特許第5733778号(P5733778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5733778プライマー層用ポリイミド樹脂及びそれを用いた積層板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733778
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】プライマー層用ポリイミド樹脂及びそれを用いた積層板
(51)【国際特許分類】
   C09D 179/08 20060101AFI20150521BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20150521BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20150521BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20150521BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C09D179/08 A
   C09D5/00 D
   C08G73/10
   B32B15/088
   H05K1/03 610N
   H05K1/03 670A
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2009-140099(P2009-140099)
(22)【出願日】2009年6月11日
(65)【公開番号】特開2010-285535(P2010-285535A)
(43)【公開日】2010年12月24日
【審査請求日】2012年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 竜太朗
(72)【発明者】
【氏名】内田 誠
(72)【発明者】
【氏名】辻 誠
(72)【発明者】
【氏名】林本 成生
(72)【発明者】
【氏名】関根 健二
【審査官】 服部 芙美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/126818(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/037834(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/046405(WO,A1)
【文献】 特開2007−077308(JP,A)
【文献】 特開2003−136631(JP,A)
【文献】 特開2003−155343(JP,A)
【文献】 特開2003−118054(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/006553(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/148666(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00− 10/00
C09D101/00−201/10
B05D 1/00− 7/26
C08G 73/10
CAPlus,REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗さ(Rz)が2μm以下である金属箔(a)と該金属箔(a)上にキャスト法により形成されるポリイミド前駆体から得られるポリイミド樹脂層(b)との間の接着性を確保するためのプライマー層用ポリイミド樹脂であって、下記式(1)
(式(1)中、
1は下記式(2)
で表される4価の芳香族基からなり、
2は下記式(3)
で表される基と、
3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,3−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン及び9,9’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンからなる群から選ばれる1種以上のアミノフェノール類から誘導される2価の芳香族基、であり、nは繰り返し数を表す。)
で表されるプライマー層用ポリイミド樹脂(A)。
【請求項2】
末端官能基がアミノ基または酸無水物基である、請求項1に記載のプライマー層用ポリイミド樹脂(A)。
【請求項3】
請求項1また2に記載のプライマー層用ポリイミド樹脂(A)を有機溶剤に溶解してなるポリイミド樹脂ワニス。
【請求項4】
表面粗さ(Rz)が2μm以下である金属箔(a)、該金属箔(a)上にキャスト法により形成されるポリイミド前駆体から得られるポリイミド樹脂層(b)及び請求項1または2に記載のプライマー層用ポリイミド樹脂(A)の層を有するフレキシブルプリント配線板用積層板。
【請求項5】
表面粗さ(Rz)が2μm以下である金属箔(a)が、メッキ層を備えていても良い銅箔であることを特徴とする請求項4に記載のフレキシブルプリント配線板用積層板。
【請求項6】
キャスト法により形成されるポリイミド前駆体から得られるポリイミド樹脂層(b)が、金属箔(a)上に設けられたプライマー層上にポリアミック酸樹脂を塗布後、該ポリアミック酸樹脂を熱閉環させて得られたポリイミド樹脂層であることを特徴とする請求項4または5に記載のフレキシブルプリント配線板用積層板。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか一項に記載のフレキシブルプリント配線板用積層板を用いて作られるフレキシブルプリント配線板。
【請求項8】
