(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733727
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】地山防護プレートの滑材注出機構
(51)【国際特許分類】
E21D 9/04 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
E21D9/04 E
E21D9/04 F
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-206675(P2012-206675)
(22)【出願日】2012年9月20日
(65)【公開番号】特開2014-62364(P2014-62364A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2014年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】399101337
【氏名又は名称】株式会社ジェイテック
(73)【特許権者】
【識別番号】000216025
【氏名又は名称】鉄建建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104363
【弁理士】
【氏名又は名称】端山 博孝
(72)【発明者】
【氏名】平 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】島岡 巌
(72)【発明者】
【氏名】功刀 雅博
(72)【発明者】
【氏名】荒木 肇
(72)【発明者】
【氏名】石橋 秀紀
【審査官】
石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−332733(JP,A)
【文献】
特開平11−280379(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第00541813(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性切削具によって地山を切削した切削溝に挿入される防護プレートの滑材注出機構であって、
前記防護プレートの地山への挿入方向先端部に該防護プレートの幅方向に沿って形成された滑材の流路と、
前記流路と連通して前記防護プレートのプレート面に開口するように、防護プレートの幅方向に間隔を置いて設けられた複数の吐出孔と、
前記複数の吐出孔を覆うように前記防護プレートの幅方向に沿って配置された被覆プレートと、
前記被覆プレートと防護プレートとの間に、前記吐出孔と連通する微少間隙を常時形成して保持する間隙形成手段と
を備えてなることを特徴とする地山防護プレートの滑材注出機構。
【請求項2】
前記吐出孔は、前記防護プレートの両プレート面にそれぞれ開口する第1吐出孔と第2吐出孔とからなり、これら第1及び第2吐出孔に対応して前記被覆プレート及び間隙形成手段が前記防護プレートの両プレート面に設けられていることを特徴とする請求項1記載の地山防護プレートの滑材吐出機構。
【請求項3】
前記第1及び第2吐出孔は防護プレートの幅方向に関して互い違いとなるように配置されていることを特徴とする請求項2記載の地山防護プレートの滑材吐出機構。
【請求項4】
前記間隙形成手段は、前記被覆プレートと前記防護プレートとの間に該防護プレートの幅方向に間隔を置いて設けられた複数のスペーサプレートからなることを特徴とする請求項1,2又は3記載の地山防護プレートの滑材注出機構。
【請求項5】
前記防護プレートの先端面に該防護プレートの幅方向に沿って、その厚みと等しい厚みを有する細長の流路形成部材が固着され、この流路形成部材は前記防護プレートに固着される側面に該該防護プレートの先端面と協働して滑材の流路を形成する凹状溝が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1記載の地山防護プレートの滑材注出機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地山防護プレートの滑材注出機構に関し、より詳細には、例えば鉄道線路や道路などの車両走行路の下方の地盤に該走行路を横断するトンネルを構築するに際し、地山に挿入される防護プレートの滑材注出機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道線路や道路などの車両走行路の下方の地盤に該走行路を横断するトンネル(地下構造物)を構築するに際し、予め防護プレートを地山に挿入して防護する工法が採用されている。
【0003】
この防護工法の1つとして、先にこの出願人は、地山をワイヤソーなどの可撓性切削具で水平方向に切削しながら、その切削部に防護プレート(鋼板)を挿入する工法を提案した(例えば特許文献1参照)。この工法は、地山の変状ひいては鉄道線路の場合は軌道変状を防止することができる極めて有効な工法である。
【0004】
以下、この工法の概要を
図4(特許文献1に示された
図1)を参照して説明する。鉄道線路や道路などの走行路1を挟む両側には発進立坑2及び到達立坑3が築造されている。これら発進立坑2及び到達立坑3間の地山内には、防護鋼板(防護プレート)4の幅寸法に対応した間隔を置いてガイド孔を形成する1対のガイド管5a,5bが挿入されている。これらのガイド管5a,5bとしては、塩化ビニルなどの合成樹脂管が用いられる。
【0005】
各ガイド管5a,5bの内部には管軸方向に移動自在に切削用プーリの支持機構6a,6bと、防護鋼板4のクランプ機構7a,7bとがそれぞれ収容されている。到達立坑3の外部及び内部にはワイヤソー8を循環走行させる主プーリ10、ワイヤソー8のガイド管5a,5b内への繰り出し長さを調整する調整プーリ9、ワイヤソー8の方向転換のための方向転換プーリ11が設置されている。
