【実施例】
【0044】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
<酸化反応工程(1回目)>
セルロース(針葉樹パルプ)2g(乾燥重量)に対し水150g、臭化ナトリウム0.025g、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)0.025gを加え充分攪拌して分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウム量が5.4mmol/g−セルロースとなるように加え、pHを10〜11に保持するように0.5規定水酸化ナトリウム溶液を滴下しながらpH変化が見られなくなるまで室温で反応させた。反応時間は120分であった。
【0046】
<精製工程(1回目)>
反応終了液をろ過して固液分離し、粗酸化セルロース湿ケーキ12gおよびTEMPOを含む回収ろ液水140gを得た。さらに水170gで3回、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維の湿ケーキ12gを得た。得られたセルロース繊維のカルボキシル基量を、つぎのようにして測定した。すなわち、乾燥させたセルロース繊維0.3gを水55mlに分散させ、0.01規定の塩化ナトリウム水溶液5mlを加えて、充分に攪拌してセルロース繊維を分散させた。つぎに、0.1規定の塩酸溶液をpH2.5〜3.0になるまで加え、0.04規定の水酸化ナトリウム水溶液を毎分0.1mlの速度で滴下し、得られたpH曲線から過剰の塩酸の中和点と、セルロース繊維由来のカルボキシル基の中和点との差から、カルボキシル基量を算出した。その結果、セルロース繊維固形分あたりのカルボキシル基量は1.00mmol/gであった。
【0047】
<触媒回収工程(1回目)>
精製工程で得られたTEMPOを含む回収ろ液(重量:140g、TEMPO濃度143ppm)を蒸発缶内温度101℃、留出液温度50℃、常圧で単蒸留した。留出液重量が15gに到達した時点で蒸留を終了した。留出液として回収TEMPO水溶液15g(TEMPO濃度1320ppm)を得た。その結果、回収ろ液からのTEMPO回収率は99%であった。
【0048】
<付随工程(1回目)>
精製が終了した酸化セルロース湿ケーキに水を加え、固形分濃度0.7%とした。ホモミキサーを用い、13000rpmで20分間分散処理を行うと、透明で粘度のある酸化セルロースのナノ水分散液が得られた。これを希釈して親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、繊維幅7nmのセルロースナノファイバーが観察された。
【0049】
つぎに、上記のようにして回収された触媒を用い、1回目で用いたセルロースを対象として、同様に操作した。
【0050】
<酸化反応工程(2回目)>
触媒として、上述の触媒回収工程(1回目)で得られた回収TEMPO水溶液を用い、上述の酸化反応工程(1回目)に記載した場合の、3/4の仕込量で1回目と同様に反応させた。反応時間は1回目と同様、120分であった。その結果、蒸留回収したTEMPOの反応性は低下していないことが確認された。
【0051】
<精製工程(2回目)>
上述の精製工程(1回目)に記載した場合の、3/4の仕込量で1回目と同様に精製した。セルロース繊維固形分あたりのカルボキシル基量は1.00mmol/gで、1回目と同様であった。その結果、蒸留回収したTEMPOの反応性は低下していないことが確認された。
【0052】
<触媒回収工程(2回目)>
上述の触媒回収工程(1回目)に記載した場合の、3/4の仕込量で1回目と同様に触媒を回収し、留出液として回収TEMPO水溶液11.25g(TEMPO濃度1320ppm)を得た。回収ろ液からのTEMPO回収率は99%であった。
【0053】
<付随工程(2回目)>
上述の付随工程(1回目)に記載した場合の、3/4の仕込量で1回目と同様に操作した。その結果、セルロースナノファイバーの数平均繊維径は7nmであり、1回目と変化なかった。
【0054】