表面粗さ(Rz)が2μm以下である金属箔(a)上に、請求項3記載のポリイミド樹脂ワニスを塗布した後に有機溶剤を乾燥させてプライマー層用ポリイミド樹脂(A)からなるプライマー層を設ける工程、該プライマー層上にポリアミック酸樹脂をキャスト法により塗布する工程、及び加熱によりポリアミック酸樹脂をイミド化してポリイミド樹脂層(b)を設ける工程を含むフレキシブルプリント配線板用積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗化処理の施されていない銅箔等の金属箔表面に、特定構造のポリイミド樹脂を塗布、乾燥してなるプライマー層を設けることにより、フレキシブルプリント配線板に用いられるポリイミド等の基材樹脂層と金属箔との良好な接着性を確保し、実用的なフレキシブルプリント配線板を得ることができるプライマー層用ポリイミド樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂フィルムの一般的な用途としては、銅箔に代表される金属箔を貼り合わせた片面または両面フレキシブル積層板、フレキシブルプリント配線板用カバーレイ並びに多層基板用層間絶縁フィルム等が挙げられる。なかでも、ポリイミド樹脂と金属箔とをエポキシ系あるいはアクリル系の接着剤層を介さずに直接張り合わせた2層CCLと呼ばれる積層板は、配線の微細化や基板の耐熱性といった点で非常に有用であるが、ポリイミド樹脂と金属箔との剥離強度不足がしばしば問題となっている。2層CCLの製造方法としては、金属箔上に塗布したポリイミド前駆体を加熱によりイミド化するキャスト法が現在主流となっているが、接着層としての熱可塑性ポリイミドを介してポリイミドフィルムと金属箔とを加熱圧着するラミネート法や、ポリイミドフィルムの表面に設けられたスパッタ層に金属箔をメッキするスパッタ法等も知られている。
従来これらプリント配線板の製造には、銅箔の片面に微細な銅粒子を付着させる等の粗化処理を施すことにより、表面に凹凸が形成された銅箔が用いられてきた。粗化処理銅箔を用いた場合、張り合わせの際に銅箔表面の凹凸形状がプリプレグ等の基材樹脂内に埋まり込むことによってアンカー効果が得られるため、銅箔と基材樹脂との高い密着性が得られる。
【0003】
しかしながら、粗化処理銅箔の表面には、通常、防錆剤等としてのアミン化合物、長鎖アルキル化合物またはシリコーン系化合物等が表面処理剤として塗布されているため、銅箔の表面からこれらを除去せずにキャスト法でポリイミド前駆体を塗布すると、得られる2層CCLの銅箔とポリイミド樹脂層との剥離強度が低下してしまう。これら表面処理剤は、脱脂工程やソフトエッチングといった煩雑な工程を経ることにより除去可能ではあるが、表面処理剤を除去した銅箔表面は、大気やポリイミド前駆体にさらされることにより腐食酸化され易いことが問題であった。
近年、銅箔と基材樹脂である非熱可塑性ポリイミドフィルムの密着性を向上させる目的で、熱可塑性ポリイミドをプライマー層として用いる手法が検討されている(特許文献1、2及び3)。しかしながら、これらの多くは基材樹脂である非熱可塑性のポリイミドフィルムに熱可塑性ポリイミドのワニスを塗布して銅箔と熱圧着するラミネート法を用いており、初期ピール強度、耐熱ピール強度及び耐湿熱後ピール強度の全ての接着強度を満足するものは得られていない。また、該ワニスを用いたラミネート法は、寸法安定性が低くなる傾向にあり、しかも、非熱可塑性ポリイミドフィルムのガス透過性が低い場合には、ポリイミドフィルムと該ワニスとの界面で残留溶剤や分解物に由来する発泡が起こりやすいため、ガス透過性の高いポリイミドフィルムを基材に用いる必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−315256号公報
【特許文献2】特許第4124521号公報
【特許文献3】特開2003−136631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
粗化処理を施していない銅箔をプリント配線板の製造に用いることができれば、銅箔の粗化処理工程を省略することが可能となり、生産コストの大幅な低減が可能である。また、回路エッチングにおいて粗化処理部分を溶解するためのオーバーエッチングタイムを設ける必要がなくなることで、トータルエッチングコストの削減も可能である。
【0006】
しかも、粗化部分の厚みが無くなることによりプリント配線板の薄化が可能な上、凹凸部分に食い込んだ樹脂がエッチング残渣として残らないため、より微細な配線パターンの形成が可能となる。さらに、配線表面の電気抵抗も小さくなり、特に高周波電流を用いる場合、表皮効果により銅箔表面の電流密度が高くなる等、プリント配線板の特性も向上する。
【0007】
本発明は、銅箔に代表される金属箔を粗化処理することなく、キャスト法で得られるフレキシブルプリント配線板用の樹脂基板において、金属箔と基材樹脂であるポリイミド樹脂との良好な接着性を確保すると共に、基材樹脂との界面での発泡を引き起こすことなく、しかも金属箔表面の腐食を防ぐことのできるプライマー層用ポリイミド樹脂、プライマー層用ポリイミド樹脂ワニス及びプライマー層用ポリイミド樹脂層を有する積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究の結果、特定構造のポリイミド樹脂をプライマー層として用いることにより、上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は
(1)表面粗さ(Rz)が2μm以下である金属箔(a)と該金属箔(a)上にキャスト法により形成されるポリイミド前駆体から得られるポリイミド樹脂層(b)との間の接着性を確保するためのプライマー層用ポリイミド樹脂であって、下記式(1)
【0010】
【化1】
【0011】
(式(1)中、R1は下記式(2)
【0012】
【化2】
【0013】
で表される4価の芳香族基からなり、R2は下記式(3)
【0014】
【化3】
【0015】
並びに3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,3−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン及び9,9’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンからなる群から選ばれる1種以上のアミノフェノール類から誘導される2価の芳香族基であり、nは繰り返し数を表す。)で表されるプライマー層用ポリイミド樹脂(A)、
