(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Tiの含有量が0.2原子%以上2.4原子%以下であり、Cの含有量が0.2原子%以上2.4原子%以下である請求項1又は2に記載のNi基2重複相金属間化合物合金。
Al:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%以上5.0原子%以下,Ti:0原子%より多く12.5原子%以下,C:0原子%より多く12.5原子%以下,残部がNiからなり、Al,V,Nb,Ti,C,Niの合計100原子%の組成の合計重量に対して0重量ppmより多く1000重量ppm以下のBを含む溶湯を徐冷することにより、初析L12相とA1相とが共存する組織を形成する工程と、
初析L12相とA1相とが共存する組織を有する組織を冷却することにより、A1相をL12相とD022相とに分解させる工程と、
を備えるNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
Al:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%以上5.0原子%以下,Ti:0原子%より多く12.5原子%以下,C:0原子%より多く12.5原子%以下,残部がNiからなり、Al,V,Nb,Ti,C,Niの合計100原子%の組成の合計重量に対して0重量ppmより多く1000重量ppm以下のBを含む溶湯で鋳塊を作製する工程と、
前記鋳塊に対して、初析L12相とA1相とが共存する温度で第1熱処理を行う工程と、
第1熱処理後、冷却することによりA1相をL12相とD022相とに分解させる工程と、
を備えるNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明に係るNi基2重複相金属間化合物合金は、Al:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%以上5.0原子%以下,Ti:0原子%より多く12.5原子%以下,C:0原子%より多く12.5原子%以下,残部は、Niからなり、初析L1
2相と(L1
2+D0
22)共析組織との2重複相組織を有する。
ここで、残部はNiからなるが、この残部には、不可避的不純物が含まれてもよい。以下、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金において,特に記載しない限り、Al,V,Nb,Ti,C及びNiの原子%を合計すると100原子%の組成となる。
また、初析L1
2相は、例えば、
図3に示されるように、A1相の間に分散されて配置されるL1
2相であり、(L1
2+D0
22)共析組織は、例えば、同図に示されるように、A1相が分離して形成された、L1
2とD0
22とで構成される共析組織である。
【0010】
Ti及びCの含有量は、好ましくは、Tiの含有量が0原子%より多く4.6原子%以下であり、Cの含有量が0原子%より多く4.6原子%以下である。また、より好ましくは、Tiの含有量が0.2原子%以上2.4原子%以下であり、Cの含有量が0.2原子%以上2.4原子%以下である。これらの範囲であれば、引張強度及び延性特性をより向上させることができる。
引張強度及び延性特性の向上は、Cによる固溶強化機構の発現とCの粒界偏析による粒界破壊抑制によるので、Tiの含有量とCの含有量は、同じ含有量であってもよいし、また、異なる含有量であってよい。例えば、Cの含有量がTiの含有量より少なくてもよい。具体的に例示すると、Tiの含有量が3.0原子%であり、Cの含有量が0.1原子%以上4.0原子%以下であってもよい。
また、Ti及びCの含有量が微量であっても引張強度及び延性特性が向上するから、Ti及びCの含有量は後述するBの含有量と同程度であってもよい。
【0011】
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、その実施形態において、前記Al,V,Nb及びNiの合金材料に、TiCを添加して形成される合金であってもよい。つまり、Niを主成分とし、かつAl:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%以上5.0原子%以下,の合金材料に、TiCを添加して形成される合金であってもよい(言い換えると、これらの合金材料にTiCを添加し溶解、凝固させることにより得られる合金であってもよい)。
この実施形態によれば、Ni基2重複相金属間化合物合金の材料に、Cを炭化物として導入するが、添加されたTiCが2重複相組織マトリックス中で第二相粒子として存在する場合においても、あるいは、TiCがTiとCに分解して2重複相組織マトリックスに固溶する場合のいずれにおいても、2重複相組織の形成の妨げとならない。このため、引張強度及び延性特性を向上させることができる。
