特許第5733838号(P5733838)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 東洋大学の特許一覧

<>
  • 特許5733838-D級増幅器 図000003
  • 特許5733838-D級増幅器 図000004
  • 特許5733838-D級増幅器 図000005
  • 特許5733838-D級増幅器 図000006
  • 特許5733838-D級増幅器 図000007
  • 特許5733838-D級増幅器 図000008
  • 特許5733838-D級増幅器 図000009
  • 特許5733838-D級増幅器 図000010
  • 特許5733838-D級増幅器 図000011
  • 特許5733838-D級増幅器 図000012
  • 特許5733838-D級増幅器 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733838
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】D級増幅器
(51)【国際特許分類】
   H03F 3/217 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
   H03F3/217
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-506893(P2012-506893)
(86)(22)【出願日】2011年2月21日
(86)【国際出願番号】JP2011053730
(87)【国際公開番号】WO2011118311
(87)【国際公開日】20110929
【審査請求日】2014年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2010-67890(P2010-67890)
(32)【優先日】2010年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】佐野 勇司
【審査官】 柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−212902(JP,A)
【文献】 特開2004−289813(JP,A)
【文献】 特開2009−170987(JP,A)
【文献】 特開2005−210280(JP,A)
【文献】 特開2005−142780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 3/217
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D級増幅器であって、
信号源からの入力信号を反転させた反転信号を生成する信号反転器と、
前記信号源からの前記入力信号に対してパルス幅変調を施す第1パルス幅変調器と、
電源の両端に直列に接続された第1スイッチング増幅素子と第2スイッチング増幅素子とを有し、前記第1スイッチング増幅素子と前記第2スイッチング増幅素子とを交互にオン/オフすることにより前記第1パルス幅変調器からのパルス幅変調信号を増幅する第1パルス増幅器と、
前記反転信号に対してパルス幅変調を施す第2パルス幅変調器と、
前記電源の両端に直列に接続された第3スイッチング増幅素子と第4スイッチング増幅素子とを有し、前記第3スイッチング増幅素子と前記第4スイッチング増幅素子とを交互にオン/オフすることにより前記第2パルス幅変調器からのパルス幅変調信号を増幅する第2パルス増幅器と、
前記第1パルス増幅器からのパルス幅変調信号の低域周波数成分のみを通過させる第1低域通過フィルタと、
前記第2パルス増幅器からのパルス幅変調信号の低域周波数成分のみを通過させる第2低域通過フィルタと、
前記信号源と第1パルス幅変調器の間に接続され、前記信号源からの前記入力信号を所定の時間遅延させた遅延信号を生成し、生成した前記遅延信号を前記第1パルス幅変調器に出力する信号遅延器とを備え、
前記信号遅延器は、前記信号源からの前記入力信号と前記信号反転器で反転させた前記反転信号との間の遅延時間に相当する遅延時間だけ前記入力信号を遅延させた前記遅延信号を生成し、