【0006】
これらの主プーリ10や調整プーリ9及び方向転換プーリ11に巻き掛けられたワイヤソー8は、一方のガイド管5a内に繰り出され,ガイド管5a,5b間の地山を横切るように支持機構6a,6bの切削用プーリに巻き掛けられたうえ、他方のガイド管5bを通って地山外部に引き出されている。この無端状のワイヤソー8はワイヤに適宜間隔を置いて多数のダイヤモンドビットを取り付けてなる周知のもので、鉄筋コンクリートを切断する際の切断具として知られている。ワイヤソーに代えてチェーンソーを使用することもできる。
【0007】
到達立坑3には反力壁12から反力を得て作動する牽引ジャッキ13が設置されている。この牽引ジャッキ13に把持されるPC鋼棒(引張材)14は各ガイド管5a,5bの内部を通ってクランプ機構7a,7bに連結されている。以上のような装置構成により、主プーリ10を回転させながら、これを到達立坑3から離間する方向に所定距離移動させ、ワイヤソー8に張力を与えてガイド管5a,5b間の地山を溝状に切削する。同時に牽引ジャッキ13によりPC鋼棒14を牽引し、切削溝に防護鋼板4を挿入する。
【0008】
防護鋼板4の地山への挿入時における摩擦を低減するために、防護鋼板4のプレート面には滑材が供給される。
図5〜
図7は従来の滑材の注出機構を示している。防護鋼板4の地山への挿入方向(
図5に矢印で示す)先端部には鋼板4の幅方向に沿って滑材の流路20を形成する流路形成部材21が固着されている。流路形成部材21は防護鋼板4と厚みが等しく防護鋼板4と一体化されてその一部を構成する細長の鋼材であり、その長手方向に沿った一方の側面に開口する凹状溝22が形成されている。この流路形成部材21の開口側の側面を防護鋼板4の先端面に固着することにより、防護鋼板4の先端面と協働して流路20が形成される。
【0009】
ワイヤソーによる地山切削にともなって、ガイド管5a,5bも軸線方向に溝状に切削され、その切削溝を介して防護鋼板4の両側端部がガイド管5a,5b内に入り込んでいる。流路形成部材21の両端部も同様に、ガイド管5a,5bに形成された切削溝を介してその内部に入り込んでいる。この流路形成部材21の両端部に流路20と連通する流路23を有する連結部材30が直角に連結されている。この連結部材30には流路23に開口し、かつ図示しない供給ホースに連結されたジョイント24が取り付けられている。滑材は発進立坑から供給ホース及び連結部材30を通じて流路20に供給される。
図5において符号25は
図4に示したクランプ機構7a,7bに連結される、防護鋼板4のクランプ部を示している。
【0010】
流路形成部材21には流路20と連通し、防護鋼板4のプレート面に開口する複数の吐出孔26が、防護鋼板4の幅方向に間隔を置いて設けられている。これら吐出孔26は防護鋼板4の幅方向に沿って配置された薄鋼板からなる被覆プレート27で覆われている。この被覆プレート27は流路形成部材21から防護鋼板4にわたって配置され、先端部が流路形成部材21に溶接28により固着されている。他方、被覆プレート27の後端部は自由端となっている。これにより、流路20に滑材を供給すると、その供給圧により被覆プレート27が微少高さ押し上げられて吐出孔26が開口し、滑材が被覆プレート27と防護鋼板4との間を通って広がるように防護鋼板4のプレート面に供給され、地山との間の摩擦力が低減される。
【0011】
しかしながら、上記従来の吐出機構は被覆プレート27に加わる土被りによる鉛直荷重が大きくなると、被覆プレート27がフラッパ弁のように吐出孔26を塞いでしまい、滑材の供給が不可能になる現象が生じることがあった。このような滑材の供給が途絶える現象が起きると、防護鋼板の長距離施工を行うことが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−332733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、滑材を確実に吐出孔から吐出させて防護プレートと地山との摩擦を低減させることができ、長距離施工を可能とする滑材注出機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、可撓性切削具によって地山を切削した切削溝に挿入される防護プレートの滑材注出機構であって、
前記防護プレートの地山への挿入方向先端部に該防護プレートの幅方向に沿って形成された滑材の流路と、
前記流路と連通して前記防護プレートのプレート面に開口するように、防護プレートの幅方向に間隔を置いて設けられた複数の吐出孔と、
前記複数の吐出孔を覆うように前記防護プレートの幅方向に沿って配置された被覆プレートと、
前記被覆プレートと防護プレートとの間に前記吐出孔と連通する微少間隙を常時形成して保持する間隙形成手段と
を備えてなることを特徴とする地山防護プレートの滑材注出機構にある。
【0015】
上記滑材注出機構において、前記吐出孔は、前記防護プレートの両プレート面にそれぞれ開口する第1吐出孔と第2吐出孔とからなり、これら第1及び第2吐出孔に対応して前記被覆プレート及び間隙形成手段が前記防護プレートの両プレート面に設けられている構成を採用することができる。この場合、前記第1及び第2吐出孔は防護プレートの幅方向に関して互い違いとなるように配置されている構成とすることができる。
【0016】
また、上記滑材注出機構において、前記間隙形成手段は、前記被覆プレートと前記防護プレートとの間に該防護プレートの幅方向に間隔を置いて設けられた複数のスペーサプレートからなる構成を採用することができる。
【0017】
