(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733855
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】内燃機関のためのエグゾーストターボチャージャ
(51)【国際特許分類】
F02B 39/00 20060101AFI20150521BHJP
F02B 37/24 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
F02B39/00 D
F02B37/12 301Q
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-512584(P2010-512584)
(86)(22)【出願日】2008年6月14日
(65)【公表番号】特表2010-530935(P2010-530935A)
(43)【公表日】2010年9月16日
(86)【国際出願番号】EP2008004807
(87)【国際公開番号】WO2009000436
(87)【国際公開日】20081231
【審査請求日】2010年2月18日
【審判番号】不服2014-3393(P2014-3393/J1)
【審判請求日】2014年2月24日
(31)【優先権主張番号】102007029004.9
(32)【優先日】2007年6月23日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】505448822
【氏名又は名称】アイ・エイチ・アイ チャージング システムズ インターナショナル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・エールハルト
【合議体】
【審判長】
中村 達之
【審判官】
林 茂樹
【審判官】
金澤 俊郎
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第00/71873(WO,A1)
【文献】
実開平6−30442(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B39/00
F02B37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気管内に配置されている排気ガスガイド部分(2)と、該排気ガスガイド部分(2)のホイールチャンバ(10)の中で回転可能に支持され、内燃機関から流出する排気ガスが流れ込むタービンホイール(4)とを備え、前記タービンホイール(4)へのガス流入が、ディストリビュータ(12)を用いて調整可能であり、該ディストリビュータ(12)が、回転可能に支持されたベーン(14)を備えたベアリングリング(13)及び成形ケーシング(15)を有し、前記ベアリングリング(13)と前記成形ケーシング(15)との間の第1の間隔(A)を固定するために、長手軸(17)、外面(18)及び断面(19)を備えた2つ以上のスペーサー要素(16)が設けられており、前記排気ガスガイド部分(2)が渦巻舌部(20)をもつ渦巻ダクト(8)を有している、内燃機関のためのエグゾーストターボチャージャであって、
前記エグゾーストターボチャージャは、前記渦巻舌部(20)の第2の後流(23)の領域の中に含まれる1つの第2後流領域用スペーサー要素と、前記第2の後流(23)の領域の中に含まれない1つ以上の他のスペーサー要素とを有し、前記第2後流領域用スペーサー要素の全体は、前記第2の後流(23)の領域の中に含まれ、
前記断面(19)がティアドロップ形に形成されており、
前記他のスペーサー要素(16)によって形成された第1の後流(21)が、隣接して配置された2つのベーン(14)によって形成された流路(22)を貫流することができるように、前記他のスペーサー要素(16)が位置決めされていることを特徴とする、エグゾーストターボチャージャ。
【請求項2】
前記長手軸(17)から前記外面(18)までの第2の間隔(MA)が、前記スペーサー要素(16)の断面(19)、及び/又はその長さ(L)にわたって可変であることを特徴とする、請求項1に記載のエグゾーストターボチャージャ。
【請求項3】
前記スペーサー要素(16)の弦長(SL)が、前記スペーサー要素(16)の最大の外形厚さ(PD)の少なくとも2倍の大きさを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のエグゾーストターボチャージャ。
【請求項4】
前記スペーサー要素(16)が回転可能及び/又は並進的に可動に支持されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエグゾーストターボチャージャ。
【請求項5】
前記ベーン(14)の境界層が影響を受けないように、前記スペーサー要素(16)が位置決めされていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエグゾーストターボチャージャ。
【請求項6】
前記ベアリングリング(13)と前記成形ケーシング(15)との間の間隔(A)を固定するために、前記ベアリングリング(13)の上に少なくとも3つのスペーサー要素(16)が配置されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のエグゾーストターボチャージャ。
【請求項7】
前記スペーサー要素(16)が、前記成形ケーシング(15)の上で可動に支持されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のエグゾーストターボチャージャ。
【請求項8】
前記スペーサー要素(16)が、非可動的に前記成形ケーシング(15)に固定されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のエグゾーストターボチャージャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に基づいた、内燃機関のためのエグゾーストターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1より、内燃機関のためのエグゾースロターボチャージャの排気ガスガイド部分におけるディストリビュータが知られている。ディストリビュータを用いて、タービンホイールのガス流入は、内燃機関から流出する排気ガスによって調整可能である。そのために、ディストリビュータは、複数の調整可能なベーンを有し、これらのベーンは、排気ガスガイド部分の中にある流入ダクトの中で、ホイールチャンバの上流側に位置決めされており、このホイールチャンバの中では、タービンホイールが、回転可能にサポートされている。ディストリビュータは、ベアリングリングと成形ケーシングとを有し、この場合に、ベアリングリングと成形ケーシングとは、ベアリングリングと成形ケーシングとの間に一定の第1の間隔が存在するようにして、スペーサー要素を用いて固定されている。流入ダクトの中でのスペーサー要素の位置決めに基づいて、排気ガスの流入にフロー抵抗が拮抗し、それによってエグゾーストターボチャージャの効率低下がもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第10325985A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、流入ダクトの中に配置されたスペーサー要素によって発生する効率低下の軽減を、簡単な処置により達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に基づいて、少なくとも1つのスペーサー要素が外面を有し、この外面までの、スペーサー要素の長手軸からの第2の間隔は、スペーサー要素の長さにわたって、及び/又は、スペーサー要素の断面にわたって可変である。有利なことには、それによって、スペーサー要素に基づいて形成されるフロー抵抗が軽減可能であるように、外面が形成可能である。
【0006】
更なる構造では、スペーサー要素の断面が、ベーンの断面に類似したティアドロップ形に形成されており、その結果、特に小さなフロー抵抗係数が実現可能である。
【0007】
スペーサー要素の弦長が、スペーサー要素の最大の外形厚さの少なくとも2倍の大きさを有するスペーサー要素の構造は、とりわけ有利である。
【0008】
スペーサー要素をスリーブ形に形成することによって、材料と重量とを、有利に軽減することができる。
【0009】
スペーサー要素の、回転可能なベアリング及び/又は平進的に可動なベアリングを用いて、エグゾーストターボチャージャのどの動作点でも、最小限のフロー抵抗を調整することができる。それによって、エグゾースロターボチャージャのどの動作点でも、最善の効率が達成可能である。
【0010】
効率を更に向上させるためには、スペーサー要素によって
形成された第1の後流が、第1のベーンと、第1のベーンに隣接して配置された第2のベーンとによって形成される1つの流路(ダクト)を通り、第2のベーンの境界層との相互作用なしに流れることができるように、スペーサー要素が位置決めされるべきである。原則的には、周りを流れで囲まれた要素の下流側に形成された流れの部分を後流と見なすべき