(2)末端官能基がアミノ基または酸無水物基である、前項(1)に記載のプライマー層用ポリイミド樹脂(A)、
(3)前項(1)または(2)に記載のプライマー層用ポリイミド樹脂(A)を有機溶剤に溶解してなるポリイミド樹脂ワニス、
(4)表面粗さ(Rz)が2μm以下である金属箔(a)、該金属箔(a)上にキャスト法により形成されるポリイミド前駆体から得られるポリイミド樹脂層(b)及び前項(1)または(2)に記載のプライマー層用ポリイミド樹脂(A)の層を有するフレキシブルプリント配線板用積層板、
(5)表面粗さ(Rz)が2μm以下である金属箔(a)が、メッキ層を備えていても良い銅箔であることを特徴とする前項(4)に記載のフレキシブルプリント配線板用積層板、
(6)キャスト法により形成されるポリイミド前駆体から得られるポリイミド樹脂層(b)が、金属箔(a)上に設けられたプライマー層上にポリアミック酸樹脂を塗布後、該ポリアミック酸樹脂を熱閉環させて得られたポリイミド樹脂層であることを特徴とする前項(4)または(5)に記載のフレキシブルプリント配線板用積層板、
(7)前項(4)〜(6)のいずれか一項に記載のフレキシブルプリント配線板用積層板を用いて作られるフレキシブルプリント配線板、
(8)表面粗さ(Rz)が2μm以下である金属箔(a)上に、前項(3)記載のポリイミド樹脂ワニスを塗布した後に有機溶剤を乾燥させてプライマー層用ポリイミド樹脂(A)からなるプライマー層を設ける工程、該プライマー層上にポリアミック酸樹脂をキャスト法により塗布する工程、及び加熱によりポリアミック酸樹脂をイミド化してポリイミド樹脂層(b)を設ける工程を含むフレキシブルプリント配線板用積層板の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のプライマー層用ポリイミド樹脂(A)(以下単に「ポリイミド樹脂(A)」と記載する)は、イミド化された溶媒可溶性ポリイミド樹脂であって、ポリイミド前駆体ではないため、表面粗さ(Rz)が2μm以下である金属箔(a)(以下単に「金属箔(a)」と記載する)上に塗布した後の硬化工程を必要としない。また、柔軟なエーテル結合と適切な繰り返し長さを有するため、金属箔(a)表面とポリイミド樹脂(A)中のイミド基及び芳香環との相互作用点が多くなり、あらゆる条件において安定した接着強度が得られる。また、ポリイミド樹脂(A)の骨格中に特定構造のアミノフェノールを導入することで、ガス透過性の低い基材樹脂との界面における残溶剤及び分解反応に起因する発泡を大幅に抑制することができる。しかも、金属箔(a)の防錆処理層としての効果をも有する。さらにフレキシブルプリント配線板用積層板において、キャスト法により形成されるポリイミド前駆体溶液から得られるポリイミド樹脂層(b)(以下単に「ポリイミド樹脂層(b)」と記載する)とポリイミド樹脂(A)との間の接着強度は、ポリイミド前駆体溶液中の溶剤によるプライマー層の溶融及びポリイミド前駆体硬化時のプライマー層の溶融により高められるため、電気電子材料分野で極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のポリイミド樹脂(A)は、通常、下記式(5)
【0018】
【化4】
【0019】
で表されるテトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種以上と、下記式(6)
【0020】
【化5】
【0021】
で表されるジアミン化合物から選ばれる1種以上及び3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,3−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン及び9,9’−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンからなる群から選ばれる1種以上のアミノフェノール類との付加反応により得られたポリアミック酸を、更に脱水閉環させることにより得ることが出来る。これら一連の反応は1ポットで行うことが好ましい。
【0022】
本発明のポリイミド樹脂(A)は、溶媒に溶解したポリイミド樹脂ワニスとして金属箔(a)に塗布されるが、該樹脂ワニスの濃度は、通常溶媒中に5〜50質重量%、好ましくは10〜30質量%である。該樹脂ワニスとしては、合成終了後、合成に用いた溶媒に溶解したポリイミド樹脂(A)をそのまま用いることが出来るが、必要により該樹脂ワニスを濃縮又は更に溶媒を加えて希釈して用いても良い。従って、前記付加反応及び脱水閉環反応は、合成の中間体であるポリアミック酸および本発明のポリイミド樹脂(A)を溶解する溶媒中、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドまたはγ−ブチロラクトンより選ばれる1種以上を含有する溶媒中で行うことが好ましい。
【0023】
前記脱水閉環反応の際には、脱水剤として、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンまたはヘプタン等の比較的低沸点の無極性溶媒を少量使用し、反応時に副生する水を反応系から除去しながら実施するのが好ましい。また、触媒としてピリジンを少量添加することも好ましい。付加反応及び脱水閉環反応時の反応温度は通常150〜220℃、好ましくは180〜200℃であり、反応時間は通常2〜10時間、好ましくは5〜8時間である。脱水剤の添加量は反応液に対し通常5〜20質量%、触媒の添加量は反応液に対し通常0.1〜5質量%である。
【0024】
本発明のポリイミド樹脂(A)としては、前記式(1)で表される構造の閉環型イミドセグメントを含有していれば特に制限は無いが、式(1)におけるnの値が小さすぎる場合には、本来ポリイミドのもつ耐熱性と機械強度が発現し難くなるとともに、金属箔の表面がポリイミド樹脂(A)の有する末端アミノ基またはカルボキシル基の影響を受けやすくなる。また、nの値が大きすぎる場合には、溶媒中における粘度が高くなることでプライマー層の薄膜を形成することが困難になると共に、金属箔表面とプライマー層との接着性が低下する。これらのことから、式(1)におけるnの値は、通常10〜1000.好ましくは50〜500である。
