特許第5733857号(P5733857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733857
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】非磁性高強度成形品とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20150521BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20150521BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20150521BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/58
   C21D8/00 E
   B21J5/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2011-42775(P2011-42775)
(22)【出願日】2011年2月28日
(65)【公開番号】特開2012-180542(P2012-180542A)
(43)【公開日】2012年9月20日
【審査請求日】2014年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】502200748
【氏名又は名称】株式会社降矢技研
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】鳥塚 史郎
(72)【発明者】
【氏名】村松 榮次郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 由幸
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−252527(JP,A)
【文献】 特開2010−201496(JP,A)
【文献】 特開2002−060838(JP,A)
【文献】 特開2004−346420(JP,A)
【文献】 特開2004−346421(JP,A)
【文献】 特開2004−124131(JP,A)
【文献】 特開平06−297029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
B21J 5/00
C21D 8/00
C22C 38/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、透磁率が1.02以下であって、硬さがビッカース硬さで250以上500以下であることを特徴とする非磁性高強度成形品。
【請求項2】
化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、透磁率が1.02以下であって、硬さがビッカース硬さで250以上500以下であり、5度以上の方位差角の粒界密度が2μm/μm以上であることを特徴とする非磁性高強度成形品。
【請求項3】
化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、平均フェライト体積率が8体積%以下であって、硬さがビッカース硬さで250以上500以下であり、5度以上の方位差角の粒界密度が2μm/μm以上であることを特徴とする非磁性高強度成形品。
【請求項4】
化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、透磁率が1.02以下である非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線又は棒鋼を成形品加工用鋼線とし、これを加工温度が100〜500℃の範囲内で塑性成形加工することを特徴とする非磁性高強度成形品の製造方法。
【請求項5】
化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、透磁率が1.02以下であり、5度以上の方位差角の粒界密度が2μm/μm以上である非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線又は棒鋼を成形品加工用鋼線とし、これを加工温度が100〜500℃の範囲内で塑性成形加工することを特徴とする非磁性高強度成形品の製造方法。
【請求項6】
化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、透磁率が1.02以下であり、降伏点が0.8GPa以上で、5度以上の方位差角の粒界密度が2μm/μm以上である非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線又は棒鋼を成形品加工用鋼線とし、これを加工温度が100〜500℃の範囲内で塑性成形加工して、引っ張り強さを1GPa以上とすることを特徴とする非磁性高強度成形品の製造方法。
【請求項7】
化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、フェライト分率が8体積%以下であり、降伏点が0.8GPa以上で、5度以上の方位差角の粒界密度が2μm/μm以上である非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線又は棒鋼を成形品加工用鋼線とし、これを加工温度が100〜500℃の範囲内で塑性成形加工して、引っ張り強さを1GPa以上とすることを特徴とする非磁性高強度成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非磁性高強度成形品とその製造方法に関するものであり、詳しくは、電子分野等の磁場のかかる環境下や磁気特性を利用して機能する各種機器・装置に使用される部品、例えば、ねじ類、ボルト類、ファスナー類、モーターの回転軸(シャフト)等に好適で、過酷な成形加工を施されても非磁性が維持され、強度、特に降伏強さに優れている、非磁性高強度成形品とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油や石炭等の化石燃料の燃焼等によって排出される二酸化炭素が一因とされる地球温暖化が環境問題として取り上げられている。このような中、低炭素化へ向けて強化・加速すべき開発技術として、高性能モーターの開発が、特に重要な課題となっている。
【0003】
これは、世界の電力需要の50%以上を各種モーターが消費していると言われている現在、このさまざまな製品に使用されているモーターのエネルギー効率を高め、消費電力を減らすことにより、環境負荷低減に貢献できると考えられるからである。
【0004】
モーターの高性能化の方法には、<1>磁石の高性能化、<2>電磁鋼板の高性能化、<3>小型化等が挙げられるが、中でもモーターの小型化は、モーター自体を軽量化することにより省エネルギー、CO削減につながるため、重要な高性能化のための方法として位置付けられている。
【0005】
高性能モーターの小型化のための具体的な方法としては、部材の高強度化による小型化・薄肉化がある。特に、駆動部分であるモーターシャフトが小型化、細径化ができれば、その効果は大きい。
【0006】
モーターのシャフトは、モーターで発生させた動力を伝達する部品であるが、外径が小さくなる部分であり、強い負荷がかかるため、高い強度(曲げモーメント、ねじれモーメント)が要求される。同時に、モーターのシャフト材料は、磁石の影響を受けてシャフトが磁性を帯びることにより回転性能に影響が出ないようにするため、非磁性鋼であることが望ましい。
【0007】
一方、SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼は、良好な耐食性と焼鈍状態で非磁性のオーステナイト組織を有していることから、非磁性鋼として各種機器・装置に使用されている。
【0008】
しかしながら、オーステナイトは、フェライトに比べて積層欠陥エネルギーが小さく、加工硬化による変形抵抗が大きく上昇する。そのため、塑性加工や打ち抜き加工により成形品を製造する場合には、金型や金型部品に対する負荷が大きいという問題があり、またコスト的にも問題となる場合がある。
【0009】
SUS304の用途として高強度が要求される場合には、冷間加工を施して加工硬化させる必要がある。ところがSUS304はオーステナイト相が準安定であるため、冷間加工中にマルテンサイトの生成が誘起されて磁性を帯びるようになり、非磁性鋼としては使用できなくなる。
【0010】
また、高強度用非磁性鋼として、例えば窒素を高濃度に含有させたSUS304N1やSUS304N2が使用される場合もあるが、このステンレス鋼も冷間加工後の非磁性度は不充分である。
【0011】
高強度非磁性の用途としては、オーステナイト相がより安定なSUS316が使用される。しかしながら、この鋼は高価なMoを多量に含有している。Moは耐食性に対しては優れた効果を発揮するものの、強度、非磁性に対する寄与度合は低く、高価な割に非磁性鋼としては不適当な材料である。
