特許第5733729号(P5733729)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5733729Nb及びCを含むNi基2重複相金属間化合物合金及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733729
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】Nb及びCを含むNi基2重複相金属間化合物合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/03 20060101AFI20150521BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20150521BHJP
   B22D 21/00 20060101ALI20150521BHJP
   B22D 30/00 20060101ALI20150521BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150521BHJP
【FI】
   C22C19/03 Z
   C22F1/10 K
   B22D21/00 C
   B22D30/00
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 692Z
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 691C
【請求項の数】17
【全頁数】53
(21)【出願番号】特願2012-507107(P2012-507107)
(86)(22)【出願日】2011年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2011057418
(87)【国際公開番号】WO2011118798
(87)【国際公開日】20110929
【審査請求日】2014年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-73764(P2010-73764)
(32)【優先日】2010年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-73766(P2010-73766)
(32)【優先日】2010年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】高杉 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】金野 泰幸
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/101212(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/086185(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/041592(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
C22F 1/00 − 3/02
B22D 21/00
B22D 23/00
B22D 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al:5原子%より多く13原子%以下,
V:9.5原子%以上17.5原子%未満,
Nb:0原子%より多く12.5原子%以下,
C:0原子%より多く12.5原子%以下,
残部は、Niからなり、
Al,V,Nb,C及びNiの合計100原子%の組成の合計重量に対して0重量ppmより多く1000重量ppm以下のBを含み、
初析L12相と(L12+D022)共析組織との2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金。
【請求項2】
Nbの含有量が2.0原子%以上7.3原子%以下である請求項1に記載のNi基2重複相金属間化合物合金。
【請求項3】
Nbの含有量が3.0原子%より多く7.3原子%以下であり、Cの含有量が0原子%より多く4.6原子%以下である請求項1又は2に記載のNi基2重複相金属間化合物合金。
【請求項4】
Nbの含有量が3.1原子%以上5.3原子%以下であり、Cの含有量が0.2原子%以上2.4原子%以下である請求項1〜3のいずれか1つに記載のNi基2重複相金属間化合物合金。
【請求項5】
前記Al,V及びNiの合金材料に、NbCを添加して形成される請求項1〜4のいずれか1つに記載のNi基2重複相金属間化合物合金。
【請求項6】
前記Nb及びCがNbCとして含まれる請求項1〜5のいずれか1つに記載のNi基2重複相金属間化合物合金。
【請求項7】
前記2重複相組織と異なる組織を有し、この組織がNbCを含む組織である請求項5に記載のNi基2重複相金属間化合物合金。
【請求項8】
Bの含有量が50重量ppm以上1000重量ppm以下である請求項1〜7のいずれか1つに記載のNi基2重複相金属間化合物合金。
【請求項9】
Alの含有量が6原子%以上10原子%以下であり、
Vの含有量が12.0原子%以上16.5原子%未満,
である請求項1〜のいずれか1つに記載のNi基2重複相金属間化合物合金。
【請求項10】
Al:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%より多く12.5原子%以下,C:0原子%より多く12.5原子%以下,残部Niからなり、Al,V,Nb,C及びNiの合計100原子%の組成の合計重量に対して0重量ppmより多く1000重量ppm以下のBを含む溶湯を徐冷することにより、初析L12相とA1相とが共存する組織を形成する工程と、
初析L12相とA1相とが共存する組織を有する組織を冷却することにより、A1相をL12相とD022相とに分解させる工程と、
を備えるNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
【請求項11】
Al:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%より多く12.5原子%以下,C:0原子%より多く12.5原子%以下,残部Niからなり、Al,V,Nb,C及びNiの合計100原子%の組成の合計重量に対して0重量ppmより多く1000重量ppm以下のBを含む溶湯で鋳塊を作製する工程と、
前記鋳塊に対して、初析L12相とA1相とが共存する温度で第1熱処理を行う工程と、
第1熱処理後、冷却することによりA1相をL12相とD022相とに分解させる工程と、
を備えるNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
【請求項12】
l:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,NbC:0原子%より多く12.5原子%以下,残部がNiからなり、Al,V,NbC及びNiの合計100原子%の組成の合計重量に対して0重量ppmより多く1000重量ppm以下のBを含む合金材料からなる溶湯を徐冷することにより、初析L12相とA1相とが共存する組織を形成する工程と、
初析L12相とA1相とが共存する組織を有する組織を冷却することにより、A1相をL12相とD022相とに分解させる工程と、
を備えるNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
【請求項13】
l:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,NbC:0原子%より多く12.5原子%以下,残部がNiからなり、Al,V,NbC及びNiの合計100原子%の組成の合計重量に対して0重量ppmより多く1000重量ppm以下のBを含む合金材料からなる溶湯で鋳塊を作製する工程と、
前記鋳塊に対して、初析L12相とA1相とが共存する温度で第1熱処理を行う工程と、
第1熱処理後、冷却することによりA1相をL12相とD022相とに分解させる工程と、
を備えるNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
【請求項14】