【0025】
本発明の式(1)で表されるポリイミド樹脂(A)の繰り返し数nは、テトラカルボン酸二無水物成分(前記式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物から選ばれる1種以上)とジアミン成分(前記式(6)で表されるジアミン化合物から選ばれる1種以上及び前記群から選ばれる1種以上のアミノフェノール類)とのモル比で制御可能であり、例えばn=100のポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを1.00:1.01〜1.01:1.00の範囲で用いることにより得られる。
尚、式(1)にはポリイミド樹脂(A)の末端構造は記載されていないが、テトラカルボン酸二無水物に対してジアミン成分を過剰に用いた場合は式(1)の両末端がアミノ基となり、テトラカルボン酸二無水物を過剰に用いた場合は両末端が酸無水物基となる。
【0026】
本発明のポリイミド樹脂(A)の平均分子量は、数平均分子量で1,000〜50,000、重量平均分子量で5,000〜500,000程度が好ましい。平均分子量がこの範囲を下回る場合は、本来ポリイミド樹脂のもつ耐熱性と機械強度が発現し難くなるとともに、金属箔の表面がポリイミド樹脂(A)の有する末端アミノ基または酸無水物基の影響を受けやすくなる。また、この範囲を超える場合は、溶媒中における粘度が高くなることでプライマー層の薄膜を形成することが困難になると共に、金属箔表面とプライマー層との接着性が低下する。尚、本発明でいう平均分子量とは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーの測定結果を元に、ポリスチレン換算で算出した分子量を表す。
【0027】
本発明のポリイミド樹脂(A)は、アミノフェノール類から誘導される2価の芳香族基をその構造中に一部導入したことにより、金属箔とポリイミド樹脂(A)との界面で起こる発泡を抑制する効果を付与したものである。アミノフェノール類から誘導される2価の芳香族基は、本発明のポリイミド樹脂(A)の水酸基当量の計算値が、通常、200〜3,000g/eq.、好ましくは300〜2,000g/eq.となる量が導入されるが、基材の種類により得られる効果が異なるのでこの限りではない。
【0028】
通常、熱可塑性ポリイミド樹脂をプライマー層として用いて銅張積層板を作成する場合、その前駆体であるポリアミック酸を金属箔上に塗布、乾燥後、320〜400℃の加熱処理によって前駆体を脱水閉環させてプライマー層を形成するが、本発明のポリイミド樹脂(A)はポリアミック酸が脱水閉環したものなので、ポリイミド樹脂(A)を含有するポリイミド樹脂ワニスを金属箔上に直接塗布した後、溶媒を乾燥させるだけでプライマー層を形成することができる。
【0029】
本発明のポリイミド樹脂(A)には、金属箔(a)及びポリイミド樹脂層(b)への接着強度並びに金属箔(a)の防錆効果を損なわない範囲内であれば、種々の添加剤を加えることができる。該添加剤としては、例えば、芳香族ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂等の有機添加剤、シリカ化合物等の無機添加剤、顔料、染料、ハレーション防止剤、蛍光増白剤、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、充填剤、静電防止剤、粘度調整剤、促進剤、光安定剤、光触媒、低誘電体、導電体、磁性体並びに熱分解性化合物等が挙げられる。
【0030】
本発明のポリイミド樹脂(A)を用いたプライマー層は、粗化処理の施されていない金属箔(a)の片面に、乾燥後の厚さが1〜5μmとなるように本発明のポリイミド樹脂ワニスを塗布して乾燥することにより得られるが、例えば金属箔(a)上に、ポリイミド樹脂(A)を20質量%含有する本発明のポリイミド樹脂ワニスを15μmの厚さになるよう塗布し、通常80〜200℃で5〜60分間、好ましくは130〜150℃で10〜30分間乾燥させることにより、およそ3μmの厚さのプライマー層が得られる。
乾燥時の熱源は熱風でも遠赤外線ヒーターでもよいが、気化した溶媒の滞留防止および樹脂内部まで加熱を施せる点で、熱風と遠赤外線ヒーターとを併用することが好ましい。
【0031】
本発明のポリイミド樹脂(A)は、銅箔に代表される一般的な金属箔に用いた場合でもプライマーとしての効果を発現するが、表面粗さ(Rz)が2μm以下である金属箔(a)、特に金属箔(a)が粗化処理を施されていない場合に、従来公知のプライマーとの顕著な効果の差を発現する。金属箔(a)の金属種としては銅が好ましく、また、該銅箔の表面にはニッケル、鉄、亜鉛、金、錫又はクロム等のメッキ層が備えられていても良い。
【0032】
ポリイミド樹脂層(b)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、N−メチル−2−ピロリドンやN,N−ジメチルアセトアミド等の極性溶媒中で反応させて得られるポリアミック酸樹脂ワニスを、金属箔(a)上に設けられたポリイミド樹脂(A)のプライマー層上に塗布して乾燥した後、250〜400℃で0.5〜20時間の条件で脱水閉環させることにより得られる。この際、ポリアミック酸樹脂ワニスには、テトラカルボン酸二無水物にメタノールやエタノールを反応させたエステル塩を含有していても良い。尚、ポリイミド樹脂層(b)の原料となるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との組み合わせには何ら制限は無く、従来公知の組み合わせにより得られるポリイミド樹脂を用いることができる。ポリアミック酸樹脂ワニスの市販品としては、KAYAFLEX KPI−120(日本化薬株式会社製)等が挙げられる。
【0033】