蒸留回収したTEMPOを用いて、同様の操作を行い、3回目、4回目、5回目の製造を実施したところ、反応時間、カルボキシル基量、繊維幅に変化はなく、蒸留回収したTEMPOにより、繰り返し、安定した品質の酸化セルロースを製造することができた。
【0055】
〔比較例1〕
精製工程で得られたTEMPOを含む回収ろ液(重量:140g、TEMPO濃度143ppm)をそのまま次回の反応触媒として実施例1と同じ濃度になるように用いた他は、実施例1と同様に操作した。ただし、TEMPOを含む回収ろ液には臭化ナトリウムが含まれるため、酸化反応液中での臭化ナトリウム濃度が実施例1と同じとなるように濃度調整した。その結果、2回目の製造では、反応時間が180分となり、カルボキシル基量は0.75mmol/g、繊維幅は30nmとなった。また、3回目の製造では、反応時間が250分となり、カルボキシル基量は0.50mmol/g、繊維幅は140nmとなった。さらに、4回目の製造では反応時間が400分以上となり、反応を完結させることが困難であった。すなわち、反応を繰り返す毎に、触媒の反応性が低下し、得られる酸化セルロースの品質も低下した。これは、回収したTEMPO触媒が回収ろ液そのままであるため、反応時に生成した塩化ナトリウムや、低分子化したセルロース由来物質を含み、これが反応性を低下させたためである。
【0056】
〔実施例2〕
<酸化反応工程(1回目)>
セルロース(レーヨン)4g(乾燥重量)に対し水160g、臭化ナトリウム0.5g、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)0.055gを加え充分攪拌して分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウム量が18mmol/g−セルロースとなるように加え、pHを10〜11に保持するように0.5規定水酸化ナトリウム溶液を滴下しながらpH変化が見られなくなるまで室温で反応させた。反応時間は300分であった。
【0057】
<精製工程(1回目)>
反応終了液を水500gに対して透析し、粗酸化セルロース水溶液220gおよびTEMPOを含む回収液500gを得た。さらに流水中で一夜透析して精製し、酸化セルロース水溶液210gを得た。実施例1と同様の方法でカルボキシル基量を測定した結果、酸化セルロース1gあたりのカルボキシル基量は6.2mmol/gであった。いわゆるセロウロン酸ナトリウムが得られた。
【0058】
<触媒回収工程(1回目)>
精製工程で得られたTEMPOを含む回収液(重量:500g、TEMPO濃度58ppm)を蒸発缶内温度70℃、留出液温度50℃、圧力0.03MPaで単蒸留した。留出液重量が75gに到達した時点で蒸留を終了した。留出液として回収TEMPO水溶液75g(TEMPO濃度379ppm)を得た。回収ろ液からのTEMPO回収率は98%であった。
【0059】
<付随工程(1回目)>
得られた酸化セルロースはカルボキシル基量が高く、いわゆるセロウロン酸ナトリウムであり、水溶性である。精製工程で得られたセロウロン酸ナトリウム水溶液を噴霧乾燥して、セロウロン酸ナトリウム粉末3.5gを得た。
【0060】
つぎに、上記のようにして回収された触媒を用い、1回目で用いたセルロースを対象として、同様に操作した。
【0061】
<酸化反応工程(2回目)>
触媒として、上述の触媒回収工程(1回目)で得られた回収TEMPO水溶液を用い、上述の酸化反応工程(1回目)に記載した場合の、3/4の仕込量で1回目と同様に反応させた。反応時間は1回目と同様、300分であった。その結果、蒸留回収したTEMPOの反応性は低下していないことが確認された。
【0062】
<精製工程(2回目)>
上述の精製工程(1回目)に記載した場合の、3/4の場合の仕込量で1回目と同様に精製した。セルロース繊維固形分あたりのカルボキシル基量は6.2mmol/gで1回目と同様であった。その結果、蒸留回収したTEMPOの反応性は低下していないことが確認された。
【0063】
<触媒回収工程(2回目)>