NbCの含有量は、0原子%より多く4.6原子%以下である請求項12又は13に記載のNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
【請求項15】
さらに、均質化熱処理又は溶体化熱処理を備える請求項1014のいずれか1つに記載のNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
【請求項16】
前記均質化熱処理又は溶体化熱処理は、1503K以上1603K以下の温度の熱処理である請求項15に記載のNi基2重複相金属間化合物合金の製造方法。
【請求項17】
請求項12又は13に記載の製造方法によって得られる、2重複相組織とNbCを含む組織とで構成されるNi基2重複相金属間化合物合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、Ni基2重複相金属間化合物合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高温で優れた特性を示す合金として、Ni基2重複相金属間化合物合金が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。この合金は、初析Ni3Al(L12)の間隙に存在するAl(fcc)(上部組織)が低温で共析変態し、Ni3Al(L12)とNi3V(D022)とからなる下部組織である2重複相組織を形成する。このため、この合金は高温で優れた機械的特性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/101212号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/086185号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2008/041592号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなNi基2重複相金属間化合物合金は、既存のNi合金に匹敵するかそれを上回る特性を有しているが、室温から高温にわたる広範囲な温度領域において、より優れた引張強度及び延性特性を有するNi基金属間化合物合金が望まれている。例えば、この合金が備える2重複相組織の力学特性を十分引き出すため、より結晶粒界破壊が生じにくいNi基2重複相金属間化合物合金の開発が望まれている。
【0005】
この発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、室温から高温にわたる広範囲な温度領域において、優れた引張強度及び延性特性を有する2重複相金属間化合物合金を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によれば、Al:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%より多く12.5原子%以下,C:0原子%より多く12.5原子%以下,残部は、Niからなり、初析L12相と(L12+D022)共析組織との2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金が提供される。
【発明の効果】
【0007】
この発明の発明者らは、C原子の固溶強化による強度上昇とC原子の粒界偏析による粒界破壊抑制に着目し、C原子をNi基2重複相金属間化合物合金に導入することを発案し、鋭意研究を行った。その結果、Ni,Al,V及びNbを含むNi基2重複相金属間化合物合金においてCを含有させることによって、引張強度及び延性特性を向上させることができることを見出し、本発明の完成に到った。
この発明によれば、室温から高温にわたる広範囲な温度領域において、引張強度及び延性特性に優れたNi基2重複相金属間化合物合金が提供される。
以下、この発明の種々の実施形態を例示する。以下の記述中で示す構成は、例示であって、この発明の範囲は、以下の記述中で示すものに限定されない。なお、No.2〜No.6,No.8〜No.13及びNo.15〜No.19は、この発明の実施形態に係る試料である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】No.1(比較例)並びにNo.2,No.4及びNo.6(実施例)の試料の断面光学顕微鏡写真である。
図2】No.1(比較例)並びにNo.3,No.4及びNo.6(実施例)の試料のSEM写真(1000倍)である。
図3】No.1(比較例)並びにNo.3,No.4及びNo.6(実施例)の試料のSEM写真(5000倍)である。
図4】No.1(比較例)の試料(base)のX線測定結果を示すグラフである。
図5】No.3(実施例)の試料(0.5at.% NbC)のX線測定結果を示すグラフである。
図6】No.4(実施例)の試料(1.0at.% NbC)のX線測定結果を示すグラフである。
図7】No.6(実施例)の試料(5.0at.% NbC)のX線測定結果を示すグラフである。
図8】No.1(比較例),No.2〜No.6(実施例)の試料について、NbCの添加量と室温ビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
図9】No.1(比較例)の試料(base)の降伏強度、引張強度及び伸びの測定結果を示すグラフである。
図10】No.2(実施例)の試料(0.2at.% NbC)の降伏強度、引張強度及び伸びの測定結果を示すグラフである。
図11】No.3(実施例)の試料(0.5at.% NbC)の降伏強度、引張強度及び伸びの測定結果を示すグラフである。
図12】No.4(実施例)の試料(1.0at.% NbC)の降伏強度、引張強度及び伸びの測定結果を示すグラフである。
図13】No.5(実施例)の試料(2.5at.% NbC)の降伏強度、引張強度及び伸びの測定結果を示すグラフである。
図14】No.6(実施例)の試料(5.0at.% NbC)の降伏強度、引張強度及び伸びの測定結果を示すグラフである。
図15】No.1(比較例),No.2〜No.6(実施例)の試料について、室温(RT)における降伏強度、引張強度及び伸びとNbC濃度との関係を示すグラフである。
図16】No.1(比較例),No.2〜No.6(実施例)の試料について、873Kにおける降伏強度、引張強度及び伸びとNbC濃度との関係を示すグラフである。
図17】No.1(比較例),No.2〜No.6(実施例)の試料について、1073Kにおける降伏強度、引張強度及び伸びとNbC濃度との関係を示すグラフである。
図18】No.1(比較例),No.2〜No.6(実施例)の試料について、1173Kにおける降伏強度、引張強度及び伸びとNbC濃度との関係を示すグラフである。
図19】引張試験後のNo.1(比較例)及びNo.4(実施例)の破面のSEM写真である。
図20】引張試験後のNo.1(比較例)及びNo.4(実施例)の破面を拡大して表示したSEM写真である。
図21】引張試験後のNo.6(実施例)の試料(5.0at.% NbC)の破面のSEM写真である。
図22】No.7(比較例),No.8〜No.10(実施例)の試料のSEM写真(1000倍)である。
図23】No.11〜No.13(実施例)の試料のSEM写真(1000倍)である。
図24】No.7(比較例),No.8〜No.10(実施例)の試料のSEM写真(5000倍)である。
図25】No.11〜No.13(実施例)の試料のSEM写真(5000倍)である。
図26】No.7(比較例),No.8〜No.13(実施例)の試料について、室温(RT)における降伏強度、引張強度及び伸びとC濃度との関係を示すグラフである。
図27】No.7(比較例),No.8〜No.13(実施例)の試料について、873Kにおける降伏強度、引張強度及び伸びとC濃度との関係を示すグラフである。
図28】No.7(比較例),No.8〜No.13(実施例)の試料について、1073Kにおける降伏強度、引張強度及び伸びとC濃度との関係を示すグラフである。
図29】No.7(比較例),No.8〜No.13(実施例)の試料について、1173Kにおける降伏強度、引張強度及び伸びとC濃度との関係を示すグラフである。
図30】No.14(比較例)並びにNo.15,No.17及びNo.19(実施例)の試料の断面光学顕微鏡写真である。