本発明のフレキシブルプリント配線板用積層板は、金属箔(a)とポリイミド樹脂層(b)との間にポリイミド樹脂(A)からなるプライマー層が介在するフレキシブルプリント配線板用積層板である。該積層版におけるプライマー層と金属箔(a)及びポリイミド樹脂層(b)との接着強度は、実用上、0.8N/mm以上であることが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下に実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
温度計、環流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び攪拌装置のついた500mlの反応器に、ジアミン化合物としてAPB−N(1,3−ビス−(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、三井化学株式会社製、分子量292.33)19.71g(0.067モル)及びHAB(3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、日本化薬株式会社製、分子量216.24)10.22g(0.047モル)を仕込み、乾燥窒素を流しながら溶剤としてγ−ブチロラクトン55.59gを加え、70℃で30分間撹拌した。その後、テトラカルボン酸二無水物としてODPA(4,4’−オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22)33.57g(0.11モル)、溶剤としてγ−ブチロラクトン62.34g、触媒としてピリジン1.71g及び脱水剤としてトルエン26.58gを添加して反応器内を180℃まで昇温した。ディーンスターク装置を用いてイミド化反応により発生する水を除去しながら、180℃で3時間加熱閉環反応を行った後、更に2時間加熱を行いピリジン及びトルエンを除去した。反応終了後、80℃以下に冷却した反応液に孔径3μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて加圧濾過を施すことにより、ポリイミド樹脂(A)を34質量%含有する本発明のポリイミド樹脂ワニス(A−1)を175g得た。ポリイミド樹脂ワニス(A−1)中のポリイミド樹脂(A)の数平均分子量は10,800、重量平均分子量は39,900であり(いずれもゲルパーミエイションクロマトグラフィーの測定結果を元に、ポリスチレン換算で算出した、以下同じ)、原料の仕込み量から算出した理論水酸基当量は、630.27g/eq.であった。
【0036】
実施例2
温度計、環流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び攪拌装置のついた500mlの反応器に、ジアミン化合物としてAPB−N(1,3−ビス−(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、三井化学株式会社製、分子量292.33)17.96g(0.061モル)及びBAFA(1,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、日本化薬株式会社製、分子量366.26)19.51g(0.053モル)を仕込み、乾燥窒素を流しながら溶剤としてγ−ブチロラクトン69.58gを加え、70℃で30分間撹拌した。その後、テトラカルボン酸二無水物としてODPA(4,4’−オキシジフタル酸無水物 マナック株式会社製、分子量310.22)33.57g(0.11モル)、溶剤としてγ−ブチロラクトン62.34g、触媒としてピリジン1.71g及び脱水剤としてトルエン28.52gを添加して反応器内を180℃まで昇温した。ディーンスターク装置を用いてイミド化反応により発生する水を除去しながら、180℃で3時間加熱閉環反応を行った後、更に2時間加熱を行いピリジン及びトルエンを除去した。反応終了後、80℃以下に冷却した反応液に孔径3μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて加圧濾過を施すことにより、ポリイミド樹脂(A)を34質量%含有する本発明のポリイミド樹脂ワニス(A−2)を175g得た。ポリイミド樹脂ワニス(A−2)中のポリイミド樹脂(A)の数平均分子量は10,600、重量平均分子量は44,300であり、原料の仕込み量から算出した理論水酸基当量は、630.27g/eq.であった。
【0037】
実施例3
温度計、環流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び攪拌装置のついた500mlの反応器に、ジアミン化合物としてAPB−N(1,3−ビス−(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、三井化学株式会社製、分子量292.33)19.54g(0.067モル)及びADPE(3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、日本化薬株式会社製、分子量232.24)11.11g(0.048モル)を仕込み、乾燥窒素を流しながら溶剤としてγ−ブチロラクトン56.93gを加え、70℃で30分間撹拌した。その後、テトラカルボン酸二無水物としてODPA(4,4’−オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22)33.57g(0.11モル)、溶剤としてγ−ブチロラクトン62.34g、触媒としてピリジン1.71g及び脱水剤としてトルエン26.77gを添加して反応器内を180℃まで昇温した。ディーンスターク装置を用いてイミド化反応により発生する水を除去しながら、180℃で3時間加熱閉環反応を行った後、更に2時間加熱を行いピリジン及びトルエンを除去した。反応終了後、80℃以下に冷却した反応液に孔径3μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて加圧濾過を施すことにより、ポリイミド樹脂(A)を34質量%含有する本発明のポリイミド樹脂ワニス(A−3)を176g得た。ポリイミド樹脂ワニス(A−3)中のポリイミド樹脂(A)の数平均分子量は10,100、重量平均分子量は40,300であり、原料の仕込み量から算出した理論水酸基当量は、630.27g/eq.であった。
【0038】
実施例4