【0012】
さらに、非磁性と高強度との両方を具備した材料のみならず、塑性加工を含む成形加工された成形品に対するニーズも高まっており、これに関連する技術も開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0013】
通常、高強度非磁性部品の製造では、調質圧延材を塑性加工したり打抜き加工したりして部品形状に成形した後、時効処理が施されている。このため、特に大量生産しようとする場合には、調質圧延材ではより軟質で塑性加工や打抜き加工の金型負担が小さく、時効処理後にはより硬質化、高強度化できる材料が望まれている。
【0014】
すなわち、調質圧延による加工硬化が小さく、時効処理により時効後の硬度が高い、いわゆる時効硬化特性ΔHVが高い材料が求められている。これに対して、加工度が大きい成形品を、非磁性を維持しつつ比較的高強度を有する成形品に製造する方法として、Ni及びN含有量を高くすると共に、Vを添加して時効硬化特性を高め、熱延焼鈍板を60%以上の冷間圧延を行なった後、連続焼鈍し、30%以上の調質圧延後に所定の時効処理を施す方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0015】
現在、モーターのシャフト材には、主にオーステナイト組織の非磁性ステンレス鋼が使用されている。その代表例であるSUS304CuやSUSXM7は、耐食性や被削性に優れるという特徴から一般的に用いられる。しかしながら、表1に示すように、SUSXM7は、Cu以外にも価格が高騰しているNiを含むためコストアップにつながり、元素戦略上も問題がある。
【0016】
【表1】
【0017】
磁性の問題を無視した場合、シャフトの材質としては、SUS420J2が挙げられる。これはマルテンサイト系ステンレスで、熱処理(焼入・焼戻し)が施してあり、高強度、高硬度である。しかし、磁性を持ってしまうという決定的弱点を持つ。
【0018】
また、非磁性のSUS304CuやSUSXM7は、降伏点が低いことが大きな問題点である。降伏点は、SUS304(310MPa)よりも低く、280MPa程度である。降伏点は、設計強度を左右するため、できるだけ高い方がよい。したがって、非磁性でなおかつ高降伏点であることが、シャフト材料としては理想的である。
【0019】
図1に示すように、冷間加工によって強度は約2倍以上になる。しかし、冷間加工を加えた場合、加工誘起マルテンサイト変態が生じ、磁性を持つようになってしまう。これは、マルテンサイトが強磁性体のフェライトであり、磁性を有するからである。
【0020】
マルテンサイト変態によって、一旦生じた磁性を消するためには、逆変態を起こす700℃以上に加熱する必要がある。この場合、せっかく上げた降伏点は、再び低下してしまう。図2に示す透磁率と磁性の関係を見てもわかるように、磁石につかない透磁率の基準は1.02である。オーステナイトステンレス鋼は、1.00であるが、冷間加工(伸線、鍛造、圧造、切削)によって、マルテンサイト変態するために透磁率が上昇する。
【0021】
図3に示すように、SUS304は、20%程度の減面を与える冷間加工で、磁石につくようになってしまう。SUSXM7は50%程度の冷間加工によっても非磁性を維持できる。このことからも、Cu、Ni添加の優位は明かであるが、50%以上の減面を材料に加えられることは、部品製造工程において日常的に生じることであり、非磁性にするためには、成分添加だけでは解決できない問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開昭61−261463号公報
【特許文献2】特開2007−302972号公報
【特許文献3】特開2002−060838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
特許文献2によれば、加工度が大きい成形品を非磁性を維持しつつ比較的高強度を有するステンレス鋼板を製造することができるが、Ni当量を19%以上と高く維持するためにNi及びN含有量を高くすると共に、Vを0.3〜0.7質量%程度添加する必要があり、更に500℃で1Hr程度の熱処理を施す必要がある。従って、コスト上昇を伴うことが考えられ、また、製造工程が複雑となる。
【0024】
特許文献3には、60〜300℃で温間伸線を行う方法が開示されているが、40%以上の加工で、加工誘起マルテンサイトの生成が抑制されるかは明かではない。さらに、降伏点を上げる方法について何ら示唆されていない。
【0025】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みなされたものであって、コスト上昇及び製造工程の複雑性を解消して、塑性加工により非磁性で高強度・高降伏点を有するオーステナイト系ステンレス鋼からなる成形品を、金型負荷を抑制しつつ製造する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
すなわち、本発明は、以下のことを特徴としている。
【0027】
第1に、化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、透磁率が1.02以下であって、硬さがビッカース硬さで250以上500以下の非磁性高強度成形品である。
【0028】
第2に、化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、透磁率が1.02以下であって、硬さがビッカース硬さで250以上500以下であり、5度以上の方位差角の粒界密度が2μm/μm以上の非磁性高強度成形品である。
【0029】
第3に、化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、平均フェライト体積率が8体積%以下であって、硬さがビッカース硬さで250以上500以下であり、5度以上の方位差角の粒界密度が2μm/μm以上の非磁性高強度成形品である。
【0030】
第4に、化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、透磁率が1.02以下である非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線又は棒鋼を成形品加工用鋼線とし、これを加工温度が100〜500℃の範囲内で塑性成形加工する非磁性高強度成形品の製造方法である。
【0031】
第5に、化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、透磁率が1.02以下であり、5度以上の方位差角の粒界密度が2μm/μm以上である非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線又は棒鋼を成形品加工用鋼線とし、これを加工温度が100〜500℃の範囲内で塑性成形加工する非磁性高強度成形品の製造方法である。
【0032】
第6に、化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、透磁率が1.02以下であり、降伏点が0.8GPa以上で、5度以上の方位差角の粒界密度が2μm/μm以上である非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線又は棒鋼を成形品加工用鋼線とし、これを加工温度が100〜500℃の範囲内で塑性成形加工して、引っ張り強さを1GPa以上とする非磁性高強度成形品の製造方法である。
【0033】
第7に、化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、Moを含有せず、残部がFe及び不可避不純物からなり、フェライト分率が8体積%以下であり、降伏点が0.8GPa以上で、5度以上の方位差角の粒界密度が2μm/μm以上である非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線又は棒鋼を成形品加工用鋼線とし、これを加工温度が100〜500℃の範囲内で塑性成形加工して、引っ張り強さを1GPa以上とする非磁性高強度成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、化学成分組成が、C=0.005〜0.08質量%、Si=0.15〜1.00質量%、Mn=0.30〜2.00質量%、P≦0.035質量%、S≦0.015質量%、solAl=0.005〜0.040質量%、Ni=8.00〜10.50質量%、Cr=18.00〜20.00質量%およびCu=0〜4.0質量%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、非磁性で高強度・高降伏点を有する非磁性高強度成形品を提供することができる。
【0035】