図31】No.14(比較例)並びにNo.15,No.17及びNo.19(実施例)の試料のSEM写真(1000倍)である。
図32】No.14(比較例)並びにNo.15,No.17及びNo.19(実施例)の試料のSEM写真(5000倍)である。
図33】No.14(比較例)の試料(base)のX線測定結果を示すグラフである。
図34】No.16(実施例)の試料(0.5at.% TiC)のX線測定結果を示すグラフである。
図35】No.17(実施例)の試料(1.0at.% TiC)のX線測定結果を示すグラフである。
図36】No.19(実施例)の試料(5.0at.% TiC)のX線測定結果を示すグラフである。
図37】No.14(比較例),No.15〜No.19(実施例)の試料について、TiCの添加量と室温ビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
図38】No.14(比較例)の試料(base)の降伏強度、引張強度及び伸びの測定結果を示すグラフである。
図39】No.15(実施例)の試料(0.2at.% TiC)の降伏強度、引張強度及び伸びの測定結果を示すグラフである。
図40】No.16(実施例)の試料(0.5at.% TiC)の降伏強度、引張強度及び伸びの測定結果を示すグラフである。
図41】No.17(実施例)の試料(1.0at.% TiC)の降伏強度、引張強度及び伸びの測定結果を示すグラフである。
図42】No.18(実施例)の試料(2.5at.% TiC)の降伏強度、引張強度及び伸びの測定結果を示すグラフである。
図43】No.19(実施例)の試料(5.0at.% TiC)降伏強度、引張強度及び伸びの測定結果を示すグラフである。
図44】No.14(比較例),No.15〜No.19(実施例)の試料について、室温(RT)における降伏強度、引張強度及び伸びとTiC濃度との関係を示すグラフである。
図45】No.14(比較例),No.15〜No.19(実施例)の試料について、873Kにおける降伏強度、引張強度及び伸びとTiC濃度との関係を示すグラフである。
図46】No.14(比較例),No.15〜No.19(実施例)の試料について、1073Kにおける降伏強度、引張強度及び伸びとTiC濃度との関係を示すグラフである。
図47】No.14(比較例),No.15〜No.19(実施例)の試料について、1173Kにおける降伏強度、引張強度及び伸びとTiC濃度との関係を示すグラフである。
図48】引張試験後のNo.14(比較例)及びNo.17(実施例)の破面のSEM写真である。
図49】引張試験後のNo.14(比較例)及びNo.17(実施例)の破面を拡大して表示したSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明に係るNi基2重複相金属間化合物合金は、Al:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%より多く12.5原子%以下,C:0原子%より多く12.5原子%以下,残部は、Niからなり、初析L12相と(L12+D022)共析組織との2重複相組織を有する。
ここで、残部はNiからなるが、この残部には、不可避的不純物が含まれてもよい。以下、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金において,特に記載しない限り、Al,V,Nb,C及びNiの原子%を合計すると100原子%の組成となる。
また、初析L12相は、例えば、図3に示されるように、A1相の間に分散されて配置されるL12相であり、(L12+D022)共析組織は、例えば、同図に示されるように、A1相が分離して形成された、L12とD022とで構成される共析組織である。
【0010】
Nb及びCの含有量は、好ましくは、Nbの含有量が2.0原子%以上7.3原子%以下であり、Cの含有量が0原子%より多く4.6原子%以下である。(実施例1〜5で示されるように、例えば、Nbの含有量が3.0原子%より多くてもよい。)また、より好ましくは、Nbの含有量が3.1原子%以上5.3原子%以下であり、Cの含有量が0.2原子%以上2.4原子%以下である。これらの範囲であれば、引張強度及び延性特性を向上させることができる。
引張強度及び延性特性の向上は、Cによる固溶強化機構の発現とCの粒界偏析による粒界破壊抑制によるので、Nbの含有量とCの含有量は、同じ含有量であってもよいし、また、異なる含有量であってよい。例えば、Nbの含有量がCの含有量より少なくてもよい。また、Nb及びCの含有量が微量であっても引張強度及び延性特性が向上するから、Nb及びCの含有量は後述するBの含有量と同程度であってもよい。
【0011】
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、その実施形態において、前記Al,V及びNiの合金材料に、NbCを添加して形成されてもよい。つまり、Niを主成分とし、かつAl:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,の合金材料に、NbCを添加して形成される合金であってもよい(言い換えると、これらの合金材料にTiCを添加し溶解、凝固させることにより得られる合金であってもよい)。
この実施形態によれば、Ni基2重複相金属間化合物合金の材料に、Cを炭化物として導入するが、添加されたNbCが2重複相組織マトリックス中で第二相粒子として存在する場合においても、あるいは、NbCがNbとCに分解して2重複相組織マトリックスに固溶する場合のいずれにおいても、2重複相組織の形成の妨げとならない。このため、引張強度及び延性特性を向上させることができる。
また、前記NbCの添加量は、0原子%より多く12.5原子%以下であるとよい。また、NbCの添加は、例えば、前記合金材料にNbCを添加した溶湯から鋳塊を作製して形成される。NbCの添加量は、好ましくは、0原子%より多く4.6原子%以下であり、また、より好ましくは、0.2原子%以上2.4原子%以下である。これらの範囲のNbCを添加して形成される合金であれば、より引張強度及び延性特性を向上させることができる。
なお、前記NbCの添加量は、前記Ni,Al及びVの合金材料に、NbCを添加して100原子%となる数値である。
また、このNi基2重複相金属間化合物合金は、前記発明の構成において、前記Nb及びCがNbCとして含まれてもよい。つまり、添加されたNbCが分解されたNbとCとを含むNi基2重複相金属間化合物合金であってもよいが、添加されたNbCが分解されたNb及びC並びにNbCを含むNi基2重複相金属間化合物合金であってもよい。
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、その実施形態において、前記2重複相組織と異なる組織を有し、この組織が、NbCを含む組織であってもよい。前記Al,V,及びNiの合金材料にNbCが添加されて形成される場合、このNi基2重複相金属間化合物合金は、添加されたNbCが分解されてNbとCを含む2重複相組織を有してもよいが、この2重複相組織のほかNbCを含む組織を有してもよい。例えば、Nb及びCを多く含む場合、2重複相組織と異なる組織が形成され、V,Nb及びCを主成分とする第2相粒子(炭化物粒子)が形成される。
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、その実施形態において、前記NbCが添加されて形成される合金のほか、Al,V,Nb及びCの合金材料から形成される合金(すなわち、これらの材料を溶解、凝固することにより得られる合金)であってもよいし、また、TiCが添加されてTiをさらに含む合金であってもよい。
【0012】
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、その実施形態において、前記構成に加え、さらにBを含んでもよい。つまり、Bの含有量が0重量ppmであってもよいが、Bの含有量が0重量ppmより多く1000重量ppm以下であってもよい。BとCとが同時に含まれると、BとCとが粒界偏析し、これにより粒界破壊が抑制されるので、上記微量のBが含有されるとよい(例えば、0重量ppmより多い含有量であるとよい)。
また、このBの含有量は、好ましくは、50重量ppm以上で1000重量ppm以下であり、より好ましくは、100重量ppm以上で800重量ppm以下である。