温度計、環流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び攪拌装置のついた500mlの反応器に、ジアミン化合物としてAPB−N(1,3−ビス−(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、三井化学株式会社製、分子量292.33)18.49g(0.063モル)及びAHPB(1,3−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、日本純良薬品株式会社製、分子量324.33)16.68g(0.051モル)を仕込み、乾燥窒素を流しながら溶剤としてγ−ブチロラクトン65.33gを加え、70℃で30分間撹拌した。その後、テトラカルボン酸二無水物としてODPA(4,4’−オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22)33.57g(0.11モル)、溶剤としてγ−ブチロラクトン62.34g、触媒としてピリジン1.71g及び脱水剤としてトルエン27.93gを添加して反応器内を180℃まで昇温した。ディーンスターク装置を用いてイミド化反応により発生する水を除去しながら、180℃で3時間加熱閉環反応を行った後、更に2時間加熱を行いピリジン及びトルエンを除去した。反応終了後、80℃以下に冷却した反応液に孔径3μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて加圧濾過を施すことにより、ポリイミド樹脂(A)を34質量%含有する本発明のポリイミド樹脂ワニス(A−4)を176g得た。ポリイミド樹脂ワニス(A−4)中のポリイミド樹脂(A)の数平均分子量は14,800、重量平均分子量は57,400であり、原料の仕込み量から算出した理論水酸基当量は、630.27g/eq.であった。
【0039】
実施例5
温度計、環流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び攪拌装置のついた500mlの反応器に、ジアミン化合物としてAPB−N(1,3−ビス−(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、三井化学株式会社製、分子量292.33)30.02g(0.103モル)及びHAB(3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、日本化薬株式会社製、分子量216.24)4.85g(0.022モル)を仕込み、乾燥窒素を流しながら溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン64.76gを加え、70℃で30分間撹拌した。その後、テトラカルボン酸二無水物として、ODPA(4,4’−オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22)36.62g(0.118モル)、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン68.00g、触媒としてピリジン1.87g及び脱水剤としてトルエン28.66gを添加して反応器内を180℃まで昇温した。ディーンスターク装置を用いてイミド化反応により発生する水を除去しながら、180℃で3時間加熱閉環反応を行った後、更に2時間加熱を行いピリジン及びトルエンを除去した。反応終了後、80℃以下に冷却した反応液に孔径3μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて加圧濾過を施すことにより、ポリイミド樹脂(A)を34質量%含有する本発明のポリイミド樹脂ワニス(A−5)を195g得た。ポリイミド樹脂ワニス(A−5)中のポリイミド樹脂(A)の数平均分子量は11,000、重量平均分子量は38,300であり、原料の仕込み量から算出した理論水酸基当量は、1,500g/eq.であった。
【0040】
実施例6
温度計、環流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び攪拌装置のついた500mlの反応器に、ジアミン化合物としてAPB−N(1,3−ビス−(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、三井化学株式会社製、分子量292.33)7.41g(0.025モル)及びHAB(3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、日本化薬株式会社製、分子量216.24)24.14g(0.112モル)を仕込み、乾燥窒素を流しながら溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン58.58gを加え、70℃で30分間撹拌した。その後、テトラカルボン酸二無水物としてODPA(4,4’−オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22)40.08g(0.129モル)、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン74.44g、触媒としてピリジン2.04g及び脱水剤としてトルエン28.72gを添加して反応器内を180℃まで昇温した。ディーンスターク装置を用いてイミド化反応により発生する水を除去しながら、180℃で3時間加熱閉環反応を行った後、更に2時間加熱を行いピリジン及びトルエンを除去した。反応終了後、80℃以下に冷却した反応液に孔径3μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて加圧濾過を施すことにより、ポリイミド樹脂(A)を34質量%含有する本発明のポリイミド樹脂ワニス(A−6)を195g得た。ポリイミド樹脂ワニス(A−6)中のポリイミド樹脂(A)の数平均分子量は12,200、重量平均分子量は49,800であり、原料の仕込み量から算出した理論水酸基当量は、300g/eq.であった。
【0041】
比較例1