また、前記TiCの添加量は、0原子%より多く12.5原子%以下であるとよい。また、TiCの添加は、例えば、前記合金材料にTiCを添加した溶湯から鋳塊を作製して形成される。TiCの添加量は、好ましくは、0原子%より多く4.6原子%以下であり、また、より好ましくは、0.2原子%以上2.4原子%以下である。これらの範囲のTiCを添加して形成される合金であれば、より引張強度及び延性特性を向上させることができる。
なお、前記TiCの添加量は、前記Ni,Al,V及びNbの合金材料に、TiCを添加して100原子%となる数値である。 また、このNi基2重複相金属間化合物合金は、前記発明の構成において、前記Ti及びCがTiCとして含まれてもよい。
つまり、添加されたTiCが分解されたTiとCとを含むNi基2重複相金属間化合物合金であってもよいが、添加されたTiCが分解されたTi及びC並びにTiCを含むNi基2重複相金属間化合物合金であってもよい。
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、その実施形態において、前記2重複相組織と異なる組織を有し、この組織が、TiCを含む組織であってもよい。前記Al,V,Nb及びNiの合金材料にTiCが添加されて形成される場合、このNi基2重複相金属間化合物合金は、添加されたTiCが分解されてTiとCを含む2重複相組織を有してもよいが、この2重複相組織のほかTiCを含む組織を有してもよい。例えば、Ti及びCを多く含む場合、2重複相組織と異なる組織が形成され、V,Nb,Ti及びCを主成分とする第2相粒子(炭化物粒子)が形成される。
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、その実施形態において、前記TiCが添加されて形成される合金のほか、Al,V,Nb,Ti及びCの合金材料から形成される合金(すなわち、これらの材料を溶解、凝固することにより得られる合金)であってもよい。この場合に、例えば、Ni基2重複相金属間化合物合金は、前記V,Ti及びCが(V,Ti)Cからなる組織を形成している形態であってもよく、前記Ni基2重複相金属間化合物合金が2重複相組織と(V,Ti)Cからなる組織とで構成される形態であってもよい。ここで、(V,Ti)Cからなる組織は、例えば、V,Ti及びCを主成分とし、Ni,Alを含む組織である。
【0012】
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、その実施形態において、前記構成に加え、さらにBを含んでもよい。つまり、Bの含有量が0重量ppmであってもよいが、Bの含有量が0重量ppmより多く1000重量ppm以下であってもよい。BとCとが同時に含まれると、BとCとが粒界偏析し、これにより粒界破壊が抑制されるので、上記微量のBが含有されるとよい(例えば、0重量ppmより多い含有量であるとよい)。
また、このBの含有量は、好ましくは、50重量ppm以上で1000重量ppm以下であり、より好ましくは、100重量ppm以上で800重量ppm以下である。なお、Bの上記含有量は、Al,V,Nb,C及びNiを含む合計100原子%の組成の合計重量に対する数値である。
【0013】
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、Al,V及びNbの含有量が、好ましくは、Alの含有量が6原子%以上10原子%以下,Vの含有量が12.0原子%以上16.5原子%未満,Nbの含有量が1原子%以上4.5原子%以下である。Al,V及びNbの含有量がこれらの範囲であれば、2重複相組織が形成されやすい。
【0014】
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金の第1の製造方法は、Al:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%以上5.0原子%以下,Ti:0原子%より多く12.5原子%以下,C:0原子%より多く12.5原子%以下,残部は、Niからなる溶湯を徐冷して鋳造することにより初析L1
2相とA1相とが共存する組織を形成する工程と、初析L1
2相とA1相とが共存する組織を有する組織を冷却することにより、A1相をL1
2相とD0
22相とに分解させる工程とを備える。
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金の第2の製造方法は、Al:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%以上5.0原子%以下,Ti:0原子%より多く12.5原子%以下,C:0原子%より多く12.5原子%以下,残部は、Niからなる溶湯で鋳塊を作製する工程と、前記鋳塊に対して、初析L1
2相とA1相とが共存する温度で第1熱処理を行う工程と、第1熱処理後、冷却することによりA1相をL1
2相とD0
22相とに分解させる工程とを備える。