また、本発明の非磁性高強度成形品の製造方法によれば、コスト上昇及び製造工程の複雑性を解消して、塑性加工により非磁性で高強度・高降伏点を有する非磁性高強度成形品を、金型負荷を抑制しつつ製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】冷間加工による強度の上昇を示すグラフである。
図2】透磁率と磁性の関係を示す説明図である。
図3】冷間加工率と透磁率の関係を示すグラフである。
図4】SUS304鋼の温間引張試験における伸び−応力曲線を示すグラフである。
図5】温間圧延時のC方向断面の形状変化を示す顕微鏡写真である。
図6】温間圧延されたSUS304鋼の温間引張挙動を示すグラフである。
図7】ダブルヘッダー方式によるねじ頭部の成形を表す概略図である。
図8】実施例1および比較例1に用いた素線の透磁率を示すグラフである。
図9】ねじ頭部の成形における温間加工と室温加工の比較写真である。
図10】予備成形および本成形における荷重-変位曲線を示すグラフである。
図11】実施例1および比較例1のヘッダー成形体の透磁率を示すグラフである。
図12】実施例2および比較例2に用いた素線の透磁率を示すグラフである。
図13】ねじ頭部の成形における温間加工と室温加工の比較写真である。
図14】実施例2および比較例2の荷重曲線を示すグラフ及び写真である。
図15】実施例2および比較例2のヘッダー成形体の透磁率を示すグラフである。
図16】実施例3および比較例3に用いた素線の透磁率を示すグラフである。
図17】実施例3および比較例3のヘッダー成形体の透磁率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る非磁性高強度成形品の化学成分組成、透磁率及び硬さの特徴、並びに当該成形品の製造方法(塑性加工温度域)について詳細に説明する。
【0038】
なお、以下の説明では、本発明に係る非磁性高強度成形品の特に好ましい実施形態としての、ステンレス鋼ねじの頭部成形試験用の鋼線及び成形品を前提として詳述する。
1.化学成分組成の規定
本発明に係る非磁性高強度成形品の化学成分組成の適切な化学成分組成は以下の通りである。
<C>
Cは強力なオーステナイト生成元素であり、強度向上に効果的な元素である。本発明の非磁性高強度成形品の成分組成においてCの含有量は0.005〜0.08質量%である。多量に含まれると固溶強化によってオーステナイト相が硬質化し加工性が低下することがある。そこで、C含有量の下限を0.005質量%に、上限を0.08質量%に規定する。
<Si>
Siは溶製時に脱酸剤として添加される元素である。本発明の非磁性高強度成形品の成分組成においてSiの含有量は0.15〜1.00質量%である。Siの含有量が多くなるにつれ耐食性や冷間加工性の低下を招く場合がある。そこで、Alとの複合脱酸作用として効果が発揮される0.15%を下限とし、耐食性や冷間加工性を確保する上で1.0%を上限に規定する。
<Mn>
Mnはオーステナイト生成元素であり、非磁性のオーステナイト組織を生成する元素であり、透磁率を低く保つためにも重要な元素である。本発明の非磁性高強度成形品の成分組成においてMnの含有量は0.30〜2.00質量%である。しかしMnを過度に添加すると耐食性の低下や加工性を損ねる原因となる場合がある。そこで、下限を0.30質量%に、上限を2.00質量%に規定する。
<P>
Pは粒界に偏析し、粒界腐食感受性を高める他、靱性の低下を招く。本発明の非磁性高強度成形品の成分組成においてPの含有量は0.035質量%以下(但し0含まない)である。Pの含有量は低い方が望ましいが、必要以上の低減はコストの上昇を招く。従って、P含有量は0.035質量%以下、好ましくは0.030質量%以下である。
<S>
本発明の非磁性高強度成形品の成分組成においてSの含有量は0.015質量%以下(但し0含まない)である。SはMnと反応してサルファイドを生成し、これが鋼中に多く存在すると機械的強度の低下やねじの頭部成形試験用の鋼線の製造工程における熱間加工性を低下させる場合がある。従って、Sの含有量は0.015質量%以下、好ましくは0.010質量%以下である。
<solAl>
本発明の非磁性高強度成形品の成分組成においてsolAlの含有量は0.005〜0.040質量%である。
【0039】
Alは鋼材における酸化物系非金属介在物の清浄性を確保して鋼材の材質特性を確保するために、溶製時に添加することが必要な脱酸元素である。上記清浄性が劣化するとAl系介在物により鋼材の表面清浄を劣化させ、塑性加工時の割れ発生の起点となる。
【0040】
Al系介在物の量は、主として溶製工程で溶鋼から浮上分離する程度により決まるが、Alの含有量の分析値が全Al含有量ではAlをも含めた値となるから、Alを除いたAl含有量で規定すべきである。即ち、全Al含有量ではなく、酸に可溶であるsolAlの含有量とする。そして、溶製時における十分な脱酸反応とAl系介在物の十分な浮上分離との両立を満たすために、下限値を0.005質量%とし、上限値を0.040質量%に規定する。
<Ni、Cr、Cu>
オーステナイト系ステンレス鋼として、コスト負担のかかるNi及びCrの含有量を適宜確保することが必要である。本発明では、コスト上昇を抑えること、及びねじの頭部成形試験用の鋼線入手の容易性の観点から、JIS 304の成分系を基本とする。なお、本発明成形品の製造において、特に、一層の圧造性向上と塑性加工後の磁性化抑制を目指す場合にはCuを添加することとし、この場合にはCr含有量の下限値を低く規定する。
<Ni>
本発明の非磁性高強度成形品の成分組成においてNiの含有量は8.00〜10.50質量%である。NiはMnと同様、オーステナイト生成元素であり、非磁性のオーステナイト組織を生成する元素であり、透磁率を低く保つためにも重要な元素である。そのためには8.00質量%以上が必要である。Niは、含有量の増加に従って磁性化及びδフェライト相生成を抑制する作用が大きくなる。しかし、高価な元素であるため、過剰量のNi添加は鋼材コストを上昇させる原因ともなるので、この観点から10.50質量%以下に規定する。
<Cr>
本発明の非磁性高強度成形品の成分組成においてCrの含有量は18.00〜20.00質量%、Cuを複合添加する場合は17.00〜20.00質量%である。Crは耐食性を向上させるために、ステンレス鋼に必要な元素であり、18.00質量%以上含有させることが望ましい。
【0041】
但し、一層の圧造性向上を目指すためにCuを添加する場合には、Cr含有量の下限値を17.00質量%まで減らしてもよい。一方、Crは含有量の増加に応じて加工性が向上し、加工後の磁性化も抑制される。しかし、過剰量のCr添加は、材質を硬質化することにより加工性を却って低下させる。そこで、上限を20.00質量%に規定する。
<Cu>
本発明の非磁性高強度成形品の成分組成においてCuの含有量は0〜4.00質量%である。Cuは加工後の磁性化を抑え、δフェライト相の生成を抑えるために有効であり、また、耐食性の向上にも有効であり、更に、Cuは特に圧造性の向上にも効果がある。
【0042】
このような効果を望む場合には、1.00質量%以上とする。一方、Cu含有量が過剰になると、δフェライト相生成の傾向を示し、非磁性化に不利となる。また、熱間圧延塩割れ発生の原因となる。そこで、4.00質量%以下に規定する。
【0043】
また、オーステナイトの安定性の指標であるMd30が−100℃以上の成分系に対し、本発明は有効性を発揮する。
2.透磁率が1.020以下、又はフェライト分率が8体積%以下の規定
これは本発明の非磁性高強度成形品の非磁性の用語の定義に関する。
【0044】
電子機器部品は種々の磁気発生を誘導するための装置を備えているために、モーターのシャフト材等は磁性を持たないものが求められている。
【0045】
磁性の有無を評価する手段として透磁率の測定がある。一般的に透磁率が1.020以下であれば磁性を持たないとされ、1.010以下であれば非磁性とされる。
【0046】
そして、上記の電子機器部品では透磁率が1.020以下であることが必須の条件とされている。
【0047】
単なる非磁性という用語は、一般的に磁石に付かないという意味で使われることが多いが、例えば非磁性環境で使う軸受の区分では、透磁率1.02以下である非磁性軸受と透磁率1.001以下である完全非磁性軸受とに大別されている。
【0048】
本発明に係る非磁性高強度成形品は、その用途により完全非磁性であることがより一層望ましい場合や、非磁性に極めて近ければ問題はないとする場合にも用いることができるものである。
【0049】
ここで、非磁性に極めて近く、磁石に殆ど付かないが僅かに磁性があると判断される場合、即ち、引張試験後の試験片の組織を検鏡したところ、フェライト分率が8体積%以下であることが確認された。これは僅かに加工誘起マルテンサイト変態が発生していたものと考えられる。
【0050】
