【実施例1】
【0025】
図5は、本発明の実施例1に係るD級増幅器の構成を示す回路図である。
図5に示すD級増幅器は、信号源1からの入力信号を増幅して負荷8に出力するためのものであり、信号遅延器2、信号反転器3、第1パルス幅変調(PWM)器4、第2パルス幅変調器5、第1パルス増幅器10、第2パルス増幅器11、第1低域通過フィルタ(LPF)6、第2低域通過フィルタ(LPF)7、三角波や鋸歯状波を出力する三角波発生器9を備える。信号反転器3は、入力信号源1からの入力信号を反転して第2パルス幅変調器5に出力する。
【0026】
信号遅延器2は、入力信号源1からの入力信号と信号反転器3で反転された反転信号との位相差に相当する遅延時間だけ、入力信号源1からの入力信号を遅延させて第1パルス幅変調器4に出力する。
【0027】
信号遅延器2としては、増幅度1の非反転増幅器、或いは、抵抗やコンデンサやコイルから構成される低域通過フィルタを1段又は多段接続したものを用いることができる。低域通過フィルタは受動回路であっても能動回路であっても良い。また、増幅度1の非反転増幅器の段数は、遅延時間に合わせて設定される。低域通過フィルタを用いる場合には、遅延時間に合わせて抵抗とコンデンサとの時定数を設定すれば良い。
【0028】
第1パルス幅変調器4は、コンパレータからなり、信号遅延器2からの遅延信号と三角波発生器9からの三角波信号とを大小比較することによってパルス幅変調を施し、パルス幅変調信号を第1パルス増幅器10に出力する。
【0029】
第1パルス増幅器10は、例えば、電源Vの両端に直列に接続された第1MOSFETと第2MOSFETとからなるスイッチング増幅素子を有し、第1パルス幅変調器4からのパルス幅変調信号に基づいて第1MOSFETと第2MOSFETとを交互にON/OFFすることにより増幅されたパルス幅変調信号を第1低域通過フィルタ6に出力する。スイッチング増幅素子には、MOSFET以外にも、IGBTやバイポーラトランジスタなど任意の増幅素子が適用できる。
【0030】
第1低域通過フィルタ6は、例えば、第1コイルと第1コンデンサとからなり、あるいは抵抗とコンデンサとからなり、第1パルス幅変調器4からのパルス幅変調信号の内、第1コイルと第1コンデンサとで決定される遮断周波数以下の低域周波数成分のみを通過させることにより、元の入力信号の周波数成分を取り出して負荷8に出力する。
【0031】
第2パルス幅変調器5は、第1パルス幅変調器4と同じ特性を有するコンパレータからなり、信号反転器3からの反転信号と三角波発生器9からの三角波信号とを大小比較することによってパルス幅変調を施し、パルス幅変調信号を第2パルス増幅器11に出力する。
【0032】
第2パルス増幅器11は、例えば、電源Vの両端に直列に接続された第3MOSFETと第4MOSFETとからなるスイッチング増幅素子を有し、第2パルス幅変調器5からのパルス幅変調信号に基づいて第3MOSFETと第4MOSFETとを交互にON/OFFすることにより増幅されたパルス幅変調信号を第2低域通過フィルタ7に出力する。
【0033】
第2低域通過フィルタ7は、例えば、第2コイルと第2コンデンサとからなり、あるいは抵抗とコンデンサとからなり、第2パルス幅変調器5からのパルス幅変調信号の内、第2コイルと第2コンデンサとで決定される遮断周波数以下の低域周波数成分のみを通過させることにより、元の入力信号の周波数成分を取り出して負荷8に出力する。
【0034】
図6は、
図3に示す従来例2のD級増幅器と
図5に示す実施例1に係るD級増幅器との出力波形を示す図である。
図6において、従来例2の非反転出力Vo1’は
図3に示す第1パルス増幅器105のパルス出力、従来例2の反転出力Vo2は
図3に示す第1パルス増幅器106のパルス出力である。従来例2の反転出力Vo2には、Vs’に対するVsrの遅れであるインバータ102(信号反転回路)の伝播遅延量DLに起因して、従来例2の非反転出力Vo1’に対する位相変化が発生している。実施例1の非反転出力Vo1は
図5に示す第1パルス増幅器10のパルス出力、反転出力Vo2は
図5に示す第2パルス増幅器11のパルス出力である。Vsは信号遅延器2の出力、Vsrは信号反転器3の出力である。
【0035】
従来例2の反転出力Vo2のパルスP1が従来例2の非反転出力Vo1’のパルスの中心から右側にずれるので、
図7に示すように、第1パルス増幅器105と第2パルス増幅器106との出力間の差動パルス(Vo2−Vo1’)にもパルスP1の影響が現われて、奇数次高調波が大きくなり、電磁不要輻射が大きくなる。なお、
図7において、一点鎖線で示すパルスは従来例2の非反転出力Vo1’である。
【0036】
これに対して、実施例1に係るD級増幅器では、
図6に示すように、信号遅延器2の出力Vsと信号反転器3の出力Vsrとに同一の遅延が生じていて、伝播遅延量DLの差がゼロである。つまり、反転出力Vo2のパルスP2が非反転出力Vo1のパルスの中心に位置するように調整しているので、
図8に示すように、第1パルス増幅器10と第2パルス増幅器11との出力間の差動パルス(Vo2−Vo1)のパルス信号の中心にパルスP2が現われる。この結果、実施例1に係るD級増幅器では、奇数次高調波が大幅に低減され、電磁不要輻射が大幅に低減される。
図8において、一点鎖線で示すパルスは、非反転出力Vo1である。
【0037】