なお、Bの上記含有量は、Al,V,Nb,C及びNiを含む合計100原子%の組成の合計重量に対する数値である。
【0013】
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、Al及びVの含有量が、好ましくは、Alの含有量が6原子%以上10原子%以下であり、Vの含有量が12.0原子%以上16.5原子%未満である。Al及びVの含有量がこれらの範囲であれば、2重複相組織が形成されやすい。
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、上記で説明したAl,V,Nb,C,Ni及び不可避的不純物のほか、Tiをさらに含んでもよい。例えば、Tiをさらに含み、Tiの含有量が0.0より多く4.6以下であってもよい。
【0014】
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金の第1の製造方法は、Al:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%より多く12.5原子%以下,C:0原子%より多く12.5原子%以下,残部は、Niからなる溶湯を徐冷することにより、初析L12相とA1相とが共存する組織を形成する工程と、初析L12相とA1相とが共存する組織を有する組織を冷却することにより、A1相をL12相とD022相とに分解させる工程とを備える。
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金の第2の製造方法は、Al:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%より多く12.5原子%以下,C:0原子%より多く12.5原子%以下,残部は、Niからなる溶湯で鋳塊を作製する工程と、前記鋳塊に対して、初析L12相とA1相とが共存する温度で第1熱処理を行う工程と、第1熱処理後、冷却することによりA1相をL12相とD022相とに分解させる工程と、を備える。
ここで、第1及び第2の製造方法において、溶湯で鋳塊を作製する前記工程は、Niを主成分とし、Al:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,Nb:0原子%より多く12.5原子%以下,C:0原子%より多く12.5原子%以下,の合金材料からなる溶湯で鋳塊を作製する工程を含む。
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金の第3の製造方法は、Niを主成分とし、かつAl:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,NbC:0原子%より多く12.5原子%以下,の合金材料からなる溶湯を徐冷することにより、初析L12相とA1相とが共存する組織を形成する工程と、初析L12相とA1相とが共存する組織を有する組織を冷却することにより、A1相をL12相とD022相とに分解させる工程とを備える。
また、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金の第4の製造方法は、Niを主成分とし、かつAl:5原子%より多く13原子%以下,V:9.5原子%以上17.5原子%未満,NbC:0原子%より多く12.5原子%以下,の合金材料からなる溶湯で鋳塊を作製する工程と、前記鋳塊に対して、初析L12相とA1相とが共存する温度で第1熱処理を行う工程と、第1熱処理後、冷却することによりA1相をL12相とD022相とに分解させる工程とを備える。
ここで、溶湯を徐冷して鋳造するとは、例えば、セラミックス製の鋳型を用いて鋳造を行うほか、金型に鋳造する場合に、金型を断熱材等で包む等によって実施できる。
また、上記NbCを含有する溶湯から鋳塊を作製する工程において、Ni,Al及びVの合金材料にNbCが添加されて溶湯が作製される。NbCの含有量(添加量)、好ましくは0原子%より多く4.6原子%以下であり、より好ましくは、0.2原子%以上2.4原子%以下である。
また、これらの製造方法は、その実施形態において、前記工程に加え、さらに、均質化熱処理又は溶体化熱処理を備えてもよい。均質化熱処理又は溶体化熱処理は、例えば、1503K以上1603K以下の温度で行ってもよい。
また、第1熱処理は、均質化熱処理又は溶体化熱処理を兼ねてもよい。
なお、この発明の第1及び第2の製造方法において、Al,V,Nb,C及びNiから合計100原子%の組成となる。一方、この発明の第3及び第4の製造方法において、上記NbCの含有量(添加量)は、前記Ni,Al及びVの合金材料に、NbCを添加して100原子%となる数値である。上記溶湯から鋳塊を作製する工程における溶湯とは、上記含有量(添加量)のNbCを添加して100原子%とした合金材料の溶湯を意味する。
【0015】
ここで示した実施形態は、互いに組み合わせることができる。本明細書において、「〜」は、両端の点を含む。(なお、原子%は、at.%で表記される。)
以下、これらの実施形態の各元素について詳述する。
【0016】
Alの具体的な含有量は,5at.%より多く13at.%以下であり、例えば5.5,6,6.5,7,7.5,8,8.5,9,9.5,10,10.5,11,11.5,12,12.5又は13at.%である。Alの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0017】
Vの具体的な含有量は,9.5at.%以上で17.5at.%未満であり、例えば9.5,10,10.5,11,11.5,12,12.5,13,13.5,14,14.5,15,15.5,16,16.5又は17at.%である。Vの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0018】
Nbの具体的な含有量は,0.0at.%より多く12.5at.%以下であり、好ましくは、2.0原子%以上7.3原子%以下である。例えば、0.1,0.5,1,1.5,2.0,2.5,2.7,2.8,2.9,3.0,3.1,3.2,3.3,3.4,3.5,3.9,4,4.5,5,5.2,5.3,5.5,6,6.5,7,7.2,7.3,7.5,8,8.5,9,9.5,10,10.5,11,11.5,12,12.5at.%である。Nbの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0019】
Cの具体的な含有量は、0at.%より多く12.5at.%以下であり、例えば,0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.9,1,1.5,2,2.3,2.4,2.5,3,3.5,4,4.5,4.6,5,5.5,6,6.5,7,7.5,8,8.5,9,9.5,10,10.5,11,11.5,12,12.5at.%である。
【0020】
また、Nb及びCの含有量は、NbCを上記各元素からなる材料に添加して溶解させてなる含有量であってもよいが、その場合のNbCの具体的な含有量は、0at.%より多く12.5at.%以下であり、例えば、1,2,3,4,5,10,12,12.5at.%である。また、好ましくは、0at.%より多く4.6at.%以下である。例えば0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.9,1,1.5,2,2.3,2.4,2.5,3,3.5,4,4.5,4.6at.%である。Nb,C及びNbCの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
なお、これらNbCの添加量は、前記Ni,Al及びVの合金材料に、NbCを添加して100原子%となる数値である。
【0021】
Niの具体的な含有量(含有率)は,好ましくは73〜77at.%であり,さらに好ましくは74〜76at.%である。このような範囲であれば,Niの含有量と,(Al,V,Nb)の含有量の合計が3:1に近くなり,2重複相組織を構成の相であるL12相及びD022相以外の相が出現しにくくなるからである。Niの具体的な含有量は,例えば73,73.5,74,74.5,75,75.5,76,76.5又は77at.%である。Niの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0022】