前記第1低域通過フィルタからの信号と前記第2低域通過フィルタからの信号を負荷に出力することを特徴とするD級増幅器。
【請求項2】
D級増幅器であって、
信号源からの入力信号を反転させた反転信号を生成する信号反転器と、
前記信号源からの前記入力信号に対してパルス幅変調を施す第1パルス幅変調器と、
電源の両端に直列に接続された第1スイッチング増幅素子と第2スイッチング増幅素子とを有し、前記第1スイッチング増幅素子と前記第2スイッチング増幅素子とを交互にオン/オフすることにより前記第1パルス幅変調器からのパルス幅変調信号を増幅する第1パルス増幅器と、
前記反転信号に対してパルス幅変調を施す第2パルス幅変調器と、
前記電源の両端に直列に接続された第3スイッチング増幅素子と第4スイッチング増幅素子とを有し、前記第3スイッチング増幅素子と前記第4スイッチング増幅素子とを交互にオン/オフすることにより前記第2パルス幅変調器からのパルス幅変調信号を増幅する第2パルス増幅器と、
前記第1パルス増幅器と第2パルス増幅器との一方に接続され、パルス幅変調信号の低域周波数成分のみを通過させる低域通過フィルタと、
前記信号源と第1パルス幅変調器の間に接続され、前記信号源からの前記入力信号を所定の時間遅延させた遅延信号を生成し、生成した前記遅延信号を前記第1パルス幅変調器に出力する信号遅延器とを備え、
前記信号遅延器は、前記信号源からの前記入力信号と前記信号反転器で反転させた前記反転信号との間の遅延時間に相当する遅延時間だけ前記入力信号を遅延させた前記遅延信号を生成し、
前記第1パルス増幅器と前記第2パルス増幅器とのうち低域通過フィルタの接続されていない方からのパルス幅変調信号と前記低域通過フィルタからの信号とを負荷に出力することを特徴とするD級増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭用電子機器や業務用電子機器に有する音響増幅器や信号増幅器等に用いるためのD級増幅器に関し、特に電子機器から発生する電磁妨害を抑制し、機器のコストを低減できるD級増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スイッチング技術を用いたD級増幅器が知られている。D級増幅器は、増幅素子の電流を中間状態に制御するアナログ増幅器とは異なり、スイッチング増幅素子をON/OFFさせることにより、増幅素子での余分な発熱を大幅に低減できる利点がり、家庭用オーディオ機器(ワンビットADコンバータ)などに使用されている。
【0003】
図1は従来例1のD級増幅器の構成を示す回路である(特許文献1)。従来例1のD級増幅器は、信号源101aの信号をパルス幅変調器(PWM)110aによりパルス信号に変換し、パルス信号を第1パルス増幅器105aで増幅し、第1低域通過フィルタ(LPF)107aでパルス成分を除去して元の入力信号の周波数成分を取り出して負荷109aに出力する。さらに一般では、負荷109aの駆動電力を増強すべく、パルス幅変調器110aのパルス信号をインバータ111aにより反転して得られた反転パルス信号を第2パルス増幅器106aで増幅し、第2低域通過フィルタ(LPF)108aを介して負荷109aの他端に出力する。
【0004】
図2(a)に示す入力信号VINが入力された場合、第1パルス増幅回路105aに与えられる電源電圧をVとすれば、図2(b)に示す出力パルス電圧が第1パルス増幅回路105aからさらに反転された出力パルス電圧が第2パルス増幅回路106aから出力され、第1低域通過フィルタ107aと第2低域通過フィルタ108aを介して得られた出力電圧Vo1とVo1を反転した出力電圧が負荷109aに印加される。この回路方式は、BTL(Balance TransformerlessまたはBridged Transformerless)回路と呼ばれている。BTL回路では、第1低域通過フィルタ107aと第2低域通過フィルタ108aから負荷109aに印加される出力パルス電圧は、図2(b)に示すように、+Vと−Vとの2値となり、電源電圧の2倍の電圧変化幅となる。このため、スイッチングに伴う電磁不要輻射ノイズが大きくなり、図2(c)に示すように、出力パルスの周波数成分は非常に高い周波数まで広がってしまう。