ここで、第1及び第2の製造方法において、溶湯で鋳塊を作製する前記工程は、Niを主成分とし、Al:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%以上5.0原子%以下,Ti:0原子%より多く12.5原子%以下,C:0原子%より多く12.5原子%以下,の合金材料からなる溶湯で鋳塊を作製する工程を含む。
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金の第3の製造方法は、Niを主成分とし、かつAl:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%以上5.0原子%以下,TiC:0原子%より多く12.5原子%以下,の合金材料からなる溶湯を徐冷することにより、初析L1
2相とA1相とが共存する組織を形成する工程と、初析L1
2相とA1相とが共存する組織を有する組織を冷却することにより、A1相をL1
2相とD0
22相とに分解させる工程とを備える。
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金の第4の製造方法は、Niを主成分とし、かつAl:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%以上5.0原子%以下,TiC:0原子%より多く12.5原子%以下,の合金材料からなる溶湯で鋳塊を作製する工程と、前記鋳塊に対して、初析L1
2相とA1相とが共存する温度で第1熱処理を行う工程と、第1熱処理後、冷却することによりA1相をL1
2相とD0
22相とに分解させる工程とを備える。
ここで、溶湯を徐冷して鋳造するとは、例えば、セラミックス製の鋳型を用いて鋳造を行うほか、金型に鋳造する場合に、金型を断熱材等で包む等によって実施できる。
また、上記TiCを含有する溶湯から鋳塊を作製する工程において、Ni,Al,V及びNbの合金材料にTiCを添加して溶湯が作製される。TiCの含有量(添加量)は、好ましくは0原子%より多く4.6原子%以下であり、より好ましくは0.2原子%以上2.4原子%以下である。
また、これらの製造方法は、その実施形態において、前記工程に加え、さらに、均質化熱処理又は溶体化熱処理を備えてもよい。均質化熱処理又は溶体化熱処理は、例えば、1503K以上1603K以下の温度で行ってもよい。
また、第1熱処理は、均質化熱処理又は溶体化熱処理を兼ねてもよい。
なお、この発明の第1及び第2の製造方法において、Al,V,Nb,Ti,C及びNiから合計100原子%の組成となる。一方、この発明の第3及び第4の製造方法において、上記TiCの含有量(添加量)は、前記Ni,Al,V及びNbの合金材料に、TiCを添加して100原子%となる数値である(TiC化合物の含有量(添加量)である)。上記溶湯から鋳塊を作製する工程における溶湯とは、上記含有量(添加量)のTiCを添加して100原子%とした合金材料の溶湯を意味する。
また、これらの製造方法により、2重複相組織とTiCを含む組織を含有するNi基2重複相金属間化合物合金や2重複相組織と(V,Ti)Cからなる組織を含有するNi基2重複相金属間化合物合金が形成される。従って、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、例えば、第1及び第2の製造方法によって得られる、2重複相組織とTiCを含む組織を含有する合金であってもよいし、第3及び第4の製造方法によって得られる、2重複相組織と(V,Ti)Cからなる組織を含有する合金であってもよい。
【0015】
ここで示した実施形態は、互いに組み合わせることができる。本明細書において、「〜」は、両端の点を含む。(なお、原子%は、at.%で表記される。)
以下、これらの実施形態の各元素について詳述する。
【0016】
Alの具体的な含有量は,5at.%より多く13at.%以下であり、例えば5.5,6,6.5,7,7.5,8,8.5,9,9.5,10,10.5,11,11.5,12,12.5又は13at.%である。Alの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0017】
Vの具体的な含有量は,9.5at.%以上で17.5at.%未満であり、例えば9.5,10,10.5,11,11.5,12,12.5,13,13.5,14,14.5,15,15.5,16,16.5又は17at.%である。Vの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0018】
Nbの具体的な含有量は,0at.%以上で5.0at.%以下であり、例えば0,0.5,1,1.5,2,2.5,3,3.5,4,4.5,5at.%である。Nbの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は,Nbを含んでいることが好ましいが,含んでいなくてもよい。Nbを含まない場合、Nbの代わりにTiを0.0at.%より多く5.0at.%以下含有してもよい。