そこで本発明で用いる非磁性の用語の定義としては、磁石に付かない場合乃至透磁率1.02以下、又は、殆ど磁石に付かない場合乃至僅かに磁性がある場合(8体積%以下)と定義する。
【0051】
そして、非磁性が求められる成形品としては、ねじ、ボルト、ナット、シャフト、リベット、ピン、スタッドボルト、ファスナー類、歯車、軸類等の機械構造部品(日本鉄鋼協会発行、渡辺敏幸著、機械用構造用鋼 P46、P97参照)を指すものとする(なお、本発明における成形品については、後述する実施例の最終項の(ねじ以外の成形品に対する適用の妥当性について)を参照)。
3.成形品の硬さの規定
本発明の非磁性高強度成形品は、例えば、ねじ製品を対象とした場合には、呼び径が5mm以下(M3以下)といったマイクロねじをも含むものである。このようにサイズが小さな成形品においては、引張試験片を作製することが困難な場合がある。
【0052】
そこで、本発明に係る非磁性高強度成形品の強度特性としては、成形品の適切な部位における硬さ測定値、中でもマイクロビッカース硬さ(HV)を採用することができる。
【0053】
これは、硬さ測定値と強度特性との相関関係による評価基準である。
【0054】
成形品の硬さ測定値を採用する効果としては、硬さの上限値を規定することにより、成形品を塑性成形加工するときに使用する金型や工具類の寿命延長に有利となることが重要である。更に、硬さの上限値を規定することは、成形品の延性及び靭性を確保する上においても有利である。
【0055】
本発明の非磁性高強度成形品では、成形品の硬さをビッカース硬さで、芯部若しくは最深部又は重心部において250以上とし、しかも最大硬さ分布領域において500以下と規定する。
【0056】
250以上と規定する理由は、ビッカース硬さの引張強さへの近似的換算値がSAE J 417に掲載されている。これによればビッカース硬さ(HV)=250は引張強さ(TS)=795MPaである。本発明は、非磁性・高強度成形体を提供するものであるが、高強度の一般的な指標は引っ張り強さで800MPaであり、そのため、最低硬さを250とした。一方、本発明の方法により製造される成形品の最大硬さが分布すべき領域内の最大硬さHVを500以下と規定する理由は、遅れ破壊の防止である。フェライト鋼の場合は、引張強さ1300MPa(HVで450相当)を超えるような場合、遅れ破壊の危険があるが、オーステナイト鋼の場合は、遅れ破壊には比較的強い。しかし、遅れ破壊発生防止観点から、500以下が望ましい。
4.粒界比表面積から計算される平均オーステナイト粒径1ミクロン以下および降伏点0.8GPa以上の規定
本発明の非磁性高強度成形品において重要な性質は、降伏点が0.8GPa以上あることである。オーステナイト系材料は、低降伏比であり、引張強さの高さは、必ずしも、降伏点の高さを示すわけではない。ビッカース硬さは、降伏点と引張強さの中間的値であるため、降伏点をある程度反映している。
【0057】
オーステナイト組織で降伏点が0.8GPaというのは、通常のSUS304鋼の3倍の値であり、きわめて高降伏点である。フェライト系の高強度成形体、例えば、ねじに関して、素材の降伏点が0.8GPa(9T相当)は、高強度の基準といえる。したがって、本発明では0.8GPaに規定する。
【0058】
降伏点を決定するものは結晶粒径であり、結晶粒が微細なほど降伏点が高い。フェライト組織の場合、粒径が0.9μmで降伏点700MPa、0.6μmで0.9GPaとなる。これは、オーステナイトでも同様である。
【0059】
成形体では、直接その降伏点を測定できないことが多い。したがって、平均結晶粒径をもって、降伏点を表すこともできる。さらに、結晶粒の形が等軸でない場合も、日常的にありえることである。その場合は、粒界の単位面積あたりの密度(Sv値)をもって代替することが可能である。
【0060】
また、Sv値と粒径dの関係式として
d=2/Sv
が知られている。2/Sv<1μmとなることが、高降伏点の指標とできる。さらに、発明者らは、結晶粒の微細化が加工誘起変態の抑制につながるという知見を得た。結晶粒の微細化はオーステナイトを安定にし、加工誘起変態を抑制するからである。その際の結晶粒径も1μmが目安である。ただ、結晶粒径が等軸でなくても、伸長粒でもオーステナイトの安定化には有効である。結晶粒径に相当する指標として、この場合も粒界密度を用いることが可能である。
【0061】
粒界密度の測定方法は、電子線後方散乱回折、いわゆるEBSD法であり、方位差角5度以上の粒界の測定部位の面積における長さ比、Sv=粒界長さ/面積で表すことができる。計量形態学的には、上述のようにd=2/Svとして、相当等軸粒径に置き換えることができる。d≦1μmに相当するSv≧2(μm/μm)であれば、オーステナイトは安定になり、加工誘起変態の抑制効果をもつ。また、高降伏点を保証する。
5.製造方法について
本発明の非磁性高強度成形品の製造方法の特徴は、ねじの頭部成形試験用の鋼線のオーステナイト系ステンレス鋼線又は棒鋼を塑性成形加工する工程において、加工誘起マルテンサイト変態を実質的に起こさせずに、非磁性を維持した状態で高強度の成形品を製造することにある。
【0062】
ここで、実質的に加工誘起マルテンサイト変態を起こさせないとは、フェライト分率を8体積%以下に制御することをいう。フェライト分率が8体積%以下であれば、極僅かな磁性が認められるが、実用上殆ど問題がない場合がある。フェライトとは、マルテンサイトの意味である。
6.予備実験
加工誘起マルテンサイト変態を起こさせずに、非磁性を確保するための塑性加工条件を確立するために、以下の予備実験を行なった。その結果、SUS304の成分のねじの頭部成形試験用の鋼線を、100℃以上500℃以下の温度範囲における温間塑性加工によって、加工誘起マルテンサイト変態が実質的に生じなくなり、磁性の発生が抑制されることを知見した。加工温度が200℃以上の場合、加工誘起変態は全く生じなくなる。以下予備実験1及び予備実験2において詳細に説明する。
<予備実験1>
SUS304鋼の温間引張試験における伸び−応力曲線を図4に示す。
【0063】
成分は、表5に示す実施例1と同様である。25℃の常温引張の場合、300MPaで降伏後、加工硬化をつづけ、最大引張強さ690MPa、60%まで伸びて破断した。大きな加工硬化が特徴であり、破断後の試験片は、磁性を有するようになった。
【0064】
これは、オーステナイトが変形によって、マルテンサイトに変態したため、大きな加工硬化と伸びが発現したものである。マルテンサイトの生成によって、試験片は磁性を持つようになった。
【0065】
100℃で引張試験を行った場合、常温引張の場合と異なった結果を得た。降伏強さは220MPaに低下し、伸び−応力曲線において、加工硬化は、常温引張にくらべ、大きく低下し、最大引張強度は、530MPaに低下した。伸びもやや減少し、破断伸び53%となった。磁性は、ごくわずかに存在するだけとなった。
【0066】
200℃、300℃、400℃の引張試験結果は、ほぼ同等であった。降伏強さは210〜155MPa、引張強さは500〜490MPaで、伸びは40%まで低下している。これは、加工誘起変態が生じなくなったためである。この結果、磁性はなくなった。
【0067】
500℃の場合は、さらに、降伏強さ、引張強さ、伸びが低下する。
【0068】
また、表2に示すように、動的ひずみ時効と思われるセレーションが見られた。引張試験のような比較的大きな加工で、完全に非磁性を維持できる加工温度は200℃といえる。用途によっては、100℃での加工も効果的である。
【0069】
以上より、SUS304非磁性ステンレス鋼は、冷間での塑性加工では磁性が発生するが、100℃以上での塑性加工により、加工誘起マルテンサイト変態は著しく低減されるか、若しくは発生しなくなり、オーステナイトは、オーステナイト状態が維持され、磁性は殆ど発生しないか、又は発生しなくなることがわかる。
【0070】
なお、磁性の有無は、磁石に付くか否かで判定した。
【0071】
【表2】
【0072】
<予備実験2>
市販の線径が6.0mmφのSUS304の非磁性オーステナイトステンレス鋼線を、450〜550℃での温間溝ロール圧延により3mmφとし、非磁性で引張強さが1320MPaと、一段と高強度になった鋼線を調製した。
【0073】
その際の当該溝ロール圧延は、図5にC方向断面の形状変化を示すように、第1工程がオーバル→スクエア、第2工程がオーバル→スクエア、第3工程がオーバル→丸のカリバーで行ない、減面率は74%である。このように、温間溝ロール圧延によって調製された鋼線は、結晶粒が微細化されており、磁性がなく、100%オーステナイト状態であった。
【0074】
上記450〜550℃での溝ロール圧延で調製された3mmφの非磁性オーステナイトステンレス鋼線を、常温及び100、200、300、400及び500℃の各温度において引張試験を行なった。その結果得られた応力−ひずみ線図を図6に示す。また、引張試験後の試験片が磁石に付くかどうかを試験した。表3に引張試験及び磁石試験の結果をまとめて示す。なお、試験片寸法は、径=1.5mm、標点距離=7.5mmである。