温度計、環流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び攪拌装置のついた500mlの反応器に、ジアミン化合物としてAPB−N(1,3−ビス−(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、三井化学株式会社製、分子量292.33)35.71g(0.122モル)を仕込み、乾燥窒素を流しながら溶剤としてγ−ブチロラクトン66.31gを加え、70℃で30分間撹拌した。その後、テトラカルボン酸二無水物としてODPA(4,4’−オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22)35.75g(0.115モル)、溶剤としてγ−ブチロラクトン66.39g、触媒としてピリジン1.82g及び脱水剤としてトルエン28.54gを添加して反応器内を180℃まで昇温した。ディーンスターク装置を用いてイミド化反応により発生する水を除去しながら、180℃で3時間加熱閉環反応を行った後、更に2時間加熱を行いピリジン及びトルエンを除去した。反応終了後、80℃以下に冷却した反応液に孔径3μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて加圧濾過を施すことにより、比較用ポリイミド樹脂を34質量%含有する比較用のポリイミド樹脂ワニス(B−1)を195g得た。ポリイミド樹脂ワニス(B−1)中の比較用ポリイミド樹脂の数平均分子量は10,900、重量平均分子量は38,200であった。尚、該比較用ポリイミド樹脂中には、水酸基は存在しない。
【0042】
比較例2
温度計、環流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び攪拌装置のついた500mlの反応器に、ジアミン化合物としてBAPP(2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、和歌山精化工業株式会社製、分子量410.51)25.00g(0.061モル)及びHAB(3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、日本化薬株式会社製、分子量216.24)11.58g(0.054モル)を仕込み、乾燥窒素を流しながら溶剤としてγ−ブチロラクトン67.93gを加え、70℃で30分間撹拌した。その後、テトラカルボン酸二無水物としてBTDA(3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ダイセル化学工業株式会社製、分子量322.23)34.79g(0.108モル)、溶剤としてγ−ブチロラクトン64.60g、触媒としてピリジン1.71g及び脱水剤としてトルエン28.50gを添加して反応器内を180℃まで昇温した。ディーンスターク装置を用いてイミド化反応により発生する水を除去しながら、180℃で3時間加熱閉環反応を行った後、更に2時間加熱を行いピリジン及びトルエンを除去した。反応終了後、80℃以下に冷却した反応液に孔径3μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて加圧濾過を施すことにより、比較用ポリイミド樹脂を34質量%含有する比較用のポリイミド樹脂ワニス(B−2)を175g得た。ポリイミド樹脂ワニス(B−2)中の比較用ポリイミド樹脂の数平均分子量は14,000、重量平均分子量は42,600であり、原料の仕込み量から算出した理論水酸基当量は、630.27g/eq.であった。
【0043】
比較例3
温度計、環流冷却器、ディーンスターク装置、粉体導入口、窒素導入装置及び攪拌装置のついた500mlの反応器に、ジアミン化合物としてAPB−N(1,3−ビス−(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、三井化学株式会社製、分子量292.33)17.29g(0.059モル)及びABPS(3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、日本化薬株式会社製、分子量280.30)13.08g(0.047モル)を仕込み、乾燥窒素を流しながら溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン56.41gを加え、70℃で30分間撹拌した。その後、テトラカルボン酸二無水物として、ODPA(4,4’−オキシジフタル酸無水物、マナック株式会社製、分子量310.22)32.18g(0.104モル)、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン59.77g、触媒としてピリジン1.64g及び脱水剤としてトルエン26.23gを添加して反応器内を180℃まで昇温した。ディーンスターク装置を用いてイミド化反応により発生する水を除去しながら、180℃で3時間加熱閉環反応を行った後、更に2時間加熱を行いピリジン及びトルエンを除去した。反応終了後、80℃以下に冷却した反応液に孔径3μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて加圧濾過を施すことにより、比較用ポリイミド樹脂を34質量%含有する比較用ポリイミド樹脂ワニス(B−3)を173g得た。ポリイミド樹脂ワニス(B−3)中の比較用ポリイミド樹脂の数平均分子量は17,600、重量平均分子量は91,000であり、原料の仕込み量から算出した理論水酸基当量は、630.27g/eq.であった。
【0044】
(i)本発明のポリイミド樹脂(A)及び比較用ポリイミド樹脂の物性評価