【0019】
Tiの具体的な含有量は、0at.%より多く12.5at.%以下であり、例えば,0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.9,1,1.5,2,2.3,2.4,2.5,3,3.5,4,4.5,4.6,5,5.5,6,6.5,7,7.5,8,8.5,9,9.5,10,10.5,11,11.5,12,12.5at.%である。
また、Cの具体的な含有量は、0at.%より多く12.5at.%以下であり、例えば,0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.9,1,1.5,2,2.3,2.4,2.5,3,3.5,4,4.5,4.6,5,5.5,6,6.5,7,7.5,8,8.5,9,9.5,10,10.5,11,11.5,12,12.5at.%である。
ここで、Ti及びCの具体的な含有量は、同じ含有量である必要はなく、異なる含有量であってよい。
【0020】
また、Ti及びCの含有量は、TiCを上記各元素からなる材料に添加して溶解させてなる含有量であってもよいが、その場合のTiCの具体的な含有量は、0at.%より多く12.5at.%以下であり、例えば、1,2,3,4,5,10,12.5at.%である。また、好ましくは、0at.%より多く4.6at.%以下である。例えば0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.9,1,1.5,2,2.3,2.4,2.5,3,3.5,4,4.5,4.6at.%である。Ti,C及びTiCの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
なお、これらTiCの添加量は、前記Ni,Al,V及びNbの合金材料に、TiCを添加して100原子%となる数値である(TiC化合物の添加量である)。
【0021】
Niの具体的な含有量(含有率)は,好ましくは73〜77at.%であり,さらに好ましくは74〜76at.%である。このような範囲であれば,Niの含有量と,(Al,V,Nb,Ti)の含有量の合計が3:1に近くなり,2重複相組織を構成の相であるL1
2相及びD0
22相以外の相が出現しにくくなるからである。Niの具体的な含有量は,例えば73,73.5,74,74.5,75,75.5,76,76.5又は77at.%である。Niの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0022】
Bの具体的な含有量は、0重量ppmより多く1000重量ppm以下であり、例えば10,25,50,100,150,200,250,300,350,400,450,500,550,600,650,700,750,800,850,900,950又は1000重量ppmである。Bの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。なお、Bの上記含有量は、Al,V,Nb,C及びNiを含む合計100原子%の組成の合計重量に対する数値である。
【0023】
この発明の実施形態に係るNi基2重複相金属間化合物合金の具体的な組成は、例えば、表1〜3に示す組成に上記含有量のBを添加したものである。
【0027】
なお、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、後述するように、初析L1
2相と(L1
2+D0
22)共析組織との2重複相組織が形成される。L1
2相は、Ni
3Al金属間化合物相であり、D0
22相は、Ni
3V金属間化合物相である。また、L1
2相、D0
22相のほか、その組成により、Ni
3Nb金属間化合物相であるD0
a相,Ni
3Ti金属間化合物相であるD0
24相,を含む。また、Cの含有量によっては、炭化物の相(TiC相や(V,Ti)C相)を含む。
次に、Ni基2重複相金属間化合物合金の製造方法について、説明する。
【0028】
まず、各元素が上記で説明した割合となるように地金を秤量し、これを加熱することにより溶解させて、この溶湯を冷却することにより凝固させる。
ここで、Ti及びCは、炭化物であるTiCを用いることにより、上記割合となるようにしてもよい。TiCであれば、2重複相組織が形成されやすく、引張強度及び延性特性が向上したNi基2重複相金属間化合物合金を容易に製造できるからである。
【0029】
次いで、凝固した合金材に対して、初析L1
2相とA1相とが共存する温度で第1熱処理を行い、第1熱処理後、冷却することによりA1相をL1
2相とD0
22相とに分解させる。
これにより、初析L1
2相と(L1
2+D0
22)共析組織とからなる2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金が形成される。なお、L1