【0075】
【表3】
【0076】
常温の23℃では、1340MPaの引張強さを有し、伸びは、7.3%である。引張試験の温度上昇に伴って、強度と伸びは低下している。一方、磁性は、23℃の引張では、破断面に明確に認められたが、100℃で僅かに有ったがほぼなくなり、200℃、300℃、400℃及び500℃では、磁性は全くなくなった。
【0077】
このように、あらかじめ温間塑性加工が施され、結晶粒が微細化され、高強度化されているSUS304の非磁性オーステナイトステンレス鋼線に対して100℃以上での温間塑性加工を施しても、加工誘起マルテンサイト変態は著しく低減されるか、発生しなくなり、オーステナイトは、オーステナイト状態が維持され、磁性が発生しなくなることがわかる。
【0078】
以上の通り、SUS304非磁性ステンレス鋼を200〜500℃の範囲内での温間塑性加工をすれば、加工誘起マルテンサイトを起こさせず非磁性を確保することができること、及びこれに伴い加工硬化を抑制することができることがわかった。
【0079】
100℃ではわずかに磁性をもつが、低温温間加工は、オーステナイトステンレスの非磁性維持に有効な方法である。また、大きな加工硬化は抑制される。
【0080】
さらに、降伏点が800MPa以上の材料では、温間温度域で加工硬化はない。高降伏点オーステナイトステンレス鋼の温間引張挙動は、過去報じられたことがない。高降伏点オーステナイトステンレス材料の温間塑性加工による部品成形は、非磁性・高強度部品製造のブレークスルー技術である。
【0081】
110〜210℃の範囲内における温間塑性加工により、加工誘起マルテンサイト変態が起きず、加工硬化が抑制される結果、圧縮加工に必要な荷重が軽減されることを確認した。以下、予備実験3において詳細に説明する。
<予備実験3>
市販の線径が1.5mmφのSUS304非磁性鋼線(引張強さ=520MPa)又は線径が2.0mmφのSUS304非磁性鋼線(引張強さ=520MPa)を用い、各鋼線を室温と120℃の温間温度又は室温と110℃の温間温度とにおいて、圧縮率60%と80%、又は70%と80%との圧縮試験を行ない、荷重を測定した。その試験条件と試験結果を表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
上記予備試験の結果から、SUS304の非磁性鋼線に圧縮率が60〜80%の圧縮加工を100〜120℃での温間で加えるときに必要な荷重は、室温で加えるときの荷重に比較して、約80〜90%程度に軽減されることが分かる。しかも、上記温間加工による磁性の発生は殆ど起こらないことがわかる。
【0084】
このように、温間加工は、圧縮加工において、室温加工に比べ、より低荷重で部品成形が可能なことが示された。このことは、金型寿命を延ばす等、利用価値は高い。
【実施例】
【0085】
以上の<予備実験1>から<予備実験3>で得られた知見をも踏まえて、本発明の範囲内にある実施例1〜3、及び本発明の範囲外にある比較例1〜3の試験として以下に詳細に説明する。但し、これらの実施例1〜3は本発明を限定するものではなく、前・後記の本発明の趣旨に適合し得る範囲内で設計変更することはいずれも、本発明の技術的範囲内に含まれるものである。
<スタート材料からねじの頭部成形試験用の鋼線までの調製工程概要>
市販のSUS304の非磁性ステンレス鋼線又は市販のSUSXM7の非磁性ステンレス鋼線を、実施例1、2、3、比較例1、2、3のスタート材料として使用した。
【0086】
実施例1、2、3、比較例1、2、3に用いた市販のSUS304の非磁性ステンレス鋼線及び市販のSUSXM7の非磁性ステンレス鋼線は具体的には以下のものを用いた。
実施例1及び比較例1:鈴木住電ステンレス株式会社製 品名:ナンシツ ステンレスコウセン 規格:GIS G 4309 SUS 304-W1 製鋼番号:E81803
実施例2及び比較例2:鈴木住電ステンレス株式会社製 品名:ナンシツ ステンレスコウセン 規格:GIS G 4309 SUS 304-W1 製鋼番号 :E77164
実施例3及び比較例3:神鋼鋼線ステンレス株式会社製 品名:冷間圧造用ステンレス鋼線 規格:GIS G 4315 WSA (SUS XM7) 鋼番:F26269
スタート材料の化学成分組成及び引張強さは後記の表5に示す。
【0087】
上記スタート材料の鋼線(市販のステンレス鋼線)に対して、実施例1、比較例1、実施例3、比較例3においては、直線研磨加工により線径を1.35mmφまで減径した。また実施例2、比較例2においては、所定温度における温間溝ロール圧延を施すことにより結晶粒の微細化により高強度化した非磁性鋼線を調製し、これを表面研磨処理により線径を1.35mmφまで減径した。
【0088】
上記で調製された線径1.35mmφの鋼線はいずれも非磁性であることを確認した。線径を1.35mmφまで減径した理由は、JIS M1.7の十字リセス付小ねじの頭部を成形加工するための試験に供するためであり、これに適した線径は1.35mmφだからである。
【0089】
【表5】
【0090】
<M1.7ねじの頭部成形加工方法>
線径が1.35mmφであるねじの頭部成形試験用の鋼線を用い、実施例1〜3又は比較例1〜3におけるねじの頭部成形加工の工程について説明する。なお、ここにおいてねじの頭部成形加工は全て、塑性成形加工によるものであり、切削加工は一切含んでいない。
【0091】
成形したねじの頭部は、M1.7の十字リセス付小ねじの頭部であり、ねじの成形加工方法は、従来採用されている方法の内、下記の冷間圧造による方法で行なった。
(1)ヘッダー加工方法
ヘッダー加工をダブルヘッダーマシンにより、頭部の予備成形と本成形とを行なう。その成形方法を図7を用いて説明する。
【0092】
ねじの頭部成形試験用の鋼線(1)を、線送りローラで前方に送り込み、ストッパー(2)に当たった位置で、ナイフ機構(3)で所要の長さに切断する。次に、切断された鋼線(1)をダイス(4)の側に送り込み、第1パンチ(予備据込みパンチ)(5)でダイス(4)の中に押出し、ねじの頭部に相当する位置を含めた予備成形をし、次いで第2パンチ(仕上据込みパンチ)(6)を予備成形体の位置へ移動させてその予備成形体をダイス(4)の方向に押し出すことにより、ねじの外形に成形すると共に、ねじの頭部(7)の頂面に十字形状のリセス(ドライバーでねじを締め込むための窪み部)を形成させる(本成形)。
【0093】
次いでノックアウトピン(8)で、このヘッダー成形体(9)を押し出す。本発明の明細書においてヘッダー成形体(9)とは、ねじの頭部のみが予備成形と本成形とにより加工が完了し、次のローリングによるねじ山の成形加工をしてない状態の成形体を指す、と定義する。
(2)なお、本明細書の実施例及び比較例では、ローリング加工までは行なわず、ヘッダー成形体を完成したねじ成形体とみなして各種の確性試験を行なった。その理由は、ローリングによる成形加工は、ヘッダーによる成形加工に比べるとかなり緩やかであり、例えば3次元有限要素法により両者の歪み分布を数値解析しても、ローリング加工による最大ひずみはヘッダー加工による最大ひずみと比較してかなり小さいので、ローリング加工による加工誘起マルテンサイトの生成は無視した。
【0094】
よって、ヘッダー加工における成形性試験及びヘッダー成形体についての磁性試験及び機械的性質試験を行なって、本発明の実施例で得られるヘッダー成形体の性能を評価した。
【0095】
但し、ここでは、完成ねじの製造方法例として、上記ヘッダー加工に続くローリング加工方法を下記に記述する。
(3)上記(1)項で得られたヘッダー成形体(9)の軸の材料部分(11)に、ローリング加工によりねじ部(ねじ山)を成形するために、ねじ転造盤(ローリングマシン)にヘッダー成形体(9)を送り込んで、転造ダイスに軸の材料部分(10)を押し付けながら転がすことにより、ダイスのねじ山の先端を軸の材料部分(10)にくい込ませて徐々にねじを揉み出し、形成させる。
<実施例1、比較例1>
ねじの頭部成形試験用の鋼線の調製
実施例1及び比較例1では、表5に示す化学成分組成を有する市販の線径2.0mmφのSUS304非磁性ステンレス鋼線を表面研磨により線径1.35mmφの鋼線に仕上げた。得られた鋼線の引張強さ(TS)は720MPa、絞り(RA)は81%であった。
[鋼線の磁性試験]
上記で得られた頭部成形試験用の鋼線の磁性試験を行なった。鋼線が磁石に付くか否かの試験を行なった結果、磁石には付かなかった。
【0096】
次に透磁率の測定試験を行なった。透磁率測定では磁気センサーに超伝導量子干渉素子(SQUID)を使用し、磁場を5テスラまでかけて、B−H曲線を作成し、透磁率μを求めた。
μ=1+4πχ
χ=M/H
ここでχは磁化率、Mは磁気モーメント、Hは磁界を表す。なお、透磁率測定の試験条件は以下全ての試験で同じである。
【0097】