Bの具体的な含有量は、50重量ppm以上1000重量ppm以下であり、例えば50,100,150,200,250,300,350,400,450,500,550,600,650,700,750,800,850,900,950又は1000重量ppmである。Bの含有量の範囲は,上記具体的な含有量として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。なお、Bの上記含有量は、Al,V,Nb,C及びNiを含む合計100原子%の組成の合計重量に対する数値である。
【0023】
この発明の実施形態に係るNi基2重複相金属間化合物合金の具体的な組成は、例えば、表1〜3に示す組成に上記含有量のBを添加したものである。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
なお、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金は、後述するように、初析L12相と(L12+D022)共析組織との2重複相組織が形成される。L12相は、Ni3Al金属間化合物相であり、D022相は、Ni3V金属間化合物相である。また、L12相、D022相のほか、その組成により、Ni3Nb金属間化合物相であるD0a相を含む。
次に、Ni基2重複相金属間化合物合金の製造方法について、説明する。
【0028】
まず、各元素が上記で説明した割合となるように地金を秤量し、これを加熱することにより溶解させて、この溶湯を冷却することにより凝固させる。
ここで、Nb及びCは、炭化物であるNbCを用いることにより、上記割合となるようにしてもよい。NbCであれば、2重複相組織が形成されやすく、引張強度及び延性特性が向上したNi基2重複相金属間化合物合金を容易に製造できるからである。
【0029】
次いで、凝固した合金材に対して、初析L12相とA1相とが共存する温度で第1熱処理を行い、第1熱処理後、冷却することによりA1相をL12相とD022相とに分解させる。
これにより、初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金が形成される。
なお、L12相は、Ni3Al金属間化合物相であり、A1相は、fcc固溶体相であり、D022相は、Ni3V金属間化合物相である。
【0030】
2重複相組織を有する金属間化合物合金は、特許文献1〜3に記載された方法によって作製することができる。例えば、特許文献3に示すように、溶解・凝固により得られた合金材(鋳塊など)に対して,初析L12相とA1相とが共存する温度,又は初析L12相とA1相とD0a相が共存する温度で第1熱処理を行い,その後,L12相とD022相及び又はD0a相とが共存する温度に冷却するか,その温度で第2熱処理を行うことによってA1相を(L12+D022)共析組織に変化させて2重複相組織を形成する工程によって製造することができる。
但し、これらの特許文献では、独立したプロセスとして初析L12相とA1相とが共存する温度での熱処理を行うことによって上部複相組織を形成しているが、この熱処理を行う代わりに金属間化合物合金の鋳塊を作製する際に溶湯を徐冷することによっても上部複相組織を形成することができる。溶湯を徐冷した場合、溶湯が凝固した後に初析L12相とA1相とが共存する温度に比較的長い時間滞在することになるので、上記熱処理を行った場合と同様に初析L12相とA1相とからなる上部複相組織が形成されるからである。
【0031】
第1熱処理及び第2熱処理は、特許文献1〜3の方法によってもよいが、この発明のNi基2重複相金属間化合物合金の場合、例えば、第1熱処理は、1503〜1603Kで行い、溶体化熱処理(均質化熱処理)を兼ねる。
【0032】
次に、実施例を挙げてこの発明を具体的に説明する。以下の実施例では、鋳造材を作製し外観観察をした後、鋳造材に対して熱処理を施すことによって2重複相組織を有する金属間化合物を作製して,その機械的特性を調べた。
【0033】
〔実施例1〜5〕
比較例1及び実施例1〜5の鋳造材は、表4のNo.1〜6に示す割合のNi,Al,V,Nbの地金(それぞれ純度99.9重量%)及びB,NbCの粉体(粒径約1〜3μm)をアーク溶解炉内の鋳型中で溶解、凝固することによって作製した。アーク溶解炉の雰囲気は,まず,溶解室内を真空排気し,その後不活性ガス(アルゴンガス)に置換した。電極は,非消耗タングステン電極を用い,鋳型には水冷式銅ハースを使用した。以下の説明では,上記鋳造材を「試料」と呼ぶ。
なお、表4において、NbCとBの数値は、Ni,Al,V,Nbを含む合計100at.%の組成に対する原子%である。
【0034】
【表4】
【0035】
また、表4において、NbCが添加されていない、No.1の試料が比較例1であり(以下、基本合金ともいう)、NbCが添加されている、No.2〜6の試料が本発明の実施例1〜5である。なお、参考として、表5に、表4の試料における各元素の含有量を示す(表5は、Ni,Al,V,Nb及びCの合計(Bを除く)を100%としたときの各元素の原子%である。添加されたNbCは、1個のNbC化合物がNb原子1個とC原子1個に完全に分解するものとして換算した。)
【0036】
【表5】
【0037】
(鋳造材の外観観察)
作製された試料について、その断面の観察を行った。図1にNo.1,No.2,No.4及びNo.6の断面光学顕微鏡写真を示す。図1において(a),(b),(c),(d)の各写真は、No.1,No.2,No.4,No.6の試料の各写真にそれぞれ対応している。
図1を参照すると、No.2から結晶粒が微細化していることがわかる。
また、No.1〜No.6の断面観察から、NbCの添加量が0.2at.%から0.5at.%の間で、結晶粒の微細化が進むことが判明した。
【0038】
次に、作製された試料に対して、溶体化熱処理として1553K×5時間の真空熱処理を施した。
なお、この実験において、上記溶体化熱処理が第1熱処理を兼ねており、その後の炉冷が、L12相とD022相とが共存する温度への冷却に相当する。
【0039】
(組織観察)
次に、熱処理された試料について、SEMによる組織観察を行った。図2及び図3にその写真を示す。図2は、No.1,No.2,No.4及びNo.6の試料の金属組織写真(1000倍)であり、図3は同試料の母相(matrix)を高倍率で観察したときの金属組織写真(5000倍)である。また、図2及び図3において、(a),(b),(c),(d)の各写真は、No.1,No.2,No.4及びNo.6の各試料にそれぞれ対応している。
図2を参照すると、NbCが添加された試料のNo.3,No.4及びNo.6には、炭化物と考えられる第2相粒子が存在し、NbCが添加されていない試料であるNo.1にはこの第2相粒子が存在しないことがわかる(図2における矢印の部分)。
図3を参照すると、NbCの添加の有無にかかわらず、各試料の母相に2重複相組織が形成されていることがわかる。また、各試料の母相に初析L12相と共析組織が形成されていることがわかる。これらのことから、NbCの添加によるCが金属間化合物に導入されても、2重複相組織が維持されることがわかった。
【0040】
(組成分析)
また、熱処理が施された試料について、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)による母相と炭化物(第2相粒子)の組成分析を行った。表6及び表7にその結果を示す。表6は、No.1の試料における母相(matrix)の組成分析結果を示す表であり、表7は、No.6の試料における母相(matrix)及び炭化物(第2相粒子:表では「Dispersion」と記載)の組成分析結果を示す表である。No.1の試料は、炭化物(第2相粒子)が観察されたNo.6の試料と組成を比較するために示す。なお,表6と表7中の数値はすべて原子%(at.%)である。
【0041】
【表6】
【0042】
【表7】
【0043】
表6及び表7を参照すると、No.6の試料の母相は、No.1の試料の母相よりもVの濃度が低く、Cの濃度が高いことがわかる。また、No.6の試料の炭化物(第2相粒子)は、Nb及びCのほか、V,の濃度が高いことがわかる。さらに、No.6の試料は、母相及び炭化物ともに、Nbの濃度とCの濃度との比が1対1ではないことがわかる。
