【実施例】
【0044】
(実施例1)
<モノマー1の合成>
モノマー1を非特許文献
2(Y.Li,T.Michinobu,Polym.Chem.1,72(2010))に記載の合成方法を参考にして、以下の通り合成した。
【0045】
<<N,N−ジヘキサデシル−4−ヨードアニリンの合成>>
4−ヨードアニリン(5.30g,24.2mmoL)の脱水ジメチルホルムアミド(50mL)溶液に1-ヨードヘキサデカン(28.0g,79.5mmol)と炭酸ナトリウム(4.50g,42.5mmol)を加え、95℃で20時間反応させた。室温まで冷却し、200mLの純水で洗浄し、ジクロロメタン200mLで抽出した。有機層を回収し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。ロータリーエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムを用い、ヘキサンを展開溶媒として分画し、N,N−ジヘキサデシル−4−ヨードアニリンを13.0g得た。
【0046】
<<N,N−ジヘキサデシル−4−({4−[(トリイソプロピルシリル)エチニル]フェニル}エチニル)アニリン(モノマー1)の合成>>
脱気した[(4−エチニルフェニル)エチニル](トリイソプロピル)シラン(1.00g,3.54mmol)とN,N−ジヘキサデシル−4−ヨードアニリン(2.36g,3.53mmol)のジイソプロピルアミン溶液(40mL)に,ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド(50mg,0.070mmol)とヨウ化銅(I)(25mg,0.13mmol)を加え、窒素雰囲気下、室温で18時間反応させた。析出、沈殿した塩を濾別後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムを用い、ヘキサンを展開溶媒として分画し、目的物N,N−ジヘキサデシル−4−({4−[(トリイソプロピルシリル)エチニル]フェニル}エチニル)アニリンを粘稠液体として2.16g得た。
【0047】
<<4−[(4−エチニルフェニル)エチニル]−N,N−ジヘキサデシルアニリン(モノマ−1)の合成>>:
N,N−ジヘキサデシル−4−({4−[(トリイソプロピルシリル)エチニル]フェニル}エチニル)アニリン(1.00g,1.21mmol)のテトラヒドロフラン溶液(12mL)に、テトラブチルアンモニウムフロライド(1M テトラヒドロフラン溶液)(2.4mL)を加え、0℃空気下で20分反応させた。シリカゲルカラムを用い、ジクロロメタンを展開溶媒として分画し、4−[(4−エチニルフェニル)エチニル]−N,N−ジヘキサデシルアニリンを黄色粉末として786mg得た。
【0048】
・モノマー1の合成
【化9】
【0049】
<ポリフェニルアセチレン誘導体2の合成>
次に、モノマー1からポリフェニルアセチレン誘導体2を以下の方法により合成した。
先ず、30mL二口ナシ型フラスコにモノマー1を170mg(0.255mmol)と攪拌子を加えた。前記フラスコを窒素雰囲気下に曝した後、トルエン(1.25mL)を加えてモノマー1を溶解させた。
次に、触媒溶液([Rh(nbd)Cl]
2:0.128mmol、トルエン:1.25mL、トリエチルアミン:1滴)を乾燥したシリンジで加え、モノマー1溶液と反応させた。
この反応溶液をアルゴン雰囲気下、室温で24時間攪拌し、重合反応させた。重合終了後、トルエン2mLを加えた後、メタノール/ジクロロメタン(6/1)の混合溶液(200mL)中に滴下して沈殿物を得た。
この沈殿物をろ過により回収した後、再沈澱精製してポリフェニルアセチレン誘導体2を黄色粉末として122mg得た。
【0050】
・ポリフェニルアセチレン誘導体2の合成
【化10】
【0051】
この合成方法におけるポリフェニルアセチレン誘導体2の収率と、同定結果は、以下の通りであった。
収率:72%。
1H NMR(300MHz,CDCl
3):δ 0.86(s,CH
3),1.24(s,NCH
2CH
2(CH
2)
15CH
3),1.59(s,NCH
ZCH
Z),2.87−3.60(br s,NCH2),6.15−6.55(br s,PhH and olefin proton),7.05−7.55(br s,PhH)。IR(neat):2920,2851,2209,1608,1518,1464,1368,1196,1137,811,722cm
−1。
【0052】
<TCNE付加反応による目的化合物3の合成>
TCNEの付加反応は、以下の方法により行った。
50mLフラスコにポリフェニルアセチレン誘導体2を41.4mg(0.062mmol/repeat unit)を入れ、1,2−ジクロロベンゼン(12mL)を加えて溶解させた後、これにTCNEの1,2−ジクロロエタン溶液(5.686M、1.4mL)を加えて反応させた。
この反応溶液を窒素雰囲気下、100℃で24時間攪拌し反応させた。
反応終了後、室温に冷却してから溶媒を減圧除去し、シアノ基が導入された目的化合物3を赤色粉末として49.3mg得た。
【0053】
