態であり、その膨出部の第1の光源は露出状態となる。膨出部は第2握り部の腹側、即ちブレードの突出方向に形成されているので、上記初期施術段階において、膨出部の第1の光源から放出される光はブレード側、即ち患者の顔に照射される。よって、初期施術段階において患者の口元を明るく照らすことができる。これにより、喉頭拡径具の施術が夜間に発生した事故や災害の現場で行われるときは、施術を円滑に実行可能となる。
【0010】
この発明の第4の局面は次のように規定される。即ち、第3の局面の喉頭拡径部において、前記第1握り部の腹側において前記ブレードへ連結される部分の近傍に第2の光源が配設される。
施術の中期段階では、ブレードを喉頭内へ挿入することとなるので、口腔内や喉頭内を照射することが好ましい。そこで第4の局面で規定される喉頭拡径部のように、第1握り部の根元部分の腹側(ブレード突出面側)に、即ち第1握り部のブレードへ連結される部分の近傍に第2の光源を配設しておくと、当該第2の光源からの光で口腔内や喉頭部内を照射できる。このとき、術者は第2握り部を把持しているので、第1握り部の第2の光源は露出している。
患者の口腔内及び喉頭内を照射するため、ブレード自体を発光させることもできる(第5の局面)
即ちこの発明の第5の局面は次のように規定される。
第4の局面に規定の喉頭拡径具において、前記ブレードは導光体からなり、前記グリップには該ブレードに対向して該ブレードへ光を入射する第3の光源が配設され、該ブレード内へ入射された光は該ブレードの周面から放出される。
ブレードは全体的に発光しても、部分的に発光してもよい。
【0011】
この発明の第6の局面は次のように規定される。
第5の局面に規定の喉頭拡径具において、前記グリップに対して前記ブレードが着脱可能若しくは折り曲げ可能に連結され、前記ブレードを前記グリップに対して立設させた使用状態において前記第1〜第3の光源のうちの少なくとも1つをオンとし、前記ブレードを前記グリップに対して取り外すか若しくは折り曲げた状態で前記第1〜第3の光源をオフとする。
このように規定される第6の局面の喉頭拡径具によれば、非使用状態においてブレードがグリップに対して分離若しくは折り畳まれているときは第1〜第3の光源は全てオフの状態であり、使用に際しブレードをグリップに対して立設させた状態で第1〜第3の光源のうちの少なくとも1つの光源がオンとなる。
これにより、喉頭拡径具の非使用時には確実に光源がオフされて無駄な電力消費を抑制できる。特に災害地等において使用される喉頭拡径具には光源の付設が必要であり、かつその電源の補充が困難なことに鑑みれば、第6の局面の喉頭拡径部のように光源のオン、オフを制御することはメンテナンスの見地からも好ましいものとなる。
【0012】
この発明の第7の局面は次のように規定される。即ち、第3〜第6の局面に規定の喉頭拡径具において、前記第2握り部に電源が内蔵される。
このように規定される第7の局面の喉頭拡径具において、第2握り部は第1握り部よりも太径に形成されているので、その内部に収納される電源にも大きな容量を確保できる。よって、光源部に充分な使用時間を確保できて、災害地等において使用される喉頭拡径具において好適なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】従来の喉頭鏡を用いた施術方法を示す図である。
【
図2】この発明の実施の形態の喉頭拡径具の使用状態の側面図である。
【
図5】喉頭拡径具の斜視図であり、(A)は使用状態、(B)は非使用状態を示す。
【
図6】喉頭拡径具の電気系を示すブロック図である。
【
図7】喉頭拡径具の施術初期段階において第1のLED光源で患者の顔を照らす状態を示す模式図である。
【
図8】施術中期段階において第2のLED光源等で患者の口腔内を照らす状態を示す模式図である。
【
図9】施術最終段階での喉頭を拡径する状態を示す模式図である。
【0014】
以下、この発明を実施の形態に基づいて更に詳細に説明する。
実施の形態の喉頭拡径具11はグリップ20及びブレード60を有する。
グリップ20はブレード60側の第1握り部21と自由端側の第2握り部31とを備えている。
第1握り部21は第2握り31部より細径であり、その結果両者の連結部分には段差が生じる。この例ではその段差40をグリップ20の背側に設けている。第1握り部21はブレード60との連結部分から徐々に太径になっているが、第2握り部との間において段差40を構成する。
第1握り部21においてブレード60へ連結される端部にはその端面側から溝23が形成される。腹側において溝23の近傍に窓25が形成されその内側に第2のLED光源(第2の光源)26が収納される。
【0015】