以上から、添加されたNbCは、溶出して新たな組織を形成していることが理解できる。また、NbCを添加することにより、Cが母相に、Vが炭化物(第2相粒子)にそれぞれ分配されて固溶したことが理解できる。表6及び表7から、NbC以外に、Nb及びCを別々に試料に導入しても2重複相組織を形成できることが推察できる。
【0044】
(相同定)
次に、熱処理された試料について、金属組織の相を同定するためX線測定(XRD,Xray diffraction)を行った。図4図7にその結果を示す。図4図7は、No.1の試料及びNo.3の試料,No.4の試料,No.6の試料のX線回折プロファイルである。図の中の印は、2重複相組織を構成する材料であるNi3Al(L12相),Ni3V(D022相)及びNbCのピーク位置を示している。これらのピーク位置は、おのおの、丸印、三角印、四角印で示している。
図4図7に示されるように、No.3,No.4,No.6において、NbCによるピークが観察された。No.1及びNo.3,No.4,No.6のいずれの試料においても、Ni3Al(L12相)及びNi3V(D022相)によるピークが観察された。以上から、NbCの添加の有無によらず、すべての試料で、NbCのピークを除いて、2重複相組織の構成相であるNi3Al(L12相)及びNi3V(D022相)以外の相は形成されていないことがわかった。また、上記組織観察で観察された炭化物(第2相粒子)がNbCであることがわかった。
【0045】
(ビッカース硬さ試験)
次に、No.1〜No.6の試料について、ビッカース硬さ試験を行った。ビッカース硬さ試験は、室温において各試料に正4角錐のダイヤモンド製圧子を押し込むことによって行った。その際の荷重は300gを主として用い、保持時間は20秒とした。
図8にその結果を示す。図8は、NbCの添加量と室温ビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
図8を参照すると、NbCの添加量が増加するに従いその硬さも増加していることがわかる。NbCの添加量が2.5at.%以上でほぼ一定の値となっていることがわかる。
一般に金属は不純物が含まれるとその硬さを増すが、この実験でもNbCを添加することにより、ビッカース硬さの値が増すことがわかった。
【0046】
(引張試験)
次に、No.1〜No.6の試料について、引張試験を行った。引張試験は、室温〜1173Kの範囲で、ゲージ部が10×2×1mm3の試験片を用いて、真空中、ひずみ速度1.67×10-4-1の条件で行った。その結果を図9図14に示す。図9図14は、No.1〜No.6の試料の降伏強度(yield strength),引張強度(UTS,ultimate tensile strength)及び伸び(elongation)と温度との関係を示したグラフである。
図9図14を参照すると、NbCが添加されていない試料(No.1)が、約1073Kまで強度の逆温度依存性を示すことがわかる(図9)。つまり、温度の上昇とともに引張強度の値が上昇していることがわかる。また、これと同様にNbCが添加されている試料(No.2〜No.6)も873Kまで強度の逆温度依存性を示すことがわかる(図10図14)。さらに、NbCの添加の有無にかかわらず、室温から高温において測定したすべての温度領域で0.3%〜4.7%の伸びを示すことがわかる。
【0047】
次に、図15図18に、降伏強度,引張強度及び伸びとNbCの添加量との関係を示す。図15図18は、No.1〜No.6の試料の上記引張試験の結果を解析したグラフである。
図15を参照すると、室温(RT)では、NbCの添加量の増加とともに降伏強度,引張強度,伸びのすべての特性値が上昇しNbCの添加量が1原子%付近で最大となることがわかる。特に、引張強度は1原子%付近で1.3GPaを超えており、NbCの添加量が0.2原子%以上2.5原子%未満で優れた強度特性を示している。また、NbCの添加量が1原子%を超えると、NbCの添加量とともに降伏強度,引張強度及び伸びの値が減少していく傾向があるものの、降伏強度及び引張強度の値は、NbCが添加されていない試料(No.1)と同程度かそれ以上の特性を示すことがわかる。
また、図16を参照すると、室温と同様に873KにおいてもNbCの添加量の増加とともに降伏強度,引張強度,伸びのすべての値が上昇しNbCの添加量が1原子%付近で最大となることがわかる。NbCの添加量が1原子%を超えると、各特性の値はやや減少するか、又はほとんど一定の値を示すことがわかる。特に、NbCの添加量が0.2原子%以上2.5原子%未満で優れた強度特性を示している。降伏強度及び引張強度は、NbCの添加量が1原子%を超えてもNbCが添加されていない試料と比較して優れた特性を示している。
さらに、図17を参照すると、NbCの添加量の増加とともに伸びの値が上昇している。また、図17及び図18を参照すると、降伏強度,引張強度はほとんど一定の値を示している。
以上のように、NbCを添加することにより、室温で、試料の強度(降伏強度,引張強度)が強化されていることがわかる。特に、NbCの添加量が2.5原子%未満のときに顕著であることがわかる。また、NbCの添加量が1.0原子%のときに、延性(伸び)が最も向上していることがわかる(室温〜1073K)。
【0048】
これは、NbCから分解したCが母相に固溶し、このため、固溶強化が生じたものと考えられる。また、この固溶強化は、低温領域で効果的に発現したものと考えられる。従って、NbCの添加による強度の向上は室温〜873Kで著しい。
さらに、Cが固溶する量には限度(固溶限)があるため、その限度まではNbCの添加とともに強度が向上し、その限度を超えると強度の向上が止まるものと考えられる。このため、NbCの添加量が1%付近で強度は最大となると考えられる。
【0049】
次に、引張試験後の各試料について破面観察を行った。図19図20及び図21に各試料の破面を示す。図19は、室温(RT)、1073K,1173Kの各温度における引張試験後のNo.1及びNo.4試料の破面のSEM写真(低倍率写真)である。また、図20は、図19における各試料の破面を拡大して表示したSEM写真(高倍率写真)である。これらの図面において、(a),(b),(c)がNo.1の試料、(d),(e),(f)がNo.4の試料、の破面を示している。図21は、No.6の破面を拡大したSEM写真である。(a)は、室温、(b)は、1073K、の引張試験後の破面である。
図19及び図20に示されるように、No.1の試料では、室温で擬へき開状破壊の様相を呈し、温度上昇とともに粒界破壊の傾向が大きくなっている。1173Kでは完全に粒界破壊をしていた(図19及び図20の(a),(b),(c))。
一方、No.4の試料では、室温から高温(1173K)において延性的な粒内破壊が見られた。また炭化物(第2相粒子)周辺では、ディンプル破壊の様式が見られた(図19及び図20の(d),(e),(f))。
図21に示されるように、炭化物の添加量が多い試料では、炭化物が粗大化しているため、炭化物が亀裂の発生原因になっていた(図21の丸で囲まれた範囲)。
【0050】
以上から、NbCを添加することにより、粒界破壊が抑制されて粒内破壊が起こるようになると考えられる。このため、延性が向上すると考えられる。また、炭化物の観察から、炭素の添加量が適切であれば、炭素が延性に寄与することが理解できる。
【0051】
〔実施例6〜11〕
次に、別の試料である比較例2及び実施例6〜11を作製して、その機械的特性を調べた。
【0052】
比較例2及び実施例6〜11の鋳造材は、材料の地金の構成を除いてNo.1〜No.6の試料と同様にして作製した。すなわち、NbCの粉体を材料とするのではなく、表8のNo.7〜13に示す割合のNi,Al,V,Nbの地金(それぞれ純度99.9重量%)及びC,Bの粉体を材料とした。そして、これらの材料をアーク溶解炉内の鋳型中で溶解、凝固することによって鋳造材を作製した。アーク溶解炉の雰囲気は、No.1〜No.6の試料の作製と同様にし、電極及び鋳型もNo.1〜No.6の試料の作製と同様のものを用いた。
【0053】
ここで、表8において、Cが添加されていないNo.7の試料が比較例2であり(基本合金ともいう)、Cが添加されているNo.8〜13の試料が本発明の実施例6〜11である。
なお、表8において、B及びCの数値は、Ni,Al,V,Nbを含む合計100at.%の組成に対する原子%の値である。Cは原子%のほか、参考としてwt.ppmの値を記載している。