図8に鋼線の透磁率測定のB−H曲線を示す。これにより、実施例1及び比較例1におけるねじの頭部成形試験に供する鋼線の透磁率は1.004である。この鋼線は非磁性であることがわかる。
【0098】
こうして得られた鋼線を、図7において説明した方法によりM1.7のねじの頭部十字リセスの加工方法により、ヘッダー成形体(前記定義の通り、頭部のみであってねじ山は形成されていない)までを成形する試験(本明細書においては、「ねじの頭部成形試験」という)を行なった。
[ヘッダー加工温度]
実施例1におけるねじの頭部成形は、次のようにして行ない150〜250℃で成形した。先ず、約300℃の温風を、図7のヘッダーマシンのダイス(4)、第1パンチ(5)及び第2パンチ(6)に当て、これらをその周辺温度も含めて150℃以上になるように加熱を行ないつつ第1パンチ(5)で予備成形を行ない、次いで第2パンチ(6)で本成形を行なった。その結果、接触式熱電対によるパンチ(5)、(6)の周辺温度は、200℃となり、ダイス(4)の周辺温度は160℃であった。なお、この方法により、被加工材の切断された鋼線(1)の温度は150〜250℃となっていることを熱電対により確認した。これに対して、比較例1におけるねじの頭部の成形は、実施例1におけると同様にして行なったが、加工温度は室温で行なった。
[ヘッダー加工の試験結果]
実施例1及び比較例1におけるねじの頭部成形試験結果は次の通りである。
(1)成形性について
ねじの頭部成形には、優れた圧造性が要求される。図9に示すように、実施例1ではヘッダー加工において割れの発生は認められず、ねじの頭部成形性は良好であった。これは、鋼線の絞り(RA)が81%と高延性を有するので、良好な圧造性を示したものである。比較例1では、小さな割れが見いだされる場合があった。
(2)ヘッダー加工時の負荷荷重について
上記ヘッダー加工時の負荷荷重は、小さい方がヘッダーマシーンに対する負荷は軽減され、金型寿命にとっても望ましいことである。ここでは、ヘッダー加工時に、ねじ頭部の予備成形時における荷重と、本成形時における荷重を測定し、温間で加工した実施例1と室温で加工した比較例1との差異を試験した。
【0099】
実施例1及び比較例1におけるヘッダー加工による予備成形時および本成形時の荷重-変位曲線を図10に例示する。
【0100】
図10によれば、予備成形時における圧縮量2.0mmにおける荷重は、実施例1では2140Nであり、比較例1の2530Nに対して約84.6%に軽減した。一方、本成形時における圧縮量2.0mmにおける荷重も、実施例1では4440Nであり、比較例1の7670Nに対して約57.9%に軽減した。
【0101】
以上の結果より、実施例1での温間加工時の方が、比較例1の室温加工時に比べて成形性が大きく向上すると共に、加工時の負荷が大幅に軽減されることが分かる。これらはまた、ねじ頭部の加工精度が向上し、金型寿命の向上にも寄与することを示すものである。
(3)ヘッダー成形体の磁性試験について
次に、ヘッダー成形体の磁性試験を行なった。但し、供試体は前記<M1.7ねじの頭部成形加工方法>の第(2)項で述べた理由により、ヘッダー加工によりねじの頭部の成形が完了したところまでの成形体であり、軸の材料部分(前記図7の符号10に相当)に対するローリング加工を施す前のものである、即ちヘッダー成形体であるから、未だねじ山は成形されていないから、ねじ成形体として完成されたものではない。しかし、頭部成形は、ねじ山成形に比べ十分、強加工であり、磁性の発生の有無に関しては十分な情報が得られる。
【0102】
そして、磁性試験の対象位置は、ねじの頭部(前記図7の符号7)を対象とした場合、及びヘッダー成形体(前記図7の符号9)全体(ねじ山が成形されるべき軸部を含めた全体)を対象とした場合の両方である。これ以後においても全て同じである。実施した磁性試験方法は、磁石試験(磁石に付くかどうか)、及び透磁率の測定試験の2種である。
【0103】
磁石試験によれば、実施例1では、ねじの頭部及びヘッダー成形体全体のいずれもが磁石には付かない。これに対して比較例1では、ねじの頭部及びヘッダー成形体全体のいずれもが磁石に付いた。
【0104】
一方、実施例1及び比較例1の磁性状態を定量化するために、透磁率測定を行なった。これによるB−H曲線を、図11に示す。これによれば、両者間には透磁率には大差があり、比較例1の方が大きい。
【0105】
なお、透磁率の測定試験条件は、前記[鋼線の磁性試験]で記載した条件と同じである。これ以後においても全て同じである。また、ねじ頭部の透磁率は磁界が0〜4000(Oe)の勾配から算定し、ヘッダー成形体全体の透磁率は磁界が0〜50000(Oe)の勾配から算定した。これ以後においても、算定方法はこれに準じる。
【0106】
その結果、透磁率は実施例1では、ねじの頭部が1.011であり、ヘッダー成形体全体では更に小さく1.004で両者共に完全非磁性であるのに対して、比較例1では、ねじの頭部が1.219とかなり増大しており、ヘッダー成形体全体でも1.028と増大し、明らかに磁性をおびていた。
【0107】
また、実施例1における成形供試鋼線のB−H曲線(図5に示した曲線)と、ヘッダー成形体のB−H曲線(図11に示した曲線)とを比較すると、実施例1では、鋼線と成形体とのB−H曲線には僅差があるのみで、成形体での透磁率増加は極僅かであることが分かる。
【0108】
以上の結果から明らかなように、100〜200℃の温間においてヘッダー加工された引張強さが700MPa級のSUS304ステンレス鋼のヘッダー成形体(実施例1)は、鋼線の非磁性がほぼ完全に維持されて、完全な非磁性が得られたが、室温においてヘッダー加工された成形体(比較例1)は、鋼線の非磁性は完全に消失して、完全に磁性をおびたことがわかる。磁性に関する上記温間加工と室温加工との違いは、室温加工では加工誘起マルテンサイトが生成したが、温間加工ではそれが生成しなかったために非磁性が確保されたものである。
【0109】
次に、ヘッダー加工終了後の成形体について、機械的性質の内、強度を評価するためにねじり試験によるねじ頭部の最小破壊トルク、及び成形体のビッカース硬さ試験を行なった。
(4)ねじ頭部の最小破壊トルク試験
ねじ頭部の最小破壊トルクを、JIS B 1058に準拠した方法(但し、ねじの軸部をつかんで固定した状態)によりねじり試験を行ない測定した。
【0110】
その結果、実施例1では0.282N・mであったのに対して、比較例1では0.306N・mであった。このように温間加工ねじは室温加工ねじの92%程度であり、室温加工ねじに比べて若干低い。そこで、実施例1の温間加工ねじの最小破壊トルク値の合否について検討すると、例えば、JIS B 1058の表2によれば、M1.6のねじで強度区分が12.9(即ち、引張強度が1200MPaで、降伏強度が引張強さの90%)の最小破壊トルクの規定値は、0.22N・mであるから、これを参照すると、実施例1の0.282N・mは実用上十分な水準を満たしていると言える。しかも、ねじ頭部の十字リセスは、このねじり強さ試験に耐えたことから、十字リセスの強度も一応、十分であるといえる。正確には次のビッカース硬さ試験により明らかになる。
(5)ビッカース硬さ試験
次に、ねじ頭部の十字リセス直下のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さは、ねじを中心部から垂直に切断し、研磨の後、十字リセス直下および軸中心部を測定した。実施例1の十字リセス直下部のビッカース硬さ(HV)は377であり、SAE J 417に掲載の引張強さへの近似的換算値によれば、1194MPaとなり、高強度が確保されている。
【0111】
また、ねじ軸部の芯部ビッカース硬さ(HV)は257であり、同じく引張強さへの近似的換算値は、815MPaとなる。このように、実施例1のねじは、請求項3に規定された硬さがビッカース硬さで250以上400以下をみたしており、高強度を有する。
【0112】
これに対して比較例1の十字リセス直下部のビッカース硬さ(HV)は409であり、引張強さへの近似的換算値は1326MPaとなり、実施例1よりも高強度となっている。
【0113】
このように実施例1及び比較例1共に、十字リセス直下部は高強度化されているが、十字リセスはねじり強さ試験に耐えるものであった。また、結晶粒の微細化による高硬度化のため、靭性は低下はない。
【0114】
以上のねじ成形試験は、ヘッダー加工の試験であるが、実施例の<M1.7ねじの頭部成形加工方法>の(2)において述べた理由により、M1.7十字リセス付きねじの成形試験とみなすことができる。
【0115】
従って、以上の試験結果より、ねじの頭部成形試験用鋼線として引張強さが721MPaの市販のSUS304非磁性ステンレス鋼線を、100〜200℃での温間におけるヘッダー加工により、非磁性と強度とを維持しつつ完全な非磁性で健全なM1.7十字リセス付きねじが得られることが分かる。しかも、温間で加工することによりヘッダーマシンへの荷重負荷が小さくなり、金型寿命の延びも予測されることがわかった。
<実施例2、比較例2>