実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた各樹脂ワニス(A−1)〜(A−6)及び(B−1)〜(B−3)を、乾燥後の膜厚が20μmになるようにオートマチックアプリケーター(株式会社安田精機製作所製)を用いてPETフィルム上に塗布し、塗膜を130℃で30分間乾燥した。その後、PETフィルムから剥離して得られた樹脂膜を、SUS製の型枠にイミドテープで固定して200℃で1時間追加乾燥させ、残存溶剤を完全に除去することで本発明のポリイミド樹脂(A)及び比較用ポリイミド樹脂のフィルムを得た。得られたフィルムについて、パーキンエルマー社製TMA7(Thrmomechanical Analyzer)を用いて、4mm幅に切ったフィルムを200mNの加重で引っ張りながら50℃から350℃まで加熱し、線膨張係数の変移温度(ガラス転移温度、Tg)及び50〜150℃間の線膨張係数(CTE)を測定した。結果を表1及び表2に示した。
【0045】
実施例7〜12、比較例4〜8
実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた各樹脂ワニス(A−1)〜(A−6)及び(B−1)〜(B−3)を、乾燥後の膜厚が2μmになるようにオートマチックアプリケーター(株式会社安田精機製作所製)を用いて表面粗さ(Rz)が2μm以下である厚さ18μmの圧延銅箔上に塗布し、塗膜を130℃で10分間乾燥することで本発明のポリイミド樹脂(A)及び比較用ポリイミド樹脂からなるプライマー層の設けられた銅箔を得た。次いで、KAYAFLEX KPI−120(商品名、日本化薬株式会社製、ポリアミック酸樹脂ワニス)を、イミド化後の膜厚が25μmになるようにキャスト法によりこれらプライマー層上に塗布し、塗膜を130℃で10分間乾燥した後、更に350℃で2時間イミド化を行うことで、実施例7〜12及び比較例4〜6のフレキシブルプリント配線板用積層板を得た。
また、プライマー層を形成せず、銅箔上に直接KAYAFLEX KPI−120(商品名、日本化薬株式会社製、ポリアミック酸樹脂ワニス)を塗布したこと以外は実施例7〜12と同様の操作を行うことで、比較例7のフレキシブルプリント配線板用積層板を得た。
【0046】
更に、ポリイミド樹脂層(b)をラミネート法で形成した場合との比較のために、実施例1で得られた樹脂ワニス(A−1)を、乾燥後の膜厚が2μmになるようにオートマチックアプリケーター(株式会社安田精機製作所製)を用いてアピカルNPI(商品名、株式会社カネカ製、ポリイミドフィルム、厚さ25μm)に塗布し、塗膜を130℃で10分間乾燥することでプライマー層の設けられたポリイミドフィルムを得た。次いで、該プライマー層が挟み込まれるように実施例7〜12で用いたのと同じ圧延銅箔を重ね合わせ、250℃、70kg/cm2の条件で熱プレスを行うことで、比較例8のフレキシブルプリント配線板用積層板を得た。
【0047】
(ii)本発明及び比較用のフレキシブルプリント配線板用積層板の評価
実施例7〜12及び比較例4〜8で得られたフレキシブルプリント配線板用積層板を用いて、下記の評価を行った。
【0048】
(1)銅箔の剥離強度
実施例7〜12及び比較例4〜8で得られたフレキシブルプリント配線板用積層板の銅箔側に、マスキングテープ(商品名 クリアーラインテープ No.557、ニチバン株式会社製、)を貼り付けた後、40℃に加熱したエッチング液(塩化第二鉄水溶液45°ボーメ)中で30分間エッチングを行い、マスキングテープを剥離することで10mm幅の銅箔パターンを形成した。次いで、ボンディングシートを用いてポリイミド樹脂層側を補強板に貼り付け、カッターナイフを用いて10mm幅の銅箔の端部をポリイミド樹脂から剥がし、テンシロン試験機(AアンドD:オリエンテック製)を用いて180°方向での銅箔とポリイミド樹脂層との剥離強度を測定し、これを常態ピール強度とした。また、該積層板を150℃で168時間保持した後の剥離強度を耐熱ピール強度、40℃、95%RHで96時間保持した後の剥離強度を耐湿熱ピール強度とした。結果を表1及び表2に示した。
【0049】
(2)発泡の確認
実施例7〜12及び比較例4〜8で得られたフレキシブルプリント配線板用積層板の外観を目視で観察し、下記の基準で評価した。結果を表1及び表2に示した。
○ 発泡がなく外観上問題なし
× 発泡があり外観上問題有り
【0050】
(3)防錆効果の確認
実施例7〜12及び比較例4〜8で得られたフレキシブルプリント配線板用積層板の外観を目視で観察し、下記の基準で評価した。結果を表1及び表2に示した。
○ 目視により銅箔の酸化が見られない
× 目視により銅箔の酸化による変色が確認される
【0051】
(4)耐熱性試験
実施例7〜12及び比較例4〜8で得られたフレキシブルプリント配線板用積層板を260℃のハンダ浴に浮かべて外観を目視で観察し、下記の基準で評価した。結果を表1及び表2に示した。
○ 外観の変化なし
× 膨れ、変色等の外観異常が見られる
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
ポリイミド樹脂ワニス(A−1)〜(A−6)をプライマー層に用いた実施例7〜12の積層板は、水酸基を含有しない比較用のポリイミド樹脂ワニス(B−1)をプライマー層に用いた比較例4の積層板と比べて発泡がなく、耐熱性に優れていた。また、本願の特定構造のポリイミド樹脂(A)以外の水酸基を有する比較用ポリイミドを含有する樹脂ワニス(B−2)及び(B−3)をプライマー層に用いた比較例5及び6では、発泡は無かったものの、ピール強度は実施例7〜12の1/3程度であった。更に、ポリイミド樹脂ワニス(A−1)を用いた場合でも、ポリイミド樹脂層(b)をラミネート法で形成した比較例8のピール強度は、ポリイミド樹脂層(b)をキャスト法で形成した実施例7の1/2程度であった。これらのことから、本発明のプライマー層用ポリイミド樹脂(A)は、合成が容易であり、それを用いた銅張積層板は、剥離強度、発泡の抑制、防錆効果及び耐熱性に優れ、銅張積層板として有用であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のプライマー層用ポリイミド樹脂(A)は、金属箔(a)上に塗布した後の硬化工程を必要とせず、あらゆる条件において安定した接着強度が得られる。また、骨格中に特定構造のアミノフェノールを導入することで、ガス透過性の低い基材樹脂との界面における残溶剤及び分解反応に起因する発泡を大幅に抑制することができ、しかも、金属箔の防錆処理層としての効果をも有する。従って、電気電子材料分野で極めて有用である。