【0054】
【表8】
【0055】
次に、No.1〜No.6の試料と同様に、作製された鋳造材に対して、溶体化熱処理として1553K×3時間の真空熱処理を施して、No.7〜No.13の試料を作製した。(この溶体化熱処理が第1熱処理を兼ね、その後の炉冷が、L12相とD022相とが共存する温度への冷却に相当することも実施例1〜5と同じである。)
【0056】
(組織観察)
次に、作製されたNo.7〜No.13の試料について、SEMによる組織観察を行った。図22図25にその写真を示す。図22図25は、No.7〜No.13の試料のSEM写真であり、図22及び図23が低倍率写真(1000倍)であり、図24及び図25が同試料の母相(matrix)の高倍率写真(5000倍)である。図22図25において、(a)がNo.7、(b)がNo.8、(c)がNo.9、(d)がNo.10、(e)がNo.11、(f)がNo.12、(g)がNo.13にそれぞれ対応している。
【0057】
図22及び図23を参照すると、Cが0.1at.%以上添加されているNo.8〜No.13の試料には、炭化物と考えられる第2相粒子が存在し、No.7の試料には、この第2相粒子が存在しないことがわかる。このことから、Nb添加量を一定にしてC添加量を増加させると、Cが0.1at.%以上のときに第2相粒子が形成されることがわかった。
また、図24及び図25を参照すると、Cの添加の有無及びその添加量によらず、2重複相組織が形成されていることがわかる。すなわち、各試料の母相に初析L12相と共析組織が形成されていることがわかる。この組織観察から、NbCの添加の場合(No.1〜No.6の試料の場合)と同様に、NbとCが別々に金属間化合物に導入されても(Nb添加量を一定にしたままでC添加量を増加させたとしても)、2重複相組織が維持されることがわかった。
【0058】
(組成分析)
また、No.7及びNo.13の試料について、EPMAによる母相の組成分析を行った。表9にその結果を示す。表9は、No.7及びNo.13の試料の組成分析結果を示す表である。表8の数値はすべて原子%(at.%)である。
【0059】
【表9】
【0060】
表9を参照すると、No.13の試料の母相は、No.7の試料の母相よりもVの濃度が低いものの、他の組成はほぼ同じであることがわかる。この結果から、ほぼ同じ濃度からなる母相が形成されていることはわかる。
なお、No.13の炭化物(第2相粒子)について、EPMAによる分析を行った結果、V及びNbが炭化物を形成している(V,Nb及びCが主成分の組織)ことがわかった(炭化物が細かく正確な分析ができなかったため、表に掲載せず)。
【0061】
(引張試験)
次に、No.7〜No.13の試料について引張試験を行った。引張試験は、室温〜1173Kの範囲で、ゲージ部が10×2×1mm3の試験片を用いて、真空中、ひずみ速度1.67×10-4-1の条件で行った。その結果を図26図29に示す。図26図29は、No.7〜No.13の試料の降伏強度(yield strength),引張強度(UTS,ultimate tensile strength)及び伸び(elongation)とC濃度との関係を示したグラフである。試験温度は、図26が室温(RT)、図27が873K、図28が1073K、図29が1173Kである。
【0062】
図26を参照すると、室温(RT)では、Cの添加量の増加とともに引張強度,伸びの特性値が上昇する傾向にあることがわかる。また、引張強度、降伏強度、伸びのいずれもCの添加量が0.1原子%でその値が上昇していることがわかる。特にCの添加による伸び特性の改善が顕著である。
【0063】
また、図27を参照すると、873Kにおいても、Cの添加量の増加とともに伸びの特性値が上昇する傾向にあることがわかる。Cの添加量が0.1原子%でも効果があり、特に、Cの添加量が2.0原子%より多いときに、Cが添加されていない試料よりも顕著に特性が改善していることがわかる。
【0064】
また、図28及び図29を参照すると、1073K及び1173Kにおいても同様の傾向があることがわかる。すなわち、1073K及び1173KにおいてもCの添加量の増加とともに伸びの特性値が上昇する傾向にあることがわかる。
【0065】
以上のように、基本組成に対してCを添加することにより、室温から高温の広範な温度域で、試料の強度(引張強度)が強化され,かつ伸びも増大していることがわかる。
【0066】
〔実施例12〜16〕
さらに、実施例1〜5の実験と同様の実験を、Ni:75at.%,Al:9at.%,V:13at.%,Nb:3at.%,TiC:0〜5.0at.%,B:100wt.ppm(TiCの含有量は、Ni,Al,V,Nbの合計100原子%に対する量)で実施した。この実験はNbCではなく、TiCによりCを添加し、Nbは別々に添加した。その結果を以下に実施例12〜16として説明する。
【0067】
比較例3及び実施例12〜16の鋳造材は、表10のNo.14〜19に示す割合のNi,Al,V,Nbの地金(それぞれ純度99.9重量%)及びB,TiCの粉体(粒径約1〜3μm)をアーク溶解炉内の鋳型中で溶解、凝固することによって作製した。アーク溶解炉の雰囲気、電極及び鋳型は、実施例1〜5と同様にした。なお、表10の数値の記載方法は表4と同じである。表4に対する表5の場合と同様に、Ni,Al,V,Nb,Ti及びCの合計(Bを除く)を100原子%としたときの各元素の原子%を表11に示す。
【0068】
【表10】
【0069】
【表11】
【0070】
ここで、表10及び表11において、TiCが添加されていない、No.14の試料が比較例3であり(基本合金ともいう)、TiCが添加されている、No.15〜19の試料が本発明の実施例12〜16である。
【0071】
(鋳造材の外観観察)
作製された試料について、その断面の光学顕微鏡観察を行った。図30にNo.14,No.15,No.17及びNo.19の断面写真を示す。図30において(a),(b),(c),(d)の各写真は、No.14,No.15,No.17,No.19の試料の各写真にそれぞれ対応している。
図30を参照すると、No.15から結晶粒が微細化していることがわかる。
また、No.14〜No.19の外観観察から、TiCの添加量が0.2at.%から0.5at.%の間で、結晶粒の微細化が進むことが判明した。これは、NbCの添加の実験(No.1〜No.6)と同様の結果であった。
【0072】
次に、作製された試料に対して、溶体化熱処理として1553K×3時間の真空熱処理を施した。
なお、この実験において、上記溶体化熱処理が第1熱処理を兼ねており、その後の炉冷が、L12相とD022相とが共存する温度への冷却に相当する。
【0073】
(組織観察)
次に、熱処理された試料について、SEMによる組織観察を行った。図31及び図32にその写真を示す。図31は、No.14,No.15,No.17及びNo.19の試料のSEM写真(1000倍)であり、図32は同試料の母相(matrix)を高倍率で観察したときのSEM写真(5000倍)である。また、図31及び図32において、(a),(b),(c),(d)の各写真は、No.14,No.15,No.17及びNo.19の各試料にそれぞれ対応している。
図31を参照すると、TiCが添加された試料のうちNo.17及びNo.19には、炭化物と考えられる第2相粒子が存在し(図31における矢印の部分)、No.14及びNo.15にはこの第2相粒子が存在しないことがわかる。
図32を参照すると、TiCの添加の有無にかかわらず、各試料の母相に2重複相組織が形成されていることがわかる。また、各試料の母相に初析L12相と共析組織が形成されていることがわかる。これらのことから、TiCの添加によるCが金属間化合物に導入されても、2重複相組織が維持されることがわかった。これはNbCの添加におけるCの場合と同様であった。
【0074】
(組成分析)
また、熱処理が施された試料について、EPMAによる母相と炭化物(第2相粒子)の組成分析を行った。表12及び表13にその結果を示す。表12は、No.14の試料における母相(matrix)の組成分析結果を示す表であり、表13は、No.19の試料における母相(matrix)及び炭化物(第2相粒子:表では「Dispersion」と記載)の組成分析結果を示す表である。No.14の試料は、炭化物(第2相粒子)が観察されたNo.19の試料と組成を比較するために示す。なお,表12と表13中の数値はすべて原子%(at.%)である。