【0005】
スイッチングに伴う電磁不要輻射ノイズの発生を抑制するためには、D級増幅器を電磁シールド板で覆ったり、D級増幅器の各部にフィルタ回路を挿入する必要がある。しかし、電磁シールド板は高価であり、フィルタ回路も発生するノイズレベルが大きくノイズ周波数が高いほど、高価な素子を設ける必要がある。このため、D級増幅器の製造コストが上昇してしまう。
【0006】
そこで、上記問題を解決したD級増幅器として、図3に示す従来例2のD級増幅器の構成が知られている(特許文献2)。従来例2のD級増幅器は、三角波や鋸歯状波などを出力する基準信号源131に接続された第1パルス幅変調器103と第2パルス幅変調器104とを備える。第1パルス幅変調器103は信号源101に直接接続される。第2パルス幅変調器104は信号反転器102を介して入力信号源101に接続される。第1パルス幅変調器103と第2パルス幅変調器104の出力のそれぞれを第1低域通過フィルタ107と第2低域通過フィルタ108を介して負荷109の異なる端子に接続している。
【0007】
従来例2のD級増幅器によれば、図4(b)に示すように、第1パルス増幅回路105と第2パルス増幅回路106の出力間に得られる差動パルス電圧Vo’は、その極性が入力信号VINの極性に応じて変調されると共に、常にグランドレベルを基準として出力される。このため、差動パルス電圧Vo’の振幅は常に電源電圧Vと同一の大きさに抑制される。それ故、この回路方式はパルス極性変調方式とも呼ばれる。パルス極性変調方式では、図4(b)に示すように、差動パルス電圧Vo’の振幅が図2(b)に示す従来例1の増幅器による出力パルス電圧に対して半減される。また、図4(c)に示すように、点線部分に相当する出力パルスの周波数スペクトルの奇数次高調波成分が消滅する。また、図4(b)に示す差動パルス電圧Vo’のパルス周波数は、図2(b)のVo1’−Vo2の2倍になるので、低域通過フィルタの遮断周波数を高く設計して小型化しコスト低減することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−221564号公報
【特許文献2】特開2009−212902号公報
【発明の概要】
【0009】
しかしながら、実際の実施例2のD級増幅器では、例えば信号反転回路の挿入による伝播遅延量などがあるため、パルス出力の周波数成分の主体をなす奇数次高調波を十分に低減することができなかった。
【0010】
本発明の課題は、パルス出力の周波数成分の主体をなす奇数次高調波を大幅に低減して、電磁不要輻射を大幅に低減でき、しかも安価な増幅器を提供することにある。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の第一の技術的側面に係るD級増幅器は、信号源からの入力信号を反転させた反転信号を生成する信号反転器と、信号源からの入力信号に対してパルス幅変調を施す第1パルス幅変調器と、電源の両端に直列に接続された第1スイッチング増幅素子と第2スイッチング増幅素子とを有し、前記第1スイッチング増幅素子と前記第2スイッチング増幅素子とを交互にオン/オフすることにより第1パルス幅変調器からのパルス幅変調信号を増幅する第1パルス増幅器と、反転信号に対してパルス幅変調を施す第2パルス幅変調器と、前記電源の両端に直列に接続された第3スイッチング増幅素子と第4スイッチング増幅素子とを有し、前記第3スイッチング増幅素子と前記第4スイッチング増幅素子とを交互にオン/オフすることにより第2パルス幅変調器からのパルス幅変調信号を増幅する第2パルス増幅器と、第1パルス増幅器からのパルス幅変調信号の低域周波数成分のみを通過させる第1低域通過フィルタと、第2パルス増幅器からのパルス幅変調信号の低域周波数成分のみを通過させる第2低域通過フィルタと、信号源と第1パルス幅変調器の間に接続され、信号源からの入力信号を所定の時間遅延させた遅延信号を生成し、生成した遅延信号を第1パルス幅変調器に出力する信号遅延器とを備え、信号遅延器は、信号源からの入力信号と信号反転器で反転させた反転信号との間の遅延時間に相当する遅延時間だけ入力信号を遅延させた遅延信号を生成し、第1低域通過フィルタからの信号と第2低域通過フィルタからの信号を負荷に出力する。