また、前記防護プレートの先端面に該防護プレートの幅方向に沿って、その厚みと等しい厚みを有する細長の流路形成部材が固着され、この流路形成部材は前記防護プレートに固着される側面に該該防護プレートの先端面と協働して滑材の流路を形成する凹状溝が形成されている構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、滑材吐出機構は、被覆プレートと防護プレートとの間に吐出孔と連通する微少間隙を常時形成して保持する間隙形成手段を有しているので、仮に被覆プレートに加わる土被りによる鉛直荷重が大きくなったとしても吐出孔が塞がれることはなく、滑材は常時防護プレートのプレート面に供給される。これによって、防護プレートと地山との間の摩擦力が低減した状態が維持され、長距離施工が可能となる。また、滑材は防護プレートの両プレート面に供給されるので、片面供給の場合に比べて防護プレートと地山との間の摩擦力は一層低減し、長距離施工効果が促進される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図4】この発明が適用される地山切削による防護プレートの施工方法を示す図であり、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。
図1〜
図3は、この発明の実施形態を示している。図において従来と同様の部材には同一符号を付してあるが、実施形態の理解の容易のために再度説明することとする。防護鋼板(防護プレート)4の地山への挿入方向(
図1に矢印で示す)先端部には、従来と同様に、鋼板4の幅方向に沿って滑材の流路20を形成する流路形成部材21が固着されている。流路形成部材21は防護鋼板4と厚みが等しく防護鋼板4と一体化されてその一部を構成する細長の鋼材であり、その長手方向に沿った一方の側面に開口する凹状溝22が形成されている。この流路形成部材21の開口側の側面を防護鋼板4の先端面に固着することにより、防護鋼板4の先端面と協働して流路20が形成される点も従来と同様である。
【0021】
ワイヤソー(可撓性切削具)による地山切削にともなって、ガイド管5a,5bも軸線方向に溝状に切削され、その切削溝を介して防護鋼板4の両側端部がガイド管5a,5b内に入り込んでいる。流路形成部材21の両端部も同様に、ガイド管5a,5bに形成された切削溝を介してその内部に入り込んでいる。この流路形成部材21の両端部に流路20と連通する流路23を有する連結部材30が直角に連結されている。この連結部材30には流路23に開口し、かつ図示しない供給ホースに連結されたジョイント24が取り付けられ、滑材が発進立坑から供給ホース及び連結部材30を通じて流路20に供給される点も従来と同様である。なお、滑材としては、例えば、一液性滑材「スベール」あるいは一体型滑材「スムースエース」(いずれも商品名)等を用いることができる。
【0022】
この発明によれば、流路形成部材21には流路20と連通して防護鋼板4の一方のプレート面(表面)に開口する複数の第1吐出孔26aと,他方のプレート面(裏面)に開口する第2吐出孔26bとが防護鋼板4の幅方向に間隔を置いて設けられている。これら吐出孔26a,26bは防護鋼板4の両プレート面に幅方向に沿ってそれぞれ配置された薄板からなる被覆プレート27a,27bで覆われている。被覆プレート27a,27bは流路形成部材21から防護鋼板4にわたって配置され、先端部が流路形成部材21に溶接28により固着されている。他方、被覆プレート27a,27bの後端部は自由端となっている。被覆プレート27a,27bの固着は溶接に限らず、ボルトを用いてもよい。
【0023】
また、被覆プレート27a,27bと、防護鋼板4のプレート面との間には、両者間に微少間隙を形成し保持するための複数のスペーサプレート31が配置されている。複数のスペーサプレート31は被覆プレート27a,27bの後端部側において、防護鋼板4の幅方向に間隔を置いて配置されている。より具体的には、スペーサプレート31は被覆プレート27a,27bの裏面に溶接により固着されている。これらのスペーサプレート31は厚みが0.6mm程度の極めて薄い鋼板であり、これにより被覆プレート27a,27bと防護鋼板4との間には微少間隙が保持され、第1吐出孔26a及び第2吐出孔26bが常時開口することになる。
【0024】
したがって、仮に被覆プレート27a,27bに加わる土被りによる鉛直荷重が大きくなったとしても吐出孔26a,26bが塞がれることはなく、滑材は常時防護鋼板4のプレート面に供給される。すなわち、流路20に供給され、吐出孔26a,26bから吐出した滑材は被覆プレート27a,27bと防護鋼板4との間、さらには隣接するスペーサプレート31,31間を通って、広がるように防護鋼板4の両プレート面に供給される。これによって防護鋼板4と地山との間の摩擦力が低減した状態が維持され、長距離施工が可能となる。
【0025】
また、滑材は防護鋼板の両プレート面に供給されるので、片面供給の場合に比べて防護鋼板4と地山との間の摩擦力は一層低減し、長距離施工効果が促進される。
【0026】
上記実施形態は例示にすぎず、この発明は種々の態様を採ることができる。例えば、上記実施形態ではスペーサプレート31を被覆プレート27a,27bに固着したが、防護鋼板4に固着するようにしてもよい。また、スペーサプレートに代えて、被覆プレート27a,27bの裏面に吐出孔26a,26bと連通する凹状溝を形成し、この凹状溝を介して滑材が防護鋼板のプレート面に供給されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0027】
4 防護鋼板
5a,5b ガイド管
20 流路
21 流路形成部材
22 凹状溝
26a 第1吐出孔
26b 第2吐出孔
27a,27b 被覆プレート
28 溶接
30 連結部材
31 スペーサプレート