【0075】
【表12】
【0076】
【表13】
【0077】
表12及び表13を参照すると、No.19の試料の母相は、No.14の試料の母相よりもV,Nbの濃度が低く、Ti及びCの濃度が高いことがわかる。また、No.19の試料の炭化物(第2相粒子)は、Ti及びCのほか、V,Nbの濃度が高いことがわかる。さらに、No.19の試料は、母相及び炭化物ともに、Tiの濃度とCの濃度との比が1対1ではないことがわかる。以上から、添加されたTiCは、溶出して新たな組織を形成していることが理解できる。また、TiCを添加することにより、Ti及びCが母相に、V及びNbが炭化物(第2相粒子)にそれぞれ分配され、固溶したことが理解できる。Ti及びCの母相への固溶は、その量が異なるので、TiC以外に、Ti及びCを別々に試料に導入しても2重複相組織を形成できることが推察できる。これはNbとCを別々に試料に導入しても2重複相組織を形成できることを示すものであり、NbCの添加の実験(No.1〜No.6)と同様の結果であった。
【0078】
(相同定)
次に、熱処理された試料について、金属組織の相を同定するためX線測定を行った。図33図36にその結果を示す。図33図36は、No.14の試料及びNo.16の試料,No.17の試料,No.19の試料のX線回折プロファイルである。図の中の印は、2重複相組織を構成する材料であるNi3Al(L12相),Ni3V(D022相)及びTiCのピーク位置を示している。これらのピーク位置は、おのおの、丸印、三角印、四角印で示している。
図33図36に示されるように、No.16,No.17,No.19において、TiCによるピークが観察された。No.14及びNo.16,No.17,No.19のいずれの試料においても、Ni3Al(L12相)及びNi3V(D022相)によるピークが観察された。以上から、TiCの添加の有無によらず、すべての試料で、TiCのピークを除いて2重複相組織の構成相であるNi3Al(L12相)及びNi3V(D022相)以外の相は形成されていないことがわかった。また、上記組織で観察された炭化物(第2相粒子)がTiCであることがわかった。
【0079】
(ビッカース硬さ試験)
次に、No.14〜No.19の試料について、ビッカース硬さ試験を行った。ビッカース硬さ試験は、室温において各試料に正4角錐のダイヤモンド製圧子を押し込むことによって行った。その際の荷重は300gを主として用い、保持時間は20秒とした。
図37にその結果を示す。図37は、TiCの添加量と室温ビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
図37を参照すると、TiCが添加されていないときが最も硬く(約550Hv)、TiCの添加量が増加するに従いその硬さも減少することがわかる。一般に金属は不純物が含まれるとその硬さを増すが、No.15〜No.19の試料では、TiCが添加されているにもかかわらず、ビッカース硬さの値が減少していることがわかる。
【0080】
(引張試験)
次に、No.14〜No.19の試料について、引張試験を行った。引張試験は、室温〜1173Kの範囲で、ゲージ部が10×2×1mm3の試験片を用いて、真空中、ひずみ速度1.67×10-4-1の条件で行った。その結果を図38図43に示す。図38図43は、No.14〜No.19の試料の降伏強度,引張強度及び伸びと温度との関係を示したグラフである。
図38図43を参照すると、TiCが添加されていない試料(No.14)が、約1073Kまで強度の逆温度依存性を示すことがわかる(図38)。つまり、温度の上昇とともに引張強度の値が上昇していることがわかる。また、これと同様にTiCが添加されている試料(No.15〜No.19)も873K又は1173Kまで強度の逆温度依存性を示すことがわかる(図39図43)。さらに、TiCの添加の有無にかかわらず、室温から高温において測定したすべての温度領域で0.65%〜5.3%の伸びを示すことがわかる。NbCの添加の実験(No.1〜No.6)では、0.3〜4.7%の伸びであったので、同様の傾向を示すことがわかる。
【0081】
次に、図44図47に、降伏強度,引張強度及び伸びとTiCの添加量との関係を示す。図44図47は、No.14〜No.19の試料の上記引張試験の結果を解析したグラフである。
図44を参照すると、室温(RT)では、TiCの添加量の増加とともに降伏強度,引張強度,伸びのすべての特性値が上昇しTiCの添加量が1原子%付近で最大となることがわかる。特に、引張強度は1原子%付近で1.3GPaを超えており、TiCの添加量が0.2原子%以上2.5原子%未満で優れた強度特性を示している。また、TiCの添加量が1原子%を超えると、TiCの添加量とともに降伏強度,引張強度及び伸びの値が減少していく傾向があるものの、TiCが添加されていない試料(No.14)と同程度かそれ以上の特性を示すことがわかる。
また、図45を参照すると、室温と同様に873KにおいてもTiCの添加量の増加とともに降伏強度,引張強度,伸びのすべての値が上昇しTiCの添加量が1原子%付近で最大となることがわかる。TiCの添加量が1原子%を超えると、各特性の値はやや減少するか、又はほとんど一定の値を示すことがわかる。特に、TiCの添加量が0.2%原子以上2.5原子%未満で優れた強度特性を示している。
さらに、図46及び図47を参照すると、TiCの添加量の増加とともに伸びの値が上昇しTiCの添加量が1原子%付近で最大となるか又はほとんど一定の値をとることがわかる。
以上のように、TiCを添加することにより、室温で、試料の強度(降伏強度,引張強度)が強化されていることがわかる。特に、TiCの添加量が2.5原子%未満のときに顕著であることがわかる。また、TiCを添加することにより、室温のみならず高温においても延性(伸び)が向上していることがわかる。特に、TiCの添加量が1原子%となるまで、その添加に応じて延性が向上している。
【0082】
これは、TiCから分解したCが母相に固溶し、このため、固溶強化が生じたものと考えられる。また、この固溶強化は、低温領域で効果的に発現したものと考えられる。従って、TiCの添加による強度の向上は室温〜873Kで著しい。
さらに、Cが固溶する量には限度(固溶限)があるため、その限度まではTiCの添加とともに強度が向上し、その限度を超えると強度の向上が止まるものと考えられる。このため、TiCの添加量が1%付近で強度は最大となると考えられる。
【0083】
次に、引張試験後の各試料について破面観察を行った。図48及び図49に各試料の破面を示す。図48は、室温(RT)、1073K,1173Kの各温度における引張試験後のNo.14及びNo.17試料の破面のSEM写真(低倍率写真)である。また、図49は、図48における各試料の破面を拡大して表示したSEM写真(高倍率写真)である。これらの図面において、(a),(b),(c)がNo.14の試料、(d),(e),(f)がNo.17の試料、の破面を示している。
図48及び図49に示されるように、No.14の試料では、室温で擬へき開状破壊の様相を呈し、温度上昇とともに粒界破壊の傾向が大きくなっている。1173Kでは完全に粒界破壊をしていた(図48及び図49の(a),(b),(c))。
一方、No.17の試料では、室温から高温(1173K)において延性的な粒内破壊が見られた。また炭化物(第2相粒子)周辺では、ディンプル破壊の様式が見られた(図48及び図49の(d),(e),(f))。なお、炭化物の添加量が多くなると炭化物が粗大化し、炭化物が亀裂の発生原因になっている様子も観察された。
【0084】
以上から、TiCを添加することにより、粒界破壊が抑制されて粒内破壊が起こるようになると考えられる。このため、延性が向上すると考えられる。また、炭化物の観察から、炭素の添加量が適切であれば、炭素が延性に寄与することが理解できる。
【0085】
このように、CをTiCという形で、Nbと別に添加する実験を実施したところ、No.2〜No.6(実施例1〜5)の場合と同様に、引張強度及び延性特性の向上が確認できた(NbCの添加と同様に、特にTiCの添加量が2.5原子%未満のときに顕著であった)。このことからも、引張強度及び延性特性の向上にCが寄与していることが確認できた。
図1
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