・目的化合物3の合成
【化11】
【0054】
この合成方法における目的化合物3の収率と、同定結果は、以下の通りであった。
収率100%。
1H NMR(300MHz,CDCl
3):δ 0.88(s,CH
3),1.25(s,NCH
2CH
2(CH
2)
15CH
3),1.57(s,NCH
2CH
2),2.80−3.60(br s,NCH
2),6.42−6.97(br s,PhH and olefin proton),7.50−7.90(br s,PhH)。IR(neat):2921,2851,2214,1601,1483,1443,1415,1345,1210,1182,820,796,720cm
−1。Elemental analysis calcd for (C
54H
75N
5)
n:C 81.66,H 9.52,N 8.82;found:C 81.81,H 9.90,N 8.29%。
【0055】
<高分子膜の形成>
目的化合物3(25mg)をトルエン(1.5mL)に溶解させた後、テフロン板上にキャスト塗工して、実施例1における高分子膜を得た。
なお、実施例1における高分子膜の膜厚は、60μm程度であった。
【0056】
(実施例2)
<モノマー4の合成>
モノマー4を非特許文献2(Y.Li,T.Michinobu,Polym.Chem.1,pp.72−74(2010))に記載の合成方法を参考にして、以下の通り合成した。
【0057】
<<N,N−ジヘキサデシル−4−({3−[(トリイソプロピルシリル)エチニル]フェニル}エチニル)アニリンの合成>>
脱気した[(3−エチニルフェニル)エチニル](トリイソプロピル)シラン(1.00g,3.54mmol)と、モノマー1の合成に用いたN,N−ジヘキサデシル−4−ヨードアニリン(2.36g,3.53mmol)のジイソプロピルアミン溶液(40mL)にビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライド(50mg,0.070mmol)とヨウ化銅(I)(25mg,0.13mmol)を加え、窒素雰囲気下、室温で18時間反応させた。析出、沈殿した塩を濾別後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムを用い、ヘキサンを展開溶媒として分画し、N,N−ジヘキサデシル−4−({3−[(トリイソプロピルシリル)エチニル]フェニル}エチニル)アニリンを粘稠液体として1.98g得た。
【0058】
<<4−[(3−エチニルフェニル)エチニル]−N,N−ジヘキサデシルアニリン(モノマー4)の合成>>
N,N−ジヘキサデシル−4−({3−[(トリイソプロピルシリル)エチニル]フェニル}エチニル)アニリン(650mg,0.790mmol)のテトラヒドロフラン溶液(8mL)にテトラブチルアンモニウムフロライド(1M テトラヒドロフラン溶液)(2.4mL)を加え、0℃空気下で20分反応させた。シリカゲルカラムを用い、ジクロロメタンを展開溶媒として分画し、目的物4−[(4−エチニルフェニル)エチニル]−N,N−ジヘキサデシルアニリンを黄色粉末として520mg得た。
【0059】
・モノマー4の合成
【化12】
【0060】
<ポリフェニルアセチレン誘導体5の合成>
ポリフェニルアセチレン誘導体2の合成において、モノマー1に代えてモノマー4を同量用いたこと以外は、ポリフェニルアセチレン誘導体2の合成方法と同様にして、ポリフェニルアセチレン誘導体5を合成した。ポリフェニルアセチレン誘導体5は、黄色粉末として105mg得られた。
【0061】
・ポリフェニルアセチレン誘導体5の合成
【化13】
【0062】
この合成方法におけるポリフェニルアセチレン誘導体5の収率と、同定結果は、以下の通りであった。
収率70%。
1H NMR(300MHz,CDCl
3):δ 0.88(m,CH
3),1.25(s,NCH
2CH
2(CH
2)
15CH
3,1.59(br s,NCH
2CH
2),2.80−3.30(br s,NCH
2),6.20−6.62(br s,PhH and olefin proton),7.05−7.45(br s,PhH)。IR(neat):2921,2851,2208,1608,1590,1518,1465,1368,1193,812,789,720cm
−1。
【0063】
<TCNE付加反応による目的化合物6の合成>
TCNE付加反応による目的化合物3の合成において、ポリフェニルアセチレン誘導体2に代えてポリフェニルアセチレン誘導体5を同量用いたこと以外は、目的化合物3の合成と同様にして、シアノ基が導入された目的化合物6の合成を行った。
目的化合物6は、赤色粉末として49.0mg得られた。
【0064】
・目的化合物6の合成
【化14】
【0065】
この合成方法における目的化合物6の収率と、同定結果は、以下の通りであった。
収率100%。
1H NMR(300MHz,CDCl
3):δ 0.86(s,CH
3),1.26(s,NCH
2CH
2(CH
2)
15CH
3),1.59(s,NCH
2CH
2),3.20−3.40(br s,NCH