である。羽根状の要素において、その羽根の両端部が、流れの方向に配置された場合に、後流とは、羽根の後端部に形成された流れの部分である。この後流が、ここでは2つのベーンの間に形成された流路の中の流れに影響を与える結果になる。ベーンの境界層に衝撃を与える後流の発生は、境界層の厚み増加させる補強、又は破壊につながり、それによって、効率低下がもたらされる。スペーサー要素を適切に位置取りすることによって、このような破壊を回避することが可能であり、その結果、効率上昇をもたらすことができる。
【0011】
渦巻ダクトの入口では、排気ガスガイド部分の中に渦巻舌部が形成されている。渦巻舌部の領域の中では、渦巻ダクトの貫流において、排気ガスの流れの第2の後流が形成される。第2の後流の領域の中にスペーサー要素を位置取りすることによって、効率の付加的な上昇を達成することができる。第2の後流に基づいて発生する効率低下は、この領域の中にスペーサー要素を位置取りすることによって影響を受けないか、又は本質的でない程度の影響を受けるだけである。効率上昇は、スペーサー要素によって発生する効率低下が、第2の後流の領域の中での位置取りによって補整されることによって、制約されている。
【0012】
ベアリングリングと成形ケーシングとの間に配置されている、少なくとも3つのスペーサー要素を用いて、ベアリングリングと成形ケーシングとの間隔は、ベアリングリングの範囲を越えて固定されている。
【0013】
更なる利点と有効な実施形態とは、更なる請求項と図の説明と図とから読み取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】従来の技術に基づいたディストリビュータを備えたエグゾーストターボチャージャの排気ガスガイド部分を示す断面図である。
【
図2】
図1に基づくディストリビュータを示す上面図である。
【
図3】好適な外面を備え、第1の好適な位置に配置される、本発明に基づくエグゾーストターボチャージャのディストリビュータを示す上面図である。
【
図4】
図3に基づくディストリビュータを示す上面図であり、スペーサー要素が第2の好適な位置に配置されている。
【
図5】本発明に基づくエグゾーストターボチャージャのスペーサー要素を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1で説明された、エグゾーストターボチャージャ1の貫流可能な排気ガスガイド部分2は、図示されていない内燃機関の排気マニホールドの中に配備されており、この場合、内燃機関とは、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジンのことである。更に、エグゾーストターボチャージャ1は、図示されていない貫流可能な外気ガイド部分と、図示されていないマウント部分とを有し、このマウント部分は、内燃機関の、図示されていないインテークマニホールドの中に配置されている。
【0016】
エグゾーストターボチャージャ1は回転ツール3を有し、この回転ツールには、図示されていない燃焼空気の吸気及び圧縮のためのコンプレッサホイール、排気の膨張のためのタービンホイール4、並びにコンプレッサホイールをタービンホイール4とトルク耐性に接合している回転軸6付きシャフト5が含まれている。シャフト5は、エグゾーストターボチャージャ1のマウント部分の中に、回転可能に支持されており、このマウント部分は、エアガイド部分と排気ガスガイド部分2との間に位置取りされている。
【0017】
排気ガスガイド部分2の中へ排気ガスを流入させるために、排気ガスガイド部分2にインレットダクト7が形成されている。インレットダクト7は、排気ガスの調整のために役立ち、この排気ガスが、内燃機関の作動中にタービンホイール4を回転運動させる。シャフト5を用いて、コンプレッサホイールが同様に回転し、その結果、燃焼空気が吸気され圧縮される。
【0018】
インレットダクト7の下流側では、排気ガスガイド部分2の中に渦巻ダクト8が配置されており、この渦巻ダクトは、回転対称な流れを準備するために役立つ。さらに、渦巻ダクト8は、インレットダクト7と供給ダクト9との間に形成されており、この供給ダクトは、渦巻ダクト8の下流側に位置取りされている。渦巻ダクト8の入口では、排気ガスガイド部分2の中に渦巻舌部20が形成されている。供給ダクト9の下流側には、エグゾーストターボチャージャ2中にホイールチャンバ10が配置されており、このホイールチャンバの中には、タービンホイール4が回転可能に支持されている。ホイールチャンバ10の下流側では、排気ガスガイド部分2が、排気ガスガイド部分2からの排気ガス抜きのために、排出ダクト11を有する。
【0019】
内燃機関の低負荷及び低回転数の場合にも、内燃機関の高負荷及び高回転数の場合にも、最大限のエグゾーストターボチャージャ効率を達成可能にするためには、排気ガスガイド部分2の中に配置され可動的に形成されたディストリビュータ12を用いて、排気ガスが調整可能である。
【0020】