実施例2及び比較例2では、表5に示す化学成分組成を有する市販の線径6.0mmφで、引張強さが585MPaのSUS304非磁性ステンレス鋼線を、450〜550℃の温間温度域において、図5に示すように3工程で合計6パスの溝ロール圧延によりC断面形状を変形させて3.0mmφまで圧延した。その結果、オーステナイト結晶粒組織で、方位差角5度以上の粒界の密度が4.0μm/μmで、相当等軸粒径が0.41μmの微細組織を得た。また、フェライト体積率は、これは、加工誘起マルテンサイトを含むが、5.0%であった。測定は電子線後方散乱回折(EBSD)法を用いた。測定データは、CI値0.01以上のデータを用いた。次いで、表面研磨により1.35mmφまで減径した。こうして得られた鋼線の引張強さ(TS)は1070MPa、絞り(RA)は81%、ビッカース硬さHVは371と高強度となり、絞り(RA)も高く確保された。
【0116】
次に、この鋼線が磁石に付くか否かの試験を行なった結果、磁石には付かなかった。従って、取り敢えず非磁性であると判定した。そして、この鋼線の透磁率測定試験を行なった。図12に鋼線の透磁率測定のB−H曲線を示す。これにより、透磁率は1.010であり、非磁性であった。
【0117】
こうして得られた鋼線を、前記の図7において説明した方法により、前記実施例1と同じヘッダー加工方法により、M1.7のねじの頭部十字リセスを成形し、ヘッダー成形体に成形する試験を行なった。加工温度も、実施例1と同様、150〜250℃の低温度域における温間で行なった
[ヘッダー加工の試験結果]
(1)成形性について
実施例2では、ヘッダー加工において割れの発生は認められず、ねじの頭部成形性は良好であった。これに対して、比較例2では、ヘッダー加工において割れが発生した。それぞれの外観写真を、図13に例示する。ヘッダー加工に供した鋼線は実施例2、比較例2のいずれも同じであって、絞り(RA)が81%と高延性を有するものであるが、かかる成形性の差異の発生原因は、実施例2では温間加工であり、比較例2では室温加工であることによると考えられる。
(2)ヘッダー加工時の負荷荷重
上記ヘッダー加工時の負荷荷重は、小さい方がヘッダーマシーンに対する負荷は軽減され、金型寿命にとっても望ましいことである。ここでは、ヘッダー加工時に、ねじ頭部の予備成形時における荷重を測定し、温間で加工した実施例1と室温で加工した比較例1との差異を試験した。その結果を図14に示す。
【0118】
図14からもわかるように、予備成形時の最大荷重は、実施例2では2900Nであり、比較例2の3400Nに対して約(85.3)%に軽減した。一方、本成形時の最大荷重も、実施例2では8000N、比較例2の10000Nに対して約80.0%に軽減した。
【0119】
以上の成形時の負荷荷重試験結果より、鋼線の引張強さ(TS)が1070MPaでビッカース硬さHVが371という高強度材においても、室温加工に比べて温間加工の方が、加工時の負荷が大幅に軽減されることが分かると共に、成形性が大きく向上することが予測される。そして、温間加工による方がねじ頭部の加工精度も向上すると共に、金型寿命の向上にも寄与することを示すものである。
(3)ヘッダー成形体の磁性試験について
次に、ヘッダー成形体の磁性試験を行なった。磁性試験の対象位置は、ねじの頭部を対象とした場合、及びヘッダー成形体全体を対象とした場合である。
【0120】
磁石試験によれば、実施例2(温間加工成形体)では、ねじの頭部及びヘッダー成形体全体のいずれもが磁石には付かない。これに対して比較例2(室温加工成形体)では、ねじの頭部及びヘッダー成形体全体のいずれもが磁石に付いた。
【0121】
実施例2と比較例2における上記成形体の磁性を定量化するために行なった透磁率測定によるB−H曲線を、図15に両者を比較して示す。これによれば、両者間には透磁率には大差があり、比較例2の方が大きい。
【0122】
なお、透磁率の測定試験条件は、前記実施例1、比較例1項の[鋼線の磁性試験]で記載した条件と同じであり、またねじ頭部の透磁率及びヘッダー成形体全体の透磁率の算定方法もそれに準じる。
【0123】
その結果、透磁率は温間での加工成形体である実施例2では、ねじの頭部が1.014であり、ヘッダー成形体全体では更に小さく1.005であり、両者共に完全非磁性であるのに対して、室温での加工成形体である比較例2では、ねじの頭部が1.148とかなり増大しており、ヘッダー成形体全体でも1.021と増大し、明らかに磁性をおびていた。
【0124】
また、図15中の実施例2における成形体のB−H曲線を、図12に示した成形試験用鋼線(素材)のB−H曲線と比較すると、鋼線を温間でヘッダー加工成形しても、B−H曲線は殆ど変化していないことが分かる。しかし、比較例2における成形体のB−H曲線を、同じく成形試験用鋼線(素材)のB−H曲線と比較すると、B−H曲線は大きく増大している。
【0125】
以上の結果から明らかなように、引張強さが1GPa級の微細粒の高強度非磁性SUS304ステンレス鋼線であっても、100〜200℃の温間においてヘッダー加工された成形体は、非磁性がほぼ完全に維持される。これに対して、室温においてヘッダー加工された成形体(比較例1)は、鋼線の非磁性は完全に消失して、完全に磁性をおびたことがわかる。磁性に関する上記温間加工と室温加工との違いは、微細粒高強度SUS304ステンレス鋼線においても、室温加工では加工誘起マルテンサイトが生成するが、100〜200℃の温間加工であれば、それが生成しなかったために非磁性が確保されたものである。
(4)ねじ頭部の最小破壊トルク試験
ねじ頭部の最小破壊トルクを、実施例1及び比較例1と同じように行なった。
【0126】
その結果、実施例2では0.334N・mであったのに対して、比較例2では0.364N・mであった。このように温間加工ねじは室温加工ねじの92%程度であり、室温加工ねじに比べて若干低い。そこで、実施例2の温間加工ねじの最小破壊トルク値の合否について検討すると、例えば、JIS B 1058の表2によれば、M1.6のねじで強度区分が12.9(即ち、引張強度が1200MPaで、降伏強度が引張強さの90%)の最小破壊トルクの規定値は、0.22N・mであるから、これを参照すると、実施例2の0.334N・mは実用上十分な水準を満たしていると言える。しかも、ねじ頭部の十字リセスは、このねじり強さ試験に耐えたことから、十字リセスの強度も一応、十分であるといえる。正確には次のビッカース硬さ試験により明らかになる。
(5)ビッカース硬さ試験
次に、ねじ頭部の十字リセス直下のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さは、ねじを中心部から垂直に切断し、研磨の後、十字リセス直下および軸中心部を測定した。
【0127】
実施例2の十字リセス直下部のビッカース硬さ(HV)は396であり、SAE J 417に掲載の引張強さへの近似的換算値によれば、1267MPaとなり、高強度が確保されている。また、ねじ軸部の芯部ビッカース硬さ(HV)は336であり、同じく引張強さへの近似的換算値は、1056MPaとなる。このように、実施例2のねじは、請求項3に規定された硬さがビッカース硬さで250以上400以下をみたしており、高強度を有する。
【0128】
これに対して比較例2の十字リセス直下部のビッカース硬さ(HV)は382であり、引張強さへの近似的換算値は1212MPaとなり、実施例2と同等水準の高強度となっている。
【0129】
このように実施例2及び比較例2共に、十字リセス直下部は高強度化されているが、十字リセスはねじり強さ試験に耐えるものであった。また、結晶粒の微細化による高硬度化のため、靭性は低下はない。
【0130】
以上の試験結果より、ねじの頭部成形試験用鋼線として引張強さが1GPa級の微細粒のSUS304非磁性ステンレス鋼線を、150〜200℃での温間におけるヘッダー加工により、非磁性と強度とを維持しつつ完全な非磁性で健全なM1.7十字リセス付きねじが得られることが分かる。しかも、温間で加工することによりヘッダーマシンへの荷重負荷が小さくなり、1GPa級の高強度鋼線における金型寿命の延びが予測され、効果的であることがわかった。
<実施例3、比較例3>
実施例3及び比較例3では、表5に示す化学成分組成を有する市販の線径2.5mmφで、引張強さが513MPaのSUSXM7非磁性ステンレス鋼線を、表面研磨により減径した。
【0131】
こうして得られた鋼線の引張強さ(TS)は537MPa、絞り(RA)は90%、ビッカース硬さHVは175であり、絞り(RA)特性が優れたものである。
【0132】
次に、この鋼線が磁石に付くか否かの試験を行なった結果、磁石には付かなかった。従って、取り敢えず非磁性であると判定した。そして、この鋼線の透磁率測定試験を行なった。図16に鋼線の透磁率測定のB−H曲線を示す。これにより、透磁率は1.003であり、完全非磁性であった。
【0133】