2),6.40−6.85(br s,PhH and olefin proton),7.50−8.00(br s,PhH)。IR(neat):2921,2851,2214,1602,1486,1466,1416,1341,1210,1181,818,719cm
−1。Elemental analysis calcd for (C
54H
75N
5)
n:C 81.66,H 9.52,N 8.82;found:C 81.54,H 9.80,N 8.64%。
【0066】
<高分子膜の形成>
実施例1における高分子膜の形成において、目的化合物3に代えて目的化合物6を同量用いたこと以外は、実施例1における高分子膜の形成方法と同様にして、実施例2における高分子膜を得た。
【0067】
<実施例1、2における目的化合物3、6の合成スキーム>
前駆体高分子として電子豊富アルキンを有するポリアセチレン誘導体を合成する。電子供与性基としてジアルキルアニリンを採用する。アルキル鎖長により高分子の溶解性及び成形加工性を制御できると共に、ポスト機能化反応における高収率が期待される。
Rh触媒は一置換アルキンのみ重合活性を示すポリアセチレン誘導体合成用の触媒である。電子豊富アルキンと末端アルキンのみを有するモノマー1及び4を非特許文献2に記載の合成方法を参考にして合成した。
モノマー1及び4の末端アルキンのみにRh触媒が作用して重合することで、対応するポリフェニルアセチレン誘導体2及び5が得られた。
得られたポリフェニルアセチレン誘導体2及び5にアクセプター分子であるテトラシアノエチレン(TCNE)を加えると室温で定量的に反応進行し、モノマー繰返し単位当たり4つのシアノ基が導入された目的化合物3及び6を合成することができた。
【0068】
【化15】
【0069】
(測定結果)
得られたポリフェニルアセチレン誘導体2、5及び目的化合物3、6の各高分子の構造は、NMR、IR、GPC、元素分析より確実に同定した。GPCで算出した高分子の分子量は、全て6万以上であり、十分な高分子量体が得られていた(ポリフェニルアセチレン誘導体2:Mn=66,300、Mw/Mn=3.06、目的化合物3:Mn=210,000、Mw/Mn=4.01、ポリフェニルアセチレン誘導体5:Mn=90,500、Mw/Mn=2.91、目的化合物6:Mn=159,600、Mw/Mn=3.41)。
【0070】
熱分析したところ、全ての高分子の5%重量減少温度が330℃以上であり、非常に高い耐熱性を有していた。窒素雰囲気下で毎分10℃の昇温速度で測定した重量変化曲線を
図2(a)及び
図2(b)に示す。また、ガラス転位点は約100℃付近にあり、TCNE付加で若干の上昇が観測された。
【0071】
次に、各高分子のトルエン溶液をテフロン板上にキャストし、各々膜厚が60μm程度の高分子膜を形成した。ポリフェニルアセチレン誘導体2、及び目的化合物3、6の高分子膜は、十分な強度の高分子膜が得られたため、気体透過測定に供することができた。一方、ポリフェニルアセチレン誘導体5の高分子膜は、脆く透過測定中に壊れてしまった。
気体透過性を評価するための代表的な気体として酸素を選択した。30℃で測定した酸素透過係数PO
2を下記表2に示す。なお、酸素透過係数PO
2は、数値が小さい程、ガスバリア性が高いことを示す。
【0072】
【表2】
【0073】
シアノ基を繰返し単位あたり4つ導入すると酸素透過係数が約30%に減少した。これは、シアノ基間の双極子相互作用が膜密度を高めて酸素の移動を妨げたためと考えられる。
なお、高分子のポスト機能化で気体透過性を変化(または低下)させた報告例が存在する(T.Masuda et al.,J.Polym.Sci.A44,5028(2006))。この報告で増田らは、トリアルキルシリル基を側鎖に有するポリフェニルアセチレン誘導体の膜に、テトラフルオロアンモニウムフルオリドを作用させて選択的にシリル基のみを除去して不溶性のポリフェニルアセチレン膜へと誘導している。シリル基がなくなることで膜中の空隙が大きくなり、気体透過性が向上している。また、アルコール保護のシリル基を除去すると、逆に気体透過性が減少している。これは水酸基由来の水素結合が有効に作用した結果と考えられる。
しかしながら、シアノ基は定量的に保護できないため、同様の方法論は適用できない。
即ち、本発明では、アルキン含有前駆体ポリマーとテトラシアノ構造を有するアクセプター化合物間の定量的付加反応を利用し、簡単かつ収率良くガスバリア性を有する高分子の高分子膜を得ることとしている。また、本発明における高分子化合物は、ポスト機能化後でも高い溶解性を保持しており、優れた成形加工性を得ることができる。
更に、実施例1における目的化合物3と実施例2における目的化合物6の酸素透過性を比較すると、対称性が悪く密にパッキングできない目的化合物6では、目的化合物3よりも約3倍多く酸素を透過することが分かった。これにより炭素一つ分の置換位置の違いでも気体透過性を制御できることが理解される。
以上、実施例1及び2では、気体透過性に優れたポリアセチレン誘導体を気体バリア性に優れたシアノ基含有高分子として、ガスバリア材として有用な高分子膜を得ることができている。