2相は、Ni
3Al金属間化合物相であり、A1相は、fcc固溶体相であり、D0
22相は、Ni
3V金属間化合物相である。
【0030】
2重複相組織を有する金属間化合物合金は、特許文献1〜3に記載された方法によって作製することができる。例えば、特許文献3に示すように、溶解・凝固により得られた合金材(鋳塊など)に対して,初析L1
2相とA1相とが共存する温度,又は初析L1
2相とA1相とD0
a相が共存する温度で第1熱処理を行い,その後,L1
2相とD0
22相及び又はD0
24相及び又はD0
a相とが共存する温度に冷却するか,その温度で第2熱処理を行うことによってA1相を(L1
2+D0
22)共析組織に変化させて2重複相組織を形成する工程によって製造することができる。
但し、これらの特許文献では、独立したプロセスとして初析L1
2相とA1相とが共存する温度での熱処理を行うことによって上部複相組織を形成しているが、この熱処理を行う代わりに金属間化合物合金の鋳塊を作製する際に溶湯を徐冷することによっても上部複相組織を形成することができる。溶湯を徐冷した場合、溶湯が凝固した後に初析L1
2相とA1相とが共存する温度に比較的長い時間保持されることになるので、上記熱処理を行った場合と同様に初析L1
2相とA1相とからなる上部複相組織が形成されるからである。
【0031】
第1熱処理及び第2熱処理は、特許文献1〜3の方法によってもよいが、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金の場合、例えば、第1熱処理は、1503〜1603Kで行い、溶体化熱処理(均質化熱処理)を兼ねる。
【0032】
次に、実施例を挙げてこの発明を具体的に説明する。以下の実施例では、鋳造材を作製し外観観察をした後、鋳造材に対して熱処理を施すことによって2重複相組織を有する金属間化合物を作製して,その機械的特性を調べた。
【0033】
〔実施例1〜5〕
比較例1及び実施例1〜5の鋳造材は、表4のNo.1〜6に示す割合のNi,Al,V,Nbの地金(それぞれ純度99.9重量%)及びB,TiCの粉体(粒径約1〜3μm)をアーク溶解炉内の鋳型中で溶解、凝固することによって作製した。アーク溶解炉の雰囲気は,まず,溶解室内を真空排気し,その後不活性ガス(アルゴンガス)に置換した。電極は,非消耗タングステン電極を用い,鋳型には水冷式銅ハースを使用した。以下の説明では,上記鋳造材を「試料」と呼ぶ。
なお、表4において、TiCとBの数値は、Ni,Al,V,Nbを含む合計100at.%の組成に対する原子%の値である。
【0035】
また、表4において、TiCが添加されていない、No.1の試料が比較例1であり(以下、基本合金ともいう)、TiCが添加されている、No.2〜6の試料が本発明の実施例1〜5である。なお、参考として、表5に、表4の試料における各元素の含有量を示す(表5は、Ni,Al,V,Nb,Ti及びCの合計(Bを除く)を100原子%としたときの各元素の原子%である。添加されたTiCは、1個のTiC化合物がTi原子1個とC原子1個に完全に分解するものとして換算した。)
【0037】
(鋳造材の外観観察)
作製された試料について、その断面の観察を行った。
図1にNo.1,No.2,No.4及びNo.6の断面光学顕微鏡写真を示す。
図1において(a),(b),(c),(d)の各写真は、No.1,No.2,No.4,No.6の試料の各写真にそれぞれ対応している。
図1を参照すると、No.2から結晶粒が微細化していることがわかる。
また、No.1〜No.6の断面観察から、TiCの添加量が0.2at.%から0.5at.%の間で、結晶粒の微細化が進むことが判明した。
【0038】
次に、作製された試料に対して、溶体化熱処理として1553K×5時間の真空熱処理を施した。
なお、この実験において、上記溶体化熱処理が第1熱処理を兼ねており、その後の炉冷が、L1
2相とD0
22相とが共存する温度への冷却に相当する。
【0039】
(組織観察)
次に、熱処理された試料について、SEMによる組織観察を行った。
図2及び
図3にその写真を示す。
図2は、No.1,No.2,No.4及びNo.6の試料の金属組織写真(1000倍)であり、
図3は同試料の母相(matrix)を高倍率で観察したときの金属組織写真(5000倍)である。また、
図2及び
図3において、(a),(b),(c),(d)の各写真は、No.1,No.2,No.4及びNo.6の各試料にそれぞれ対応している。
図2を参照すると、TiCが添加された試料のうちNo.4及びNo.6には、炭化物と考えられる第2相粒子が存在し、No.1及びNo.2にはこの第2相粒子が存在しないことがわかる(
図2における矢印の部分)。
図3を参照すると、TiCの添加の有無にかかわらず、各試料の母相に2重複相組織が形成されていることがわかる。また、各試料の母相に初析L1