【0012】
このような構成により、パルス出力の周波数成分の主体をなす奇数次高調波を低減することができる。
【0014】
このような構成により、信号反転器による反転信号の遅延が信号遅延器による信号遅延により相殺され、負荷に印加される出力パルス電圧の同相成分が正確に相殺される。このため、パルス出力の周波数成分の主体をなす奇数次高調波を大幅により低減できる。この結果、電磁不要輻射が大幅に低減され、しかも安価となる。その際に、増幅信号成分を含む両増幅回路の出力差動成分は従来通りに負荷に印加される。
【0017】
本発明の第二の技術的側面に係るD級増幅器は、信号源からの入力信号を反転させた反転信号を生成する信号反転器と、信号源からの入力信号に対してパルス幅変調を施す第1パルス幅変調器と、電源の両端に直列に接続された第1スイッチング増幅素子と第2スイッチング増幅素子とを有し、前記第1スイッチング増幅素子と前記第2スイッチング増幅素子とを交互にオン/オフすることにより第1パルス幅変調器からのパルス幅変調信号を増幅する第1パルス増幅器と、反転信号に対してパルス幅変調を施す第2パルス幅変調器と、前記電源の両端に直列に接続された第3スイッチング増幅素子と第4スイッチング増幅素子とを有し、前記第3スイッチング増幅素子と前記第4スイッチング増幅素子とを交互にオン/オフすることにより第2パルス幅変調器からのパルス幅変調信号を増幅する第2パルス増幅器と、第1パルス増幅器と第2パルス増幅器との一方に接続され、パルス幅変調信号の低域周波数成分のみを通過させる低域通過フィルタと、信号源と第1パルス幅変調器の間に接続され、信号源からの入力信号を所定の時間遅延させた遅延信号を生成し、生成した遅延信号を第1パルス幅変調器に出力する信号遅延器とを備え、信号遅延器は、信号源からの入力信号と信号反転器で反転させた反転信号との間の遅延時間に相当する遅延時間だけ入力信号を遅延させた遅延信号を生成し、第1パルス増幅器と第2パルス増幅器とのうち低域通過フィルタの接続されていない方からのパルス幅変調信号と低域通過フィルタからの信号とを負荷に出力する。
【0018】
このような構成により、パルス出力の周波数成分の主体をなす奇数次高調波を低減することができる。
【0020】
このような構成により、信号反転器による反転信号の遅延が信号遅延器による信号遅延により相殺され、負荷に印加される出力パルス電圧の同相成分が正確に相殺される。このため、パルス出力の周波数成分の主体をなす奇数次高調波を大幅により低減できる。この結果、電磁不要輻射が大幅に低減され、しかも安価となる。その際に、増幅信号成分を含む両増幅回路の出力差動成分は従来通りに負荷に印加される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、従来例1のD級増幅器の構成を示す回路である。
図2図2(a)〜(c)は、図1に示す従来例1のD級増幅器の各部の波形を示す図である。
図3図3は、従来例2のD級増幅器の構成を示す回路図である。
図4図4(a)〜(c)は、図3に示す従来例2のD級増幅器の各部の波形を示す図である。
図5図5は、実施例1に係るD級増幅器の構成を示す回路図である。
図6図6は、図3に示す従来例2のD級増幅器と図5に示す実施例1に係るD級増幅器との出力波形を示す図である。
図7図7は、図3に示す従来例2のD級増幅器のパルス出力及び出力波形を示す図である。
図8図8は、図5に示す実施例1に係るD級増幅器のパルス出力及び出力波形を示す図である。
図9図9は、実施例2に係るD級増幅器の構成を示す回路図である。
図10図10は、実施例3に係るD級増幅器の構成を示す回路図である。
図11図11は、実施例4に係るD級増幅器の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態のD級増幅器を図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図5は、本発明の実施例1に係るD級増幅器の構成を示す回路図である。図5に示すD級増幅器は、信号源1からの入力信号を増幅して負荷8に出力するためのものであり、信号遅延器2、信号反転器3、第1パルス幅変調(PWM)器4、第2パルス幅変調器5、第1パルス増幅器10、第2パルス増幅器11、第1低域通過フィルタ(LPF)6、第2低域通過フィルタ(LPF)7、三角波や鋸歯状波を出力する三角波発生器9を備える。信号反転器3は、入力信号源1からの入力信号を反転して第2パルス幅変調器5に出力する。