即ち、信号反転器3による反転信号の遅延が信号遅延器2による信号遅延により相殺されることによって、負荷8に印加される出力パルス電圧の同相成分が正確に相殺される。この結果、実施例1に係るD級増幅器では、パルス出力の周波数成分の主体をなす奇数次高調波を大幅に低減でき、偶数次高調波と側波帯成分だけの電磁輻射となる。従って、実施例1に係るD級増幅器では、発生ノイズがほぼ半減し、電磁不要輻射が大幅に低減できる。実際に負荷を駆動する差動出力電圧波形においては、パルス電圧振幅は半減し、信号の極性に応じてパルス極性も制御されることで、従来通りの出力パワーが確保できる。
【0038】
また、電磁シールド板を許容レベルで簡易形状で構成できるとともに、その実装箇所も省略でき、フィルタ回路も大幅に削減できる。さらに、ノイズ障害発生の面から見ても携帯電話やコンピュータ等の無線接続への妨害を大幅に低減できるので、情報化社会への適合性が極めて高い技術となる。このように本発明の工業上、社会上の効果は極めて高い。
【0039】
表1は、従来例1と従来例2と実施例1とのパルス極性変調方式との出力周波数スペクトルの比較を示す表である。表1において、従来例1は、
図1に示す従来例1のD級増幅器の出力周波数スペクトルを示し、従来例2はは
図3に示す従来例2のD級増幅器の出力周波数スペクトルを示し、実施例1は、
図5に示す実施例1のD級増幅器の出力周波数スペクトルを示す。
【表1】
【0040】
表1の結果から、パルス極性変調方式回路に信号遅延器2(非反転回路)を挿入することにより、信号の伝播遅延を相殺して奇数次高調波を基本波の−35dB以下に低減できることを確認することができる。
【実施例2】
【0041】
図9は、本発明の実施例2に係るD級増幅器の構成を示す回路図である。
図9に示す実施例2に係るD級増幅器は、
図5に示す実施例1に係るD級増幅器に対して、信号遅延器2を削除し、第1低域通過フィルタ6と第2低域通過フィルタ7に代わり第3低域通過フィルタ6aと第4低域通過フィルタ7aを、三角波発生器9に代わり三角波発生器9aを用いる。
【0042】
図9に示すその他の構成は、
図5に示す構成と同一であるので、同一部分には同一符号を付する。ここでは、第1パルス幅変調器4、第2パルス幅変調器5、三角波発生器9aと第3低域通過フィルタ6a、第4低域通過フィルタ7aを説明する。
【0043】
三角波発生器9aは、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期(遅延時間が無視できる周期)を持つ三角波信号を発生する。
【0044】
第1パルス幅変調器4は、入力信号源1に接続され、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つ三角波発生器9aからの三角波信号と入力信号源1からの入力信号とを大小比較することにより、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つパルス信号を生成し、即ち、入力信号源からの入力信号に対してパルス幅変調を施して第1パルス増幅器10に出力する。
【0045】
第2パルス幅変調器5は、信号反転器3に接続され、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つ三角波発生器9aからの三角波信号と信号反転器3からの反転信号とを大小比較することにより、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つパルス信号を生成し、即ち、信号反転器3からの反転信号に対してパルス幅変調を施して第2パルス増幅器11に出力する。
【0046】
三角波発生器9aの発生する三角波信号の周期が長くなった分、出力パルスの周波数も低下するので、第3低域通過フィルタ6aと第4低域通過フィルタ7aの遮断周波数も低く設定する。
【0047】
信号反転器3の遅延時間とは、実施例1に係るD級増幅器で説明した伝播遅延量DL、即ち、入力信号源1からの入力信号と信号反転器3で反転された反転信号との位相差に相当する遅延時間である。
【0048】
信号反転器3の遅延時間τはパルス周期Tよりも十分に短くなるように、以下の式(1)に基づいて決定される。
【0049】
τ<<T=1/(2・f・D) ・・・(1)
fは三角波信号の周波数、Dはパルス信号のオンオフのデューティ比のダイナミックレンジである。周期Tは、遅延時間τの10倍以上であり、より好ましくは100倍以上が選ばれる。
【0050】
第1パルス増幅器10と第2パルス増幅器11は、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つパルス信号により、複数のMOSFET等からなるスイッチング増幅素子を交互にON/OFFさせる。
【0051】
このように、実施例2に係るD級増幅器によれば、第1パルス幅変調器4が、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つパルス信号を生成し、第2パルス幅変調器5が、信号反転器3の遅延時間よりも十分に長い周期を持つパルス信号を生成するので、信号反転による信号遅延時間が出力パルス信号において無視できるようになる。即ち、出力パルス信号は、信号反転による信号遅延がない場合の波形と同じ波形になる。
【0052】
このため、負荷8に印加される出力パルス電圧の遅延時間が相殺されて、パルス出力の周波数成分の主体をなす奇数次高調波を大幅に低減できるので、電磁不要輻射を大幅に低減できる。即ち、実施例2に係るD級増幅器においても、実施例1に係るD級増幅器の効果と同様な効果が得られる。