2相と共析組織が形成されていることがわかる。これらのことから、TiCの添加によるCが金属間化合物に導入されても、2重複相組織が維持されることがわかった。
【0040】
(組成分析)
また、熱処理が施された試料について、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)による母相と炭化物(第2相粒子)の組成分析を行った。表6及び表7にその結果を示す。表6は、No.1の試料における母相(matrix)の組成分析結果を示す表であり、表7は、No.6の試料における母相(matrix)及び炭化物(第2相粒子:表では「Dispersion」と記載)の組成分析結果を示す表である。No.1の試料は、炭化物(第2相粒子)が観察されたNo.6の試料と組成を比較するために示す。なお,表6と表7中の数値はすべて原子%(at.%)である。
【0043】
表6及び表7を参照すると、No.6の試料の母相は、No.1の試料の母相よりもV,Nbの濃度が低く、Ti及びCの濃度が高いことがわかる。また、No.6の試料の炭化物(第2相粒子)は、Ti及びCのほか、V,Nbの濃度が高いことがわかる。さらに、No.6の試料は、母相及び炭化物ともに、Tiの濃度とCの濃度との比が1対1ではないことがわかる。以上から、添加されたTiCは、溶出して新たな組織を形成していることが理解できる。また、TiCを添加することにより、Ti及びCが母相に、V及びNbが炭化物(第2相粒子)にそれぞれ分配され、固溶したことが理解できる。Ti及びCの母相への固溶は、その量が異なるので、TiC以外に、Ti及びCを別々に試料に導入しても2重複相組織を形成できることが推察できる。
【0044】
(相同定)
次に、熱処理された試料について、金属組織の相を同定するためX線測定(XRD,Xray diffraction)を行った。
図4〜
図7にその結果を示す。
図4〜
図7は、No.1の試料及びNo.3の試料,No.4の試料,No.6の試料のX線回折プロファイルである。図の中の印は、2重複相組織を構成する材料であるNi
3Al(L1
2相),Ni
3V(D0
22相)及びTiCのピーク位置を示している。これらのピーク位置は、おのおの、丸印、三角印、四角印で示している。
図4〜
図7に示されるように、No.3,No.4,No.6において、TiCによるピークが観察された。No.1及びNo.3,No.4,No.6のいずれの試料においても、Ni
3Al(L1
2相)及びNi
3V(D0
22相)によるピークが観察された。以上から、TiCの添加の有無によらず、すべての試料で、TiCのピークを除いて2重複相組織の構成相であるNi
3Al(L1
2相)及びNi
3V(D0
22相)以外の相は形成されていないことがわかった。また、上記組織で観察された炭化物(第2相粒子)がTiCであることがわかった。
【0045】
(ビッカース硬さ試験)
次に、No.1〜No.6の試料について、ビッカース硬さ試験を行った。ビッカース硬さ試験は、室温において各試料に正4角錐のダイヤモンド製圧子を押し込むことによって行った。その際の荷重は300gを主として用い、保持時間は20秒とした。
図8にその結果を示す。
図8は、TiCの添加量と室温ビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
図8を参照すると、TiCが添加されていないときが最も硬く(約550Hv)、TiCの添加量が増加するに従いその硬さも減少することがわかる。一般に金属は不純物が含まれるとその硬さを増すが、No.2〜No.6の試料では、TiCが添加されているにもかかわらず、ビッカース硬さの値が減少していることがわかる。
【0046】
(引張試験)
次に、No.1〜No.6の試料について、引張試験を行った。引張試験は、室温〜1173Kの範囲で、ゲージ部が10×2×1mm
3の試験片を用いて、真空中、ひずみ速度1.67×10
-4s
-1の条件で行った。その結果を
図9〜
図14に示す。
図9〜
図14は、No.1〜No.6の試料の降伏強度(yield strength),引張強度(UTS,ultimate tensile strength)及び伸び(elongation)と温度との関係を示したグラフである。
図9〜
図14を参照すると、TiCが添加されていない試料(No.1)が、約1073Kまで強度の逆温度依存性を示すことがわかる(
図9)。つまり、温度の上昇とともに引張強度の値が上昇していることがわかる。また、これと同様にTiCが添加されている試料(No.2〜No.6)も873K又は1173Kまで強度の逆温度依存性を示すことがわかる(
図10〜
図14)。さらに、TiCの添加の有無にかかわらず、室温から高温において測定したすべての温度領域で0.65%〜5.3%の伸びを示すことがわかる。
【0047】
次に、
図15〜
図18に、降伏強度,引張強度及び伸びとTiCの添加量との関係を示す。
図15〜
図18は、No.1〜No.6の試料の上記引張試験の結果を解析したグラフである。