【0026】
信号遅延器2は、入力信号源1からの入力信号と信号反転器3で反転された反転信号との位相差に相当する遅延時間だけ、入力信号源1からの入力信号を遅延させて第1パルス幅変調器4に出力する。
【0027】
信号遅延器2としては、増幅度1の非反転増幅器、或いは、抵抗やコンデンサやコイルから構成される低域通過フィルタを1段又は多段接続したものを用いることができる。低域通過フィルタは受動回路であっても能動回路であっても良い。また、増幅度1の非反転増幅器の段数は、遅延時間に合わせて設定される。低域通過フィルタを用いる場合には、遅延時間に合わせて抵抗とコンデンサとの時定数を設定すれば良い。
【0028】
第1パルス幅変調器4は、コンパレータからなり、信号遅延器2からの遅延信号と三角波発生器9からの三角波信号とを大小比較することによってパルス幅変調を施し、パルス幅変調信号を第1パルス増幅器10に出力する。
【0029】
第1パルス増幅器10は、例えば、電源Vの両端に直列に接続された第1MOSFETと第2MOSFETとからなるスイッチング増幅素子を有し、第1パルス幅変調器4からのパルス幅変調信号に基づいて第1MOSFETと第2MOSFETとを交互にON/OFFすることにより増幅されたパルス幅変調信号を第1低域通過フィルタ6に出力する。スイッチング増幅素子には、MOSFET以外にも、IGBTやバイポーラトランジスタなど任意の増幅素子が適用できる。
【0030】
第1低域通過フィルタ6は、例えば、第1コイルと第1コンデンサとからなり、あるいは抵抗とコンデンサとからなり、第1パルス幅変調器4からのパルス幅変調信号の内、第1コイルと第1コンデンサとで決定される遮断周波数以下の低域周波数成分のみを通過させることにより、元の入力信号の周波数成分を取り出して負荷8に出力する。
【0031】
第2パルス幅変調器5は、第1パルス幅変調器4と同じ特性を有するコンパレータからなり、信号反転器3からの反転信号と三角波発生器9からの三角波信号とを大小比較することによってパルス幅変調を施し、パルス幅変調信号を第2パルス増幅器11に出力する。
【0032】
第2パルス増幅器11は、例えば、電源Vの両端に直列に接続された第3MOSFETと第4MOSFETとからなるスイッチング増幅素子を有し、第2パルス幅変調器5からのパルス幅変調信号に基づいて第3MOSFETと第4MOSFETとを交互にON/OFFすることにより増幅されたパルス幅変調信号を第2低域通過フィルタ7に出力する。
【0033】
第2低域通過フィルタ7は、例えば、第2コイルと第2コンデンサとからなり、あるいは抵抗とコンデンサとからなり、第2パルス幅変調器5からのパルス幅変調信号の内、第2コイルと第2コンデンサとで決定される遮断周波数以下の低域周波数成分のみを通過させることにより、元の入力信号の周波数成分を取り出して負荷8に出力する。
【0034】
図6は、図3に示す従来例2のD級増幅器と図5に示す実施例1に係るD級増幅器との出力波形を示す図である。図6において、従来例2の非反転出力Vo1’は図3に示す第1パルス増幅器105のパルス出力、従来例2の反転出力Vo2は図3に示す第1パルス増幅器106のパルス出力である。従来例2の反転出力Vo2には、Vs’に対するVsrの遅れであるインバータ102(信号反転回路)の伝播遅延量DLに起因して、従来例2の非反転出力Vo1’に対する位相変化が発生している。実施例1の非反転出力Vo1は図5に示す第1パルス増幅器10のパルス出力、反転出力Vo2は図5に示す第2パルス増幅器11のパルス出力である。Vsは信号遅延器2の出力、Vsrは信号反転器3の出力である。
【0035】
従来例2の反転出力Vo2のパルスP1が従来例2の非反転出力Vo1’のパルスの中心から右側にずれるので、図7に示すように、第1パルス増幅器105と第2パルス増幅器106との出力間の差動パルス(Vo2−Vo1’)にもパルスP1の影響が現われて、奇数次高調波が大きくなり、電磁不要輻射が大きくなる。なお、図7において、一点鎖線で示すパルスは従来例2の非反転出力Vo1’である。