図1では、従来の技術に基づいたディストリビュータ12が説明されている。ディストリビュータ12は、タービンホイール4をリング状に取り囲むように形成されており、流れの調整用に準備されているベーン14をサポートするために、ベアリングリング13を有する。ベーン14は、ベアリングリング13で回転可能に支持されている。
【0021】
ベアリングリング13は、ベーン14が供給ダクト9の中に配置されているようにして、排気ガスガイド部分2の中に位置取りされている。ベアリングリング13の反対側には成形ケーシング15が位置取りされており、この成形ケーシング15は、流れの調整用に、及びディストリビュータ12の簡単な取付け用に形成されている。
【0022】
成形ケーシング15と、ベーン14がその位置を変更する際の傾きを回避するのに必要なベアリングリング13との間にある第1の間隔Aを固定するために、スペーサー要素16が供給ダクト9の中に位置決めされている。
図2で説明されている、従来の技術に基づいたスペーサー要素16は、円筒形に形成されている。
【0023】
図3では、本発明に基づいたエグゾーストターボチャージャ1のディストリビュータ12が、上面図で説明されている。スペーサー要素16は、長手軸17と、外面18と、長さLと、断面19とを有する(
図5を参照)。本発明に基づくエグゾーストターボチャージャ1のスペーサー要素16は、流体力学的に有利なように、外面18が長手軸17からの第2の間隔を有し、この間隔が断面19にわたって可変的であるように形成されている。
【0024】
図3では、スペーサー要素16の好ましい断面19が実現されており、この断面は、ベーンの断面に類似したティアドロップ形の形状を有する。長手軸17に沿ってスペーサー要素の断面をみてみると、断面19は一定に形成されている。同様に、外面18は、付加的又は排他的に、長さLにわたって変化可能な第2の間隔MAを有し、その結果、たとえば、スペーサー要素16は、対称的又は非対称的な外形を有し、くびれた外形又は膨らんだ外形を有する。
【0025】
本発明に基づくエグゾーストターボチャージャ1を用いて、エグゾーストターボチャージャの効率低下の軽減以外に、ベーン14の周囲の均等な流れが保証される。このことから、ベーン14の調整トルクの均等な配分が生じ、その結果、ディストリビュータ12の摩耗の軽減がもたらされる。
【0026】
ベアリングリング13の上には、合計で3つのスペーサー要素16が、回転軸6からの第3の間隔RDにおいて配置されており、この間隔は、回転軸6からのベーン14の第4の間隔RLよりも大きい。スペーサー要素16は、好ましくはスリーブ形に形成されている。更なる実施例では、少なくとも4つのスペーサー要素16が準備されている。
【0027】
この実施例では、スペーサー要素16の弦長SLが、スペーサー要素16の最大外形厚さPDの約4倍の大きさを有する。効率上昇をもたらすためには、弦長SLは、外形厚さPDの少なくとも2倍の大きさを有するべきである。
【0028】
スペーサー要素16は、ベーン14に応じて、流体力学的に有利な位置決めが設定されている。この位置決めは、スペーサー要素16によって
形成された第1の後流
21が、隣接して配置された2つのベーン14によって形成された流路22を通り、理想的には、この流路22の中央を貫流することができるように選択されている。
【0029】
図4に基づいて、もう1つの実施例では、更なる効率上昇のために、合計で3つのスペーサー要素16の1つが第2の後流23の領域の中に位置決めされており、この後流23は、渦巻舌部20により形成されている。
【0030】
この実施例では、スペーサー要素16が、ベアリングリング13の上で支持されている。もう1つの実施例では、スペーサー要素16が、付加的に成形ケーシング15の上で支持されている。さらにもう1つの実施例では、スペーサー要素16が、ただ成形ケーシング15の上でのみ支持されている。ベアリングリング13と成形ケーシング15との間に一定の間隔をもたらす機能以外に、スペーサー要素16には、成形ケーシング15が完全にスペーサー要素16によって支えられ、たとえば半径方向及び軸方向で固定的に位置決めされるという意味でのキャリア機能が割り当てられることもまた可能である。
【0031】
図示されていないもう1つの実施例では、スペーサー要素16が、回転可能及び/又は平進的に可動に支持されている。ベアリングリング13は、スペーサー要素16の平進的な運動のために、ナット形の、理想的には弓形に形成された開口部を有し、この開口部の中では、スペーサー要素16が移動可能な仕方で支持されている。追加的に、スペーサー要素16を調整するための、機械的構成を有する調整装置を準備することができる。この調整は、内燃機関の設定値に応じて、コントロールユニットを用いて行われる。