図15を参照すると、室温(RT)では、TiCの添加量の増加とともに降伏強度,引張強度,伸びのすべての特性値が上昇しTiCの添加量が1原子%付近で最大となることがわかる。特に、引張強度は1原子%付近で1.3GPaを超えており、TiCの添加量が0.2原子%以上2.5原子%未満で優れた強度特性を示している。また、TiCの添加量が1原子%を超えると、TiCの添加量とともに降伏強度,引張強度及び伸びの値が減少していく傾向があるものの、TiCが添加されていない試料(No.1)と同程度かそれ以上の特性を示すことがわかる。
また、
図16を参照すると、室温と同様に873KにおいてもTiCの添加量の増加とともに降伏強度,引張強度,伸びのすべての値が上昇しTiCの添加量が1原子%付近で最大となることがわかる。TiCの添加量が1原子%を超えると、各特性の値はやや減少するか、又はほとんど一定の値を示すことがわかる。特に、TiCの添加量が0.2%原子以上2.5原子%未満で優れた強度特性を示している。
さらに、
図17及び
図18を参照すると、TiCの添加量の増加とともに伸びの値が上昇しTiCの添加量が1原子%付近で最大となるか又はほとんど一定の値をとることがわかる。
以上のように、TiCを添加することにより、室温で、試料の強度(降伏強度,引張強度)が強化されていることがわかる。特に、TiCの添加量が2.5原子%未満のときに顕著であることがわかる。また、TiCを添加することにより、室温のみならず高温においても延性(伸び)が向上していることがわかる。特に、TiCの添加量が1原子%となるまで、その添加に応じて延性が向上している。
【0048】
これは、TiCから分解したCが母相に固溶し、このため、固溶強化が生じたものと考えられる。また、この固溶強化は、低温領域で効果的に発現したものと考えられる。従って、TiCの添加による強度の向上は室温〜873Kで著しい。
さらに、Cが固溶する量には限度(固溶限)があるため、その限度まではTiCの添加とともに強度が向上し、その限度を超えると強度の向上が止まるものと考えられる。このため、TiCの添加量が1%付近で強度は最大となると考えられる。
【0049】
次に、引張試験後の各試料について破面観察を行った。
図19及び
図20に各試料の破面を示す。
図19は、室温(RT)、1073K,1173Kの各温度における引張試験後のNo.1及びNo.4試料の破面のSEM写真(低倍率写真)である。また、
図20は、
図19における各試料の破面を拡大して表示したSEM写真(高倍率写真)である。これらの図面において、(a),(b),(c)がNo.1の試料、(d),(e),(f)がNo.4の試料、の破面を示している。
図19及び
図20に示されるように、No.1の試料では、室温で擬へき開状破壊の様相を呈し、温度上昇とともに粒界破壊の傾向が大きくなっている。1173Kでは完全に粒界破壊をしていた(
図19及び
図20の(a),(b),(c))。
一方、No.4の試料では、室温から高温(1173K)において延性的な粒内破壊が見られた。また炭化物(第2相粒子)周辺では、ディンプル破壊の様式が見られた(
図19及び
図20の(d),(e),(f))。なお、炭化物の添加量が多くなると炭化物が粗大化し、炭化物が亀裂の発生原因になっている様子も観察された。
【0050】
以上から、TiCを添加することにより、粒界破壊が抑制されて粒内破壊が起こるようになると考えられる。このため、延性が向上すると考えられる。また、炭化物の観察から、炭素の添加量が適切であれば、炭素が延性に寄与することが理解できる。
【0051】
なお、同様の実験を、Ni:75at.%,Al:9at.%,V:13at.%,Nb:3at.%,NbC:0〜5.0at.%,B:100wt.ppm(NbCの含有量は、Ni,Al,V,Nbの合計100原子%に対する量)で実施したところ、No.2〜No.6(実施例1〜5)の場合と同様に、引張強度及び延性特性の向上が確認できた(TiCの添加と同様に、特にNbCの添加量が2.5原子%未満のときに顕著であった。)。このことから、引張強度及び延性特性の向上にCが寄与していることが確認できた。
【0052】
〔実施例6〜11〕
さらに、別の試料である比較例2及び実施例6〜11を作製して、その機械的特性を調べた。
比較例2及び実施例6〜11の鋳造材は、材料の地金の構成を除いてNo.1〜No.6の試料と同様にして作製した。すなわち、TiCの粉体を材料とするのではなく、表8のNo.7〜13に示す割合のNi,Al,V,Tiの地金(それぞれ純度99.9重量%)及びC,Bの粉体を材料とした。そして、これらの材料をアーク溶解炉内の鋳型中で溶解、凝固することによって鋳造材を作製した。アーク溶解炉の雰囲気は、No.1〜No.6の試料の作製と同様にし、電極及び鋳型もNo.1〜No.6の試料の作製と同様のものを用いた。
【0053】
ここで、表8において、Cが添加されていないNo.7の試料が比較例2であり(基本合金ともいう)、Cが添加されているNo.8〜13の試料が本発明の実施例6〜11である。