上述の触媒回収工程(1回目)に記載した場合の、3/4の仕込量で1回目と同様に触媒回収した。留出液として回収TEMPO水溶液56g(TEMPO濃度379ppm)を得た。回収ろ液からのTEMPO回収率は98%であった。
【0064】
<付随工程(2回目)>
上述の付随工程(1回目)に記載した場合の、3/4の仕込量で1回目と同様に操作し、セロウロン酸ナトリウム粉末2.6gを得た。
【0065】
蒸留回収したTEMPOを用いて、同様の操作を行い、3回目、4回目、5回目の製造を実施したところ、反応時間、カルボキシル基量、収量に変化はなく、蒸留回収したTEMPOにより、繰り返し、安定した品質の酸化セルロース(セロウロン酸ナトリウム)を製造することができた。
【0066】
〔
参考例
1〕
<酸化反応工程(1回目)>
デンプン(馬鈴薯由来)4g(乾燥重量)に対し水180g、臭化ナトリウム0.4g、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)0.05gを加え充分攪拌して分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのデンプンに対して次亜塩素酸ナトリウム量が20mmol/g−セルロースとなるように加え、pHを10〜11に保持するように0.5規定水酸化ナトリウム溶液を滴下しながらpH変化が見られなくなるまで8℃で反応させた。反応時間は240分であった。
【0067】
<触媒回収工程(1回目)>
反応終了液を5%硫酸でpH6.5とした後、蒸発缶内温度70℃、留出液温度50℃、圧力0.03MPaで単蒸留した。留出液重量が20gに到達した時点で蒸留を終了した。留出液として回収TEMPO水溶液20g(TEMPO濃度2250ppm)を得た。反応終了液からのTEMPO回収率は90%であった。
【0068】
<精製工程(1回目)>
触媒回収工程で得られた蒸留残を10倍量の冷アセトンに加え酸化デンプンを沈澱させ、ろ過して粗酸化デンプンを得た。さらに冷10%含水アセトンで洗浄とろ過を3回繰り返して精製し、酸化デンプン湿ケーキを得た。実施例1と同様の方法でカルボキシル基量を測定した結果、酸化デンプン1gあたりのカルボキシル基量は5.6mmol/gであった。いわゆるポリグルクロン酸ナトリウムが得られた。
【0069】
<付随工程(1回目)>
得られた酸化デンプンはカルボキシル基量が高く、いわゆるポリグルクロン酸ナトリウムであり、水溶性である。精製工程で得られたセロウロン酸ナトリウム水溶液を真空乾燥して、ポリグルクロン酸ナトリウム3.8gを得た。
【0070】
つぎに、上記のようにして回収された触媒を用い、1回目で用いたデンプンを対象として、同様に操作した。
【0071】
<酸化反応工程(2回目)>
触媒として、上述の触媒回収工程(1回目)で得られた回収TEMPO水溶液を用い、上述の酸化反応工程(1回目)に記載した場合の、3/4の仕込量で1回目と同様に反応させた。反応時間は1回目と同様、240分であった。その結果、蒸留回収したTEMPOの反応性は低下していないことが確認された。
【0072】
<触媒回収工程(2回目)>
上述の触媒回収工程(1回目)に記載した場合の、3/4の仕込量で1回目と同様に触媒回収した。留出液として回収TEMPO水溶液15g(TEMPO濃度2250ppm)を得た。回収ろ液からのTEMPO回収率は90%であった。
【0073】
<精製工程(2回目)>
上述の精製工程(1回目)に記載した場合の、3/4の仕込量で1回目と同様に精製した。セルロース繊維固形分あたりのカルボキシル基量は5.8mmol/gで1回目と同様であった。蒸留回収したTEMPOの反応性は低下していないことが確認された。
【0074】
<付随工程(2回目)>
上述の付随工程(1回目)に記載した場合の、3/4の仕込量で1回目と同様に操作し、ポリグルクロン酸ナトリウム粉末2.9gを得た。
【0075】
蒸留回収したTEMPOを用いて、同様の操作を行い、3回目、4回目、5回目の製造を実施したところ、反応時間、カルボキシル基量、収量に変化はなく、蒸留回収したTEMPOにより、繰り返し、安定した品質の酸化デンプン(ポリグルクロン酸ナトリウム)を製造することができた。