第2握り部31は第1握り部20より太径に形成されており、その自由端の腹側に膨出部33が形成される。膨出部33には窓35が形成されており、その内側に第1のLED光源36(第1の光源)が収納されている。第2握り部31の内部には電源ケース37が備えられ、この電源ケース37へ電源として乾電池がセットされる。
第2握り部の基部と膨出部とを別体とすることも可能である。
【0016】
第1握り部21及び第2握り部31は一体物であり、腹側(ブレード60の突出側)を内周とする円弧状に形成されている。
グリップ11の形成材料としては金属や硬質プラスチックを用いることができる。
ブレード60は従来例と同様なかぎ爪形状としたブレード本体61と連結部63とを備える。この例ではブレード60の全体をアクリル樹脂等の透光性材料で一体成形している。これにより、連結部63から入射された光が内部で乱反射を繰返し、ブレード本体61の全周面から放出される。
上記において連結部63はブレード本体61の基端部の中央に立設された板状の部材であり、グリップ11の下端に形成された溝23へ挿入される。符号65はグリップ11の下端へ連結部63を揺動自在に軸着するためのヒンジ軸である。
溝23の周壁には第3のLED光源66(第3の光源)が配置され、連結部63の側面に対向し、当該側面へ光を照射する。連結部63の端面へ対向する光源を配設することもできる。
【0017】
溝23の上壁にはプッシュ式のスイッチ68が配設される。
図2のようにブレード60を開いてグリップ11から立設させた使用状態で連結部63の上縁がスイッチ68に干渉してこれをオンとする。
図3のようにブレード60を畳んだ収納状態では、連結部63の上縁がスイッチ68から離隔してこれをオフとする。スイッチ68がオンのとき第1〜第3のLED光源は点灯し、スイッチ68がオフのとき、第1〜第3のLED光源は消灯する。
図5(A)は喉頭拡径具11の点灯状態を示し、同(B)は消灯状態を示す。
図5(A)から明らかなように、グリップ20の下端へ溝23を設け、この溝23へ導光体からなる連結部63を嵌合させることにより、連結部63において溝23から表出した部分(連結部発光部)が発光する。かかる連結部発光部は第2のLED光源25と協働して患者の口腔内や喉頭内を照射する。
かかる見地からいえば、グリップ20においてブレード連結部に溝を形成する際には、少なくともグリップ20の腹側へ開口した溝とし、該溝へ嵌合される連結部において溝から表出する部分を発光面とすることが好ましい。
【0018】
喉頭拡径具11の電気系を
図6に示す。符号69は制御部であって、リミットスイッチ68からのオン信号又はオフ信号に応じて、電源37からの電力を所望のLED光源36、26、66へ印加する。
この例では、ブレード60はグリップ11の一端に軸着されているが、ブレードをグリップから着脱可能としてもよい。この場合は、ブレードをグリップへ取り付けて使用状態としたときブレードの一部がスイッチに干渉してこれをオンとし、ブレードをグリップから外したときは当該干渉が解放されてスイッチをオフとする。
上記において第1〜第3のLED光源の一部又は全部を省略することができる。また、スイッチのオンに対応して全てのLED光源を点灯するのではなく、その一部のみを点灯させてもよい。
【0019】
次に、喉頭拡径具11の使用態様を
図7〜
図9に基づいて説明する。
喉頭拡径具11を使用状態にすると第1〜第3のLED光源が点灯する。初期施術段階では(
図7参照)、患者の口元の状態を確認する必要がある。ブレード60を患者の口へ挿入する際にはグリップ11の根元側、即ち第1握り部21を一方の手で把持し(第2の光源は閉塞される)、他方の手で患者を押さえることとなる。この状態で第2握り部31の自由端の膨出部33はフリーの状態となり、第1のLED光源36からの光で患者の口元を照射できる。
ブレード60を患者の口腔へ差し込んだ後は、
図8に示すように、口腔内部や喉頭内部を観察する必要がある。このとき、術者の手は第1握り部21から第2握り部31へ移るので、第2のLED光源26の遮蔽が無くなり、これからの光、連結部光源部からの光、及びブレード60自体からの光で口腔内部及び喉頭内部が明るく照射される。
ブレード60を喉頭内部へ挿入後は、グリップ11を
図9の矢印方向へ移動させて、顎ないし喉頭を拡径し、気道を確保しまた挿管チューブを挿入可能とする。このとき、術者の手はグリップ11の段差41及び膨出部33にかかるので、グリップ11の滑りを防止できて効率的に力をかけられる。
この例ではブレード60の全体が発光するので、喉頭内の奥部の状態まで視認が可能となる。
【0020】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【0021】
1,11 喉頭拡径具
3,21 グリップ
5,60 ブレード
21 第1握り部
26 第2のLED光源
31 第2握り部
33 膨出部
36 第1のLED光源
37 電源
41 段差