なお、表8において、B及びCの数値は、Ni,Al,V,Tiを含む合計100at.%の組成に対する原子%の値である。Cは原子%のほか、参考としてwt.ppmの値を記載している。
【0055】
次に、No.1〜No.6の試料と同様に、作製された鋳造材に対して、溶体化熱処理として1553K×3時間の真空熱処理を施して、No.7〜No.13の試料を作製した。(この溶体化熱処理が第1熱処理を兼ね、その後の炉冷が、L1
2相とD0
22相とが共存する温度への冷却に相当することも実施例1〜5と同じである。)
【0056】
(組織観察)
次に、作製されたNo.7〜No.13の試料について、SEMによる組織観察を行った。
図21〜
図24にその写真を示す。
図21〜
図24は、No.7〜No.13の試料のSEM写真であり、
図21及び
図22が低倍率写真(1000倍)であり、
図23及び
図24が同試料の母相(matrix)の高倍率写真(5000倍)である。
図21〜
図24において、(a)がNo.7、(b)がNo.8、(c)がNo.9、(d)がNo.10、(e)がNo.11、(f)がNo.12、(g)がNo.13にそれぞれ対応している。
【0057】
図21及び
図22を参照すると、Cが0.3at.%以上添加されているNo.9〜No.13の試料には、炭化物と考えられる第2相粒子が存在し、No.7及びNo.8の試料には、この第2相粒子が存在しないことがわかる。このことから、Ti添加量を一定にしてC添加量を増加させると、Cが0.3at.%以上のときに第2相粒子が形成されることがわかった。
また、
図23及び
図24を参照すると、Cの添加の有無及びその添加量によらず、2重複相組織が形成されていることがわかる。すなわち、各試料の母相に初析L1
2相と共析組織が形成されていることがわかる。この組織観察から、TiCの添加の場合(No.1〜No.6の試料の場合)と同様に、TiとCが別々に金属間化合物に導入されても(Ti添加量を一定にしたままでC添加量を増加させたとしても)、2重複相組織が維持されることがわかった。
【0058】
(組成分析)
また、No.7及びNo.13の試料について、EPMAによる母相と炭化物(第2相粒子)の組成分析を行った。表9にその結果を示す。表9は、No.7及びNo.13の試料の組成分析結果を示す表であり、No.7の試料は母相を、No.13の試料は母相及び炭化物(第2相粒子)を、それぞれ組成分析した。表8の数値はすべて原子%(at.%)である。
【0060】
表9を参照すると、No.13の試料の母相は、No.7の試料の母相よりもVの濃度が低いものの、他の組成はほぼ同じであることがわかる。また、No.13の試料の炭化物(第2相粒子)は、(V,Ti)Cの型の組成であることがわかる。No.13の試料の炭化物は、V,Ti及びCを主成分とし、VよりもTiが少ない組成であることがわかった。
【0061】
(引張試験)
次に、No.7〜No.13の試料について引張試験を行った。引張試験は、室温〜1173Kの範囲で、ゲージ部が10×2×1mm
3の試験片を用いて、真空中、ひずみ速度1.67×10
-4s
-1の条件で行った。その結果を
図25〜
図32に示す。
図25〜
図28は、No.7〜No.13の試料の降伏強度(yield strength),引張強度(UTS,ultimate tensile strength)及び伸び(elongation)とC濃度との関係を示したグラフである。試験温度は、
図25が室温(RT)、
図26が873K、
図27が1073K、
図28が1173Kである。
【0062】
図25を参照すると、室温(RT)では、Cの添加量の増加とともに引張強度,伸びの特性値が上昇していることがわかる。引張強度はCの添加量が0.1原子%でその値が上昇し、Cが添加されていない試料(No.7)よりも引張強度が向上している(特にCの添加量が0.5原子%以上で安定している)。また、伸びは、Cの添加量が0.1原子%より多いときに(例えば0.3原子%)、Cが添加されていない試料よりも優れている(特にCの添加量が2.0原子%以上で顕著である)。
【0063】
また、
図26を参照すると、873Kにおいても、Cの添加量の増加とともに伸びの特性値が上昇していることがわかる。伸びは、Cの添加量が0.1原子%より多いときに(例えば0.3原子%)で、Cが添加されていない試料(No.7)を上回り、Cの添加量が0.5原子%以上でその傾向が顕著である。
【0064】
また、
図27及び
図28を参照すると、1073K及び1173Kにおいても同様の傾向があることがわかる。1073K及び1173Kにおいては、Cの添加量の増加とともに降伏強度,引張強度,伸びのすべての値が上昇していることがわかる。
【0065】
以上のように、基本組成に対してCを添加することにより、室温から高温の広範な温度域で、試料の強度(引張強度)が強化され,かつ伸びも増大していることがわかる。