【0036】
これに対して、実施例1に係るD級増幅器では、図6に示すように、信号遅延器2の出力Vsと信号反転器3の出力Vsrとに同一の遅延が生じていて、伝播遅延量DLの差がゼロである。つまり、反転出力Vo2のパルスP2が非反転出力Vo1のパルスの中心に位置するように調整しているので、図8に示すように、第1パルス増幅器10と第2パルス増幅器11との出力間の差動パルス(Vo2−Vo1)のパルス信号の中心にパルスP2が現われる。この結果、実施例1に係るD級増幅器では、奇数次高調波が大幅に低減され、電磁不要輻射が大幅に低減される。図8において、一点鎖線で示すパルスは、非反転出力Vo1である。
【0037】
即ち、信号反転器3による反転信号の遅延が信号遅延器2による信号遅延により相殺されることによって、負荷8に印加される出力パルス電圧の同相成分が正確に相殺される。この結果、実施例1に係るD級増幅器では、パルス出力の周波数成分の主体をなす奇数次高調波を大幅に低減でき、偶数次高調波と側波帯成分だけの電磁輻射となる。従って、実施例1に係るD級増幅器では、発生ノイズがほぼ半減し、電磁不要輻射が大幅に低減できる。実際に負荷を駆動する差動出力電圧波形においては、パルス電圧振幅は半減し、信号の極性に応じてパルス極性も制御されることで、従来通りの出力パワーが確保できる。
【0038】
また、電磁シールド板を許容レベルで簡易形状で構成できるとともに、その実装箇所も省略でき、フィルタ回路も大幅に削減できる。さらに、ノイズ障害発生の面から見ても携帯電話やコンピュータ等の無線接続への妨害を大幅に低減できるので、情報化社会への適合性が極めて高い技術となる。このように本発明の工業上、社会上の効果は極めて高い。
【0039】
表1は、従来例1と従来例2と実施例1とのパルス極性変調方式との出力周波数スペクトルの比較を示す表である。表1において、従来例1は、図1に示す従来例1のD級増幅器の出力周波数スペクトルを示し、従来例2はは図3に示す従来例2のD級増幅器の出力周波数スペクトルを示し、実施例1は、図5に示す実施例1のD級増幅器の出力周波数スペクトルを示す。
【表1】
【0040】
表1の結果から、パルス極性変調方式回路に信号遅延器2(非反転回路)を挿入することにより、信号の伝播遅延を相殺して奇数次高調波を基本波の−35dB以下に低減できることを確認することができる。
【実施例2】
【0041】
図9は、本発明の実施例2に係るD級増幅器の構成を示す回路図である。図9に示す実施例2に係るD級増幅器は、図5に示す実施例1に係るD級増幅器に対して、信号遅延器2を削除し、第1低域通過フィルタ6と第2低域通過フィルタ7に代わり第3低域通過フィルタ6aと第4低域通過フィルタ7aを、三角波発生器9に代わり三角波発生器9aを用いる。
【0042】
図9に示すその他の構成は、図5に示す構成と同一であるので、同一部分には同一符号を付する。ここでは、第1パルス幅変調器4、第2パルス幅変調器5、三角波発生器9aと第3低域通過フィルタ6a、第4低域通過フィルタ7aを説明する。
【0043】
三角波発生器9aは、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期(遅延時間が無視できる周期)を持つ三角波信号を発生する。
【0044】
第1パルス幅変調器4は、入力信号源1に接続され、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つ三角波発生器9aからの三角波信号と入力信号源1からの入力信号とを大小比較することにより、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つパルス信号を生成し、即ち、入力信号源からの入力信号に対してパルス幅変調を施して第1パルス増幅器10に出力する。
【0045】
第2パルス幅変調器5は、信号反転器3に接続され、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つ三角波発生器9aからの三角波信号と信号反転器3からの反転信号とを大小比較することにより、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つパルス信号を生成し、即ち、信号反転器3からの反転信号に対してパルス幅変調を施して第2パルス増幅器11に出力する。