こうして得られた鋼線を、前記の図7において説明した方法により、前記実施例1及び実施例2と同じヘッダー加工方法により、M1.7のねじの頭部十字リセスを成形し、ヘッダー成形体に成形する試験を行なった。加工温度も、実施例1及び実施例2と同様、150〜250℃の低温度域における温間で行なった。
[ヘッダー加工の試験結果]
(1)成形性について
実施例3及び比較例3のいずれにおいても、ヘッダー加工において割れの発生は認められず、ねじの頭部成形性は良好であった。ヘッダー加工に供した鋼線は実施例3、比較例3のいずれも同じであって、絞り(RA)が90%と高延性を有するものであり、成形性は良好であった。
(2)ヘッダー加工時の負荷荷重
予備成形時の最大荷重は、実施例3では2380Nであり、比較例3の2480Nに対して約95.7%に軽減した。一方、本成形時の最大荷重は、最大荷重も、実施例3では4300Nであり、比較例3の8000Nに対して約53.8%に軽減した。
【0134】
以上の成形時の負荷荷重試験結果より、室温加工に比べて温間加工の方が、加工時の負荷が大幅に軽減されることが分かると共に、成形性が大きく向上することが予測される。そして、温間加工による方がねじ頭部の加工精度が向上すると共に、金型寿命の向上にも寄与することを示すものである。
(3)ヘッダー成形体の磁性試験について
次に、ヘッダー成形体の磁性試験を行なった。磁性試験の対象位置は、ねじの頭部を対象とした場合、及びヘッダー成形体全体を対象とした場合である。
【0135】
磁石試験によれば、実施例3(温間加工成形体)では、ねじの頭部及びヘッダー成形体全体のいずれについても磁石には付かなかった。しかし、比較例3(室温加工成形体)では、ねじの頭部及びヘッダー成形体全体のいずれについても僅かについた。
【0136】
次に、実施例3及び比較例3の成形体の透磁率測定によるB−H曲線を、図17に示す。両曲線の間には大差はない。そのため透磁率は、温間での加工成形体である実施例3では、ねじの頭部が1.006であり、ヘッダー成形体全体では更に小さく1.004であり、いずれも完全非磁性であるのに対して、室温での比較例3では、ねじの頭部が1.013と僅かに磁性をおびているが、本願の請求項1の透磁率規定値(1.01以下)の範囲内にあり、ヘッダー成形体全体では1.005と完全非磁性である。
【0137】
なお、室温での加工成形体である実施例3と実施例1とについて、ねじ頭部の透磁率を比較すると、成分がSUS304系の実施例1では1.011と完全磁性であったが、成分がSUSXM7系の実施例3では1.006と一層の完全磁性が達成されていることがわかる。また、比較例3と比較例1とについて、同様にねじ頭部の透磁率を比較すると、成分がSUS304系の比較例1では1.219と完全な磁性であったが、成分がSUSXM7系の比較例3では1.013と僅かな磁性に留まっていることがわかる。これらの違いは、SUSXM7系に含有されるCuの加工誘起マルテンサイト生成抑制作用によるものである。
(4)ねじ頭部の最小破壊トルク試験
ねじ頭部の最小破壊トルクを、実施例1、2及び比較例1、2と同じように行なった。
【0138】
その結果、実施例3では0.269N・mであったのに対して、比較例3では0.245N・mであり、両者はほぼ同じであった。これらの水準は、例えば、JIS B 1058の表2のM1.6のねじで強度区分が12.9(即ち、引張強度が1200MPaで、降伏強度が引張強さの90%)の最小破壊トルクの規定値0.22N・mを参照すると、実施例3及び比較例3共に、実用上十分な水準を満たしていると言える。また、ねじ頭部の十字リセスは、このねじり強さ試験に耐えたことから、十字リセスの強度も一応、十分であるといえる。
(5)ビッカース硬さ試験
次に、ねじ頭部の十字リセス直下のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さは、ねじを中心部から垂直に切断し、研磨の後、十字リセス直下および軸中心部を測定した。
【0139】
実施例3の十字リセス直下部のビッカース硬さ(HV)は327であり、SAE J 417に掲載の引張強さへの近似的換算値によれば、1026MPaとなり、高強度が確保されている。また、ねじ軸部の芯部ビッカース硬さ(HV)は268であり、同じく引張強さへの近似的換算値は、849MPaとなる。このように、実施例3のねじは、請求項3に規定された硬さがビッカース硬さで250以上400以下を満たしており、高強度を有する。
【0140】
これに対して比較例3の十字リセス直下部のビッカース硬さ(HV)は326であり、引張強さへの近似的換算値は1023MPaとなり、実施例3とほぼ同じ高強度となっている。
【0141】
このように実施例3及び比較例3共に、十字リセス直下部は高強度化されているが、十字リセスはねじり強さ試験に耐えるものであった。また、結晶粒の微細化による高硬度化のため、靭性は低下はない。
【0142】
以上の試験結果より、ねじの頭部成形試験用鋼線として引張強さが537MPaの市販のSUSXM7非磁性ステンレス鋼線を、150〜250℃での温間におけるヘッダー加工により、非磁性と強度とを維持しつつ完全な非磁性で健全なM1.7十字リセス付きねじが得られることが分かる。しかも、温間で加工することによりヘッダーマシンへの荷重負荷が小さくなり、金型寿命の延びも予測されることがわかった。
(実施例3と実施例1との相違点について)
実施例3と実施例1との試験条件の主な相違点は、実施例3はSUSXM7系成分であり、実施例1はSUS304系である。両者のヘッダー加工試験結果の相違点についてみると、次のとおり特に磁性に差が現れている。
【0143】
鋼線の透磁率は、実施例1(304系の温間加工で1.004)と実施例3(XM7系の温間加工で1.003)との間に殆ど差はなかったが、ヘッダー加工後のねじ頭部の透磁率については、実施例1(304系の温間加工)では1.011であり、非磁性を確保したが、実施例3(XM7系の温間加工)では1.006と、更に高度の完全非磁性を確保している。
【0144】
なお、ヘッダー成形体の、頭部ねじりによる破壊トルク及び硬さについては、SUS304系の方が僅かに優れている。
(比較例3の注目すべき特性)
比較例3は成分としてSUSXM7系を有するものであり、鋼線段階での透磁率は1.003で完全非磁性であったが、ヘッダー加工後においても、透磁率の上昇は小さく、頭部の透磁率は1.013であった。
【0145】
一方、強度に関しては、鋼線段階で引張強さ(TS)は537Mpa、硬さHVは175であったが、ヘッダー加工による強度の上昇は大きく、ねじ頭部の硬さHVは326(引張強さ(TS)換算で849MPa)となっている。透磁率の上昇は小さいにもかかわらず、強度の上昇が大きいことが注目される。
(ねじ以外の成形品に対する適用の妥当性について)
以上、実施例及び比較例においては、ねじを成形品の代表例として記述したが、本発明における成形品の範疇であるボルト、ナット、シャフト、リベット、ピン、スタッドボルト、ファスナー類、歯車、軸類の全てに対して、本発明に係る高強度オーステナイト系ステンレス鋼並びに非磁性ステンレス鋼の成形品に対して適用され得る。その理由は、次の(1)及び(2)の通りである。
(1)発明を実施するための形態の項において記述した「5.製造方法について」は、ねじ頭部の成形試験用の鋼線が、本発明で規定している化学成分組成及びその他全ての条件を満たしているときには、それを用いて塑性加工により健全なねじを成形加工するときの最大の困難性は、ねじの頭部(図7の符号7)の頂面に形成する十字状のリセスを圧造により成形加工する際に発生し易いねじ頭部の割れ(図9の比較例1及び図13の比較例2に外観例を示した)を発生させずに、上記リセスを圧造により成形加工することである。そして、ねじ頭部の上記リセスの圧造による成形加工は、圧縮加工成形法の代表であると認められている。
(2)上記「5.製造方法について」を具備して製造されたねじは、本発明の高強度オーステナイト系ステンレス鋼の内の少なくとも一つを満たすものである。当該ねじが具備する全ての特徴は、このねじ以外の成形品を製造するときにも、当該ねじの製造条件を全て満たした方法で製造する限り、このねじが具備する全ての特徴が当該ねじ以外の成形品にも具備されることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、非磁性ステンレス鋼製であって強度に優れたねじ類、ボルト類、ファスナー類あるいは軸類等の成形品を省資源により安価に製造することにより、各種精密電子機器分野に適用され得るものである。
【符号の説明】
【0147】
1 ねじの頭部成形試験用の鋼線
2 ストッパー
3 ナイフ機構
4 ダイス
5 第1パンチ(予備据込みパンチ)
6 第2パンチ(仕上据込みパンチ)
7 ねじの頭部
8 ノックアウトピン
9 ヘッダー成形体
10 ヘッダー成形体の軸の材料部分
図1
図2
図3
図4
図6
図8
図10
図11
図12
図15
図16
図17
図5
図7
図9
図13
図14