【0046】
三角波発生器9aの発生する三角波信号の周期が長くなった分、出力パルスの周波数も低下するので、第3低域通過フィルタ6aと第4低域通過フィルタ7aの遮断周波数も低く設定する。
【0047】
信号反転器3の遅延時間とは、実施例1に係るD級増幅器で説明した伝播遅延量DL、即ち、入力信号源1からの入力信号と信号反転器3で反転された反転信号との位相差に相当する遅延時間である。
【0048】
信号反転器3の遅延時間τはパルス周期Tよりも十分に短くなるように、以下の式(1)に基づいて決定される。
【0049】
τ<<T=1/(2・f・D) ・・・(1)
fは三角波信号の周波数、Dはパルス信号のオンオフのデューティ比のダイナミックレンジである。周期Tは、遅延時間τの10倍以上であり、より好ましくは100倍以上が選ばれる。
【0050】
第1パルス増幅器10と第2パルス増幅器11は、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つパルス信号により、複数のMOSFET等からなるスイッチング増幅素子を交互にON/OFFさせる。
【0051】
このように、実施例2に係るD級増幅器によれば、第1パルス幅変調器4が、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つパルス信号を生成し、第2パルス幅変調器5が、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つパルス信号を生成するので、信号反転による信号遅延時間が出力パルス信号において無視できるようになる。即ち、出力パルス信号は、信号反転による信号遅延がない場合の波形と同じ波形になる。
【0052】
このため、負荷8に印加される出力パルス電圧の遅延時間が相殺されて、パルス出力の周波数成分の主体をなす奇数次高調波を大幅に低減できるので、電磁不要輻射を大幅に低減できる。即ち、実施例2に係るD級増幅器においても、実施例1に係るD級増幅器の効果と同様な効果が得られる。
【実施例3】
【0053】
図10は、本発明の実施例3に係るD級増幅器の構成を示す回路図である。図10に示す実施例3に係るD級増幅器は、図5に示す実施例1に係るD級増幅器に対して、第2低域通過フィルタ7を削除する。
【0054】
第1パルス幅変調器4と第2パルス幅変調器5の出力電圧においてノイズ発生が問題になるほど大きな振幅や歪みを伴っていない場合には、出力電流に含まれるノイズ成分のみを除去すればよい。この場合には、第2低域通過フィルタ7を削除し、第3低域通過フィルタ6のみを設けることでノイズ発生を抑制することができる。このため、電磁不要輻射を大幅に低減できる。
【0055】
なお、第2低域通過フィルタ7を削除する代わりに、第1低域通過フィルタ6を削除し、第2低域通過フィルタ7のみを設けるようにしても同様な効果が得られる。
【実施例4】
【0056】
図11は、本発明の実施例4に係るD級増幅器の構成を示す回路図である。図11に示す実施例4に係るD級増幅器は、図9に示す実施例2に係るD級増幅器に対して、第4低域通過フィルタ7aを削除したことを特徴とする。
【0057】
第1パルス幅変調器4と第2パルス幅変調器5の出力電圧においてノイズ発生が問題になるほど大きな振幅や歪みを伴っていない場合には、出力電流に含まれるノイズ成分のみを除去すればよい。この場合には、第4低域通過フィルタ7aを削除し、第3低域通過フィルタ6aのみを設けることでノイズ発生を抑制することができる。このため、電磁不要輻射を大幅に低減できる。
【0058】
なお、第4低域通過フィルタ7aを削除する代わりに、第3低域通過フィルタ6aを削除し、第4低域通過フィルタ7aのみを設けるようにしても同様な効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、家庭用電子機器や業務用電子機器に有する音響増幅器や信号増幅器等に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11